FEトラキアから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

12 / 16
第12話 闇の皇子

「弓兵部隊は全軍守備につけ! ただし防壁からは一歩も出るんじゃないよ! 魔導士隊は後方よりリデール将軍を援護せよ!」

 

ヒルダが次々と指示を出す。出撃したリデール将軍が解放軍右翼に襲い掛かる。ヒルダは続けて暗黒魔導士部隊を出撃させた。

会戦ギリギリになってラドスから送られてきた暗黒魔導士は二〇人。これが多いのか少ないのかは判断が付きかねたが、利用できるものはなんでも利用するのがヒルダだ。

 

「敵の陣形が右翼方向に流れたら攻撃開始だ。左翼部隊に一斉魔法攻撃を仕掛け、崩れたところに槍騎兵隊突撃! 魔導士隊はそのまま後方より突撃を援護せよ!」

 

絶妙のタイミングでヒルダの指示が飛ぶ。城壁の隠し扉から出撃した魔導士隊は、解放軍左翼の意表をつくことに成功した。

暗黒魔導士二〇人の総攻撃が始まる。

だが、解放軍左翼は一向に崩れる様子はなかった。左翼部隊の先鋒を務める人物が、集中する暗黒魔法を耐え抜いているのである。

 

「その程度の威力でこの俺を止められるものか! 魔剣ミストルティンを甘く見るな!」

 

黒騎士アレスが魔導士隊に突撃する。魔剣ミストルティンの加護を得たアレスの身体を聖光が包み込む。戦場に冠絶するその雄姿は、亡き父エルトシャンを彷彿とさせた。

伝説の武器を手にした聖戦士の力がいかに強大であるか、この戦場にいた敵と味方は改めて認識させられた。

 

そして反対の戦場でも、決着の時が訪れようとしていた。

勇者の剣を手にしたリデール将軍は、戦場を駆け解放軍に混乱をもたらした。

圧倒的な劣勢であるとはいえ、彼はまだ戦意を失っていなかった。ヒルダの命令で気の乗らぬ子供狩りを行っていた時よりも、よほど心は昂揚している。

リデール将軍は手にした勇者の剣を振るい奮戦する。そして幾人かの解放軍を斬り捨てたところで、疾風が彼に襲い掛かった。

リデール将軍は既のところで反応し、その首狩りの一撃を防いだ。

 

「ほぅ。この一撃を防ぐか。腐敗した帝国兵とはひと味違うようだな」

 

シャナンは神剣を握る手に力を籠めた。シャナンの睨んだ通り、リデール将軍はヒルダの統治に不満があり、子供狩りにも反感を持っていた。しかし生粋の帝国軍人である彼にとって、軍令に逆らうことは矜持に反した。

 

「その黒髪、その剣技、イザークのシャナン王か。相手にとって不足なし」

 

リデール将軍の軍馬が大きく跳ねた。リデール将軍は馬上の有利を活かし、勇者の剣でシャナンを追い詰めていく。

巧みに馬を操り、間合いを制し、シャナンの剣技を殺している。細緻の剣技がリデール将軍の支配領域を広げ、彼はシャナンの剣先をはっきりと見切っていた。

 

(勝負は一瞬で決まる)

 

今は互いに見切りの時間だ。だが互いの支配領域が交差した時、勝負は決する。シャナンはリデール将軍の呼吸を読み、踏み込んでくる瞬間に合わせて自分も踏み込んだ。

リデール将軍はすぐさまそれに気づき、手綱を操作する。

しかし、シャナンの素早さがそれを上回った。

 

剣の重さは感じない。手にした神剣は真の所有者が振るう時、羽根よりも軽くなるのだ。

脇の下から進入したバルムンクがリデール将軍の胸を斬り裂いた。

 

「――見事ッ!」

 

最期の言葉は称賛だった。リデール将軍は喀血して果てた。

クロノス城からそれを眺めていたヒルダは、戦の趨勢が決したことを悟った。

 

「ここまでだね。だが私はまだ死ぬわけにはいかないのさ。おい、私は本国に帰還する。後は……戦うなり降伏するなり好きにしな」

「ハッ!」

 

振り返り、控えていた親衛隊長に最後の指示を出す。

ヒルダの指にはめられたワープリングが光を放ち、彼女の姿は消失した。それからしばらくして、クロノス城に大きな白旗が掲げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロノスを制圧した解放軍は疲労の少ない兵たちをまとめて、すぐさまラドスへと進発した。子供狩りによって集められた市民たちがラドスに送られたと聞いたからだ。

ラドスに残っている兵は少なく、制圧自体はほとんど犠牲者を出すことはなかった。しかし攫われた子供たちの姿はなく、セリスは暗鬱な気持ちで最後の都市、ミレトスを目指すこととなった。

 

その頃、ミレトス城では暗黒司祭ザガムがユリウスの命に従い、各地から集められた子供たちをグランベルに送る手配を進めていた。

ユリウスはイシュタルをバーハラに送り届けた後、ミレトスに転移していたのである。

そんなザガムの前に、意外な人物が現れた。

 

「これはこれは皇帝陛下。なぜこちらへ?」

 

それは魔法戦士ファラ直系の聖戦士にして、グランベル帝国初代皇帝アルヴィス・マル・ハ・グランベリア・フォン・レアル・ヴェルトマーであった。

アルヴィスは虫を見るような視線でザガムを睨み付けると、荘厳なまでの威厳をもって命じる。

 

「ザガム。この城に集めた子供たちを解放するのだ」

 

アルヴィスはロプト教団の地位回復の施策をいくつか行ったが、それに慢心した彼らはついに子供狩りまで行うようになった。だがアルヴィスは今でも子供狩りは頑として認めていなかった。

 

「しかしこれはユリウス様のご命令で……」

「これは勅命である。すぐに子供たちを解放するのだ!」

 

雷のような怒声に打たれたザガムは、思わずその場で拝跪した。だが、そこに新たな声が割って入る。

 

「困りますな父上。勝手なことをされては」

「ユリウス! 貴様……」

「父上はまだご自分の立場が理解できていないようだ。それとも、まだ私の追放を考えておられるのですかな?」

 

アルヴィスとユリウスの視線が激しく交錯する。その時間は永劫とも思われたが、実際には数秒にすぎない。視線を逸らしたのはアルヴィスだった。

 

「いや、おまえに逆らっても無駄なことは分かっている。もう、何も言わぬ」

「ならばシアルフィ城防衛の職務に戻られよ、父上」

「…………ああ」

 

アルヴィスは観念したようにきびすを返した。ザガムは冷笑を浮かべながらその背を見送った。

 

「ザガム、手配を続けろ」

「ハハッ!」

 

ザガムは彼の前に拝跪すると、すぐに仕事へと戻って行った。

 

「ふふっ、名ばかりの皇帝……アルヴィス陛下も哀れなものですな」

 

ザガムと入れ替わりに現れたのは、ロプト教団の大司教マンフロイであった。

 

「マンフロイか。反乱軍の中でユリアを見つけたようだな。記憶は取り戻したのか?」

「転移の時の衝撃でしょうか、すべてを思い出したようです。幼き頃、双子の兄である殿下に殺されかけ、そして母親の術によって城外へ飛ばされたことも……。今はシアルフィ城に軟禁させていただいております」

「ユリアはディアドラからナーガ神の力を受け継いでいる。殺さねばならん……手遅れにならないうちにな」

「しかしナーガの聖書はバーハラに封印されているはず。ナーガの力がユリアに宿るとは思えませぬが……」

「らしくない言葉だな、マンフロイ」

 

ユリウスが鋭い目でマンフロイを睨みつけた。マンフロイの背筋に冷たい汗が流れる。

 

「念願成就を間近にして、気が緩んでいるのではないか? まあいい。ユリアとは一度会ってみよう。バーハラに送るよう手配しておけ」

「……畏まりました。御身もすぐに戻られるのでしょうか?」

「私は少し遊んでいくとしよう」

 

ユリウスの狂気に満ちた瞳が煌めく。それを見たマンフロイは高揚を抑えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦況は圧倒的に解放軍有利だった。

ロプト教団から派遣されたミレトス駐留軍司令官ザガム司祭は、市民を巻き込んでの持久戦に持ち込むつもりだったのだが、ユリウスの命令により出撃を強要されたのだ。

 

ザガムに拒否権はなかった。断れば自分の命は失われ、別の誰かが司令官となることは明白だったからだ。

だが数で劣勢にある帝国軍が、正面から解放軍と戦って勝てるはずもなかった。ミレトス地方最後の戦いとあって、聖戦士たちは最前線でその力をいかんなく発揮していた。

 

「おかしい。あまりにも無策すぎる……」

「オイフェもそう思う?」

「はい、セリス様。相手も彼我の戦力差くらいは承知しているはず。正面から決戦を挑んでくるなど、何かあるとしか思えません」

 

歴戦の軍師であるオイフェは、相手が愚者であると侮ったりはしない。一応、奇襲に備えて本陣の守備は厚くしてあるが、オイフェは不安をぬぐい切れなかった。

 

「しかしこれは好機でもある。攻め手を緩めず一気に制圧すべきだと思う」

「はい、私も同感です。それにしてもセリス様、ご立派な指揮官になられましたな。もはや私などの役目はなさそうです」

 

成長するセリスに、亡き主君シグルドの姿を重ねたオイフェの目尻に涙が浮かぶ。

 

「な、何を言うんだオイフェ! 私なんてまだまだだ。オイフェがいてくれなきゃ……」

「セリス様、申し訳ありません。埒もないことを申しました。このオイフェ、いつまでもセリス様のお傍におりますので、今の言葉はお忘れください」

 

オイフェが頭を下げる。その瞬間、後背より爆発的な砂塵が舞った。

ついに姿を現したのだ。ただ一人からなる軍勢が。

 

「今こそ目覚めよ、暗黒竜ロプトウス!」

 

小柄な少年の姿が、巨大な暗黒竜へと変貌する。それでも兵士たちは本陣を守るべく、暗黒竜の前に立ちはだかるが、巨大な顎から吐き出された獄炎によって、骨も残さず焼失した。

多くの兵士が立ち竦む中、セリスはレヴィンの言葉を思い出していた。

 

――ユリウスの身には暗黒神ロプトウスが降臨しているかもしれぬ

 

セリスの中でその言葉が確信に変わった。

 

「ユリウス、覚悟!」

 

セリスの身体が大きく跳躍する。父シグルドから受け継いだ銀の剣が陽光を反射して煌めき、暗黒竜の眉間へと突き刺さった。

 

……かのように見えた。実際はその堅い竜鱗に阻まれ、銀の剣は半ばから砕け散ったのだ。暗黒竜の頭部から転がり落ちたセリスはなんとか受け身を取ることに成功した。

だがその瞬間、暗黒竜から獄炎が吐き出された。その光景はセリスの瞳に、克明に焼きつけられた。

 

眼前に迫る黒き炎。

自分の身体を突き飛ばす大きな手。

最期に見せた柔らかな笑み。

 

「オイフェーーーッ!!」

 

その身体は辛うじて人の形を保っていたものの、全身が黒く変色し、絶命は時間の問題に見えた。

 

「オイフェ! オイフェ!」

「……、……、……」

 

オイフェは何かを伝えようとしていたが、喉を焼かれているのか声となってセリスの耳に届くことはなかった。セリスの目に涙が溢れる。その光景を、ユリウスは冷ややかに見下ろしていた。

 

(ここでセリスを仕留めるのは容易い。だが……ふっ、父上に任せるのもまた一興か……。クククッ、バルドの末裔如き、いつでも始末できる)

 

ユリウスは人間の姿へと戻り、転移術を発動した。

 

「オイフェーーーッ!!」

 

戦場にセリスの絶叫が響き渡る。

すでに戦場の勝敗は決していた。ザガム司教の部隊は壊滅し、ミレトス市には解放軍の旗が掲げられていた。

ついに解放軍はミレトス地方の解放に至ったのだ。

だがその代償として、セリスは最も頼れる騎士を喪った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。