狩人は夜の街で獣を狩れば、街の様子を更に探るべく夜明けを待つために夢に戻った。
しかし狩人は眠れなかった。否、寝たことが無かった。狩人は夢で目を覚まし、現実で目を覚ましてもそれもまた悪夢なのだから。
「ああーっ! 眠れねえええ! てか、寝るってどういうこと!?」
狩人にとって夜明けとは、その存在を知りはすれど本当の目覚めの先以外には夜明けは無い。故に時間が経てば夜明けが来ることはないため、寝て過ごすというその意味も理解出来ない。
狩人はこのままではいつまで経っても夜明けが来ないことを察すると異界の墓石の前に跪き、悪夢で目を覚ました。
異界ではまだ一人の獣にしか会っていないが、狩人の知った獣の病を広げる者は既にさらに多くの人を獣に変えている可能性がある。
だから狩人は夜明けまで獣を狩ろうと決める。
その際に狩人が使う仕掛け武器は一つの回転する円盤にノコギリの刃を複数重ねた物と、鈍器にもなる取手が組み合わさる"回転ノコギリ"。使用者の一振りと共に怪物の断末魔のような音を響かせるそれは、獣を戦慄させる。
「あァッ!? んだよその武器は! 畜生こっちに来るな!」
「ヒャハハハハ! テメェら獣は回転ノコギリの餌食になるんだよぉ!」
しかしまた殺意の高いこの武器を使う狩人は、どんな善人でも容易に切り刻むこの刃を前に魅了される。
獣を狩り、血を浴び、血に酔う。かつてこの爽快感に正気を保てた狩人は多くはいない。
そうして数時間、夜の路地裏に潜む、力に溺れた又は正気を失った獣を狩り続けた狩人は漸く夜明けを迎えた。
「あ〜あ、全身血塗れだ。夢に戻って血洗ってから大通りに行くか……」
獣の血を浴びて塗れることなど日常のこと。しかしそれでも狩人に常識くらいはある。狩人ではない一般人が血塗れの者に恐れないことなど無いなど。
狩人は一度服を綺麗にしてから大通りへ出た。
まだ夜明けたばかりだからだろうか。外は眩しい程の陽が差し込むが、外を歩く人は少なく、いるとしてもなんらかの準備をしている姿が伺えた。
狩人は外を歩く人に話しかけた。
「おはようございます。昨日の夜はぐっすり眠れました?」
「ん? ……あぁ。まぁ、あんまりだな。夜な夜なイカれた笑い声と叫び声が煩くてね。またやばい薬でも路地裏で売っているんかね。貴族街であればこんな悩みなんてないんだろうけどな」
「あぁ、それは確かに。そうかもしれませんね」
狂った笑い声と、悲痛な叫び声の主は狩人自身のことであろう。しかし真実を言う必要は全く無く。狩人は苦笑する。
「変なこと聞きますが、そのほかには何か変なことってありませんでした?」
「変なこと? なにか探っているのかね? まぁ、思い当たることなら最近知らない顔を良く見ることかな。何か旅行者でも多く来たのかな? まさに君みたいな人達だ」
「俺達みたい……?」
「いいや。特徴的な服というかね。別に人の顔なんて全部は覚えられないよ。なんとなく雰囲気というか。そんなもので覚えてはいる」
「あぁ、なるほど」
特徴的な服や雰囲気。その発言から狩人が思い当たるのは、悪夢と異界の融合のことを指しているのだろうということ。
狩人が見てきた街や施設の人々に、活気に溢れた者など殆ど居らず、暗く或いは発狂していた。
つまりそのような雰囲気の人々を彼は見たこということだろう。
「えぇ、そうなんです。ちょっと気になることがありましてね。いや別にそんな大事では無いんですが。もっと情報が必要でして、より多くの情報が集まる場所とか知っていますか?」
「そうだな。そう聞かれたら大半思いつく物はひとつしかないのだが……冒険者ギルドを頼ってみるといい」
「冒険者……ギルド??」
「あぁ、そこなら世界中から君の知ろうとしている情報以外にも無数のことを知れる。場所はそうだな……。君はどうやらこの街に来たのは初めてなようだし、簡単な地図を書いてやる」
狩人は男から聞き慣れない言葉を聞きながら、分からなくも無い言えるとても簡単な地図を書いてもらい、その場所を目指した。
また狩人が街の道に慣れていないことも事実、その場所に到着するのに時間が掛かってしまった。
「あ〜迷った……。街だってのに、森みたいな広さだな畜生」
狩人が到着する頃には陽が頭上まで登り、狩人の帽子に光が照りつけていた。
狩人はこの暑さから逃れるために、地図が指す場所。民家というには大きな建物の扉をノックする。しかし返事は無かった。
「あれ……」
少しの間扉の前でうろついていると、他の鎧を着た者が扉を無造作に開け中へ入って行く。
狩人は扉が開いている隙を見て、するりと中へ入った。
「んだよ。入って良いのかよ……」
狩人にとって"明かりの点いた家屋"は人がいる認識であり、それも当たり前のことなのであろうが、基本獣狩りの夜に潜む狩人は、民家に招き入れられることはまず無い。
だからこそ明かりの点いた家に無断に入ることを躊躇っていた。
そうして建物の中に入ると、そこには十。いや五十を超える人々が集まっていた。
祭りでも開いているのだろうか。そう考える狩人だが、周囲の反応はこれが日常だと言っているようだった。
狩人より先に建物へ入って行った鎧の人をふと横目で追えば、すぐさま木の隔ての先にいる人と会話している場面を見る。
会話内容は他の人々の声にまぎれ、何も聴こなえなかったが、身振り手振りを見ることで、なんらかの取引をしているように見えた。
冒険者とは何か。ギルドとは何か。現状では何も分からない。狩人は意を決して鎧の人の会話が終えたタイミングで、隔ての先にいる女に話しかけた。