東方のシェフ   作:多聞丸

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妹紅と犬猿の仲である永遠亭を訪れることにしたケン。そこで蓬莱山輝夜の難題を受けることになる。

※#18は永遠亭に決定しました。


#19 料理人の矜恃

ー前回の話から2ヶ月後ー

幽香から植物の種を貰って数ヶ月後、ケンは畑の作業や料理の研究に勤しんでいた。

 

ー紅魔館ー

ケン「そこで鴨肉を骨を抜いてすり潰してください」

咲夜「え…ええと…こうね」

ケン「次にヤマユリの根をちぎって肉の中に、次に卵と玉ねぎ、牛乳、塩、胡椒を中に入れて…」

咲夜「…」

ケン「それを捏ねて、空気を抜きます」

咲夜「なるほど…こうすることで肉汁が外に出ないようにするのね」

ケン「最後に鍋に乗っけて表面を焼きます。その後にトマトで作ったソース、トマトケチャップをかければ…」

 

ケン「ハンバーグの完成です」

 

咲夜「1口食べてみてもいいかしら?」

ケン「どうぞ」

咲夜「…」パクッ!

咲夜「うん、これならお嬢様も喜んでくれるわ(上手くやれば人肉でも出来そうね…)」

ケン「…ここにナツメグが入ればもう少しボリューミーになるのですが…」

咲夜「ナツメグ?」

ケン「あ、香辛料のことです。欧米ではお菓子や料理に香辛料を混ぜることがあるのです。ハンバーグでは肉の臭みを無くしてくれます」

咲夜「香辛料ね…それがあればもう少しハンバーグを美味しくできるのかしら?」

ケン「はい、阿求さんが言うには永遠亭にあるのではないかと…」

咲夜「あら、ケンの住んでいる場所から近いじゃない」

ケン「えっ?」

咲夜「もしかして永遠亭に行ったことないかしら?まあ、あなたの同居人がそこと仲が悪いからしょうがないとは思うけど…」

ケン「あの…永遠亭とは…」

咲夜「この幻想郷の医者よ。あなたの住んでいる迷いの竹林を抜けた先にある大きな御屋敷、それが永遠亭。妖怪兎やら月の賢者やらかぐや姫やらが住んでるわ」

ケン(たまに来る兎達は永遠亭の兎だったのか…)

ケン(…なるほど、漢方薬の中には香辛料を使うものがあったはずだ。そこから買って、料理に使おう)

咲夜「…ケン、どうかした?」

ケン「あ、いえ。少し考えていました」

咲夜「まあ、あなたの同居人なら竹林を迷わずに行けると思うし大丈夫か」

 

ー妹紅の家ー

妹紅「えっ?!永遠亭に行きたい?!」

ケン「はい、もしかしたら自分の記憶を思い出せるかもしれませんし…」

妹紅(…あそこはあまりケンを連れて行きたくないんだよな…)

妹紅「…分かった。明日行こう」

 

ー翌日、迷いの竹林ー

妹紅「こっち」

ケン(いつも思うが、すごい所だ。竹だらけ生えてるから方向感覚が分からなくなる)

妹紅「…!ケン!そこを動くな!」

ケン「えっ?!」

妹紅「あの兎が仕掛けた罠だ」ガサガサ…

ケン(落とし穴…?!)

妹紅「…たく、あの長生き兎。こんな事のために頭を使いやがって…もうすぐ着くよ」

 

ー永遠亭ー

妹紅「ここが永遠亭、ここにいつも来る妖怪兎が住んでいる」

ケン(かなり大きい屋敷だ)

?「! 妹紅、また患者を連れてきたの?」

妹紅「患者かな…?鈴仙ちゃん、この人がいつも話しているケンだよ」

ケン「外来人のケンです」ペコッ

鈴仙「あなたがいつもうさぎ達に料理を振舞ってくれる人ね。初めまして、私は永遠亭で研修医の鈴仙・優曇華院・イナバです」

ケン(この子も兎耳がついている…)

鈴仙「お師匠様に知らせてくるわね」

 

ー客室ー

永琳「貴方がケンね。私はこの永遠亭で医師をしている八意永琳よ」

ケン「こんにちは、外来人のケンです」

永琳「ここの兎からあなたの話はよく聞くわ。連れてこなかったのは…多分妹紅が止めてたからでしょうね」

永琳「それで…今日はなんの用かしら?」

ケン「はい、それは…」

 

ガラリ…!←襖が開く音

 

?「貴方がイナバが言っていた妹紅のところに住む料理人ね…」

妹紅「輝夜…お前…!」

ケン(この人が…)

輝夜「初めまして。この屋敷の主、蓬莱山輝夜よ」

 

部屋の上座に永琳、輝夜、鈴仙、因幡てゐ、下座に妹紅とケンが座る形で座った。

 

輝夜「それで今日はどんなご用向きかしら?」

 

ーケン、説明中ー

 

輝夜「なるほどね…自分の記憶を取り戻したい…と。永琳、できるかしら?」

永琳「…出来なくはないわね」

輝夜「それと香辛料…?って言ったかしら?それも売って欲しいと」

永琳「香辛料…桂皮(シナモン)、八角(スターアニス)の事かしら?」

ケン「はい」

永琳「…少しだけなら売ってあげるわ。私もボランティアでこの仕事をしてる訳じゃないから多く、安くは売れないけど…」

ケン「それでも構いません」

永琳「…分かったわ、それじゃあ…」

輝夜「待ちなさい」スクッ…

永琳「…?」

輝夜「妹紅…貴方、いつもケンの料理を食べているのかしら?」

妹紅「ま…まあ…」

輝夜「…なら、私もケンの料理を食べてみたいわね」

ケン以外全員「?!」

妹紅「輝夜!」

輝夜「…あなた達は依頼人という訳。なら私から条件を付けさせて貰ってもいいわよね?」

ケン「…どんなものがご所望でしょうか?」

妹紅「ケン?!」

 

また始まった…とする顔の永琳と慌てる鈴仙、そして面白そうなことが起きたとにやけるてゐ…。

 

輝夜「…そうね…私は月に住んでたから幻想郷には無い海の幸が食べたいわね…。だけど私は魚の骨があまり好きじゃないの。だから…」

輝夜「…骨のないお頭付きの魚をお願いするわ。勿論貴方の得意なセイヨウ料理で」

 

なるほど、かぐや姫らしい難題だ。幻想郷には海がない(といっても月には海があるが生物はいない)。それを何かしらの方法で突破したとしても尾頭付きの刺身は使えない。更に骨がないときた。

 

ケン「…分かりました」

輝夜「無理なら…そうね…妹紅の家から出て、私に仕えなさい」

ケン「…台所をお借りします」

 

ー永遠亭の台所ー

妹紅「どうするんだよ!海の幸なんて幻想郷では限られてるし、骨のない尾頭付きの料理なんて聞いたことないぞ!!」

ケン「…」

妹紅「ケン!!」

ケン「…紫さん、いますよね?」

 

隙間が開いた

 

紫「あら、どうしたのかしら?」

ケン「…客間での話を聞いてましたね?」

紫「あら?気づいたのかしら?それで…何が欲しいの?」

ケン「…鯛を6匹、お願いします」

 

ー客間の外、廊下ー

てゐ「…お前ら、あれを用意しろ」

妖怪兎「…あれ?」

 

「…………」

 

妖怪兎「わ…分かりました」

てゐ(これであの料理人は恥をかくぞ…)

 

ー数十分後ー

紫「これでいいかしら?」←鯛6匹

ケン「はい、こちらも準備が出来ました」

妹紅「この摘むやつ?」

ケン「はい、ピンセットという道具です」

紫「でも魚頭と尻尾は骨だらけよ」

ケン「なら作ればいいじゃないですか」

妹紅「つ…作る?頭と尻尾を?」

ケン「…」ゴリゴリ…

 

ー1時間後ー

ケン「お待たせしました」

輝夜「…意外と遅かったわね」

ケン「色々必要なものがありましたので」

永琳「その布で被せられているものかしら?」

てゐ「…」

ケン「はい…今からお見せ致します」パサッ…

 

フランス料理界の巨星、フェルナン・ポワンのスペシャリテ…ルゥ・アン・クルートのモチーフ…

 

ケン「鯛のパイ包みで焼きでございます」

輝夜「なっ…?!」

鈴仙「た…確かに頭と尻尾がある…」

てゐ(こ…こんな物が来るなんて聞いてないぞ…)

永琳(…この短時間でこれだけの鯛を仕入れた先は…やはり…)

ケン「米粉と卵を練って薄く伸ばしたものを被せて竈で焼きました」

ケン「今からお取り分け致します」サクッ…

輝夜「…」パクッ…!

輝夜「…!これは…」

鈴仙(…月でも見たことがない料理だ…月ではもっぱら桃を食べていた、師匠や姫様には新鮮味がある料理だろう…)

永琳「…なるほど…魚の身を擦ったわけね」

ケン「はい、フランスという国の料理でございます」

永琳「…フランス…」

永琳(…)

妹紅(やっぱりケンは凄いな…)

てゐ「痛て?!」

妹紅「?!」サッ!

てゐ「…ケン、骨があったよ?姫様は骨のない尾頭付きが欲しかったんじゃないかな?」

妹紅「えっ?!」

ケン「…」

輝夜「…てゐ、本当に骨があったの?」

てゐ「は…はい」

輝夜「…なら決まりね。ケン、あなたはお題に応えられなかった。今日から私に…」

ケン「お待ちください。その骨を見せてください」

てゐ「いいけど」スッ…

ケン「…これは川魚の骨ですね。鯛などの海の魚には無い骨です」

てゐ「えっ?!」

ケン「…なぜ鯛から川魚の料理が出てくるのでしょうか」

てゐ(し…しくじったな…)

 

スッ…

 

永琳「…てゐ、本当の事を言いなさい」ゴゴゴ…

 

永琳以下全員が気づいた。あの骨はてゐが紛れ込ませたものだと。

 

てゐ(ま…まずい…早く言い訳を…)

ケン「…鈴仙さん、昨日の夕食は何でしたか?」

鈴仙「えっ?!え…ええと…川魚の焼いた物が出たわね…」

ケン「…きっと、昨日の焼き魚の骨が奥歯に挟まっていたんでしょう。よくある事です」

永琳(…この男…気づいてる…。てゐが料理に骨を紛れ込ませたのを。それを知っていて…)

ケン「永琳さん、てゐさんを許してあげてください」

永琳「…分かったわ」スッ…

ケン「いかがでしょうか?」

輝夜「…お見事ね。永琳」

永琳「ええ、香辛料と貴方の記憶の事、協力させてもらうわ」

ケン「ありがとうございます」スッ…

 

ー隙間ー

紫「ふふふ…流石ケンね」←鯛のパイ包み焼きを食べてる

紫(やっぱり彼は月侵攻の私達の切り札ね)サクッ

 

ー数時間後ー

永琳「桂皮、肉豆蒄(ナツメグ)、コエンドロ(コリアンダー・シード)、丁子(グローブ)、鬱金(ターメリック)、小豆蔲(カルダモン)、馬芹(クミン)…主だったものはこれかしらね」

ケン「こんなに…ありがとうございます」

永琳「いいのよ、うちの馬鹿兎が迷惑を掛けたわね…」

ケン「いえ、あれは昨日の晩…」

永琳「…ありがとう、恥をかかずに済んだわ。それにしても…よくあの骨だけで川魚の物と分かったわね」

ケン「分かりませんよ」

永琳「えっ?」

ケン「あの小さな骨だけでは海の魚か川の魚か判別出来ません」

永琳「…つまり引っ掛けたわけね」

ケン「私にも料理人としての矜恃がありますので。あの料理には骨は1本も無かったはずです」

永琳「…てゐも1本取られたわけね」フフ…

妹紅「…帰ろう」

ケン「はい」

ケン(…妹紅さんが少し落ち込んでる?)スタスタ…

永琳「…」

 

ー数時間前ー

永琳「…妹紅、ちょっと来て」

妹紅「ん?何?」

永琳「…彼の記憶のことについてよ」

妹紅「! ケンの記憶は治るの?」

永琳「…まあ、待ちなさい。前提として、記憶の病気は様々よ。タイプとしては、これからの事が覚えられなくなる(認知症など)、それ以前のことが分からなくなる(記憶障害)、またはその両方。彼は2番目のやつね」

妹紅「…で…治るの?」

永琳「…分からないわ。人による」

妹紅「人に…よる?」

永琳「治すことは可能よ。ただ患者によって治り方が違うわ。記憶を失ってすぐ回復する人、何十年経った後に記憶を思い出す人…一生記憶が戻らない人…そして…」

『治ったと同時に今までの事を全て忘れてしまう人…』

妹紅「…つまり…ケンがこの幻想郷にいた記憶を全て失うってこと…」

永琳「…ええ…」

妹紅「…」

永琳「…妹紅、貴方は彼をどうしたいの?」

妹紅「…私は…ケンは…」

 

ー迷いの竹林ー

妹紅(言えるわけが無い…ここにいた記憶を全て失うなんて…)




#18はここまで。果たしてケンと妹紅はこの後どうするのか…。漢方薬って改めて見ると香辛料使うんですね…。中には附子(トリカブト)とか使う物もありますし。医学の道は奥が深いですね…。今回でてきたハンバーグは原作4巻、鯛のパイ包み焼きは原作3巻に収録してあります。

#20のアンケートを取ります。投票に御協力ください!

#34の登場キャラクターは?

  • 博麗霊夢
  • 霧雨魔理沙
  • 魂魄妖夢(西行寺幽々子)
  • 東風谷早苗(神奈子、諏訪子)
  • 紅魔館の誰か
  • 地霊殿組(さとり、こいしなど)
  • 天狗(椛、文、はたて、飯綱丸)
  • もこたん
  • 永遠亭(輝夜、永琳)
  • アリス
  • 八雲紫
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