境界戦機 ロストネイション   作:アンサングのフレンズ

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 やっと三話です(苦笑)
 ロボットの戦闘はありません。
 次の話はめっちゃ面白いと思いますのでその前フリとしては良いかと。


生存 SURVIVAL

 「制圧部隊、目標地点に到達」

 

 夜の森、そこは銃声が響く。

 アジア軍の制圧部隊が日本人レジスタンスの拠点を強襲、容赦なく制圧していく。

 そこは少年兵の訓練所なのか、倒れた少年少女達が何人もいる。

 

 だが少年兵達は死を恐れず向かっていく。一つでも多くの制圧部隊を道連れに。

 

 眼の前には負傷した少女がいた。装備を身に纏った少年兵の一人だ。

 まだ12、13歳の少女だ。口からは吐血し、もう長くは持たない。

 

「じゅうななちゃん……私は………あいつらの……手にかかりたくない……」

 

 息も絶え絶えの中、懇願するようにそう告げると銃口を己の心臓に向け、引き金を引くように頼んでる。

 

 

 ふと過酷訓練の日々が走馬灯のように駆け巡る。

 

「今までの名前と人生は捨てろ!お前達に与えられた番号がこれからお前達の名前だ!」

 

 隻眼隻腕ながらも逞しく迫力のある女性がそう叫ぶ。彼女が教官であり指揮官である。

 

「死を恐れるな。だが何としても任務を果たせ!一人でも多くの敵を道連れにしろ!」

 

「お前達が生きる意味と理由を教えてやる!」

 

「良くぞ今日を生き延びた!任務を果たすまでは敵の血を擦ろうと生き延びろ!」

 

 過酷な訓練の日々、徹底した鞭と飴で洗脳まがいの教育の日々だったがそれでもそこは自分の居場所だった。

 

「駄目ですね、十七番。身体能力は高いもののこれでは使い物になりません」

 

 とある訓練の中で脱落の烙印のような言葉が監視員の一人から告げられる。

 

「御託はいい」

 

 しかし教官はその審査など気に留めない。

 

「いいか?十七番……奪わねば奪われ、失うぞ!」

 

 教官の顔が眼前に迫り、その眼力と鬼の形相は誰もが震え上がる。

 

 

 

 アジア軍の制圧部隊は直ぐ側まで迫っていた。

 

「お願い………」

 

 それが少女の最後の言葉だった。

 銃声の音が周囲に響く。

 

 

 

「!!」

 

 目覚めたナギは思わず銃を構えた。

 

『どうした?ナギ』

 

 充電台に置かれた端末からギンペイが声をかける。

 

「夢……」

 

 ナギはそう呟くように言った。

 

『人間が睡眠中に見るという夢というやつか。しかも今回は悪夢に分類されるものらしい。君程でも取り乱す事があるのか』

 

「………うへへへぇ……もう食べられ無いよぉ……」

 

 ソファーで眠っていたメアリーが寝返りをうちながら寝言を言った。寝返った拍子にソファーから落ちたが起きる事なく、そのまま寝息を立てる。

 

「………」

 

 

 

 中立エリア、戦場跡。

 

「急げ!回収できるものは全て回収しろ!」

 

 北米軍は大破した機体の積み込みを手際よくこなしていく。

 

「………」

 

 ブラッド隊の副隊長、レイモンド・ハーディ准尉は機体から降り、周囲の警戒と調査を行っていた。

 

「これは……」

 

 レイモンドは地面に転がる戦闘で焼け焦げたネームプレートを見つけ、拾う。

 それはメアリーの物であった。

 

「大尉、……これを………」

 

 レイモンドはそのネームプレートをブラッドに手渡す。

 

「……!」

 

 ブラッド大尉の顔に動揺が伺える。だが

 

「………」

 

 ブラッドはネームプレートを見つめ、更に周囲を観る。

 

「大尉?」

 

「間違いない。これはメアリーのだ」

 

 レイモンドが声をかけるとブラッドは冷静に返した。

 

「それでは彼女は既に……」

 

「いや……私の見立てだと生存してる可能性がある……遺体はあったのか?」

 

 ブラッドはレイモンドに確認をとる。

 

「いえ、しかしどれも損傷が激しく判断は難しいかと……」

 

 レイモンドは深刻な表情で応じる。

 

「これは私の希望的観測も含まれるが、彼女は生存している。例の『狂戦士』と共に」

 

 ブラッドの見立てではそう出た。彼の観察眼は本来なら数人が数日かけて行う現場検証を数分で成してしまう。的中率も高い。

 

「……バーサーカー……狂気に駆られた者が彼女を生かしておくのでしょうか?」

 

 レイモンドは不安そうにそう言った。

 

「『狂戦士』とは仮称だ。戦い方はまさにそうだ。だが、ゴーストに倫理観を持たせたAIがあれば?」

 

「『ゴースト』……まさか?!」

 

 『ゴースト』と呼ばれるアメインの脅威を知るレイモンドは思わず声を上げる。

 レジスタンス『ヤタガラス』の奮戦によって破壊されたとはいえ幾人の戦友の命を奪った脅威は今もなお脳裏に焼き付いている。

 

「あれがもう一体……」

 

「私の私見、仮説に過ぎない。狂戦士は無人機か有人機かは定かではない。それにメアリーはブレンゾン北米支社所属だ」

 

 ブラッドの考察にはメアリーの存在を知る者としての見解も含まれる。

 

「彼女は数年だが飛び級で北米の一流の大学卒業の資格を得た優秀な人材だ。何らかの形でブレンゾンの新型兵器に関係してるのは間違いない」

 

 ブラッドはメアリーの知り得た経歴を話す。

 メアリーは大学を飛び級している優れた人材としてブレンゾン北米からCEOから直にスカウトを受けたのだ。

 

「ブレンゾン北米……。軍用アメインの市場こそ北米では得られませんでしたが他の様々な技術で北米圏での市場を拡大させてますね。噂ではとある大物議員の後ろ楯、手引きがあるとか……。本社のように新型アメインの開発があるかもしれませんね」

 

 レイモンドは噂話から色々と推察してみる。

 

「……大尉、つかぬことを伺いますが彼女とはどういう関係で?」

 

 ソフィア・ルイス少尉が少し動揺した様子でブラッドに問う。

 

「前にも話したが彼女はデント議員と施設によく遊びに来ていた。彼女は妹のような存在だったよ」

 

「他には何か……」

 

 ソフィアは更にメアリーの事を聞き出そうとする。

 

「学生時代は成り行きでバイクで送り迎えをしていたな。よく恋人と間違えられた。将来を有望視される政治家の令嬢と施設育ちの悪ガキ、彼女にとってはいい迷惑だったろう」

 

「………」

 

 ブラッドは自分には釣り合いが取れない相手だったという具合に話すとソフィアは少し安堵した様子だった。

 

「だが、私もメアリーには生きていて貰わねば困る……」

 

「……」

 

「恩人たるデントおじさんの娘であることもさることながら……彼女からはある言葉を貰わねばならない……」

 

「!」

 

 ブラッドのその言葉にソフィアは再び動揺を見せる。

 

「失礼します!ブラッド大尉!そろそろ撤収の時間です!」

 

 その時、急いだ様子で北米軍の兵士が割り込んで来てそう告げる。

 

「急ぎ撤収だ!」

 

 ブラッドはそう叫ぶと走り去る。

 

「大尉、あの‥…話の続きは……大尉……?」

 

 ソフィア・ルイス少尉はブラッドの話が気になり、思わず呼び停めようとするがブラッドは構わず先に行く。普段冷静沈着な彼女にとってはかなり珍しい様子である。

 

「………」

 

 それを見つめるレイモンド准尉はまるでため息でもつきそうな様子でその場を後にする。

 

 ブラッド達、北米軍は定刻通りに撤収した。

 

 

 

 ナギ達の宿泊した別荘地は既に日が昇り始める。

 

「?」

 

 ソファーから落ちても目覚めなかったメアリーは目を覚ます。

 何処からとも無く肉の焼けるような、そんな匂いがするのだ。

 

『目覚めたか。ナギが外で食事の用意をしている』

 

 携帯端末からギンペイの声がする。

 

「………この匂い………何かを焼いてる………?」

 

 メアリーは下着に上にシャツの寝着のまま外に出た。育ちの良い彼女にら多少はした無い格好だが寝起きの空腹から思わず外に出てしまった。

 

 別荘の前で火を起こし、何かを串刺しにして焼いている。そこにはナギがいた。

 

『この周辺は別荘地やキャンプ場が集まってる。火を起こしても違和感は無い筈だ』

 

 その様子を見たギンペイは補足の説明をする。

 

「!!それは………蛇!?」

 

 メアリーは裸眼で凝視しながら近づくと大きな蛇が二匹、直火で焼かれている。

 皮を剥き、内臓を取り出し捌いた後なのか周辺にはそれらが転がっている。

 

『食用可能な種類だ。此処には油が無いので直火だ。中のコンロは電気製だしな』

 

「ナギちゃん……料理出来るの?」

 

「訓練で習った。問題無い」

 

 メアリーの問にナギはいつも通り淡々と返す。

 

 

 

「あ………、美味しい………」

 

 恐る恐るメアリーは口にこんがり焼かれた蛇を入れたが意外に美味だった。

 味付けは別荘内にあった塩胡椒のみだがそれでも結構イケる。

 

 

 

 

 同時刻、水靈内では通信が行われていた。

 

『お初にお目にかかります。叢の皆様。私、ブレンゾン北米支社CEO、セレーナと申します』

 

 ブリッジのモニターにはセレーナの顔が映し出されている。

 

「叢『水靈』、臨時の艦長、伊吹ミコトだ」

 

 凛とした雰囲気でミコトは返す。

 

『この度の襲撃、お悔やみ申し上げます』

 

「そんで、北米のブレン某の偉いさんがウチらに何の用どすえ?」

 

 ミヤコは警戒するように話を進める。

 

『担当直入に申し上げます。我々にはあなた方への支援の用意があります』

 

「………!」

 

 その場にいた艦内の一同が驚き、沈黙する。

 

「メアリー・デントの身柄と新型と引き換えにか?」

 

 冷静にミコトがセレーナに問う。

 

『勿論彼女の身の安全は確保させて頂きます。我々にとっても貴重な人材ですので』

 

「そしてその後は用済みどすか……?」

 

 虫が良すぎると警戒していたミヤコがそう言った。

 

『いえ、支援はそのまま継続させて頂きます』

 

「どういう事だ?それでそちらに何の利益が?」

 

 その応えに冷静だったミコトは驚きを隠せない様子だ。

 

『ここまで生き残られてるという事はわが社の新型メイレス、セイレンをご使用なさってますよね?』

 

「そうだ。緊急事態故に使わせてもらっている。それに我々はレジスタンスを冠する海賊だ。奪った物は我々の物だ」

 

『どうぞ、そのまま差し上げます』

 

「………」

 

 ミコトは気後れながらも堂々と返すもセレーナの態度に若干表皮ぬけしてしまう。

 

『しかしあの機体はハイスペックを追求する余りに有人機としては常人には扱える物ではありません。無人や遠隔操作でその性能は殆ど発揮出来ないでしょう』

 

「そうか……しかし、ナギとギンペイならやりかねん……」

 

『サポートAIユニット、アイレスも予想以上の成果を出しております。そのことについても大変興味深い事になっております。テストデータを頂きたいので今後もご協力をお願いしたく存じます。良いお返事をお待ちしております』

 

 

 

「話がうますぎる。何かきな臭いんだよね……あの人も……」

 

 ケンジが感じた違和感をミコトに話す。

 少し時間を置いて返事をする事になったが皆、色々と考えを巡らせている。

 

「私はこの話、乗るべきだと思います。他に道は無いかと」

 

 ユミがそう切り出す。

 

「ワシも先生に賛成じゃ」

 

 マイアもそう続く。

 

「私は…、ミコトさんの決定に従います」

 

「私も同じです」

 

「アサミも。艦長さんの決定は絶対だから」

 

 メカニック班のイオ、カエデもそう言った。

 アサミも子供なりにチームとしてのルールは存じている様子だ。

 

「信用できんのかよ?所詮は外人だぜ?」

 

 レンも疑念は払えない様子だ。

 

「あのオバハン、怪しすぎるどす。特にあの妙な色気が気に食わん」

 

 ミヤコは何から何まで気に入らないらしい。

 

「だが乗るしかあるまい。北米軍との取引も無くなった。他に道はない」

 

 ミコトはミヤコ達反対派を宥めるようにそう言った。

 

『艦長、多数決を取りますか?』

 

 艦の制御AI、ハルがそう問いかける。

 

「いや、それには及ばない」

 

 

 

「という訳だ。先ずは指定された場所に向かってくれ。そこでセレーナCEOが手配した業者と合流するんだ」

 

 ブレンゾン北米、東北日本支部のダイン・アダムスはメアリーの携帯端末に通信でそう伝える。

 

「はい、解りました!アダムス部長!」

 

 希望を見出したメアリーは思わず声が大きくなる。

 

「気をつけてくれ。その周辺はユーラシア軍の占領地域であり、最近は武装勢力『鏖禍刻』(オウマガトキ)の活動も確認されている。くれぐれも慎重にな」

 

 そう注意を促すと通信を終了した。

 

 

 

「ふぅ……セレーナCEOも何考えてんだか……。でもデント議員の令嬢だしなぁ……。まったく、日本に来てからろくな事が無い」

 

 通話を切るとダインは思わず愚痴をこぼす。ブレンゾン東北支部のビルから外の景色を眺める。

 日本人達が作り上げたその都市は今やユーラシア連合に占領されてしまっている。

 欧州の企業であり、北米支社の支部である彼らにはユーラシア軍の当たりもキツい。

 部長へ昇進し、紛争地故に利益も見込めた日本への

転属に胸踊ったが実際はユーラシア軍の監視が厳しく、殆ど仕事にならない常態だ。

 東北支部の閉鎖も目に見えていた。

 

 

 

『指定された場所まではかなり距離がある。自動車を推奨する』

 

 ギンペイは場所を割り出すとそう伝えた。

 

「ええ?どうするの?レンタカーとか……?」

 

 動揺しながらもメアリーは適当に案を出す。

 

『近くに自動車の反応がある』

 

「見てくる」

 

 ナギは端末画面に映し出された自動車の場所へ向かって歩き出した。

 

「あ、待って!私も……」

 

 一人にされるのが不安なのかメアリーはナギの後を追っていく。

 

 

 

 示した場所にらアジア系の男女が四人、キャンプとバーベキューを楽しもうといった様子だ。

 

 日本の領土を巡ってアジア軍とユーラシア軍は表面上は対立の立場だが実質的には親密な関係を構築してるとも言われる。

 両勢力の国籍さえあれば互いの日本の領土には自由に行き来が可能なのだ。

 日本人は分断された領土への合法的な移動は不可能な状態で何とも皮肉な話である。

 

 

 アウトドアレジャーを堪能している男女四人。

 その中の一人が何食わぬ顔でゴミを茂みへ投げ捨てる。

 

 だがキャンプ場には

 

〘ゴミはお持ち帰りください〙

 

と各国の文字で注意書きがなされてるにも関わらず、彼らはゴミを放置している。

 管理者は実質的に隷属の日本人だ。何の配慮もする必要は無い。

 

「Damn it! 何という横暴っ……」

 

 思わず声をあげたメアリーの口をすぐさまナギは塞いだ。

 

「?誰か他にいるのか?」

 

「どうせ管理人でしょ?また文句いいに来たのよ」

 

「まったく……せっかく俺等が日本人の為に使ってやってるってのに……」

 

 四人組の一人がナギとメアリーの方へ歩いて来る。

 ナギはメアリーを抑え込むように伏せさせると

 ペットボトルの手作りのサイレンサーを装着し、銃を構える。

 

「おいオッサン!またゴミに文句つけに来たのかよ!そいつはお前の仕事だろ!」

 

 向かってきた男が乱暴に茂みをかき分ける。

 ちなみにキャンプ場内の植物は荒らさないようこれも注意書きがされている。

 

「!?」

 

 男の目がナギと合った瞬間、男の額に穴が空く。

 男は力無く倒れた。

 

「え?」

 

 残りの男女三名が驚いた瞬間だった。

 男女それぞれ一名づつ頭部を撃ち抜かれる。

 

「イヤアァァアアアアアアア!」

 

 残った一人の女が逃げようと走り出す。

 だがナギは即座に発砲し、女は前のめりに倒れる。

 ナギはその女の側まで行くと頭部に銃を向ける。

 

『ナギ、君は弾を使いすぎだ。今は弾丸を節約した方がいい』

 

 メアリーの端末からギンペイの声がする。

 

「そっち?!」

 

 ギンペイの言葉にメアリーは思わず驚く。

 

「了解した」

 

 ナギはペットボトルサイレンサーを外し、銃をしまうとナイフを取り出す。

 

「お願い……助け……」

 

 その命乞いもまるで聞こえぬかのように、ナギはその喉元をナイフでかき切った。

 

「え!?ちょっと!?その人達、兵士じゃ無いよね?!」

 

 メアリーは大声で言った。

 

「日本人以外は殺せ。命乞いも悲鳴も無視しろ。理由が欲しいなら後で考えろ」

 

 ナギは何事も無かったように淡々とそう応える。

 

「え?何それ?」

 

「教官の教え」

 

 ナギは元々別のレジスタンス組織で訓練されていた少女だ。並外れた戦闘力はそこで備わった物。即ち教官がいた事になる。余程に優秀か狂気に染まった者であろう。

 

「命令や必要性があるなら日本人でも殺す」

 

 いつも通りの淡々としたナギの言葉だがそれは更に鋭く聞こえた。

 

「……何で私は殺さなかったの?」

 

「北米人は何かしらの取引に使われていたから」

 

「ああ……そういう事ね……」

 

 メアリーは残念そうにそう言った。

 

 

 

 ナギは慣れた様子で死体を引きずりながら移動させる。

 

「まさか……食べたりしないよね……?」

 

「しない」

 

 不安そうに聞いてきたメアリーにそう応えるとナギは四人の死体を引きずりながらそれをキャンプの焼却炉へ放り込んだ。

 

 ナギとメアリーは男女四人が乗ってきたワゴン車付近に戻る。

 

『ひとまず車両の確保はでき……』

 

 ギンペイがそう言うと同事に運転席の窓ガラスが割れる音が響く。

 ナギが人の頭くらいある石を放り投げて運転席のガラスを割ったのだ。

 警報音が鳴り響く。

 

「え?ちょ!?」

 

 慌てるメアリーを気にせずにナギは慌てる様子もなく割れた窓から社内に入り込むと運転席で何やら弄くり回す。

 すると警報音が鳴り止み、エンジンがかかる。

 

「え?そんなことできるの?」

 

「マイアさんに教わった」

 

 メカニックの姉御的な存在であるマイア。優秀ではあるが曲者である。その手の事も心得がある。

 

『見事な手際だがそんな事をしなくても僕ならロックを解除出来る。覚えておいてくれ』

 

「了解した」

 

 ギンペイとナギの無機質な言葉のやり取りがある。

 たがなんとなく活躍の場が無かったギンペイの口惜しさを感じる。

 

 ナギはワゴン車の荷室のバックドアを開けるとその荷物を物色する。捨てる物と持っていく物を仕分けてるようだ。

 

『アジア協商圏の食料はやめておいた方がいい。今は高価で希少だが日本原産の物を推奨する。とは言っても既にナギは解っている様子だがな』

 

「えっとナギちゃん、アジア協商の文字読めるの?」

 

「読めないけど何処の文字かは解る」

 

『アジア自由貿易協商圏、大ユーラシア連合、北米同盟、日本語。それぞれの常用文字は別々だが特徴はある。読めなくても判別する事は可能だろう』

 

 仕分けが終わるとナギは不要な物を既に火の入った焼却炉に放り込んだ。

 

 

 

 メアリーの端末から呼び出し音が鳴る。

 

『発信源は水靈からだ。出ても大丈夫だ』

 

 ギンペイがそう言うとメアリーは通話に応じる。

 

「はい……」

 

「あーー、おどれは……北米モンの方か……名前はメ、メリー……」

 

「メアリーです。メアリー・デント」

 

 荒っぽい感じの口調と方言、その声はメカニック班のマイアだった。

 

「そうじゃったな。ナギはおるか?」

 

「はい……今代わります」

 

「二人共無事じゃったか。よかったわ」

 

「あのオバハンのCEOも言うとったどすがな」

 

 通話先からミヤコの声が届く。

 

「声聞くまでは安心出来んのじゃ」

 

「こちらナギ」

 

「おぅ、ナギか。相変わらずじゃの」

 

「なんじゃ、ブレ……ナントカの北米の会社の支援受ける事になってな。合流場所なんじゃが……」

 

「こちらで既に確認している」

 

「おお、そうか。話は早そうじゃな。ミコトは色々手一杯でワシが今連絡しとる。ミヤコはメアリーに食ってかかりそうじゃし他のモンも手が離せんかったり寝とったりして……」

 

「マイア、ホレ、ホレッ」

 

 ミヤコが急かすように指示をだす。

 

「ああ、そうじゃ。買い物頼みたいんじゃ」

 

 マイアは手書きのメモを見る。

 

「何ぶん飛び出して来た状態でな。食いもんとか色々必要なもんが足らん。買い出ししといてくれ」

 

「了解」

 

「じゃが金じゃのう……どうする?」

 

「例のお嬢に借りたらどうどす?」

 

 ミヤコの言うお嬢とはメアリーの事だ。

 いいとこの生まれを皮肉ったのだろう。

 

「了解。メアリーに借りる」

 

「えぇ……あんまり期待しないでね?」

 

 それを聞いてメアリーは困惑する。

 

「そんじゃ必要なもんじゃが……」

 

 

 

「結構な人数はいるといっても……注文多すぎ……。人質にたかりますか……。ブレンゾン社の給料、結構いいですけどそれでも間違いなく全部吹き飛びますよ……」

 

 メアリーは不満を漏らす。

 

「ハナは何かしらネットで細工して資金を作っていた。出来るか?」

 

 ナギはメアリーを見るとそう言った。

 

「株や投資かな?あの人ならやれそうだけど私は無理だよ……。飛び級したと言っても数年だしそういうのはあんま普通の人と変わらないよ?」

 

 メアリーは両手をかざし、身振り手振りで色んな意味で無理だというアピールをしている。

 

「ネットワークのデータを操作して資金を生み出すやり方だ。ハナは『錬金術』と言っていた」

 

『そんな事が出来る人間がいたのか。マネーデータの操作はセキュリティーが厳重な上に足もつく。僕らアイレスでも一丁一石には出来ない』

 

 相変わらずの無機質な喋り方だがギンペイは驚きと関心の言葉が隠せない。

 

「ハナさん、やっぱり凄い人だったんだね」

 

『理論上可能であって不可能だ。それ程の事だ。僕らアイレスなら可能かもしれないが』

 

「それが出来るならハナさんはレジスタンスにならなくても済んだんじゃ?」

 

 ハナは殆どの事をそつなくハイレベルにこなせたが叢でもそういった分野はずば抜けていた。トップハッカーとしてやっていけるのではと誰もが思っていた。

 

『そういった事をしてるんだ。普通に社会で生きる事は出来ないかもしれない。それにレジスタンスになるからには何かしらの事情があると推測する』

 

「ハナは一気に高額過ぎる資金は増やせ無いと言ってた」

 

『大金を動かすのは更に難しい。僕らアイレスなら可能かもしれないが』

 

 ギンペイは淡々と機械的に喋っているがどうも自信ありげに語ってるような、そんな風にも聞こえる。

 

「ハイ、スゴイスゴイー」

 

 メアリーは棒読み風にそう言った。

 淡々としてはいるがギンペイの自慢気に聞こえる言い方がどうも鼻につく。

 

『僕はAIだ。処理能力、計算能力、あらゆる面において人間よりも優れてる。当然だ』

 

「あー…やっぱムカつくわー…」

 

『ナギ、言葉から推測するとメアリーは気分が悪いらしい』

 

「メアリー、直ぐに出発したいんだけど?」

 

「ノープロブレム。……散々死体見てる訳だし気分は良くないわね……ちょっと慣れてきたかもだけど……」

 

 

 

 潜水艦『水靈』艦内にて。

 

「ところでマイア、ナギって買い物できたどすか?」

 

「どうじゃったかの?」

 

 ミヤコの質問にマイアは曖昧な返事をする。

 

「そういえばナギは買い出し行った事なかったな……」

 

 作業が一段落したミコトが二人の疑問に答える。

 

「………」

 

「まぁ買い物出来んでも生きては行けるならのぅ。此処来る前はワシも亜キョン共から貰ってたからな」

 

「………」

 

 ちなみにマイアの言う『貰う』というのはカツアゲや強奪の事である。マイアは見た目はいいが身体を売る商売等出来る気質では無いし元々地元では有名な札付きのワルだった。それを含め様々な行動が行き過ぎてアジア軍から指名手配を受ける程だったのだ。

 

 

 

 東北地方、ユーラシア連合占領地私営キャンプ場。

 

 強奪した自動車に乗るとナギはハンドルを握り、エンジンをかける。

 

「ところでナギちゃん、車の免許は……」

 

 ナギは妙に手際が良かったがメアリーの頭にふとその疑問が浮かぶ。

 

「免許……?そんなもの無いよ」

 

 ナギは相変わらず淡々と答えて車を発進させようとする。

 

「え?ちょ!?運転!?」

 

 メアリーは慌てだす。

 

「免許は無いけど運転は出来る。マイアさんから教わったしマイアさんもそうだったから」

 

「やっぱりマイアさんそういう人か……」

 

『レジスタンスをやってるんだ。法に照らし合わせるのは無意味だ』

 

「なんかこう……それでも節度とか限度とかあるじゃん?」

 

『ナギは既にメイレスを操縦している』

 

「まぁそれはそうだけど……あとナギちゃん、いくつ?年齢ね」

 

「十五」

 

「ふーん、十五……じゅうご……」

 

「じゅううぅぅぅぅぅごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 間をおいてメアリーが叫ぶ。

 

「駄目だ、これは駄目だ……色々……」

 

(まぁ私もこの年くらいはこれくらいあったとは思うし……ハナさんやミヤコさんには悪いけど……)

 

 ナギの全身を横目で見ながらメアリーはそう呟き、思う。成人や北米人顔負けのプロポーションだ。

 

 

「……何か問題?」

 

「く、車はお姉さんに任せなさい!」

 

 メアリーとナギは運転席を交代する。

 

「あ……眼鏡……」

 

 メアリーは愛用の眼鏡を昨日の戦闘で落とした事を思い出した。

 

『メアリー、眼鏡ならハナから渡された物があるだろ?』

 

 ギンペイがそう言うと思い出したようにハナから渡されたピンクのフレームの眼鏡を取り出す。

 

「でもこれ、度が違うんじゃ……」

 

『その眼鏡はデジタル仕様の物だ。ピントはこちらで調整出来る。先ずはかけてくれ』

 

「………」

 

 メアリーは眼鏡をかけると瞬く間にハナの眼鏡の度数が自分に合ったものになる。以前かけてた物よりも具合がいい。

 

「え?ウソ?どうやったの?」

 

 メアリーはギンペイの能力に驚いた。

 

『君の瞳、視力、角膜や瞳孔の動きをスキャンし調節した』

 

「アイレスはそんな事までできるのかぁ……」

 

 メアリーは関心すらした様子だ。

 

『人間の身体の構造は観察、研究に価する。更に探求するべきと判断した』

 

 だがギンペイのその言葉に疑念を抱いた。

 

「凄いけど人間は色々勝手に覗かれたりするのは嫌だからね?」

 

『了解した。データに登録しておこう』

 

 メアリーは釘を刺すように言ったがギンペイはいつも通り淡々とそう応える。

 

 

 

 キャンプ場を出て数分の山道。そこにはノロノロとたどたどしい運転のワゴン車が一台。

 

「………」

 

 ナギと運転を交代するもメアリーの操作はぎこち無い。

 スピードこそ出さないが運転は不得手なのが見て取れる。

 

『メアリー、緊張してるようだが?やはり運転はナギに……』

 

「黙って!死にたくなかったら!」

 

「………」

 

 メアリーは標識を見る。そこに書かれてる文字に日本語は無く、全てユーラシア連合で使われてる文字だ。

 

『この辺りはユーラシア連合による実行支配が進んでいる。北米人や日本人だと解ると危険だ。気をつけろ』

 

「………」

 

 後部から迫る車両がある。

 

『監視や尾行にしては車間距離が短すぎる。これは危険運転だな』

 

 所謂『煽り運転』である。

 その煽ってきた車のは無理に前へ出ると進路を塞ぐように停止する。

 

「うわっと!?」

 

 メアリーは急ブレーキをかけ、停止する。

 

「へぇ、かなりのモンじゃねぇか」

 

 前の車から降りてきた厳ついユーラシア系の男がフロントガラスのメアリーとナギを見てそう呟く。

 そして上機嫌そうに近づいてくるとサイドガラスのない運転席を覗き込む。

 

「あ……やめ……」

「よぉ、お嬢ちゃ…ごがっ!!」

 

 その瞬間、ナギは男の喉元に銃を突きつけると即座に発砲した。

 男は吹き飛ぶように仰向けに倒れる。

 

「エッ!?ナンデ?!」

 

 撃たれた男と一緒にいた運転をしていたもう一人の男はそれをみて慌てて車を発進させる。

 ナギは冷静に銃を構え、タイヤを撃ち抜くとバーストし、不安定な車はそのまま老朽化したガードレールを突き破り、谷底へと落ちて炎上した。

 

 『この場所なら消さなくても山火事になる事は無い。早く離れる事を推奨するが』

 

「あ……何てこと……」

 

『メアリー、逃げるなよ?自動車の制御は一時的にロックさせて貰った』

 

「逃げれるならとっくにそうしてるよ!というか操作出来るなら運転してよ!」

 

『ユーラシアの占領下での逃亡はお勧めしない。それと僕はハイスペックだがまだ未完成で乗り物の操作は苦手だ』

 

 ナギは何食わぬ顔で撃った男の死体の脚を掴み、引き摺るとそのまま炎上する車の谷底へ投げ捨てた。

 

『ロックは解除した。出してくれ』

 

「ヒイヤッハァァァァァァッ!!」

 

 ナギが乗り込むとメアリーは今までに無い速度で車を飛ばした。

 

『暫く対向車は無い。この調子で飛ばして大丈夫だ』

 

 複雑な山道の峠道をメアリーは見事なドライビングテクニック?で駆け抜けて行く。

 

 

 

『という事で彼女達の支援と合流をお願いしますね』

 

 また別の場所でセレーナのリモート通信が行われている。

 

「了解した」

 

 眼帯と義手をつけた屈強な女性がそう応えると通信は切れる。

 

「『十七番』か……よくぞ生き延びていたものだ」

 

 女性はスーツの上着を羽織ると建物から出る。

 外では更に屈強かつ荒々しく勇ましい面々が待ち構えていた。

 

「出るぞ!これより回収に向う!」

 

 女性がそう叫ぶ。彼女はこの一団のリーダーだ。

 

「了解しました御前様」

 

「鏖禍刻万歳!全ては日本の未来の為に!」

 

 此処は悪名高き『鏖禍刻』の拠点だ。

 

 

 

 

「ごめん、ちょっと休憩」

 

 メアリーは途中で見つけた店舗の駐車場に車を停める。日本でかつてコンビニと呼ばれた物だ。

 

『この店には監視カメラがある。称号で身元が解る。データに無ければ不法入国扱いになるぞ』

 

「ええッ!?そんな!!トイレ行きたいのに!」

 

 メアリーが悲痛に叫ぶ。

 

『ハッキングして映像は差し替えてある。これで問題無い筈だ』

 

「グッジョッ!!」

 

 メアリーは親指を立てサムズアップのポーズを取る。

 

 

『しかし排泄行為が目的だったとはな。実に興味深い』

 

「………」

 

『しっかり観察させて貰う』

 

 メアリーは足早にナギのところへ戻る。

 

「ナギちゃん、これ、持ってて」

 

 メアリーはギンペイの入っている携帯端末をナギに渡した。

 

『メアリー、これだと君の排泄行為の観察記録が取れない。見返りとして僕の要望には応じる等価交換にはなる筈だが?』

 

「それはそれ、これはこれ」

 

 メアリーはジェスチャーをしながらそう強く主張した。

 

『そもそも僕はAIだ。性別など無い機械だ。気にする必要は無い』

 

「私は気にするの!……マシーンには理解出来ないか……」

 

『行ってしまったか。急ぎのようだしまたの機会に要求してみよう』

 

 ナギもメアリーの後を追うように店へと向かう。

 

『ナギ、君も排泄行為か?』

 

「頼まれた物を探す」

 

『メアリーの排泄行為で失念していた。此処なら大体の物なら揃うだろう』

 

 携帯端末にはクレジットの残高が表示される。

 

『メアリーのクレジット残高には少々不安があったし手を付けるのも後にトラブル発生の可能性がある。そこでハナという人物が行っていた『錬金術』という方法だが想定できる可能性を計算し、施行した。処理が難解だが成功した。流石に短時間で高額な錬成は無理だが頼まれた物の購入には充分な額はある』

 

 ギンペイの説明を聞くとナギは店へと入る。

 自動ドアが開くと中はほぼ無人化されたコンビニだ。元々ユーラシア連合の国には日本のようなコンビニは存在しなかったが占領と共にユーラシア連合の企業に店舗は買収された形になる。

 

『ユーラシア連合の製品もあるが結構日本製の物もあるな。品質はいいから占領した勢力が買収して傘下に置いてる』

 

 監視として店主らしきユーラシア連合人がナギを見つめる。

 

『この店では日本人は買い物は出来ない。監視カメラもハッキングしてあるから黙ってればメアリーはユーラシア連合、ナギはアジア協商圏の者だと思うだろう』

 

「買い物を開始する」

 

 ナギはそう言うと頼まれた物を片っ端から籠に入れていく。

 

「ふぅ。結構我慢してたから危なかったわ〜〜〜。危うくまた大人になって漏らすとこだった……」

 

 用を足したメアリーがそう呟くように出てきた。

 

『メアリーの排泄の終了を確認』

 

「いちいち言わんでよろしい」

 

『この時間だと小か大か判別出来ない。どちらだ?』

 

「もぅやだこのAI……」

 

 メアリーは嫌悪感を表す。

 

 

 

「♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜」

 

 だが気持ちを切り替えたのか、機嫌よくメアリーは菓子類を籠に入れていく。

 

『メアリー、それはマイアの言っていた買い物リストには無いが?』

 

「え?これはその……ほら、レンくんやアサミちゃんもいるしお菓子も必要かな?って」

 

「マイアさんのキャンディーは籠に入れた」

 

「キャンディーじゃお腹は満たされないよ。どうせ私のお金なんだし。しかしこの店にはおにぎりが無いんだね」

 

『ユーラシア連合向けに品揃えが変わっている。保存の効かない物は管理も手間だから廃止されたと推測する』

 

「日本に来たからにはおにぎり食べた買ったんだけど……?」

 

『この一帯のユーラシア連合占領下では扱っていない。北米、アジア協商、オセアニアの占領下ではある』

 

「Oh……No……。来日したときには時間も買う機会も無かったしなぁ……」

 

 メアリーは頭を抱え、いかにも残念そうな表情と仕草をする。

 

『マズイぞ。流石に怪しすぎたか』

 

 異様に多い買い物、そしてメアリーの言動。

 元より怪しんでいた店主が向かってきた。

 

「君達、身分を証明出来る物はあるか?」

 

 店主の明らかな疑いの眼差し。

 そして手にはいつでも通報出来る準備がされた端末がある。

 

「ええと、こんな時はユーラシア連合圏ではなんて……」

 

『メアリー、黙っ……』

「は、ハラショー……」

 

 動揺していたせいでメアリーは思いついたユーラシア連合で使われてそうな言葉を適当に言った。

 

『緊急事態だ』

 

 店主は手にしていた端末の通報ボタンを押す寸前だった。

 だがそれより先にナギが店主の頭を撃ち抜いた。

 

『難解な解析とプログラムにより錬成したクレジットは無意味になった』

 

「ご、強盗じゃん!?もうこれ強盗だよ!?」

 

 ギンペイは相変わらず淡々と言い、メアリーはかなり動揺する。

 

「対象の排除が打倒と判断した」

 

 ナギも表情一つ変えず、淡々とメアリー達に言った。

 

『強盗殺人。基本的にはどの国でも極刑だな』

 

「ヒィ!!」

 

『そもそも日本人のレジスタンスは各勢力でテロリスト扱いだから大きな違いは無いが』

 

「ああ……もう……」

 

 ナギは店主の死体を引きずり、店の倉庫へと運ぶ。

 

『これで店の商品は詰め放題だ。人通りは少ないが急いだ方がいい』

 

「強盗の片棒担がされるのは嫌だな……」

 

『君は人質の扱いだ。やらされた事にすればいい』

 

 だが強盗殺人になったのはメアリーがやらかしたせいでもある。

 

 

 

「これは仕方なくやらされたんです。私は人質なんです……これは仕方なくやらされたんです。私は人質なんです……」

 

 そう呟くようにメアリーは復唱しながら店から持ち出した商品を籠ごと荷室に乗せていく。しっかり気になった菓子類は全て持ち出している。

 

 

 

「………」

 

 走行中の車内。

 メアリーは運転に集中したいと言ったものの、異様な沈黙がある。

 

『メアリー、動揺してるならナギと運転は変わった方がいい』

 

「大丈夫、……まぁ色々動揺してるのは間違い無いけどね……」

 

 歪ながらも運転に慣れてきたのもあるのか、メアリーは異様に落ち着いている様子だ。

 

『君は北米でも裕福な家系出身だ。日本の現状がこうだしそこで生きる日本人、人としての価値観は大きく違う』

 

「うん、解ってる………」

 

「私の国もね……表向きは華やかだけど格差は凄く大きいから……」

 

 メアリーの出身である北米も元より資本主義で格差の大きい国である。

 メアリーはその中でも特に恵まれた環境である事を自覚していた。

 

「環境次第ではそれこそ物心ついた時から犯罪が生きる手段って人もいる。孤児院でもそういう身の上の子はいたから……」

 

 

 メアリーは慈善活動に熱心だった父親とよく孤児院に遊びに行ったりした。そこで様々な境遇のコドモたちの話を聞いたりもした。

 

「確かに信じられないし怖いよ。ナギちゃんも戦闘殺戮マシーンにしか見えなかった。……でも、そうやってしか生きられない、そんなやり方しか知らないし他の方法なんて無いんだなって……」

 

「………」

 

 ナギは変わらずただ沈黙している。

 周りを警戒してる様子でもありメアリーの言葉を聞いてるのかも解らない。

 

『不幸は免罪符にはならない。状況次第で裁判では情状酌量の余地はあるが今の日本人は尚更そうだろう』

 

「うん……そうだね……」

 

 ギンペイが言葉はメアリーに対し無配慮にも思えるがそれは彼女にも解ってる様子だ。

 

「必死で生きようとする人は助ける意味がある。そんな事をパパが言っていた。だから私も本当はそうしたい」

 

『それで、君は何がしたい?何が出来る?』

 

 メアリーの言葉にギンペイは問う。

 

「どうかな?私はパパのようにはなれない。でも目で見たこの状況を伝える事は出来る」

 

 メアリーの観た日本人の状況はあまりに凄惨なものだった。

 所詮は外国の事。自分の考えてる事や出来る事など一時の感情や良心による自己満足なのかもしれない。

 だが『聖人』と呼ばれる尊敬し、愛する父親はどうするだろうか?

 

「だから私、生きて帰りたい」

 

 愛する父親の為に、そして日本人の為に自分の成すべき事は生きて帰り、父親に伝える。

 国民の人気も高く、大統領候補と言われる父、

 ネイソン・デントなら何か変える事ができるかもしれない。

 そういった希望をメアリーは口にする。

 

「……了解した」

 

 メアリーの言葉にナギはそう応える。

 

 

 

 北米軍、日本の駐留基地。

 

「私に用とは?ブラッド大尉」

 

 ブラッドと同室にいるのはジェルマン・ゴベールという男だ。

 ブレンゾン社の窓口担当であり、その他多様なパイプを持ちそのコネクションは計り知れない。

 独断で新型メイレスを日本のレジスタンス『八咫烏』に提供できる程だ。

 

「わざわざすまんな。その詫びと言っては何だがどうだ?」

 

 ブラッドは用意していたたい焼きを見せびらかすようにジェルマンに向ける。

 

「いえ、結構です」

 

 ジェルマンは手を挙げ、それを断る。

 

「私が今知り得る最高の店のたい焼きだぞ?」

 

「ブラッド大尉、本題のお話を」

 

 ジェルマンはブラッドに話を進めさせる。

 

「コイツが何だか解るか?」

 

 ブラッドは『叢』の拠点の調査で見つけたケースに入った花のサンプルをジェルマンに渡す。

 

「これは……夢幻彩花ですね」

 

 ジェルマンはそれを凝視するとすぐさまそれが何か解った様子である。

 

「ムゲンサイカ……?日本の花か?」

 

 ブラッドはたい焼きを一口齧りながら言った。

 

「一応はそうなりますね。ただし、在来していた物ではありません」

 

 ジェルマンはサンプルを返すように机に置く。

 

「かつて日本が日本だった頃、研究の上に人工的に作り出された花、薬草です。夢の薬草として医療の世界で期待されていました」

 

「されていた、とは?」

 

「日本がこの状況ですからね。研究も頓挫してしまいました」

 

 どことなく呆れた様子でジェルマンは話す。

 今の日本の現状からは推測し易い。

 日本の末期は緊縮財政によって有益な研究を幾つも頓挫させてきた。

 そしてかつての技術大国は衰退し、それがこの現状を生んだ要因の一つだ。

 

「今は麻薬としての方が有名でしょう」

 

「麻薬……だと?」

 

 ブラッドはたい焼きを食べる手を止める。

 

「世界中で出回り始めてる特級の危険ドラッグですよ。幻覚に気分の高揚、または鎮静化。しかし、配合を間違えれば死にも至ります」

 

 ジェルマンは端末で検索する事も無く語る。

 胡散臭い男だけにこういう事にも疎くは無いようだ。

 

「理想の薬草が今や最も危険な薬物か」

 

 ブラッドは皮肉混じりにそう呟く。

 

「数年前までは北米傘下の医療機関で研究がされていましたよ。その第一人者は確か『ウシオ』という優れた若い女性でしたが現在は消息不明ですね」

 

 ジェルマン自身も興味があったのか結構踏み込んで調べていたようだ。

 

「日本の北米統治下での流通は抑えられてるようですが各勢力では既に入植者を中心に出回っています。日本のレジスタンスがそれに関わってるという話も」

 

「日本のレジスタンスがか?」

 

 あり得ない話では無いがブラッドが知っているレジスタンスはテロリスト扱いされようが大義名分は曲げないものだった。勿論無法の集団もいたがそこまで狡猾で卑劣極まりないのは知り得なかった。

 

「麻薬は最も有益な資金源の一つです。充分あり得るかと」

 

 違法薬物は裏社会、反社会勢力の最もポピュラーな資金源であることは歴史が証明している。

 

「目星はついてるのか?」

 

「八咫烏や際の極光はあり得ませんね。大義名分が求心力となっていますので。推測ですがおそらく鏖禍刻やその傘下の組織かと」

 

「『オウマガトキ』か……。北米勢力内での活動は無いから我々軍も黙認しているレジスタンスだな」

 

 ブラッドも存在自体は耳にしていたがその動向故に情報が無い。

 

「なるほど、敵の敵は味方……ですね」

 

「………」

 

 実際ジェルマンには痛いとこを突かれている。

 レジスタンスや他勢力への対応に北米軍は手一杯である。自分達に敵対せず、尚且つ他勢力を脅かす存在。利用出来るなら利用し、黙認が定石である。

 

「もう一つ。ブレンゾン北米支社について知ってる事を教えてくれ」

 

「北米に拠点を構えるブレンゾンの支社、その規模、技術力は本社にも匹敵か同等、独自性も強くそれ以上かもしれません」

 

「ほう……。北米支社の方との競合や商談は無かったのか?」

 

「医療技術、機械義肢の扱いの分野は是非に関わりたかったのですか北米のCEO、セレーナ・デュフォンにしてやられましたね」

 

 ジェルマンは手に持っていたタブレット端末でセレーナ・デュフォンの顔写真を出してそれをブラッドに見せる。

 

「美人じゃないか」

 

 ブラッドは適当な感想を述べるように言った。

 

「いけ好かない女ですよ。身体中をあちこち弄り回してますし本来の原型は留めていないかと」

 

 冷静を装っているがジェルマンの皮肉からは不機嫌さが伺える。余程嫌悪してるようだ。

 

「悪名高いエッカート上院議員とも蜜月なようで。その援助があるのか北米内での勢力を伸ばしてますね」

 

 ジェルマンは渋い表情でタブレットの情報を確認していく。

 

「悪運も強い。ブレンゾンでの爆発事故を偶然にも予定外の行動で無傷で生き延びてます」

 

 ジェルマンは嫌悪感を吐き出すといつも通り平静に自らを立て直す。

 

「失礼、うっかり愚痴をこぼしてしまいましたね。憎き商売敵故にお見苦しい所を」

 

 ジェルマンは苦笑いすると話を切った。

 

「いや、何でもいいからブレンゾン北米支社についての情報が欲しい。知り合いがそこの社員なんだが行方不明になってな」

 

「名前は?」

 

「メアリー・デント。ネイソン・デント議員の娘だ」

 

「将来の大統領候補に恩を売って置くのは悪くないですね。しかしデント議員は潔癖が過ぎますから裏取引は有効ではありませんよ?」

 

「当然だ。彼の事は私はよく知っている。恩を売るのでは無く返したいのだ。たい焼きも元は彼からの土産だ」

 

 ブラッドは手にしたたい焼きをジェルマンに見せるようにそう言った。

 

「探りを入れるのは難しいですね。エッカート上院議員との関係も公ではもみ消されていますしセレーナは狡猾で隙が無い。最近は特に」

 

 ジェルマンは腕を組み、いつも通りの冷静さを保ちながらも悩まし気な様子だ。

 

「何か変わった様子でも?」

 

 そう言うとブラッドはたい焼きを口へと運ぶ。

 

「俗物だった以前とは別人のようになったとの話があります。今では社員からの信頼も厚く、業績も飛躍的に伸びています」

 

「いい事じゃないか」

 

「爆発事故を切っ掛けに一層注意深くなったのかもしれません」

 

 ジェルマンは指を顎に添える仕草をし、目は窓の方を見る。憎き商売敵への恨みが未だ忘れられないといったとこか。

 

「ブレンゾン北米にとってメアリーの扱いはどうなる?」

 

 ブラッドはより真剣な眼差しで質問をする。

 

「学業を数年飛び級する才女でもあり有望な議員の娘。勿論貴重な人材です。彼女の身の安全の確保の為には全力を尽くすと思います」

 

「我々軍も彼女の身柄の確保に全力を注いでる」

 

「うかうかしてるとあのしたたかな女に先を越されますよ。レジスタンスの人質というなら真っ先に交渉に応じるでしょうね」

 

「メアリーの安全が最優先だ。形はどうだっていい」

 

「欲がありませんね。恋人ですか?」

 

 ジェルマンは茶化すように言った。

 

「そうじゃない。妹のような存在ではあるが。そして彼女には個人的に用もある」

 

 ブラッドがさらりとそう返すとブラッドの携帯端末から振動熾きる。通話の着信だ。

 ジェルマンは気にせず出てくださいといったような手振りをするとブラッドは着信に応じる。

 

「大尉、報告があります」

 

 ソフィア・ルイス少尉からだ。

 

「そうか、解った。直ぐにそちらへ向かう」

 

 ブラッドは立ち上がると

 

「例の件、引き続き頼む」

 

 とジェルマンに向けて行った。

 だが部屋を出る前に

 

「あとジェルマン、お前にはたい焼きの素晴らしさについてもっと学んだ方がいい。講釈をしてもいいがまたの機会だ」

 

 とそう告げた。

 

「………」

 

 

 

「大尉、調査の結果ですが」

 

 軍の施設内の廊下。ブラッドは直属の部下達の報告を受ける。

 

「何か解ったか?」

 

「メアリー・デントの遺体は確認されていません」

 

「やはりか。私の感じた通りだ。彼女は生きている。直ぐにネイソン・デント議員に報告だ」

 

 ブラッドは真剣な表情は崩さないが良い報告に何処か嬉嬉としたものを感じる。

 

「その件については別の者が報告に。大尉には別の任務が」

 

「解った。例の花についてはどうだった?」

 

 ブラッドは切り替えてもう一つ気がかりの案件の報告を受ける。

 

「日本の在来種との事ですね。観賞用の。特に問題は無いかと……」

 

「………」

 

「大尉?」

 

「いや、何でもない。予想と違ったんでな。そういう事もあるさ」

 

「………」

 

 レイモンド准尉は難しい表情をしていた。

 

「レイ、お前も納得いかんか?」

 

 その様子を見てブラッドはレイモンドに声をかける。

 

「ええ、小耳に挟んだ事ですが今、密かに流通し始めてる違法薬物の原料の花が日本で栽培されているという噂を聞いたもので」

 

 ジェルマンの言っていた話であろう。既にそういった噂はレイモンドの耳にも入っていたのだ。

 

「麻薬となればレジスタンスの資金源にもなり得ます。それにあの花の量、観賞用としては多過ぎますね」

 

 ソフィアは危惧する様子で言った。

 

「だが、杞憂だったな。鑑識の報告なら間違い無い」

 

 一同、納得いかず疑問を残す様子だがブラッドのその言葉は何かしらの警告のようにも思えた。

 

「……何にしても深入りしないほうがいいですね。我々は一軍人に過ぎません」

 

 レイモンドも何か引っ掛かるといった様子だが割り切るつもりだ。

 

「ところで大尉、メアリー氏との関係ですが……」

 

 話が一段落ついたところでソフィアはブラッドにずっと引っ掛かっていた事を聞く。

 

「前に話した通りだ。恩人の娘であり妹のような存在だよ。だからこそ救い出したい」

 

 それを聞いたソフィアは少し安堵した表情だった。

 

「それに彼女にはどうしても言っておかねばならない事がある」

 

「………言う事とは……」

 

 だが直ぐ様、ソフィアの表情は慌てた様子になる。

 

「あれは私が軍に入って始めての休暇で施設に帰省した時の事だ」

 

 ブラッドはメアリーとの過去を語りだす。

 

「彼女、メアリーは遅くなったが誕生日プレゼントを持ってきてくれた。時期的にはクリスマスプレゼントにもなる」

 

「………」

 

 ソフィアとレイモンドはただ黙ってブラッドの話を聞く。

 

「そのプレゼントとは北米の洋菓子店の高級たい焼きケーキだった。バースデーケーキ、もしくはクリスマスケーキのつもりだったのだろう」

 

「私へのバースデープレゼント、もしくはクリスマスプレゼントは彼女の善意と受け取り、私は全部残さず食べた」

 

「だが私の心は憤りで一杯だった」

 

 そう言ったブラッドの表情からも憤りが伺える。

 

「?」

 

 

 

 数年前、施設を訪れたブラッドとメアリー。

 食堂のテーブルには向い合せで座り、今以上に少女らしい頃のメアリーは期待に胸を膨らませた様子でブラッドを見る。

 だがブラッドは目の前に出されたケーキを平らげるも不機嫌な様子だった。

 

「メアリー、君のしていることは私への……たい焼きへの冒涜だ」

 

「……は?」

 

 ブラッドの言葉がメアリーには全く理解出来ないでいた。

 

「はじめに言おう。これはたい焼きでは無い。ケーキの事はよくわからんがこらはケーキとしては上質な物だろう。だがこれはたい焼きでは無い」

 

 ブラッドは興奮を抑えながら話し出す。

 

「先ず添えられた生クリームにフルーツの数々、これらはたい焼きとって不要だ。たい焼きはたい焼きのみで食べるものだ。たい焼きに脇役は不要ッ!」

 

 ブラッドの声は時折叫ぶように大きくなっていった。

 

「それにたい焼きの形。一見綺麗な形をしていたがあれは完全に機械化された型で焼いてを取ったものを後で合わせたものだ。たい焼きとは職人が修行で身につけた技術で焼き上げるものだ!これではモナカだ!」

 

 ブラッドは徐々に早口になり、声もどんどん大きくなる。みるみる興奮が押されられなくなり、立上がると身振り手振りが大きくなる。

 

「何より肝心の中身だ!私は餡は粒餡でもこし餡でも構わん!しかしどちらでも無かった!チョコクリームではないか!これが何よりも許せん!」

 

 たい焼きの高説を語るブラッドの様子に徐々にメアリーの表情は冷たくなっていく。

 

「そもそもたい焼きの始まりとは……メアリー、どこへ行く?話はまだ……」

 

 メアリーはブラッドを無視するように立上がると湯気の登るココアを自分のカップ注ぐ。そして席に戻ると

 

「アッツぁ!!?」

 

 ブラッドに向けてそれを浴びせかける。

 そして立ち去るメアリーをブラッドはただ呆然と見つめていた。

 

 

「何故熱いココアをかけられたのかはわからん。だがそれはどうでもいい」

 

「………」

 

 ブラッドの話に対してソフィアとレイモンドは唖然としている。

 

「彼女にはたい焼きを冒涜した事への謝罪をしてほしい。先ずは無事に帰る事だが」

 

「大尉には否が無かったとお考えですか?」

 

 ソフィアが冷静にブラッドに問う。

 

「何故メアリーが突如として不機嫌になったのかは未だに解らないが私は間違っていないぞ?」

 

「お言葉ですが大尉、大尉はデリカシーに欠けると思います……」

 

 ソフィアは呆れた様子でブラッドにそう告げた。

 

 

 

「へくしッ!」

 

 運転の最中、メアリーはくしゃみをした。

 

「風邪かな?昨夜は薄着しちゃったし」

 

『発熱は無い。平熱だ』

 

 高性能AI、アイレスたるギンペイは体温のスキャンも可能なのである。

 

『山中だが花粉も飛散していない。人間の生理現象は謎が多いな。もっとデータの収集が必要だ』

 

「好奇心があるのはいいけど限度があるからね?」

 

 メアリーは身体を勝手に覗かれてる感覚をおぼえた。相手はAI、機械なのだが妙に色々引っ掛かってしまうのである。

 

「………」

 

 メアリーはふとあることを思い出した。

 数年前のブラッドの誕生日の日のことだ。

 

「そういえばナギちゃんて好きな人とかいる?」

 

「仲間全員」

「天使だ!天使だよこの娘!」

 

 ナギの言葉にメアリーは叫ぶ。

 

「……悪魔認定する者には容赦しない天使だけど……」

 

「あと……人生の先輩としてナギちゃんにひとつ教えといてあげる。恋とかそういうのはちゃんと考えた方がいいよ?」

 

「?よく解らない」

 

 いつも無表情ナギだがメアリーの言葉には不思議そうな顔をしている。

 

「一時の感情で男の人を好きになりすぎるなって事。見た目や好青年風だからといって中身まではそうとは限らないよ?」

 

「意味が解らない……」

 

「そのうち解る日がかるかもよ?女の子ならね」

 

 メアリーは何やら得意気に話す。

 

「………」

 

『解らんな。そういった事には僕らには理解不能な話だ』

 

「君は解らなくてよろしい」

 

 ギンペイの言葉をメアリーは受け流す。

 

『そろそろ目的地だ。気を抜かないで運転してくれ』

 

 

 

 車は飲食店の駐車場に停車する。

 看板は日本語で書かれた店だ。

 

『目的地だ。ここで待ち合わせになってる』

 

「なんか食べない?お腹空いた」

 

 大量に食糧を確保してはいるがメアリーはずっと運転に集中していた状態だ。キャンプ場から何も口にしていない。

 

『そろそろ食事を接種した方がいい時間だ。推奨する』

 

 ナギ達は店へと入っていく。

 

「……いらっしゃい」

 

 往年の店主らしき人物がナギ達を見てそう言った。

 他に客はいない。

 

 空いてるテーブル席にナギとメアリーは座るとメアリーはメニュー本を開く。

 

「メニューも日本語……なんと逞しい……」

 

 メニューの日本語表記に驚くも曲がりなりに秀才たるメアリーは日本文字も習得している。

 

「ギョーザに焼き飯……ラーメン……ここで思わぬ日本食がっ!」

 

 メニューを見たメアリーは興奮を隠せない。

 

『メアリー、ここのメニューは中華だ。日本食ではない』

 

 メアリーの言葉にギンペイは指摘を入れる。

 

「え?ギョーザやラーメンって日本食じゃ無いの?」

 

 メアリーは驚いた様子だ。ラーメンやギョーザはずっと日本食だと思っていたらしい。

 

『日本で独自の変化や発展をしているから日本食と呼べるかもしないが』

 

 日本独自の変化にはギンペイも感心を示す。

 

「定食セットもあるけどラーメンと焼き飯の量が減ってるんだよね……」

 

 メニューに掲載された写真と説明にはそう書いてあった。

 尚、この店ではチャーハンは焼き飯と書かれている。

 

『定食セットを推奨する。それでもカロリー摂取が過剰だ。太るぞ』

 

「何が起こるか解らないし食べれる時に食べなきゃね!マスター、このチャーシューメンと焼き飯、ギョーザ、大盛りで2セット!ナギちゃんも同じのでいいよね?」

 

 ギンペイの言葉を聞き入れず、メアリーは店主に注文をする。

 

「………」

 

 ナギは無言で首を立てに振る。

 

 

 

「♪〜♪〜♪〜」

 

 メアリーは楽しみなのか鼻歌を口ずさんでいる。

 

『ユーラシア軍の車輌を確認した。気をつけろ』

 

「!」

 

 囁くようにギンペイがそう言った。

 即座にナギはホルダーの銃に手をかけ、身構える。

 メアリーは驚き、動揺する。

 

『落ち着け。ナギはアジア協商からの旅行者、メアリーはユーラシア連の入植者を装えばいい。念のために端末のIDも偽装してある。』

 

「珍しいな。客が来てるのか」

 

 ふてぶてしい態度のユーラシア軍の兵士が二人、店の戸を乱暴に開けて入って来る。

 

「あんたらか。今は忙しい。用が無いなら帰ってくれ」

 

 於久すること無く店主はユーラシア軍の兵士に物申す。

 

「口の聞き方に気をつけろ。また痛い目に逢いたいか?」

 

 ユーラシア軍兵士は睨みつけ、高圧的に脅すような態度でそう言った。

 

「憲兵が何をしに来た?ここは日本人の為の店だ。ユーラシア文字には変えんぞ」

 

「こんな不味い店、来るかよ。そんな事より怪しい日本人を見なかったか?」

 

 嫌味を混ぜながらユーラシア軍兵士達は店主に問う。

 

「また鏖禍刻(オウマガドキ)にでもやられたのか?大ユーラシア軍も大した事無いな」

 

 店主も負けじと嫌味を返す。

 

「またもや政府の関係者が行方不明だ。お前、奴らと関係があるんじゃないか?」

 

「以前から怪しいと思っていた。連行するぞ」

 

 適当な言いがかりをつけ、ユーラシアの憲兵二人は店主を連行しようと歩み寄ろうとする。

 

「ほう、ユスケの憲兵如きにしてはなかなか感が鋭いな」

 

 店の入口の戸に突然現れた女性がそう言った。

 眼帯にスーツ姿。オウマガドキの頭たる女性だ。

 ちなみに〈ユスケ〉とは日本人が使うユーラシア軍への揶揄の呼び方の一つである。

 

「貴様!何奴!?……まさか!?」

 

 振り返った憲兵達は妙な威圧感を感じる。

 女性にしては大柄で体格もいいがそれでも憲兵二人の方が大きい。

 だがその女性からはそれ以上の威圧感があった。

 

「確かにそいつは末端だが関わりがある。私の組織とな」

 

 憲兵二人は銃を構え、女性へ向ける。

 

「行方不明はここで今、憲兵二、追加だ」

 

 右腕を構えながらそう言うと女は向けられた銃の発砲を信じられない反応速度で躱すと瞬く間に一人を蹴飛ばし、そしてもう一人の憲兵の頭を右手で鷲掴む。

 

「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 憲兵は悲鳴をあげながも銃を女に向けるがそれより速く鷲掴みにされた頭が握りつぶされ、爆ぜる。

 

「クソっ!」

 

 吹き飛ばされた憲兵は銃を構え、それを女に向ける。

 だが、次の瞬間、憲兵の頭を銃弾が貫く。

 ナキが銃弾を放ったのだ。

 

「お久しぶりです。鬼曽教官」

 

 ナギは敬礼の姿勢を取る。

 表情は相変わらずだが微かに嬉しそうにも思える。

 

「………誰だ?」

 

 ナギに鬼曽と呼ばれた女性はナギの方を見る。

 

「元第零鬼童隊、十七番です」

 

 ナギはそう答えた。

 以前所属していたというレジスタンスに関係している事なのだろう。

 

「お前が生き残りとはな……少しはマシになったようだが……」

 

 そう言うと鬼曽は突然ナギに掴みかかり、投げ飛ばす。

 テーブルが粉々になる程の衝撃だ。

 

「……なっ!?」

 

 それを見たメアリーは声をあげて驚く。

 ナギも懐かしい顔で珍しく油断していたとはいえ、かなりの速度と力だ。受け身を取るのが精一杯だ。

 

「ぬるま湯に浸かっていたな?根本的な事を忘れているぞ」

 

 仰向けに倒れたナギの顔を覗き込むようにして鬼曽は屈むと

 

「日本人以外は見たら始末しろ。判断が遅すぎる!理由などいらん!欲しいなら後で考えろ!」

 

 と、叱咤の言葉をナギに浴びせる。

 

「貴方は……」

 

 メアリーは鬼曽を見てそう言った。

 その言葉や言い回しから彼女はナギに戦いを教えた張本人だという事もなんとなく悟る。

 

「心配するな。お前の事は聞いている」

 

「………」

 

 メアリーは睨みつけるように木曽を一瞬見るがナギの元へ手を差し伸べる。

 

「大丈夫……?」

 

「問題無い……」

 

 メアリーはナギに声を掛けたが手を取ることは無く、自力で立ちあがる。

 

「その程度でどうにかなるなら使い物にはならん」

 

 鬼曽は冷たい態度でさらりとそう言った。

 

「貴方という人は……っ!」

 

 元よりメアリーにとって鬼曽の印象は良くない。

 ついメアリーは木曽に詰め寄る。

 

「いい気になるなよ?北米の小娘が!」

 

 だが一瞬にしてその迫力に気圧され、壁ドン常態にされてしまった。

 

「別に五体満足である必要は無い。それに……」

 

 鬼曽は右手の手袋を口で咥えて外すとその右手は機械の義手だった。

 更に右眼の眼帯を捲りあげると顔右側の無惨な傷跡と共に右眼の機械の義眼がはっきりと現れ、メアリーを見つめる。

 

「今は私のように新しいのをつける事ができるからな。なかなか便利だぞ?」

 

 メアリーは鬼曽の迫力に言葉を失い、震え上がる。

 

「鬼曽教官ッ!!」

 

「何だ!?」

 

 その時、叫ぶようにナギが言った。

 

「メアリーから離れてください!」

 

 ナギは鬼曽を見つめ、そう叫ぶ。

 

「お前如きが私に命令するのか?」

 

 鬼曽はナギを見る。

 メアリーは力なくその場に座り込む。

 下半身が濡れている。

 鬼曽への恐怖で漏らしてしまったようだ。

 

 鬼曽は凄まじい迫力でナギを睨みつけてるが同事に

どこかニヤけた感じもある。

 

『『キソ』といったか、彼女達を傷つける事は推奨しない』

 

 携帯端末からギンペイの声がする。

 

「……ほう、それがアイレスか……」

 

 鬼曽はAIシステム、アイレスの事も知っている様子だ。

 

「御前様、準備が整いました」

 

 店の入り口から鬼曽の部下の一人が声をかける。

 『御前様』というの鬼曽が鏖禍刻で部下達に呼ばれてる通称だ。

 

「そうか、直ちに出発だ。片付けの手配もしておけ」

 

「了解しました」

 

 鬼曽への報告を終え、指示を受けた部下は即座に立ち去る。

 

「………」

 

「十七番」

 

 ナギに向けて鬼曽が声をかけるがギンペイが言葉を挟む。

 

『鬼曽、彼女は瀬戸ナギだ』

 

 以前にナギがいたレジスタンスでは番号で呼ばれていたらしい。

 ギンペイからするともうナギは叢雲のメンバーだからその番号で呼ぶ理由は無いと言いたいのだろう。

 

「そんな名前だったか……?そんな事よりお前は今日は私の庭の害虫共は何匹駆除した?」

 

「ゴキブリを八匹」

 

「そんなにいたの?!」

 

 寝泊まりした別荘に現れたゴキブリの事だろう。

 メアリーはその数に驚く。

 

「害虫と同類の始末した連中の事だ」

 

「七です」

 

「足らんな。それにお前はあっさり殺し過ぎる。零点だ」

 

 相変わらず辛い。

 とても彼女がナギにとって尊敬する恩師には思えない。

 

「もっと苦しめて絶望させてから殺す事を覚えろ」

 

「了解」

 

 ナギとの会話を終えると鬼曽は部下を手招きする仕草をする。

 

「戯れはこれまでだ。客人を案内してやれ」

 

 入って来た鬼曽の部下達がそれぞれの仕事を始める。

 

「最もお前達は私の物になって貰うがな」

 

 鬼曽は微笑みながらそう言った。

 

 

「あの……」

 

 メアリーは挙手して言った。

 

「着替えてもいいですか?」

 

「……風呂、入っていけ」

 

 店主がメアリーにそう言った。

 

「それと……、食いそびれたがここは焼き飯が美味いぞ。またの機会に来るといい」

 

 鬼曽は出て行く間際にそう言い残して行った。

 

 

 

 合流地点として指定された海岸付近。

 

「来た。おそらくあれが業者だね」

 

 偵察に出ていたケンジが双眼鏡でそれらしき車両を確認し、水靈に通信を入れる。

 

「わかった。直ぐにいく」

 

 艦長のミコトがそう返答した。

 

 

「セレーナから話は聞いてるな?お前達は東北のブレンゾン日本支部に向かってもらう」

 

 陸地に上がった水靈メンバー達を前に鬼曽がふてぶてしい態度で話し始める。

 

「機体データの収集、戦果の報酬としてブレンゾン北米がするのは物資の支援だ。我々も連中と契約している。お前達『叢』の身元は我々『鏖禍刻』が引き受ける。」

 

 その言葉に水靈メンバー達には動揺を見せる者もいた。良心の苛責から悪名高きレジスタンス『鏖禍刻』の傘下に抵抗がある者もいる。

 

「異論は認めんし拒否権は無い。お前達にはどの道他に道はないのだからな」

 

「解った……そうしよう……」

 

 ミコトが叢の仲間の顔を伺うもそれが最善と判断して返答する。

 

「御前様に忠誠を誓え」

 

 鬼曽の部下である鏖禍刻のメンバーが高圧的に言った。

 だがそれを制止するように鬼曽が手をかざす。

 

「構わん。表向きは同盟だ。叢の名は残す。村上艦長の残したものだ」

 

「村上ウミヒコ艦長をご存知で?」

 

 鬼曽の言葉にミコトが質問をする。

 

 鬼曽は懐から煙草を取り出す。

 細い葉巻のような高級品だ。

 部下がそのとりだした煙草に火を付けると鬼曽はそれを軽く吸うと煙を吹かす。

 

「日本にまだ直轄の防衛部隊があった頃の話だ。そこにいた者で知らぬ者はいるまい」

 

「………」

 

 鬼曽は叢を束ねていた村上ウミヒコとは知り合いのようだ。

 

「あの老骨の最後、いずれ聞かせて貰うぞ」

 

「了解」

 

 ミコトは敬礼し、そう言った。

 

「折角だ。色々と手配には時間がかかる。ここで疲れを癒して鋭気を養え。じゅうな……ナギ達からの土産もあるぞ」

 

 一服し終えた鬼曽は部下の差し出した灰皿に煙草を押し付け火を消す。

 

「意外か?此処は私の庭だ。他が認めずともいずれそうさせる。己の庭にはゴミは捨てん。処理場は教えてやるからゴミは持ち帰る事だ」

 

 そう言うと鬼曽は部下達と共にその場所を後にする。

 

 

 

「おお!菓子に酒か!ツマミになりそうな物もあるのぅ!」

 

 マイアは持ち帰ったナギ達の物資を探りながら歓喜の声を上げる。

 

「道具もあるのでバーベキューが出来ますよ!」

 

 メアリーの言う通りワゴン車の中にはその為の物が一式揃っていた。

 

「流石北米モンどすなぁ」

 

 ミヤコが微笑みながらそう言った。

 

「レン、任せるぞ」

 

「ったくしゃあねえな」

 

 ミコトに言われたので仕方なく、という言い方だがレンもまんざらでは無かった。

 

 

 

 準備が整い、肉や野菜の焼き加減もいい具合になっていた。

 メンバーもそれぞれ酒やジュース、お茶を手にしている。

 ミコトが艦長として乾杯の音頭を取るように演説を始める。

 

「皆、よくここまで耐えてくれた。拠点は壊滅し多くの同胞を喪った。その者達の為に……」

 

「湿っぽい話は無しじゃ。乾杯ッ!」

 

 マイアが乾杯を叫ぶ。

 

「くぁ〜〜〜っ!美味いのう!」

 

「………」

 

 ミコトは黙って持っていたお茶に口をつける。

 

「あれ……いいんでしょうか?」

 

「ミコやん長いどすからなぁ〜〜。いつもの事どす。それにずっと泣いとってもしゃあないどすし」

 

 不思議そうに見つめるメアリーに応じるように酒が入って少々機嫌のいいミヤコが言った。

 

 ふとメアリーの目に缶の飲料に口を付けようとするナギが映る。

 一見柑橘系の炭酸飲料に見えるがそれには9%の文字が。

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 メアリーは慌ててナギの手を止める。

 

「ナギちゃんそれ、お酒じゃん?」

 

『スキャンしたが成分はアルコール飲料だ。度数も高めだな』

 

 端末からギンペイの声がする。相変わらず無機質だが何らかの忠告のように聞こえた。

 

「……何か問題でも?」

 

 ナギも無表情だあるがメアリーの慌てた様子に唖然とした様子が伺える。

 

「お硬いどすな。わてらにとって法なん関係あらへんどす」

 

 ほろ酔いのミヤコが割って入る。

 

「いやいやいや、節度は持ってですね」

 

 ナギの持ってる同じ酒を飲み干し、二杯目を持ったマイアが口を挟む。

 

「酒は十五から飲める筈じゃろ?」

 

「二十歳からですよぉ!?」

 

 呆れた様子でその姿をレンは肉や野菜の焼き加減を見ながら見ていた。

 

「しかし解らねぇな。なんであんなモン飲みたがるんだ?」

 

「もっと大人になれば解ると思うよ?私も興味あるもん」

 

 ジュースを飲みながらアサミは言う。

 

「まぁ酒癖の悪い女にはなるなよ。ほれ、これ焼けたぞ」

 

 レンは焼き加減を見繕った物を皿に置き、アサミに渡す。

 

「ありがとう。頂きます!」

 

 

 

「これは私が処分します!」

 

 そう言ってメアリーはナギの持っていた缶の酒を一気に飲み干す。

 

『メアリー、そのアルコール飲料は度数が高い……』

 

「ぶはぁ!美味しい!肉!レン君お肉頂戴!」

 

 ギンペイの忠告も虚しく、酒を飲み干したメアリーの顔は既に赤い。しかし酒が入って気分は良さそうだ。

 

「ナギの初体験はお預けどすなぁ」

 

 上機嫌のミヤコはニヤけながらそう言った。

 

 

 

「……うーーー………」

 

 だが、メアリーはすぐに酔いが回り、木製の長椅子に仰向けに倒れていた。

 

「一気に飲むからどす。ほれ、水」

 

「す、すみらせん……」

 

 ミヤコからペットボトルの水を渡され、起き上がるとメアリーは水をゆっくりと飲む。

 

「日本酒は……飲まないんですか?」

 

 ミヤコの手には缶ビールが握られてる。

 高価な日本酒も持ち帰ったがミヤコは手を付けていない様子だった。

 

「ポン酒なぁ……いらん事思い出すんどす……」

 

「ウチなぁ……物心ついた時から芸事色々仕込まれとってなぁ……。いわゆる表向きは芸者って奴どす。せやからそん時の癖で未だにこんな喋り方どすねん」

 

「ゲイシャ……それは……凄いですね……」

 

「三味線とか舞は結構好きやったどす。でも実態は………身体鬻がれとったんどす……」

 

「………」

 

 

「売春なんて北米にもあるどすえ?表向きは芸者やさかいそれが外人には受けてなぁ……。十二の頃、そんくらいから酒飲まされて、酒の相手させられとったんどす……」

 

「表向きは華やかやったけど実態はおぞましく汚いモンやったわ。堪らず何度も抜け出したんどす……。まぁ捕まってめちゃくちゃ殴られたどすけど……」

 

「どうやって叢に?」

 

「ウミじいが身請けしてくれたんよ。高い金出してな」

 

「あと二十年若かったら惚れとったかもなぁ。ダイゴはんに勝るとも劣らん男前やったと思うどす」

 

「……ダイゴさんの事、好きだったんですか?」

 

「ユミはんおるさかいな。あんま悟られんようにしとったけど周りにはバレバレやったろうどすな」

 

「恋愛だけが人生じゃないですよ」

 

 メアリーは起き上がり、座るとそう言った。

 

「お?メアリっちも失恋経験あるどすか?」

 

 ミヤコは微笑みながら食いついた。

 

「私のは勘違いというか……一方的な自己満足だったというか……」

 

「お、どんな男前どすか?」

 

「面倒見が良くて逞しくて……皆が羨むような人でした」

 

「ダイゴはんみたいなのはどこでもモテるんどすな」

 

「でも変なこだわりがあって……誕生日プレゼントも気に食わなかったのかめちゃくちゃ難癖つけられてこの人無理……ってなりました……」

 

「ああ……なんか解る気がする……何やらデリカシーに欠けそうな御仁どすな……」

 

「そうなんですよ!もう拘りに五月蠅くて!語りだしたら止まらないんですよ!」

 

「元気になってきたどすな。やっぱり恋話は鉄板どすな」

 

「……あっ、すみません。思い出したらつい興奮してしまって」

 

「ほれ、飲み直す?」

 

 ミヤコは持ってきた缶ビールをメアリーに渡す。

 

「頂きます!」

 

 それに応じるように受け取り、メアリーは缶の蓋を開ける。

 

「ウチも……キツい言い方してごめんな……」

 

「いえ……気にしてませんから……」

 

「北米戻るまで……そんな長くはならん思うけど改めてよろしゅう」

 

「こちらこそ……」

 

 二人は互いに乾杯を交わすとそれを飲む。

 

「うッ!ゲボボボボボボ……」

 

 そしてメアリーは口から嘔吐物を垂れ流す。

 

「既に限界越えとるどすがな!あきまへん!」

 

 

 

 アジア軍勾留所。

 

「………」

 

 アジア軍の名将、ホウ・グアン大尉とその部下達はとある軍機違反で勾留されている。

 皆、大人しく指示に従い落ち着いた様子で刑期が終わるのを待っていた。

 

「アジア軍、オセアニア軍、そしてユーラシア軍。それぞれを襲撃したテロリストに対してアジア軍とユーラシア軍が協働の話が出たんだとよ」

 

 看守の兵達から話が聞こえる。

 

「ホウ・グアン大尉の早期の復員も考えたが僻地でテロリスト狩りをしているフォンヴァオ隊をユーラシア軍に出向させるんだと。こういった役割は奴らで充分だな」

 

 

 

「フォンヴァオ隊………彼女達の事ですね……」

 

 ホウ・グアンの参謀でもあるチョ・ソダムがホウ・グアンに声をかける。

 

「………」

 

 ホウ・グアンは黙ってはいるが看守の兵士達の話を聴いている様子だ。

 

「台湾の連中、まだ生きてんだな。新型アメイン相手だと今回こそ壊滅だろうが……」

 

 看守の兵の一人がホウ・グアンを見る。

 

「そういえばホウ・グアン大尉は協働した事があるんだったか?その時は何人やられたんだ?」

 

「戦死者、負傷者共に無しだ」

 

 ホウ・グアンは目線を合わせず、ただそう言った。

 

「そういや、あいつらは戦死者として扱われんからな」

 

「ハハッ!そうだな!」

 

 看守達は笑いながらそう言った。

 

「………」

 

「フォンヴァオ隊、アジア防衛協商支配下の台湾人で構成された部隊でしたね……」

 

 笑う看守達をよそ目にチョがホウ・グアンに再び語りかける。

 

「ああ。だが彼女らには我々程度の権利も無い。人の姿をした消耗品として扱われる。家畜にも劣る扱いだ」

 

 表情一つ変えず、ホウ・グアンはそう言うがどこか憂いを帯びていた。

 

「支援も殆ど無く、装備、物資もほぼ現地調達……。最近、とある商会が私物化するために支援に出たとの噂もありますが……」

 

「現在はリャン中佐の管理下だ。何にせよ上手く扱えるとは思えんがね」

 

 目を閉じ、ホウ・グアンはそう語る。

 リャン中佐とはアジア軍の指揮官の一人でありホウ・グアンの上官だ。

 彼を尋問し、収監の指示を出したのも彼女だ。

 

「畜生故に御しきれない……ですか……」

 

「たかが獣とて侮れん。彼女達は猛獣だ」

 

 ホウ・グアンの目は何かを警戒するような、そんな目をしていた。

 

 

 

 とあるレジスタンスの拠点。

 年期の入った小規模のビルを拠点とし、そこには日の丸や旭日旗が掲げられている。ビルの看板には大きく『愛国永劫会』と書かれている。

 だがいたるところで軍服のようなものを来たメンバー達が倒れている。皆、気絶し、倒れている。

 

「亜キョンの飼い犬が!我々がこんな小娘如きに全滅だと?!」

 

 このレジスタンスのリーダーらしき初老に差し掛かったスキンヘッドで厳つい男が激高し、叫んでいる。

 

「あんたらが弱すぎんだよ。威勢だけでろくな武器もねぇじゃねえか。何と戦ってんだ?せてめアメインくらい持てよ」

 

 黒い戦闘服に身を包んだ背の高い女性が呆れたように言う。

 身体にピッタリ張り付く戦闘服から見事なプロポーションと筋肉がしっかり解が顔には何処か幼さが残る。

 年齢にしてまだ二十歳行くか行かないかくらいだろう。

 

「パイ准尉、彼らは威嚇だけで戦闘経験は殆どありません。思想と精神論だけを掲げる輩です。言葉の巧みさと圧力で同じ現地の日本人から搾取をしているヤクザ者と変わりない連中です」

 

 パイ准尉と呼ばれたその女性の後ろからアジア軍の制服を来た眼鏡のキツそうだがいかにもインテリな顔をした将校らしき女性が現れる。

 

「そりゃ迷惑だ。そらタレコミもあるわなぁ」

 

 将校の女性は眼鏡の位置を整える仕草をすると

 

「本当に日本人は情けないですね。だから戦いもせずに敗北し、その結果がこれです」

 

 と、揶揄するように言った。

 

「黙れ!我々の誇り高き魂を愚弄するか!」

 

 それを聞いたレジスタンスのリーダーは目を血走らせ、唾を激しく飛ばしながら怒鳴る。

 

「盗っ人強盗に誇りもなんもねぇだろ……」

 

「精神論では何ともなりませんよ?結局無抵抗のまま日本は外圧に屈し、それに失望して戦意を失った我々の母国も今やアジア貿易協商の隷属ですよ」

 

「この隷属の裏切り者が!」

 

 まだ倒れていないメンバーが日本刀を抜くとパイ准尉に斬りかかる。

 

「ほっ!」

 

 だがパイ准尉はそれを白刃取りで難なく受け止めた。

 

「日本の剣術はわかんないけど腰がはいってねぇな!」

 

「!!」

 

 パイ准尉は白刃取りした刀をへし折るとそのまま斬り掛かってきた相手を蹴飛ばす。そのまま壁まで吹き飛ばされ、壁にヒビが入る程の衝撃的だった。そのまま相手は意識を失った。

 

「うおおおおおお!」

 

 ヤケクソになったのか、ボスらしき男が拳銃を乱射する。

 だがパイ准尉は弾道を見切ったかのように全て回避すると折れた刀身を投げつける。

 

「ヒィ!!」

 

 刀身はリーダーの男の髪一重のところで壁にささる。

 男は腰を抜かし、そのまま尻もちをついた。

 

「これも安物ですね」

 

 将校の女は転がった刀を拾い、見つめると冷たくそう言った。

 

 

 

 レジスタンスのメンバー達は全員捕縛された。

 ビルの外で制圧した部隊のメンバーが集合している。全員若い、少女ともとれるメンバーも含むおんな達だ。

 

「これで全員?」

 

 パイ准尉はメンバー達に向けてそう問いかける。

 

「目標の制圧、完了」

 

 メンバーの一人であるパイ准尉よりも背の高いベリーショートのメンバーがそう告げる。

 

「シャナ、バナナある?」

 

 シャナと呼ばれたそのメンバーは荷物からバナナを取り出してパイ准尉に投げ渡す。

 

「うんま!やっぱりひと仕事終えたあとの台湾のバナナは美味いな!」

 

 美味そうにバナナを味わうパイ准尉の所に眼鏡の将校の女が歩いてくる。

 

「今日は偶然楽な任務だっただけですよ?全員気を緩めないように」

 

 眼鏡の将校の女はメンバー達の顔を見るようにしてそう言った。

 

「協商本国に行って偉くなって堅苦しくなったもんだなぁフェイ。同じ釜の飯を食ったんだからもっと気楽にすればいいじゃん?」

 

「私はアジア軍の正規兵ですよ?監視役も含めて今はここにいます。それに、階級は私の方が上ですのでそれは心得るように」

 

 フェイと呼ばれた将校は胸の階級章を見せるように指さした。

 彼女のアジア軍の階級は特務で少尉だ。

 

「ちょっと見ない間にデカくなったもんだ」

 

「どこ見てるんですか……」

 

 関心したようにパイ准尉が言うと照れたようにフェイ少尉が背中を向け胸を隠す。

 大きさ的にはパイ准尉の方が明白だがフェイにもしっかりとした丘が確認出来る。

 

「階級とかよくわかんねぇんだよな。元々はアタイらには無かったもんだし」

 

「………」

 

「リャン中佐から招集がかかっています。特別任務です」

 

 フェイ少尉は話を切り替え、報告する。

 

「えっと……誰だっけ?」

 

 パイ准尉は思い出すような仕草をしていた。

 

「アジア軍、中部地方の指揮官ですよ」

 

「ああ、あのエラそうなババァか」

 

 あまりに不遜な態度にもう突っ込む気力も失せたのかフェイ少尉は話を続ける。

 

「全員、司令部に招集命令が降りています。直ちに撤収してください」

 

 

 

 

 北米軍、日本司令本部基地。

 

「………そんな………まさか……」

 

 報告を受けたメアリーの父、ネイソン・デントは動揺し、それを受け入れられない様子だ。

 

「とても残念な結果になって申し訳ない……。……我々も無念であります……」

 

 暗い顔でエドガー・フリーマン総司令官はデントに告げる。

 

「せめて……せめてメアリーの……娘の顔を……」

 

「それが……巻き込まれたのが激しい戦闘だったようで……、損傷が激しいく……遺体は無いに等しいもので……見ない方が良いかと……」

 

 同じく暗い表情でスピアーズは包容するようにデントの肩に手を置く。

 

「………」

 

 デントは力無く、両膝をつくと

 

「うああああああああ!!」

 

 泣き叫びながら天井を仰いだ。

 

 

 

 北米の一等地。そこにそびえ立つ大統領官邸にも勝るとも劣らない豪邸、エッカート上院議員の館である。

 

「こちらネゴシエーター、メアリー・デントの死亡の報告を完了しました」

 

 人払いのされた館の一室、リモートの大画面に映し出されたネゴシエーターと名乗る北米の諜報機関の男は工作の報告をエッカート議員に報告する。

 

「御苦労。これであの小童も終わりだ」

 

 バスローブに見を包んだエッカートは最高級のワインを煽る。

 

 

 

 アジア自由貿易協商の中心都市、その高層ビルの一角に建つアジア自由貿易協商最大グループの一つであるガオ商会所有の一つのビル最上階。

 そこには高価な白いビジネススーツに身を包んだ長髪の青年が優越に満ちた表情で都市を見下ろしていた。

 今や兄二人を謀殺し、ガオ商会後後継者の最有力候補となったガオ・シンである。

 

「フェイは良くやってくれている。彼女達、フォンヴァオは私の優秀な駒となってくれるだろう」

 

 シンはタブレット端末ニ送られた報告を確認そ、そう呟くと厳重なアタッシュケースに視線を送る。

 

「それにしても気難しくて困った物だ。『彼女達』を気に入ってくれるといいのだが」

 

 アタッシュケースの中には黒く長い箱のような何らかのユニットがある。

 シンは知る由もないがそのユニットの数ヵ所が点滅発光し、何らかの反応を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 3話目がめっちゃ遅延しましたが
 AC6のストーリームービー見てなかったら冒頭のシーンはもっと意味不明な感じになってたでしょう。
 あと鬼曽が時々鬼畜って見えてしまいますねw
 ちなみにリャン中佐ってのは一期の最終回でホウグアン尋問してた人のつもりです。
 公式から情報も無いので二次創作で勝手に名前つけてキャラ付けしました。

 次の話はめっちゃ面白くなることを予定しております(笑)
 
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