プロローグ
ハンターは、誰もが英雄になる資格がある。
巨大で、凶暴なモンスターを殺し、村を、国を、王国を、民の人々を守り、ある者は巨万の富を、ある者は未来永劫語り継がれ、ある者は英雄と崇められる。
彼等はその短い時の中で夢を見て走り続ける。
その命というガソリンを使い、夢という車を走らせ続けるのだ。
故に彼等は英雄と呼ばれる資格がある。
例え死期を早める事になろうとも、彼等は夢を見ながら突っ走る。
それが英雄でありハンターなのだ。
そしてそのハンターには階級がある。
【下位】比較的小さな集落や村等に被害が出る可能性があるモンスターを狩るハンター。
【上位】村、街などに甚大な被害を及ぼす極めて危険なモンスター、古龍を狩る、撃退するハンター。
【G級】国が対処出来ない、天変地異や災害として扱われる超危険モンスターを狩るハンター。
そしてそのG級こそがハンターの頂点であり、生きる英雄。
ハンターの象徴なのだ。
✺▲▽■▲▽✺
「ひっ……! はっ! はっ!」
ガシャガシャと鉄と鉄がぶつかり合う音を響かせながらぬかるんだ地面と水溜まりを踏みながら走り続ける。
走りすぎて脇腹の辺りにナイフで刺されたような鋭い痛みが俺の精神に負の感情を植え付け、足の裏は熱湯を掛られたようにあつい。
「止まりたい」「休みたい」「少しくらいなら」と甘い誘惑が俺の心を揺さぶる。
しかしそんなに誘惑を跳ね除け、再びアイテムポーチから強走薬グレートを取り出し、蓋を開けて走りながら強走薬グレートとを喉に流し込んだ。
次第に脇腹の痛みと足の裏の熱が引いていく。
そして俺は走るスピードをさらに早くする。
自分よりもはるかに大きい、天変地異のようなモンスター達から数多の攻撃を防いでくれたジャック・ソリトゥスの愛用の防具であり、【上位】個体である赤い上鱗等に身を包み、体内にある業火袋で縄張りに入った敵を焼き殺し、飛行能力が高く、空中で他の飛龍も圧倒するその姿は『空の王』と称されるモンスター。
【火竜】リオレウス。そしてそのリオレウスの素材から作られた装備、レウスSシリーズ。
これ程までにモンスターと戦う時頼もしい防具は無いだろう。
しかし、こうして逃げる時、防具はただの鉄塊でしかない。
いくら強走薬グレートが一定時間スタミナを一切減らさないと言っても、身体が防具と言うなの鉄塊の重りで既に悲鳴をあげ続けている。
このままでは体力より先に身体が壊れてしまう。
こうまでしてジャックが逃げているモンスターは
「ギャッ! ギャッ、ギャウッ!」
【下位】のドスジャギィである。
上位装備一式の男が、下位の、しかもハンターになりたての初心者が練習として狩る比較的弱いモンスターであるドスジャギィから逃げているのだ。
確かに無防備な人間なら勝つことは不可能であろう。
しかし、上位のモンスターの素材から作られた防具ならまず間違いなく怪我どころか、防具に傷すら付けることは不可能だろう。
そしてジャックが装備している武器はまだ謎多き龍、【古龍】天廻龍シャガルマガラの幼体であり、古龍の幼体でありながら、古龍出ない存在。
白く神々しい天廻龍シャガルマガラとは正反対の黒く禍々しい体色をしたモンスター、【黒蝕竜】ゴア・マガラの素材から作られた大剣、プライドofシャドウ。
それを更に上位個体であるゴア・マガラの素材によって強化された大剣、プライドofドゥーム。
これらを装備するということは、そのモンスターを狩った証拠であり、証明、武勇伝なのだ。
ドスジャギィでは比べることも出来ないほど大きく、巨悪なモンスター達を鏖殺したはずのハンター。
なのにも関わらず、恥も捨てて必死に逃げ続ける様は臆病者としか言いようがない。
「た、助けてくれぇ……ッ!」
しかも恥を捨てて上位装備の男は必死に助けを求めていた。
これ程無様で哀れなことは無い。
身に余る防具と武器を装備し、戦うことを恐れ、逃げるさまは、恥知らずという言葉がお似合いだった。
「あっ」
そこで男は小さな段差に躓いた。
そのまままるで球体を坂で転がす様に、男はゴロゴロと転がっていき、そのまま壁にぶつかって止まる。
「いっつぅ…………」
頭を強く打ったらしく、防具の上から頭を抑える。
意識が混濁し、周りの視界がぐにゃんぐにゃんと歪んでみえ、上手く周りを見ることが出来ない。
何とか視界を戻そうと、何度も瞬きし、やっと正常な視界に戻ると、目の前には5匹のジャギィがジャックを取り囲み、真後ろでドスジャギィがジャックの頭ごと喰いちぎろうとガパリと口を開けていた。
(あ、俺の人生終わった)
そうしてジャックが自身の人生の終わりを悟った。
しかし、ドスジャギィがジャックに噛み付くよりもよ速くドスジャギィの首と目玉に短剣が突き刺さる。
「ギャベッ!?」
目に刺さった短剣はすぐに引き抜かれ、首に刺された短剣は上に持ち上げられ、そのままドスジャギィの首の大動脈を切り裂き、噴水のように傷口から血液が吹き出る。
ドスジャギィは短剣を刺した者を確認しようと横を見ようとするが、すぐに体の自由が聞かなくなり、地面に倒れ、途中何度か立ち上がろうとしたが次第に動かなくなり、最後はビクンッビクンッと痙攣して動かなくなった。
ジャギィ達は群れの長を殺され、途中混乱したが、すぐに自分たちの巣へ逃げて行ってしまった。
「····················」
「や、やぁ···············助かったよ」
目の前にはケチャシリーズ一式に、下位のドスランポスの素材から造られた双剣、ランポスクロウズをを装備した140cm程の男が立っていた。
一応俺のパーティーであり、つい数ヶ月前にハンターになったばかりのハンターだ。
歳もまだ19歳と若い。
まだまだこれからと言う歳だ。俺とは約20歳差で、俺がどんどん先輩として色々教えていきたいのだが····················。
「フンッ···············情けねぇ」
「ははっ····················すみません···············」
この通り先輩どころか年下で自分より遥かに小さい男の子に助けられっぱなしです。
面目丸つぶれです。
正直めっちゃ情けないし、普段も年下相手に先輩で歳上である俺がめちゃくちゃ敬語を使っている。
彼の名前はレーギーナ。
見た感じはマジで女の子なのだが、本人は男だと言っている。
まさに男の娘と言うべきだろう。
黒髪のボーイッシュに鋭く灰色の瞳が特徴的で、普段顔は防具で隠している。
ほとんどの駆け出しハンターは顔と名前を覚えてもらおうと顔の装備を外しがちだが、彼は普段からあまり顔を見られることを嫌っている。
なんでも、女と間違えられるのが嫌なのだとか。
気持ちはわからんでもない。俺も初めて会った時、完全に女だと思っていた。
「おい、いつまで座ってんだよおっさん」
「お、おっさん!?」
「···············なに?」
「いえ、なんでもありません」
防具の隙間から灰色の瞳がギラリと光る。俺に反論の余地はない。
俺は目の前でギルドのアイルー達がレーギーナの狩ったドスジャギィを木材のリアカーに乗せ、運び始める。
アイルー達がドスジャギィを木材のリアカーに乗せながら、小声で「また言われてるニャ」「情けないニャ〜」など言いながら、冷ややかな目線を送っている。
俺はそれから逃げるようにレーギーナの後について行った。