転生者のNobleza Obligación 作:飛翔するシカバネ
「ここはどこだ?」
目を覚ますとそこはテントのような天井が見える。
「目を覚ましたか」
そう話しかけてくる男は目が合うと起きたことに対して良かったと思ったのかテントを出ていく。
「目ぇ覚ましたぞ!!!」
「わーい!!!」
子供が数人入ってくる。
そして俺の姿を見て喜んでいる。
俺は確か王国に続いている街を歩いていたところで腹が減って、そのまま……
「まさか腹へって倒れているとは思わなかったぜ」
「ありがとう」
「あーいいって。俺ここらで人を悪戯に助けているやつだからよ」
紫髪の男はそう笑っていた。
「そういやお前なんて名前だ?」
「名前か。俺はアーロニーロだ。苗字は無い」
「アーロニーロ?え、マジで?」
「マジが何かは知らないが、俺はアーロニーロだ。なんだ?同じ名前でもいたか?」
「いや〜聞き覚えがあっただけだ。すまんな、変な反応して。俺はケイ。よろしくな」
「よろしくはしないが」
「よろしくなるぞ。王国に行くための橋今落ちてるから」
「は?と言うか俺がなぜ王国に向かうか知っているんだ」
「ここを通るなんて王国に向かう道だろうし。それ以外でここに訪れるやつなんていねーよ。橋は嵐の影響で落ちてんよ」
王に会いたかったから首都の方に向かいたかったんだが、ここで足を取られるとはな。
「まあ短い間だが、屋根がある場所は貸してやるからよ。代わりに橋をかける手伝いしてけよ。路銀にもなるし、幾らかくれればば飯も出すぞ」
「そうだな。少しあたりを見てから良さそうなら戻ってくる」
あれから周辺の村や街を見たが、ケイの言っていた通り橋が落ちて頓挫しているようだ。
宿もほとんど満杯らしい。
泊まる金はあるが、いつ橋が直るかもわからない状況で金を浪費するのは避けた方がいいだろう。
結局のところ目の色も悪人ではないし、あのお人好しの力を借りることにした。
橋の修理の手伝いをして分かるが、橋がどれくらいで完成するのも何となくわかる。
宿にいれば時間も浪費していただけだろう。
何かを作るのは存外力もいる。
いつも奪ったりするばかりで作ることはほとんどなかったからな。
夜になれば子供や同じくケイの側で身を寄せている男たちが拠点で待っている女性たちが料理を作っている。
「アーロニーロお前めっちゃ食うな」
「腹が減っているからな。お望みとあらば、その鍋の中全部食うぞ」
「やめろや!」
スラムで悪ガキやっていた時を思い出す。
あの時は二人だけだったが、その分母が増えたようなそんな感じだ。
少し離れた場所で喧騒を眺めながらスープを飲む。
スープを飲んでいると木陰から一人の子供が見てくる。
服装から一団のメンバーのようだが……
「アーロニーロ」
「ケイ」
ケイが姿を現すと子供は木陰に隠れてしまう。
「お、ルピがここまで近づくとはな。やっぱりなんか気が合うんかな?」
「やっぱりとは?」
「ん〜何となくだよ。説明してもわからないだろうし」
よっこいせ、と隣に座る。
拠点中央ではワイワイとやっている。
「さっきの子供はルピというのか」
「ああ、ルピ・アンテノールだ」
「苗字があるのか?」
苗字があるということは孤児などではないし、普通の街で暮らせるほどの家のはずだが、ここの集まりは身寄りがなく、孤児も多い。ケイという代表が運営する孤児院のようなものであると言えるだろう。
「ああ、俺が名付けた」
どうやらケイが勝手につけたようだ。
「わざわざどうして苗字をつけるんだろう?って感じだな。ただ、ルピって名前だったから折角だしアンテノールってつけたかっただけだよ」
「意味がわからんな」
「天涯孤独にもなれば変なこと宣うやつはいっぱいいるもんよ」
「血の繋がりなどなくとも、ここにはお前の家族がいるのではないか?」
「そうだよ。ただ、俺は真の意味で天涯孤独さ」
「それも言えんか?」
「言えないさ。墓まで持っていくつもりだからな」
そう笑っていた。
失ったものに想いを馳せるかのようなそんな表情だった。
「お前さんにも苗字をつけようか?とっておきなのがあるんだがな」
「いらない。俺はアーロニーロだ。それ以上でもそれ以下でも無い」
「そうかい。それならいいさ」
そう言って夜空を見上げる。
その仕草がどこか懐かしい。
次の日も仕事だった。
しかし、そんな俺にルピがついてきた。
「良かったらでいいからさ、ルピの面倒も見てくれないか。まだ、他の奴らにもなれてなくてな。そこにアーロニーロが来て、何か感じるものがあったんだ。そこをきっかけにしてくれるよいいんだが……」
ケイの頼み事に俺は了承した。
恩義もある。
恩義には恩義で返さなければニーロに叱られるからな。
それにケイの雰囲気はどこか異質でまるでこの世界の人間では無いような感じがする。
そしてニーロにもどこか似ている。
だからか。ケイの言葉に従いたくなってくる。
不思議な感じだ。
ルピ・アンテノールは子供だ。
孤児であり自分の名前がルピとしか知らない。
そのせいで愛情表現を知らない子供だった。
俺のように半身はなく、甘える両親はなく、師事する者もなければ、守るべきものも無い。
そのせいで人への接し方がわからない。
だから遠くで離れ、まるで蔦のように木に隠れながら、見てくる。
近くによれば姿を隠し、どこかで虫や小動物を痛めつけているのだろう。
人間という大きな存在による圧倒的な力の前に虫や小動物は抵抗できない。
その力を前にただ破壊され、死にゆくだけ。
そしてルピは破壊でしか愛を示せない。
そんなルピがアーロニーロに近寄ったのは強さゆえだった。
アーロニーロは強い。
破壊を行なっても、壊れないくらいには。
どうしてそうなのかは分からない。
けれど、正面から壊そうとすれば流されたり、効かなかったり。
隙を伺えば気づかれたり、隙がなかったりする。
そこからルピは手加減を覚えた。
ルピはアーロニーロが関わり、そして破壊せずともどうすればいいかを覚える。
そしてその頃には橋は完成していた。
「明日には通常運行だ。そうしたらお前もようやく首都に行けるな」
「世話になった」
「いいさ、こっちも楽しかったし、ルピも元気になったからな」
そう言ってケイはルピの方を見る。
「いってえ!なにすんだよ!ルピ」
「ア、ごめーん。手が滑っちゃった〜」
「まあ、少々生意気にもなったが……」
ケイは視線を戻す。
それに対して俺は少し視線を逸らす。
「俺のせいじゃない。あれは元来の性格だろう」
「だろうな。まあ憎さ余って愛しさ100倍だ。あれくらいなら問題に越したことはないさ」
「他の者もそこまで怒ってはいないからな。わかってはいるんだろう」
「そうだな。そしてありがとうな。世話になったぜ。お前も世話になったんだろうが、俺も色々と世話になった。ちょっと楽しかったからな」
「それはよかった。では、俺は明日にはここを去る」
「ああ、今日はゆっくり休んでいけ」
燃えている。
破壊され、崩れ、終わっている。
橋はボロボロになっている。
拠点は燃やされている。
橋の近くで休んでいる俺とケイ、そしてルピ以外は皆死んだ。
橋で落ち、人に殺され、燃え死んだ。
嵐はまた訪れた。
橋は崩れることはなかったが、また崩れることを恐れた。
だから人は生贄を募った。
橋を作る上で人柱を作り、嵐を鎮め、神に許しを乞うのだ。
また神だ。
神は何もせず、神を慕う馬鹿どもは勝手な行動で泥に塗れる。
全く度し難いものだ。
当然そんなものに村の人間は生贄を出さない。
首都に向かう者から出すわけにはいかない。
そうなればあぶれた者たちを使うのは定めと言えた。
「全くすまないな。まさかこんなことになるとはな。あんたも巻き込むことになるとはな」
「ルピが殺されそうになったのを救っただけだ」
「それがだよ。お前は旅人だ。ワンチャン狙われない可能性もあるだろう?」
「アイツらがそんな頭が正常には思えなかったがな」
ケイは仲間に、ルピは俺と一緒にいたお陰で逃げ延びることができた。
しかし、まだ追っ手がいる。
かなりの人間が死んでいるのに川の神はまだ死体を望んでいるらしい。
「ここを抜ければもう追いつけない。後は……っはぁ、大丈夫だろう」
追手の矢で左目を撃ち抜かれたケイは平衡感覚を失い、辺りにぶつかりながら逃げてきた。
子供で足が遅いルピを背負ってなければ、もっと遠くに逃げられただろう。
だからこそ追いつかれた。
追手の男たちは返り血だけでなく、自分達も出血している。
それは襲われた者たちの反抗もあったという証だった。
みな死にたくなかったのだろう。
自分一人だけなら殺して逃げられるだろう。
それにおっては拠点にいたものを狙っているのなら旅人の俺は見逃されるかもしれない。
「こっちは安い金で橋を直したってのにこんな仕打ちはないんじゃないか?」
ケイが追手に話しかける。
「うるさい!橋が壊れるかも知れない。なら原因である川の神を鎮めないといけない!」
「作ったものはまた壊れるさ。破壊と再生は輪のように繋がっている。また直せばいい」
「また橋が壊れればここ以外に橋が作られれば流通が止まって村は終わりだ!」
「そのためにあの橋はかなり頑丈に作ったんだけどな」
「あんなもの頑丈なわけあるか!結ばれてもいない。前回の橋も石でできていたのに壊れた!今度の石と木を組み合わせたところで結果は同じだ!」
「一応あんなんでも未来の技術だから壊れにくいんだけどな……」
「後二人だ。後二人で予言の人数になる。そうすれば川の神は静まる!!!」
「もう嵐が起きても氾濫しないように整備もした。神とかいないものに縋っても、お前らがやったことは許されないぜ」
橋を直している時に聞いた話だ。
以前村の人が首都を守る兵隊を生きるために殺し、死体を川に流した。
そしてそれから数ヶ月後に嵐が起き、人が多く死に、橋は崩れたという。
騎士は貴族が多い。
そして貴族や王族はまるで自分隊よりも上位種族として扱われることもある。
それこそ神の眷属を殺し、川に捨てたともなれば川の神も怒るだろう、と。
ケイに言わせれば地位が誓うだけで同じ人間と言っていた。
場所が場所なら不敬罪で首を刎ねられるだろう。
「うるさい!おい!そこの旅人!」
「なんだ」
「お前は生贄じゃない。だから殺さない。ケイとガキを捕まえるのに協力すればそのまま行っていい」
全くふざけたことを抜かすな。
誰がお前らみたいな泥のいうことを聞くか。
「Nobleza Obligación」
「は?」
「俺は俺自身の義務を果たす。お前らのような泥に渡す物はない」
「おい、こいつも殺せ!」
追手がこちらに来ようとする。
応戦しようとする俺をケイは手で制した。
「ありがとなアーロニーロ。お陰で覚悟が決まったわ」
そういうと今まで笑っていた顔から感情を無くしてしまったかのような表情になる。
「これはあくまでアイツらにいうことだ。あんまり強い言葉を吐きたくないからさ、耳塞いでいてくれ」
ルピは耳を塞ぐ。
俺もそれに合わせて耳を塞いだ。
そして追手へと向き直り、口を開いた。
『〇〇』
何か言葉を吐いた。
耳を塞いでいた俺たちには聞こえなかった。
しかし、二文字。音が聞こえた。
『死ね』
それがどこの国の言葉かは分からない。しかし、聞いたことはなくとも頭に理解させられる。
そしてそれを聞いた追手たちは目玉がグルンと周り、白目を剥き、倒れた。
「これで生け贄には足りんだろ。バーカ」
そういとケイはその場に倒れんでしまう。
俺は耳を塞いでいた手を取り、駆け寄る。
見れば口から大量に出血している。
「はあ〜久しぶりに使ったが、言霊は便利だな。便利な分威力十分。喉がキツイぜ」
この目は見たことがある。
人が死ぬ目だ。
もうすぐ命の灯火は消える。消えていなくなる。
これを助ける手を俺は知らない。
ルピは腕を握り締め、呼び止める。
それでも温度は急速になくなっていく。
「これはさ、霊王の口っていうんだよ。唇と舌と歯三つ合わさってるからな。カケラでも強いのに一部位あるとかなり強い。そりゃ言葉を聞くだけで死ぬくらいにはな。でも俺は完現術師でもないし、特別な血とか、特殊な出自でもないわけだ。それに強い願望も無いから虚にもなれないと思うんだわ」
「何を言ってるんだ、ケイ!」
ルピが叫ぶ。
もうどうしよもない。
それは破壊によって愛を伝えたルピもまた知っていること。
「分からねーよな。ここが墓場だし、ルピとアーロニーロに伝えとくとだな。俺はいわゆる未来か別世界から来たんだよ。それに特殊な力を持って。この先に訪れる未来を知ってさ」
「未来がわかるなら今自分が助かる道を言え!俺がなんとかする!」
どうにもならない。それでも叫ぶ。
神がいるなら助けてくれと願うように。
「疑わずに信じてくれてありがとよ。でも、無理だ。俺が知ってるのはまだ先だから関係ないさ。それに霊王の口のお陰でまだ暫くは生きてるさ」
「お前は何を残したい?」
俺は尋ねた。
何かを残そうとするケイに少しでも時間を渡せるように。
「ああ、そうだな。とりあえずお前ら二人は死ぬまでは生きてほしいな。俺が死んだからって死んでほしくないし、まだ生きていてほしい」
「他には?」
「あとはそうだな。俺が死んだら俺を食ってくれないか?これはルピじゃなくてアーロニーロだな」
ケイを食べろ。
それを聞き心臓が跳ねる。
俺は人を食べている。
ニーロだけではない。阿野ブタどもも食べた。
一緒に俺が覇者になるところを見せなければならない。
それにしたいなど残して万が一蘇っても面倒だ。
きっと地獄に落ちるんだろうが地獄にも勿論天国にも行かせない。
俺と一緒に生きてもらうと。
だが、それを申し出るまでもなく、ケイは自身を差し出した。
「なぜだ」
「俺ってさケイ卿が好きでさ、円卓の騎士の。転生したからケイ卿になろうと思ってたんだけどさどうにもうまく行かなくて結局こんなところまで……」
「それは長くなるか?」
「は、ごめんな。関係なかったわ。話は戻すけど、俺は自分がここに必要な理由を求めてた。それが今だと思うんだよ。お前が俺を食えばお前がほしいものの手に入れ方がきっと分かるからな」
「ほしいものの手に入れ方?」
俺の欲しいもの……
俺は世界が欲しい。
その手に入れ方?
「ああ、お前の
「……………残したいものを聞いたはずが置き土産と旅路を祈られてしまったな」
「ああ、そうだな。あとはルピを程々に見てくれればいいや。ルピも体は子供だけど、きっと大丈夫だろうから」
「そうだな。なら、一つお前を喰らう条件を出す」
「なんだよ?今なら出血大サービスで全部くれてやるよ」
「苗字をくれ」
「!!」
「俺はお前からもらった名前を持ってお前を喰らう。それで世界を生きよう。そうすれば有象無象とは違い、自分の名前を名乗るたびに思い出せる。俺がケイであることを」
「そーかい。そりゃいいな。じゃあ、お前にとっておきの名をつけてやるよ」
息を吸い込み言葉にする。
それはストンと自分の体に収まる。
それほどまでにしっくりくる名前だった。
『アルルエリ。アーロニーロ・アルルエリ』
「それがお前の名だ。意味は無いさ。ただ響きがいいからな」
「そうか。では俺はこれからアーロニーロ・アルルエリと名乗ろう」
「それじゃもうそろそろお別れだ。ちゃんといただきますって言えよ。神じゃなくて俺に」
「ああ」
「ルピも達者でな。お前にも名を預けた。俺はいなくとも俺の心はお前に預けた。だから笑っていけるんだ」
ケイは最後まで笑っていた。
力をもつものとしての義務としてその力を存分に使い、義務を果たした。
「見よ、俺だ。どこまでも誇り高く……」
力を持つものとして誇りを持っていた。
ーーー数十年後ーーー
この村にはとある橋が架けられている。
それは当時の技術では考えられないほどに精密に作られており、数十年経った今でも崩れることはないという。
しかし、当時はその奇抜な技術からまた橋が壊れると危惧され、川の神に捧げるための生贄に橋を建てた者達を捧げようとしたらしい。
だが、当の本人は逃げてしまい。結局生贄の儀式は失敗したらしい。
その怒りに触れたのか。それとも災害か。
村は数日後の嵐により、鉄砲水で村は亡くなったという。
それはまるで無数の蔦が絡まるように村を覆い、破壊の限りを尽くしたらしい。
そして村の住人の死体は今でも見つかっていない。
泥に埋もれて村の跡地に埋まっているのか。
それとも神に喰われたのか。
それは不明のままだ。