FEトラキアから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第16話 トラキアの聖戦

ゲームをプレイしていた当時から疑問だったことがある。それはマンフロイが何故ユリアを殺さなかったのか、ということだ。これがユリウスの命令だったというのなら分かる。だがユリウスは即座にユリアを殺そうとしていた。それに待ったをかけたのがマンフロイだ。

 

その後、マンフロイに洗脳されたユリアは解放軍との戦場に送り込まれた。これもどうかと思う。ユリア一人の戦力で解放軍がどうこうなるとは思えないし、ユリアを殺させてセリスに絶望を与えようとしたにしても、それは一時的な愉悦であって、さらにいうなら余興でしかない。

ゲーム的な都合と言われれば「アッ、ハイ」と言うほかないのだが。

 

しかしこの世界(現実)のユリアは貴賓室のベッドに寝かされていた。洗脳されていたかどうかは、目覚める前に大元を排除したために不明のままだ。

俺が思うに、マンフロイはナーガの使い手となり得る聖者ヘイムの"血"を管理したかったのではないだろうか。

 

マンフロイはディアドラ、ユリアと二度に渡ってナーガの使い手の所在を見失っている。さらにいうなら、おそらく精霊の森の存在も知らなかったように思える。

聖痕は基本的に直系の子に現れるが、傍系であっても禁忌の手段を用いれば聖痕が発現することはある。

つまり神聖魔法ナーガとともに、その使い手も自分の管理下に置きたかったのだと思う。

 

だが一時的とはいえナーガの書とその使い手を一緒の場所に置くのはどうなんかな?

もしかして、マンフロイはナーガの書がヴェルトマーにあることを知らなかったのかもしれん。

なんかマンフロイって祭りの準備は入念にやるけど、いざ祭りが始まったらはっちゃけるタイプだよね。なんとなくそう感じた。

 

「……不思議な気持ちです。とても懐かしいような……温かい気持ち……」

 

玉座の背に隠されたナーガの書を手に取ったユリアが感慨深くつぶやいた。ディアドラのサークレットを鍵にするあたり、アルヴィスの心底が垣間見えたような気がする。

アルヴィスもまあ被害者だよなぁ。やったことはあんまり擁護できないけども。マンフロイが悪いよマンフロイが。

 

というかこの世界のマンフロイ強すぎない? ファラフレイムと拮抗勝負するとかちょっと想定外なんだけど。ゲームだと普通の武器でも普通に倒せたのに。まあ使い手が普通じゃなかったってのはあるけど。

 

「ユリア。ロプトウスに支配されたユリウス皇子を止めることができるのは、ヘイムの血を継ぐおまえしかいない」

「……はい。分かっています」

 

レヴィンの言葉に、ユリアが覚悟を決めた瞳で頷いた。そのレヴィンだが、かなり顔色が悪い。魔力を使い過ぎただけとは思えない。他に理由があるのだろう。なにせ神器を使わずにフォルセティを行使したのだ。いくら彼が古代竜族とはいえ、身体は人間なのだ。法則を無視した代償はあるはずだ。

 

「ユリウス兄さまは私が止めてみせます。レヴィンさまはもうお休みください」

「ああ。これ以上は、さすがに無理そうだ。ブラック将軍、ユリアを頼む」

「ええ、お任せください」

 

ユリアを連れて城門へと急ぐ。そこでは兵士の一人が俺の愛馬を用意していた。すでにアリオーン殿下率いるトラキア軍はバーハラに向けて出陣している。解放軍も進軍を開始しているらしいので、大勢は決しているだろう。

ただロプトウスだけが例外で、ナーガでしか対抗できない。とレヴィンは言っている。

 

ちなみにゲームだとそんなことはない。確かにナーガなしで倒すのはなかなか厳しいが、別にナーガがなくてもロプトウス(ユリウス)は倒せる。この世界だとどうかは分からないが。

 

まあ倒せるとしても多大な犠牲を払うことになるだろうな。

当然やり直し(リセット)など出来ないので、俺はユリアを乗せてバーハラへと急いでいる。

とそこで、前方を行くジャバローから速度を緩めろという合図が上がった。

 

「大将、なんかヤバそうだ」

「報告は詳細に頼む」

「変なのがいる」

 

変なのってなんだよ。だがふざけているわけではなさそうだ。ジャバローの額にはうっすらと汗が浮かんでいる。その視線を追ってみると……確かにヤバい光景が見えた。

まず目に入ったのは、聖戦士特有の輝きだ。彼らが神器の力を解放する時に発する淡い輝きである。目にも止まらぬ速さで剣閃が五回瞬く。その光を、対峙する戦士は全て捌いてみせた。

 

「……シャナンさま!」

 

ユリアの声は震えていた。そりゃそうだ。必殺の流星剣でかすり傷すら与えられなかったのだから。

 

「十二魔将か」

「知ってるのか大将!?」

「暗黒魔法の秘術で作られた戦闘人形らしい」

 

ジャバローの問いに、端的に答える。

元々はグラン共和国滅亡・ロプト帝国成立を導いた「十二魔将の乱」において語られる、ロプト帝国の伝説の戦士たちのことを指す。

素体に人間の死体を使用している為、痛みや恐怖に怯むことはない。また死人であるがゆえに、熟練の戦士たちが無意識に使用する先読みも通じ難い。むしろそれがあだになる場合もあるだろう。

ゲームだとステータスやスキル、命中率や回避率も見えていたため、ちょっと強めのザコくらいの印象でしかなかったが、この世界だと聖戦士に匹敵する強さのようだ。

 

戦場はかなり異様な光景だった。聖戦士と聖戦士クラスの将と、十二魔将だけが戦っているのだ。一般兵たちは後ろに下がり、援護に徹しているが、そのほとんどがかわされ、防がれている。あまり役に立っているとは言い難い。それほどの実力差があった。

 

「どうする大将? 正直、あそこに突っ込むのは勘弁してほしいぜ」

「……ふむ」

 

俺もあの場に突っ込む勇気はないな。ユリウスは出てきてないのか。まあラスボスだしな。となると……。

 

「彼らが守備兵を引き付けている間に、城に潜り込む……か?」

「悪くない案だが、そう上手くいくかね?」

「……バーハラには外に通じる隠し通路があります」

 

ユリアがぼそりとつぶやく。

 

「確かに定番だ。だがそれは、ユリウスも知っているのではないか?」

「……かもしれません。どうしますか?」

 

ユリアの瞳がじっとこちらを見つめた。アルヴィスはユリウスに伝えただろうか。ふたりの関係を考えれば、可能性は低いように思える。バーハラの重臣たちが伝えた可能性もあるが……まあこのまま突っ込むよりはマシか。

 

「……案内してくれ」

「はい」

 

ユリアの案内に従い、森の中を歩く。地面に埋まっていた地下扉を押し上げると、地下通路の入り口が現れた。この位置から城まで続いているとなると、相当の距離だな。

 

「では行こう。ユリア殿、灯りを頼む」

「はい」

 

ユリアが光魔法で光源を生み出す。俺では炎の灯りしか作れないからな。さすがに地下通路で炎は危険だ。

岐路は二つあった。おそらく複数の出口を作ってあるのだろう。王都だけあって用心深いことだ。

どれほど歩いただろうか。大体5キロくらいだと思うが、暗闇の行軍だ、自信はない。

警戒しつつ出口の扉を引くと、そこは貴賓室のようだった。扉は書棚の裏だったのだ。

 

「……待ち伏せはされてねぇみたいだな」

 

正面の壁には肖像画が飾ってあった。若かりし頃のアルヴィスとディアドラだ。

 

「ここはアルヴィスの私室か?」

「いえ、ここは母さまのお部屋です」

 

なるほど。あの肖像画がアルヴィスのものなら、シアルフィに居を移す時に持っていくわな。

室内は綺麗に保たれていた。手入れが行き届いていることが窺える。ユリウスが気を回すとも思えないので、アルヴィスの手配だろう。

 

「急ぐぜ大将。お嬢ちゃん、案内を頼む」

 

外の様子を確認したジャバローが小声で指示を出す。ユリアは小さく頷いた。

警備兵の気配を探りながら、慎重に歩を進める。だが警備兵の姿はひとりとして見えなかった。

もしかして全員出撃してるのか?

 

「……不気味なほど静かだな。しかもここにも、誰もいないとは」

 

玉座の間に続く扉の前。通常なら最低でもふたりは警備兵がいるはずだが、ここにも兵の姿はない。

 

「じゃあ開けるぜ大将……ん? どうしたお嬢ちゃん?」

「闇の力が……ロプトウスの力が……どんどん強まっています。この力は……ううっ」

 

ユリアが震えながらナーガの書を強く握りしめる。俺はジャバローを押し退け、そっと扉を開いた。

そこには蹲って苦悶の表情を浮かべたユリウスがいた。そして、こちらに気付いたのだろう。赤く輝く双眸がこちらを向いた。

 

「ググ、グオオオオォォォォッ!! ユリア……ナーガ……ナーガァァァッ!!」

 

ユリウスの身体が暗黒竜へと変貌していく。発声器官も変形したためか、人間とは思えぬほどの醜悪な響きがあった。

 

「……おいおい、勘弁してほしいぜ」

 

ジャバローは反射的に剣を構えていた。

ロプトウスの力を制御できなくなったのか? いや、違うな。これがマンフロイの計画なのだろう。

ユリウスは憑代(よりしろ)だったのだ。暗黒竜ロプトウスを降臨させるための。

 

「一旦距離を取るぞ!」

 

ユリアを担ぎ上げ、来た道を引き返す。その直後、暗黒竜の巨体が天井を突き破った。

でかい! ミレトスで暗黒竜が出現したとの報告は受けていたが、その目撃情報よりも巨大だ。

 

狂乱の暗黒竜は、もはや敵味方の区別もついていないようだ。その姿に拝礼している暗黒魔導士たちも容赦なく薙ぎ払っている。

あ、指揮を執っているらしい暗黒司祭も踏み潰された。

 

ここで一陣の風が暗黒竜を襲った。セティの操る風魔法フォルセティだ。続けてファバルの聖弓イチイバルと、投擲されたアリオーン殿下の天槍グングニルが、暗黒竜の双眸に突き刺さった。

 

だがその一瞬後、瞳に暗黒の瘴気が迸ったと思えば、その傷は瞬く間に再生した。

地上の方ではアレスの魔剣ミストルティン、シャナンの神剣バルムンク、セリスの聖剣ティルフィング、三振りの剣による斬撃が、超絶の剣技によって叩き込まれていた。

 

さらにはキュアン将軍の地槍ゲイボルグが突き刺さり、サイアスの炎魔法ファラフレイムが暗黒竜を包み込む。

しかし斬られた傷は即座に再生し、全身を包み込む炎は羽ばたく翼によって搔き消された。

 

「……ありがとうございます、ブラック将軍。もう、大丈夫です」

 

ユリアの震えは止まっていた。大したものだと思う。いくら神聖魔法ナーガを持つとはいえ、今からアレと戦うのだ。年若い少女なら逃げ出してもおかしくないほどの恐怖だろうに。

 

「ディアドラ母さま。力をお貸しください」

 

左手にサークレットを、右手にナーガの書を握りしめる。ユリアの身体が聖光に包まれていく。

 

「目覚めよ、光の竜よ。ナーガ!!」

「うぉっ!? まぶしっ!?」

 

目を覆う光とともに、ユリアの身体は光輝く竜へと変じた。

暗黒竜と閃光竜、ふたつの巨体がぶつかり合う。

そして、止まった。

 

「なんだってんだ? なにが起こってる?」

「……もしかしたら彼女は、ユリウスを救おうとしているのかもしれん」

「そんなことできんのか? 大将」

「さあ、な」

 

ナーガの力でロプトウスを封じられるのか否か。たしか竜族の格としてはナーガの方が上だったはずだが……。

解放軍、トラキア軍、そしてバーハラの兵たちもが、戦いを止めて静止した二体の竜を注視している。

永遠に続くかと思われた停滞の中で、突如として稲妻のような声が響いた。

 

「ユリウス様! 邪悪な意思などに負けないでください! 私はユリウス様を愛しております! ユリウス様!」

 

そう叫ぶ少女の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

世界が光に包まれる。

ナーガの背から生まれた光の翼が、暗黒竜を包み込んだ。それはとても温かく、優しい光だった。

そして、しばらくの後に光は収束し、竜の姿は消え去った。その場所にはふたりの少年少女が倒れていた。

戦いは、終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの血が流れた。暗黒教団の子供狩り、度重なる戦。多くの人が傷つき、大国グランベル帝国の皇帝も命を落とした。

だが人々の間に悲壮感はない。多大な犠牲を払ったが、暗黒の時代は終わりを告げ、彼らには新たな希望が生まれたからだ。

つまり、新王の即位である。

解放軍の盟主、光の皇子セリスが正式に王となったのだ。彼は狂乱の暗黒竜によって破壊されたバーハラの再建の指揮を執っていた。

 

イザーク王国はシャナン王の下に導かれていくだろう。

シレジア王国では、セティが国王として即位した。レヴィンは、いつの間にかいなくなっていたらしい。セティはレヴィンの正体には感付いていたらしく、追及はしなかったようだ。

 

アグストリア諸侯連合には、アレスが帰還した。かつての獅子王エルトシャンを慕う者が、彼の下に集まっていると聞く。

ヴェルダン王国では、賢王バトゥの孫にあたるファバルとパティを解放戦線の人々が迎えた。

ただヴェルダン王国はパティか、あるいはいつの間にかパティと恋仲になっていた我が息子ディアスが入り婿となって継ぐことになりそうだ。

 

これには聖弓イチイバルの継承問題が絡んでくる。ファバルがヴェルダン王国を継ぐということは、神器がヴェルダン王国に移ることを意味している。

戦後の混乱期ということもあって、今はたいした問題になっていないが、後々ユングヴィ公国がどういう態度を取るか分からない。

神器の求心力ってのはマジでバカにできないからな。それはアグストリアやユングヴィの歴史を見ても明らかである。

 

ユングヴィを継いだ、というか継がざるを得なかったスコピオは自滅に近い形で終わりを迎えた。統治に問題があったというのもあるだろうが、ヴェルダンのレジスタンスに領民が内応したのだ。

俺が根回ししておいたってのもあるけど、これってよっぽどのことだと思うよ。だってユングヴィは一度ヴェルダンに攻められてるからね。二十年前とはいえ、覚えてる人間もいるだろうに。

 

よってユングヴィ公国はファバルが継ぐように念押ししておいた。それが自然な形だ。ヴェルダンには元々なかったんだから、ごねるのは筋違いだろ。

正直、ヴェルダンは帝国領にした方が発展しそうな気もするんだが、国民感情なんかもあるしな。難しいところだ。

 

グランベルに残った面々もいる。

ヨハン、ヨハルヴァ、そしてラクチェはドズル公国再建に尽くしている。クロードの遺児コープルはエッダ公国を継ぐことになり、サイアスは父アルヴィスの門地であるヴェルトマー公国を治めることとなった。

サイアスはその出自故に揉めるかとも思ったが、トラキア軍と共に戦ったことと、やはりファラの聖痕が民衆の心を惹きつけた。

 

フリージ公国はアーサーが継いだ。アーサーとイシュタルの婚姻話もあったようだが、どうやらそれは流れたらしい。

なんでも彼女の傍には、常に車椅子に乗った赤髪の少年がいたとか。

 

トラキア王国もまたお祭り騒ぎだった。アリオーン殿下が正式に国王として即位し、アルテナ王妃の第二子の出産が発表されたからだ。

動乱の時代は終わった。これからは希望の未来が訪れるだろう。

 

 

 

                   ~FIN~

 

 

 




というわけで完結です。
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