狩人は異界のことを更に良く知るために夜明けを迎えた。その景色に対して『一周目』の最後景色である夜明けの懐かしさを感じていた。
しかし、何故またこの悪夢に戻ってきてしまったのか。それは既に狩りと血に酔ってしまったからなのか。
ただ最早それを知る必要は無く、探すことも下らない。
今は、第二の悪夢にて起きた異常を探ることが先決だろう。
夜明けを迎えた狩人は、陽の下でより良い情報は『冒険者ギルド』に集まると知った。
冒険者もギルドも言葉自体は理解できても、意味が理解出来ない。ただそれだけに情報を知ることが出来るのならと、狩人は書いてもらった地図を元に冒険者ギルドと呼ばれる建物にたどり着いた。
「あの〜……ここが冒険者ギルドと聞いたんですが……」
周囲の人間の動きに習って、一つの隔ての先にいる女に話しかける狩人。女はすぐに狩人の姿を見て戦闘が可能な者、もしくはギルドが初の人間だろう察し、狩人に微笑みを掛けた。
「初めての方ですか? では登録は銀貨1枚、依頼はこちらの依頼書に詳細を書いた後、提出してください」
てきぱきと決められた作業のみを熟す女の姿勢に狩人はただ戸惑うことしか出来ない。
一体彼女は何をしているのだと。
「いや、初めてというか。冒険者ギルドってなんです?」
「あぁ、ギルド自体が初めてという事ですね。おほん。それでは説明しましょう」
女は一つ咳払いをすると、狩人の質問に答える。
冒険者ギルドとは、世界から冒険者と呼ばれる狩人に似た戦闘を可能とする人々が集まり、世の中のありと凡ゆる情報を交換、それぞれの地域の治安を守る者達の集い。
そこに冒険者と依頼者に金銭の関係を作ることで、依頼者には結果を。冒険者には報酬をもたらす。
その結果が成功か否かは、依頼者とギルドの判断で決められ、これは地域の治安と同時に冒険者と依頼者の信頼を管理する。
そう説明された狩人はどこかこの関係性に、かつてみた連盟や血族を思い出す。
連盟は、狂った狩人や獣を殺す手伝いをしてもらう代わりに、病巣から見出された『虫』を殺す約束を。
血族は、王女が血の赤子を抱くために、血の契約をしてもらう共に狩人は狩人の中に見出す悍ましい穢れた血を王女に捧げる約束を。
これらはどちらも互いの利害の一致が前提にされており、また冒険者ギルドのそれに一致するものがあった。
「なるほど……俺が知る物より遥かに大規模ってことだけですかね」
「それでは冒険者の登録か、依頼。どちらにしますか?」
狩人は女の最後の質問に自身に最もメリットがある方を即決した。言わずもがな、冒険者だと。
しかし此処で一つの問題が生じた。狩人は女の言う金銭を持ち合わせていない。
狩人にとっての金銭ならいつしか道端から集めていた輝く硬貨があるが、これはこの異界で使える物なのだろうか。
それに変わる物ならば、ヤーナムで手に入れた様々な素材もある。この異界で売却が出来たら良いのだが。
「すみません。お金を持っていないんですが……今ここで物品の売却とかって出来ますかね……?」
「あぁ、それなら構いませんよ。ただあまり珍しい物を渡されても困りますので、銀貨1枚相当でお願いしますね?
たまにいるんですよね……お金持ってないからこれを売ってくれって。本人の自覚なく超高価な物を突き出す方が……」
銀貨相当と言われても、本人に自覚がないのならそれまでだろう
わからないことが、分からないのが何が可笑しいのか。狩人は女の発言の矛盾に苦笑すると、それでは何を売るべきかと熟考する。
誰もが驚く事なく、誰が見ても妥当だと分かる物を。
ただそれは世間一般的に知られる物だが、一般の人間には手が出し辛い物を。
それ即ち、血石の欠片。
これは獣や人が死後に流した血が凝固した物で、結晶化した物ならより価値は高まるが、どちらにせよ武器に捻り込むことで強化できる素材だ。
昔はこれが足りない足りないと、ヤーナムを奔走した記憶が狩人の中に残るが、獣や化け物を狩り生業とする冒険者という彼らにとってこれは日常的な物だろうと考えた。
それは俗に言えば血の塊であり、これはその欠片。一見すれば鉱石に見えなくもない赤い光沢を見せるそれを狩人は女の前の机に置いた。
「こ、これは……?」
「獣の血の塊だが」
「ほ、ほぉ……。いや、説明されたらなんとなく分かりますが、普通に見たこと無い物ですね。
ただ確かに高価な物とも言えない。ふむ。いいでしょう。ではこれを銀貨1枚として買い取らせて頂きます」
狩人は女の以外な反応に、物品選びを間違えたかと少し悩むが、すぐに理解し買い取ってくれたことにまぁ良いかと事を済ませる。
「では、こちらが冒険者登録用紙です。必要事項の記入をお願いします」
「あーはいはい」
恐らくこれは契約書。連盟でも血族でも紙で契約をもたらされることは初だが、狩人はどれもやり方が違うだけで同じことだと慣れた手付きで必要事項に目を通す。
書かなければならない物は、名前、年齢、出身、職業があった。
名前や年齢に関しては今まで全く気にした事も、思い返すことも無かったため、正確なものは忘れており自身がどれだけ老いているかという曖昧な判断と適当な名前を書いた。名をウェナトール。
職業は言わずもがな狩人だが、出身は細かい情報までは自らでもとうに忘れているため、これも曖昧な回答を書く。
狩人の素性は、村の生き残り。
どこの村の生き残りかと問われれば分からないとしか答えられないが、生き残りと書いてある時点でその村に壮絶な過去があったとだけ感じさせられるだろう。
「ウェナトールさんですね。かしこまりました。それではっと……はい、こちらは冒険者タグという物で、貴方の冒険者として実績がこのタグとして記録付けられます」
渡されたのは青銅で作られた銅色の板。手の平サイズで長方形に加工された物で、ただそれだけに一目見ても安物だと分かる。
これは冒険者として、もしくは狩人としての目的を良く全うし、彼らの信頼に置ける人物に与えられる物。
故に、銅は歓迎の意が込められ、のちに鉄、銀、金、金剛、白金と彼らの信頼の階級が上がり、この安物の銅板もより豪華な素材の物へと変化していくようだ。
「なるほど……」
「それでは後やることは……グループへの加入ですかね。冒険者は一人でも構いませんが複数人のパーティを組んで依頼を行うことを推奨しています。
そこでギルド側が提供するのは、五人から始まる多くて百人を超えるグループを作れることです。
一人で一から人を募集しても良いですが、ギルドではグループ制のおかげで外部からの招待は引き受けられにくい傾向があるんです。
なので、もし複数人でやりたいという希望があれば、ギルドに既に登録されているグループがあるので、気になるグループをお選びください」
要は連盟の中で更に狩人達を小分けにし、連盟という枠組みだけでなく更に強固な集団を作ろうというのが目的だろう。
狩人は女の説明に軽く頷くと、さっとグループ名の一覧に目を通す。
そこで狩人は何故かとても身近で、親しみやすい団体名を発見する。
これは偶然か。それとも異界との融合が関連しているのか。その団体名は、虫の連盟。