たった一房の、さらりと流れるようだった黒髪を残し、彼女はいなくなってしまった。僕の血の繋がらないたった一人の家族、世界で一人だけの僕の姉。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。どこで間違えてしまったのだろう。考えれば考える程、その全ての選択を誤っていたようにしか思えない。それもその筈で、きっと最初から、何もかも間違っていたに違いない。そうでなければ、きっと今、彼女は僕の隣りで笑っていてくれた筈なのだ。
彼女がここに居ないのも、この肝心な時に役立たずな紋章が僕の命を削るのも、憎きあの黒き刃の紋章に親友が蝕まれていくのも、全て、間違えてしまったからなのだろう。何を間違えたのかと言えば、数が多過ぎて全てを上げ切る事は叶わないけれど。
ロックアックスの城に、どうして彼女を連れて行ってしまったのか。クロムの村で、どうして手を取って共に逃げてしまわなかったのか。駐屯地にもぐり込んだ時、どうして僕は彼を置いて行ってしまったのか。もっと言うなら、どうして僕たちは少年兵などになったのだろう。狭い世界の中で生きていれば、きっとこんなに苦しい事なんて知らずにすんだ。やり直せるならばと何度思った事だろう。
「賽は投げられた。やり直す事は出来ない」
最終通告のように、隣国の英雄は言った。身をつまされる程に後悔をして、僕はそれを思い知っている。もう涙も流れない。
「僕らはよく似ている。だから君ならばと期待した反面、こうなるんじゃないかとも思っていた」
僕も全て亡くしてしまったから、そう続けた彼の眸は優しく、そして全てを諦めているようで。彼も後悔しているのだと、何故だか僕にはそう思えた。
「同朋よ、彼女は召された。君を一人置いて行くとはなんと罪深き娘であろう」
涙すら枯れ果てた僕の前に、彼は手を差し伸べ言うのだ。
「抗う力すら亡くした同朋よ、ならば共に歩もうではないか。仇を討つのだ、同朋よ。歩みを止めるなど不可能と知れ」
それはまるで謳うように軽やかで力強い、
「加速する歯車は止められはしない。行き着く先が黄昏であれど、君は見定めねばならぬのだ」
それは激励であり、鼓舞であり、そして宣告なのだと理解した。
「一人立つ事敵わぬならば力を貸そう。君が命、尽き果てるまで抗い賜え」
彼はきっと、僕の同盟者であり、共犯者であり、理解者なのだろう。
未来は既に決していれど。
ああ、彼女はマグダラの娘。
夕日映える丘に、残された其の身が風に舞う。
マグダラの娘
加筆あり。
2主ナナとか超好き