掌編小説まとめ   作:葱定

5 / 7
エンド・オブ・ザ・ワールド(遊戯王GX)

 

『十代……泣いてるのかい?』

 すべてを見下ろす程に高く積み上がった瓦礫の上で、一人膝を抱える十代にユベルは労るようにそっと声を掛けた。

「泣いてなんかないぜ。そりゃ、ちょっとは落ち込んでるけどさ」

 そういって、十代は更に深く膝を抱えて身を竦めた。その拍子に足下の瓦礫が音を立てる。しん、と静まり返った中で、細かい破片がぱらぱらと崩れる音だけが響いていく。世界ってこんなに静かなものだったっけ、ぼんやりと十代は思う。

『そう、だね……何も感じなかったら君じゃない。誰かの言葉を借りるなら、これがこの次元の運命だったんだよ。だから君が気にする事じゃない』

 十代の心の機微を読みとって、ユベルは優しいけれど、それでいて残酷な言葉をかけた。その言葉は十代の胸にちくりとした痛みを伴い突き刺さって、それからすうっと染み込むようにして馴染んだ。ユベルの言葉は正しいけれど、すべてを突き放した言葉だ。人も、この世界も、そして十代すらも。

「そう言われると堪えるな……そりゃさ、俺の所為だなんてそんな傲慢な事は言うつもりはないぜ。俺なんかじゃどうする事もできなかったって、ちゃんとわかってる」

『だったら』

「わかってるけどさ、でもさ……ねぇよな、こんな風に終わるなんてさ……ねぇよ。遣りきれねぇよな……」

 そう言った十代の声は震えていて、ユベルは遣りきれない思いで目を伏せた。十代は抱えた膝に顔を伏せていて、ユベルからはその表情は見えなかったけれどきっと泣き出しそうに顔を歪めているのだろう。

『僕たちは見ている事しかできなかった。そうさ、君はもうこの世界の住人じゃない。君はもう、僕たちと同じようにこの世界に干渉するだけの存在ではなくなってしまっているんだもの。仕方ない事だったんだ』

 言いながら、ユベルは身を屈めて十代の栗色の髪を撫でた。掌に感じるのは確かにそこにある十代の、お世辞にも手触りのいいとは言えない髪だ。

『世界は僕らの手をとうに離れてしまっていた。だから、これは彼らが望んだ世界なんだよ。破滅の光でも、神を名乗る暗闇が定めた訳でもない、これは人が作り上げた世界なんだ』

 そう言ってユベルは顔を上げ、遠くの空を見た。日の光も射し込まない厚い黒雲から、白が世界中に降り注いでいく。まるで雪が降るように、世界中を白く、灰が染め上げてゆく。

 何もかも埋め尽くして白くしてしまえばいい、ユベルは思う。十代の目から、すべて隠してくれればいいと心から思った。何が解決する訳ではないと知っていたけれど、それでも僅かな慰めにはなるはずだ。

「ユベルと一つになる前に、ネオスと破滅の光と戦ったんだ。そん時さ、ソーラって言うレーザー衛星が地球を焼き尽くそうとしてさ」

 静寂を破るようにして、十代はぽつぽつと話した。思い詰めたようにして言葉を切った十代に、ユベルは促すように相槌をうつ。

『うん』

「俺、結局、何をしてやれたんだろう」

『君は君にやれる事をしたんだろ。他の何の意志でもなく、これはこの次元に生きた人間たちが選んだ事なんだ。だから』

 君が背負う罪は、何もない。そう言ったユベル自身、思う所もあるのだろうか。言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返す。

『君がこの次元の人間の咎を負う必要なんて、ない。彼らはもう責を負ったんだもの。だからこの世界は終わってゆく』

 そう言ってユベルは立ち上がる。視線を投げると、ずっとずっと遠くの方の空を、浸食するようにして真紅が黒雲を染めていた。あの辺りはまだ火が燃えているのだろう。黒い空を舐める焔に降り注ぐ白い灰────それはとても幻想的で美しい光景だった、いつか怖い夢で見たように。

『僕らに出来る事は見ている事だ。すべてを見て、そして忘れない事。もうそれしか出来る事なんてないんだ』

 乾いた風が吹いた。積もった白い灰を巻き上げて、まるで吼えるように、すべてを嘆くように音を立てて駆け抜けていく。それはすべてを悼む子守歌のように、力強く悲しげで、とても胸が痛くなる気がした。

『もう行こう。ここには何もない』

「……そうだな」

 ゆっくりとした動作で十代は立ち上がった。それは言葉とは裏腹に後ろ髪を引かれるような、名残を惜しむ様だった。積み上がった瓦礫を見下ろして、十代は言葉を紡ぐ。

「おやすみ……」

 すべてを呑み込んだこの世界に、安寧と祝福を。そして、安息を。

 すべてが安らかに眠れるように、十代は心から祈った。

 

 二人が姿を消した後、静かに灰が舞い上がった。それはまるで雪が風に遊ぶ様で、そんな中、終わりを告げる唄が静かに響いていく。





ユベルと超融合した十代が半精霊化して世界の終わりを見届けるだけの話

確か遊戯王のカードをお題にして書いた話だった気がする
ルインもデミスもどっちも使ったデッキ使ってた平和な時代もありました(ファンデッカー)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。