転生者のNobleza Obligación   作:飛翔するシカバネ

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ザエルアポロ

 

 

「わがった。じだがうっオレはアンタの配下になるっ!」

 

「僕ではなく、藍染様のだけれど……まあ、いいか」

 

顔をパンパンに腫らした破面が涙目ながら、そう答える。

自分たちの周りにはギャラリーのように最下級大虚がいる。

 

俺が藍染惣右介より与えられた任務は野良虚のスカウトだ。

 

バラガンの支配地区以外の無所属のコロニーを巡っている。

当然霊圧バンバン放って向かっているために霊圧に押されて配下になるのもいるが、殆どはこちらに向かってくる。

それを殺さずにボコボコにしていく。

 

虚夜宮の方向を教え、幾らかの食事を渡すと見送り次のコロニーに行く。

わざわざ全部は見てられない。

スカウトで強いのとは言われたが、数も必要かととりあえず全部向かわせている。

庇護下に入っている虚もバラガン陛下に任せればなんとかなるだろうし。

 

「おや、ここにいたモルモットは君が殺したのかな?」

 

次のコロニーの場所を確認していると声をかけられる。

不意打ちを仕掛けずに対話を試みようとするのは強い。

そんな手を取らずとも強いのが確約しているからだ。

 

「あ」

 

「おや、僕を知っているのかな?」

 

振り返って顔を確認するとピンクの髪に仮面の名残か眼鏡と王冠をつけた破面がいた。

ケイの記憶にある破面ザエルアポロ・グランツに酷似している。

 

「いや、勘違いでした。そして最初の質問ですが、殺したのではなく捕虜にしてこちらの拠点に向かわせました」

 

「それは困る。一つ前のコロニーは全部使ってしまったんだ。こうなれば……」

 

そう次の言葉を紡ぐ間もなく、刀で切り掛かってくる。

 

「君を持ち帰って使うしかないね!」

 

こちらも刀でかち合うが、一撃の威力で刀にヒビがはいる。

 

「おや、柔らかいね?さっきので消耗したのかな?」

 

ちゃっかりさっきの戦いもしっかり見えてやがる。

確かにさっきの破面の能力ひたすら硬いとかそういのだったから、適当に刀ガンガンしたら一瞬で摩耗したんだよな。

アーロは手加減下手だし、ニーロは上手いけど戦闘そのものをあまり好まないし。

戦闘経験が少ない俺がやるのは分かる。

 

いや、少ないって言っても1000人斬りくらいはしてるぞ。

他二人のスコアがおかしいだけだからな。

 

しかし、どうするかな?

 

考えながら攻撃を捌く。

一歩間違えれば受け流しきれずに刀が大破する。

 

というか、した。

 

「これで君の刀は無くなった!次はどうするっ……!?」

 

刀身が砕かれたので、刀を捨て、左手の口から柄を出す。

出てきた柄を右手で掴み引き抜く。

 

赤紫色の涎がついているが、新品の刀を取り出したのを見て、ザエルアポロは驚く。

 

「今回の二等級ってとこか?」

 

取り出した刀を振り、ザエルアポロの刀と打ち合う。

先ほどと同じく雑に打ち合ったが、今回はヒビが入らなかった。

 

 

「君の能力はその手の口から刀を出すことか。そして刀の硬さや出来栄えは自由に選べない……ってとこかな?」

 

一回打ち合っただけなのによく分かるな。

普通に死んで、死神になれば未来ある良いマッドサイエンティストになったものを。

 

「良いマッドサイエンティストって何さ」

 

「なんだい?」

 

「いや、こっちの話。後考察は半分正解」

 

「残りの半分をぜひ教えていただきたいものだね」

 

「自分で当てな、研究者?」

 

「それもそうだ!」

 

 

右手で刀を振るいかち合う。

戦闘をして分かるがかなり強い。

 

アニメで見た感じはザエルアポロは非戦闘員側で戦えるシーンは一切無かったような気がしたが、これほどまで強いとは。

さすがまだ分離してないだけはある。

 

ザエルアポロには死した際に自身の状況を正しく理解し、周りにいた兄であるイールフォルト・グランツを喰らった。その後は自分が死んだ原因となった虚を喰らい力をつけ、虚圏に来たとされる。

そして現在その身体には軍人として戦闘をした記憶であるイールフォルトの記憶がある。

現在の状況を理解し、最適のバトルメイクを行う。

 

中の二人を思うと既視感がある。

 

違うのはイールフォルトは分離するまでは意識はないのだろう。

今のザエルアポロにその気配はあまり感じない。

戦いが拮抗し、終結がつかないほどに感情が昂っている。

 

戦争での経験かアドレナリンが出ているのか、全体的に能力が上がる毎に攻撃に粗雑さが見れる。

確かにこれでは分離するのが解るな。

 

ヤミー・リヤルゴのようにどこまでも強くなるようなポテンシャルを持っているのだろうが、ザエルアポロの求めるものの邪魔にはなるのだろう。

 

だからか、こういう攻撃をすれば結構食らう。

 

右手で振るった刀が競り合う時に左手を開く。

そしてそこにある口から今度は刀身が出てくる。

それはザエルアポロの頬を少し抉る。

 

刀を体を沿うようにしてよけ、距離を取る。

 

口を下に向け、刀身を出し切ると柄を掴み二刀流になる。

 

「2本同時に出せるとはね」

 

「先入観は真っ先に捨てなよ。新しい何かを生み出すには構造を疑い、破壊することにあるんだぜ」

 

「ご忠告痛みいるよ。さて、先ほどから片手で振るっていた君が二刀になれば単純にとっても手数が倍このままでは無理かな。全く、なるべく無傷で捉えたかったが仕方ない………突き砕け『蒼角王子(デルトロ)』」

 

その瞬間に霊圧が跳ね上がる。

それに合わせ、砂埃が舞う。

霊圧の色もどこか戦闘色が混じり合ったかのように感じる。

 

 

砂埃が静まると王冠のようなものが天へと向かうツノのようになり、全体的に骨の鎧を纏ったような姿になった。

その手には牛の頭蓋骨のようなハンマーが握られている。

 

「四肢を潰して持ち帰らせてもらうよ」

 

「…………」

 

「なんだその目は?」

 

「いや……まあ…………」

 

きっと今のザエルアポロは戦闘用に切り替えたのだろう。

これは考察だが、結構ザエルアポロの中でイールフォルトの存在が強いのだろう。

原作ではカス呼ばわりしていたが、生前から実験体を用意してくれて、その目とお互いに肉体を細かくするということに兄弟の絆があったのだろう。

俺を相手にするならどれも決して勝ち残ることはできないだろう。

 

しかし、それでも考えて動けばより多くのデータと考察ができる。

それが研究者としてのザエルアポロに最もあっている戦いだ。

だからこそそれは悪手だった。

 

 

「二人とも先帰ってていいわ。俺がこいつ連れて帰るから」

 

二人という言葉に明らかに周りを警戒するザエルアポロ。

原作のこいつは自分や自分以上に頭の良いものに出会えなかった。

藍染惣右介は確かに頭が良いのだろう。

それでも藍染惣右介は研究者じゃない。

 

だからこそ自分の能力で全てが図れると勘違いし、完璧を作ったのだろう。

最も嫌悪すべきそれを。

 

いずれ分離することを思いつくであろう。

そして終わりがない完璧を作ることに成功するのだろう。

しかし、先がない虚である俺たちでは終わりを消したところで完璧にはど遠い。

それを自覚できず、今いる場所が完璧だと思い込んだ。今いる壁が世界の果てだと思った。

 

それが原作のザエルアポロだ。

 

 

「ケイ。この程度なら俺が一撃で終わらせられるが?」

 

「ケイ。生きてとらえるにしても僕がやればいい」

 

二人は合理的かつ迅速な提案を出してくれる。

しかし。

 

「アーロニーロが世界を手に入れたいと願うのと同じように俺にも願いがある。それは終わるしかない筈のモノの先を見ること。あの場所で終わる筈だった俺を先へと導いたお前らに。お前らの道にも先があることを示す義務が俺にはある。それは二人に生かされた者としての義務だ」

 

そう宣言する。

すると両手の口がどろりと手から剥がれていく。

そして口を起点として二人の破面が出来上がる。

 

「俺は別方向から帰るぞ。ケイが最上級大虚を連れて帰るなら、俺も最上級大虚を連れて帰らないといけないからな」

 

「僕もアーロとは別方向で帰るよ。ケイの誇りは優先したいからね。僕も最上級大虚を連れて帰れるようにするよ」

 

「二人ともありがとな」

 

二人はそれだけ言い離れていった。

そしてそれを見ていたザエルアポロは片手を眼鏡に当てがい、何かブツブツ呟きながら考察をしている。

 

「どうする?よければ待つぜ」

 

話しかけると呟くのをやめて、こちらに向き直る。

 

「いらないよ。それを考えるのも君を捉えてからで良さそうだ」

 

「だろうな」

 

その返答を皮切りに俺とザエルアポロの姿が一瞬掻き消える。

そして次に姿が現れれば振り下ろされたハンマーを二刀で受けているケイの姿があった。

 

「提案があるんだが」

 

「なんだい?」

 

「もしもお前が勝ったらお前の研究に前向きに協力するぜ」

 

「実験体にそんなことを言われてもね?」

 

「反抗する実験体しかやったことないだろうから、そんな感想が出るんだろうがな。前向きなモルモットは面白い結果を生み出す時もあるんだぜ」

 

「例えば?」

 

「強い感情を元に存在する俺たちが良い例だろ」

 

「確かに。して、君は君が勝利した時に何を望む?さっきの口ぶりから君は何かを欲しているように見えたけど」

 

「ああ、俺が勝ったら俺の友達になってもらう」

 

「………何を言ってるんだい?」

 

「アンダーテール見たいとか思った?それともふざけているとでも?俺はこれっぽちもふざけてないさ」

 

ケイの言葉に力の込め方が変わったのか力任せに刀を振り抜き、ハンマーを押し返す。

その衝撃で刀身はバラバラになってしまう。

 

 

「結構良い友達になれると思うぜ。お前の狂気と俺の欲望結構似てるしさ」

 

「世間一般的な友達ができたことは無いが、これほど出会いが最悪なのは中々ないとは思うがね」

 

「お互いに戦う理由を持って出会えたんだ。これほど上等な出会いもないだろ。それに……」

 

「?」

 

「俺はお前の夢を笑わない」

 

「………」

 

「今までのままなら、結局何も進まない。先がないことは停滞どころか退化だ。俺の欲望にお前が必要で、お前の狂気()に俺は隣で着いて行ける。………()()()()()()()()()

 

 

その質問にザエルアポロは答える。

 

「僕の夢は完璧な生命へと至ること」

 

「それだけか?」

 

「それだけとは?」

 

「完璧に到達したら終わりか?そこでお前の完璧は終わりを迎えるのか?お前が真に狂気に、夢に生命を捧げる理由はなんだ!!!」

 

「僕は完璧な生命になり、僕は神の如き存在になる」

 

「それだけか?神になったら終わりか?」

 

「終わりじゃない………僕は神になり、好きに生命を弄り、好きに解き明かし、好きに作る!!」

 

「良いじゃねえか!好きにしようぜ!そして好きに生きようぜ!!!」

 

 

深い深呼吸をするザエルアポロ。

強い感情で生まれた虚は真の願いがある。

それは未練とも言える。

そしてそれを思い出し、果たせれば成仏もできるかもしれない。

 

結局のところ破面であるザエルアポロは成仏はできない。

しかし、何か作為的な何かが自身の運命を操作するかのように凝り固められていた錠前を目の前の男に無理やり破壊されたかのような感覚。

 

そしてそれをした当人は笑顔になっている。

 

「確かに君とは良い友人になれそうだ」

 

「だろ!じゃあ、再開するか」

 

「このまま君とは友人になっても良いけど?君なら友人の僕の頼みならモルモットにもなってくれそうだしね」

 

「それはそれだろ。戦いで出会ったんだ。虚らしくな。なら、きちんと終わらせないとスッキリしないだろ?完璧を目指すよりまず終わらせろっていうだろ」

 

「知らないが確かにそうだ。僕としたことが冷静さを欠いていたね」

 

「いいさ。自分らしさを出すのが一番さ」

 

「自分らしさ、か………」

 

ザエルアポロは刀剣解放を解除する。

そして自身の体を刀で切り裂く。

 

「ぐっ………ぐぐぐぅ……」

 

そして体の中から何かを引き摺り出し、それと自分を繋いでいる管のようなものを切り離す。

すると光が巻き起こり、そこには二人の人物が現れる。

 

一人は無傷で砂に転がる金髪の男。

見たことがある。

件のイールフォルト・グランツだ。

 

「さっきの君たちは複数が中にいたんだ。君らの能力は口から得たものの能力を得る。あくまで刀を作る能力と分離する能力は別だ」

 

身体から血が溢れるザエルアポロは怪我を負いながらも冷静に分析する。

 

「いつもより頭が冴える。なるほど。愚物を体内に入れて脳の容量を圧迫していたのか。通りでスペックが悪いわけだ」

 

「そうだな。あと言葉足らずではあるけど考察は大体正解」

 

「詰まるところ僕はメモリの無駄遣いをしていたわけだね。さっきの君にあんな顔をされても仕方ないな……」

 

「俺は能力で分離したけどさ、お前は良かったのか?こういうのきちんと切り離したほうが………」

 

「当然だろ。しかし、僕は君のいう通りだと思ったからそうしただけだよ」

 

「俺の?」

 

「ああ。僕は僕らしくあるためにカスが邪魔だ。そう思ったら一刻も早く身体から切り離したくなってね。それに君の友達になるんだ。それはこれが入っている僕じゃない」

 

「ああ、そうだな」

 

「今度こそ僕は僕らしさを曝け出す」

 

 

刀を抜く。

先ほどの刀よりもどこかドロドロと毒々しい。

 

それを口に飲み込むように当てる。

やはりザエルアポロはどこか俺たちに似ている。

 

刃をまるで舐め、包み、飲み込むようにして芯の姿を見せるその言葉を放つ。

 

「啜れ『邪淫妃(フォルニカラス)』」

 

霊圧がまた変化する。

先ほどの戦闘用のものではなく、陰険な雰囲気を放って。

首から下が触手に覆われてドレスのような服に変化し、背中に四本の羽が生える。

眼鏡が飾りに変化し、道化師のメイクのような仮面紋が顔に現れた。

 

「これが真の僕だ」

 

「美しいな」

 

「君は本当に変わっているね」

 

「純粋な狂気には美しさが宿る。兵器にしても科学にしても。そしてその姿は真の姿であり誇りだ」

 

「じゃあ、始めようか」

 

「ああ、生憎俺の姿は見せられないが、お前に対する思いは真摯に対応させてもらうぜ」

 

羽を大きく広げ、動かずにこちらに向き直る。

それに対して両手を手刀のように構える。

 

 

「僕はザエルアポロ・グランツだ。どうか末長くよろしく………」

 

「虚夜宮所属アーロニーロ・アルルエリの従属官(フラシオン)。ケイだ」

 

 

 

地面を蹴り、向かっていく。

その手をザエルアポロに振り下ろした。

 

 

 

 





次回 ヤミー
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