幻想郷に広がる大空   作:味噌漬け

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さっさとイベントを起こすスタイル


第六弾 事件発生

  今日の授業は慧音の事情もあり、昼からであった。

 本来なら遅くまで眠れるはずなのだが、残念ながら綱吉の朝は早い。

 家庭教師によって朝から電気ショックや爆弾、銃弾をぶち込まれ続けられた結果、どんなに体調が悪くても朝には目が覚める体質になってしまったのだ。

 しかし、今日の朝はそれを加味しても異様に目覚めが悪かった。

 

()()()()()()()()()()()…」

 

 リボーンに聞かれたら有無を言わさず国語のネッチョリコース確定なセリフだが、今の綱吉はそんなことを考える余裕すらなかった。

 いや、これはただの頭痛でははい。

 この喉奥から催すような吐き気、身を震わせる悪寒……。

 森で妖怪に襲われたときよりも遥かに大きい、頭の中で鳴り響く警鐘。

 綱吉は何度かこの感覚を味わっている。

 

「(……物凄く嫌な気分だ。そうだ、こんな時はいつも何かが起きるんだ。なにかとんでもないことが……)」

 

「ひ…ひとまず慧音さんに……」

 

 今の時間帯であれば、慧音はいるはずである。

 今日の授業は昼からであるが、いずれにせよこの体調では働くことは難しいだろう。

 まずは慧音に相談すべきかと思っていると…その瞬間、さらに悪寒が増す。

 

「(ま、まさか、慧音さんの身になにか起きたんじゃ……)」

 

 だが、何かが違う。

 大筋は合っているが、どこかにズレが生じている。それが、綱吉が感じている不快さに拍車をかけていた。

 いずれにせよ、慧音に会わなくては。

 何かが起きる前に。

 

「慧音さん!!」

 

「……!?どうした綱吉くん?」

 

 慧音はいた。

 いつものように教室で今日の授業のための資料を整理をしていた。

 彼女は突然、血相を変えて現れた綱吉に、驚きのあまり目を丸くしている。

 

「慧音さん……」

 

 ひとまず慧音が無事で一安心した綱吉。

 ほっ…と息を吐く綱吉に慧音は心配そうに声をかけた。

 

「何かあったのか……?」

 

「あ…いや、その……ご、ごめんなさい」

 

 綱吉が思わず謝ると、慧音が「いや、謝られてもな…」と苦笑していた。

 

「それでどうしたんだ?また夢見が悪かったのか?」

 

「あ……なんと言いますか…。嫌な予感がして…。あ、でも!今は――」

 

「(今は…?っ!?違う!まだ()()()()()())」

 

 慧音の無事の確認がとれたというのに、まだ取れることのない悪寒。

 いや、むしろ増したようにすら感じる。

 

「ゴホッ!ゲホッ!!」

 

「「……?」」

 

 教室…いや寺子屋の外から咳き込む音が入ってくる。

 それに綱吉と慧音は二人そろって首を傾げた。

 慧音が窓の外を見ると、そこには見覚えのある人物がいた。

 

「あの人は…アキのお母様じゃないか……」

 

「えっ…?」

 

 慧音はそう言うと、すぐに寺子屋の玄関の方へ駆け出す。

 綱吉も戸惑いながら、追従するように外に出ると、アキの母親が咳き込むあまり(うずくま)っていた。

 そのただならない様子に慧音は「大丈夫ですか!!?」と駆け寄り、介抱していた。

 

「だ…大丈夫です」

 

「……無理をなさらないで」

 

 その顔は白く、今でも倒れそうだ。

 慧音はひとまず寺子屋で休ませるため、アキの母親を運ぼうとするが母親はその慧音の手をどかした。

 

「私のことは良いです…。それよりもけ、慧音先生…アキはここに来ませんでしたか……?」

 

「アキ…?いや、まだ来ていないが……」

 

「え…え?ここにならいると思っt……ゴホッゴホッ!……ゲホッ!!」

 

「は…早く休んだほうが」

 

 綱吉も、もう見ていられない。

 悲痛な表情を浮かべながら、アキの母親に休むように言うも彼女は首を振って動こうとしない。

 その様子に慧音は流石にただ事ではないと感じたのか、眉間にシワを寄せながら、何があったのか問いかける。

 

「アキが…朝から家にいなくて…。何も言わずに勝手に家から出るような子じゃないのに…。それに、なんだが嫌な予感がして…」

 

 この後も彼女はたびたび咳をしながらも、とぎれとぎれに起こったことを説明する。

 それをまとめると、どうやら朝早くから家にアキの姿が見えないらしい。

 これまで母親に何も言わずに家から出たことなどないらしく、念のため近所にも聞きにまわったが誰も見ていないのだとか。

 このことに母親は嫌な予感を抱き、重い身体を引きずりながらも寺子屋に来たらしい。……この寺子屋にいることを心の底から願いながら。

 それを聞いた慧音は眉間にシワを寄せ、深く思い詰めたように考える。

 しかし、それは一瞬のことでアキの母親を安心させるため、柔らかい笑顔を浮かべた。

 

「事情はわかりました。私の方でも自警団の皆にアキを見かけなかったか聞いてみます」

 

 慧音がそう言うと、母親の方も少し気が楽になったようで、咳き込む数も少なくなった。

 しかし、その一連の話を聞いていた綱吉はというと……。

 

「(駄目だ。そんな悠長にしている暇はない。このままだとアキちゃんは……)」

 

 綱吉の持つ勘がアキの最悪な未来を予測する。

 間違っていてほしい。ただの気の所為であってほしい。

 そんな安易な綱吉の希望は次の来訪者の言葉で容易く打ち砕かれることになる。

 

「慧音さん!至急、報告したいことがあります!!」

 

 走ってきたのは慧音と同じ自警団の青年だった。

 彼は急いで走ってきたからか、疲れで息を切らしている。

 慧音はアキの母親を綱吉に任せると、青年と話すべく立ち上がった。

 

「ちょうど良かった。私の方でも報告したいことが――」

 

「里の門に……」

 

 慧音が情報を共有しようとするも、それよりも先に青年が口を開いた。

 

「里の門の外に…()()()()()()()()()()()()が!!」

 

「なんだって!!?」

 

 慧音が驚愕の表情を浮かべる。

 子供の足跡からアキのことを連想したのか、アキの母親も顔を真っ青になったのち、力尽きたかのようにぐったりと目を閉ざす。

 

「だ……大丈夫ですか!?」

 

 綱吉は倒れたアキの母親に大慌てで声をかける。

 一切、応答しない彼女に綱吉は苦虫を噛み潰すように、ギリッ…と歯音を鳴らした。

 

◇◇◇

 

「気を失っているだけですな。しばらく休めば大丈夫でしょう……」

 

「そうですか…。良かったです」

 

 寺子屋の綱吉が寝泊まりしている休憩室。

 ここにはアキの母親が布団で寝そべっていた。

 その傍らでは心配そうに看病する綱吉と初老の医者がいる。

 その慧音はというと自警団の青年に詳細を聞いた後、人里でも数少ない医者を呼び、綱吉に寺子屋で待つように指示して何処かに行ってしまった。

 恐らく、アキの救出に向かったのだろう。人里外に続く足跡がアキのものだとはまだ決まってはいないが、ほぼ間違いないと綱吉の勘がそう言っている。

 今の綱吉は心配ゆえか、顔色が悪い。

 

「慧音殿が行っておられるのです。患者(この方)の娘さんもすぐに戻られるでしょう」

 

 顔色が優れない綱吉に、医者は安心させるように語りかける。

 しかし、綱吉の顔色はますます悪くなっていくばかりだ。

 

「(そうだ。慧音さんが行っているんだ。大丈夫だ。大丈夫な……はずなんだ)」

 

 慧音は強い。そのことは助けられた綱吉がよくわかっている。

 妖怪がどれほどの強さなのかはわからないが、そう簡単に遅れを取ることはないだろう。

 

「(なのに…。なのに、なんで…。なんで!()()()()()()()()()()()()()() )」

 

 むしろ、ますます不安は広がっていく。

 そのどす黒い悪寒が全身に行き渡る。

 

「……ぐっ!!」

 

 頭をかち割られるような痛みが再び綱吉を襲う。

 

「う…うぐぐぐ…あ、あがっ…!」

 

 医者も突然の綱吉の異変に驚きながら「大丈夫かい…」と心配そうに声をかけるが、綱吉には応答する余裕すらないのか頭を押さえて呻くばかりだ。

 

「(駄目だ…。このままじゃ慧音さんが……。いや、慧音さんだけじゃないアキちゃんまで…。二人とも()()()()()()()()()()()()())」

 

 慧音には命を助けられ、働き口や寝床…返すに返せないほどの恩がある。

 アキとも所詮は数日…というにも短すぎる付き合いだが、それでも彼女は綱吉の生徒でもあるのだ。

 綱吉は基本的に日和見思考の平和主義だ。身にかかる火の粉が火炎放射並で、周りも巻き込むから全力で振り払おうとしているだけで、元来は誰かを傷つけることも、誰かに傷つけられるのも嫌いな、優しく甘く臆病な少年なのだ。

 しかし…今のように身内が危険な事柄に巻き込まれたのであれば話は別だ。

 自分が傷つくことも、誰かを傷つけることも嫌いであるが、綱吉が何よりも嫌うのは()()()()()()()()()()()()ことなのだから。

 

「(どうすれば良い…?俺はどうすればいいんだ?)」

 

 今の綱吉は慧音に保護されており、彼女からこの寺子屋で待機を言い渡されている身。

 さらに、ここは住み慣れていない幻想郷。しかも、人里の外には人間など容易く喰らう妖怪たちがいる。

 綱吉が行ったところでどうしようもないんじゃないか、かえって迷惑になるんじゃないか。

 綱吉の心中は迷いで一杯だった。

 

「(くそ…俺はこれからどうするべきなんだよ……。教えてくれよ……リボーンっっ!!)」

 

 誰よりも理不尽だが、誰よりも格好良く頼れる家庭教師に助けを求める綱吉だが、彼は今、この場にはいない。

 だがその時、迷いに迷う彼の脳裏に浮かんだのは、そんな家庭教師の声であった。

 

『ダメツナが頭でごちゃごちゃ考えてんじゃねぇ』

『ダメ元で突っ込んでこそダメツナだろうが』

『お前は今、何がやりたいんだ?お前の()()()()()()を答えてみろ』

 

 綱吉の心に家庭教師の言葉が浮かび上がった瞬間、縛っていた足かせが外れたかのように思考がクリアになっていく。

 

「(あぁ…そうだ…。俺が今、やりたいのは……)」

 

 綱吉の心中に自分の真の望みが浮かび上がる。

 

「(俺は()()()()()()()()())」

 

  綱吉の純粋な思いが心を満たした瞬間、綱吉の身体は動き出す。

  その衝動に身を任せるかのごとく。

 

「慧音さん!!アキちゃん!!」

 

「あっ!!き、キミっ!!?」

 

 医者の静止の声など今の綱吉には通じない。綱吉は医者に「その人をお願いします!!」と言い残し、寺子屋から駆け出していく。

 人里を全力で走る綱吉の指に嵌められている一対のリング。

 その中指から小指にかけて結ばれたチェーンと”燃え上がる獅子と(イクス)の装飾が施されたリングは綱吉の覚悟と呼応するかのように(オレンジ)色に輝いた。

 

 




今日もご愛読ありがとうございます。味噌漬けです。
リボーンってやることはめちゃくちゃだけど、ツナの性格を一番理解して、その上で叱咤するところが良いですよね。
そろそろ一章、終わるかも。そのあとはまた書き溜めかな。

【キャラ紹介】

《沢田綱吉》
 年齢…16歳
 属性…大空

 幻想郷に来て以来、超直感の影響が強すぎるのが悩み。もしかしたら半ば“能力”化しているのかもしれない。
 のんびりするはずが、まさかのトラブル発生。過ごした日は短くとも、今の綱吉が二人を放置できるわけがなく、人里の外まで駆け出した。人里からの脱出方法?塀をよじ登りました。昔ならともかく、命綱無しロッククライミング出来るツナなら出来るかなぁと笑

《上白沢慧音》
 年齢不詳 
 種族…半人半獣
 能力…歴史を食べる(隠す)程度の能力(人間時)
 属性…霧

 突然、教室に飛び込んできた綱吉に何事かと驚いた。すると、まさかのトラブル発生の事態に。医者を呼んだ後、顔を青くする綱吉に待機するようにだけ言い残してアキの救出に出発。その時の慧音は寺子屋の教師ではなく人里の守護者としての覚悟に満ちた顔だったという。

《アキ》
 年齢…6歳
 種族…人間
 やらかしおった女の子。
 別にイタズラのつもりでもなんでもなく、本人なりに覚悟を決めて人里の外へと向かった。
 そんな彼女がどうなるかは次回を楽しみに。

 


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