東方のシェフ   作:多聞丸

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八雲紫に呼ばれたケン。紫からひとつの難題を出される。


#34 腹切魚

ケンが幻想郷に来て半年近くが経つ。季節は冬へと移り変わり、木枯らしが身に染みる季節になる。

 

ー妹紅の家ー

妹紅「ケン、今日のごはんはなんだい?」

ケン「はい、野菜の天ぷらうどんです」

妹紅「蓮根、南瓜、人参…美味しそうだな」

ケン「妹紅さん、今日の野菜を見てなにか気づきませんか?」

妹紅「えっ?う~ん…根菜じゃないしな…」

ケン「 野菜の名前を口に出して行ってみてください」

妹紅「蓮根…人参…南瓜…あ、今日は冬至だから『ん』がつく食べ物か」

ケン「はい、冬至は1年で最も日が短い日のことで、その日は『ん』がつくものを食べると運を引き寄せるとか。来年に向けて良い運を引き寄せて下さい」

妹紅「よ~し、なら輝夜を殺しまくれるようにいい運を引き寄せるぞ」ズルズル…

ケン「あ、それから今日は紫さんに呼ばれていますのでしばらく出かけます。夜には帰ってきます」

妹紅「了解。気をつけて行ってね」ズルズル…

 

ー紫の家ー

紫「ケン、よく来たわね」

ケン「はい、お招きいただきありがとうございます」

紫「今日はケンに使って欲しい食材があるの」

ケン「はい、なんでしょうか?」

紫「これよ」

 

隙間が開いた

 

紫「この魚だけどわかるかしら?」

ケン「これは…コハダですね」

紫「ええ、今がちょうど旬の食材よ」

ケン「では早速…」

紫「待ちなさい、今回は条件付きよ」

ケン「えっ…」

紫「これを焼き魚にしなさい」

ケン「わ…分かりました」

 

ー台所ー

ケン(さて…どうしたらいいだろうか。コハダ…15cm以上は鮗と言うが、『焼いたら死臭の臭いがする』と言われる魚だ。焼き魚は無理だ。それに骨が多いからフライにするのには向いていない…となると…)

 

鮗(このしろ)…秋から春にかけて取れる海の魚。鮗には様々な不吉な言い伝えがあり、『焼くと死体の匂いがする』という言い伝えや切腹の前に出された魚であるため『腹切魚』と呼ばれたり、『鮗を食う』→『この城を食う』(落城をイメージさせる)という伝承があるからと言われている。武士に取って鮪(別名シビが『死日』を連想)、河豚(毒に当たって死ぬから。解禁されたのは幕末頃とされている)と並び嫌われた。

 

ケン(焼き魚は無理だ…)

ケン(だが、あの方法なら…)

ケン「3枚に下ろして、飽和食塩水にコハダをつけてコハダの余分な水分を抜いて…」

ケン「妖怪の山でいただいた橙を入れて…」

ケン「ウェルダンにするから、一刻ほどつければいいだろう」

 

 

 

ー数十分後ー

ケン「お待たせしました。「セビーチェ』です」

紫「…ケン、これは焼き魚じゃないわね」

ケン「はい、しかしまずは食べてみてください」

紫「まあ…いいわ」パクッ…

紫「…これは酢で魚を和えたやつね。焼き魚からは程遠いものだわ」

ケン「はい、セビーチェとは魚を柑橘の果汁に漬け込んだ南米の料理で日本のしめ鯖と同じ様なものです」

紫「なるほど…でもこれは酢でしめた魚のようなもので焼き魚じゃないわね」

ケン「ではこれは生魚と同じでしょうか?」

紫「えっ…?確かに違うわね…」

ケン「それが変性というものです。柑橘類の果汁に含まれる酢が魚のタンパク質に作用し、構造を分解させたのです」

紫「…えっ?」

ケン「これは焼き魚とほとんど同じ化学反応なんです」

 

※焼き魚は生魚を加熱することによってタンパク質が解けて凝固する(身が白くなり引き締まる)

※生魚を酢でしめるとタンパク質が溶けて凝固する(身が白くなり引き締まる)

 

ケン「つまりこのセビーチェは焼いてなくても加熱した時と同じ状態の身になっているというわけです」

紫「…?」

ケン「少し面白いと思いませんか?」

紫「…まあね」

ケン「食べ物の常識は歴史によって移り変わっていくものです。つい100年前までは食べる事が禁忌とされていた食べ物が人に愛され、逆に100年前に普通に食べられていた料理が現在では食べられていなかったり…。数百年前まで考えられてはいなかった料理方法によって食べられていたりするものなのです」

ケン「現にこのコハダ…鮗は武士には禁忌とされていましたが、現在では冬の寿司ネタとして高い評価を受けています」

紫「…見事ね。あなたは期待通りのものを作ってくれる」

ケン「ありがとうございます」

紫「まだコハダの余りがあったわね。お寿司も作っていただけるかしら?」

ケン「はい、かしこまりました」

 

ー2時間後ー

紫「美味しかったわ。気をつけて帰りなさい」

ケン「はい、失礼します」

 

隙間がしまった。

 

紫「…藍」

 

スッ…

 

藍「はい、ここに」

紫「霊夢は修行しているかしら?」

藍「はい、文句を言いながらも神降ろしの修行を続けています」

紫「そう…そのまま観察を続けなさい」

藍「はい、それと…今日ケンを呼んでいましたが…」

紫「ケンに料理を作らせたわ。難題だったけど突破されちゃったわ」

藍「は…はぁ…」

紫「ふふふ…面白いとは思わない?」

藍「えっ?」

紫「長く生きている私たちより若いケンの方が料理のことに関して秀でている。面白いとは思わないかしら?」

藍「は…はあ…それで…月面戦争の用意はどうでしょうか?」

紫「着々と進んでるわ。侵攻まで1年と言ったところかしら?」

藍「…かなり時間がかかりますね」

紫「戦争にはお金と時間が掛かるものよ。さて…ケンは私たちの切り札になるのかしら?」




#33はここまで。歴史の中で禁忌であった食べ物が現在食べられていたりするのはかなりあることです。例えば題名にもある鮗、作中でもでてきた鮪や河豚とはまた別で秋刀魚(脂が多く下魚と呼ばれ、武士は食べなかった。目黒のさんまのモデルは一説には徳川家光とも)や胡瓜(断面が葵の紋に似ていることから)が挙げられます。料理はその土地での歴史の積み重ねが躊躇に現れるところなのです。

先日東方ロストワードのレリック妹紅、咲夜、アリスを手に入れました。めっちゃ可愛いですね!妹紅と咲夜は欲しいキャラだったので嬉しかったです!

ケンは今後どうする?

  • 1 戦国時代に戻る(可能なら)
  • 2 現代に戻る(現実的)
  • 3 幻想郷に残る(これも現実的)
  • 4 その他
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