今日は俺の誕生日だ。といってもこの世界に誕生日という概念はない。少なくとも俺の村には。
年が明ければ一つ年をとるといった具合だ。つまり今日は新年一日目である。今年はグラン歴七五七年だ。
まあとにかく、今年で俺は十歳になった。ようやく十年だ。長かったような短かったような。いや、やっぱ長かったわ。
といっても、俺が前世の記憶を思い出したのは五歳の時だったので、実質五年なんだがな。あの時の感覚は不思議なものだった。この世界の俺と、前世の俺の意識が融合したような感覚というか、まぁ言葉では言い表せないような感覚だった。
でだ。転生したからには魔法が使いたいと考えるのは普通のことだろう。幸いこの世界には魔法が存在するようだし。
村を訪れた行商人がたまたま持っていたファイアーの魔導書を、両親にねだって買ってもらった。最初はどうせ使えもしないのにと叱られたのだが、実際に魔法を使ってみたらしぶしぶ買ってくれた。ああ、もちろん行商人には許可をもらった上でだ。
俺は賭けに勝ったのだ。まあ身体に流れる魔力みたいなものは感じられたので、なんとなく使える予感はあった。
あとライブの杖もあったので、試してみたら使えた。これは村長があっさり買ってくれた。
まあ医者もいない田舎の村じゃファイアーよりは役立つと思ったのだろう。
実際に狩りで使ってみたが、思いのほか役に立つと褒められた。場所をわきまえないと大火事になるが。
本音を言えば炎魔法より風魔法が欲しかったが、魔導書は村人がほいほい買えるような安価なものではない。このファイアーを大事に使っていくしかないだろう。
ちなみに魔法とは自然に存在するエネルギーを集積しコントロールする技術だ。
魔導書や聖杖はエネルギーを集積する器のようなもので、エネルギーを解放するにはそれぞれのランクにおいて一定の技術が必要になる。
つまり教育って大事だねってことだ。俺には前世という下地があったため、魔法に対する理解も早かったのだ。
さて、そろそろ俺の生まれた村について話しておこう。
俺が生まれ育った村は一〇〇人にも満たない小さな村だった。場所はトラキア半島の中央に位置し、ぎりぎり南のトラキア王国に入る。
周囲を山に囲まれているため、商隊もほぼこない。一番近い街と契約している商人が半年に一度やって来るだけだ。
戦略的価値もないため他国から攻められることもないのが利点だが、山賊はたまにやってくる。まあ、俺が火球を引き絞った弾丸もどきで武器をへし折ってやれば大体投降するが。
山賊が多いのは国の
そのため、この国は傭兵を各国に派遣することで収入を得ている。そして傭兵になれなかった半端者が山賊や海賊になるのだという。
特にこの国に多く生息する飛竜が悩みの種になっている。野生の飛竜はたまに里へ下りてきて村を襲ったりするし、乗騎にすればエサ代が嵩む。
トラキアの飛竜隊といえば傭兵部隊の象徴ともなっているのだが、当然少なくない維持費がかかる。
傭兵の収入で資金を溜めながら、肥沃な北トラキアを我が物にしようと虎視眈々と隙を窺っている。それが現国王トラバントの狙いだ。
レンスター王国にとっては迷惑千万な話だろうけど。
まだ会ったこともないキュアン王子だが、敵国の王子だけあって、評判は悪い。外見は優男だが、悪魔のような槍さばきでトラキア兵を薙ぎ倒したらしい。
実際キュアンは大陸屈指の
キュアンに対してはトラバントも最大級の警戒を促している。
だからこそだろう。去年俺の元に軍から誘いが来た。この国は魔法の使い手が少ないのだ。だがさすがに九歳の子供とは思わなかったらしく、何度も村長に問いただしていたな。
まあ実演してみれば信じたけど。ついでに彼らが持ってきたサンダーとウインドも使って見せた。
魔法ってイメージが大事なんだ。魔法を見たことがないと、そのイメージが描けない。平民が魔法を使うことのできない理由の一つだ。
とぼけることも断ることもできたのだが、その場合徴兵されるおそれもあったし、村に悪影響が出る可能性もあった。トラバントはどうも冷酷なイメージが強いんだよな。
とりあえずその場では契約内容だけ詰めた。
契約金一万Gくれと言ったら目を剥いて驚いてたな。杖も使えると言ったら「上司に報告する」と言って帰って行った。
そして秋ごろにもう一度やってきたよ。その場でライブの杖を使って見せて、契約完了となった。
今日行われている新年の祭りが終わり、明日になれば村を出る。もしかしたらトラバント王に謁見する機会もあるかもしれない。それはちょっと楽しみだ。
ここまでくればさすがの俺も気づいたよ。聞き覚えのある魔導書、杖、人名、地名。
ここはFE聖戦の系譜の世界だ。
◇
トラバントが軍備を増強しているのにはわけがある。グラン歴七五七年は、ウェルダンがユングヴィに侵略を開始する年だ。
つまり序章の始まりである。それはレンスター王国からキュアンとエスリン、近衛騎士のフィンが国を離れることを意味している。
そしてゲームではなく現実である以上、三人だけということはないだろう。部下の何人かも連れていくはずだ。
トラバントはその情報を早期に手に入れたに違いない。その隙にレンスターに攻め込むつもりだ。
確か三章だか四章あたりでキュアン達が離脱するのはそれが理由だったはず……だよな。もう記憶が曖昧になっている。元々設定までかっちり覚えていたわけでもないし。
ともあれ、俺はトラキア軍人になった。トラキアには魔導士部隊などと洒落たものはないので、後方部隊に回された。
さすがのトラバントも、十歳の子供を前線送りにするほど非情ではなかったようだ。
杖が使えるということで、主な仕事は怪我人の治療。魔法はいざという時の手段だ。なんか余っていたという理由でウインドも支給された。
本音を言えば
まあ、使えるかどうかは分からんけど。
またトラキアは傭兵業ばかりを行っているわけではない。軍事訓練もやるし、国内の村に賊が現れたと報告があれば
この機動力と戦闘力の高さが竜騎兵の特徴だろう。十人程度の賊ならば二、三人の竜騎兵で事足りる。
俺も治療要員で飛竜に同乗させてもらったことはある。さすがに
村人にはかなり感謝された。これもトラバントの戦略だとすれば大した策略家だ。
正直、国を豊かにするのが第一目標なら軍縮もありだと思うんだが、トラバントは了承しないだろう。そんなことを進言すれば、下手すりゃ殺される。いやマジで。
まあこの程度のことは俺が提案するまでもなく、以前に誰かがやっているはずなんだ。にも拘わらず軍拡を行っているのは、まあそういうことなんだろう。
春を越えて、ついにトラバントが動き出した。
北トラキアへの進軍である。