FEトラキアから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第14話 トラキアの進攻

訓練場に剣戟の音が響き渡る。刃を潰した訓練剣とはいえ、当たり所が悪ければ骨折くらいはする。妻と息子が斬り合う光景というのは、あまり気分の良いものではない。まあ、戦場で命を落とすことに比べればマシだと思うしかないだろうな。

 

「ハァッ!!」

 

息子ディアスの口から裂帛の気合が吐き出される。だがその一撃は受け流され、ディアスの体も流される。首筋にピタリと切先が突きつけられ、俺は試合終了の合図を送った。

 

「これで納得したか? 約束通り、従軍はなしだ」

「しかし父上! いま世界中で多くの人が苦しんでいます。だからこそ解放軍と共に戦い、世界を救済するのでしょう? 解放軍に参加することもできず、軍人にもなれず、私だけ留守を守るなんて嫌です!」

 

うーん、ホントにこいつは俺の息子なのだろうか。俺はそんな正義漢じゃないし、レイミアも一番大事なのは命、二番目は金、と公言するようなやつだし。まあ、子供を産んでからは少し変わったようだが。

 

「私に一太刀も浴びせられないようじゃ、戦場に行ったところで無様に(むくろ)をさらすだけだよ」

 

レイミアが冷たく言い放つ。世界中の戦場を渡り歩いた女だ。面構えが違う。言葉にも含蓄がある。そもそも息子を戦場に送りたがる母親もいないだろう。

レイミアもいい年のはずなんだが、剣の冴えは一向に衰えていない。まあさすがに銀の大剣を振り回すのは厳しくなってきたらしく、細身の剣に換えているが。

 

「ディアス、警邏隊も立派に国を守る仕事だ。しっかりと務めよ」

「しかし父上! 警邏隊で諍いなど滅多にありません。精々が酔っ払いの仲裁くらいで……」

「警邏隊が暇なのは良いことだ。その暇な時間をどう使うかを考えろ。一人で戦争ができると考えているうちは、おまえはいつまでも一兵士にしかならん。レイミアの言う通り、骸をさらすだけだ」

 

そもそも警邏隊はそんなに暇じゃない。見回り、訓練、社会奉仕などやることはいくらでもある。だがそういうことにやりがいが感じられないのは問題だな。若さゆえの過ちを犯さなければいいのだが……。

 

ディアスは母親から剣才を受け継いだ。だから育成はレイミアに任せていたんだ。逆に娘のルキファは俺に似て魔導の才能があった。だが戦いを好む性格ではなく、シスターとして教会の手伝いをしている。

 

「ブラック将軍、ハンニバル将軍がお呼びです」

「分かった。すぐに行く」

 

伝令の兵がやってきて、家族会議の時間は終わった。ハンニバル将軍の待つ執務室へと急ぐ。

 

「ブラック将軍、解放軍がミレトス解放に成功したそうだ」

「それは重畳。では我々も動きますか」

 

解放軍から一報が届いたようだ。ついに俺たちトラキア軍も動く時である。

 

「うむ。私はアリオーン殿下に出陣を請う文を書く。手筈は整っているか?」

「はい。ダーナの街にはジャバローを潜伏させております。制圧は問題なく行えるでしょう。市民たちも協力的です」

 

ブラムセルが死んだことが分かれば、帝国から代わりの統治者がやって来るだろう。それを防ぐために、ブラムセルは病気ということにしてある。

幸いあの街には帝国兵は配備されておらず、ブラムセルの私兵しかいなかった。生活と給金を保障すると言えば、彼らは意外なほどあっさりとこちらに靡いた。本当に人望の無い男だ。

 

「トラキア軍はエッダを制圧後、ヴェルトマーに攻め上がるのでしたね」

「うむ。そのつもりだ」

 

解放軍はミレトス海峡を越え、シアルフィを制圧する。その後は西回りで王都バーハラを目指す。そしてトラキア軍は反対の東回りでバーハラを目指す。つまり王都を挟撃するわけだ。

 

その後、ハンニバル将軍は最低限の守備兵だけを残してダーナに兵を進めた。そこでエッダ攻略の策を練っている間に、レンスター城からトラキア本隊を連れたアリオーン殿下が来援する。遂に帝国との戦争が始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エッダ城にかつての面影はなく、暗黒司祭たちの巣窟となっていた。また傭兵部隊も展開されている。ジャバローによるとロベルトという凄腕の傭兵らしい。

 

「抑えられるか?」

「やれと言われればやりますよ。ま、こいつ次第ですがね」

「……くっ、金、金、金! 騎士として恥ずかしくないのか!」

 

ジャバローは親指と人差し指をくっ付けて金銭を要求する。それを見たフィンが声を荒げた。

 

「ククッ、すまねぇな。騎士になったのはついこの間でね」

 

だが当のジャバローはどこ吹く風だ。

 

「やめろフィン。彼はトラキアの直臣ではない。ブラック将軍の部下だ。我々がどうこう言うのは筋違いだ。すまないブラック将軍」

「いえ、こちらも部下の非礼をお詫びします」

「ふふっ、キュアン将軍は人間ができていらっしゃる」

 

フィンは未だに納得できていないようで、ジャバローを睨みつけている。まあ騎士の鑑のようなフィンと傭兵上がりのジャバローは馬が合わないだろうな。ちなみに、グレイドはリーフについているのでここにはいない。

イメージ的にはフィンの方がリーフについていきそうだが、まあキュアンにはキュアンの考えがあるのだろう。

 

「アリオーン殿下。傭兵部隊は我がブラック隊が引き受けようと思います」

「ああ、任せる。キュアン将軍ら槍騎士隊(ランスリッター)は暗黒司祭の相手を頼む。おそらくはやつらがエッダ城の主戦力だろう」

「ハッ! お任せください!」

 

こうして基本方針が決まり、会戦となった。だが、エッダ城の司令官が選んだのは、城の防衛だった。

まあ野戦は分が悪いだろう。キュアン将軍率いるランスリッターの精強さは帝国まで轟いている。さらに飛竜隊も動員しているため、上空を飛竜が飛んでいる戦場では集中して戦うのも無理な話だ。

 

「にしたって同情するぜ。あれじゃあ使い捨てもいいところだ」

 

ジャバローは敵の傭兵部隊を憐れんでいるようだ。気持ちは分かるがな。いくら暗黒司祭からの援護があるとはいえ、その司祭は城壁の上だ。

暗黒魔法は強力だが発動までに時間がかかり、速度も遅い。風魔法や雷魔法ならともかく、これだけの距離があれば見てから回避は余裕だろう。

 

ただしマンフロイは除く。ヤツのフェンリルはウインド並みの速度があった。しかもヨツムンガンドは追尾機能付きときてる。あれがマンフロイだからなのか、それとも大司教クラスはみなそうなのかは分からないが。

 

「まあいい。まずは挨拶代わりだ。弓兵隊、構えろ!」

 

ジャバローの命に従い、弓兵たちが一斉に矢を番える。ジャバロー隊は騎馬だけではない。弓兵や槍兵などの歩兵部隊もいる。

 

「放てぇーっ!」

 

そして天を覆うように矢が放たれた。しかしそれに反応して敵の傭兵部隊が頭上を守るように盾を掲げた。だが無駄なんだよなぁ。

 

「弓兵隊は伏せろ! 魔導士隊、撃てぇーっ!」

 

俺の号令に従い、弓兵の後ろに構えていた魔導士隊が一斉に雷魔法(サンダー)をぶっ放す。頭上からは矢の雨が降り注ぎ、正面からはサンダーが飛来する。この連携攻撃により、ロベルト隊は半数を失った。

 

「よし! 突撃するぞ!」

 

ジャバローを先頭に騎馬隊が突入する。と同時に、城の東側から轟音が鳴り響いた。キュアン将軍のゲイボルグが城壁に穴を開けたのだろう。

やっぱ神器って反則だわ。

それからほどなくして、エッダ城にトラキアの旗が掲げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基本的に戦というものはより多くの兵を集めた方が勝つ。そして、攻めるよりも守る方が有利である。より正確に言うならば待ち構える方が有利というべきか。

その基本を覆すのが神器である。神器は神器でしか対抗できないというのも、あながち誇張ではない。聖戦士は文字通り一騎当千の存在なのだ。

とはいえ、神器がいかに強力でも使い手は人間であり、魔力にも体力にも限界はある。人海戦術で攻められては、いかに聖戦士といえども討ち取られることはある。

 

「しかし神器の求心力は絶大だ。キュアン将軍が率いなければ、ランスリッターも本来の力を出せまい」

「まあそうなんですけどね」

 

ハンニバル将軍の言に、俺は素直に首肯する。エッダ攻めで獅子奮迅の活躍をしたキュアン将軍は少々お疲れ気味……のように見える。というわけで今回は主攻ではなく助攻での参戦となった。じゃあ主攻は誰か、俺である。

 

ヴェルトマーの主力部隊は炎魔法を得意とする魔法騎士団(ロートリッター)だ。ハンニバル将軍麾下の重装甲部隊は相性が悪いのである。

逆に俺が率いる魔導士隊は雷魔法の使い手が多く、相性が良い。

 

「そういうわけで主攻を仰せつかりました。予想通りにね。あなたはどうしますか? サイアス司祭」

「無論、同行させていただきますよ」

 

赤く燃えるようなその瞳は、鮮烈な輝きを放っていた。彼は俺の提案を受け入れ、魔導士隊を隠れ蓑に潜んでいたのだ。表に出ることはなく、専ら後方で杖を振るっていた。多くの負傷者を治療した彼に感謝する兵は大勢いる。

 

「ではこの魔導書をお渡しします」

「……これはっ!?」

 

サイアスの口から驚愕と困惑がない交ぜになったような言葉が漏れる。これは合流したレヴィンがもたらしたものだ。解放軍では使い手がいないため、レヴィンとしても大きな問題はなかったのだろう。疑惑を持ちつつも引き受けてくれた。

今回のヴェルトマー攻めに参加するため、彼もシアルフィからこちらに移っている。事前の調査により、レヴィンにとっての大敵がヴェルトマーにいることが判明したからだ。

 

「あなたは……どこまでご存じなのですか?」

「まあ概ねは。では行きましょうか。すぐに出陣です」

 

そしてついにトラキア軍は、王都バーハラの喉元ともいえるヴェルトマー公国へと進攻した。彼の国で名声を轟かせているのはもちろんロートリッターだが、それ以外の騎士団や歩兵団も存在する。

 

だがその大部分は王都バーハラの防衛に回されており、ヴェルトマーの守備兵は然程多くない。とはいえ、兵力差はわずかにこちらが上回る程度。城攻めには不安がある兵力だ。

新たな神器も加わったが、マンフロイと対することを考えると乱発もできない。というか、マンフロイにこの情報は知られたくないのだ。

 

ともあれ、中央では俺の率いる魔導士隊とジャバロー隊が、左翼ではハンニバル将軍の部隊が、右翼ではキュアン将軍の部隊が戦闘を開始した。

上空ではアリオーン殿下が指揮を執り、城壁に張り付いている暗黒司祭たちに攻撃を行っている。

 

「ヤツは出てきませんね。まあまだ膠着状態というのもありますが」

「あの男は他の人間など、己の駒程度にしか思っていません。それに、いざとなればバーハラに転移すれば良いとでも考えているのでしょう」

 

サイアスが無感情に告げる。

 

「ここで逃がしても厄介だ。やはり乗り込むしかなさそうだな」

「では手筈通りに」

 

レヴィン、サイアスと共に、待機させていた飛竜に飛び乗る。

 

「頼む」

「はいっ! お任せください!」

 

竜騎士の号令で、飛竜が天高く舞い上がる。

この竜騎士の少女、名をマリータという。そう、あのマリータである。

ガルザスはイザークの内乱によって一族が解体した後に祖国を出奔し、各地を放浪した末にトラキアへと流れてきた。

その頃のトラキアは統一後の混乱も収まり、発展が始まった頃だったので仕事はいくらでもあると思ったのだろう。

 

実にいいタイミングだったよ。一族が解体した後、直でトラキアに来ていれば、傭兵として敵方に雇われていた可能性もあった。流星剣と月光剣の合わせ技とかシャレにならねぇよ。神器持ちでも勝てるかどうかじゃない? あいつ。

まあその頃のガルザスは、そこまで熟達した剣士ではなかったようだが。

 

トラキアに渡ったガルザスは危険な傭兵はやらずに、開拓事業に従事して生活費を稼いでいたらしい。

その後は野良飛竜の討伐隊に参加して、飛竜牧場の運営にも携わり、そのまま従業員として落ち着いたとか。

 

あの力は欲しいところだが、ガルザスは原作でも用心棒を中心に仕事を請けてたみたいだから、積極的に戦う性格じゃないんだろう。

必要ならば戦うし、必要がなければ戦わないってタイプだと思う。一応スカウトはしてみたが断られた。

 

ガルザスと一緒に牧場で育ったマリータは飛竜に興味を持ち、竜騎士となった。

娘の入隊は反対しなかったのかな?

まさか飛び出して来たんじゃないだろうな。まあ俺の部署じゃないから、俺が責められることはなさそうだが。

 

マリータの操る飛竜はぐんぐんと高度を増していく。雲間に隠れた飛竜がヴェルトマー城の上空まで到達すると、そこから俺たちは飛び降りた。やっぱ風魔法って便利だわ。

 

「急ぎましょう。守備兵が少なくなっているとはいえ、見られていると面倒です」

 

サイアスが先頭で走り出す。この城の構造は知り尽くしているのだろう。足取りに迷いはなかった。

玉座の間にいたのはしわがれた黒衣の老人だった。見た目はあの時と変わっていないように思える。だがあの時とは比べものにならないくらいの異質さを感じる。

俺もかなり鍛えたはずだが、あの時以上の力の差を感じた。

 

「マンフロイ!」

「これはこれはサイアス皇子。隠れ潜むのはおやめになったのですかな?」

 

マンフロイが恭しく頭を下げる。だがその顔には嘲笑が浮かんでいた。そしてマンフロイはレヴィンに視線を移す。

 

「ふむ……見間違いかとも思ったが、貴様……シレジアのレヴィンか。なぜ生きておる? あの時、わしのヨツムンガンドは確かに貴様の心臓を貫いたはず……」

「私はおまえを殺すために冥府より舞い戻ってきたのだ」

「ふぉふぉふぉ、ならば今度は蘇られぬよう魂まで消滅させてくれるわ!」

「やってみるがいい! エルウインド!」

 

レヴィンの手の平から風の刃が解き放たれる。だが身体に暗黒の瘴気を纏うマンフロイは平然とその攻撃を受け流していた。

 

「ただのエルウインドにここまでの魔力を与えられるとはな。だがその程度……そよ風にすぎんよ」

「ならばこれでどうだ! トロン!」

 

気流に乗って一条の雷撃がマンフロイに襲い掛かる。

 

「トラキアの魔導騎将か。そこそこの魔力は持っているようだが……わしには通用せんよ」

 

マンフロイの反応から見るに、俺はどうやら忘れられているようだ。まああの時の実力差を考えれば、マンフロイにとっては飛び回るコバエ程度の認識でしかなかったのだろう。

だが本命はこれからだ。

 

「ファラフレイムッ!!」

 

聖句を唱え終わったサイアスの手から煉獄の炎が撃ち出された。

 

「ほぅ。ファラの血に目覚めたか。その力を恐れた時期もあったが……今や恐るるに足りぬ!」

「――なっ!?」

 

サイアスの目が驚愕に見開かれる。ファラフレイムの業火を、なんとマンフロイは片手で受け止めたのだ。

 

「暗黒の力を極めたわしには、もはや神器すらも届かぬ!」

 

ファラフレイムの炎がじわじわと押し返されている。このままではサイアスは己が放った炎に焼かれるだろう。

俺もトロンを放ち続けているが、マンフロイはこちらを一瞥もしない。

このままではやられる……俺がそう覚悟した時、風がやんだ。

 

「十分だ。サイアス司祭、ブラック将軍。マンフロイよ、これが貴様に死を告げる葬送の風だ。受けるがいい! 我が風、我が魂を! フォルセティ!!」

 

虚空から出現した豪風は、不可視の刃となってマンフロイを襲った。暗黒の瘴気は薄布のように切り裂かれ、マンフロイは右の肩から袈裟斬りになって二つに分断された。

 

「あ、ありえぬ! 神器もなしに魔法を! しかもこの威力……あの時とは……」

 

暗黒の力が逸れたことで、ファラフレイムの炎がマンフロイを包み込んだ。業火の火柱は天井まで届こうかという勢いだった。

 

「ガアアァァァッ!! おのれファラ! おのれセティ! 我が夢、我が野望、決して朽ちぬ! 必ずや蘇り、貴様らを抹殺してやろうぞ!!」

 

マンフロイは最期に呪詛の言葉を残し、炎に呑まれて焼失した。

 

「レヴィン殿。大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

 

口ではそう言っているが、肩で息をしているし、顔色も悪い。まるで病人のようだ。俺はそっと肩を貸した。

 

「……すまぬ」

「レヴィン殿。あなたは一体……」

 

サイアスが疑惑の目を向けてくる。無理もない。フォルセティの魔導書なしでフォルセティを放ったのだ。どう考えてもあり得ないことだ。あれは"本人"だからこそ可能な奇跡だろうな。

 

「話はあとだ、サイアス司祭。それよりも、マンフロイをもう一度焼いてくれないか」

「何を言っているのですか? さすがのマンフロイも……うっ!」

 

サイアスが眉根を寄せる。まだ燻り続ける炎の中で、黒いナニカが蠢いていたのだ。

 

「ヤツの生命(いのち)は暗黒の力によって保たれている。肉片ひとつでも残せば復活するぞ。跡形もなく焼き尽くしてくれ」

「……分かり……ました」

 

いつになく憔悴した様子で、サイアスは再びファラフレイムを放った。

 

 

 

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