狩人は冒険者ギルドに到着し、冒険者として契約する。そしてギルド推奨の複数人での依頼達成に基づいて、グループへの加入をしようとしたところ、そこにはあまりにも慣れ親しんだ『連盟』その物があった。
簡潔に言えば獣や人、化け物の内部に潜む虫を殺す連盟で、その虫は連盟にとって悍ましい、醜悪の対象であり、一見ならたかが虫と思われるだろうが、連盟の殺す虫への執着は、他には理解出来かねない。
狩人はその連盟をグループとして選ぶ。
「え、虫の連盟ですか? 言っておきますがあまりお勧めしませんよ。このグループの人達はちょっと怖い人達が集まっていまして……なんと言いましょうか。良く魔物討伐をしてくれるのですが、まるで遊びのように考えていて、他のグループとは雰囲気が常軌を逸しているんですよ……」
表情を暗くして、正しく怯えた様子で連盟を語る女に、狩人はヤーナムと異界の常識に確かな違いがあると感じながら、言い得て妙だと理解する。
獣狩りは娯楽の延長線上。真の目的は違えども、獣狩りに楽しみを感じる狩人は少なくは無い。正しくそれこそが血に酔った狩人の姿だからだ。
「因みに、連盟の評価ってどんな感じ?」
「評価は……とても高いです。魔物討伐に至っては依頼通りにしっかりとこなしてくれるので。
ただ……彼らは何故か毎度全身血塗れで帰ってくるんです。ただの魔物討伐にそこまで大量の血を浴びるなんて、凄まじい苦戦とかをしない限りは無いんですけどねぇ……」
「ははーなるほど。じゃあ虫の連盟に加入するよ。俺、多分この人たちのこと知ってるから」
「そうですか。そこまで言うなら止めません。虫の連盟の方達に連絡しておきますね。
拠点はここから少し遠いのですが……路地裏の奥。スラム街を抜けた先に古びた工房があるんです。何故こんな危険地帯に拠点を構えたのも謎ですが、どうかお気をつけください」
「あいよー」
狩人は連盟の拠点の場所を女に聞けば颯爽と古びた工房のある路地裏へと向かう。
狩人の知る人物らとは、連盟員とその長こと。血に酔うことは当然のように狩りに対して嫌悪と後楽を抱く彼らは、一見するただの異常者ではなく、その異常を最早日常として受け止めているのだ。
獣を殺し、病に狂った人を殺し、かつては上位者とよばれる高次元的存在さえも憎み、またそれを殺し回っていた。
あの世界では殺すことに咎はなく、逆に殺すことが有意義として扱われる。ならば連盟として殺せる限り殺してしまっても良いだろうという思想。
だからこそギルドの女は異常を当たり前のように受け入れる彼らの姿に狂気を見出したのだろう。
して、狩人はまた古びた工房の立地に関しても好都合だとも思っていた。路地裏の奥に潜むスラム街、さらにその最奥に佇む工房。
特に狩人らに秘匿は無いが、秘密には必ず隠す者がいると言うように、隠す者にとって街の裏は最も好都合であることがある。
つまりこの古びた工房は、秘匿を破るには不十分だが、誘い出すことは出来るだろう。
それとスラムと路地裏こそ、殺すべき虫は多く無尽蔵に湧き出ることだろう。
狩人は古びた工房を目指し、路地裏をすぐに抜けると、なんとあろうことか。連盟の名にも驚いていた時とは比べ物にもならない光景が広がっていた。
そこはスラム街。しかし、路地裏ではまだほんの申し訳程度の光。薄暗さが残っていたにも関わらず、スラム街からはその光は絶え、仰々しい暗さが広がり、最早大通りとは建築様式までも違う異様な景色があった。
そう、そこはまさにヤーナム市街そのものだった。
「おいおいおい……嘘だろこれ。今回の世界の融合はどうなってんだよ……。なんでここにヤーナムがあるんだよ」
また市街の異様さ象徴する無数の墓と棺が至る場所に放置され、夥しい血肉と腐敗臭が広がるその場所に、まだ新鮮であろう死体を喰らう獣がそこにはいた。
異界という名の夜明けの平和など狩人にとって束の間の休息に過ぎなかったのだ。
その有り様は狩人の奥に隠れていた発狂が露わになる。やはりどこに行っても悪夢の終わりなど無いと。
狩人はヤーナム市街はもう土地勘は完全に把握しており、ただその中にある古びた工房が建てられる為に作られた不自然な地形の変化から、すぐに古びた工房の位置を特定した。
そして狩人は工房の扉をゆっくりと開け放つ。
目の前には円卓を囲む四人の狩人と、正しくその長であろう。狩人の良く知る姿がそこに。バケツを逆さまにして被ったその者がいた。
「ほう、お前、新顔だな? それに見たところ優秀な…狩人だ
クックックッ……。ああ、俺はヴァルトール、連盟の長だ。
連盟とは、狩りの夜に轟く汚物すべてを、根絶やしにするための協約さ。お前も狩人なら、気持ちは同じだろう?」
「ヴァルトール……なんでお前が此処に居るんだよ……」
「何処かであったか? 俺を知る人間なら話は早いか? だが敢えて言おう。穢れた獣、気色悪いナメクジ、頭のイカれた医療者、みんなうんざりじゃあないか。
だからこそ、殺しつくす。連盟の狩人が、お前に協力するだろう。話は聞いている。連盟は同志を歓迎する」
「あ、あぁ……。ヴァルトール、お前も死んだのか? ならいつ死んだ?」
「安心したまえよ。俺も鐘で呼ばれた身に過ぎない。俺はまだ禁域の森だ。故に生きている。ただ戻れないだけだ。
ああ、それと一点忠告しておこう。連盟のカレルを刻む者は、その誓いにより「虫」を見出す。
それは、汚物の内に隠れ轟く、人の淀みの根源。……躊躇無く、踏み潰す事だ。我ら連盟の最終目標は、すべての「虫」を踏み潰し、人の淀みを根絶すること。
……だからこそ、もはや「虫」などいないと分かるまで、狩りと殺しを続けるのだよ。
それは、我らの血濡れの使命。……きっと、誰にも理解されぬだろう。だからこそ、俺は同志たちを愛するのだ。
努々、忘れないでくれ」
通称獣喰らいのヴァルトール。バケツを逆さにしてそれを鉄兜として被る姿が特徴の、『虫』に唯ならぬ憎悪を抱く男。
ただそれだけに、既にその目は見えなくなっており、未だ世に残る虫を殺すために連盟を結成した者である。
自身が果たし得なかった仕事の後釜として連盟員を集い、これを自身の最後の大仕事としている。
「分かった。それとなんだけどさ、今ここが普通のヤーナムじゃないってことはヴァルトールも分かってる? 異界とヤーナムが融合しているというか」
「あぁ、分かっている。潰すべき虫がヤーナムより更に外側にいることもうんざりだ。最後の大仕事のつもりだったんだがな。
だからさらに連盟員を集めるために、都合の良いギルドとかいう組織に声を掛けた。
狩人だけでは異界の虫までは潰し切れないからだ。それに、その組織には狩人にも通ずる者たちが多くいるそうじゃ無いか?
彼らが例え狩人でなくとも、虫を潰すなら皆同志だ」
ヴァルトールは今や虫を見る目を持たなくとも、異界にも更なる多くの無尽蔵の虫を見出した。
して、狩人はこの方法に静かに頷けば連盟との契約を果たした。
獣狩りと並行する虫潰し。そしてヤーナムが丸ごと融合した異界。狂気の沙汰に眠るより深い狂気。秘匿は如何なるものなのか。