トンガ人留学生の放ったアイアンシュートにより、軽症者3名・重傷者5名・死者1名の大惨事が起こる。トンガ人率いる北高との対戦を控えた俺たちは地獄の特訓に挑む。
これはサッカーに青春をかけた少年たちの物語。
その日、高校サッカー界に激震が走った。
全国サッカー選手権・静岡県予選第一回戦、北高VS南高。北高の攻撃から始まり、試合開始直後にトンガ人留学生アピュ・アピ・アブドゥルのセンターサークルから放ったシュートが相手キーパーもろともゴールネットを突き破った。
キーパーの肋骨を砕いたボールは、ゴール裏のコンクリート塀を粉砕。会場が騒然とするなか試合は続行し、14対0で北高の圧勝。南高の選手に軽傷者3名、重傷者5名、死者1名を出した大惨事は「静岡の悲劇」と呼ばれ、マスコミ各社が大きく取り上げる事態となった。
北高との二回戦を四日後に控えて練習場に立つ俺たち西高サッカー部の面々は、マネージャーのスマホで例の試合の動画を観ていた。映し出されたのはトマトのように頭が潰れる選手の映像である。DFの山本が嘔吐した。みんなガタガタと震えている。
「お前ら、まさかビビってるんじゃないだろうな」
いつの間にか練習場に現れた監督が開口一番そういった。
「武者震いです!!」と俺たちは大声をあげた。
この中に臆病者はいない。臆病者は全員退部した。俺たちは決して逃げたりしない。
満足そうに頷いた監督は俺たち全員の顔を見渡した。
「これから北高に勝つための特訓を始める! アピュ・アピ・アブドゥル君の放つアイアンシュートから絶対にゴールを守るぞ!!!」
「はい!!!」と皆が一斉に答える。
「では、今日から三日間、練習はこれで行う!!!」
地面に落とされたのはボウリングの玉だった。
「これからこのボールを使って練習をしてもらう!! 分かったな!!!」
「分かりました!!」
みんながそれぞれボウリングの玉を手にグラウンドへ散っていく中、俺だけが監督に呼ばれた。
「キャプテンのお前には三日間でアイアンシュートを習得してもらう。できるか?」
「もちろんです!!!」
こうしてボウリングの玉を思い切り蹴った俺は足を粉砕骨折し、試合当日の今ベンチで大声をあげている。
「がんばれ!!! みんながんばれ!!!!」
過酷な練習で負傷し、試合に出られなくなったのは俺だけでない。二・三年は全員である。DFの山本にいたってはヘディングの練習で死んだ。
今、フィールドの立っているサッカー部は全員一年である。しかも普段は幽霊部員の一年だ。やる気のある一年は全員死んだ。足りない人数は他の運動部や帰宅部からの応援でおぎなっている。
アピュ・アピ・アブドゥル君は出場しなかった。人を殺すから、という理由でサッカー界から追放された。今、普通のサッカーの試合が進行している。
「歩くな!! 走れ!!」と監督に怒鳴られた帰宅部が不貞腐れて帰ったため、急遽俺がフィールドに立つことになった。
後半アディショナルタイム。46対0の大差で負けている中、俺は松葉杖をつきながらフィールドへ向かった。思い出作りのために。
しかし無慈悲にも副審がそれを止めに入った。俺が副審と揉める中、試合終了のホイッスルが鳴り響き、こうして俺の高校サッカー生活は幕を閉じた。
その後、大学でサッカーを続けた俺はアイアンシュートを習得しサッカー界を追放されることになるのだが、それはまた別の話。
―完―