幻想郷に広がる大空   作:味噌漬け

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 第一章最終話。
 一応、本小説はシリアスではありません。そう…シリアスじゃないはずなんだ…
 


第九弾 大空はどこまでいっても大空

 

 綱吉と慧音により、アキが無事に救出され人里に戻ってからというもの、それで“めでたしめでたし”というわけにはいかなかった。

 そもそも発端となったアキの人里からの脱走の理由だが、それは日に日に悪化していく母親の症状を心配してのことだった。

 元々は本で調べるだけに留めていたが、慧音の授業にあった”森の薬草を摘みにいった男”の話を聞き、子供ながらの行動力も相まって、薬草を手に入れるべく森まで向かったのだという。

 気を失っていたため一日は休ませたが、目覚めた後は慧音&母親の説教タイム。

 

「ほんと!ほんと!!心配かけて!!あなたが死んじゃったら、お母さんはどう生きていけばいいの!!?」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい!!」

 

「お母さんもう少し落ち着いて……!お身体に触ります」

 

「アキちゃんも反省してますから!」

 

 最終的には咳込みつつ泣きながら、恐ろしい剣幕で怒る母親を、綱吉と慧音が何とか落ち着かせる事態となってしまった。

 

「本当にあなたが生きてくれて良かった……良かった……良かった……。お、お母さんのために…ありがとうね」

 

「ぐすっ……お母さん……」

 

 抱きしめながら娘の無事を喜ぶ母親に、綱吉は自分の母親を重ね合わせ”母親は強く偉大”なのだと再認識する。

 影ながらの支援にはなるが、これからは慧音の伝手を頼りにアキの母親の治療を進めていくのだそうだ。

 一方で綱吉はというと――――

 

◇◇◇

 

「慧音さん、お茶入りましたよ」

 

 休憩室のちゃぶ台の上に、湯呑の乗せたお盆が置かれる。

 実家ではコーヒーに次いで日本茶が嗜まれていたからか、専門家ほどではないがそれなりに淹れ方は熟知していた。

 立ち昇る湯気から広がる緑茶の香りが、慧音の鼻孔をくすぐった。

 

「ありがとう綱吉くん。茶菓子だが…饅頭で構わないかな?友人から見舞いとして頂いたのだが…」

 

 慧音はちゃぶ台に置いてある包みから箱を取り出す。

 

「え……?いや、そんな大事なもの俺が食べちゃ…」

 

「遠慮しなくて良い。…………流石に一人でこの量は食べ切れないからな」

 

 箱を開けると、そこにはみっちりと饅頭が詰まっていた。20個ほどはあるだろうか。

 綱吉もその大量の饅頭に頬を引き攣らせる。

 そして、慧音は二皿それぞれに饅頭を1〜2個ほど取り分けた。

 

「は…はぁ……ありがとうございます」

 

 綱吉は礼を言うものの、饅頭に手をつけようとはしなかった。

 その視線は饅頭ではなく、慧音の方を向いている。

 正確に言えば、慧音の身体に巻かれた包帯だが。

 

「それで、その……慧音さん。傷はどうですか?大丈夫ですか?」

 

 心底心配する綱吉であったが、慧音はそんな彼に苦笑する。

 

「ふふっ…。私と顔を合わせる度に同じことを言うね」

 

「えっ!?あ!す、すみません!」

 

 何故か謝る綱吉に、本当に腰の低い少年だと慧音は微笑ましく見ていた。

 

「いやいや。むしろ心配してもらえて嬉しいよ。……傷の方は問題ないさ。これでも、傷の治りが早い方でね。後、三日も経てば治るだろう」

 

「み……三日ですか……?」

 

 常人の回復力ではない――――そう思うのも仕方ないだろう。

 それほどまでに慧音の傷は深かったはずだ。

 そんな綱吉の心中を察したのか、慧音が口を開いた。

 

「………実は私は半分人間ではないんだ」

 

「え?」

 

 突然のカミングアウトに戸惑う綱吉。

 慧音は聞き取りやすいよう、ゆっくりと説明する。

 

「私は半白沢(ワーハクタク)と呼ばれる半獣半人でね」

 

 白沢…それは中国に伝わる神獣の一種である。

 人語を解し、万物の知識に通ずるとされ、その姿が描かれた図画は魔除けとして用いられるほど、徳が高いとされる。

 慧音はそんな神獣と人間のハーフなのだ。

 

「………………そうなんですか」

 

「おや、意外と驚かないんだね」

 

 綱吉のことだから、とんでもないリアクションを見せるのだろうと思っていたが、拍子抜けである。

 意外そうに綱吉を見る慧音に、彼は少しだけ微笑みながら答えた。

 

「いやまぁ、少し驚きましたけど。でも、なんというか…そんな()()はありましたから……」

 

「……!それは何時から?」

 

「えっと…。最初に会った時……です」

 

「………………本当に君の勘は鋭いな……」

 

 綱吉の勘の良さに慧音は舌を巻く。いや、むしろ少しばかり引いていた。

 別に秘密にしていたわけではないが、長くても数日しか幻想郷にいないだろう綱吉に伝える必要はそこまでないと、話すことを後回しにしていた。

 

「まあ……つまり、そういうことだ。私は純粋な人間ではなく、あくまでも人外…。傷の治りも早いから、そこまで心配しなくても良い」

 

 慧音が安心させるように言う。

 対する綱吉の表情もいつものぽわぽわとしたものであったが、その裏、首にかけてある紐に通された指輪(リング)を強く握りしめていた。

 

「人間だとか人外だとか妖怪だとか……幻想郷(ここ)に来たばっかの俺にはよくわかりません……。俺にとって……()()()()()()()()()()()

 

 綱吉は続ける。

 

「治りやすいからって………それは傷ついて良い理由にはなりませんよ」

 

 その呟きは慧音に対してではなく、自分……いや、自分の中にある“大切な誰か”に言い聞かせているようだった。

 強かろうと、人間じゃなかろうと、綱吉にとって死んでしまえば皆一緒なのだから。生きていなくては意味がないのだから。

 

「…………ああ…そうだな。確かにその通りだ……」

 

 慧音は素直に頷いた。

 

「(前に、私が“彼女”に言ったことと似た様なことを言われるとはな……)」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、この幻想郷における親友。

 幻想郷に住む……いや、この世の誰よりも“不死人”の名に相応しい友。

 あまりに無茶するので、苦言を呈したことがあったが、まさか似たことを言われるとは皮肉であった。

 そして、同時に憐む。人外であったとしても、他者の痛みまで自ら受け入れようとしてしまう……悲しいほどまでの綱吉の優しさを。

 

「(“彼女”に聞かれたら大笑いされるだろうな……)」

 

 綱吉くんにとって今の私も“彼女”と似た様なものなのか――――と慧音は薄らと自分を笑う。

 だが、それも一瞬のこと。今は綱吉との会話の最中。

 彼には聞かなくてはならないことも話したいこともまだある。

 

「なら、私は尚更君に感謝しなければならないな。一人の人間が恐ろしい妖怪に立ち向かう。それは並大抵の勇気ではできないことだからな」

 

 この幻想郷では妖怪と渡り合える人間はいる。

 しかし、力関係は基本的に妖怪>人間なのも確かだ。

 だから、この幻想郷では妖怪と人間が対等に渡り合えるようルールが定められている。

 だが、それはルールが守れる知性あっての話。

 ルール無用の本気の殺し合いとなれば……妖怪と一対一(タイマン)で勝つことができる人間は何人いるのだろうか。

 

「それは…この力があったからですよ。あれは火事場の馬鹿力みたいなものですし……もう使えません」

 

 結局、頼ってしまったな――――とリングを見ながら思う。

 綱吉はそんな自分が嫌いだった。誰よりも戦いを嫌い、マフィアを継ぐことが嫌だと言っておきながら、結局、この力に依存してしまっている自分が。

 

「その指輪は……あの時の君の額に灯った炎を関係しているのかな?それが…君の力――――」

 

 慧音からしたら至極当然の質問だったが……綱吉は答えを拒絶するかのように薄い微笑みで慧音の言葉を遮った。

 

「すみません……。それについて俺の口からは()()()()()()()()()()

 

 綱吉達が操るのは裏社会の力。もしも表に流出すれば、沈黙の掟(オメルタ)と呼ばれる裏の法により重罪として裁かれる。

 見ただけならまだ良い。何とでもなるだろう。

 しかし、何よりも綱吉が危惧するのは、その先にある深淵を“知ってしまった”ことでその人も二度も表側には戻れなくなるかもしれないことだ。

 ただでさえ、多くの人間を…友達を…仲間を巻き込んでいる。もう二度と同じ轍を踏むわけにはいかない。

 

「(言うことが出来ません…か……)」

 

 “言いたくない”ではなく、“言うことが出来ない”。

 ただの少年が妖怪相手に力押し出来るほどの力。

 そういった力が秘匿にされるのは仕方がないことだろう。

 この少年が何か複雑な事情を抱えていることは、慧音も気が付いている。

 この小さい背中にどれほどまで大きなものを背負っているのかはわからない。

 人里の守護者として不穏分子(綱吉の力)について知らなければならない以上に、一人の教師として……この少年の事情に踏み込めないのは歯痒かった。

 

「あんな力を使っておいて、話せないなんて…俺、怪しすぎますよね……」

 

 リングから手を離し、湯呑みを持って外の景色を見ながら呟く綱吉。

 その自嘲するような笑みは儚げなものであった。今にも空気に溶け込むが如く消え去ってしまうのではないかと考えてしまうほどに。

 そう思ってしまった慧音は微笑みつつ、優しい声色で語りかけた。

 

「………話したくなければ、別にそれで構わないさ。それで君をこの寺子屋から追い出すつもりはない」

 

「……え?」

 

 慧音の言葉に呆気に取られる綱吉。

 綱吉はこれは事情聴取であり非協力的ならば、てっきり寺子屋から追い出されるものだと思っていた。……いや、むしろ追い出されても良いと心のどこかで思っていたのかもしれない。

 

「むしろ安心したよ。つまり、君はその()()()()()()()()()()()()……いや、()()()()()()()()()使()()()()()()ということだからな」

 

 慧音は続ける。

 その優しげな表情を綱吉に向けながら。

 

「君は力を悪用する人間ではない。それだけ分かれば人里の守護者()としては十分だ。決して追い出すようなことはしないさ」

 

 人里を守る者として綱吉が悪人ではないと分かった以上、彼を追い出すことはない。

 そして…それ以上に慧音は己の至らなさに歯噛みしていた。

 

「むしろ、私は君に謝らなくてはならないな……」

 

「……?なんでですか?」

 

 綱吉は首を傾げる。

 分かっていないような綱吉に慧音は眉間に皺を寄せながら口を開いた。

 

「私は君を守らなければならなかった。アキも…君も含めた人間を守るのが私の役目の一つだから…。君達を守るのはおろか……守られた挙句、君に“切り札”を使わせてしまった。そんな自分が不甲斐なくて仕方ない」

 

 そして慧音は頭を下げる。

 

「すまなかった。私が不甲斐ないばかりに君達を……君を危ない目に遭わせて……」

 

「んなっ!?ちょっ!?慧音さん!!?」

 

 突然、頭を下げられたことで混乱する綱吉であった。

 綱吉の中で恩人としてカテゴライズされている慧音に頭を下げさせるなど目覚めが悪い。

 そう思った綱吉は何とか頭を上げさせるべく言う。

 

「いや…け、慧音さんの言い分を聞かずに勝手に首を突っ込んだのは俺ですし!今回、危険な目に遭ったのは自業自得ですから!」

 

 いつもなら巻き込まれる側だが、今回に限っては自分から首を突っ込んだ。ならば、危機に直面するのは当然だと綱吉は思っている。

 しかし、それは綱吉側の言い分で慧音が納得するかどうかは別の話だ。

 

「だが、それも私が油断しなければ良かった話だ。……私は…完全な足手纏いだった」

 

 慧音は心底悔やんでいた。

 能力を身破いたが、あの戦いを見るに、別に見抜く事ができなかったとしても、綱吉ならば難なく対処していただろう。

 今回の戦い、ほぼ後ろで見ていただけだと慧音は思っていた。

 

「違います!!」

 

「っ!」

 

 だが、綱吉はそれを否定する。

 心外だと言わんばかりに。

 

「俺が戦えたのは慧音さんが居てくれたからです。慧音さんがアキちゃんを守ってくれたから……。守っていると分かっていたから、俺は安心して戦う事が出来たんです……。足手纏いなんかじゃありません!」

 

 綱吉は必死に言葉を紡ぐ。

 その言葉は慧音の心へ染み渡り、自責心により傷ついた精神を癒していく。

 

「(……本当にこの子は――)」

 

 綱吉の行動は安心を、言葉は安寧を与える。

 まるで……そう、大空の如く、万物を優しく包み込むかのように。

 

「(……本当に不思議な子だ。彼がいるだけで、心が落ち着いていく……。全く、私の方が年上だというのにな)」

 

 慧音は目を瞑り、苦笑いする。

 照れ隠しか、慧音がその心中を話すことなく、顔を逸らすと…その視線の先には障子が開いていることで見える大空が。

 それはどこまでも広大で青く、何よりも澄んだ美しい空であったという。

 




いつもご愛読ありがとうございます。
前書きでも書きましたが、一応、この話で一章は終わりです。
次は第二章。書き終えるまで書き溜めますので、しばらく更新間隔は長くなると思います。その間にいわゆる日常回も挟む予定ですので、エタることはないです。是非とも楽しみにしてください。
ではいつものキャラ紹介コーナーどうぞ。

【キャラ紹介コーナー】

《沢田綱吉》
 年齢…16歳
 能力…全てを見透かす程度の能力?
 属性…大空

 当作主人公。
 REBORN関連SSでは割と自分の力について語っている作品が多いですが、自分は基本的にアウトだと思ってます。復讐者と沈黙の掟の存在もですが、何よりもあの京子やハルにですら巻き込みたくないと、チョイス編まで誤魔化していた綱吉が恩のある慧音に言うわけがありません。裏社会になんて巻き込みたくないですから。山本や良平が良い例で、ちょっとしたことでもズルズルと裏側に引き込まれてしまう。その恐怖と後悔がある限り、綱吉が自分の力について語ることはないでしょう。

《上白沢慧音》
 年齢不詳 
 種族…半人半獣
 能力…歴史を食べる(隠す)程度の能力(人間時)
 属性…霧

 当作ヒロイン候補?
 今回、トラブルの後処理について色々頑張った人。
 人里の守護者としてツナの力について知っておきたかったが、あんな辛そうな顔をするツナを見て流石に問い詰めることは出来なかった。これから、彼女の立ち位置がどうなるかは作者にもわかりませんが、この幻想郷においてツナにとっての頼れる存在として書いていきたい。
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