狩人は異界にて連盟長ヴァルトールと出会えば、異界とヤーナムが融合したことについてより深く、広く知るために連盟に加入する。
彼らは既に異界では畏怖の対象となりながら、それでも役に立つという複雑な信頼を得ており、どれだけの仕事なのかと狩人は加入してから初の依頼を引き受ける。
対象は街の地下水道にいるアリーゲーターとリザードマンと呼ばれる蜥蜴と鰐の魔物を駆除すること。
ヤーナムには元人間の獣や上位者の化け物ばかりだったが、異界には魔物という獣と似た化け物が多くおり、ただ故にその蜥蜴と鰐は異界に潜む極一般的な。凶悪な動物だという。
狩人は二人の狩人と三人の冒険者を連れて街の地下水道へ入る。
地下水道の中は意外にもしっかりと整備されており、ツンとしたゴミの生臭さを除けば"綺麗"と一言で言い表せる程だった。
またしてもこの光景に、反面のヤーナムの下水道の光景を思い出す。
血の河、未だに生きる骸骨、血肉を喰らうカラス、時には毒沼等々。思い出せば出すほど異界の光景とはあまりにもかけ離れている。やはり、病の蔓延したヤーナムは異常なのかと錯覚してしまうほどに。
「へぇ……こんなところにその、アリゲーターだっけ? そんな奴らがいるの? 全くでてきそうな気配は無いけど」
「妙に慣れていますね……。気味が悪いとか思わないんですか?」
「いやぁ、特に……。逆に綺麗だと思えるわ……」
そこで初めて冒険者の一人である大剣を背負ったガレスが口を開く。
「特にウェナトールや、鎧とロープはこの景色に特に驚いているようだが……この街でグループを設立する前はどんな場所で仕事をしていたんだ?」
この質問に本来ならヤーナムだと言えば一言で終わるが、今やこの異界とヤーナムは融合しており、特に街中にあった例の場所が異界の人々でも、狩人らでも馴染み深いだろう。
「スラム街だよ。ずっとスラム街。大通りの人たちにたまたま気付かれ無かっただけかな」
「スラム街で……? スラム街は確かに普通の人の目がいかない場所だが、俺たちにとってはちょっと柄の悪いお隣さんみたいなもんなんだ。でも俺はあんたらの特徴は聞いたことすらない。
ってことはスラム街の再開発に関わっている……?」
「……まぁ、そんなところだ。分かったらさっさと鰐と蜥蜴倒しちまおうぜ」
やはり異界の人々でさえもヤーナム市街が丸ごとスラム街と融合してしまったことは気付くか。
街の変貌に気付き、狩人らに気付かない訳が無い。
しかしここで病のことを明かせば混乱か不安は必ずきたす。
だからこそ狩人はすぐにガレスの言葉に対して返答を濁し、現在の目的に目を向かせる。
「あぁ、そうだな……」
そうして地下水道を進んで行くと、目的の生き物はいた。それは集団であり、一つは何処からどう見てもただの鰐。
狩人らの常識が捻じ曲がっていたとしても、その余りにも変哲の無い姿はあれが鰐か。と、頭が勝手に認識してしまうほどであった。
しかしもう一つは、一見すれば人間。ただし全身鱗肌に、尻から太い尾が垂れ、頭部からは細い舌と鋭い金色の眼光が、下水の暗闇からいくつも光らせていた。
あれが俗に言うリザードマン。ヤーナムで、もしあのような姿を見ることが有れば狩人は口を揃えてこう呼ぶだろう。
『恐ろしい獣』と。
異形で、見たこともない人とも獣とも言い難い姿を見た時、狩人は他の夢を見る同じ狩人に手記を通じてメッセージを伝える。
その時に総じて使う言葉は「恐ろしい獣に気をつけろ」。
「あれがアリゲーターとリザードマンか。んじゃまさっくりやろうぜ」
そこで青の服のアレンが忠告する。
「気をつけてください。敵は一体じゃありません。ここは分担して……」
だがそんな忠告を素直に聞く狩人は一人さえいない。どうせ死んでもまたそれは夢だからだと。
「ドカンと一発食らえやああああああ!!」
「ちょ、ウェナトールさん!? うわあああ!?」
それはかつて医療教会の工房が試作した大型銃。設置型の物を手持ち銃として無理矢理改造した『大砲』。
並はずれた反動に、バカげた重さと人一人が持つ火薬量では無いが故に、実用化される前に廃棄されてしまった銃。
しかしその破滅的な威力と砲弾が引き起こす破壊はどんな獣も一撃で葬ることが信じられ、その爆炎からはどんな機敏な足があろうとも逃げ切ることは至難の物。
まさにこの大型銃は、数の暴力に対する最適解であり、また絶望的な大敵に対して敗北の二文字さえも消し去る力があると言っても過言ではない。
狩人は左手にそれを持てば、大声と共に鰐と蜥蜴の集団に撃ち込む。耳を劈く爆音は空気を切り裂き、無限に下水道を反響し、魔物の断末魔も聞こえぬほどに。
どんなに頑丈に整備された下水道であれど、間もなく崩壊は始まる。
瓦礫と砂塵が舞い上がり、ようやく視界が開けば最早狩人の目の前にあった通路は完全に塞がっていた。
「何してるんですか!? ここは下水道です! 人があまり入らない場所でもしっかりと機能はしてるんですよ! はぁあ……これは弁償代が……」
「ふーん。そりゃすまんかったな。まぁ、金ならどうせ使ってない金が連盟にあるだろ」
「え……?」
狩人にとって金は使い道がなく、たとえ異界に閉じ込められようとも武器は工房で自ら作成し、防具などまともな物はつけた事がない。
また食料さえも狩人の腹は既に空腹を忘れ、腐臭に慣れてしまっては、最早普通の食料さえも喉を通らない。
だからこそ必要であれば出せるだけの金は連盟にあると考えた。
「それじゃあ終わったんだし帰ろうか」
そうして下水道から地上に出ると、先ほどの下水道崩壊の音など気にされぬ様子で街中で花火が上がり、人々の活気に賑わっていた。
「なにこれ? さっきまではこんなんじゃ無かったよな?」
「知らないんですか? 今日は運が良いことに一生に一回だけあると言う勇者の生誕祭なんです。
勇者は生まれてから決まった家系で十六歳になるまで剣の訓練をされるんですが、その十六歳になった時が祭となり、最後に聖剣を抜いた者が本当の勇者になれるんです」
勇者とは、この異界における守護神の象徴であり、教会の管理する儀式用の聖剣を手に持った者が勇者になる。
勇者の誕生は、異界の地上の真裏。地下深くに佇む魔界との均衡を保つためのものであり、互いの抑止力とのこと。
勇者ある限り魔界は人界を侵すべからず、また魔王ある限り人界は魔界を侵すべからず。このどちらかが欠けた時、人魔戦争は起こる。
この戦末にどちらかが滅ぶであろう。
そう、異界では伝承として知られているという。
「聖剣ね……そりゃ大層なこったな」
狩人らにとって聖剣の名を聞けばたった一人の人物の名前しか思い当たらない。目を閉じた時に見えた暗闇の中に『光』を見出し、その光に『導き』の意味を与えたことで獣狩りを正義と信じ、一時期狩人らの庇護者として存在した英雄の名を。