RE:D Cherish!-Lost Crusade- 作:名無しのサイボーグさん
ルージュをDDダイナーの従業員候補として拾って十数分後、夕日が照らすタイミングで桜子さんのアパート前に到着した。
「ふう……座り心地はあまりよろしくありませんでしたね」
「……荷物を積む為だから、当然だ」
サイドカーから降りたルージュは若干むくれた表情でオレに文句を言ってくる。そもそも一人旅用のカスタムだから、サイドカーも荷物を積む為に増設したようなものだ。ゆえにシートの質はないよりマシ程度だ。
「でしたら後ろに乗せた方が良かったのではなくて?シートに余裕はおありですし」
「……服装で無理」
冷めた眼差しのルージュの指摘に、オレは仁辺もなくそう言葉を返す。
ルージュの服装はロングスカートでバイクに乗るには不向きの格好。はしたない姿を晒す羽目になるからこそ、オレはルージュをサイドカーに乗せ、荷物は後部に括りつけて固定したのだ。
「それもそうですわね」
ルージュもオレの言葉にあっさりと同意する。
それに対しオレは意外だと思った。彼女の性格からして、てっきり文句を言うのかと……
「ですから、次に乗せる機会までにサイドカーのシートを良質なものに変えておいてくださいな」
前言撤回。次乗せる機会があるかも不明なのにシートの交換を要求してきやがったよ。
――――――
「イヤです。このKYなんちゃってお嬢様をDDダイナーに雇うくらいなら、三人で切り盛りした方が1000倍マシです」
「酷い言い草ですわね!?」
心底嫌そうな表情で雇用を否定するユニカに、ルージュは怒り顔となる。
桜子さんの部屋である程度の経緯を説明したオレは、ルージュをDDダイナーのスタッフとして改めて紹介した。返答はこの通りであるが。
「待つんだユニカ。ルージュは高級料理店のプリムヴェールで何年もウェイトレスをやってきたんだ。性格はともかく給仕の能力は高いぞ」
「その性格が能力を補って余りあるマイナス値なんですが」
「そこまで言われる筋合いはありませんわ!」
雪光の方はルージュを雇うことには賛成のようだが、オーナーとなるユニカは本当に乗り気でない。性格が悪いと言われてルージュは再びユニカに向かって怒りを露にしているが、雪光にも性格がマイナスだと暗に言われたのには気づいていないようだ。
彼女を紹介した手前、フォローしないのは論外なのでオレは助け船を出す。
「……その言葉はブーメラン。料理の腕は高くても性格で帳消しになっている」
「それ、どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味ではなくて?性根がネジ曲がり過ぎて自己評価もまともにできないんですのね、お可哀想に」
「なんですって……!」
ルージュのお返しと言わんばかりの煽りに、ユニカは眉を吊り上げて睨みを効かせていく。
煽って喧嘩の売り買いをするなよ。きっかけを作ったオレが言うのもおかしいけどさ。
「まあ性格のひねくれ具合で言えばいい勝負だな。勝手に私のアパートを雇用待遇に使ったバカも含めて」
「俺もそう思う」
「「こんな人(の)と一緒にしないで欲しいですわ(ください)!」」
桜子さんと雪光から同類扱いされ、ルージュとユニカは揃って反論の声を上げる。口調以外は全く同じだぞ、おい。
それはともかく、二人と同類扱いした桜子さんと雪光には反論させてもらう。
「……勝手に人を条件にした人に言われたくない」
「うぐ……さては意趣返しのつもりか!?」
オレの言葉に桜子さんは一瞬吃りながらも仕返しかと問いかける。もちろん人を勝手に手伝いの条件にした上に脅しまでしたからな。少しくらいやり返してもいいだろ。
「……そっちは軟派な態度で、夜中に背中から刺される」
「それ、洒落に聞こえないんだが」
シチュエーションは違うが、実際に背中から刺された経験がある雪光は困ったように苦笑いする。
あれは殺し合いの結果だが、お前の場合は痴情の縺れでもそうなる印象があるからな。ストーカーモドキと口八丁で女性を丸め込んだのが良い例だ。
「確かに雪光さんは女性にだらしない印象がありますね」
「言われてますわよ、雪光」
「二人とも酷い!」
ユニカとルージュからのダブルパンチに、雪光はわざとらしくショックを受けた態度を取る。これも普段の態度から出た結果だろう。
「おーおー、みんなから散々な言われようだな?」
「あ、そうだ桜子。これを機にこのアパートをDDダイナーの社員寮として提供してくれないか?」
「いきなり話を飛ばすな!後、しれっと要求すんな!」
わざとらしい態度から一転した雪光がこのアパートを社員寮にしようと提案して、からかいの笑みを浮かべていた桜子さんはイラッとした態度で文句を言ってくる。
「……空室はオーナーとしても避けたい筈。通常の家賃から2割引きでも」
「それは貸し手を厳選しているからだ。おかしなヤローには貸したくないんだよ。後、勝手に減額するな」
「わ、わたしはおかしなヤローではありませんわっ」
オレの言葉に桜子さんはぶつぶつ文句を言いながらルージュをチラ見する。おかしい人物されたルージュが抗議する中、社員寮化を提案した雪光が桜子さんに再び話しかける。
「桜子、これは互いにメリットがある取引なんだ」
「どこにメリットがあるんだ?家賃が勝手に減らされているんだぞ?」
桜子さんの半信半疑な態度に、雪光はまっすぐ見据えてそのメリットについて語り始めていく。
「このアパートをDDダイナーの社員寮として提供してくれれば、こちらは働き手が見つけやすくなる。桜子は給料からの天引きで安定した家賃収入が入る。さらに顔見知りだから身元もしっかりしているし、毎日顔を合わせる上に厚意で通常より安く貸してくれているから無茶なこともしにくい。従業員も俺たちが責任持って監督するから、手を煩わせる心配もない」
俺
「確かに私にもメリットはあるが……2割の値引きが……」
「……呑めば脅しの件は水に流す」
「あー、もう!分かった!手玉に取られてる感が憎らしいが、お前らの好きにしろっ!」
桜子さんは降参と言わんばかりにこのアパートの社員寮の提供を承諾する。
「しかし意外だな。自分の件を傘にしてまで、ルージュの面倒を見るなんてな」
「……見捨てたら寝覚めが悪くなるだけ」
不本意ながらそこそこの親交のある顔見知りになってしまったからな。自業自得で追い出されたとはいえ、路頭に迷った人物を見て見ぬふりをするのは彼処にいた関係もあってできないんだよ。
そんなわけで。
非常に不本意ではあったが、オレはDDダイナーのスタッフとして働くことが正式に決まったのであった。
――――――
DDダイナーのスタッフとして雇われることが決まった数日後。
物件探しをしていた桜子さんから丁度良い物件が見つかったと報告があり、全員でその物件の前に足を運んでいた。
「ここですか?」
「ああ。あちこちに声をかけてようやく見つけたんだ」
「……ヴィクセンズの表通りから二本裏手。二区画先にチューブメトロ駅、近くにはリニアバスの停留所もある。飲食系の店はカフェに飲み屋が一件、レストラン系は二件ほどだ」
端末の地図アプリで場所を改めて確認したオレは、雪光たちに聞こえるようにそう告げる。人の流れが自然にあり、ライバル店が少ないここなら飲食店を経営するにはうってつけの場所である。
「だから人通りが多いのか。二路面に露出していることといい、確かに飲食店をやるにはうってつけだな」
「そうだろそうだろ~。実際かなりのオススメ物件だからな!」
「確かに……これは悪くない物件ですね」
オレの言葉で周りを見渡して確認していた雪光の好評に、桜子さんは得意げな表情でふんぞり返る。相当ご機嫌のようだ。
ユニカも好条件の物件に対して笑みを浮かべる中、ルージュだけは懐疑的な表情であった。
「これがオススメなんですの?プリムヴェールと比べたら狭くて汚らわしいですわ」
「一等地の金持ち物件と比べるなよ」
「……確実に予算オーバー」
確かにプリムヴェールと比べたら小さいし汚れも目立つが、そもそも人数も何もかもが違うんだ。加えて飲食店の経営は初めてであるオレ達がやるには、大きすぎる物件は逆に足枷になってしまう。
それに予算は雪光の隠し口座のようなところから不正で引き出すのだ。いくらか減る以上、調子に乗って出費するわけにはいかない。
「……後、家賃は?」
「ふっふー、聞いて驚くことなかれ。その家賃はなんと、今なら相場の二分の1!しかも潰れる前はレストランだったから、仕器もまるまる残ってる!居抜きで済ませば改装もダンゼン安上がり!まさにお買い得だ!」
それだけ聞けば確かにお買い得の物件だな。初期投資は抑えられるなら、可能な限り抑えておきたいものだからな。調理器具に内装……必要な出費はまだまだあるからな。
「本当にお買い得ですわね。これだけの好条件で相場の二分の1は、相当お得ですわ」
「これだけ聞けば確かに良い条件の目白押しだな。それじゃ、悪い条件の方を聞かせてくれないか?」
「ですよね、条件が良すぎます」
「ま、当然そうなるよな」
雪光とユニカの問題点の説明を求める声に桜子さんは頷くと、その問題点について説明していく。
桜子さんの説明では、この店舗は事故物件であり二週間前にここでレストランを経営していた店長が強盗に撃たれて亡くなったとのこと。
無論、それだけで家賃が安くなる理由ではない。
「桜子。ガイの端末の地図を覗き込んだ際、PD基地が周辺にはなかった。その辺りも理由に含まれているんじゃないのか?」
「正解だ。最寄りのPD基地からかなり遠い上、ガラの悪い連中が裏路地を通るからこの辺りの治安があまり良くないんだ」
桜子さんの溜め息混じりの説明で、家賃が相場よりかなり安かった理由がこれで判明した。確かにここで飲食店をやると、ゴロツキ達にとっては格好の獲物として目を付けられるのは当然とも言えるだろう。
「ただ、徒党を組んで襲ってくるわけじゃなく、誘蛾灯に集まってくる羽虫みたいなものだ。雪光とガイがいれば、大丈夫だろ」
その程度の連中なら確かに平気だな。さすがに店内で剣を振り回すのは店の被害面から出来そうにないが、頑丈な警棒かスタンバトンを買えばいいだけの話だし。
「ユニカ、ここで決めようか」
「ううん、本当に大丈夫なんでしょうか」
雪光もその程度なら問題ないと判断してユニカに決定を促すが、当のユニカは難しげな表情だ。
「もっと安全な物件があるならそっちにした方が……」
「表通りなら治安もいいけど、すっごく家賃が高いぞ」
「どれくらい高いんですの?」
「床面積はここの半分で家賃は六倍。収益が見込めないと毎月赤字になる」
つまり相場の三倍ということか。それはかなりキツいな。
ユニカとルージュが荒事に対処できる能力があるかは不明だが、腕利きが二名もいる今の現状なら十分対処可能な範囲だ。であれば、ここを借りるのが現状では最善の筈だ。
無論、吸血鬼由来であろうDD-modは入れていない。あれは使用を控えるべき力だからな。
「それでも、死んでしまったら何にもならないじゃないですか」
「そりゃまあ、そうだけどな」
「雪光、ユニカは一体何を躊躇っているんですの?」
それでもと安全を優先しようとするユニカにオレは首を傾げ、ルージュも同様の疑問を持って何か知っていそうな雪光に問いかける。そんなルージュの疑問に雪光はあっさりと答えた。
「俺たちを危険な目に遭わせたくないんだよ」
……なるほど。つまり、自分のせいで他人が傷つくのが恐いということか。それは普通であれば美点ではあるが、この場合はマイナスだな。
「ふうん、ユニカって思ってたより臆病なんですのね」
「私の判断で誰かの命が失われるかもしれない。慎重になるのは当然でしょう?」
「……それは慎重じゃない」
ユニカの小馬鹿にしたようなルージュへの反論に対し、オレはユニカの顔を見据えてそう告げる。何故ならユニカのそれは一方的なものだからだ。
「慎重は周りの意見や様々な判断材料を吟味すること。それに対し、お前は危険だけに目を向けて判断している。悪いがルージュの言う通り、臆病だ」
少なくとも雪光の素の実力は銃を携帯したゴロツキ数名を
にも関わらず、ユニカは治安が悪い点と命の喪失にだけ目を向けて判断を下そうとしている。それはある意味侮辱でもある。
「ガイの言う通りですわ。慎重な判断は理性で行うもの。情に振り回されて決断を鈍らせるのは臆病の証拠ですわ」
オレとルージュの言葉に、ユニカは反論できずに黙る。
「まあここはエリューテリアだからな。プリムヴェールですら、たまに銃弾が飛んでくる。そんな土地で相手を選ばず商売をやるんだ。多少のリスクは仕方ないだろ」
「私一人がリスクを背負う分には全然構わないんですけどね……」
桜子さんも多少のリスクは覚悟すべきと助言するが、ユニカは頑として考えを変えようとしない。まるでこちらがリスクを覚悟してないような言い分は少し腹が立つな。
そんなユニカに雪光が真面目な顔で話しかけた。
「なあユニカ。俺たちを気遣ってくれるのは嬉しいけど、見くびるのはやめてくれ。俺はユニカの夢に命を懸ける、そう約束したはずだ。その覚悟に泥を塗る気か?」
そんな約束をしていたのか雪光。端から見ればプロポーズとも捉えられるぞ。
「そ、そんなつもりはないですけど……」
「……そもそもリスクは織り込み済。嫌なら最初から言っている」
オレが渋っていたのは感情論だし。そんなリスクを負いたくないなら今言った通り最初から言っているしな。
「そうだぞ。ルージュだってきっと同じ気持ちだ」
「勝手にわたしの気持ちを代弁されても困るのですけど」
便乗するように告げた雪光に対し、勝手に引き合いに出されたルージュは不満げな表情で呟く。
「……違っていたなら、雪光の代わりに謝罪する」
「あ、いえ。別に間違いではありませんけども、単に勝手に代弁されたことに納得がいかなかっただけですので」
オレが頭を下げようとした辺りで、ルージュは慌てたように弁明する。
ルージュは軽く咳払いすると、改めてユニカに向き直る。
「ユニカ、わたしも多少のリスクは覚悟の上ですわ。それを無視して判断を下そうというなら、それは侮辱以外の何物でもありませんわ」
「ルージュもこう言っているんだ。だから何も心配することはない」
「雪光さん……ありがとうございます」
雪光の力強い言葉にユニカの表情は和らいでいく。
……ん?このオーナー、雪光にしかお礼を言ってないか?いや、お礼を求めているわけではないが。
「わたしへのお礼はないんですの?」
「ああ、ルージュさんもありがとうございます。後、ガイさんも」
「おざなりですわね!?」
こちらへのお礼が適当なユニカにオレは苦笑しつつも、DDダイナーの店舗はこれで正式に決まることとなった。
「ここが新しいダフトドリーム・ダイナーになるんですね」
「ああ、そうだ」
感慨深げに借り受ける店舗を眺めながらユニカと雪光はそう呟く。ようやく本格的に店の立ち上げが進んでいるから当然かもしれないが。
「そうですわね、見栄えはあまりよろしくないですが一号店ということで許容しましょう」
「何様ですか、あなたは」
「ゆくゆくはわたしのお店になるのですから、装飾は派手にしたいですわ」
あー、また乗っ取り計画を画策しているな、これ。乗っ取りに失敗して解雇になったのに懲りないな。
まあ、堂々と宣う辺り、プリムヴェールの件と比べたら本気ではないかもしれないが。
「いやなりませんて。ルージュさんは永遠にただの従業員です」
「ふっ、わたしが大人しくあなたに使われるような人間だと思いまして?」
ユニカが呆れ気味に永遠の従業員扱いを告げるも、ルージュの強気な態度は崩れない。そんな強気な態度のまま、その根拠を語っていく。
「わたしは有能ですから、遠からず店はわたし抜きでは回らなくなります。そうなれば主従逆転、店はわたしのものとなりますわっ!」
「……その前に従業員が増える」
「ですね。回らなくなったら、ヒューマロイドを買います」
「いや、それより人間を雇おうな?」
どれだけ人が苦手なんだよ。高額ゆえに却下となったのに、蒸し返したことに雪光も呆れてるし。
「ふふっ、甘いですわね。店の全体を把握できる人間がいないとどうなるか、分かります?覚えのないクレームに言いがかり……その対処の初期に躓くことになりますわ」
あー、そう来たか。それは確かに躓くな。
「その程度でしたら、監視カメラで一発です」
「いや、監視カメラは確認しないとその内容を把握できない。特に飲食店へのクレームはその場での対応がほとんどだ」
ユニカは監視カメラを設置すれば大丈夫と告げるも、雪光が現実的な意見を出して問題点を指摘する。クレームの処理対応に時間を取られれば、その分だけ動きが止まるし印象も悪くなる。それが人商売の難しいところである。
「そう、その通りですわ。クレームの即時解決が出来なければ、店を回しきれなくなりますわっ」
「この人、クビにしていいですか?」
見事にふんぞり返ったルージュに、ユニカが冷めた目でルージュの解雇を要求してきた。いや、クビにしたい気持ちは理解するが、下手したら不当解雇だからな?
かと言って、このままにするのは問題だし……そうだ。
「……その熱意は二号店に向けてくれ」
「二号店!?わたしに二号店を任せてもらえるんですの!?」
「そうだな。もし二号店を作る時になったら、ルージュに任せようかな」
「よっしゃー、燃えてきましたわ~!」
オレと便乗した雪光の口車にルージュは見事に乗っかり、熱意を滾らせていく。
……うん。本当にチョロいお嬢様だな。二号店の前に移転や店舗拡大が先になるのに、その辺りは見事に抜け落ちているようだ。
「うわ~……二人ともえげつないですね」
そんなオレと雪光にユニカが軽く引いていたが、平和的に解決したんだから別にいいだろ。
こうして、ルージュの懲りない野心は明後日の方向へと向かうのであった。