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予想外の召喚と男の襲撃。咄嗟に殺害し、人殺しと咎められる。この一連の流れはほんの一瞬の出来事だった。
狩人にとってそれが獣でなくとも、敵意ある者に対しては老人でも殺すことが当たり前であるため、回避しようは無かっただろう。
しかし、突然襲ってきた男を反射的に殺したのが悪かったのか、咎められることが初だった為に狩人は少女の叫びに戸惑うしかなかった。
「ひ、人殺しいいいぃぃ!」
「えええええええ!?」
「なんで殺したの!? というか誰!?」
「え、え、え〜と。狩人……です?」
誰と聞かれれば狩人だと。狩人個人には名前は確かにあるが、普段から呼び合うこともないため、実質名乗れる名前が無い。
ならは今の状況で言えるのは、自分は狩人であり、狩人という名前であると押し切るしか無い。
「狩人……? ハンターということかしら? 私はネクロマンサーのアイリスよ。……ってそうじゃない! なんで殺したのって聞いてるの! 私はあなたを召喚するつもりは無かったし、その男を殺すつもりも無かった」
「いやぁ……襲いかかってきたから咄嗟に……。なんか、ごめん」
「はぁ……この遺体どうすればいいのよ……」
死体処理。それは少女にとっては殺人現場を抹消したいという理由でやるもので、ただ一歩外に出れば大通りに出てしまう路地裏。
狩人がやった内臓攻撃は大量の血が辺りに飛び散り、処理しようにもできない状態が目の前に広がっており、少女はどうしようもないと頭を抱える。
しかし、狩人にとっては既に死んでしまったものは仕方がなく。処理する理由も意味も無い。
「放っておけば良いんじゃね? 殺したのは俺だし……」
「それは、騎士に突き出してもいいということかしら?」
騎士に突き出す。それ即ち狩人を犯罪者として扱い王国に突き出す事で少女は難を逃れるということ。
ただこれに対しても狩人は微妙な反応をする。狩人のいた世界では治安という概念は既に崩壊しており、今さら咎められてもそれからどうなるのか。全く予想出来なかった。
「あぁ……そうなるのかな? いや、その前に帰らせてもらうけど。こちらとしても呼ばれたのは予想外なんでね」
「帰る……? どうやって?」
「え? これで……」
狩人は先ほど出せなかった別れの空砲を取り出すと、銃口を上に向けて空砲を発射する。
火薬の弾ける音では無く、圧縮された空気が勢いよく抜けたかのような。ばふんっと気の抜けた音が路地裏に静かに響く。
そうすればすぐに狩人の視界は白く霞んでいき、間も無くして少女の前から姿を消した。
「は……? なんで術者じゃ無いのに……」
狩人は夢の中で目を覚ます。空砲を撃つ際、もしかしたら帰れないことも頭に過っていたため、夢の中に戻れたことに実家のような安心感を得る。
「普通に帰って来れたわぁ……いやぁ、びっくりした」
たがそんな安心感に胸を撫で下ろせるのも束の間。夢の中の光景がいつもと違うことにただならぬ違和感を感じる。
目の前には人形、階段の上には古びた工房。そして、周囲にあったはずの墓がなくなり、人形の前にたった一つの墓が建てられいた。
『異界の墓石』
「なにこれ……?」
いつも違う風景の夢の中で戸惑う狩人を前に、人形は相変わらずお帰りの挨拶をする。
狩人は今すぐ事情が知りたいと工房のゲールマンを訪ねる。
「ゲールマンさん、これなにが起きてんの!?」
「狩人君、何も案ずることはない。私も見たことが無い現象だが、どうやら我々の悪夢と全くの別の異界がなんらかのきっかけで混ざり合ってしまったらしい。
だから案ずるな。引き続き獣狩りを続けたまえ」
「それって普通にヤバくね?」
狩人が別の異界に召喚される前にみた景色はヤーナム市街という、狩人が見る全ての悪魔の中において最もマシな方であり、旧市街の方に向かえば、そこでは地獄絵図を見れるのである。
市街地全体は既に焼き払われ、病によって異形の獣となった彼らが跋扈し、酷い者は全身の肉が捲れ上がり血に乾いた獣が鎮座している。
最早普通の人間が住むことを拒否されているような地は他に多くあり、もしそれがまだ平和であろう。普通の人間がいた異界に融合したのならば狩人が気が気でいられなかった。
救いなど最早無い。狩人が異界に召喚されてしまったばかりに、その異界が獣の病に巻き込まれるなど、あまりにも理不尽だから。
「君が心配することでは無い。君の目的地は街を救うことでは無いのだから」
「ええぇ……いやまぁ、確かにそうだけど……狩り始めたばかりの俺にその現実キツすぎない……?」
ゲールマンは狩人の問いにまた苦笑する。狩人は一周目の時点で何となくゲールマンが昔の元狩人だということは嫌でも察しているが、同じ狩人だったという考えをもってしてもゲールマンの考えの内を知るには知識が不足していた。
だから、何故笑うのか。狩人には何も分からなかった。
だがそれはそれとして、狩人はすぐに異界の墓石前で屈む。次は何処から目覚めるのか分からないが、狩人の夢は時間が止まっている訳でもないため、半ば慌てるように現実へ目を覚ました。
目を覚ますとそこはまた路地裏だった。前回は鐘による呼び出しだったが、今回は墓石からの目覚めだったおかげか、目覚めた足元には小さな妖しく紫の炎の灯りがあり、此処が異界の初めの地であることを示していた。
灯りは路地裏をさらに進んだ場所のようで、少しだけ広い広場となっていた。
「ここは何処だぁ……?」
路地裏の広場は暗く、空にも星が見えていた。時間は既に夜を指しており、また嫌になるような不気味とも言える静けさは、これまでの獣狩りの夜を彷彿とさせる。
だが此処で狩人が思う唯一の救いは、獣の匂いはまだしないという事だった。
して、狩人の悪夢と異界が融合したとはどういうことなのか。もし本当に獣の病が蔓延した場合はその先は地獄。それしか無いが、それを知るにはまずは異界の中をよく調べる必要があった。