大乱闘スマッシュブラザーズに他の作品が参戦した世界線 作:薬師審神者
夏の人混み
ダダンダダン…ダダンダダン…
田舎の景色から都会の町並みに変わりゆく窓の外を一人の青年―――
彼は主である
電車の中はあまり人がおらず、他の乗客がスマホを操作する音しか聞こえない。
《まもなく…終点です…この電車は終点のあと回送電車となります…》
そんなアナウンスが流れると、山姥切国広は数日分の着替え、財布、歯ブラシその他重要書類が入ったカバンを上の棚から下ろし、出入り口の前に立つ。
窓の外に見える人がたくさん行き交うこの街では人が少ないこの電車がそれとなくミスマッチしていた。
何せ、山姥切国広が住んでいる場所は遠い田舎だ。誰にも見つからないような、山の奥だ。
そこからやってきた電車に乗る人はあまりいない。
電車が停車し、ドアが開くと、真っ先に山姥切はホームに降りた。
湿った夏の暑さが頬を打ち付ける。
セミがどこからかジージーと鳴き、どこからか子供達が遊ぶ声が聞こえる。
どうも、今の時期、夏休みらしい。
山姥切は自分の主を思い出す。
彼女も確か中学生で夏休みの真っ最中だ。今頃、
彼女は宿題を遅らせるような人ではないが、今年はちょっと面倒くさいことに巻き込まれたのだ。
なので、実際本丸総出で主の宿題を手伝っている。
山姥切は一人、自動販売機で水を買った。
地元にあるようなボタン式ではなく、ここのはタッチパネル式だった。
本丸から一番近い大きな街でもこんなものはなかった。
山姥切は時代は進んだものだ、と思いながらペットボトルの蓋を開け、水を飲んでいく。
『まもなく…9番線から…回送電車が発車いたします…黄色い線より後ろにお下がりください…』
放送がかかり、さっきまで乗っていた電車が駅から出て行く。
つい、クセで電車に手を振る。これも主の影響だ。
「あんた、かわいいね」
その声で山姥切は振っていた手を瞬間的に下ろす。
しかし、知らない人の声ではなかった。
いや、正確に言うと知っているが知らない人の声だ。
「よっ、まんばちゃん」
「
振り返り、声の主を見ると、加州清光がいた。
その加州清光はいつもの内番服、戦闘服でもなく、かなりラフな服装をしている。おまけにサングラスを頭にかけていた。
「まんばちゃんも武闘会に招待されたんだね」
「…ああ」
「めっちゃ緊張するよね〜。あのさ、一緒に会場まで行かない?」
次から次に喋りだす加州の口は誰にも止められない。
山姥切は仕方なく、武闘会会場まで彼と同行することにした。
◆◆◆
「へえ〜そっちの審神者は女の子なんだね。やっぱりかわいいの?」
「ああ」
「マジで〜?!あのさ、男所帯に女の子ポツンとかだったたら、色恋沙汰とかあるでしょ?」
「ああ」
「いいな〜。俺の主、中年のオッサンでさぁ。いや、別に嫌というわけではないんだけど、主も十分俺のこと可愛がってくれてるし。でもやっぱり憧れるなぁ」
山姥切は加州のマシンガントークを適当にあしらいながら、都会の様子を見る。
やはり、武闘会が開催されるだけあって活気強かった。
それに武闘会の選手だろうな、と見受けられる人も何人かおり、田舎では味わえない新鮮な雰囲気だ。
「……ねえ、まんばちゃん。聞いてる?」
「え?」
「ちょっと、俺今さ大事な話してたんだけど」
加州はプクーと頬を膨らませ、山姥切に怒る。
山姥切はすまない、と謝ると、加州は元の表情に戻り、真剣な顔で話しだした。
「武闘会ってさ、予選で落ちるかもしれないんだよね?!」
「…………なんだ。そのことか」
「なんだ。そのことか、って〜!!!俺、この大会で良い結果出せなかったら、主に愛されなくなっちゃうよ〜!まんばちゃんもそうじゃないの?ね?ね?」
「別に」
「なんでえ〜〜!!」
ポカポカと加州は山姥切に八つ当たりする。
山姥切ははあ、とため息をついた。
どうやらこの加州清光はかなりおしゃべりらしい。
ふと、周りを見回した。
都会の景色で当たり前の人混み。スクランブル交差点の信号が青になり、一斉の人が動きだした。
その真ん中、丁度横断歩道と横断歩道が混じりあっているところに一人の少年が立っている。
山姥切はその姿を見ると、周りのことなど気にせず、一気に走り出した。
「ま、まんばちゃん?!」
加州の呼び止める声も聞かず、山姥切はその少年に向かって走っていく。
少年と五メートル近付いたころ、山姥切は背中に掛けていた刀――本体を抜き、少年に向かって斬りつけた。
「ちょ、なにしてんの!!」
加州だけでなく、周りの人達も驚いている。
加州は人混みを掻き分け、やっと山姥切のところについたかと思うと、あの少年はもういなくなっていた。
「まんばちゃん、一般人を攻撃するなんておかしいって!違反にならない?!」
「主命だ」
山姥切はカチンと刀を収めた。
その音は少し苛立ちが見え隠れしている。
あの少年を殺すことが山姥切国広に対する審神者の主命なのだろうか。
加州は敢えて何も聞かずそっか、とだけ返し、山姥切とともに野次馬の波を掻き分け、武闘会のスタジアムへと向かった。