「テッド、その荷物、何」
荷を纏めて出て行く前に立ち寄った所で、ティルにそう問われ俺は覚悟を決めた。本当はもっと早くに出て行くはずだったのだけれど、この家がティルの隣りがあまりに居心地が良かったから長居してしまった。けれど、此処に居られぬ理由がある。
出て行く覚悟を決めたとき、話そうと思った。話す覚悟は今、決めた。
「おまえを守る為に、ここを出るんだ」
「意味が分からない」
傷ついた眸で睨むティルに胸が締め付けられる。
「俺の右手には紋章がある」
そう言って俺は手袋を外し、包帯を解く。ティルにも見せた事のない右手だ。
「先に言っておく、おまえは俺の親友で、家族みたいにおまえが大切だ。とても大事だ。だからこそ離れなきゃならない」
解き終えた包帯が床に落ちて、右手が露になる。ティルの目がこの右手の禍々しい紋章に釘付けになっているのが分かる。
「……それは?」
「24の真の紋章の一つ、生と死を司る紋章。別名をソウルイーターという」
「それがテッドが此処を出て行く理由?」
正面から見据えられ、一瞬怯みそうになるけれど、俺は頷いてティルをみた。
「そうだ。この紋章は俺の大事な人の魂を食らう。三百年間、俺はこの紋章と共に生きてきた。その間にこの呪われた紋章は何百という人間を死に至らしめてきた」
普通の奴には理解できないかもしれない。だけど、俺はティルに知っていてもらいたかった。俺がどんな風に生きてきたか、俺がティルをどんなに掛け替えの無いように思っているか。
「このままおまえの傍に居れば間違いなく紋章はおまえの魂をかすめ取るだろう。だから俺は此処を出て行くよ、俺はおまえを死なせたくない」
別れがこんなに辛いと思うのは本当に久方ぶりだ。この紋章がこんなにも憎いと思ったのも、同時にこれほど感謝したのも、初めてだ。この紋章によって生きながらえさせられなければ、三百年もの時を経て、俺がティルに出会う事もなかったのだから。
「それにおまえだけじゃない。グレミオさんも、テオさまも、クレオさんやパーンさんだって、もう俺にとって大切な人なんだ。誰もこの紋章の所為で死なせたくない」
俺の言葉に僅かにティルは俯いて、それから何処までも真っ直ぐな目で俺をみた。
「確かに父さんやグレミオたちを死なせるというなら、僕はテッドを引き止める事はできない」
正にその通りなんだが、やっぱりおまえにそう言われるのやっぱり辛い。だが続いて発せられた言葉は俺の予想を遥かに上回るものだった。
「僕はテッドと別れるのは嫌だ。僕も連れて行け」
「おまえ、俺の話を聞いていたか?」
思わず聞き返すと「聞いていた」と返される。俺はおまえを死なせるのが嫌で此処を出て行くと言ったはずなんだが。
「人間なんていずれ死ぬもんだ。早いか遅いか、それだけだろう。死んだらもう会えなくなる、けど、その紋章に食われればテッドがその紋章を持っている限り、テッドと一緒に居られるってことだろ?」
僕もテッドが大好きだ、なんの衒いもなくそう言われ、逆に俺が怯んでしまう。
「死んでからもテッドと一緒に居られるんだ、そう考えればその紋章に食われるのも悪くない」
だから僕も連れて行け。そう言って軽く握った拳で肩を叩かれて思う。
ああ、こいつには適わないな。
アメミットの紋章
if テッドがティルに紋章について話していたら。
テッドと坊ちゃんの関係が好き過ぎてヤバい