狩人は融合した世界の調査をより深く進めるために、ギルドにて虫の連盟に加入し、かつてヤーナムの禁域の森にいたヴァルトールと出会った。
またその場にいた連盟員である他の狩人らもヴァルトールと同じく、鐘に呼ばれた身としてただ本来の場所に戻れない状態になっていることを知った。
これに対して異変を感じることは当たり前か。ヴァルトールは異界の虫を潰すことに意気揚々だが、他の狩人はそうは行かない。
して、これからやるべきことは連盟と協力し、狩りを全うするために秘匿を破ることが最終目標。
そのために連盟は虫を潰すと同時に異界のより広い範囲を調査している所だった。
「獣はスラムの街。我らヤーナムから広まったことは確かだ。たがその根本を千切り取るには、ヤーナムを探した所で無駄だ。
そのためにより多くの虫を踏み潰さなくてはならない。同志たちよ、この異界の虫を全て殺すのだ。片っ端から見える物は全てだ」
ヴァルトールの真の目的は虫を潰すこと。それに沿って異界の調査は進むだろうと考える。
ならばやるべきことは一つ。ギルドの討伐依頼を例えそれが人であろうがなんでもあろうが殺し尽くせ。
「じゃあ行こうか。お前とお前、一緒に来ないか?」
狩人は円卓を囲む四人の狩人の内、二人を選んだ。
一人は真っ白に暗闇も照らすほどに異色の聖歌隊のコートを羽織る狩人。
一人は全身薄く汚れた銀色の鎧。カインの鎧を纏った狩人を指差す。
彼らは高次元の上位者を崇拝する聖歌隊と不死の血を拝領するカインハーストの装備で、連盟とは思想そのものが掛け離れた組織だが、この二人の狩人はどちらも、『お洒落』に過ぎないだろう。
狩人らは本職であればそれぞれの思想の元に働くが、それらをどこかで"拾った"のであればその限りはでは無い。
そうすれば二人の狩人は黙って頷き、狩人の後に付いた。
そこで工房を出ようとした所、突如と扉が開け放たれた。月明かりで照らされるヤーナムの街を背後に扉から見えたのは、狩人では無かった。
服装は軽装が二つ。重装が一つ。三人の男女だった。服は青赤銀とヤーナムには鮮やかすぎる色が、血に濁った狩人の目に差し込む。
「ここが虫の連盟の工房ですか……? はぁはぁ……ここに来るまで至るところに化け物がいてビックリしました……。もう追いかけ回され回され……」
青の装備は盾と片手長剣のまだ瞳に光を宿した青髪の好青年。名をアレン。
赤の装備は等身大の片手杖を持つ元気のいい少女。名をミリア。
そして銀の装備は背中に身に余る巨大な剣を携えた大男。名をガレスと言った。
「早速新たな同志が来たか。クククッ……こんなにも順調に連盟員が集まるとはな。良く素晴らしいことだ……新たな誓いを讃えよ。そして存分に殺したまえよ……」
新たな同志が増えること。それは連盟にとって最終目標をより速く達成するための近道であり、ヴァルトールにとっては一人増えるだけでも連盟が広がり、兄弟同然と思えるかのように素晴らしいこと。
だからこそ殺して殺し尽くすその先には、圧倒的な数で淀みの根源を捻り潰す情景が映し出される。またそれは正しく娯楽なのだ。
ならば彼らもこれから行く狩りに連れて行こう。そのように発言しようとした時、カインの狩人は正面のアレンに長銃を向ける。
それはカインハースト達の騎士から伝わる、獣狩りの短銃より濃厚な血が練り込まれた水銀弾を発射する銃『エヴェリン』。
「え、ちょ!?」
カインの狩人はアレンに銃口を向けるや否や、アレンの言葉を待つことなく銃弾を発射。
狙うはアレンの背後。恐らく工房まで彼らを追いかけてきた獣であろう。
エヴェリンから発射される弾丸は血によって大きく火力が強化され、通常では計り知れない被害をもたらす。獣の頭は一撃で弾け飛ぶのであった。
鼻を曲げかねない腐敗臭の混ざった大量の血が狩人とアレンを濡らす。
「は、ははは……あ、ありがとうございます……」
「じゃ、三人とも。いこっか」
「は、はい……」
アレンは今の一瞬の出来事でしっかりと気を引き締め無くてはと学習しながら、隣に立つ少女のミリアはアレンに小声を掛ける。
「このグループ本当に大丈夫なの? 私たちその連盟なんかに入るは無いよね……?」
「無いけど……相手から勝手に加入扱いされてるんならそれで良く無いか?」
「んんん……とりあえず私は様子見するわ」
襲ってくる化け物に対して容赦なく。躊躇いなくは冒険者にとっても望ましいことであるが、彼らは狩人らに一切の覇気が無いことを察する。喪失こそしていないものの、まるでそれらは慣れたことであり、他人から見れば純粋な殺意だけが残り、戦意は全く感じられなかった。
だからこのグループは何かが可笑しい。ギルドが怖がるのも無理は無いと考えていた。
して狩人は聖歌の狩人とカインの狩人。三人の冒険者を連れて工房を出た。
そうすれば狩人は改めて三人に街の異変について質問する。彼らが工房に至るまで必ずヤーナム市街を通ったはずだからだ。
「そういえば三人はここまで来るのに通ったはずの街並みは見た? 獣ばかりで観光までは無理だと思うけど、今まであんな街は見たことある?」
「え? あぁ、たしかに言われてみればそうですね。割と土地勘はあると思うのですが、工房まで来るのに少しだけ迷いました。いつの間にかスラム街の再開発計画でも始まったんですかね?」
「再開発ねぇ……まぁ、今のところはそんな捉え方で良いのかなぁ?」
狩人はこれで確信を得る。ヤーナムと異界の融合はあまりにも大袈裟で、異界の人々に違和感を持たせないほどに混ざり合っている。
最初は病に罹患した獣、次にヤーナム市街そのもの、そして獣喰らいのヴァルトール。見知った人物まで異界に飲み込まれたと考えれば、恐らく今までに敵対した狩人や聖職者も現れるだろうと。
獣の病なら源を解決すれば止められるだろう。しかし本当にそうなれば、月や病より遥かに厄介であり、更なる惨劇が確定する。
自然や化け物より人間の方が十分に狂っているのだから。
かつての医療協会と呼ばれる組織で行われた実験の二の舞など絶対に再発させてはならない。狩人はさらに調査に対して誠意を出すことにした。
だがそんな惨劇が近いうちに起こるなど三人は知る由も無いだろう。"スラムのの再開発"という言葉は言い得て妙であるため、狩人は真実を濁した。
それから狩人は、二人の狩人と三人の冒険者で早速ギルドに赴き、一つの討伐依頼を受注する。
内容は、街の地下水道から侵入してきたと思われるアリゲーターとリザードマンの撃破。若しくは駆除とのこと。
「今日は地下水道をやるんですね。アリゲーターとリザードマンは手強く無いですか? 一度リザードマンとは戦ったことありますが、動きがとても機敏で、三人でも苦戦した記憶があります……」
「ふーん。因みにどんな形の敵なの?」
「え? あぁ、アリゲーターはワニです。噛みつかれたら腕の一本は確実に持ってかれる顎の力を持っていて、リザードマンはトカゲですね。トカゲと人が合体したような魔物で、動きが速いとはそういうことです」
「ワニとトカゲかぁ……オーケー」
トカゲと言えばかつて狩人が見つけ次第血眼になって狩っていた彷徨う悪夢と呼ばれる、小さな顔面が無数に付いた生物がおり、ワニに至っては知ってはいるものの恐らく星の眷属に成り果てた姿を思い出す。
アリゲーターとリザードマンなど狩人の記憶には無いが、特徴を聞くだけにそれと代わっても似ているとは言えない化け物の姿しか思い出せない。それほどヤーナムは街ごと腐り切っていたのだと改めて実感するのだった。