転生者のNobleza Obligación   作:飛翔するシカバネ

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アーロニーロ

 

 

「いつかこの世界全てを手に入れよう」

 

そう空にアイツは手を掲げている。

 

「最底辺な俺らが?無理だろ」

 

俺は転がっている死体を漁りながら嘲笑気味に答える。

お、結構持ってんなコイツ。

 

「できるかもしれないだろ?僕らはまだ子供なんだ。欲を抱いて、これからも生きていけば」

 

「まず明日生きていられるかも分からない俺たちが?」

 

「ああ、そうだよ。いつかこの地獄から這い上がって、天さえも従えてみせるよ」

 

そう夜空に散りばめられている星を見ていた。

 

俺はアイツの地獄という言葉を聞き、地面を見た。

そこには昨日の雨でぐちょぐちょになった泥が見えた。

泥に倒れ込み、まるで沈んでいくような死体を見て、確かにこんな風には死にたくない、そんな風に思った。

 

「とりあえず明日は生きれるな。星を眺めるのもいいが、そろそろ離れるぞ。ハイエナが来る」

 

「そうだね!じゃあ、行こうか()()()

 

「ああ、()()

 

 

そうして二人して、裏路地をかけて行った。

 

 

 

 

 

とある市街。

スラム街なんてものがある特に不思議でもなんて無い街。

 

そこで俺たち二人は生きていた。

物心着く頃には親もなく、この裏の世界で生きていた。

最初は孤児院にいたらしいが、今のこの街に孤児院は無い。

孤児院跡地にはギラギラとした看板と馬鹿でかい土地を無駄にするような装飾がつけられた娼館が建っている。

スラムの入り口で表の人間もギリギリ入れる場所なんかに立っていた孤児院だ。そんな土地裏社会の人間が目をつけないわけもない。

悪人は金を貰い街から消え、善人は口を封じられ街から消えた。

 

そうしてあぶれた子供の殆どが死に、残った二人が俺たちだ。

 

アルとニール。

裏路地のガキといえば俺たちを指す。

と言っても裏路地で死んでいるやつから、金目の物を盗んでいるだけだ。

その後に来るハイエナよりはやっていることはマシだ。

 

ハイエナ達は死体を漁るだけじゃなく、死体もバラしその全てを売る。

髪も肉も爪も目玉も骨も。金になりそうなものは全てを売る。

そんな死体あらしと同じ名で呼ばれてないだけまだマシだ。

 

アルはいつかこの街を出て、世界を手に入れるなんて大言壮語を叩いている。

確かに明日の飯にも困らないように生きてはいたいが、そんな全てを手に入れる気は無い。

そんなことをしても面倒だし、支配したもののことを考えるだけで憂鬱になる。

 

それでもアルがそれを目指すっていうなら、俺はそれについて行こうとは思っている。

一人は嫌だから。生きてきてずっと隣にいるアルがいなくなるなんてことは半身の喪失に他ならない。そうなれば俺は死んでしまうことだろう。

だから俺はアルが世界を支配するなら、俺も隣でずっと一緒にいようと思っている。

 

これからもずっと一緒なんて明日生きれるかも分からないのと同じくらい分からない話だったのに。

 

 

 

 

 

人生の転機が訪れたのはそれから何年か経った時だ。

その頃には悪ガキだった俺たちは体が作られ、細身であっても腕っぷしが立ち、スラム組織の傭兵紛いのことや日銭を稼げる歳になった。

俺はこの裏社会で生きていくことを考え生きていた。

それでもアルはこの世界を支配することを掲げていた。

たとえ夢物語でも明日を生きる希望があるのであればそれもいいと思っていた。

 

その日も死体から金品を漁っていた時だった。

 

「貴方たちが裏路地の悪ガキですか?」

 

身なりの良い服を着た男が俺たちに話しかけてきた。

いくら表に存在しているとはいえ、裏路地には話しかけないのが決まりだ。

それを破って話しかけてくるなんてどうかしてる。

 

当然俺たちは警戒した。

 

しかし、そいつはとんでも無いことを言い出した。

 

「私はこの街を統治している領主様の元で執事長をしているものです。貴方たちは数年前に孤児院におり、名前をアールとニールと言いますね。貴方達をお向かいに上がりました。領主様……いえ、お父上がお呼びです」

 

目の前の身なりの良い男は自分たちを有ろうことかこの街……ひいてはここらの領地の支配者である領主が自分たちの父親だと言った。

当然疑った。

そんなバカな話ある訳も無いし、それならばなぜ今まで接触して来なかったのか。

 

しかし、それは説明された。

 

自分たちは本妻の子供ではなく、妾の子供であったと。

当主争いで殺し合うのを危惧した母は自分たちを孤児院に預けていた。

そして名前を隠して支援をしていた。

 

しかし、病により母は死去。それにより支援もなくなり、孤児院は潰れたと。

そのままであればこの話はおしまいだっただろう。

数ヶ月前にひょっこりと母の遺言状が見つかり、自分たちの子供がいることを知った。

当主はすでに決まっているために既に覆すことはできないが、明日生きれるかも分からないこの場所で放置することもできない。

自身の血を継ぐ子供を放っては置けず、いなくなった孤児院の職員を探し、そして幸運にも子供達が生きていることを知った。

それが自分たちだという。

 

自分たちのもとにくれば勉強もできる。明日の食事には困らない。自分達の願いが叶えられるかも知れない。

 

そんな言葉を吐かれた。

 

 

それでも虚言の可能性があった。

俺たちはその場は男についてはいかず、拠点へと帰った。

そして裏社会で暮らしたことで繋いだ縁や情報筋を使いあの男の素性を調べた。

すると本当に領主の執事長であり、数ヶ月前が殆ど寄らなかった領主がこの街に来ているということを知った。

目撃者や情報屋の話によると何か人探しをしているようだった。

 

そこまで自分達が調べて男の言っていた話は本当だと知った。

今更なんでという文句はある。

しかし、運命がそうした。しょうがなかったといえばそうだ。

そう思えるくらいには話は筋が通っていた。

 

調べごとを終わらせた夜に俺たち外を眺めていた。

 

「アル……お前はどうするつもりだ?」

 

「どうって……僕は信じてもいいとは思うよ。話の裏は取れた。あの人が言っていたことは本当だと思うな」

 

「じゃあ、お前は」

 

「うん。ついて行こうと思う。それに折角舞い降りたチャンスだ。勉強ができてここから出られるのなら、僕の願いである世界を手にいれることに一気に近づくしね!」

 

「そうだろうな。ずっと言ってたもんな。この世界を支配するって……」

 

「ニールはどうするの?」

 

「どうするって何が?」

 

「だって、なんか乗り気じゃ無いみたいだし」

 

「確かに情報の裏は取れたし、こっちには利益の方が多い。受けないては無いとは思う。けど、裏社会に染まり過ぎたせいか信用できねえ」

 

「確かにね。だけど、立ち振る舞いっていうの?それがNobleza Obligaciónに感じてさ」

 

「なんだそれ?」

 

「フランス語で富める者の義務だって。貴族としての流儀や恩義って意味らしいよ。僕たちみたいに余裕の無い生活とは違って余裕があるっていうか……風格があるっていうか……」

 

「Nobleza Obligación……ねぇ」

 

「だから僕は僕がNobleza Obligaciónを手に入れたい。僕が世界を手にれて、義務を果たすんだ」

 

「そうかい。そりゃ大変だな」

 

「だから見ていてよ。僕は必ず世界を手にいれる!」

 

「ああ、見ているさ。だけど見ているだけかよ?」

 

「え?」

 

「俺にも手伝わせろよ。お前の隣にいてそれを手伝って、それで世界を手に入れるのを一番近い場所で見てやるよ」

 

「うん!そうだね!!!」

 

その日は明日からは心配無くなるのもあり、腹一杯食べた。

少しは残しておいたが、これを使わずとも必ず成り上がってみせると。

そう誓い合った。

 

 

次の日に執事長に会うと体を洗われ、身なりを整えられた。

昨日までスラムに居たガキとは思えないくらいにはぴっしりとしている。

そこからは天界の生活のようだった。

 

礼儀作法やマナーを覚え、勉強をする。

食事を満足に摂り、運動をする。

細身だった肉体は健康的な肉体へと変わる。

体に活力が溢れる。

 

そうして生活しているうちに半年が経とうとしていた。

 

そんな時に領主にとってある訃報が届いた。

それは当主であった本妻の息子が王都の流行り病で倒れたというのだ。

療養のためにと領主宅に来たが、もう既に息絶えそうだった。

 

その三日後息子は死んだ。

 

 

そうして領主は跡取り息子がいなくなった。

このままでは家は消えていってしまう。

新たに子供を繕うのも領主は年齢上難しい。

 

そしてそれを聞き、俺は喜んだ。

 

息子が死ねば跡取りが消える。

そうなれば跡取りは血を注いだ俺たちのどちらかになる。

俺には領主を継ぐ気なんて無い。

アルが領主になれば、それを足がかりにして更に前に進める。

 

そう思った。

 

 

 

そうして息子が死にそれは本当になる。

まだ正式に死んだという発表はしていない。

しかし、それも時間の問題。

アルが領主になれると思っていた。

 

 

 

 

「領主はニール。お前が継げ」

 

親父に呼び出された俺たちにかけられた言葉は違っていた。

 

「は?なんでだよ。俺は頭の出来は悪いし、マナーも完璧じゃない。アルの方がピッタリだろ?」

 

「礼儀作法はまだ半年だ。死ぬ気でやれば覚えられる。元より息子も頭の良い方では無かった」

 

「それならより良い方が……」

 

「それも時間があれば解決するが、何よりも息子の配下には息子の欠けている部分を補うように配下を用意した。詰まるところ足りないのは息子の長所の部分だ。それは力だ」

 

領主の息子は筋肉質で運動ができた。

王都で挙げた功績も運動大会や決闘でついたもの。

その代わりになるにはそれができる体が必要だった。

 

そしてそれは唯一俺がアルに勝っていることだった。

元より俺はアルが危険にならないように矢面に立てるように剣として盾として入れるように体を鍛えていた。

しかし、貴族は王の剣であり盾だ。そしてこの家ではその在り方を求めてしまった。

 

それに絶句していると更に続けて、とんでも無いことを言ってきた。

 

「そしてアル。お前は貴族を辞めてもらう」

 

「なっ!?どうしてですか!」

 

「そう声を荒げるな。何もスラムに戻れとは言わん。ただ、ニールを当主に育てるには今まで以上に教育をしなければならない。その為の労力をお前に貸すわけには行かん。それに外聞も悪くなる。金は渡す。ここを出ていってもらう」

 

「そんなっ……‼︎」

 

俺たちは良くも悪くも貴族に染まった。

前よりはいいと、表に戻ったところで貴族の生活から抜け出そうとしてお金を使うなんて目に見えている。

そ啜れば結局はスラム街に……あの裏路地に逆戻りだ。

 

俺もアルも黙ってしまう。

この運命を変えられる手を俺たちは思いつかなかった。

そこへ助け舟を出すように、執事長が口を挟んだ。

 

「二人は悩んでいる様子……それならばこんなのは如何でしょうか?」

 

それは確かに助け舟だった。

 

「二人で決闘を行い、勝った方を当主に据えては?」

 

一人分の。

 

「貴族の義務として決闘にてお世継ぎを」

 

 

 

 

 

 

屋敷の閉じていた扉を開く。

そこは常日頃より閉じられており、領主と第一に仕える執事長以外は入ることを禁じられていた場所。

そこは暗がりの地下室。

 

俺たち二人に剣が与えられる。

 

「ここは我が家に伝わる決闘上だ。天の使わした試練が立ちはだかった際に使われる。これは我が家に訪れた試練だ。今ここに新しき当主を決める為に決闘を行う」

 

 

俺たちは向かい合う。

 

「ニール。こんなのダメだ。僕たちは二人で」

 

「行くぞ」

 

「え?」

 

アルの耳を掠める。

俺の突きは寸前で躱されてしまった。

 

「ニール!?」

 

「何驚いているんだ?ここにきた時点で俺たちの道は一つだろう?」

 

更に剣を振るう。

スラムで戦ってきた俺たちには攻撃に殺意があるか分かる。

何がなんでも自分が生きてやるという気概が。

 

だから俺の攻撃に殺意が込められているのも分かったろう。

 

「なんでっ!ニール!!」

 

「当然だ!俺は戻りたくない!俺は貴族でいたい!!!お前もそうだろ!!!」

 

「僕はっ……ニールと一緒なら!」

 

「戻るのは一人だ!!!」

 

剣がぶつかり合う。

親父は体格や力が俺にあると言っていた。

しかし、実際は違う。

確かに身長や体格は俺の方が良いように見える。しかし、アルは小さな体に溜め込むように力がある。

 

「はぁあっ!!!」

 

剣で壁を破壊するほどには。

俺はどちらかというと技量がある方だ。

手先も器用だし、あれくれものは首を絞めたり、関節を外したり。殺すときも血が出ず破損も少ないからハイエナ連中に死体を提供すると喜ばれた。

 

詰まるところ、結局はスラムに帰って生活できるのは俺だ。

俺は結局生活は合わなかった。

良い食事もとったが、街にあった芋を揚げただけのものが食べたくなる。

水やら何やら混ぜられたエールやワインを飲みたくなる。

決して見た目がよろしく無い女でも話が面白かったりすれば一夜を共にすることもあった。

 

それで俺は良い。

一番近くで見れなくても俺はきっと生きれる。

お前が生きてさえいれば、俺は生きられる。

今回の出来事は人生で少しだけあった贅沢として受け入れることにするさ。

だからお前は手に入れろ、アル。

 

アルの剛剣が俺の剣を飛ばす。

剣はその剛腕で天井へと突き刺さる。

そしてアルの剣が俺の喉元に当てられた。

 

「これで僕が当主だ!」

 

お互いに汗をかき、肩で息をする。

俺は元から負ける気はあった。

 

しかし、本当に決闘をした。

これは決別でも合ったから。

 

 

だけど、これで俺は貴族を辞めて、ここをで行く。

これで良い。

そう思ってこの場所から去ろうとする。

 

ダァン!!!

 

一発の聞いたことの無い音が響くまでは。

 

俺の左の大腿部に穴が空く。

 

熱を感じ、つい崩れ去る。

 

「ニール!?これはどういうことですか!!お父上!!!」

 

親父は見たこともない筒を持っている。

その先端からは白い煙が出ている。

 

「これは鉄砲というものだ。いくら力があっても体を鍛えてもこれが無意味になる世界が来る。そういう代物だ」

 

「そういうことを聞いていたのではありません!何故ニールを!この決闘に負けたものは貴族を辞めて出て行くと……こんな怪我をしては暮らすのは困難に……!!」

 

「それはだな……こういうことだ」

 

 

その瞬間暗がりだった部屋が明るくなる。

壁が黒く見えていたが、明かりが消えていただけで、ここはまるで檻のような場所だった。

 

そして檻の外には貴族の装いをした者達が大勢いた。

 

「これは……?」

 

「まだ分からんか。流石下民だな。頭の出来が違う」

 

「お父上……?」

 

「私はお前の父ではない」

 

「!?」

 

「これも長い準備期間だった。しかし本当に良い興行になったものだ!」

 

親父……いや、領主はまるで種明かしのように全てを話してくれた。

 

俺たちの親はとある奴隷だった。

奴隷を飼った領主は遊びで、スラムの人間を呼び、まぐわせて遊んでいたという。

まぐわったスラムの男は終われば殺していたらしい。

そうして人以下の存在を使っていて遊んでいたらしい。

人を呼び、金を儲け、人を殺していた。

いつしかこんなに大勢の貴族を集めた興行になった。

 

しかし、この頃マンネリが続き、次の興行をどうしようか考えていた時に次期当主である息子が、スラムにいる俺たちを使いショーをしたいと言ったらしい。

そしてそれの準備は始まった。

金を使いスラムのまとめ役や情報屋に根回しし、俺たちが調べにきたら予め言われた情報を渡す。

俺たちを引き込むストーリーを考える。

その準備を含めて1年以上使ったという。

 

そして今日集まった貴族を前に殺し合いをさせた。

一つの助け舟を求める卑しい獣としてショーにさせられた。

 

そしてしょーは未だ続いていた。

 

「ボクは次期当主です。これからは時間をかけて興行を行なっていきます。開催頻度は減りますが、今回みたいに濃密な時間を我々にもたらしましょう!」

 

息子は生きていた。

どこが肉体が大きく、武功を立てただ。

丸々太って子豚みたいだ。いや、子豚の方がまだ可愛げがある。

 

「さて、次は競りを始めましょう!見事勝利した商品名アルを巡って!」

 

そう言って執事長がハンマーを鳴らす。

檻を中心にして声が大きく上がる。

 

汚れていたとはいえ、俺たちは貴族に変われる見た目をした奴隷の血を引く、見目が美しい見た目をしていた。それが理由で尻を狙われたことも数回あった。しかし、そいつらは全員倒してきた。

当然襲われても問題はない。

 

しかし、俺は足に穴が空き、アルは放心状態だ。

 

一人の男が檻の扉を開けて入ってくる。

ブタが二足歩行で歩いているような男はアルを押し倒し、フリルのついた服が開かれる。

 

「ぐぁ!」

 

太った体躯で体を押さえつけられるアル。

いくら力があってもあの体制じゃ返せない。

両腕も執事長が抑えている。

 

 

「アルっ……」

 

俺は足を引き摺りながら、近づこうとする。

 

するとあの子豚が現れる。

そしてその手には針のような剣を持っている。

 

「フェンシングって知ってる?フランスで流行しているスポーツらしいよ。で、これはエペとか言うやつ。これでどうやって戦うかわかる?」

 

横薙ぎに俺に切りつける。しかし、撓ってしまって俺を傷つけない。

それを見て子豚は笑い、今度は突くように、肩へと向ける。

すると鋭い痛みが走る。

針のようなそれは肩を貫き、血が溢れる。

 

「こう使うんだよ。騎士のスポーツらしくてさ。実にスマートだよね。君たちみたいな無骨な剣じゃ、見たことないよね?」

 

そう言っていたぶるように体に突き刺していく。

 

なんとか急所を避けるように身を捩らせる。

その目線の先では、アルが組み敷かれていた。

豚の両腕がアルの首を絞めている。

 

「くっ苦しぃっ……く、くる……たすけ。助けて………にっ……r」

 

「アルっ!!」

 

なんとか左手を伸ばす。

しかし、天井の剣が落ちてきて、左腕を切断する。

 

「ぐあっ!!!」

 

切断面から急速に血が失われていく。

熱が温度が俺が消えそうになる。

 

 

「あ……ル」

 

「ニー……r」

 

 

俺は意識を失った。

 

次に目を覚ませばそこはまだ檻の中だった。

周りに貴族は居なくなっていて、檻の中には俺とアルしかいない。

 

俺はアルを見つけると体をなんとか引きづり、近づく。

近づくほどにその凄惨な状況が見える。

身体中に青あざがあり、首を絞めた跡。髪も切られている。

スラムの床屋の方がもっと上手く切れる。あっちは命も刈り取ろうとするから危険だが。

歯も何本か抜かれている。

口も使えるようにする娼館の処置に似ている。

 

俺は身体中に穴があるくらいで、まだ無事だ。

左腕も雑に血が止められている。

 

どうやら待ちに待った興行。

楽に殺す気はないらしい。

 

「に、ろ」

 

「アル!」

 

歯が抜かれて、上手く発音できていないが、俺の名前を読んだ。

少しづつ言葉にするが、俺はアルが何を言いたいか分かる。

幼い時から一緒のアルとは話さずとも分かるんだ。

 

「ごめんね、ニール。僕のせいだ」

 

「お前のせいじゃない。アイツらが悪い。あのブタどもが……」

 

「違う。僕が話に乗ったからだ。ずっとニールは疑ってた。僕は裏取りするまでもなく、このチャンスを逃すもんかって足掻いて、こんなことに」

 

「俺も一緒だ。俺もお前と一緒に来たんだ。お前は悪くない!」

 

「さっきも追い詰められて気づかなかった。ニールがあんなに荒々しい剣なんて振るうはず無い。毒されておかしくなったと思ったけど、本当におかしいのは僕だった。ニールは最初から負ける気だった」

 

「負ける気はあった。それでも本気でやった。お前は俺に勝ったんだ!」

 

「わかっているよ。でも、もう終わりなんだ……」

 

「終わりなんかじゃない!俺たちは這い上がれる!!!また最底辺に落ちただけ。またここから」

 

「僕は空しか見てなかった。夜空の星々は見ていたけど、それを邪魔する泥を見ていなかったんだ。泥に足を取られて頭をぶつけて……以前のようには動けない。僕の空はここのように真っ黒になってしまったんだ」

 

「それでもっ……!!俺たち二人でいれば……!!!」

 

「ダメだ。見えるんだ。死神が」

 

「死神?」

 

「黒い服を着てさ。剣を持ってる。僕らみたいな豪剣でも、さっきの細い剣とも違う。片刃で剃った剣が」

 

「おい!アル!!」

 

「僕は死ぬんだろうね。だから……僕は一緒には………」

 

「ダメだ!!!」

 

「ニール?」

 

「ダメだダメだダメだ!!アルは俺の半身だ。奪わせはしない。俺のものだ。あのブタどもにも、スラムのハイエナにも、神にさえも渡しはしない!!!」

 

「ニール」

 

「俺はお前を」

 

「覚えてる?ハイエナが仲間の死体を食べてたの」

 

「あ、ああ」

 

「僕が死んだら死体を食べてよ。ハイエナ達も言っていたろ。仲間達は売らない。その代わりに自分たちと一緒にするって……僕はここで終わりだけど、ニールには先がある。だから僕を連れて行ってよ」

 

「アル………」

 

「いいかい?」

 

「いい………ぜ。俺はお前を喰らって絶対世界を支配してやる。そん時は俺がアルって名乗ってやるよ。アルが世界を支配したってな」

 

「じゃあ、僕はそれを側で見てるからニールになろうかな?」

 

「それじゃ意味ねーだろw」

 

「そうかな?僕がニールで俺がアル。それでいいと思うよ」

 

「そうだな。それでいい。僕ら(オレら)()()()()()()だ」

 

二人の声が重なる。

Rが上手く発音出来ないアルと声を出すのに一苦労な俺は言葉の間を伸ばした。

それがどう言うわけかしっくりきた。

俺たちはアーロニーロだ。

 

 

 

 

 

 

アルが死んだ。

俺はアルを食べた。

 

食べ終わると腹が減るのを感じた。

そうか。アルはずっとこの空腹を感じていたのか。

腹が減って腹が減って仕方ない。

この世界の全てを喰らってしまいそうになる食欲。

それを感じる。

 

そうだな、アル。

 

全て手に入れよう。

金も欲しい。女も欲しい。地位も。名誉も。力も。

この世の全てが欲しい。

 

 

「強欲に行こうぜニーロ。死んでも、な?」

 

 

 

 

 

ーーー数日後ーーー

 

とある街でニュースが流れた。

それは街だけでなく、ここらの土地を統べる領主が死亡したと言うものだった。

さらに死亡したのは領主だけでなく、領主の屋敷に勤める執事長をはじめとした従者や領主の息子。それに他の貴族も数十名。

屋敷の地下では大量の血痕と痕跡から悪魔の儀式をしていたとされる。

大量の血液は残っているが、死体は一つもなく、全てなくなっている。

屋敷にあった金もなくなっていることから、強盗にあった可能性もある。

 

調査もされたが、結局事件は迷宮入りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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