境界戦機 ロストネイション   作:アンサングのフレンズ

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 境界戦機 極鋼ノ装鬼 新作おめでとうございます!
 
 典型的な「ぼくのかんがえたさいきょうの境界戦機」になります。
 
 ミリタリー考証、政治的な諸々の理屈理論、一切適当のグダグダ、趣味独りよがり丸出しの作品です!
 誤字脱字満載!
 
 しかも1話で5万文字くらいあります(笑)

 暇潰しにどうぞ!



殲滅者 Annihilator

 既に日本という国は存在してはいなかった。

私腹を肥やす為、保身の為、あるいは理解し得ない狂信的な理由の為に売国に励んだ政治家達。侵略者に買収されたメディア。それを盲信する愚民と成り果てた国民。日本の制圧はあまりに簡単だった。売国奴、国賊政治によって国防機能は解体され、戦闘というものさえ起こらなかった。

 だが、それ故に日本は4勢力による分割統治という形になっていたのであった。

 しかし、母国の土地に住みながらも日本人に権利など無かった。表面だけの人権でその扱いは時に家畜や奴隷にも劣った。

 それに対し、抗おうとする日本人はレジスタンスを決起。各地で細やかな抵抗を続けていた。

 

 アジア自由貿易協定の支配下の地域。

 中流階級以上と思われる二階建ての一軒家。その一階の一室、リビング。

 そこには穏やかで幸せそうな一家が暮らしていたが

そこは惨劇の場と成り果てていた。アジア自由貿易協定圏の権力者の親族とその仲間が暴漢としてその一家を気まぐれに襲った。一家の父親が額を撃ち抜かれ、母親、長女は暴行を受けた上で殺害。生き残ったのはまだ幼い幼児であった次女のみ。

 しかし、その幼児は銃口を暴漢に向けている。子供だと甘くみて捨て置いたが偶然放置されていた銃をまだ幼い少女が咄嗟に拾った。

 

「待て……!俺が悪かった!許してくれ……!」

 

 暴漢は下半身を丸出しにした姿で腰を抜かし、情けない姿で幼児相手に命乞いをしている。

 日本人らしい黒髪。肩まで伸びた髪をおさげにしている一見すると大人しく見える少女。

 しかし、その瞳は冷たく、顔からは表情が消えていた。家族が暴行され、殺されていく惨状を目の当たりにし、少女の中で『何かがぷつりと切れた』のだ。

 

 

「危ないからそれをこっちに渡すんだ……いい子だからな……?」

 

 暴漢は己の身のために必死だ。生き延びれば何とでもなる。アジア貿易協定圏の権利者の隷属地域、日本での犯罪は許されるも同然なのだから。

しかし、少女は冷たい眼差しを向けると引き金を引く。

 

「ッ!!」

 

 撃たれた暴漢は倒れ、虫の息だ。

 更に少女は臆すること無く暴漢の側へ行くと震えも無い手で頭部にとどめの一発を撃ち込む引き金を引いた。

 部屋内に銃声が響く。

 

 

 

 数年後、瀬戸内、アジア自由貿易圏管轄港。

 輸送用タンカーの前で携帯端末で電話をするまだ初々しさの残るスーツ姿の眼鏡をかけた金髪の女性がいた。

 

「セレーナCEO、本当に私だけで大丈夫でしょうか?」

 

 スーツの女性は不安そうに、そして緊張した声で携帯の端末から電話をしている。

 

『大丈夫よメアリー。それに私もリモートで参加するわ。貴方は同行してチュートリアルとオペレーティングをすればいいのよ』

 

 落ち着いて穏やかな女性声が携帯端末から聞こえる。

 

「セレーナCEO……、ですが……」

 

 メアリーと呼ばれた彼女は周囲を見渡す。そこにはアジア自由貿易圏の軍人が警備の為に配置されてる。時折彼女を見る視線がメアリーにとっては恐ろしく感じる。

 

『アジア軍なら大丈夫よ。彼らにとっても貴方は重要な客人かつ要人。貴方に手を出してはただでは済まないもの』

 

 メアリーの不安を払うようにセラーナ支社長は言って聞かせる。

 

「ミス・メアリー、ここにおられましたか。そろそろ出港のお時間です。お急ぎを」

 

「ガオ・インさん……」

 

 痩せ型の無駄に高価そうな似合わないスーツを着たいかにも胡散臭い中年男性がアジア軍の護衛を引き連れ、リーザに話しかける。

 

「ご心配なさらずとも軍やあちら側とは話はつけております。ごゆっくりと船旅を楽しみましょう。さぁこちらへ」

 

ガオと呼ばれた中年男性はメアリーをタンカーへと案内し誘導する。

 

「もしや、『瀬戸内の海賊』の連中がご心配ですかな?」

 

「ええ……、それも懸念の一つで………。ここ数年に渡り、瀬戸内を始め周辺の輸送船や港を襲ってるとか……」

 

「奴らについては我らも困り果てております。何度連中に手痛い損害を受けたことか。瀬戸内を指揮するホウ・グアン大尉が不祥事で収容されたを機に勢力を伸ばしております。最も彼の投獄は我々のビジネスにとっては有効活用できる面もありますが」

 

 かつては瀬戸内を任されていたアジア軍の隠れた名将、ホウ・グアン。だが彼はとある軍規違反により現在は軍刑務所に収容の身であった。

 彼の不在が海賊の台頭を加速させ、更に軍内の腐敗を招いていた。

 

「だが、ご心配無用。我々には頼もしいアジア軍がついております。それに、オセアニア軍の海軍も実質的に我々の護衛をされる事になっております」

 

 ガオはタンカー内の窓から見えるオセアニア軍の駆逐艦に目を向ける。

「オセアニア軍?例の軍事衝突の件で緊張状態にあるのでは?」

 

 オセアニア軍の駆逐艦を見たメアリーは思わずガオに疑問を問う。

 

「半年以上の前のことですからね。それに、今はテロリストや北米軍の動向が問題ですよ。連中の『新型機』。各勢力は手を焼いております。お互い協力するという事もあります故」

 

「………」

 

 ガオの言葉にメアリーは思わず顔をしかめる。

 

「おっと、北米出身の方でしたな。今回のお仕事もブレンゾン北米支社、日本支部からのものでしたね。お互い、国同士の事情は抜きにしてビジネスの話をしましょう」

 

 既に港を出発し、輸送タンカーはアジア軍とオセアニア軍の駆逐艦を引き連れ航行する。タンカー内の一室。そこはタンカー内とは思えぬ程豪華な内装であった。奥には巨大なモニターがあり、そこには眼鏡を掛けたビジネススーツを来たいかにも理知的な美女の姿が映し出される。

 

『この度の海上輸送の件、ご苦労様です。何も問題はありませんか?』

 

 リモート映像で映し出されたセラーナは挨拶がてらな首尾を問う。

 

「無問題、ミス・セレーナ。ご心配なく。アジア軍とオセアニア軍の連合艦隊に護衛されております。海賊共も手出しは出来ないでしょう」

 

 ガオは余裕のある様子で答えた。

 

「しかし、四国まで運ぶのに何故海路を?空輸や橋による陸路輸送もあったのでは?」

 

 メアリーは時間のかかる航路による輸送の疑問をガオに問う。

 

「空は互いに制空権を主張し、警戒しています。今回の品は特別な輸送機を使わねばなりません。直ぐに感づかれてしまいます。迂回して大きく回り込まねばなりません」

 

 ガオは上から目線で答えた。こういった事は彼らの業界では常識なのだろう。

 

「大橋はオセアニアが抑えているがアジア軍側から入り込む事になる。検問の傭兵共は金を掴ませれば買収出来るが口も軽い」

 

 その場にいたオセアニア軍の士官も口を挟み、彼も状況の説明をする。どうやらアジア軍や輸送会社と内通し、今回の品物を手に入れたようだ。

 

「……余計な詮索はせんことだ。お前は任された仕事をしていればいい」

 

 オセアニア軍士官の言葉から今回の輸送物については正規のもので無い事が伺える。

 

「ところでミス・セレーナ、オズマ大佐、今回の品物について一つご相談が」

 

 ガオは一同の顔を見ると話を切り出す。

 

「このまま四国の高知まで運んでもいいのですが、今回の品物、我々に譲っていただけはしませんかな?もちろん元の代金の倍、いや、言い値でも構いませんよ?」

 

 ガオは破格の交渉を持ちかけて来た。輸送物資は極秘であるがおおよそ察しはついているといった様子だ。それに腐ってもガオや商会はアジア自由貿易圏の所属。ブレンゾン社の新型軍事兵器というなら今なら喉から手が出る程欲しい物だ。

 

「それは出来ない相談だな。それに今回の品は値段がつけられらる代物ではない」

  

 オズマ大佐はガオの話をあっさりと突っぱねる。

 

『今回、オセアニア軍の方々には新型の実戦テストを依頼しております。護衛、管理をしていだだく代わりに今回は無償で提供させていただきます』

 

「無償ですか。『日本ではタダより高い物は無い』ということわざがありましたが現実は『タダよりお得な物は無い』でしたな。なんとも羨ましい限りです」

 

 日本が経済破綻し、各国に占領を受ける前、日本は愚かな政策、実質移民政策を行っていた。観光客や移民を破格の政策で受け入れる。その費用は日本国民の税金で賄うといったものだ。外国人は無料同然で来日、生活が可能なので瞬く間に日本は移民で埋め尽くされた。

 移民は悠々自適に生活し、日本人は重税に苦しんだ。それは外国の侵略を容易にした要因の一つである。

 ガオはそのことを知ってか皮肉交じりに『タダより得な物は無い』と言ったようにも聞こえた。

 

「ミス・セレーナ、是非ともアジア自由貿易圏にも新型を。金に糸目はつけませんよ?その場合、あらゆる援助も我々商会は協力を惜しみません」

 

 ガオはモニターのセレーナに向かって商談を持ちかけたようだ。腐ってもアジア自由貿易圏の所属。小賢しい俗物といった風体だ。

 

『勿論、前向きに検討しておきます』

 

 

 

 瀬戸内海底。そこには見慣れない潜水艦の姿があった。

 

 『進路に問題無し。水靈(ミズチ)、順調に航行中』

 

 艦内ブリッジモニターに映し出されたドット状の姿でウーパールーパーのようなサポートAIが状況報告をする。

 

「進路良し。ハル、『目標』の状況は?」

 

 副官と思わしき逞しい体型の女性がサポートAI『ハル』に問う。

 

 『標的、移動しています。随伴の艦、アジア軍、オセアニア軍、合わせて二隻』

 

「随伴艦二隻か、舐められたものだな」

 

 艦長らしき老齢の男性が呟く。

 この艦は潜水艦といっても軍属では無い。

 迷彩柄のそれらしい服装をしたものもいるが全体的にラフな格好だ。彼らは日本の海域を最近荒らすという海賊レジスタンス『叢(ムラクモ)』である。

 

「ECM機雷、発射」

 

 艦長は命令を下す。

 

「了解、ECM機雷、発射します」

 

 潜水艦から浮遊機雷が数機、発射される。

 機雷は海上に向けて浮上していく。

 

「さて、そろそろ出番だ。白兵戦の準備しとけよ」

 

 艦長は艦内無線でそう告げる。

 艦内で準備をしているおそらく白兵戦の担当でるクルー達。男女混合だがそれぞれ歴戦の猛者であろう雰囲気を纏っている。その中でも一際異彩を放っている少女が一人、銃の確認をしている。

 豊満だが全身は程良い具合に筋肉がついている。引き締まった腹筋が見える短めの黒いタンクトップとホットパンツのラフな姿。それに二丁の拳銃と弾薬を装備したガンベルトを装着している。

 黒く肩まで伸びた髪を二つのおさげにしてばねている。目つきは猫科の動物のように鋭いが美人といえる整った顔つきだが無表情で無機質だ。

 

「ナギ、今日も頼りにしてるぞ。だが、いつもみたいに無茶はするなよ」

 

 逞しい好青年の雰囲気が溢れる青年が少女に声をかける。

 ナギと呼ばれた少女は過去に家族を殺され、アジア軍の兵に向け銃を放った少女の成長した姿であった。

 その顔に表情らしい表情はない。凛とした姿からは大人びて見えるがその年相応な少女の雰囲気は無かった。

 

 

 

「しかし惜しいですな、あのメアリーとかいう娘」

 

「何の話だ?」

 

 輸送船の廊下で歩きながらガオとオズマ大佐の会話が行われている。

 

「少々童顔で上背も低いですが豊満な体つきをしています。『商品』に欲しい。いや、私の私物に……」

 

 ガオはいやらしい顔つきで語る。

 

「俺は細身の女の方が好きだ。今回の品にはいるのか?」

 

 趣味が合わないといったとこだがガオはビジネストークに切り替える。

 

「ご安心を。今回の品は全体的にその傾向ですね。少々心配しておりましたが大佐には喜んで頂けそうですな」

 

「そうか。兵どもの士気を上げるには必要なものだが先ずは俺が満足せんとな。そのために色々骨を折ったのだ」

 

 そう言った後にオズマ大佐はガオと共に部屋に入る。

 その部屋の内装は妖艶な内装をしていた。まるでナイトクラブやラブホテルのようだ。

 そしてその部屋の奥には下着姿の手枷足枷で拘束されたアジア系の若い娘達が数人、並べられている。

 

「ほう………」

 

 オセアニア軍大佐はその娘達を眺めニヤける。

 

「売られた者、犯罪者、売女、薬物中毒等……安く仕入れることができたものの、貧相で質が悪いと嘆いておりましたがお気に召しましたかな?」

 

 ガオは今回の『品物』について大佐の意見を伺う。

 

「悪くはない。……まぁ気に入れば愛人にしてやらんでもない」

 

 オセアニア軍大佐はそう言うと中央のソファーに座る。ガオは用意されている酒をサイモン大佐に注いだ。

 

「おっちゃん、ホンマに愛人にしてくれるん?」

 品物たる一人の娘が大佐に語りかける。

 

「ああ、気に入ったらな。十分楽しませてくれるなら贅沢させてやるぞ?」

 

「ほんま?おっちゃん男前やしウチの好みやわ」

 

 怯えて警戒する娘ばかりの中、その関西弁の娘だけは積極的に大佐に近づいていく。

 

「ほう………積極的なのは嫌いじゃ無い………」

 

 その娘の言葉に大佐も機嫌を良くする。

 

「えっとこの女………日本人ですね。男に騙されて借金の肩に売られたようで………」

 

 手持ちのタブレットPCを手に、ガオは品物の確認をする。

 

「楽しめるならなんでも構わんさ」

 

 そう言いながら大佐は近づいてきた娘の身体を舐めるように触る。

 

「なぁ?これ外してな?このままやったら色々してあげられへんわ………」

 

 娘はそう言うと腕の枷を外すように大佐に頼む。

 

「おい、外してやれ」

 

 オズマ大佐はガオに向かって命令するようにいった。

 オズマ大佐も中年ではあるが軍人なりに屈強な体型をしている。

 華奢な女が暴れたところでどうという事は無いのだろう。ガオは持っているリモコンを操作すると彼女の手枷足枷が外れる。

 

「………おおきに。さぁ、楽しもか」

 

 彼女は色気づいた声でそう言うと大胆にも大佐に跨り、上の下着を外す。

 

「あの女、痩せぎすだがなかなか経験はあるなりのものはあるな………最も値をつけるべきか他で使うべきだったか………」

 

『ECM発生装置、敵艦有効範囲内』

 

 潜水艦に搭載されているAI『ハル』がそう告げる。

「ECM起動!」

 

 福長はそう命令を発する。

 

『了解、ECM、起動!』

 

 ハルはそう返答すると起動信号を送る。

 すると海面で浮遊しているECM装置から妨害電波が出始める。一瞬にしてタンカーや随伴の駆逐艦のレーダーは機能しなくなった。

 

「魚雷発射用意!目標、随伴の駆逐艦!」

 

『標的補足、艦艇ニ隻』

 

 モニターにはスキャンされ、CGモデルで仮想表現されたアジア軍、オセアニア軍の駆逐艦が映し出され、攻撃目標としての表示がされる。

 

「魚雷発射!」

 

 副長は更に命令を発する。

 

「魚雷発射!去ねどす!」

 

 火器管制担当の女性がエセ京言葉でそう発すると発射ボタンを押す。

 潜水艦から魚雷が発射され、二隻の駆逐艦に命中する。

 全て艦底の急所に命中し、轟沈は免れない状況だ。

 ECMにより通信もままならない。オセアニア軍、アジア軍は混乱状態に陥った。

 

「ミズチ、浮上!」

 

 艦長の命令とともに潜水艦『水靈』は浮上する。

 レーダー機能も狂い、夜間故にタンカー、及び駆逐艦はその事に気付かない様子だ。

 

「よし、オメーら!これから獲物に乗り込むぞ!は各班は担当フロアを制圧、ナギ、お前はいつも通り遊撃だ」

 

 老齢だが威勢のいい艦長は慣れた様子で指示を出す。いかにも海賊の頭といった貫禄だ。

 

「了解、作戦を開始する」

 

 ナギと呼ばれた少女は淡々と応える。

 

「制圧完了まで無線は使えない!みんな生きて会おうぜ!」

 

 ナギに声をかけた青年が皆の士気を高めるかのようにそういい放つ。彼は現場の指揮官のようだ。

 潜水艦のハッチが開くとそこから次々と数機の水上バイクやボートが飛び出す。

 ナギも単身、水上バイクでタンカーに迫る。

 海賊の仲間達は次々とタンカーに乗り移って行くもそれとは別に行動を取るボートが数席ある。

 

「万が一とはいえ生かして返す気は無い。怨みつらみはお互い様だ」

 

 ボートでアサルトライフルを構える男がそう呟くと艦から脱出したアジア軍の乗組員達を狙い掃射する。

 さらに潜水艦、水霊 ミズ靈のハッチが開くと中には人型兵器、アメインが搭載されていた。腕部をガトリングガンに改造された北米軍の『ジョーハウンド』だ。

 

「一匹も逃さねぇ!サメの餌になりやがれ!」

 

 パイロットの男性がそう叫ぶと両腕のガトリングを艦艇や兵士に向けて掃射する。

 

 

 

 タンカーの甲板にて。

 ECMによって機能が麻痺したタンカー内は混乱していた。アジア軍、オセアニア軍の兵士達が状況を把握するために駆けずり回っている。

 

 「?」

 

一人のオセアニア軍の女性が何か物音に気付いたのか甲板の手すりの方へと近づき、下を除き込む。

 オセアニア女性兵士が見た海面のそこには水上バイクが浮かんでいた。

 オセアニア女性兵士がそれに気付いた次の瞬間、

 真後ろに逆さ吊り状態のナギがサイレンサー付の拳銃を突きつけたナギの姿があった。

 そして、その弾丸がオセアニア女性兵士の頭部を貫く。

 

「なんだ!?何事だ!?」

 

 船内の様子の異変にオセアニア軍のオズマ大佐やガオも気付く。

 

「どうした?何があった!?」

 

 搭載された内線を通じてガオは船内の様子を確認しようとするがECMのせいで通信は出来ない状態だ。

 

「故障か?この船、不良品じゃないのか?」

 

 大佐は思わず歯に衣着せぬ言葉で不安を口にした。

 

「ありえません。我々商会、もとい我らがアジア自由貿易協商の技術は世界一です。そんなことなどありえません」

 

 ガオも動揺からか遠慮の無い本音が飛び出す。

 

「とりあえず此処にいれば安全です。我らがアジア軍の精鋭達が対処してくれるはず」

 

 ガオは更にまるで己の軍隊かのように自慢する口調でそう言い放った。

 

「精鋭?貴様や俺達と内通する兵士がか?」

 

「なればこそですよ。彼らは賢い選択をしている」

 

 落ち着きを取り戻したのか、そしてオズマ大佐をなだめるかのようにガオは語りだす。

 

「多少失礼はあったかもしれませんがここで我々と仲違いをするのは得策ではありませんよ?それに我々もあなた方とは良い関係を築きたいと思っております」

 

 ガオは謝罪の姿勢は無いがそれでも上手く話を持っていく。

 

「ほう……」

 

 大佐も不機嫌ながらガオの言葉に納得の意を示す。

 

「多少興がそれましたな。しかし後にもっと良いお話や接待をあなただけに提供させて頂きます」

 

 オズマ大佐は上手く丸め込まれた様子であるが腕を組みガオを睨みつける様子は同時にガオを信じ切ってる訳では無いようにも見えた。

 

「まぁ今はお楽しみください。船内には双方の精鋭の兵もいますし此処は安全です。しかしご立派なモノをお持ちで。羨ましい限りですな」

 

 オズマ大佐は事を始める前だったのか全裸である。マッシブな体型に見合ったそれは大佐の自慢でもあるのだろう。

 

「ふっ、羨ましいなら整形したらどうだ?まぁ俺のコレは自前だがな」

 

 オズマ大佐はそう言い放つとベッドへ戻っていく。だがその途中で女達に目を向けると

 

「全員相手をしてやるさ。さぁ、どいつから行くか…」

 

と言った。

 

「やれやれ……困ったものですな」

 

 ガオは呆れた様子でそう呟いた。

 

 

 

 甲板にて。ナギは射殺したオセアニアの女性兵から服を剥ぎ取り、着換えていた。そして上着のファスナーを上げると甲板中央へと向かっていく。

 

「オセアニア!そっちに侵入者はいたか?」

 

通りすがりのアジア軍の兵士の一人がオセアニア軍に変装したナギに問う。

 ナギは黙って首を横に振る。

 

「なら来い!船内各所で戦闘が始まってる」

 

 アジア兵はそう言うとナギに背を向け走り去ろうとする。

 

「?!」

 

 だがナギはそのアジア軍兵の口を抑え、その喉を軍用のナイフでかき斬った。

 アジア軍兵は一瞬で絶命した。

 アジア兵の死体を跨ぎ越えるとナギはそのアジア軍兵が向かうと思われた場所へと走る。

 

 

 

「クソ!こんな所で足止めかよ!」

 

 船内の廊下で海賊とアジア軍、オセアニア軍の即席連合軍が打ち合いをしている。数はアジア軍とオセアニア軍が優勢。運悪く海賊は待ち伏せの形に遭遇してしまっていた。

 

「援軍を!」

 

「駄目だ!無線は使えない!なんとか持ちこたえるしかない!」

 

 撃ち合いは続くもそのうち海賊達は押されきってしまうだろう。

 

「おう、いいとこに来たな。一気に片をつけるぞ!」

 

 後に現れたオセアニア軍兵士に向かって応戦してるアジア軍兵士が手招きする。

 

「連中、勢いだけで数ではこっちが圧倒的に有利だ。しかも女子供の寄せ集め。女は捕虜にしてお楽しみといこう」

 

 アジア軍兵は思わず本音を漏らす。

 

「オイオイ、コイツは女だぞ?ん?お前……」

 

 アジア軍兵士にツッコミを入れたオセアニア軍兵は違和感に気づくがその瞬間、彼の喉は一瞬にしてかき斬られる。そしてその後ろから現れたオセアニア軍兵士は一瞬にして更に二人の兵士を射殺。どちらも頭部を射抜かれている。残された兵はそれに気づき、そのオセアニア兵に銃口を向けるがその前に二丁に銃を構えたそのオセアニア兵にまたたく間に撃ち抜かれる。

 

「気でも狂ったか!」

 

 生き残ってるアジア軍兵が叫びアサルトライフルを構えた。

 たがそのオセアニア軍兵は近くにいたアジア軍兵士の一人を捕まえると盾のようにする。

 

 「おい!やめろ!撃つな!」

 

 だが、その捕まったアジア軍兵士の訴えも虚しく、友軍のライフルから銃弾が浴びせられる。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

 

 肉の盾の真後ろの腹部から二丁のライフルから放たれる貫通した弾丸で瞬く間に残りのオセアニア軍とアジア軍を片付ける。

 気づけば圧倒的有利だった連合はアジア軍兵士一人となり、目の前には銃口が向けられている。

 

「と、投降する!撃たなっ…!」

 

 言い終わる前に最後のアジア軍兵も頭を撃ち抜かれた。

 

「……なんだ?急に静かに……」

 

 海賊の仲間の一人が廊下を覗き込む。するとこちらに向かって歩いて来るオセアニア軍の兵士がいる。すぐさま海賊は身を隠す。

 

「他に敵は?」

 

 オセアニア兵からドライな少女の声がした。

 

「お前、ナギか!」

 

 別の海賊の仲間が歓喜のような声をあげる。

 

「この付近はこれだけだ。助かった……危なかったとこだ……」

 

「了解。制圧完了。次の地点へ向かう」

 

 すぐさまナギは別の場所へと走り去った。

 

 

 

「チッ!アジ公にオセ公、流石に数が多すぎるか!」

 

 船内倉庫にてここでも両陣営が銃撃線を繰り広げる。

 

「上を取られてる!他の班が制圧に手間取ってるんだ!」

「チッ!数だけはいやがる!」

 

 倉庫上部の通路にはアジア軍とオセアニア軍の兵たちが陣取っていた。上を取られ、海賊達は圧倒的に不利な状況だ。

 

「こそこそ隠れやがって。手榴弾を使うぞ!」

「待て!積荷に被害が出る!俺達の物だぞ!」

 

 イラついてるアジア軍兵士をオセアニアの兵士が制止する。

 

「どうせレジスタンス崩れの海賊だ。すぐに制圧出来…」

 

 オセアニア軍は倉庫のクレーンのワイヤーが大きく揺れ動いてることに気づく。そこにはクレーンのワイヤーの先端に捕まる人影が。

 だが既に遅い。その人影は片手でサブマシンガンを乱射する。

 

「伏せろ!」

 

 即座に兵士たちはかがみこんだが何人か撃たれ、ある者は上部の足場から落下する。

 

「この…!」

 

 オセアニア軍の一人がクレーンに捕まる人影に発砲するも大きく揺れ動くクレーンには当たらない。そして足元に転がる数個の手榴弾。

 クレーンの人影はナギだ。クレーンの揺れと発砲の際に足場に投げ入れていた。

 けたたましい炸裂音と共に手榴弾は爆発。足場は崩れ爆発に巻き込まれた兵も巻き込まれなかった兵も下に落下していく。

 

「今だ!撃て!撃て!」

 

 落下した兵たちに容赦無く弾丸が浴びせられる。アジア軍とオセアニア兵たちは倒れていく。

 そして最後の一人が撃ち抜かれる。

 ナギはそれを確認するとクレーンから飛び降り、着地する。人並み抜きん出た超人的身体能力の成せる所業だ。

 

「すまん、助かったナギ!」

 

 海賊の一人が感謝の意を示す。するとナギは少し振り向き

 

「制圧完了、次へ向かう」

 

 とだけ言葉を発すると走り去っていく。

 

「すげぇな……あの子……身体能力だけじゃなく度胸も凄い……」

 

 年にしてナギより年上であろうがまだ海賊に入って日が浅い青年が呆然と走り去るナギを見て思わず言葉を漏らす。

 

「頭のネジが飛んでんのさ……頭も強さも尋常じゃねえよ」

 

 男勝りな女の仲間が見慣れた光景であってもいつも驚かされているといった様子だ。こういった小規模な戦闘ならナギ一人で戦況を一変させてしまう。

 

 轟音と共に船内の一室で爆発が起きる。どうやら戦闘で爆発物が使用された。その場にいたアジア軍とオセアニア軍兵士は一掃された。

 

「制圧完了」

 

 そう言い放つとナギは走り去る。

 

 

 

 アサルトライフルを両手に引き金を引く少女。敵のアジア兵とオセアニア兵の攻撃を匠に躱し、時に肉の盾を使いながら次々と撃ち取っていく。そして最後の一人のアジア軍兵は銃を捨て、両手を上げ、投降の態度を示す。

 

「撃たないでくれ!」

 

 アジア軍兵は命惜しさからそう叫んだ。

 だがそれは偽りだった。アジア軍兵の背部、腰に拳銃を隠し持っていた。油断したら隙をついて撃つつもりなのだ。

 だがナギはアサルトライフルを降ろす。

 

「かかったなアホが!」

 

 アジア軍兵はそう叫ぶと同時に銃を構えようとする。だがナギの左手の銃がそれより早くアジア軍兵の脚を撃ち抜く。

 

「あああああ!痛えぇぇぇぇぇ!」

 

 アジア軍兵士は倒れもがく。

 ナギは偽りの投降と気づいていたのか、それとも始めからそうするつもりだったのかはわからない。

 ただ、目の前の敵を殲滅するだけだ。

 

「チクショー!無抵抗の男を撃つなんて…!」

 

 騙し討ちをしようとしたアジア軍兵士も随分と理不尽な言い草だ。 

 ナギは倒れ込んだアジア軍兵士に向かって歩いてくる。すると倒れ込んでいた時に落ちたであろう隠し持っていた拳銃を拾う。そして慣れた手付きで弾薬のマガジンを外すとそれを投げ捨ててしまう。どうやらアジア軍製の拳銃は合わないらしい。

 ナギは倒れるアジア軍兵士を見ることもなく、その頭部に片手で狙いを定める。

 

「鬼子め……お前は……日本の鬼子だ……」

 

 アジア軍兵はそう吐き捨てるとその頭部は四散した。

 

 

 

「連絡がつかない……回線も止まってる……外では物凄い爆発音に銃声が……!」

 

 船内の客室で待機していたメアリーは怯え、戸惑っていた。更に銃撃の音は激しくなり、断末魔の叫びが聞こえる。

 

「ひィィィィィィ!」

 

 メアリーは思わずテーブルの下に隠れ頭を抱える。

 

「始めての大きな仕事なのに海賊の襲撃に遭うなんて……」

 

 その時だった。メアリーの客室のドアが蹴破られる。

 

「………!」

 

 リーザは声を挙げそうになったが踏みとどまった。

部屋に入ってきた何者かは血まみれのオセアニア軍の軍服を着ていた。本来ならメアリーにとっては今は味方であるが元よりオセアニア軍もアジア軍もメアリーにとっては北米出身の身もあって近寄りがたい相手である。それに何か様子もおかしい。その何者かは銃を構えながら中に入り、周囲を見渡す。少しして何者かは部屋から出ていくような進路をとる。それに先走ってメアリーが安堵した次の瞬間だった。

 

「え?」

 

 机を蹴りあげられ、メアリーの姿が海賊の眼に映る。

 その海賊は血まみれの赤黒いオセアニア軍の服を着た少女であった。その少女、ナギはメアリーに銃を突きつける。

 

「フリーーーズ!ホーーールドアァーーーープッ!」

 

 両手を上げ、勢いよく思わずメアリーは叫んだ。

 本来なら逆の立場だが恐怖と絶望と混乱によりそう叫んでしまった。そしてメアリーの股間は失禁により濡れていた。

 

「………」

 

 ナギは動じる事もなくジェスチャーの手招きで

『立て』といった合図を送る。

 そのままメアリーは両手を上げた状態で背部に銃を突きつけたナギに連れられていく。

 

 

 

「ミヤコ、まだ開かないのか?」

 

「待ちいやダイゴはん。ハナのように簡単にはいきまへん」

 

 海賊の制圧部隊を率いるダイゴと呼ばれた好青年風の屈強な男がやや焦りを見せる。ミヤコと呼ばれた火器管制を担当していたタレ気味の糸目の女が何やら機器を使いロックされた扉を解除しようと試みてる。最後に残ったのは大佐とガオの部屋のみ。そこは厳重にロックされていた。

 

「こっちは専門外や。ハナの奴の解錠プログラムがあるとはいえ厄介どす。悔しいけどアイツなら秒で終わるどすえ」

 

 そう口にしながらも糸目の女はかなりの速度でハッキングのタイピングを行う。

 

「よっしゃ!ええどす」

 

 思わずそう叫ぶとロックされた扉が開く。

 しかしそれと同時に銃弾の嵐が部屋から注がれる。

 

「海賊どもめ!」

 

 そう叫ぶ全裸の大佐が機関銃を乱射している。部屋には護身用には過ぎるほどの銃火器や弾薬があった。籠城し、援軍を待つといったとこか。

 

「早く終わらせないと!長引くとオセアニア、アジア軍から援軍がくるぞ!」

 

「そないな事ウチに言われても……」

 

 扉付近から離れて待機する二人のもとにメアリーを連れたナギが現れた。

 

「ナギか……」

 

 ダイゴがそう呟く。

 

「他のフロアは全て制圧した。残るはここだけ」

 

 ナギは淡々とメアリーを連れてそう告げる。

 

「そうか……だがここは弾薬庫並だ。手こずりそうでハナも危ない」

 

「その金髪ボインは?」

 

 メアリーの体系を見てミヤコがそう問いかけた。ナギも少女にしては背は高いほうだがリーザの背は北米出身でありながらも小柄な方だ。それに反して肉付きは良く、大きく出るとこはでてる。

 

「非戦闘員だ。武器、戦闘の意思無し。捕虜の判断をした」

 

「捕虜を取るのはお前にしては珍しいな。だがその娘は後だ。今は此処を何とかしないと」

 

「捕虜は任せる」

 

 ナギはそうとだけ告げると何処かへと走り去った。

 

「ちょっ、待ちや……」

 

 糸目の京言葉の女が声を発する間にナギの姿は無かった。

 

「通信はまだ繋がらんのか!?」

 

 オズマ大佐は両手で火器を乱射しながらガオに問う。

 

「電波妨害です!おそらくECMが……」

 

 ガオはタブレットPCを慌ただしい様子で触っている。

 

「繋がるのか?」

 

「いずれは……しかし援軍が来たとて我々の取引が表沙汰になると……」

 

 ガオは不安な様子だ。それなりの地位故に面子は命と同じくらい大事なのだ。

 

「心配はいらん。ここは『日本』だ。どんな不正もまかり通る」

 

「それもそうでしたね。いらぬ心配でした」

 

 オズマ大佐の言う通り、今の日本は占領軍にとって無法の楽園でもある。勿論、各国の規律や法はあるが日本人に向けての忖度等は不要である。せいぜい占領軍各国に付け入る大義名分を与える程度だがそれも互いに戦闘を行う理由になるだけである。

 

「奴らもレジスタンス崩れの海賊だ。義賊を気取るからにはこっちの『人質』には手出しするまい」

 

 いざとなったら取引した女達を人質にするつもりらしい。

 その時だった。天井の通気口の蓋が落下し同時に赤黒い人影が現れた。

 

「!!」

 

 そしてその人影は即座に両手で二丁の銃のトリガーを引く。

 大佐とガオ、それぞれの身体に2発ずつ命中した。

 

「ひぎぃぃぃぃぃぃ!」

 

 被弾した肩と腹部を抑え、倒れ込むガオは情なく驚きの声をあげ、もがく。

 

「おい!義賊気取りの日本人!」

 

 大佐は被弾するもその強靭な肉体の賜物か、平然と立っており、そのまま関西弁の女性を人質としてか首から腕を回し、銃を突きつける。

 

「この女は日本人、同胞だろ?言ってる事は解るな?」

 

「じゅ、武器を捨てろ!日本人!このっ!海賊め!」

 

 倒れ込みながらもガオは大佐の威を借るように命令する。

 ナギは言われたとおり手に持っていた二丁の銃を目の前に投げる。

 

「隠し持ってる武器もだ」

 

 大佐はそう指示するとナギは身につけているナイフも地面に投げる。

 

「ふむ、日本のガキのようだがなかなかいい顔立ちをしている。楽しみが増えそうだ……」

 

 ガオ負傷しながらも傷口を抑え、立ち上がるとナギをいやらしい目つきで見る。

 

「武器の後は服だ。脱げ」

 

 大佐がそう指示するとナギは上着に手を伸ばす。

 

「待て。下からだ」

 

 そう言うとオズマ大佐は指差すかのように銃口をナギの下半身に向ける。

 ナギは指示通りオセアニア軍の軍服のベルトを外し、そのままズボンを降ろす。

 すると引き締まった脚線美があらわになる。下に履いていたのは下着では無く、青のストライプ、縞模様の水着だった。海賊らしく水場での活動を想定してのことか。

 

「ほぅ……」

「むほっ!」

 

 オズマ大佐とガオは歓喜の声を挙げる。

 

「俺としてはもう少し細めが好みだが悪くない……」

「うちの事はどうするん?」

 

 人質に戯れてる細身の眼鏡の女性がそう大佐にそういった。銃口は今、ナギの方に向いてるとはいえ人質の状況にしては豪胆だ。

 

「そうだったな。だがお前は後でたっぷり相手してやろう」

 

 まだ少女とはいえ精悍で整った顔つきとプロポーションのナギのルックスには惹きつけられるものがある。大半の者にとってナギは間違いのない美人といったところだ。

 

「次は上だ」

 

 傷口を抑えながらもガオは銃撃を受けた事を忘れたかのように興奮しながらそう指示を出す。

 ナギは着用してる血まみれのオセアニア軍服に手を伸ばす。

 

「アイツ……結構ボインやで?」

 

 関西弁の女性はまるで知ってるかの口ぶりでそういった。

 次の瞬間、ナギは足で脱いだオセアニア軍服の下半身を蹴り飛ばし、大佐の視界を防ぐ。

 

「!!」

 

 一瞬の出来事だ。ナギは身体を捻り、滑りこむようにして倒れると即座に銃を拾い、大佐の股間目掛けて発砲した。

 

「ヌグウォォォォォォーーーー!?」

 

 鍛えようの無い箇所を撃たれ、オズマ大佐は思わず股間を抑え倒れ込む。だがそこは曲がりなりにも熟練の軍人、反撃仕様と銃を構える。

 だがそれより速くナギの二発目の弾丸が大佐の頭を撃ち抜いた。

 

「全く相変わらず無茶苦茶しよるわ。ウチに当たったらどうするねん。セクシー要員がおらんようなるで」

 

 少し呆れた怒り口調で眼鏡の女性はナギに語りかける。

 

「ハナは本来電子戦担当。」

 

 ナギは淡々と言葉を返す。

 

「まぁ……せやねんけどな。潜入に適任がおらんから今回ウチが志願したんやけど……気になる事もあったしなぁ……」

 

 ハナと呼ばれた女性は海賊の仲間だった。

 ハナは腰に手を当て、倒れる大佐を見て

 

「残念やわぁ。おっちゃん、そこそこ男前でマッチョで地位も金もそれなりにあったのになぁ。ええ趣味もしとる。好きやったで」

 

 と言葉をかけ、頬に軽く口づけをする。

 騙す前提であり大佐からしてもハナは使い捨ての玩具にしても好意を持った言葉にハナも悪い気はしなかったのだろう。

 

「終わった……っておいっ!」

 

 部屋を覗きこんだ青年、ダイゴがナギの姿を見て思わず目を背ける。

 

「ナギ!服を着ろ!ズボンを履け!」

 

「これは水着。問題無い筈」

 

「そういう問題じゃ無い!お前はまだ……未成年だろ!」

 

 ダイゴは目を手で覆い隠しながらそう叫ぶ。

 

「ダイゴはんも童貞やないのにウブどすな〜〜〜まぁそこがええんやけど」

 

 京言葉の糸目の女性、ミヤコが微笑みながらそう言った。

 

「ナギちゃん、注意せんかったら男の前でも裸でうろつくような子どすからなぁ。どこぞの未発達エセ大阪弁とは違って発育ええの自覚せなあかんどすえ?」

 

「オマエも目糞鼻糞やろがぃ!」

 

 ミヤコの嫌味に感づいたのか、ハナが食ってかかる。

 

「なんやて……ハナクソ」

「おい!今はやめろ!」

 

 ハナとミヤコの些細な言い争いにダイゴが割って入り、制止する。

 

「ハナ、潜入御苦労だった。おかげで船の場所が解った。肝心の積み荷はどうだ?」

 

 ダイゴはピンク色のフレームのメガネを渡しながらそう言った。

 

「ダイゴ、ナギの時と随分態度ちゃうやんけ?ウチ今、下着だけやで?」

 

 と、ハナは何事も無いように渡された眼鏡を掛けると不機嫌そうに腰に手を当て仁王立ちし、親指で自分の姿を見ろと言わんばかりに指差す。

 

「……童貞じゃ無いからな……」

 

「彼女が巨乳の女医やからてウチに魅力は感じんか?まぁええわ。お宝は期待してええで。充分割に合うわ」

 

「……そうか。……で、彼女達は?」

 

 ハナの嫌味を多少は気にしつつもダイゴは話を続ける。

 

「売春崩れにヤク中、いわゆる没落貴族……いずれも入植やら渡航してきた『亜キョン』系やな。日本人はおらへ……」

 

 ハナが言い終えるより前にナギが捕まってる女達を全員を射殺する。

 

「相変わらず容赦あらへんな……」

 

 発砲音に少し驚きはするが射殺された女達を横目に

『いつも通り』といったハナの態度だった。

 

「日本人以外は敵」

 

 ナギの言葉は何かを復唱したようでもあった。

 

 ちなみに『亜キョン』とは揶揄を含めたアジア自由貿易協商の略称である。一部のレジスタンス、日本人で使われているがアジア自由貿易協商の勢力内でこの言葉を使おうものなら即時拘束、処罰の対象となる。

 

 

 

「……何にせよ強姦は俺達の間では御法度だ。売るにしても難しい」

 

 ダイゴの言うとうり海賊といえど『叢』には規律がある。無法の海賊なようでもまとまった集団である。ナギ一人の戦闘力も高いがそれ以上に洗練された組織、集団としての能力の高さもあり、日本のレジスタンスでも有数の強力な勢力の一つである。

 

「移民や外人を『宝物』にしたアホな政策は日本を潰した原因のひとつどすからな。原因はアホの政治屋やけどそれにたかってきた連中やと思うと直接恨みは無くともってやつどす……」

 

 ミヤコは湧き上がる感情を抑えながらも皮肉を込めた言葉をくちにする。

 

「日本人以外は『敵』」

 

「ウチ、北米の血、混ざってるけどな」

 

 淡々とそう告げるナギに対しハナは己を指差し、苦笑いでそう言った。

 ゆくゆく見ればハナの肌は白み掛かっており、髪も赤み掛かっている。

 

「純血の日本人で無くとも志が同じなら仲間って事だ。それに、北米同盟は元々同盟、完全な『味方』でなくとも『敵』とも言い切れんからな……」

 

 何やら思うところあるダイゴの言葉だったが割り込むようにして怒鳴り声が入ってくる。

 

「日本の海賊風情め!こんな事してただで済むと思うな!」

 

「あ、忘れとったわ」

 

 ガオの叫び声にハナを始め、反応する。

 

「私は!ガオ商会経営者の一族だぞ!私を殺せば一族が黙ってないぞ!」

 

 ガオは傲慢な態度は崩さず、必死で叫び、存命を要望する。

 

「コイツ、それなりに地位あるけど一族では劣等やで。いわゆる『お荷物』って奴や」

 

 ハナはこのガオの知りうる情報を話しだした。

 

「焦ったあまりに勝手にオセアニア軍と非公式のヤバい取引もしとるしな」

 

「………」

 

 図星なのか、ガオは急に黙りだす。

 

「一族の面子の為に仇討ちはあるかもしれんけど相手が不明で面倒やと適当に処理するやろ。一族のお荷物的な扱いやしその方が可能性高いで」

 

 ハナの言いい終えるとナギはガオに銃口を向けて構える。

 

「待て!ナギ!」

 

 それをダイゴが制止する。

 

「武士の情けだ……。死に方は選ばせてやる。来い!」

 

 青年は荒い口調でそう言うとガオを掴み上げ、強引に連れて行く。

 

「……ああ神様……パパ……」

 

 リーザは頭を抱え、目を瞑り震えていた。

 

「終わったで」

 

 ミヤコはそう告げた。

 

「なんや?人質とったんか?」

 

 メアリーを見てハナは言った。

 

「北米出身の非戦闘。抵抗の意志は無いと判断した」

 

 ナギは淡々とハナに報告する。

 

「ええ判断やでナギ。北米軍連中とのええ交渉材料なるわ。民間人救出は謝礼もはずむやろし。今回は大儲けや」

 

「ハナ、まだ仕事は残ってる」

 

「『ゴミ捨て』どす」

 

 ダイゴとミヤコはそういいながら甲板へと向かおうとする。

 

「ウチ、力仕事は専門外や。それにもう十分働いたやろ」

 

 ハナは拒否するように手を振って言った。

 

「それにうら若き乙女がこんな柔肌晒しとんのにほったらかしか?ダイゴ、彼女以外には冷たいなー」

 

「男か女かわからん胸しとるのによぅいうわー」

 

 ミヤコはハナの言葉に皮肉で応じる。

 

「せやかてミヤも大して変わらんやろ。それに女の魅力は胸だけちゃうやろ?」

 

 と冗談めいた風に言うとハナは媚びたようなコテコテのセクシーポーズをとってみせる。

 するとナギは着ている血まみれのオセアニア軍服のファスナーをおろす。すると弾むようにそこから豊満な胸が溢れ出す。オセアニア軍服を脱ぐと上は黒のタンクトップ一枚のみでナギの鍛え抜かれ、引き締まった身体と年齢にしては豊満な胸がはっきりみてとれる。

 

「ナギスケぇ……、……嫌味かぁ……?」

「?」

 

 これを着ろと言わんばかり服を差し出したナギだがハナの言葉が理解出来ないのか、顔は無表情ながらもキョトンとしてる雰囲気だった。

 

 

 

 輸送船、甲板。

 

「せぇーーーのっ!!」

 

 海賊の掛け声と共にオセアニア軍兵やアジア軍兵達の死体が投げ捨てられていく。

 適当に重りがつけられ、粗製だが浮かんで来ない仕組みになってる。

 

「う、海に死体を……っ!?海が汚れるじゃないですか……!?」

 

 それを船主から眺めるメアリーは海賊達を軽く非難する。

 

「他に捨てる場所も無いし、当てつけさ。ここいらにはもう日本人の為の海はない。捕れる魚だって日本人の口に入ることなんてもう殆どない」

 

「………」

 

「それに海の藻屑になれば皆同じどす」

 

 メアリーの言葉にダイゴとミヤコは苦笑いしながら応える。これも『いつもの光景』といった感じだ。

 

「さて、それはそうと」

 

 ダイゴの視線の先には船主ギリギリに立つガオの姿がある。

 

「もう一度確認する。自分で飛ぶか、撃たれるかだ」

 

 ダイゴはガオに銃を突きつけ、そう言った。

 

「た、頼む!助けてくれ!……そうだ!私が君たちを支援しよう!どうだ!?」

 

 高圧な態度が無駄と解ったのか、今度はガオは土下座し命乞いをする。

 ガオが提案をし、頭を上げた瞬間、ダイゴの銃弾が

ガオの眼前の床に穴を開ける。

 

「ヒィッ!!」

 

 驚きのけ反るガオ。

 

「今のは外したんじゃ無い」

 

 ダイゴは冷たい声で言った。

 

「弾が勿体無いどす。はようしとくんなはれ」

 

 ミヤコもその細い目で睨みつけるように言った。

 

「私を殺せば後悔するぞ!私には政府や軍高官とのコネもある!私が仲介すれば日本の一部の領土を君達に……」

 

 だがガオがいい終える前にナギがガオを蹴飛ばした。

 

「……え?」

 

 勢い良く吹き飛んだガオはそのまま海面へと落ちていく。

 

「ぎゃあああァァァァァァァ!!」

 

「どちらでもあらへんかったな……」

 

 ミヤコは呆れたように言った。

 ナギは何事も無かったようにそのまま去っていく。

 

「つまらん奴がつまらん終わり方をしただけだ。行こう。ヒコ爺が、頭が来る」

 

 ダイゴはそう吐き捨てると船首を後にする。

 

「おぶぇぇぇぇぇぇぇぇ……!」

 

 メアリーは甲板から海面へ向けて嘔吐していた。

 

「船酔いか?落ちないように気をつけろ」

 

 凛とした短い髪の逞しい女性がメアリーを気にかけてそういうとナギはメアリーの傍らに立つ。

 メアリーは船酔いではない。

 元より家族とのバカンスなど、船に乗る機会は多く、むしろ航海は慣れている方だ。今回の仕事に選抜されたのもその辺が理由なのかもしれない。

 

 メアリーは幾多の兵達の死体、そして海に投げ捨てられるそれらを見て気分が悪くなったのである。

 

「金髪のカワイコちゃんか。北米の出かね?これはまた別嬪さんだ」

 

 白髪の髪を纏めて後ろで結んだ老人がメアリーに声をかける。

 

「カワイ娘ちゃんって今日び聞かへんやろ!」

 

 ハナが老人にツッコミをいれる。

 

「ウチはカワイ娘ちゃんが多いが何人いても困らんもんよ」

 

「流石、ヒコ爺は解っとるで!」

 

 ヒコ爺と呼ばれた海賊の頭の老人は上着のみで下半身は生脚のハナの脚部に視線を送る。

 だがそんな助平な老人に対しハナは上機嫌だ。

 元よりこの老人、頭であるウミヒコには海賊レジスタンスを率いるだけの人望があると観える。

 

「艦長、彼女はブレンゾン社、北米支社の者との事です。北米やブレンゾンとの交渉に使えるかと」

 

 逞しい女性の副官が割り込むように頭領に告げた。

 

「という事だ。なぁに悪いようにはせんよ。むさ苦しい大所帯だがな。ハッハッハッ!」

 

 老人はこの海賊を仕切る頭領だ。老齢ながらも逞しい肉体で豪快で威厳もある。

 

「今日は大漁だ!さっさと帰ろうぜ!」

 

 輸送船と潜水艦は海賊の拠点へ向け、航路をとる。

 

 

 

 北米軍、アジア自由貿易協商、オセアニア軍。

 それらが領土を主張する日本の境界線付近、北米領土側の海岸にそれはあった。

 入江のほら穴を利用した港となっており海賊レジスタンス『叢』の活動拠点でもある。

 

「♪〜♪〜♪〜」

 

 まだ幼い少女が鼻歌を歌いながら花壇の花に水をやっている。白ながら虹色に輝くその花はいくつもの花壇を埋め尽くし、海賊の拠点には不釣り合いな花畑のようであった。

 

「帰ってきたぞ!」

「タンカーごとか!大漁だな!」

 

 拠点の港の方から声が聞こえる。

 

 輸送船と共にレジスタンス名と同じ名を持つ潜水艦水霊も拠点の港へ着岸、浮上して乗組員達がどんどんと降りてくる。そこへ拠点に残っていた仲間たちが出迎える。高齢者、女子供が多い。

 

「彼ら……彼女達やあの子達もレジスタンスなんですか……?」

 

 ナギのような少女が戦いに出てるのも疑問だったがメアリーは拠点の光景を見て更に疑問を抱く。

 

「せやで。皆、それぞれ役割もある」

 

 ハナがメアリーの疑問に応える。

 

「みなはん、他に行く宛もありまへん。ウチかてその一人どす」

 

 ミヤコがメアリーの方を見ずに言った。

 

「侵略者によって家や家族を失った者ばかりだ。東北から流れ着いた者もいる」

 

 ダイゴが拠点の港の仲間を見ながらそう言った。

 

「そんな……北米軍管轄内では難民の受け入れをしてる筈です!」

 

 メアリーは焦るように声をあげる。

 

「生まれの良いお嬢さんは何も知らんのどすな」

 

 ミヤコは皮肉な態度でメアリーを見る。

 

「北米圏で実質的に受け入れられ、市民権を得られるのは資産のある者達だけだ」

 

 北米寄りかと思われたダイゴだったが発言から現実は理解してるようだ。

 

「要は利用価値がある日本人だけって事や。まぁ、そのせいか北米軍管轄内の治安はええんやけど」

 

「これが……日本の現実……」

 

 メアリーの知り得る公開されている情報からは全く読み取れていない日本の現状に唖然とする。

 そこへまだ幼い少女の声が響く。

 

「おかえり~〜〜!」

 

「おう、アサミか!今日もかわええなぁ!」

 

 ハナはそう言うと元気のいい少女、アサミの頭を撫でる。

 

「次は俺も参加させろよ!」

 

 今度は別の大人しそうなアサミよりも年下であろう少女を引き連れた少年がハナに声をかける。

 

「ヘイボーイ、ユーには此処を守る仕事があるやないか」

 

「花の世話や薬の調合に飯作りの手伝い……そんなのより俺は戦いてぇんだよ!とにかく日本に居座るガイジン連中をぶっ殺したいんだ!」

 

「物騒な事を大声で言うなやレン坊、ミオが怯えとるがな」

 

 激昂し、叫んだレンをハナが注意する。

 

「……悪ぃ……」

 

 連中は気も荒く、ぶっきらぼうながらも素直な少年のようだ。

 

「レンの飯は上手いしレンもミオも薬の調合が上手いって先生褒めとったで」

 

 ハナはレンとミオの頭を撫でながらそう言った。

 

「この威勢のいい方はレン、んでこっちはミオ」

 

 ハナはメアリーを見ながら拠点で生活する子供二人を紹介する。

 

「私はメアリー、こんにちは」

 

 メアリーはかがみ、二人に視線を合わせながら笑顔で自己紹介をするも、ミオはレンの陰に隠れ、レンに至っては睨みつける有様だ。

 

「米公が……」

「え?」

 

 優しく語りかけるも思わぬ罵倒で対応されてしまったメアリーは驚き言葉を失う。

 

「それになんか臭ぇ……」

 

「あ……」

 

 レンの言葉にメアリーは思わず自分の下半身を見る。

 既に乾いているが恐怖で失禁した事を思い出した。

 

「……ミオ、臭いのが移る、いくぞ……」

 

 そのまま子供二人は去っていった。

 

「…あぁ………」

 

 メアリーはショックのあまり声をあげた。

 

「堪忍したってえや。二人共家族を占領下で亡くしてな。」

 

 ハナは少し申し訳無さそうにメアリーを気遣う言葉をかけた。

 

「ミオの方は……もう口が聞けんようになってしもとる。レンはあれで面倒見ええとこあるからレンに付いて回るようになってな」

 

「………」

 

「レンは東北のいわゆる『日本難民』でな。北米同盟に助けを求めたけど受け入れられずに難民キャンプでの北米軍と亜キョンとの戦闘で両親と弟を亡くしたんや」

 

 ハナの言う通りかつて日本だった場所に住んでいた日本人は今やその大半が難民と化している。占領と入植が進み、かつての居場所の無い日本人は日本にいながらも実質的な難民なのだ。

 

「……」

 

「まぁ、それはそうと風呂行こか」

 

 

 

「ハナちゃん、ウチのヨウスケ、見なかった?何処にもいないの……」

 

「ヨウスケやったら外行ったわ。明日には戻るんちゃうか」

 

「そう……ありがとう……」

 

「ヨウスケ君?会いましたっけ?」

 

「ユキコさんの子。此処にはいないよ」

 

 メンバーの少女がメアリーの質問に答えるように話しかけて来た。

 

「行方不明って事になっとる。人攫いやな。日本の子供は売りやすいしええ金になる。もう生きてはおらんやろな……」

 

「ユキコさんはその現実をどうやっても受け入れられないって事。いちいち説明するよりもそう言ってあげるのがいいんだよ」

 

 メンバーの少女がそう微笑みながら説明する。

 

「……これが日本の現状や」

 

「………」

 

「ナギスケぇ〜〜〜風呂いくで~~~」

 

「問題無い。見張りの任務へ行く」

 

「今日はもう非番や〜〜〜!オマエが一番臭いんやで〜〜〜!別嬪、台無しやぞぉ〜〜〜!」

 

 ハナにそう大声で言われると無表情ながらも渋々といった雰囲気でナギはついて来た。

 実際、ナギは硝煙や敵の返り血まみれである。歪ながらも叢の拠点は衛生環境がある程度保たれてるだけにナギの臭いは放置出来ない場合もある。

 

「レ〜〜〜ン!覗かんように見張り!」

 

「ったくなんだよ!そんな平べったいの誰が見たいんだよ!」

 

「おこちゃまやのぉ〜〜〜!デカいおっぱいしか興味無い奴はモテへんぞぉ〜〜〜」

 

「ここって老若男女、色んな人が暮らしてますけど……その……大丈夫なんですか……?」

 

「まぁテロリストと認定されてるけどレジスタンスやしな。海賊だの言われてもただの無法モンやない。規律はちゃんとしとる」

 

「女に乱暴する奴は即処刑や。そこのおっかない小娘も躊躇は無いで」

 

 ハナはナギを見ていった。

 確かに容赦無いっていうのはメアリーにも解る。

 

「お風呂?アサミ、ナギちゃんの髪洗ったげる!」

 

「あのぅ……皆で入るんですか?」

 

「そこそこでっかい風呂やしそんな狭ないで」

 

「………」

 

「なんやぁ?一人がええって?贅沢なやっちゃなぁ……これやから育ちのええお嬢は」

 

「日本人にとってはこうやって入れる風呂があるってのも恵まれとんやで」

 

 ハナがメアリーに向かって呟くように言った。

 

「貴方は入らないの?」

 

 レンと一緒に浴場で待機するさっきの少女を見てメアリーは声をかけた。

 

「あ、僕、身体は『男』なんで」

 

「え゛?」

 

 か細い華奢な身体ではあるがどう見ても姿は美少女である。ノースリーブの上着から丸出しの肩、ミニスカートとニーハイソックスの間から覗く絶対領域からはそんじょそこらの女より色気がある。

 

「毒島ケンジ、れっきとした男やで」

 

「もう!その名前で呼ばないで!」

 

「女相手やし構わんやろ。コイツ、『獲物』には女の名前名乗りよるんや」

 

「………」

 

 メアリーには彼がどうしても女にしか見えない。

 下手をすればトランジスタグラマーの自分より女としての可愛さや色気があるように思えた。

 

「ボク、女の子には興味無いんだ」

 

 ケンジは笑顔で堂々そう言い放った。

 

「男らしく出来てればお風呂で男の裸、堪能できて最高だったんだけどね……。どうも癖が抜けなくて……」

 

「気持ち悪りぃんだよ……」

 

 それを見たレンが思わず呟いた。

 

「子供にも興味無いんだよね。レンきゅんはあと二、三年すればいい具合になりそうだけど」

「キモっ!」

 

 ケンジはレンを見ながらそう言った。レンは嫌悪感をはっきりと表す。

 

 

 

「♪〜♪〜♪〜」

 浴場ではアサミは鼻歌を歌いながらナギの髪の毛を丁寧に洗っている。

 ナギも自分の身体を洗っている。

 

「ナギちゃん綺麗な髪してるのにすぐ切ろうとするんだよね」

 

 肩ぐらいまであるナギの髪を手に取り見つめ、アサミはそう言った。

 

「髪の毛は短い方がいい。無くても構わない。でも、そうするとみんなが怒るから」

 

 ナギがそう言い終えるとアサミはナギの頭部を優しく丁寧に洗いながら

 

「バリカンで坊主頭にした時は酷かったね~~。命令があるまで切ったらダメになったんだよね」

 

 とナギに語りかける。

 

「ナギちゃん、女としてはかなり妬ましいモノたくさん持っとるどすえ?それをかなぐり捨てるなんざバチあたりどす」

 

 入浴していたミヤコもアサミに賛同するように応えた。

 

 他にも先の戦闘に参加していた女性メンバー達がそれぞれ身体を洗ったりと入浴を堪能している。

 

「作戦の後やしな。混んどるわ〜」

 

 そう言いながら腰に手を当て、全裸で堂々と浴場を眺めるハナ。

 

「…あのぅ…お邪魔します……」

 

 メアリーは身体にバスタオルを巻き、恐る恐る浴場に入ってくる。

 浴場にいた数名がメアリーを睨みつけるように見る。

 

「なんやぁ、そんなもん巻きよって。出し惜しみかぁ〜?嫌味なやっちゃなぁ〜〜〜?」

 

 メアリーの姿を横目で見ながらハナはメアリーのバスタオルに手をかける。

 

「裸の付き合いで親睦が深まることもあるんやで?ほれ!そんなもん外せ外せ!」

 

「あの……ちょ……やめてくだ……」

 

 メアリーのバスタオルが宙を舞う。

 

「………」

 

「……これが……圧倒的戦力の差ってのどすな……」

 

「……ウチにも何人かでっかいのおるし慣れとるつもりやったが……改めて圧倒されるわ……」

 

「あ……あまりジロジロ見ないでください!」

 

 メアリーはとっさに前を隠し、かがみ込んだ。

 

「『形が』とか『美しさ』とか言い訳してるのアホらしなってくるわ……」

 

「……ウチら……惨めどす……」

 

 

 

「はい、ナギちゃん、流すよ〜〜」

 

 アサミはナギの頭から湯をゆっくりとかけて洗い流す。そしてアサミに先導されるようにナギは湯船につかる。

 

「ゆっくり100まで数えてね」

 

「いち………に………さん………し………」

 

 ナギはいつも通りの表情で数を数え始める。

 

「アサミちゃんでしたっけ?しっかりした子ですね」

 

「せやろ?賢いしかわいい。胸は成長せんでほしいわ〜〜」

 

「なんだかナギちゃん、幼く観えますね」

 

「あいつ、腕は立つねんけどそれ以外は子供やからな」

 

「元々どこかのレジスタンスの少年兵やったらしいけど教育はちゃん受けれてへんのや。字もまともに読めへんし書けへん。計算もや」

 

 叢のメンバーが個性が強いのは解るが始めて遭遇し、その中でも突出した戦闘力を持つナギは異彩を放っている。まるで感情の無い戦闘マシーンのようなナギをメアリーは気になって仕方無かった。

 

「ああいう子、今の日本では珍しくもあらへん。ウチかて似たようなもんどす」

 

 先に入浴していたミヤコがそう言った。実際他国との侵略が進み、アジア貿易協商やユーラシア連合のように入植が進んでる地域は日本人が追われる形で土地を離れる。移動先はまともなインフラどころか教育の場すら無い事も珍しくはない。

 メアリーは憂いた表情でナギの背中を見つめる。程よく引き締まり、美しく鍛え上げらた背中だ。その背中には戦闘によるものか、うっすらといくつもの傷がある。

 

「………」

 

「あ!ナギちゃん!ここ!擦りむいてる!」

 

 アサミはナギの腕に微かだが新しい傷を見つけた。

「問題無い。かすり傷だ」

 

 既に血も止まって瘡蓋になっている。

 

「駄目だよ。数え終わったら先生のとこに行こ」

 

「先生?」

 

「ウチにはお抱えの優秀な医者がおるんよ。腕だけじゃなく美人で性格も穏やかなガチのセクシークソ巨乳や」

 

 ハナの説明の最後の言葉には明らかに憎悪と悪意があった。

 

「ここには怪我人や病人もおるんどす。こないな国で日本人がまともに医療受けられるはずもあらへんどすからな」

 

「ミヤコ、シンキ臭い話ばかりすんなや。モテへんで?」

 

「有意義な風呂の時間が北米モンで台無しどす。ウチは先に上がらせてもらうわ」

 

「………」

 

「短い付き合いやし堪忍したってえな。あいつ、ミヤコも散々な目にあって来たからな」

 

「……まぁ巨乳への妬みかもしれんな……知らんけど」

 

 ハナは妬ましそうにメアリーの胸を見た。

 

 

 

「そういえば私の服、下着は……?」

 脱衣場にてメアリーは自分の服が無いことに気付く。

 

「洗濯できるものはしています。これ、換えの下着。私のだから合うといいけど……」

 

 作業服を来た女性が替えの服と下着を届けてくれた。

 

「あー、もしかするとジュンやナギと同じ地味なやつか……?」

 

「合いそうなサイズが私かミコトさんのくらいだし……でも、まだ使ってないやつだから……」

 

 その女性は地味な雰囲気ではあるもののぽっちゃりとした全体的に肉付のいい身体をしている。

 

「マイアのはどぎついのあったりするからな……」

 

 ハナは苦笑いしながらそう言うと女性を見つめ

 

「イオ、アンタもちっとはオシャレに気ぃつこうた方がええで?地はええもんもっとるのに」

 

 と言った。

 イオと呼ばれた彼女ら長く伸びた髪も癖っ毛であまり手入れされてない様子だ。顔にはそばかすがあり、作業服なのもあるが化粧っ気も無い。だが、ぽっちゃりとした体型ながらグラマスである事も男性用の作業服の上からでもわかる。

 

「これ、まだ新しくて使って無いから……」

 

 とイオは新品の下着をメアリーに渡す。

 

「あ!これ!前にウチが買ってきた奴やん!勝負用に!」

 

 下着を見てハナは不機嫌そうに驚く。

 

「ごめんなさい。でも、せっかくだけど……私には……意味無いから……」

 

 そう言うとイオ目を背け、口元を隠しながらそう言った。

 

「前歯ぐらい言うたら日本人でもやってくれるええ歯医者連れてったるで?」

 

「あの……どうかされました……?」

 

 女性に詰め寄るハナを見てメアリーは心配になり声をかける。

 

 「私、その……過去にアジア協商圏の人達に……」

「!」

 

 全てを語らずともメアリーはなんとなく察した。彼女は性犯罪の被害者だと。

 

「その時に抵抗したせいで前歯を……。両親達は必死で抗議や裁判をしてくれましたがどれも徒労に終わり、何もかも失って一家で海に身投げしたところを助けて貰って……」

 

「………すみません」

 

「いえ……お気になさらず。他に行くとこも無かったのでここに。むしろ今はもう何の縛りもなく、以前より気が楽なんです」

 

 そう彼女は笑顔で言った。だがわずかに覗く前歯の無い口元がメアリーには痛々しく写ってしまう。

 

「下着……、ありがとうございます。大切に使います」

 

「ナギスケ、髪の毛ちゃんと乾かしたんかアイツ?もうおらん」

 

「さて、大事な客人や。メアリっちも先生のとこ行こか?」

 

「はい。……メアリっち?」

 

 

 

 医務室。

 

「これで大丈夫。でもあんまり無理はしないでください」

 

「ありがとうございます。これでこのジジイもまだまだ役に立てますわい」

 

 ハナの言っていた通りの眼鏡の理知的な女医が患者の診察を終えた様子だ。

 診てもらっていたのは杖をついて歩く老齢の男性だった。頭領、ウミヒコど同年代くらいだが肉体的な衰えははっきりと出てるが威勢は良く、それなりに元気そうである。

 

「ははっ!頼りにしてるぜジイさん!無理の無い程度にな!」

 

 医務室にいたダイゴが笑顔で老人を見送る。

 

「先生!」

 

 医務室にアサミの声が響く。

 

「アサミちゃん、今日はどうしたの?」

 

「ナギちゃんがまた怪我したから連れてきたの」

 

「………」

 

 女医は優しく笑顔でアサミ達を迎える。

 

「そう、いい子ね。ナギちゃん、傷を見せて」

 

 すると女医の言葉でナギは上の服を脱ぐ。

 

「おい馬鹿!またっ!」

 

 ダイゴは慌ててナギから目を背け、手で覆い隠すように自分の視界を遮る。

 

「………」

 

 女医とアサミは軽く睨むようにダイゴを見る。

『出て行け』という合図だ。

 

「解ってるよ。ナギ、脱ぐのが速すぎ……あいてっ!」

 

 ダイゴは視界を遮りながら歩いたせいか、退出するときに脚をぶつけた。

 

 

 

「……血は止まってるけど……あ、ここも……」

 

 女医はナギに処置を施す。

 

「これでよし。大丈夫だと思うけどおかしいと思ったらすぐ私に見せてね」

「了解」

 

「先生、まいどっ!」

 

 ハナがメアリーを連れて医務室に現れた。

 

「……その娘が例の……」

 

「………」

 

「潮ユミ、よろしくね」

 

「メ、メアリー・デントです。よろしくお願いします」

 

 潮ユミと名乗った女医はメアリーに優しく微笑みかける。その姿にメアリーも安堵感を抱いた。

 

「何か調子の悪いとことかある?気分が悪いとか?」

 

「……いえ、今は大丈夫です」

 

 ユミの問診にメアリーは応える。

 

「何かあったら遠慮なく言ってね。……全て対応できる訳じゃ無いけど……」

 

 物資の不足があるのか、ユミの笑顔も苦笑いだ。

 

「……あの、睡眠導入剤ってありますか!?」

 

 メアリーは思わずユミに向けて聞いた。

 気分の悪さと緊張感でタンカーの中ではろくに眠れていないのだ。

 

「こういう状況だもの。仕方ないわよね」

 

 ユミはメアリーに睡眠導入剤の錠剤を手渡す。

 

「先生は優秀な内科医やで」

 

「『元』ね。人手不足だし今じゃ外科医の真似事のような事もするわ」

 

 叢での医療は完全にユミ頼みである。元看護師であるユキコも手伝ってくれるが設備も人員も足りていない。時にはユミの専門外の医療も行う。

 

「出産の時は大変だったわね……」

 

「……せやな」

 

 思い出したようにユミが言った。

 

「出産!?此処でですか?」

 

 医務室があるといっても簡易的なものだ。学校の保健室に毛が生えた程度のものだろう。

 そのような状況での出産は過酷なものであることはメアリーにも解る。

 

「そう、日本人だからね。もう日本人の為の産婦人科なんて殆無いの」

 

「その子も母親もおらんなってしもたけど……」

 

「未熟児でね……お母さんも難産で衰弱してたから二人共そのまま……」

 

「ここはまだ恵まれとる方やけど設備が無いんや。設備さえあれば二人共助かったやろな」

 

「……すみません」

 

 実際メアリーのせいではないが話を掘り下げて嫌な事を思い出させてしまった事に責任を感じてる様子だ。

 

「かまへんで。……なんか湿っぽいわ。景気のええ話しよや」

 

 ハナはそう言うとの場の空気を変えるように、思い出したように手を叩く。

 

「で、先生、ダイゴとはどうなん?」

 

「……もう、ハナちゃんたら……」

 

「やっぱエロい巨乳女医はモテるのぉ」

 

「ハナちゃんだってモテるんじゃ無いの?」

 

「ウチかて歴戦の猛者やし自信はあったけど割とここは『デカい』の多くてな。見劣りするんやろ」

 

「胸デカくする薬とかない?それとも整形した方がええやろか?」

 

「ありませんよ。それにその方が好きって人も沢山いるわ」

 

「せやな!ステータスや!希少価値や!」

 

 軽く場を明るくしたところで

 ナギ、メアリー、ハナの三名は医務室を後にする。

 

「アサミちゃん、今日の検診、始めよっか」

 

「はーい」

 

 

 

 海賊レジスタンス『叢』ムラクモ。

 日本のレジスタンスの間でも『ムラクモ水軍』や『水軍ムラクモ党』と呼ばれる。

 その拠点ではメンバー達が老若男女問わずせっせと働いている。

 

「これ……は……」

 

「こいつは小型の『リアクター』や。これで此処のエネルギーを賄っとる。日本が今の状態になる前に開発されたもんやな。」

 

 リアクターと呼ばれる発電機。小型と言っても2、3メートルはあるそれは幾つも並んでいる。これらで小規模な海軍基地のような拠点のエネルギーを維持しているのだ。

 

「こんな凄い技術あったのに政治がアホ過ぎてな……。まぁアホなんはそんなんにホイホイ騙されら日本人もやけどな」

 

 

 

「……ハナちゃーん!メアリーちゃーん!ご飯だよー!」

 

「メシだメシ!とっとと食っちまってくれ!」

 

 アサミの呼ぶ声が轟く。

 隣で似合わないカワイイ動物のエプロンをつけたレンも大声で言った。傍らにはミオがいる。

 

「おー、丁度腹減って胸と背中がひっつくとこやったわ。行こか?」

 

「………」

 

「突っ込むとこやで?」

 

 メアリーは色々思う事があるのか元気が無さそうである。一気に事が起こり過ぎ、そして北米や支社にいた時には知り得なかった日本の過酷な現状がメアリーの心に重くのしかかっていた。

 

「私は結構です。喉を通りそうに無いので……」

 

「そうか……レン坊、今日の昼飯は何や?」

 

「海鮮丼だぜ」

 

「お、豪盛やなっ…」

「!……頂きますッ!」

 

 メアリーは突然立ち上がる。

 

 

 

「頂きます!」

 

 ニホンの作法に乗っとったのか、メアリーは手を合わせそう言うとに箸を手に取り、目の前の海鮮丼を口に運ぶ。

 

「新鮮な魚介類……それに合う醤油とネギ、そして程よいワサビの風味……。そして日本のお米……なんと素晴らしい事か……」

 

「なんか気味悪いどす……突然食レポ始めよった……」

 

 またも近くの食事テーブルにはミヤコがいた。細い目で睨みつけるようにメアリーを見つめるが本人は全く気にしてない様子だ。

 

「北米生まれにしては箸、上手いこと使うやん?」

 

「父が親日家で家族とよく日本食のお店に行ってたんです」

 

「ほぉ……海鮮丼に飛びついた理由が解るわ」

 

「お寿司に焼き鳥、すき焼きも好きです……」

 

 食べ物の話でメアリーのテンションが上がった様子だ。

 

「気に入ってくれたなら光栄だ。オレ達は漁港や農家とのツテがある。魚介類や米が安く入に入るんだ」

 

 トレイに二人分の海鮮丼を乗せた通りすがりなダイゴが機嫌良さそうにメアリーを見て言った。

 

 今や殆の日本人にとって食料問題は深刻である。

 占領下で弾圧が強い地域等での日本人の餓死者は少なく無い。

 レジスタンスでも勢力のあるヤタガラスや叢は比較的食料供給が安定しており、それが目的でレジスタンスに入るものもいる。

 

「それとミヤコ、あんまり彼女に辛く当たるな。北米人を嫌ってるのは解るが地元漁師が漁業を出来るのは北米軍のおかげでもある」

 

「ダイゴはん……」

 

 メアリーに当たりの強いミヤコをダイゴは注意した。

 

「ここいらの領海は北米が権利を主張してるからのぅ。亜キョンもオセ公も、ダ助も簡単には手出しできんのさ」

 

 海賊レジスタンスの頭目の老人、ウミヒコが口を開く。

 

「皮肉な話さ。まだこの国が日本だった頃、内通し弱腰と遜った政治外交で連中の領海侵犯は毎日の有様だった。ところが境界戦後に北米の連中が領海を主張するとそれは無くなった。たまに境界付近での睨み合いはあるがの」

 

「北米同盟からも日本は見限られているのだろうが敵の敵は味方ってやつだな」

 

「ダイゴはん、ヨネスケ甘く見過ぎどす……」

 

「俺等が使ってる武器弾薬にアメイン、北米軍から流れてるもんだしな。オセアニア軍のものもあるが武器は北米と同じ企業のものがあったりする」

 

「そういえばナギちゃんのジャケット……」

 

「おお、気づいたか。以前はそのまま着とったんやがな」

 

「使い勝手がいいらしく以前ぶんどったのをそのまま使ってたな。オセアニア軍のマークを引っ剥がしたりしてボロボロだったんだが」

 

「ユキコさんが仕立て直してくれたんや。あの人、裁縫めっさ上手いねんで。更に元看護師やし」

 

「へぇ……」

 

 未だ帰らぬ子を待ち続けるユキコだったがそんな夢想を抱く病んだ心であってもレジスタンスへの貢献はしてるようだ。もしかすると彼女は解っていても現実を拒否しているだけなのかもしれない。

 

「おっと、ユミのとこに飯持ってかねぇとな」

 

「先生、忙しんどすえ?」

 

「薬の調合で忙しいみたいだ」

 

 ダイゴはそう応えると急ぎ足で医務室の方へ向かっていく。

 

 「ナギちゃん!?」

 

 メアリーは物凄い勢いで海鮮丼をかきこむナギをみてびっくりした。箸も逆手で持つ様子からまともに扱えるようでは無さそうだ。

 

「……ごちそうさま……」

 

 ナギはそう呟くように言うとそのまま碗を洗い場に返して去っていく。

 

「……気になるか?ナギの行儀」

 

 食後の一服であろう煙管煙草を手に取っていた頭領、ウミヒコがメアリーに声をかけてくる。

 

「頂きますとごちそうさまが言えりゃ上々なもんさ。ごちゃごちゃ言っても仕方ねぇよ。それなりにメンバーは選んでるつもりだがここにはまともな礼儀作法や学のある連中の方が珍しい。日本人の今の状況がそうだからよ」

 

 そう言うとウミヒコは煙管煙草に火を付ける。

 個々には「喫煙ルール」に配慮する必要は無いが皆とは離れた場所で吸っている。彼なりの気遣いといったところか。

 

「いつになるかは解らねぇし叶わぬ望みかもしれねぇ。細かい礼儀作法だのなんだのは日本を取り戻した後でやりゃいいさ」

 

 ウミヒコは静かにそう言うと煙管煙草の煙を吸って吐く。

 

「最大のマナー違反は粗探しすることやしな」

 

 ハナが腕組みしながらメアリーにそう言った。

 

「しかし美味そうに食ってくれたな嬢ちゃん。北米の支配下になった時にヤバくなったが……鯨や海豚の肉もあるぞ……?」

 

 米粒一つないメアリーの椀を見てウミヒコは冗談を言う雰囲気で言った。

 

「鯨?!海豚?!」

 

「流石に嫌がるどすぇ、ウミ爺」

 

 驚くメアリーに対してキツく当たっていたミヤコだがウミヒコに対して言った。

 

「………食べたいです!鯨と海豚!美味しいと聞いてるので!」

 

 メアリーは立ち上がりそう叫ぶように言った。

 周りは驚きを隠せないでいる。

 

「干し肉にしてあるで。でも勝手に食うとレンの奴がめっちゃ怒るけどな」

 

 ハナが言うようにそれらの肉は保存食としている。

 緊急用や潜水艦、水靈内での携帯食だ。

 

「まるでVIP扱いどすな。人質っちゅうこと忘れたらあきまへんで?」

 

 ミヤコはメアリーと仲間達、双方に注意するように告げた。

 

 

 

「何じゃあ?偉い複雑なコンテナじゃの」

 

 タンカーに積んだままのコンテナを眺め、その場を仕切ってる整備担当の女性がそう言った。

 

「駄目ですね。マイアさん、開きそうに無いです」

 

 コンテナ周囲を一通り見たであろう少女がそう告げる。か細いがそれなりに整備班として経験は積んでるという雰囲気がある。

 

「中身ごと売りに出す言うとったじゃけぇ。そのままでええじゃろ」

 

 そう独特の訛で話すマイアと呼ばれた現場を仕切る女性はスティク状の飴を口に入れる。作業用のつなぎの上半身を腰で結び、上は引き締まり、うっすら割れた腹筋が見える黒いタンクトップのインナーのみ。明るい色味の赤や金髪の混ざった髪を後ろで束ね、側面の髪は編み込まれている。左腕から背中、腹部にかけて蝶や花といったトライバル状のタトゥーが入っている。

 

「お宝の具合はどや?」

 

 様子を見に来たハナが整備班に対して声をかける。

 

「ハナか。おどれは?」

 

「お、おどれ?!」

 

「名前、聞いとるんやで」

 

 地方の訛や方言が強いマイアの言葉に思わず同様するメアリーにハナが翻訳するように説明する。

 

「メアリー、メアリー・デントです」

 

「ワシ、緋浦マイアじゃ」

 

 メアリーとマイアはその場で握手を交わそうとしたが

 

「あ………」

 

 マイアは自分の手の平が整備作業で汚れてるのに気づき、グータッチに切り替えた。

 

「飴、食うか?」

 

「いえ……」

 

 マイアはお近付きの印と言わんばかりポケットからスティックキャンディーを取り出す。

 

「しもた!『飴ちゃん食べるかー?』しそびれた!」

「?」

 

 突然頭を抱えるて叫んだハナに周囲は困惑した。

 

 

 

「あの……コレに関する事ですよね……?」

 

 メアリーはコンテナを指しながら言った。

 

「せやった。コイツを開けるためにメアリっち連れて来たんやった。解除コードとか解るか?」

 

「ハナならいつもみたくハッキングで開けれん違うか?」

 

「簡単に言うでくれるけどめっちゃ難しいときもあんねんで?これがそや。やたら厳重やねん」

 

 マイアの言葉に対しハナはコンテナを叩き、そう言った。

 

「解除には私の生体認証が登録されています。無理に開けようとすると機密保持の為に中のメイレスの機能破壊プログラムが送信される事になってます」

 

「メイレス……やはりせやったか……」

 

「……あっ……」

 

 メアリーは説明すると思わず中身について口を滑らせたといった様子だ。

 

「まぁ皆目検討はついとったしな。一応中身の確認や」

 

 だがハナは言葉通り、中身の察しは既についていたのだ。

 

「………フン」

 

「あ………」

 

 一緒にいた整備班の少女はメアリーを睨むように見ると何処かへ立ち去ってしまった。

 

「すまんな。カエデも悪い奴や無いんじゃが……」

 

「……いえ、もう慣れました」

 

 

 

 コンテナの装置からメアリーの顔認証、手と目のスキャンが行われコンテナが稼働し開く。

 

「……これがメイレスかいな……」

 

「私も実物を見るのは実は初めてで……」

 

「こじんまりしてオセ公のアメインみたいじゃの。ただならん雰囲気はあるんじゃが。ヤタガラスのと似てる感じはあるが随分違う感じじゃ」

 

 コンテナの中は簡易的なハンガーになっており、そこには装備もある。

 メイレスは格納待機モードになっておりコンパクトな形態をとっている。

 

「何にせよメイレ…ナントカは整備が難しそうじゃ。アメインとは勝手も違うじゃろし」

 

「それは売り物だ。傷つけるなよ」

 

 逞しく女性、副長のミコトが現れ、注意するように言った。

 

「他のメイレスの派生ではありますが扱い易さ、安全面は度外視されてるような性能です。まともに扱える人は殆いないかと……」

 

 メアリーは簡易的だがスペックも知っている様子だ。有人機仕様だがとても人間に扱える代物ではないといった様子だ。

 

「せやな。それにこれ、これだけやと欠品や」

 

 ハナも何かしら情報は掴んでるのかそう言った。

 

「欠品?少ないが武装もあるぞ?」

 

 ミコトがコンテナの中の装備を見ながら言った。

 

「水靈に使われてるAIサポートシステムあるやろ?あれみたいな奴や」

 

 潜水艦『ミズチ』には人員を補う為に自立型AIが搭載されている。ハナが持ち込み、調整したものだ。

 デフォルメされたドット絵のウーパールーパーを模したイメージで表現されている。

 

「『ハル』のようなものか。稼働してないだけではないのか?」

 

「コンテナ開ける位の事したら何らかの反応ある筈やけどな……オセアニア軍、一杯食わされたんかもな?」

 

 コンテナの中身を眺める一同。

 

「セラーナCEOがそのような事を……」

 

 メアリーは動揺を隠せないでいた。

 

「信頼しとるみたいやけどアイツ、元々質の悪い悪女やで?最近は人が変わったような話もあるけど本質は一緒やって事やな」

 

 ハナの言葉がメアリーには信じ難い様子である。

 

「私をブレンゾン北米支社に…、間接的ではありますが勧誘して頂いたのがセレーナCEOなんです。待遇も良かったので……。今回の仕事もセレーナCEO直々の指示で……」

 

 しかしながらメアリーにも多少の疑問があった。

 特に今回の仕事は破格の内容でも重要案件であり機密事項も多い。新人のメアリーがそれの要となる部分を任されるのはあまりに疑問が残る。

 

「探らせてもろたけどメアリっち、数年飛び級しとるしな。そういう人材は確保しときたいやろしブレンゾンの信用にも関わるさかい、見捨てはせぇへんやろ。それに、メアリっちのお父ちゃんの事もあるしな」

 

「………」

 

 メアリーは思わず俯き黙り込む。

 

「ああ、既に承知している」

 

「メアリっちは北米議会、ネイソン・デント上院議員の娘なんや」

 

「………」

 

「誰じゃ?ソイツ」

 

 マイアには今ひとつ解らない様子だった。

 

 

 

 北米の高層ビルの建ち並ぶ都市。その中でも一際巨大な一室の最上階。

 そこには高価なスーツに身を包み、無駄に長いテーブルの中央で部下の報告を聞きながら分厚いステーキを食らう初老の肥満の男がいた。

 

「以上、ブローカーが受け取った叢が得た今回の情報です。エッカート様」

 

「………そうか。しかしやはりステーキの肉は日本のものがいい。日本産の牛肉はどうなってる?」

 

 初老の肥満男は分厚いステーキを平らげながらも不満そうだ。

 

「多くの産地は未だ諸外国の境界内です。入植も進み元よりあった日本の畜産は廃業が進んでおります。北米圏の畜産農家内では品薄で入手が難しい状況が続いております」

 

 元より冷遇を続けた日本の農業や畜産関係は衰退が進んでいた。占領化では植民の置き換わりもあれば、品質を維持するために農奴の扱いで農業をやらされてる日本の農家もあり、そのまま力尽きてしまう場合もある。

 

「全く……甘い汁を吸わせてやってるというのに未だに連中を追い出せんのか」

 

「いかがなさいます?いつも通り取引は静観なさいますか?」

 

 初老の肥満男は不機嫌そうに口を拭く。

 

「人質はあの生意気な青二才の娘だったな……」

 

 男は何かを思いついた様子だ。

 

「アジア協商とオセアニアの連中に奴らの拠点情報をリークしろ」

 

 肥満の初老の男は冷徹にそう言った。

 

「よろしいので?」

 

「いつまで経っても己の国一つ奪還出来ない連中など不要だ。それに、あの青二才に思い知らせねばならん。このフランク・D・エッカート上院議員に逆らう事の愚かしさをな」

 

 

 

 

 アジア自由貿易協商の実効支配化となった日本の都市部。そこに建つアジア協商圏でも有数の大企業

『ガオ商会』のビル屋上のペントハウスにて。

 

「ウェン兄さん、この度は英兄さんの件、お悔やみ申し上げます。私も残念でなりません」

 

 その一室のモニターには顔立ちの整った白いスーツの青年が映し出され、リモートでの会話を行っている。

 

「心にも無いことを言うな。無能だが邪魔者は消えた。お前も同じだろ?シン」

 

 酒を煽りながらウェンと呼ばれた金髪で金の装飾品に見を包んだバスローブの柄の悪い男がリモートの相手に応える。

 

「………」

 

「アレは一族の汚点だ。下手な裏取引に手を出して海賊なんぞにやられるとはな。アレと腹の繋がった兄弟とは認めたくねぇよ」

 

「ところで兄さん、私の情報筋でその海賊の拠点を掴んだのですが?」

 

「……どういうつもりだ?」

 

 ウェンはリモート画像のシンを睨みつける。

 

「元より私は兄さんに敵うとは思っておりませんよ。しかし、ウェン兄さんがイン兄さんの仇を討てば……」

 

「俺は大義を示し、名声を得て地位は盤石か……何を企んでいやがる?」

 

 そう言うとのウェンはグラスのウィスキーを飲み干す。

 

「元より私は所詮は妾の生まれ。ウェン兄さんに敵うとは思っていませんよ。……せめて傍らでそれ相応の扱いを頂ければ……」

 

「八ッ……!だが、いい心掛けだ。日本で遊び倒すのにも飽きてきたところだ。そろそろ俺の器を示す時かもな」

 

 

 

「おおっ!これぞまさしくジャパニーズカレー!鯨と海豚の肉が何とも言えないハーモニー!付け合せのシーフードサラダも最高です!」

 

「まぁた、食レポどすか……」

 

「ンん……あまり辛くない無いのも私の口に合ってます!」

 

「ここには子供もいるからな。辛くは出来ねぇんだよ」

 

 調理したと思われるレンが応えた。メアリーの事は毛嫌いしていたが自分の料理が褒められている事に気を良くしたのか、態度が軟化したように思える。

 

「そう、レンくん、凄く料理上手なんだね」

 

「……俺はガキだっつって戦わせてくれねぇんだよ。いつの間にか料理担当になっちまってたんだ」

 

「あと、俺の名前、正しくは浜邊レンタロウだ。みんな短くして呼ぶんだよ。どうせ短い付き合いだ。好きに呼べばいいけど」

 

「そう、ありがとう」

 

「お、レン坊赤くなりおった!そうか!巨乳のネーチャンが好みか!おこちゃまめ!」

 

「ちっげーよッ!黙れまな板!」

 

「われ、それはウチも含んどるんどすか!」

 

 レンは抵抗するも羽交い締めにされ、頬を両手で引っ張られる。

 

「やめんか!食事中だぞ!」

 

 副長のミコトが大声で注意する。

 

「………フフッ」

 

 思わずメアリーから笑みが溢れた。

 

「落ち着いて来たみたいね」

 

「悪いな、うるさいとこで」

 

 隣で食事をとっていたダイゴとユミがメアリーに声をかける。

 

「賑やかで楽しいです。孤児院施設に行った時を思い出します」

 

「孤児院……?」

 

「父が慈善活動に熱心でしたから。私もよく一緒に」

 

 メアリーは父とよく孤児院に遊びに行った事を思い出した。父の慈善活動に付き合う形だったが父の事は尊敬していたし

 勉強熱心なメアリーには同年代の子供達と遊ぶ事が良い気分転換にもなっていたので嫌では無かった。

 

「もし無事に帰れたら父や孤児院を運営していたスピアーズさんに掛け合ってみます。せめて北米の統治下だけでも日本人の皆さんの援助や子供の為の孤児院施設を」

 

「そうか……気持ちだけでも嬉しいよ」

 

「難しいかもしれませんが父ならきっと……」

 

「まぁ俺たちの事は気にすんな。ここにいる連中、みんな家族みたいなもんだしな」

 

「一蓮托生って奴だ。共に生きて共に死ぬ」

 

 ダイゴは仲間のメンバーを見渡すように言った。

 

 

 

「レジスタンスの皆さんの食事はもっと質素だと思ってました」

 

 洗い場で副長のミコトとメアリーが会話をしながら食器を洗っている。

 

「子供もいるし艦長やその他の重鎮は生活面には気を使っている。特に食料の確保は最優先でそれなりに上手く行ってる」

 

 海賊レジスタンスたる叢は日本でも名の知れたレジスタンスだけに設備はそれなりに整っている。医療設備等、まだまだ問題はあるにしても高性能の潜水艦一隻、アメイン数機を運用出来るだけのリソースはあるのだ。

 

「海賊やテロリストと呼ばれはするが皆、望んでそうなったわけではない。元より私も今より以前の日本を知らないが」

 

 ミコトが言うように彼女のように実行支配下で生まれた世代の日本人もいる。しかしながらまともな環境で育つのは稀である。北米領内では富裕層のみがまともな教育を受けられ、オセアニア内では実質的な日本人の自治はあるものの、理不尽な弾圧を受ける事は珍しくない。

 

「父が元より艦長、叢の副官の立場だった。幼い頃より色々叩き込まれたよ。既に父は亡くなってしまったが艦長はもう一人の父のように思ってる」

 

「そうなんですか……」

 

「私はまだ恵まれた方だ。皆、凄惨な思いをしてここにたどり着いた者ばかりだ」

 

 洗い場から目の届くところでまたハナとミヤコが些細な言い争いをしている様子だ。

 だかそれは『喧嘩するほど仲が良い』といった様子にも見える。

 

「ハナが来てくれてからは色々助かっている。ハッキングや工作員としてだけでなく、アイツの冗談は場を和ませる。笑えない事も多いがな」

 

 ミコトは微笑みながら言った。

 

「ナギも変わった。いや、ナギ自体は変わって無いのかもしれんがああいう性質だ。私も含めて正直気味悪がるものも少なくなかった」

 

 洗い物を終え、ミコトとメアリーの二人はお茶を飲みながら一息つく。

 

「人質……客人に手伝わせて済まないな。皆忙しくてな。助かる」

 

「父と孤児院に行った時は手伝っていたので。ここ数年は学業と仕事で訪問出来てませんが……」

 

 

 

「………綺麗ね………」

 

 拠点の洞窟から覗く夜空を見てメアリーは思わずそう呟いた。

 

「にゃー……」

 

「猫……」

 

 鳴き声を聞いたメアリーは振り返るとそこには三毛猫がいた。

 

「君もここの家族?」

 

「マイクって言うの?」

 

 メアリーはかがみこむと三毛猫を抱き上げると、首輪の『MIKE』の文字が目に入る。

 

「気ぃつけや。狂犬病持っとるかもしれへんで?」

 

「えっ?」

 

 ふと現れたハナが言った言葉にメアリーが驚く。

 

「嘘やで」

 

 ハナがそう言うとのメアリーは安堵した。

 

「その子、ミケはワクチン打ってあるし大丈夫や」

 

 ミケの頭を撫でながらハナは言った。

 

「でも緩くなっていった検問で外国から狂犬病やら疫病やらが入ってきたんは事実や」

 

「日本は元々経済は悪化する一方で捨てられたペットはぎょうさんおったしな」

 

「しまいにゃ外圧か忖度かは知らんけど検問も緩うなって狂犬病も蔓延しだしてな。日本中の至るとこで野良だけやのうて飼われとるペットも殺処分や」

 

 ハナはミケを抱き上げてそう言った。

 

「………」

 

「ミケは貴重な生き残りや。かわええのう。癒やされるぅ~~~」

 

 ハナはミケを抱き寄せ、笑顔になる。

 

 「しかし、日本は悲惨なことなっとるのに星は今日も綺麗やな。日本の現状からは考えられへん」

 

 ハナは星空を見上げながら言った。するとミケが手元から離れて行った。

 

「あ……行ってしもた。猫まで巨乳好きなんかぁ?」

 

 ミケの背中を見送るようにハナは困惑した顔をする。

 

「夜風は身体に悪いで?はよ寝やな美容にも悪いしな」

 

「ナギちゃん……?」

 メアリーはナギの姿を見て驚く。目は瞑っているものの、手に銃を持ち、壁に背に座っている。

 寝ているように見えるが直ぐに戦闘態勢に移れる姿勢だ。

 

「凄いやろ?あれで寝とるんやで?」

 

「どんなえげつない訓練受けて来たんやろな。おかげで頼りになるんやけど」

 

 

 

 

 

「はよう起きぃ!死ぬどすぇ!」

 

「……おはようございます………」

 

 寝ていたメアリーをハナコが揺り起こす。

 周りは慌ただしいがまだメアリーは寝ぼけている。

 

「寝ぼけとる場合やあらへんどす!」

 

「にゃにが……?」

 

 ミヤコは両手でメアリーの顔を挟み込むように押す。

 

「亜キョンとオセ公の軍が迫っとる!」

 

「……?」

 

 ようやくメアリーは覚醒したが状況が今ひとつ飲み込めていないようだ。

 

「動きを察知したんはハナどす!作戦会議室や!」

 

 

 

 拠点内の作戦会議室、此処も拠点全体同様に慌ただしい。

 

「アカンで……これ……このままやと連中の艦は領海に入ってくる……陸からも……アメインも水靈での脱出経路を塞ぐ気や!」

 

 ハナはノートPCを触りながら動揺している。事態は相当に悪い。

 

「北米軍はどうした?」

 

 副長のミコトがハナに問う。

 

「どういう訳か動いとらん。他方での演習やら哨戒任務と被っとるみたいやが陸はアメイン十数機の規模やぞ……これは……なんかある……。見捨てられたんかもしれん……」

 

 

 

 頭領のウミヒコが煙管のタバコを更かしながら

 

「見捨てられてるってのは大分前からだ」

 

 と妙に落ち着きながら言った。

 

「こうなる日が来てもおかしくは無い。それが今日という事だ」

 

 ウミヒコは煙管を置く。

 

「艦長、指示を」

 

 副長のミコトがウミヒコに指示を請う。

 

「女子供は水靈に。悪いが野郎共は覚悟を決めてくれ。『漢』になる時だ」

 

「了解!」

 

 頭領、ウミヒコの言葉に一同、勇ましく応えた。

 

 

 

「艦長、私も残ります」

 

 副長のミコトがそうウミヒコに告げる。

 

「もう艦長じゃねぇよ。次の艦長はお前だ。それに、女は水靈に乗れと命令したぞ?」

 

 ウミヒコは不機嫌そうにジュンに言った。

 

「女として生きているつもりはありません。それに艦長がいなければ……」

 

 ミコトの言葉から彼女からは日本を取り戻す為に戦う覚悟をしてることがウミヒコにも伝わる。

 

「俺も散々今まで死に損なって来た。年には勝てんよ。それに、日本の女が連中にどんな目に逢って来たかは知ってるだろ?」

 

「………」

 

 ミコトの言葉を遮るようにウミヒコは言った。

 その言葉にミコトは返す言葉もない。

 

「年寄りの最後の頼みでもあるんだ。黙ってきいてくれや」

 

 腰も曲がった自分より上背も高くなり、逞しくなったミコトの肩に手を起き、ウミヒコは優しくミコトを見つめた。

 

「………了解しました!」

 

 ジュンはウミヒコに敬礼すると水靈へと走っていく。

 

 

 

「すまんな皆、覚悟を決めてくれ」

 

 ダイゴが男衆の前でそう言った。

 

「ようやっと来たか!待ちわびたぜ!」

「こんな年寄でも弾除けにつかってくんな」

 

 だが、皆、悲観するどころか士気は高まる様子だ。既に覚悟は決まっているのだろう。

 

 

 

「お前達も早く水靈へ行け!」

 

 整備班のリーダーらしき中年男性が女達に向けて言い放つ。

 

「ワシは残らせて貰うで。久しぶりに暴れさせてもらう」

 

 マイアが手に持った鉄パイプを肩にかけながら飴をくわえ、言った。

 

「私も残ります。役に立てるかはわかりませんが」

 

 気質的に戦闘には向いてるとは思えぬイオもそう言った。

「私もです」

 

 無愛想な少女、カエデもだ。か細い身体で戦力になるとは到底思えないが覚悟の決まった顔をしている。

 

「ヒコ爺の命令だぞ!それに整備する奴がいなくてどうする?さっさと行け!」

 

「そうさ、昔から女を守るのは男の役目ってね」

 

 ドヤった顔をしながらまだ幼さの残る整備班の青年が銃を携える。

 

「その考え、古いですよ」

 

 否定するようにカエデが言った。

 

「……そんじゃ物資を積めこむのを手伝え。いいか?連中が来たらさっさと乗るんだ」

 

 整備班の中年男性がそう言うと荷物の積み込みが始まった。

 

 

 

 レンとミオはリュックに鯨や海豚の干肉を詰め込めるだけ詰め込んでいた。

 

「ミオ、いいか?お前は姉ちゃん達と一緒に行くんだ」

 

 それが終わるとレンはミオの肩に手を置き、目を見ながらそういった。

 だが、ミオは不安そうに首を横に振る。

 

「なぁ、頼むよ……」

 

「何してるレン、お前も水靈に乗れ!」

 

 その時、頭領のウミヒコの声が轟く。

 

「俺も男だ!戦う!」

「ガキが!いきがるんじねぇ!」

 

 ウミヒコはレンをそう怒鳴りつけるもその後に静かにこう言った。

 

「女達を守ってやんな」

 

 レンは納得してない様子だがミオの手を繋ぐと

 

「……わかったよ。行くぞミオ」

 

 と言って走り出す。

 

「死ぬなよ!ジジイ!」

 

 レンは最後に叫んだ。

 

「ハハッ!いっちょ前に!」

 

 ウミヒコからは思わず笑顔が浮かぶ。

 

「いい男達と心中ね。悪くないけど……最後に連中の一人くらいヤれそうかな……?」

 

 ウミヒコに同行していたケンジがそう呟いた。

 

「生憎、女がいないからといってオカマと心中も嫌でな。お前は水靈の護衛に回れ」

 

「えーーーーっ!?」

 

 

 

 

「アメイン起動!」

 

 その声と共に拠点内のアメイン、鹵獲されたジョーハウンドが起動する。

 

「残り一機のジョーハウンドは?」

 

「水靈に格納されたままだ」

 

 

 

 拠点近くの森林で突如爆発音が起こる。

 

「クソ!地雷か!」

 

 オセアニア軍の指揮車が一台、地雷で吹き飛んだ。

 拠点周辺は防御の為に地雷原となっている。

 

「早速オセアニア軍が役に立ってくれたな」

 

 アジア軍の特別仕様の指揮車の後部座席には戦場には不似合いの派手なスーツと装飾品で着飾った男がアジア系の女達を侍らせ、酒を煽っている。

 高商会の経営者一族、ガオ・ウェンである。

 

「元よりオセアニア軍には期待していない。生き残った無人機を盾にしながら進めばいいだろう。高い金を払ってるんだ。その程度の損害、大した事は無い」

 

 ウェンは弟、インのパイプと金を利用し、オセアニア軍との協働を実現した。

 

「クソ!アジア協商圏の成金め!」

 

 軍人、上官でも無いのに偉そうに指し図するウェンにオセアニア軍の兵達は怒りを露わにするが結局、今回の出撃にはウェンが金を出しており結局は逆らえないなである。

 その中には重装型のバンイップ・ブーメランもある。その重装甲は地雷をものともしない。

 重装だけに火力、装甲は高いがオセアニア軍にとっては運用コストが厳しい。

 ガオ商会の後立てで予算を持つことで今回、出撃が可能になったのだ。

 

「女と子供は生捕りにしろ。高く売れる」

 

 ウェンはふんぞり返りながらそう指示する。

 

「ガオ・ウェンさん、激しい抵抗が予想されるので制圧部隊だけでなくアメインも多数導入しています。拘束は難しいかと」

 

「その予算は誰が出してやってる?無能の弟の仇などどうでもいいが連中には何度もやられてるのが癪に障る。海賊どもの最後をこの目で見ないと気が済まんし損失も回収しないとな。そこは商売の基本だ。」

 

 アジア軍を指揮するチャン少佐がウェンに対して注意するもウェンは全く届いて無いようだ。

 

「それに、値踏みや味見もしたいからな。心配するな。お前らにも回してやる」

 

 ウェンは下品に笑いながら少佐を見る。

 

「………」

 

 少佐はスポンサーたるウェンに一切の言葉が出ない。面倒な相手だがまたその恩恵も大きいのだ。

 女が注いだ酒を手に文はふんぞり返る。

 

「それと、何やら日本でテロリスト共がいい気になって使ってる『新型アメイン』があるらしいな。これを鹵獲できれば……くっくっくっ……」

 

 

 

「敵勢力確認!」

 

「アジア軍艦2隻!対潜水艦用爆雷装備!」

 

 海側を見張る叢のメンバーが状況を報告する。

 

「2隻でも、包囲されちゃ水靈でも突破は難しいか……」

 

 報告を受けたウミヒコが難しい顔をする。

 

「陸路よりオセアニア軍、アジア軍のアメイン多数!」

 

「……引き付けて……引き付けて……」

 

 ハナがノートPCの前で何やら待ち構えている。

 

「オセアニア軍で残ってるのはあのゴツいの含めて無人機たった3機か。当てにならんなオセアニア軍は」

 

 地雷原を突破するも、先行していたオセアニア軍の被害は甚大なようである。

 

「くそ、馬鹿にしやがって……」

 

「いち早く乗り込んで一気にカタをつけるぞ!」

 

 オセアニア軍は無人機、バンイップ・ブーメランを進める。

 

 

 

「ECM、起動!」

 

 ハナがそう叫び、キーボードをタイプすると

 拠点周辺に隠されてる数機のECM発生装置が起動する。

 

「どうした!?」

 

「反応無し!動きません!」

 

 拠点の巨大な鋼鉄の扉目前まで迫っていた2機のバンイップ・ブーメランに反応はない。電波を妨害され指揮車からの指示を受け付けないのだ。

 

 

「EPM弾、発射!」

 

 拠点の港のジョーハウンドのバズーカから艦艇上空に向けて弾が放たれる。

 艦艇は対空砲で迎撃の姿勢を取るが弾頭は艦艇上空で爆発する。

 

「どうした?!何が起きた!?」

 

「レーダー、使用不能!」

 

 艦艇内は突然の出来事に慌てふためく。装備の電子機器が尽く使用不能なのだ。

 

「こいつで多少は持つ。ミコト!水靈の準備を急げ!」

 

「了解!乗艦急げ!」

 

 ウミヒコが叫ぶ。ミコトはそれに応え、叫んだ。

 

 

「アジア軍アメイン、動いてます!」

 

「どういう事だ!?」

 

 拠点の見張りのメンバーが動くアジア軍のニュウレンを確認するとそれを報告する。

 

「連中のニュウレン、有人機や!」

 

 ハナはそう叫んだ。

 拠点のECMシステムは無人機の機能を停止させることが出来るも有人機に対してはその効果を完全には発揮出来ない。無線やレーダーは妨害出来るが有人による有視界戦闘が可能な有人機は動くことが出来る。

 

 

 

「テロリストとの戦いで既にそういった事は想定済みだ!アメインと強襲鎮圧部隊と連携し、敵を掃討せよ!」

 

 レジスタンスの中にはECM等を使い、無人機を妨害する者達もいた。それに、今回は色々と情報が流れているようで対策はしてきたという事だ。

 

「待て!チャン少佐!女と子供は生け捕りだ!金になる!」

 

「ガオ・ウェンさん、奴らは獣のように凶暴です。それに我々の軍もやられてます。面子の為にも生かしてはおけません」

 

「無傷でなくても構わん!生きてさえいりゃ臓物も売れる」

 

 チャン少佐とウェンは再び口論を始める。

 だが結局はスポンサーたるウェンに逆らえず、

 チャン少佐は警告をスピーカー行う。

 

「テロリストの諸君!君達は既に包囲されている!速やかに投降せよ!生命の保証はしよう!」

 

 スピーカーの音が周囲に響く。チャン少佐の最初で最後の警告だ。

 

 

 

「ハッ!笑えん冗談だ!亜キョンの言葉なんぞ信用するかよ!」

 

 拠点内ではメンバー達の敵を罵る言葉が発せられる。

 

「強制労働や人身売買に使われるのがオチどすえ」

 

「内蔵抜かれたり鍋で煮込まれたりって話もあるが眉唾では無いだろうな」

 

「……食べるんですか……」

 

 メアリーは信じ難い様子だった。

 しかし、アジア自由貿易協商圏の権力者にはカニバリズムを嗜好とする者もいる。

 

「一分間の猶予を与える!それまでに武装を解除し、投降せよ!こちらの指示が受け入れられない場合は掃討作戦を開始する!」

 

 

 

「短すぎるだろ!」

 

「一分は待つって事じゃ無ねぇか?」

 

 チャン少佐にはさらさら待つ気はない。ウェンに対して『警告はしたがやむを得ず』という事を示すためだ。

 

「おい!何やってる!あんたらは水靈に……」

 

「今は此処が私達の家だよ……」

 

 メンバーの中年や老齢の女性達が武器を手に取り、構えている。それを見たダイゴが水靈に行くよう指示するが

 

「他に行くとこの無い年寄を貴方達は快く迎えてくれた」

 

 と皆、乗艦を拒否した。老若男女、ここで玉砕するつもりなのだ。

 

 

 

 

「投降は無しか。目ぼしいのは可愛がってやるつもりだったが……」

 

 指揮車の中のウェンは呆れた様子だ。

 

「………」

 

「突入せよ!」

 

 

 

 拠点内の塞いでいた巨大な鋼鉄の扉が開く。

 

「扉が!?どうなってる?!」

 

 それを見た思わずダイゴが叫んだ。

 

「連中、直結でハッキングしてきおった!敵はアメインだけやない!鎮圧部隊もおるで!」

 

 「『ゴキブリ』共かっ!?そんなモンまで……」

 

 鎮圧部隊の電子処理班が有線でのハッキングで拠点の巨大なぶ厚い鋼鉄の扉が両側に開いていく。

だがそこには一機の海賊側のアメイン、ジョーハウンドが待ち構えていた。

 

「オラオラオラオラ〜〜〜!」

 

 ジョーハウンドは前進しながら機銃を乱射する。

しかしそれらは全てアジア軍のアメイン、牛人(ニュウレン)の大盾によって防がれてしまった。

 

「へっ!亜キョンの癖にやるじゃねぇか!」

 

 飛び出したジョーハウンドは弾の切れた機関銃を捨てると鋼鉄の扉の前で仁王立ちする。

 

「オラァ!かかってコイや亜キョンのイヌども!」

 

 アジア軍のニュウレンが数機、一気に飛びかかる。

 ジョーハウンドは一瞬で鉄塊にされてしまった。

 

「吉田ァァァァァァァ!」

 

 もう一機のジョーハウンドが飛び出そうとする。

 だが、待ち構えていたニュウレンのロケットランチャーの直撃を受け、あっけなく撃破されてしまった。

 

「なだれ込んでくる!応戦するぞ!」

 

 すると鎮圧部隊らしき武装した集団が開いた鋼鉄の扉から一気に入り込んできた。そして一斉に射撃を開始する。瞬く間に老若男女問わず、数名の叢のメンバーがやられた。

 

「くそぉ!ゴキブリ共め!」

 

 叢のメンバー達も負けじと物陰に隠れながら銃で応戦する。そこに鎮圧部隊からグレネードが投げ込まれる。

 

「……畜生!」

 

 爆発は数名を巻き込んだ。

 

「コンチクショーがぁ!」

 

 威勢のいい男が勝りの女性メンバーが両手にサブマシンガンを持ち乱射する。鎮圧部隊数名を仕留めるも、彼女は額を撃ち抜かれてしまった。

 たが鎮圧部隊に怖気づく事なく迫る少女がいる。ナギだ。耐弾性の高いプロテクターの隙間を狙うように至近距離で両手に持った拳銃を発砲する。更にナギを狙った隊員のライフルをナギは人間離れした反射神経とフィジカルで回避すると回り込むようにして隊員を蹴り倒し、抑え込むと即座に発砲。

 一瞬にして鎮圧部隊三名を仕留めた。

 ナギは額を撃たれた女性に駆け寄ると引きずりながらその遺体と一緒に物陰に身を隠す。まだ使える武装を回収するとナギは見開いたままの彼女の瞳を手で撫で下ろし、閉じた。

 

「へっ、ここまでか。ついに俺の番か……」

 

 叢を率いる長、頭領のウミヒコは応戦するも、腹部を撃たれ物陰に座り込んでいる。

 

「潔の悪さと悪運で無駄に長生きしちまった。あちこちガタが来てたからな。ちぃと遅くなっちまったが俺もようやく逝けるぜ……」

 

 迫りくる鎮圧部隊が瀕死のウミヒコを見つけると銃を構えた。

 

「よう、皆で仲良く地獄に行こうぜ……」

 

 頭領は上着を開くとそこにはいくつものグレネードや爆弾が付いていた。

 そしてその爆発は頭領諸共数名の鎮圧部隊を巻き込んだ。

 

「くそ!数が多い!」

 

「ダイゴさん!私はもういいです!貴方が水靈へ!」

 

 ダイゴはユミの護衛を行っていた。

 恋人故の私的な行動ではない。仲間に促され、医療の薬品や器具を運ぶのに手間取っているユミの元へ向かったのだ。

 

「駄目だ!医者は必要だ!アサミはどうする?」

 

「………」

 

「危ない!」

 

 その時、鎮圧部隊が突入してきた。

 浴びせられる銃弾からダイゴはユミを庇う。

 

「こんぬぉぉぉぉぉ!」

 

 ダイゴは持っていた機関銃を放ち、突入してきた鎮圧部隊を蹴散らす。

 

「今すぐ処置を!」

 

「いや、いい。どうせ助からんのだろ?」

 

「………」

 

 ダイゴは恰幅のいい体格だが流石に銃弾を浴びすぎた。最早自分の限界は解っているのだ。

 

「動けるうちに……」

 

 ダイゴは携行していたもの、周辺にあったありったけの爆弾やグレネードを抱える。

 

「ダイゴさん……」

 

「ユミ……愛してる……」

 

 ダイゴは振り返り、ユミに笑顔でそう告げると

 

「皆を、頼む!」

 

と、言い残し敵の集団に向け走り抜ける。

 

「うおおおおおおお!」

 

 ダイゴは数発の弾丸を受けながらも突き進み、鎮圧部隊の隊長に飛びかかると押さえつける。そして数名の隊員を巻き込み、爆散した。

 

 

 

「よいっしょっ」

 

 アサミはリュックを背負い、ミケを抱きながら拠点の港から開いた水靈のハッチにかけられた細い橋を渡り、乗り込む。

 

「ほら、ミオ、先に乗れ」

 

「んだよ。怖えってか……」

 

「レンくんが先に乗って見せればいいんじゃないかな?」

 

「……ほら、ミオ、荷物貸しな」

 

「な?怖くねぇだろ?」

 

 だがレンの目に見えたのは横たわるミオの姿だ。流れ弾に側頭部を撃たれて目を見開いたまま横たわってる。

「うわァァァァァァ!ミオォォォォ!」

 

 レンの叫び声が鎮圧部隊の注意を引いてしまった。

 

「いけない!」

 

 ケンジは太股に携行しているナイフを投げる。それは隊員の頸動脈を切り裂いて刺さり、血を吹き出しながら倒れる。

 

 中で乗艦の確認と航行の為の作業をしていたミコトも応戦し、鎮圧部隊目掛けて機関銃を連射する。

数発の弾丸が命中し、一人を仕留めたが一人仕留め損なった。だがすかさずケンジがナイフで隊員の喉元を貫く。

 

「ミオッ!ミオッ!畜生!」

 

「駄目だ!中へ入れ!」

 

 走り出そうとするレンをミコトは強引に抑え込み、抱える。

 

「離せ!ミオが!」

 

「ミオは死んだ!」

 

「仇討つんだよ!殺してやる!」

 

「レン!」

 

「ちくしょう…!ちくしょう…!」

 

 怒りと悲しみで思わず泣きわめいたレンだが結局は何もできなかった。

 

「……残りの乗艦が終わったらお前も乗れ」

 

 ミコトがケンジに向けて言い放つ。

 

「いや、ボク男だよ?」

 

「お前はそつなく器用だ。必要になる」

 

「……生きていればね」

 

 ケンジは警戒するように銃を構える。

 

 

 

 

「リアクターは死守するんだ!」

 

 リアクター付近ではメンバー達が必死の抵抗を続けてる。

 

「………?」

 

 だが突然、鎮圧部隊の銃撃が止んだ。

 

「……ナギか?」

 

 メンバーの一人が鎮圧部隊の方を覗く。

 

「グレネードとロケットだ!奴ら正気か!」

 

 鎮圧部隊はグレネードとロケットを放つ。

 

 

 

「リアクターに異常!連中……リアクターに攻撃しおったな!」

 

 ノートPCに表示された情報を見てハナは動揺する。

 

「でもこれなら直結して操作したら停止させる事ができるかもしれん!ちょっと行ってくる!」

 

 だが冷静に情報を整理するとまだ対象のしようがあるようだ。

 

「そんなもんほっときや!どうせ乗っ取られるんやったら汚染されてもかまへんどす!」

 

「ミヤコ、これでもまだ日本には日本人はおるんや。地元の人らにも良くしてもろたん忘れたんか?」

 

「そないな事、わかっとるどす……」

 

「……ははぁん?心配してくれとんかぁ?」

 

「ち、ちゃうねん!」

 

「お互い、ええ男捕まえるまで死ぬつもりあらへんやろ?」

 

 ミヤコは少し照れた様子であった。

 

「あの……私にお手伝い出来る事ありますか?」

 

 場を見かねたメアリーが手伝える事は無いか問う。

 

「カッコつけたいとこやけど正直猫の手も借りたいねん……危ないけど来てくれるか?」

 

 ハナは申し訳無さそうな苦笑いをする。

 

「それやったらウチも……」

 

「ミヤコは水靈の火器管制あるやろ」

 

 

 

「よし、行けるよ!」

 

 状況を確認し、安全を確認したケンジがハナとメアリーを誘導する。

 

「ヒィィィィィ!!」

 

「頭下げぃ!」

 

 周辺の敵はメンバーやナギが食い止めている。

 遠方ではナギの一騎当千の働きをしている。

 

「ナギ、景気ようやっとるな。凄い娘やでホンマ。あの鎮圧部隊もゴキブリ言われとるけどアジア軍の精鋭なんやで」

 

 ナギの異様な戦闘力を持ってしても鎮圧部隊を壊滅させる事は不可能だ。さらに、鎮圧部隊は数も多い。

 

「流石にナギも手一杯か。急ぐで!」

 

 ハナとメアリーはリアクター目指して走り出す。

 

 

「お前達はもういけ!」

 

 整備格納庫にも鎮圧部隊が迫る。

 

「でも、まだ物資が……」

 

「残るはほとんどガラクタだ。それ、来なすった…」

 

 整備格納庫を護っていたメンバーが撃たれ、鎮圧部隊が入ってくる。

 

「ここは任せて行け!」

 

 整備班のリーダーの中年男性が物陰に隠れながら

整備班の女性メンバー達に告げる。

 

「………」

 

「カッコつけさせてくださいよ、男として」

 

 躊躇する女達にまだ幼さの残る整備班の青年が笑顔でそう告げる。

 

「……古いです、その考え……」

 

 すかさずカエデがそう言った。

 

「ウチは残るで」

 

 マイアが鉄パイプ片手に応戦する気満々だ。

 

「駄目だ、カイ爺の命令だ」

 

「そんなモン関係あらんわ」

 

「お前は仮にもこの娘らの班長だろ。指示する役割は必要だ」

 

「………」

 

 マイアは任された責任を自覚したのか、黙り込む。

 

「男を立てる。それも『女子力』だ」

 

「いくで……」

 

 マイアは荷物を抱えたイオとカエデを先導し、格納庫を後にする。

 

「なぁお前、カエデの事好きだったろ?」

 

「え?なんで解ったんスか?」

 

「バレバレだ」

 

「俺は三人とも好きだ!」

 

「ああ、美人揃いだもんな」

 

「マイアの奴、黙ってりゃすげぇ美人なんだよな!ガサツだけどよ!」

 

「そうだな!」

 

 鎮圧部隊の迫る中、整備メンバーの男達の何気ない会話が行われた。

 

 

 

「あっ………!」

 

 水靈に向かう途中、焦ったイオが転倒してしまった。そこに間が悪くも鎮圧部隊が迫る。

 

 だがそこに爆音を響かせたバイクが水靈の開いた格納庫ハッチから飛び出し、走って来る。それには鉄パイプを握りしめたマイアが乗ってる。

 

「おどりゃァァァァァァ!!」

 

 マイアはそれを思いきり振りかぶると迫りくる隊員の頭部をヘルメットごと飛ばした。

 

「りゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 マイアはバイクをドリフトで無理やり停止させると槍投げのように鉄パイプを隊員に投げつける。

 鉄パイプは隊員の身体を貫通し、隊員はそのまま鉄パイプごと後のコンテナに突き刺さる。

 マイアはさらにエンジンを吹かす。

 その先には扉から入ってきた鎮圧部隊の増援が盾を構えている。マイアはその部隊目掛けてバイクを走らせる。そしてマイアは走行中のバイクから飛び降りた。バイクはそのまま盾を構えた鎮圧部隊に突っ込む。マイアは受け身を取るように転がると即座に体勢を立て直し

 

「ナギ!」

 

 と叫んだ。

 それに気づいたナギはバイクのタンクを撃つ。

 するとバイクは鎮圧部隊を巻き込み爆発、炎上した。

 

「これで幾らかは時間稼げるじゃろ」

 

 

 

「どうした?作戦目標時間はとっくに過ぎてるぞ。まだ制圧出来ないのか?」

 

 チャン少佐は指揮車から出て外で待機する制圧部隊から状況確認行う。

 

「想定以上に抵抗が激しい模様です。無線も使えません」 

 

「妨害装置か……。それを探して破壊しろ」

 

「精鋭が聞いて呆れるな……」

 

 その一部始終を観ていたウェンが言った。

 

「お言葉ですが我々には暴徒鎮圧、対テロリスト等における実績と絶対の自信があります」

 

 チャン少佐は外からウェンに向けて言い放つ。

 

「……だがコイツらも最精鋭では無いのだろ?噂に聞く『台湾』の連中はどうした?」

 

 ウェンは外をキョロキョロしながらそう言った。

 

「ただの噂ですよ。アジア協商で冷遇される台湾の連中が自分達の地位向上の為に広めた噂でしょう。そんな部隊、私は見た事もない」

 

 リアクター付近。周辺にはメンバーや鎮圧部隊の死体が転がっている。

 

「………」

 

 メアリーは思わず目を逸らす。

 

「メアリー、そっち頼む」

 

 ハナとメアリーはタブレットとノートPCで作業を行う。

 

「凄い……」

 

 複雑なプログラムをハナは神速で処理していくハナを見てメアリーは思わず呟いた。

 

「そっちはどや?」

 

「もう少し……」

 

「終わりました…」

 

「おっしゃ!」

 

 ハナはその声と共にEnterキーを押す。

すると拠点内の電灯が消え、非常灯が微かに周囲を照らす。

 

「異常のあるのだけ止めた。残りの電力はECMに回しとる」

 

「さっさと引き上げるで!」

 

「……アカン!」

 

 だが目の前には扉から入ってきたアメイン、ニュウレンが立ち塞がる。

 

「走れ!」

 

 メアリーに向け、ハナは叫ぶ。

 

「目、閉じや!」

 

 ハナは持っていたグレネードを放り投げた。それはニュウレンの頭部カメラ前でで爆ぜる。

 メインカメラがやられ、パイロットはパニックになったのかニュウレンは暴れるように動く。

 

「ひぇっ!」

 

 暴れるニュウレンの動きを避けるようにメアリーは飛び込んで回避した。

 

「危ないとこやったで」

 

ニュウレンのコクピットハッチが開く。メインカメラが使えず、直接目視しての操縦に切替える。

 

「やってくれたな!」

 

 ニュウレンは搭載されているロケット砲をハナへと向ける。

 

「ハナさん!」

 

 メアリーはそう叫ぶもハナはロケット弾の爆発に巻き込まれる。

 

「ああああああああッ!」

 

 直撃は免れるもハナの半身を炎が包む。

 メアリーはハナに駆け寄ると上着を脱ぎ、必死で火を消す。

 だが非情にもニュウレンは銃口を二人に向ける。

 その時、ニュウレンの足関節で爆発が起きた。

 

 ナギがロケット砲を放ったのだ。

 膝からニュウレンは崩れ落ちる。すかさずそれをナギは登っていき、パイロットに銃口を向ける。

 

「ま、待て……」

 

 パイロットが両手を上げるも発砲音が響く。

 

 メアリーはハナに肩を貸し、必死で水靈に向かって歩く。

 

「ウチはもうアカン……アンタだけでも……」

 

「水靈には先生がいます!だから……」

 

 だがその時、目の前に現れた鎮圧部隊の一人が銃口を向ける。

 

「………!」

 

 万事休す。しかし隊員はナイフ喉元を引き裂かれ、血を吹き出し倒れる。

 目の前に現れたのはナギである。

 

「………あ……」

 

 安堵したのか、メアリーは倒れ込む。

 その衝撃からか、携帯端末がこぼれ落ちた。

 

 

 

 拠点の周辺から爆発音が轟く。

 ECM装置は全て破壊されていた。

 

「通信回復!状況を報告せよ!」

 

「……鎮圧部隊、損失七割!」

 

「なん……だと……!?」

 

「フッ!精鋭が聞いて呆れるな」

 

「何が起きてる!?」

 

「わかりません……」

 

「……だが連中も虫の息だ。アメイン、残存部隊全て投入!」

 

『……聞こ……え……るか………返答……の入力を……』

 

 こぼれ落ちた端末から声が聞こえる。

 

 それに気づいたナギは端末を拾う。

 

『生体との接触を確認』

 

 端末からはノイズ混じりの音声が聞こえる。

 

「え……何?電源入ってた……?」

 

 メアリーの携帯端末は拠点の場所を特定されないよう電源が切られていた。ハナによるロックで彼女の操作無しでは電源も入れる事が出来ない。

 

「……まさか……おったんか……」

 

 半身に火傷を負い、瀕死のハナが驚くように言った。

 

『僕は自立型サポートAI、I−LeSだ。通称名は無い』

 

「………」

 

『この状況では君達の生存率は皆無だ。君達の生存率を上げる提案がある』

 

「……え?」

 

『ひとまず負傷者の搬送を推奨する。話はその後だ』

 

 

 

 瀕死のハナを水靈へと運び込む。

 

「ハナ!しっかりするどす!」

 

 ミヤコが動揺し、運ばれたハナに駆け寄る。

 

「ははは……しくじったわ……リアクターは何とかなったけどこれじゃ……美人が台無しや……」

 

「火傷が酷い!離れて!直ぐに先生のところへ!」

 

 ユキコの先導の元、ハナは水靈内の医務室に運ばれた。

 

『この状況を切り抜けるにはどうするつもりだ?』

「全部殺す」

『それが最適解だ。殲滅以外な方法は無い。だが、君だとてそれは不可能だ。敵はアメインに艦艇だ』

 

「どうするの……まさか……」

 

 メアリーは何かを察したように言った。

 

『メイレス、セイレンを起動させる。そしてその搭乗者は彼女、ナギだ。彼女の搭乗が一番生存率が高いと判断する』

 

「でもナギちゃん、アメインの操縦は……」

 

「ジョーハウンドのシミュレーター、実働時間、共に問題無い」

 

『上出来だ。だがメイレスはアメインとはまた違うぞ』

 

「……大丈夫……なの?」

 

『僕はサポートAIだ。その為に存在する』

 

「でもどうして……」

 

『所詮、僕は機械だ。僕にとって君達の生存はどうでもいい』

 

「………!」

 

『だがアジア軍の手に渡れば僕は解析され解体されるだろう』

 

「………で、それの何が問題や?機械のAIはん?」

 

 苛ついた様子でミヤコが端末のAIに話しかける。

 

『君達の感覚でいうところの実験台にされて解剖されるといったとこだ。だがそれは君達の感覚からして良いことでは無い。自己の生存の可能性を解析した結果だ』

 

「結局自分が生きる為、どすか」

 

 ミヤコは呆れた様子だ。

 

『だが、目的は同じだ。ナギ、いけるか?』

 

「問題無い」

 

『僕の提案は承認されたと判断する。だが、コンテナを開ける必要がある』

 

「……え……」

 

 一同がメアリーを見る。

 

 

 

『扉付近の牛人の処理に手間取っているようだ。今のうちに』

 

 行動不能となったニュウレンはいい具合に敵の突入を遮っていた。

 ナギとメアリーはタンカーに積まれたままのコンテナへと向かう。

 

 

 

「ええい!まどろっこしい!どけ!」

 

 オセアニア軍の無人アメイン、バンイップ・ブーメランがロケット砲を扉の前で擱座した牛人向けて放つ。牛人は爆発四散、アメインが通れるだけのスペースは出来た。

 

「アイツら、ニュウレンを吹き飛ばした!アメインと鎮圧部隊が来るよ!」

 

 その様子を見たケンジがインカムの無線で水靈とメアリーに連絡を入れる。

 

「扉は閉まらんのか!?」

 

 ミコトがそう叫ぶ。

 

「リモート受付んどす!手動しかあらへん!」

 

 ミヤコは遠隔操作を試すも扉は閉まらない。

 

「ならボクが」

 

 ケンジが名乗りをあげる。

 

「ケンジ君、私が行くわ……」

 

「ユキコさん?どうして?」

 

 ハナの処置を終えたのか、ユウコが現れた。

 ユキコはそのまま扉の手動レバーへ向け走る。

 

「待って!ヨウスケ君は!?」

 

「……ホントは…解ってたの。今までありがとう」

 

 ユキコは少し立ち止まり、小さな声でそう言うと再び走り出す。

 この現状、もしくはハナが負傷し、運び込まれたショックなのか、全てを思い出して受け入れたようにも思える。

 

「ミコトさん……ユキコさんが……」

 

 ケンジはミコトに通信を入れる。

 

「ユキコはん!?そういやユキコはんおらん!」

 

「………ユキコを援護しろ……扉が閉まったら戻れ」

 

「認証終了!コンテナハッチオープン!」

 

 急ぎ慌てた口調でメアリーがそう叫ぶ。

 

『システム起動。各部、チェック開始』

 

『ハッチオープン』

 

 サポートAIがそう告げると背部のハッチが開く。

 操縦席はニュウレンとは似て非なるバイク型であった。

 

『セイレンは高機動、瞬発力に重点を置いている。有人的な配慮を度外視し、ハイスペックを追求したが故に癖の強い機体だが君なら出来る筈だ』

 

「まだ起動できんのか!?」

 

 艦長となったミコトの焦りのこもった通信が入る。

 

『僕との連動起動はこれが初めてだ。調整にはまだ時間がかかる。マニュピレーター、連動開始』

 

 セイレンの手、マニュピレーターが稼働し、動作チェックを行う。

 手首を一回転させ、最後に親指を立てる。

 

『よし、いいぞ。メアリー、装備を』

 

「アサルトライフル、ブレード、セット」

 

 コンテナハンガーのアームからそれぞれセイレンの腕部に武器が装着される。

 

『セイレンの設定を完了。I-LeS、ビジュアルイメージ、オープン』

 

「……ペンギン?」

 

 セイレンのコクピット内のスクリーンとメアリーの前のコンテナのモニターにイワトビペンギンのようなマスコットが映し出される。

 

『I−LeSには必要となる姿だ。元より設定されていたものだ』

 

 

 

「もう一機が中に……二機目も……」

 

 そう呟くとケンジは持てるだけのスモークグレネードを投げる。

 

「クソ!視界が!熱源探知に切り替える!」

 

 だがこのスモークは特殊なものだ。熱源もわかりにくい。

 

「駄目だ!何だこの煙は!?制圧部隊!」

 

 ユキコは手動閉鎖用のレバーを力も一杯撚る。

 

「……くっ!」

 

 だが制圧部隊の残りが次々となだれ込んでくる。

 

「っ!」

 

 制圧部隊の放った弾丸がユキコの脇腹に命中する。

 だがユキコはレバーを離さない。

 弾丸を放った隊員は頸動脈を斬られ、倒れる。

 後続の数名もサブマシンガンによって仕留められる。

 

「っああああああ!」

 

 ユキコ最後の力を振り絞りレバーは限界まで動き、鋼鉄の扉は動く。

 

「え?あ!っあ!あああーっ!」

 

 スモークによる視界の悪さと突然動き出した扉。運悪く扉の間にいた隊員は押しつぶされてしまった。

 

「………ヨウスケ……おかえり……」

 

「………」

 

 その言葉を最後にユキコは息絶えた。

 ケンジは看取るようにユキコを見るとその場を去る。

 

 

 

『全システムチェック終了。だが、一つ問題がある』

 

「えっと何か……?」

 

『僕の名前だ。これが無いと最終ロックが解除出来ない』

 

「アイレスじゃ駄目なの?」

 

『それは僕のシステム名だ。何でもいい。パイロットの君、名前の音声入力を』

 

「イワトビペンギン」

 

 いつも通り淡々とした口調でナギは言った。

 

『それは僕の個体名とはいえない。承認されない』

 

「なんでもいいって言ったじゃん……」

 

 提案の拒否に思わずメアリーは不満の声が出る。

 

『メアリー、君の案は?』

 

「ペンギン……ペンギン……ギンペイ……」

 

『度し難いネーミングセンスだがまあいい。承認可能だ。名前など所詮、記号に過ぎない』

「…っ!この………!」

 

『登録名アイレス〘ギンペイ〙戦闘システム起動の承認を確認』

 

「固定アームッ!解除っ!」

 

『起動する。メアリー、離れろ』

 

『作戦目標、敵の殲滅』

 

『戦闘システム起動、レディ……』

 

「作戦開始!」

 

 セイレンはスラスターユニットを起動させ、噴射口から青い光が放たれる。少し浮かび上がると轟音と衝撃と共にコンテナハンガーからセイレンの姿は無かった。

 

「!!」

 

 拠点の水靈間近まで迫るニュウレンの前に突如、謎のアメイン、セイレンが目にも止まらぬ速さで現れた。

 側転し、勢いを殺しながら足元に火花を散らし、

セイレンは専用のライフルを構える。

 放たれた弾丸はニュウレンをのけ反らせながら瞬く間に大穴を空け、その身体を抉る。

 

『搭乗者の生体反応の消失を確認。標的沈黙』

 

 ギンペイのナビゲーションが言い終わる前にセイレンは左腕に装備されたブレードの刃をスライドさせ、使用形態へと移行する。

 

『対メイレス仕様の徹甲弾のアサルトライフルだ。ニュウレンには過剰だ』

 

 ブレードが高音と振動を放つとセイレンはもう一機のニュウレンをコクピットごと斬り裂く。

 

『搭乗者、生体反応消失。目標の沈黙を確認』

 

 上半身を両断された牛人は膝から崩れ落ちた。

 

『対メイレス仕様の超振動高周波ブレードだ。アメインの装甲では問題にならない』

 

 ギンペイはセイレンの左腕に装備されたブレードについて説明と感想を述べる。

 生き残りの制圧部隊がライフルを撃ち、ミサイルランチャーを構える。

 

『対人用のライフルでは問題無いが重火器は少々厄介だぞ』

 

 セイレンは放たれる対アメインミサイルを次々と躱す。そして強襲制圧部隊をブレードで薙ぎ払い、踏みつぶし、ブーストで吹き飛ばす。

 

『君なら問題は無さそうだ』

 

「どうした?応答しろ?中では何が起きてる?」

 

「あの程度の扉、さっさとこじ開けろ!」

 

 扉の外側ではニュウレンのパイロットや強襲制圧部隊が通信の応答を求める声や焦りが現れた声が響く。

 切断グラインダーを持った牛人が火花を散らしながら扉を少しづつ削り、切り裂いていく。

 

「え?」

 

 突如、ブレードにより扉の前の切断作業をしていたニュウレンは扉ごと斬り裂かれる。

 袈裟斬りにされた扉は自重で崩れ落ちるとそこにはセイレンの姿があった。

 

「何だ?あれは…んごわ!?」

 

 セイレンはそのまま目の前にいたニュウレンに突撃、ブレードで突き刺し、そのまま盾にした。

 

「や、やめろっ!」

 

 だが他のニュウレンは構わずに一斉に射撃を開始した。

 

「グエええええ!」

 

 友軍のニュウレンの放つ射撃が盾にされたニュウレン背部のコクピットを抉る。

 ナギのセイレンはそのニュウレンの盾を構えながらアサルトライフルを放ち、ニュウレンを瞬く間に二体撃破する。

 盾になった牛人はボロボロになり、崩れ落ちる。

 すかさず一斉射撃が来るがナギのセイレンはそれを回避し、撃破したニュウレンのライフルを拾う。

 

『ナギ、敵の武器はロックがかかってる。そのままでは使えない』

 

 キリコがそう言うと即座にナギのセイレンは牛人のライフルを別の牛人に投げつける。

 そしてセイレンのライフルが放たれると投げた牛人のライフルの弾倉に命中、ニュウレンはコクピットごと爆発で抉られ、倒れる。

 側面からオセアニア軍のアメインの機銃やロケット、ミサイルが放たれるが瞬発機動性に優れたセイレンはそれを躱す。

 

『オセアニア軍のパンイップ・ブーメランか。重装型のもいる』

 

 セイレンのコクピット内のサブモニターにデータが映し出される。

 

『アレはリモートの無人機だ。指揮車を破壊すれば無力化出来る』

 

 キリコは周辺の再スキャンを行う。

 

『指揮車両確認。ポイントをマーカーで示す』

 

 ナギはポイントを確認するとセイレンを真っ直ぐ最短距離でオセアニア軍の指揮車輌へ向かわせる。

 

「おい、こっちに来っ…どわぶっ!!」

 

 セイレンに蹴飛ばされた指揮車は吹き飛び、爆発四散する。

 

『指揮車の破壊、及び搭乗者の生命反応消失を確認』

 

『バンイップ・ブーメランの指揮権を奪取。攻撃プログラム起動開始』

 

 指揮車を失い、停止していた重装型のバンイップブーメランが動き出す。

 

「どういう事だ?オセアニア軍の無人機が…」

 

「構わん!破壊しろ!」

 

 重装型バンイップ・ブーメランはその装備で次々とアジア軍を攻撃する。装甲も厚く、次々とニュウレンのライフルの弾丸を弾いていく。

 

『鈍重で単純な動きだが足止めには十分だ。艦艇の破壊を推奨』

 

『敵のライフルをハッキングして使えるようにする。次は爆薬代わりに投げ無くていい』

 

 使えそうなニュウレンのライフルを拾うとセイレンは背面のスラスターユニットの出力を全開にし、海域で待ち構える艦艇へ向け低空で飛行し、突撃する。

 

「馬鹿な!こっちに飛んで来るだと!?」

 

「対空掃射!」

 

 だが、セイレンは対空攻撃を躱し、更にもう一隻の随伴艦への誤射を誘導する。

 

「ごわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ブリッジをアサルトライフルで撃ち抜くと艦上に着地し、爆雷や砲台に向けで容赦無い射撃を放つ。

 瞬く間に艦は爆発、炎上する。

 

「たった一機のアメインに……」

 

 生き残ってる側の艦長がそう呟くとセイレンは撃ち尽くしたニュウレンのライフルを投げつけ、その艦に飛び移り、艦長の眼前に迫る。

 

「日本の……鬼子めがっ……!」

 

 艦長がそう揶揄の言葉を放った瞬間、セイレンのブレードがブリッジを薙ぎ払う。

 

 

 

「艦艇までやるのか……!バケモノめ……っ!」

 

 アジア軍は何とか重装型バンイップ・ブーメランの停止に成功していたが艦艇2隻の轟沈にチャン少佐は思わず呆然とする。

 

「おいっ!ぼーっとしてんじゃねぇよ!逃げろよっ!バカかお前!」

 

 先程まで余裕を見せていたウェンも恐怖におののき、呆然とするチャン少佐に暴言を浴びせる。

 

「全軍退避!退避!」

 

 指揮車と残存のアメイン、牛人は急ぎ撤退を始める。

 だがセイレンはその機動性で瞬時に追い付いてきた。

 

「ギャアアアァァァァァァァァァ!」

 

「アイツ、なんで牛人のライフルを……んごわっ!」

 

 回転しながら2丁のライフルを撃ち、瞬く間に残りのニュウレンを片付ける。

 

「ヒイィィィィィィィ!!」

 

 中破するも生き残ったニュウレン一機が必死に走りながら逃げる。

 

「おい!もっとスピード出……」

「!!」

 

 ウェンが急かしていた時、

 一瞬にして指揮車の運転席は潰れ、アジア軍の少佐達はそれに巻き込まれた。セイレンは指揮車の運転席を掴み持ち上げる。

 

「私たちは関係ない!助けて!」

 

 ウェンが侍らせていた女達が思わず叫んだ。

 

「待て!話し合おうッ!暴力では何も解決しな……」

 

 ウェンが言い終わる前にセイレンは指揮車を逃走するニュウレンに投げつけるとそのまま右手のライフルで撃ち抜く。爆発を見届ける事なくセイレンは拠点の方へ飛び去った。

 

「………ううっ………」

 

 強襲制圧部隊の生き残りが瓦礫と残骸の中から這い出てくる。

 そこへセイレンが降りてきた。だが、生き残りには気づいてない様子だ。

 

 「……」

 

 生き残った隊員は気づかれぬようゆっくり這いずり進む。セイレンは歩くと転がっている牛人のライフルを拾う。すると視線を向けずにライフルの銃口を生き残った隊員に向けると発砲した。赤い血の煙が広がる。

 

『敵対象生命反応無し。敵の殲滅は完了だ』

 

「作戦終了」

 

 ギンペイの言葉にナギは淡々と作品完了を告げる。

 

『しかし君には驚かされた。予想以上だ。この反応速度、人間のものとは思えん。データの修正が必要になる』

 

 

 

「………」

 

 メアリーは周囲を見渡しながらセイレンが見える距離まで歩み寄る。

 

 セイレンのコクピットハッチが開くと中からナギが変わらぬ表情で出てくるとメアリーの方を見る。視線があったような気がした。

 全てを破壊し、蹂躙するその機体。そしてそれを駆る戦闘マシーンのような少女。

 その姿にメアリーは言葉を失う。まるでアクション映画の主人公さながらの戦闘力。そして無自覚の非情さと残虐性で敵を容赦なく殲滅した少女。凄惨な地獄と化した日本が生み出した怪物、まさに『鬼』のようだった。

 

 ………だが、メアリーにはその鬼のような、戦闘マシーンのような少女が恐ろしくも哀しく、そして美しく思えたのであった………。

 

 

 

             ………To Be Continued.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 補足
 
・主人公機『セイレン』の性能はアーマード・コアでいうとV系の感じで機動性は高機動軽量級といったとこです。グライドブースター的な事ができるので艦艇まで飛んでいく事が出来ます。(艦艇に乗ってインターバルの必要あり)
 機動性、旋回性能、運動性、瞬発力に優れる。(滞空時間はレイキより短い)
 反応速度が桁違いなので常人には到底扱え無い。(ブラッドならたぶん可能)

・主人公ナギはフルメタル・パニックの主人公、宗介みたいな感じです。(原作よく知らない)

・ギンペイのイメージCVは内山昂輝さん。

 とりあえず『ぼくのかんがえた境界戦機』、一話を出しておきました。付箋貼りまくった内容ですが2話以降は未定です!
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