ー白玉楼ー
ケン「フランス料理では泡を使って、料理に奥深さを作り出すんです」
妖夢「奥深さ…?泡で?」
ケン「はい、こちらをまずは召し上がってください」
妖夢「…?これは…」
ケン「『早摘み蜜柑のパンナコッタ』。こちらにまずはリキュールをかけてからお召し上がりください」
妖夢「…」パクッ…
妖夢「…!蜜柑の酸味とこのツルッとした感触…とても美味しいですね」
ケン「はい、では次にこれを」
妖夢「…?それが先程言っていた…」
ケン「はい、泡です。先程のリキュールに空気を含ませるようにして泡立てたものです」
妖夢「…」パクッ…
妖夢「?! あれ?!さっきと味わいが全く違う…!なんでお酒を泡に変えただけで…?!」
ケン「空気を含ませることによって弾ける感触や滑らかな舌触りを感じさせることが出来ます。特にリキュールは日本は湿度が高く、香りや味が本場のものに比べて物足りなくなるのです。そのために空気に触れさせるエスプーマに変化させることによって、より風味を引き出しやすくなるわけです」
妖夢「…なるほど…?」
ケン「日本でも使われる技法です。例えば京都の泡醤油が有名ですね」
妖夢「泡…まだまだ料理の道は深く、分からないことだらけですね…」
ケン「私もまた料理の事を多く、深く知っている訳ではありません。共に高めあっていきましょう」
妖夢「はい!」
スタスタ…スッ…!
幽々子「妖夢ちゃ~ん、ご飯まだ~?」
妖夢「あ、もう少しお待ちください」
幽々子「…!ケン、来てたのね」
ケン「はい、お邪魔させてもらっています」
幽々子「ふぅ~ん…あ、ケン。ひとつ作って貰いたいものがあるのだけど…」
ケン「…はい?」
ー幽々子の部屋ー
ケン「…昔食べていた物…?」
幽々子「ええ、おそらく私がまだ生きている時に父が私に渡してくれた物。あの頃から食べるものが好きだったのだけど…特に父が買ってきた食べ物が好物だったの…」
ケン「…幽々子さんが生きていた頃…。その食べ物の名前は…?」
幽々子「…それが分からないわ…。私はそもそも生きている時の記憶があまりないの」
幽々子「…でも舌は覚えてるわ。今まで珍しい物を食べてきたけど、それがとびきり美味しかったのを覚えてるわ」
ケン「…ちなみにどんな味でしたか?」
幽々子「…う~ん…甘いものだったわね」
ケン(…甘味か…砂糖が入ってきたのは奈良時代頃だが、国産化されるのは江戸時代後期だ。それまでは高貴な人は甘い物と言えば甘葛だったはず…)
※甘葛…冬季の蔦の樹液を煮詰めた物。『枕草子』にも登場した。
ケン「…分かりました。少し調べてみますね」
幽々子「ええ、楽しみにしてるわ」
ー紫の家ー
紫「幽々子の生きていた時代…?」
ケン「ええ、野点の時に親しげに話していたので何か知っているのかと…」
紫「…そうね…本当は忘れていて欲しいけど…本人が望むのならば…少しヒントを出していいかしらね…」
ケン(…忘れてて欲しい…?)
紫「… 保延四年ね」
ケン「…?」
紫「…幽々子が生まれた年号。あまり言いたくないけど」
ケン「ありがとうございます」
紫「『パンナコッタ』の礼よ。美味しかったわ」スッ…
ケン「あの…どちらへ…?」
紫「寝るわ。少し起きすぎたみたい…」ファ…
ケン「私は帰ります。ゆっくりお休み下さい」
紫「藍に人里へ帰す結界を作っておくよう言っておくわ」
ケン「はい」スッ…
紫(…料理如きで幽々子があの事を思い出すわけないとは思わないけど…まさかね…)
ー人里ー
ケン(… 保延…平安時代末期だ。つまり幽々子さんは平安時代から鎌倉時代初期の人間という事になる)
ケン(…平安時代末期から鎌倉時代初期にできた菓子…唐菓物…ではないな)
唐菓物…唐菓子の事。米粉や小麦粉などの粉類に甘葛(あまずら)の煮詰めた汁もしくは水飴、献上する上級品では蜂蜜など甘味料を加えてこね、果物の形を造った後、最後に油で揚げた製菓をさす。
ケン(…そういえばあのお菓子ができた話は平安時代末期から鎌倉時代初期だったのではないか…?)
ケン(…そういえば幽々子さんの父は諸国を旅していたらしい。ならあのお菓子も…)
ー白玉楼ー
幽々子「…これは…」
ケン「どら焼きです」
幽々子「い…いえ、見ればわかるけど…。それにどら焼きなら食べたことあるわ」
ケン「同じどら焼きでも作り方が違えば味が違ってきます。これは幽々子さんが生きていた時代に近い形で作りました。どうぞ」
幽々子「…」パクッ…
幽々子「…!この味は…」
ケン(砂糖が伝わったのは奈良時代だ。でもその時代はまだ薬としてしか使われていなかったはずだ。当時あった甘味は甘葛と蜂蜜…でも由来を考えれば甘葛は限りなく可能性が低いはずだ)
ケン(どら焼きの由来は弁慶が源義経を奥州に逃がす際、傷の手当の礼として作ったというものが有名だ。逃亡途中で甘葛を作る余裕はなかったはずだ)
ケン(つまり砂糖を使ったどら焼きではなく、蜂蜜を使ったどら焼き…これが幽々子さんが探し求めていたものに違いない…!)
幽々子「…確かにこの味だわ。まるで父から頂いたものと同じ…」ハッ…
幽々子「…そう…父から…」
ケン「…?」
幽々子「…」
幽々子「……」
幽々子「………」
幽々子「…ケン、少し…少しだけ記憶を思い出したわ」
ケン「…どのような記憶でしょうか」
幽々子「…私は平安時代末期…1人の歌人の娘として生まれたわ」
幽々子「…その庭には大きな桜の木があってね…それがあの木」
ケン「…確か…西行妖…でしたか」
幽々子「ええ、私はその木が佇むこの屋敷で従者の人とゆったり過ごしていたわ」
幽々子「…今頃…従者達はどこにいるのかしらね…私はいつの間にか父や同じ時代を生きていた人よりもずっと長生き…いえ…死んでからも亡霊として生きてるわけね…」
幽々子「…そう…もう…1000年も前なのね…」
幽々子「…ねぇ、ケン。生きている…って何かしら」
ケン「…分かりません。生きている意味…その理由や意味は本人にしか分かりません。何か目的のため…仕事のため…家族のため…様々だと思います」
ケン「…ただ…記憶を失っても…俺は1人のために…料理の腕を振るい続ける…それが私の生きる意味だと思っています」
幽々子「…そうね…そう…」
幽々子(…私が生きていた時…そして私が死ぬ時…何を思っていたのかしらね…)
ー白玉楼ー
幽々子「とても美味しかったわ~」
ケン「いえ、こちらも喜んでいただけて何よりです」
幽々子「…また、作ってほしいわ」
ケン「はい、必ず」スタスタ…
幽々子(…生きている意味…ね…)西行妖を見る
幽々子(…春雪異変の時、私は西行妖を復活させようとした。結局、霊夢達に阻止されたけど…)
幽々子(…あの桜の下には何が眠っているのかしら…)
幽々子(………)
幽々子(………考えるのはやめましょう。今はそんなことを考える事じゃない)
幽々子(…さて…)
幽々子「妖夢ちゃ~ん、ご飯まだ~?」
妖夢「えっ?!さっき食べたばかりじゃないですか…!!」
西行妖が咲く時、1人の少女が成仏し、紅が濃い桜が咲くという。それは…西行妖の下で亡くなった数多くの人間の血が解き放たれるから…と言われている。
#27はここまで。皆さんは小さい頃に食べて忘れられないという味はありますか?生前の幽々子様は一体何を食べていたんでしょうね…。記憶というものは不思議なもので、物の名前だけ忘れてしまっても、舌や今まで培ってきた動作、仕草は不思議と体は覚えているものです。そう考えるとケンと幽々子って実は同じものなんでしょうね…。ちなみに西行妖の文は原作32巻の高遠城の戦いの時の文。西行妖の下では多くの人が亡くなってるので、朱に近い桜が咲きそうですよね…。
前回、新作を出すタイミングは週1回~2週間に1回と言いましたが、時間が取れるなら週1、2回~2週間に1回という形になりそうです。
次回は妖怪の山編です。
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ケンは今後どうする?
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2 現代に戻る(現実的)
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