「オブライエン、それってドッグタグ?」
「…………認識票だ」
野営するオブライエンの所に入り浸る引き蘢りがそれを見つけたのは偶然だった。彼のまとめられた荷物のなかから、銀色のボールチェーンがはみ出していて、それを見た十代が引っ張り出したのだ。
オブライエン本人はドッグタグと評されるのはあまり好きではないようで、僅かに眉間に皺を寄せて訂正する。そんな様などどこ吹く風で、十代はつまんだ金属板の部分をそれぞれ両手に持ち上げた。
「二枚ある。なあ、一枚くれない?」
「……オレはまだ死んでいないんだが」
本来は戦死時の身元保証用の代物なのだが、オブライエンが持っていたのは傭兵であるからだろう。そして戦死した場合に片方が回収され、遺族に手渡されるのだ。
ついでに言うならに十代は遺族でもなんでもない。興味本位でそういう事を言われるのは不愉快だと、言外にそう伝えるオブライエンを見て、空気を読まない十代でも何を言いたいかは察したようで。
「そんなん知ってるって、そういうんじゃなくてさ」
そんなつもりは無かったのだと、ちょっと困った様に首を傾げて、少しばかり考え込んでから十代は改めて口を開いた。
「なんていうか、戻って来れる様に……?」
「意味が分からん」
大体にしてオブライエンには十代の意図が掴めない。それは何時もの事であるし、この時もまたそうであるのだとオブライエンは考えた。大抵深く考えた方が負けなのだ。
「はは、なあ、貰っていい?」
繰り返して尋ねる十代に、言って聞かせても引かないだろうと思い、オブライエンは一つ溜め息を吐いた。こうなった十代は理を持って説得する方が大変なのだと、経験から知っている。
「別に構わん」
また新しく用意しなければならないが、今回に関してのみ言えばそこまで必要であるものでもないとオブライエンは判断した。手間と言えばそれ位で、あまり大きくならなかった被害に彼としては少しばかりほっとした。
こうしてオブライエンのタグの片方は、十代の手に渡ったのである。
「……あれはこういう意味だったのかもしれんな」
誰にも何も知らせずにひっそりと旅立って行ってしまった十代を思い、オブライエンは小さく零した。只の気まぐれだとばかり思っていた行動に、ささやかな祈りを今になってオブライエンは感じたのである。
またここに戻って来られます様に。
それが本当に彼の願いであるかは、当の本人しか知る由のない事である。
蜉蝣の岸、銀の羽
戦線復活の代償というカードをモチーフに創作した掌編です
一二を争う位イラストが好きなカードです