転生者のNobleza Obligación 作:飛翔するシカバネ
現世や尸魂界には昼夜が存在するというのに、虚圏には夜しか存在しない。
それはマイナスの世界からか、虚という進化の無い霊体だからか。
一応だが、月は存在している。
しかし、月であるならば一体何を反射しているのだろうか?
現世は太陽を。尸魂界が丸いかどうかは知らないが、同様なら太陽を反射しているのか?
夜しかない虚圏に太陽を冠する何かがあるのか?それとも虚圏の裏側とも呼べる場所に太陽があるのか?
他の虚にも出会わずに、藍染惣右介に付き従い進んでいるとそんなことを考えてしまう。
自分たちだけで虚圏を巡っている時も自分たちだけで考察することもあるが、未だ答えは出ていない。
そういえば虚圏の空といえば、太陽では無いが、太陽と呼んで遜色ないほどに虚圏を冠する方がいたことを思い出す。
一度出会い謁見した際には現世ではついぞ見ることができなかった王の風格を目にすることができ、僕は感動を覚えたものだった。
また機会があればお会いしに戻ろうと思っていたが、こんなにも早く……そしてこのような形で会いに行くことになるとはケイの記憶がなければ想いにもよらなかっただろう。
この虚圏の空全てが、砂しかない大地が自身の領土と言った彼の方の。
未だ遠いが、以前はなかった景色が遠くに見える。
遠くからでも確認できていた、神殿と玉座。それは今は見えない。
代わりに無機質な壁が作られている。その大きさは以前よりもはるかに大きい。
「見えるかい。あれが私の城……虚夜宮だよ」
中に入れば青空が見える。
久方に見たそれは些か眩しい。
夜に見慣れたせいか、死する前から裏側にいた精神からか。表のように光る擬似的な太陽は肌をチリチリと焼き付ける。
ボロ切れと言って遜色ない布を深く被り直す。
「眩しいかい?」
「太陽を見るのは久しぶりなもんで……少し能力が制限されますけど、問題は無いっすな。これでも最上級大虚なもんで」
「そうか」
しかし、見れば見るほど異様な景色だ。
夜しかなく、存在するだけでいずれ風化する建物がしっかりと形をなしている。
太陽も本当にギラギラしている。
これ天気が自由に変えられて曇りとかになるんだろうか?
「なんや、アーロニーロはん口調が安定せんな〜」
「あとで改めて自分たちの能力は伝えるけど、僕らは複数の自我が中にいるからね」
「へー。それはけったいやな。何人おるか知らんけど、よろしゅうな」
「一応自我として強い個体は3人だね」
「誰がアーロでニーロでアルルエリなん?」
「アーロニーロ・アルルエリはユニット名では無いんだがな。強いて言えば俺がアーロ。僕がニーロ。で、俺がケイ」
「ケイ?」
「おう。ケイ。俺はアーロニーロ・アルルエリだけど、ケイでもあるんだわ。あくまで二人の世界ってことで」
「な、なんやろね。凄くややこいわ」
「まあ、慣れてくれや。キャラ付けじゃ無いけど、結構口調とかには気をつけてるからな〜あと首絞めてごめんな」
「ええよ〜こっちも殺気ぶつけてもうたし〜」
「そう言ってもらえると助かります」
市丸ギンとも一応は良好な関係を気づけただろうか?
何年もこの糸目の笑顔でキャラクターを演じ続けた彼にはこの付き合いも儚き幻想のようなものだが、それでも表向きは良好であれば、彼からの疑いも減るだろう。
「談笑はそれくらいでいいかな?」
「あ、すんまへん、藍染隊長」
「これは失礼しました」
「ではもう少し奥へ行こう。そこなら光もない。君の力を見せてくれるかい?」
ケイの記憶ではアーロニーロはギリアンで未完成の崩玉で破面化した。
その能力で中級大虚級ほどの霊力はあったが、それでも他の十刃に比べ最弱とも呼べるだろう。
しかし、自分たちは違う。藍染惣右介に出会う前からこの虚圏の地にて力をつけている。
きっとそれは死んでから積極的に食らえたか否か。
ケイの力で生前から食うことに関しては余念がなかったが、それは虚になっても同様だった。メノス時代をどう過ごしたのかは知らないが、早々にギリアン、アジューカスになり、同胞を喰らい続け、ヴァストローデになった自分たちは自らの力で破面へとなった。
ボロ布を脱ぎ、一糸纏わぬ裸体を晒す。
両の手を開くとニコリと笑い、舌なめずりをする両口が手のひらに見える。
右太ももに開いた孔以外に傷らしい傷は無い。
それは虚圏で本来最上級大虚になるために必要な戦いで体に残るほどの傷を負ったことのない証明となる。
そして顔に残る仮面の名残とも言える部分は目玉にあった。
目の周りでも眼鏡や眼帯のような装飾品のように残るのではなく、眼球に名残りを残している。
目玉が白骨化したような異様な目玉。
月の光や太陽の光の中では紫色に見えていたその瞳は半透明の頭蓋のように紫色の液体を中に封じ込めた異様な眼球。
麻雀で言うところの一筒を目にしたかのような異質さ。
本当にそれは見えているのか疑いたくなる。
それ以外は人間としか言えない姿をしていた。
「その口は?」
「顔の口はケイのものだ。右手が俺の。左手が僕の口ですね。と言っても基本的には顔の口で喋るので大差は無いですよ」
「他の虚よりも多く食べれる口があると言うことだね。正しく強欲と言えるだろう」
「はい。これのおかげで僕は実に67310もの虚、11216の整の魂魄、1869の生者を喰らってきました。そして僕は喰らった霊力をそのまま蓄積できます」
「と、するとアーロニーロ、君は喰らった者の霊圧をそのまま得ることができるのかい?」
「霊圧だけだはありません。霊圧と能力です」
その小束にわずかながら藍染惣右介の眉が動く。
「能力とはどのくらいの範囲だね?」
「現状は能力に相当するのは虚しかいないので検証のしようがないですが、虚の持つ固有の能力を使用できます。それに加え体の持つ能力……つまるところ技術や身体に記憶されている情報を知ることができます。進化とは言えませんが、ほぼ無限に霊圧を蓄積でき、その絶対量が増えていきます。能力の使用も本質的には再現です。技の再現、記憶の再現、そして……」
右手で顔を隠す。
そして顔を通り過ぎるような仕草を取る。
通り過ぎると先ほどまでの顔ではなく、全くの別人の顔になっている。
身体も最初は変わっていなかったが、気がつけば身長が少し高くなり、ガタイも良くなっている。
顔に意識を向けらせられたその瞬間に完全に別人になっていた。
黒髪黒目の東洋人のようなその姿は自分たちからすればケイの姿なのだが、藍染惣右介らからすれば見たこともない別人でしかない。
更には名残の眼球も普通の目に戻っている。
霊圧もまるで普通の人間。
虚圏に迷い込んでしまった哀れな人間であると言われれば信じてしまう見た目をしていた。
「当然蓄積している本体は変わりませんし、今は見た目と霊圧を再現したに過ぎません。なのでこうすると……」
両手を一度閉じ開くとそこには先ほどの両口が現れ、指を鳴らせば先ほども感じていた最上級大虚の霊圧へと戻る。
「素晴らしい能力を持っているね」
「ありがとうございます」
「では最後に刀剣解放を見せてくれ。勿論霊圧も今出せる最大出力で構わない」
「藍染隊長、何言うてますの?」
市丸ギンが不思議そうに尋ねる。
誰だってそう思うだろう。
先ほど出した霊圧が最大出力で、刀剣解放すれば元の霊圧に戻る。
至って普通の考え。
藍染惣右介がずば抜けて思考が何歩も先にいっているだけだ。
「アーロニーロ。君は実に80395の魂魄を食している。その膨大な数の霊圧があの程度では決してないだろう?」
まるで単純な足し算のように答えられる。
ご明察の通りあの程度ではない。
しかし、馬鹿正直にそれを答えても何もメリットがないと思っただけだ。
勿論言われたら、出す気はあったが、藍染惣右介以外にもこの外壁じゃ伝わるな、と思っただけだ。
指示に従い刀剣解放を行う。
「食い尽くせ『
「さて、君の実力は分かった。君には雑用虚に頼んで服を作らせる。それを着たら任務に行ってもらうよ」
「1つだけ私用していいですか?」
「貴様!藍染様に無礼だぞ!!!」
帰刃した後に東仙要が合流した。
その口元にはまだ、シュノーケルのようなものはつけておらず、また席官の服装もしていない。
「いいんだ、要」
「ですがっ……」
「彼は力を示したからね。少しくらいの自由は許そう。それで何かな?」
「正装に着替えましたら、陛下にお会いしたいのですよ。この場所の主人が変わったとて、以前お会いした時に訪れた際は顔を出すように行っておりましたので……」
「それくらいだったら構わないさ。それが終わり次第君には新たな同胞のスカウトに向かって欲しい」
「承知しました。寛大な処置誠に感謝いたします」
そう言葉を言い残し、アーロニーロは部屋を後にした。
「いや〜ヒヤヒヤしたわー」
「ギン、どうかしたか?」
「東仙さんは知らんけど、さっきの破面が帰刃したんやけど、ドッキりしたわ〜」
「そうだね。私も虚圏に来て初めての感覚だったよ。彼が会いに行く者を遥かに超える……」
「藍染様……それほどまでに……」
「彼は多くを喰らうためにその力を抑え、自身を生き餌にしているようだね。あの時大人しくこちらに従ったから良いものだが、本気の戦闘になったら、尸魂界へ大怪我の理由を考えねばならないところだった」
「勘弁してくださいわ。そんなん横でやられたら僕一瞬で死んでしまいますわ」
「それは良い拾い物になりましたな」
「全く良い拾い物になりそうだよ……」
次回 バラガン