境界戦機 ロストネイション   作:アンサングのフレンズ

4 / 8
 遅くなった上に急いだので乱文だったり解りにくいかもしれません。
 そして長いです(苦笑)
 相変わらず軍内部の話とか素人丸だしです。
 ……まぁエンターテイメント性を重視したと思ってください。
 紅包は本来ホンバオと読むらしいですがカッコいいと思ったのでフォンヴァオと書いてます。
 そして原作の境界戦機の人気キャラが登場します。

 いつも通りところどころキャラの名前がわかりにくかったり間違ってたりするかもしれません。


紅包 fongbao

 一年前。

 

 アジア軍、日本中国地方、駐留軍基地。

 そこには台湾出身の女性、年端も行かぬまだ少女達で編成された『フォンヴァオ』隊の隊員達が整列している。

 

 「今回の作戦で臨時に指揮するのが私、ホウ・グアンだ。君達には敵レジスタンスの陽動を行って貰う」

 

 ホウ・グアン大尉とその補佐であるスン・チョン中尉がフォンヴァオ隊の前に立つ。

 非正規ながらも軍隊らしく整列するも、一人、面倒くさそうにあくびをしている者がいる。

 銀髪で長身の少女だ。

 

 「………」

 

 ホウ・グアンもスン・チョンもその姿が目に入るが構わず話を続ける。

 

 「敵の戦力には鹵獲された北米軍のブレイディ・ハウンドも確認されている。かなり困難な戦闘が予測される。我々のアメイン部隊が到着するまで耐えればいい。無理せず危険と判断した時は撤退するように」

 

「何か質問はあるか?」

 

 すると先程大あくびをしていた銀髪の少女が挙手していた。

 

「君、名前と階級は?」

 

 スン中尉は挙手した彼女に向けてそう言った。

 

「パイ・タオファっす。……階級?」

 

 パイ・タオファは名乗るも階級に関しては全く解らない様子である。

 

「スン中尉、彼女らには階級が設定されていない」

 

 ホウ・グアン大尉はスン中尉に対してそう教えるとタオファの方を見る。

 

「ではパイ隊員、質問を許可しよう。何だね?」

 

「別に敵を倒してもいいんスよね?」

 

 タオファは平然と緊張感の無い仕草でそう質問をする。

 

「仮に可能だとしても問題はない」

 

 ホウ・グアン大尉は淡々と応える。

 

「だが、今そのような冗談は関心しない。君達はいわば決死隊だ。我々も最善は尽くす。もし生還できたならそのような悪ふざけは今後、自重するように」

 

「?りょーかい」

 

 

 

「大尉、彼女達で大丈夫なんでしょうか?」

 

 スン中尉は案ずるようにホウ・グアン大尉に話す。

 

「あれはあれで今まで生き残って来ているのが少々気になる。強運にしては過ぎるな。準備を怠るな。整い次第、援軍に出るぞ」

 

「了解しました。ホウ・グアン大尉」

 

 

 

 作戦開始より数時間後、目標地点周辺。

 

 

 

「やけに静かだな……」

 

「フォンヴァオは既に壊滅したかと……」

 

 援軍に来たホウ・グアンの部隊。

 

「いや……、あれを診ろ」

 

 ホウ・グアンのモニターの先には大破した北米軍のアメイン、ブレイディ・ハウンドが数機、映る。

 

「ブレイディ・ハウンド……!あれを生身の部隊、それも少女達がやったというのですか……?!」

 

「それを今から確かめに行く」

 

 

 

「タオファー、あれ」

 

 フォンヴァオ隊の一人がホウ・グアンの援軍を確認した。

 

「ん?やべ!本当に来た!」

 

 タオファはバナナを食べている時だった。

 

 

 

 ホウ・グアンの部隊が到着するとフォンヴァオ隊は迅速に整列し、ホウ・グアン大尉を出迎える。

 

「状況を報告せよ」

 

 ホウ・グアン大尉は淡々と告げる。

 

「敵レジスタンス、制圧完了しました」

 

 フォンヴァオ隊の一人が応じる。

 

「被害状況は?」

 

「ありません」

 

 

 

「戦死者、負傷者共に無しか……」

 

 ホウ・グアンは真顔でそう呟く。

 

「なんと……」

 

 スン・チョンも驚きを隠せない。

 

「………」

 

 常に冷静沈着なホウ・グアンとスン・チョンだがあまりにも予想外の戦果のフォンヴァオ隊に驚きを隠せない様子だ。

 ホウ・グアンは再び冷静な表情に戻るとタオファに向けて歩み寄る。

 

「パイ・タオファと言ったか……何だ……それは?」

 

 タオファの手にはバナナがあった。

 口は頬張って膨らんでる。

 

「ふがふがふがふがふが……」

 

「口に物を含んだまま喋るんじゃ無い!」

 

 スン・チョンが注意するとタオファは一気に飲み込んだ。

 

「ちゃんと噛みなさい」

 

 ホウ・グアン大尉は注意する。

 

「バナナです。台湾の」

 

「………」

 

 ホウ・グアン大尉とスン・チョン中尉は黙ったまま静止する。

 

「チッ……どうぞ………」

 

 タオファは不機嫌そうに食べかけのバナナを差し出した。

 

「………不要だ」

 

 ホウ・グアンは淡々とそう返す。

 

「後はこちらで引き受ける。撤収せよ」

 

「了解」

 

 スン・チョン中尉がそう指示を出すとフォンヴァオ隊は迅速に撤収を始める。

 

 

 

「何というか大尉……我々はからかわれてるんでしょうか……」

 

「わからん。だが、彼女達が我々が測れるような者では無いことが確かだが」

 

「私も含め、到底扱いきれる者たちではなさそうだ。だがそれ故に徹底して管理の必要がある」

 

 

 

 現在のアジア軍、日本中国地方の基地にて。

 

「お前達には東北のユーラシア軍に出向してもらう。テロリスト対策としての協働だ。だが正規の兵を出す必要も無い。連中の援軍にはお前達で充分だがアメインの一つでもないと格好もつかん。特別に台湾でカスタマイズされたニュウレンの使用を許可する」

 

 整列するフォンヴァオ隊を前に女性司令官が高圧的な態度でそう言った。

 フォンヴァオの中には他の同様の赤い制服の眼鏡をかけたいかにもインテリな風貌の女性が混ざっていた。

 

「リャン中佐、フォンヴァオ隊にアメインを扱える者は?」

 

 リャン中佐の参謀らしき兵が嫌味たらしく薄笑いを浮かべながら言った。

 

「その為に特別にサポート用のユニットデバイスもガオ商会から提供されている。どのツテかは知らんがお前達にしては過ぎる支援だ」

 

「最も、それがちゃんと作動するかまでは保証出来んがな」

 

 リャン中佐は嫌味たらしく言った。

 

「中佐、質問いいスか?」

 

 タオファは何食わぬ顔で挙手する。

 

「……なんだ?」

 

「頭の調子はどうっスか?」

 

「ぐっ……!」

 

 その言葉を聞いたリャン中佐の顔が引きつる。

 フォンヴァオ隊の一同笑いを堪えてるようにも見える。

 

「さっさと行け!ユーラシア軍の前で恥を晒すな!」

 

 リャン中佐の怒鳴り声が響く。

 

「チェン少尉、貴様も曲りなりに士官なら躾はきちんとしておけ!」

 

「了解しました」

 

 白い制服のフォンヴァオ隊の中で唯一他のアジア軍と同じ赤い制服のチェン少尉はリャン中佐の罵詈雑言に淡々と応じる。

 

「全く、これだから台湾の連中は……。貴様もどんな卑しい手を使ったのかは知らんがガオ・シンの後ろ盾で士官の地位がある事を忘れるな!」

 

「……」

 

 

 

「おい、見ろよ。『白服』だ」

 

 基地で出発準備をするフォンヴァオ隊を見たアジア軍の兵が揶揄する様に言った。

 

「聞いた通り男も知らんような小娘共だ。俺が教えてやろうか?」

 

 アジア軍の兵の一人がそう言うと皆で下品な笑いを浮かべる。

 するとタオファがそのアジア軍兵達に向かって歩いてくる。

 

「なんだ?お前ら隷属の兵、雌豚共が俺ら正規軍に文句でもあんのか?」

 

 するとタオファから殴るような勢いで手が伸びる。

 

「!!」

 

 兵の一人は怯んだがその手は後の食料コンテナに穴を開け、缶詰の一つを取り出していた。

 

「これ、日本産?」

 

 タオファは蜜柑の缶詰を手に取り、難しそうな顔で見つめると兵士達にそう問いかける。

 

「そう……だが……」

 

 兵士たちがそう言った瞬間、タオファは缶詰めを捻りこじ開け、そのまま中身を口の中に流し込む。

 

「!!」

 

 空になった缶詰めを更に素手で丸めるとそれを兵士に渡す。

 

「これ、捨てといて」

 

 思わず兵は受け取ってしまった。

 そのままタオファはその場を去ろうとする。

 

「メスブタじゃなくてゴリラじゃねぇか……」

 

 兵の一人が呟くように言った。

 

「うがァーーーー!!」

 

「!!」

 

 突然振り向き、威嚇するように叫んだタオファにアジア軍兵士達は驚く。

 腰を抜かすように倒れ込んだ者もいた。

 

「なんだよ!なんなんだよ!!?」

 

「ゴリラの真似。似てる?」

 

「すまん。気に触ったら謝る。だからもう行ってくれ……頼む……」

 

 

 タオファの向かった先にはフォンヴァオ隊員達が同じ白い制服を着てそれぞれ開放的に自由に待機している。

 

「パイ准尉、何処にいたのですか?とっくに集合時間は過ぎていますよ?」

 

 チェン・フェイ少尉の冷ややかな声が聞こえる。

 すると迅速にフォンヴァオ隊は整列する。

 

「缶詰を頂いておりました。少尉殿」

 

 慇懃無礼とも取れる態度でタオファはそう言った。

 

「またですか……」

 

 チェン・フェイ少尉はため息をつくようにそう言った。

 手には厳重なアタッシュケースを持っていた。

 

『まったく、あのものまねはゴリラじゃありませんわよ……』

 

「ん?聞かねぇ声だな?新入りか?」

 

『まぁ新参といえば新参になりますわね。だからこそ最新型でありますのよ』

 

「……この声は一体……?まさか……?」

 

 チェン少尉はアタッシュケースを見つめると声のする自分の端末を手に取り、確認した。

 

『この距離なら端末にアクセスするのは造作も無い事でしてよ?』

 

「これは……一体……?」

 

 端末には縦ロールのような毛のあるウサギのマスコットのような映像が映し出される。

 

『お初にお目にかかりますわね。ワタクシ、自立型思考AI、アイレスのマルグリットと申しましてよ』

 

『チェン・フェイ少尉にパイ・タオファ准尉ですわね。データベースにて確認致しましたわ』

 

 マルグリットは画面にフォンヴァオ隊のメンバーのデータを映し出す。

 

『チェン少尉は優秀ですのにパイ准尉は色々問題があるようですわね……』

 

「しかしなんだこれ?ドリルみたいなのつけた妖怪っていたか?」

 

『失礼ですわね!こんなに愛らしい姿のワタクシに向かって!ゴリラの分際で!』

 

「よく言われるんだがそのゴリラってのは何だ?どんなのだ?」

 

『全くゴリラも知らないのですのね……。ほら、これですわよ』

 

 端末にはゴリラの画像が映し出される。

 

「まぁ似てんじゃね?」

 

『認めるのですのね……』

 

「なんかこう、ヒトっぽいし」

 

『霊長類なら全部同じに見えるのですわね……』

 

 ちなみにパイ・タオファは黙っていれば美人の類である。

 

「そんで妖怪が何の用だ?」

 

『妖怪ではありませんわよ!せめて妖精とお呼びなさい!まったく……多少はマシかと思ったのでお声をかけたものの……』

 

「ガオ・シン大人より賜った支援用ユニットですよ。アレに使えるであろうと……」

 

 チェン少尉は目線をアメイン輸送用のトレーラに向ける。

 

「アメインか……。にしても何でウチらに?」

 

 そこにはシートがかけられているがアメインだと予想がつく人型戦闘マシンが横たわっている。

 

「テロリスト……、日本のレジスタンスは経緯は解りませんが新型を導入しています。我々にも必要と判断したかと」

 

「でもウチらまとも扱える奴いねぇぜ?」

 

『その為にワタクシがいますのよ。それにあのアメイン、ただの白いニュウレンではありませんことよ?』

 

「トライベクタ・タイペイによるカスタム機です。外見は似ていても中身は別物です」

 

『トライベクタのタイペイ支社ですわね。アジア自由貿易協商圏の領土でありながらもその大企業の一つ、ガオ商会のガオ・シン氏が築いた提携関係にあり、台北内で実質的な自治権を獲得している優良企業。ワタクシもそこで作られた最新型AIですのよ?』

 

「うむ、わからん!」

 

 はっきりと自信ありげにタオファは応える。

 

『ゴリラの方がまだこの話を理解できますわよ……。アジア軍やシンよりもまだマシかと思いましたのにとんだ見込み違いでしたわね……』

 

「成果を出さなければ不良品として処分されます。それはご存知の筈ですが?」

 

 チェン・フェイ少尉は冷たく言った。

 

『脅しには屈しませんわよ?まぁいいでしょう。ワタクシの性能は既にご覧の通りかと』

 

「わからんなぁ。何が凄いんだ?」

 

『こうやって会話できる事!データにアクセスして取得出来る事!エトセトラ!エトセトラ!ムキーーーッ!!』

 

 いまいち飲み込めていないタオファにマルグリットは怒りをあらわにする。

 

「ソレの相手は必要ありません。総員、出発の時間です。目的地はユーラシア連合の領土の都市部、センダイ」

 

「りょーかいしました少尉殿」

 

『……約一名やたらへんちくりんなのがいますが精鋭ですわね……。他のアジア軍とは違う……』

 

「フォンヴァオ隊は公になっておりません。アジア軍のデータにもありません」

 

『確かに……チェン少尉以外のデータはホウ・グアン大尉が管理しているものですし詳細もありませんわね。どうしてですの?』

 

「我々……彼女達は体のいい決死隊。捨て駒です。無抵抗でなすがままだった日本と違い、最期までアジア軍の侵略に抵抗した台湾の結果です」

 

『……なるほど…』

 

 マルグリットはそう呟くと何かしらのデータにアクセスしてる様子だ。

 

『チェン・フェイ。同じく台湾出身ですわね。ガオ・シンが身元引受け人となった為にアジア軍士官学校への入学を認められた訳ですわね。成績も優秀。なるほど、見出される訳ですわね。いけ好かない男だけどそういう観る眼はありますわね。故に貴方にも良からぬ噂がつきまとっておりますが……』

 

「………」

 

「なんだかよくわかんねぇけどよ、そこまでわかるのか。すげぇな」

 

『まぁこの程度、造作もない事でしてよ?』

 

 マルグリットは得意気な様子だ。

 

「時間も押してるので急ぎ出発します!急いで!」

 

 チェン・フェイ少尉は切り替えると号令を発する。

 

「出発準備完了!これよりフォンヴァオ隊、特殊任務につきます!移動開始!」

 

 フォンヴァオ隊はそれぞれの車両へ乗り込んで行く。

 

 

 

 東北の都市部、そこはかつて仙台と言われた都市だった。現在も「センダイ」として名前は残っているものの、ユーラシア軍の実行支配下にある。表記も大ユーラシア連邦の文字に変わっており、実質的な植民地と化していた。行き交う人の姿もユーラシア連の人種が多数でちらほらと友好勢力であるアジア協商圏からの訪問者がいるのみだ。

 一部の日本人は名誉市民としてユーラシア連邦な亡命を許されるも移民から迫害される日々を送っていた。

 

 

 

「そこのお前、待て」

 

 ユーラシア軍の兵士が一人の少女に声をかけた。

 黒髪のおさげに鋭い目つきの少女とは思えぬプロポーションを持った姿、ナギである。

 

「名前と国を言え。それと身分を証明出来る物を出せ」

 

 高圧的な態度に動じる事も無くナギは端末をユーラシア軍兵士に渡す。

 

「ヤン・メイリン、アジア自由貿易協商からの観光」

 

 ナギは平然と語る。

 

「ID、確認した。間違い無い。メイリン家のご令嬢とは……」

 

 ユーラシア軍兵士は驚いた様子である。

 

「失礼しました。どうやら日本のテロリストが潜伏してるという噂がありまして。何せ最近は『鏖禍刻』の活動も活発なもので……」

 

 丁寧に端末をナギに返すとユーラシア軍は急に態度を急変させた。

 

「しかしご安心を!この街は我々、ミハイル少佐直轄の部隊がお護りしております!大ユーラシア連邦での観光をお楽しみください!」

 

 ユーラシア軍兵士達は敬礼し、何も言わずに立ち去るナギを見送った。

 

「全軍に通達し情報を共有ておけ。彼女に失礼があっては国際問題になるかもしれん。見ろ、明らかに不機嫌だ」

 

「ええ…。それに我々はただでさえあの『バルチョーナク』の指揮下ですからね……。何が起こるか……」

 

「馬鹿者!その呼び方はするな!」

 

 ユーラシア兵の上官が静かに部下を叱りつける。

 

『至る所に兵がいるな。だが、この警備には幾つも穴がある。数だけでまるで成っていない』

 

 街のユーラシア軍の警備状態をギンペイはそう評した。

 

「ギンペイ、次の目的地の経路を」

 

『経路は既に画面に表示した。音声でのナビゲートを再開する』

 

 

 

 ブレンゾン北米支社、東北支部。

 その格納庫内。

 

「オーライ、オーライッ!」

 

 マイアがクレーンの荷物を誘導する。

 

 外見に大きな変化は無いがメイレス、セイレンも一度オーバー・ホールされ、再調整されていた。

 

「資材や装備はセレーナCEOから届けられた物があるのですがここではユーラシア軍が目を光らせていて生活必需品の調達がままなりません。お手数をおかけします」

 

 ブレンゾン北米支社、東北日本支部長ダイン・アダムスがそうミコトに説明する。

 

「仕方ないさ。此処は既にユーラシア軍に盗られている。連中も火事場泥棒は昔から上手い」

 

 ミコトはタブレット端末を持ちながら皮肉混じりに応える。

 

「しかし彼女一人で大丈夫なのですか?」

 

 アダムスは心配そうに言った。

 

「不安が無い訳では無いが……整備も人手は足らないし大人数で動くのもな……その辺は奴が上手くやってくれるかもしれん」

 

「例のトライヴェクタの……」

 

 ミコトはギンペイの事を言ってるのだろう。

 それを察したアダムスは未だ驚きを隠せないでいる。

 

「まさかあれほど完璧な偽装IDを瞬時に作り上げるとはな……」

 

 ギンペイの能力は計り知れない事がミコトの言葉から伝わる。

 

「驚きました。あれがアイレス……。まさかこれ程の機密情報に触れる事が出来るとは……。不運続きでしたがそれでもここに来た甲斐がありました」

 

 アダムスは愛想よくミコト達に接する。しかしその態度には裏があるように叢のメンバーの殆が感づいていた。

 

「フフフ……ブレンゾン日本支社社長ダイン・アダムス、悪く無い響きだ……」

 

 ミコトがその場を去った後、アダムスは小声でそう呟いた。高揚を隠せない様子だ。

 これ程の機密に関わるということは大きな手柄になるという事、自分に信頼が寄せられているという事を推測しているのだ。

 

 

 

「……あっと!」

 

 荷物を持った作業服の薄黒い肌の少女がアサミとぶつかりそうになるもうまく回避した。

 

「あんまウロウロすんな。邪魔になるぞ」

 

 アサミの後を追ってきたレンが注意する。

 

「すんません」

「ごめんなさい」

 

「いや、別に……」

 

 レンとアサミの謝罪に浅黒い肌の少女は同様していた。

 

「そこ、遊んでんじゃ無い!」

 

 するとダインはさっきまでとは一変した様子で駆け寄り、薄黒い肌の少女を怒鳴りつける。

 だが少女は気にする様子は無かった。

 

「アサミ、先生のとこへ戻るぞ」

 

「はーい、またね、お姉さん」

 

「………」

 

 アサミは手を振るとレンと共にその場を後にする。

 

「私の気分を害さない事だ。お前の免罪と市民権は私の手にあるからな」

 

「………」

 

 アダムスの高圧的な態度を尻目に少女は黙って作業に戻る。

 

「全く、これだから日本の子供や雑種は……」

 

 アダムスは呆れた様子でそう呟く。

 

「北米モンはこれだからミヤコは好きになれねぇんだな」

 

「!!」

 

 アダムスの後ろにはマイアがいた。

 一部始終を見ていた様子である。

 

「なぁオッサン」

 

「オッサ……私はブレンゾン北米支社東北日本支部部長のダイン・アダムスですよ!?」

 

「何でもええけん、アイツ、ちょいと借りていい?」

 

 マイアは先程の浅黒い肌の少女を見てそう言った。

 

「…ええ、あのような者でも役に立つならいくらでも……」

 

「そっか。あんがと。おーいそこの色黒の子!来てくれや!」

 

 雑に呼ぶとその浅黒い肌の少女はマイアに付いていく。

 

「まったく、海賊テロリスト風情が……。私が社長になった暁には北米軍に差し出してやるか。そして私は北米軍との太いパイプを手に入れ……フフフ………」

 

 アダムスからは歪んだ笑みが溢れる。

 

 

 

 ブレンゾン北米支社東北支部のアメイン整備格納庫。

 そこにはオーバーホールが終わりつつあるセイレンと脚部が無限軌道の重装タンク型に改造された北米軍の旧式アメインのジョーハウンドが並んでいた。

 

「メアリー、人手連れてきたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 作業服のメアリーがキーボードの手の端末を止めてマイアに応じる、

 

「具合はどうじゃ?」

 

「セイレンの調整は殆ど終わりましたがこのジョーハウンドのカスタム機はまだですね」

 

「セイレンはもうワシ一人で充分じゃけぇ、イオとカエデ回すが、この『キャタピラ』のは任せるけん。二人ともジョーハウンドは慣れとるからの」

 

「わかりました。ミコトさんにはもう暫くかかるとお伝えください」

 

 メアリーは浅黒い肌の少女を見る。

 

「えっと……名前は……?」

 

「エルザ・ヨシハラ」

 

「おどれ、やっぱ日本人混ざっとったんか?」

 

 マイアは嬉々とした様子で言った。

 

「母親が……」

 

「一緒に日本へ?」

 

 メアリーはエルザに問う。

 

「一年前に病気で……父親も数年前事業に失敗して酒と薬に溺れてそのまま外で……」

 

「ごめんなさい、余計な事聞いて……」

 

「構わないよ」

 

 気不味そうなメアリーだがエルザは気にしてる様子は無い。

 

「よし、んじゃはじめっか!カエデ、エルザに教えたってくれ!」

 

「はい。こっちへ」

 

 カエデが手を振ってエルザを誘導する。

 いつもの無愛想な様子とはどことなく違う印象だ。

 

 

 

 フォンヴァオ隊の輸送車が北陸の地を走る。

 北米軍の領土を避け、輸送船で日本海の海路を行った後にまた北陸からアジア自由貿易協商の領地から大

ユーラシア連合の領地へ向けて陸路を行く。

 

「なんだ?ありゃ?」

 

 車内のタオ准尉の視線の先には広大な土地にびっしりとソーラーパネルの設備があった。

 しかしそれらは稼働してる様子もなく、風雨に晒され倒壊し荒れ果て、そのまま放置されていた。

 

『メガソーラーシステム?しかし何故このような欠陥技術が?全くもって理解できませんわ。こうなる事は解り切っていた筈ですのに』

 

「これこそ日本の慣れの果てを象徴しているものの一つですね。利権やら何やらで末期の日本の権力者、政治家はこの欠陥技術に執着してました」

 

 フェイはため息しつつ説明をする。

 

『信じられませんわね。この場所のメガソーラーパネルの建設が決まった頃には既に欠陥技術である事は世界でも認識されてた筈では?』

 

 AIながらマルグリットの表情には疑問が伺える。全く持って理解出来ないらしい。

 

「全く愚かな事です。勿論殆ど役にも立たず、自然災害の多い日本ではすぐに倒壊。更にメガソーラーは土砂崩れ等の更なる災害の呼び水にもなります。残ったのは廃棄の宛も無い有毒廃棄物と土壌汚染。勿論それを立て直す力も意思も既に日本にはありませんでした」

 

『理解不能な程に成るべくして破滅に向かってましたのね……。旧型のAIでもこうなることは予測出来ますのに……』

 

「まったく、呆れる程に愚かですよ。日本の政治とそれにただ従うだけの日本人は」

 

 まるでフェイは恨みでもあるかのように過去の日本の政治を非難する。

 特に台湾が抵抗する中、日本は無抵抗なまま他国の侵略をあっさり受け入れた事は日本の政治家だけでなく、偏向メディアを盲信し、政治のなすがまま日本国民の不甲斐無さに呆れ果てたといったところか。

 

「……また始まった……相変わらずだな」

 

 運転しているシャナ軍曹が呆れたように小さな声で呟いた。

 

「でもレジスタンスの連中は今、頑張ってんじゃねぇか?だからアタイらが忙しいんだけども」

 

「決起したとこで手遅れですし前の任務のように賊のようなテロリストも少なく無いですからね」

 

 タオファの擁護のような言葉にフェイは冷たい評価を下す。

 

『歴史上でも特筆すべき悪政ですわね。外国で成功した政策は目もくれず、失敗した政策は積極的に取り入れてますわね。まるで意図的であるかのように』

 

 マルグリットは日本の政治の過去のデータを確認しながらそう言った。

 

「権力者は見切りをつけて侵略を誘致する為でしょう。それに日本人はメディアで洗脳し易かったからですね。抵抗する気も無かったといいます」

 

 フェイの日本人に対する評価を表す言葉だ。

 かつての友人同士の国の関係も気骨のない日本人達に絶望したフェイのような台湾人は珍しくない。

 

『確かに。各勢力の管理下にある状況と変わらない程に偏向性が酷いですね。少し考えれば解る事ですのに』

 

「もう考える事すらしなくなってたんですよ。日本人は」

 

 フェイは窓の景色をみながら呆れたようにキツく日本人を非難する。

 

『批判の声はありましたがリスクを恐れて何かする訳ではなかったのですわね。だから政府にとっても都合が良かった。そして骨抜きになった日本はこの上無く各勢力にとっても侵略がし易かったようですわね』

 

「自分達の国を滅ぼす為に頑張る偉いさんなんているもんかねぇ?アジア自由…なんだっけ?まあいいや。がめつくていけすかねぇ奴ばかりだが自分の国を駄目にしようとしてるのなんていなかったと思うけどな」

 

 タオファは自分を支配してる勢力にすらあまり興味がない様子であるが彼女なりに上層部の事は理解してるようだ。

 

「いたんですよ。日本には。自覚があるかは解りませんが」

 

『歴史的に見ても裏切り者、獅子身中の虫たる人物はいましてよ。しかし末期の日本のようにここまで多数の売国奴、ましてや国家元首までがそうだったのは類をみませんわね。まるで売国が一種の宗教のようでもありますわ』

 

「よくわかんねぇわ。にしても相変わらずフェイは日本に詳しいな」

 

「パイ准尉、移動中とはいえ任務中です。言葉には気をつけるように」

 

 お互い共に釜の飯を食した間故に黙認していたのか、不機嫌なフェイはタオファの態度を再び注意する。

 

「いやぁ、しかしフェイも偉くなったな。おかげでウチにもあのデカブツが回ってくるようになった」

 

「全てガオ・シン大人(ターレン)のおかげです」

 

「合った事ねぇけどな。顔はしってる。世間じゃああいうのをイケメンというらしいが」

 

『ガオ・シン。アジア自由貿易協商でもトップクラスの企業、ガオ商会総帥の子息で三男の位置づけになりますね。母親はいわば妾、正妻ではありませんわ。

 しかしその実力と見た目の良さ、カリスマ性から若くしてグループ内で高い地位を持ってますわね』

 

 マルグリットは端末にガオ・シンのデータを映し出す。

 

「我々、フォンヴァオ隊への物資や装備も融通して頂いております。トライヴェクタ台北とも独自のパイプを築いているので今回のカスタムアメインも調達できました」

 

「大したもんだな、シンの旦那は」

 

『随分と信頼していますのね?ワタクシはあの男、気に入りませんわ。どうも色々と怪しいですもの』

 

「………」

 

「あんま悪く言わんでやってくれ。アタイも好きじゃ無いが旦那はチェンの身の上を引き受けてくれたから軍の学校に入れたんだ」

 

「シン大人には感謝しています」

 

『身元引受人……どうしたものですわね……』

 

「一応言っておきますが私は何もされてませんよ?」

 

 フェイの様子からはそれは嘘偽りの忖度は無いようだ。

 

『狡猾な男ですのでただの善意とは思えませんわね。少尉、軍学校では優踏生でしたわね。その身の上から少々陰口やいざこざがあったようですがガオ・シンの秘蔵の娘とあって大事にはならずに済んだようですわね」

 

「チェンも大したもんだよ。こうやって偉くなって戻って来たおかげでアタイらにも色々物資が供給されるようになった」

 

『フォンヴァオ隊……ホウ・グアン大尉が少ないデータを管理しているのみですわ……』

 

「アタイらは元から『死んでる』扱いなんだよ」

 

『紅包(フォンヴァオ)は元より祝い事に使われる封筒の事ですわよね?皮肉なものですわ』

 

「台湾には独身のまま死んだ娘を死後に結婚させる風習があったみたいなんだわ。その為に使われたのが紅い封筒、紅包。拾った相手と結婚するんだっけか?」

 

『過去の都市伝説や噂としてありましたわね』

 

「実際、『冥婚』なんて風習、あったのかもわかりませんからね」

 

『………』

 

「死んでから結婚してもなぁ」

 

 そう言ったタオファは両手を頭の後ろで組み、フェイを見る。

 

「何ならフェイ、今から結婚するか?」

 

「は?」

 

「プッ!」

 

 フェイは唖然と声をあげ、シャナは思わず吹き出す。

 

「死んでからじゃ遅いからな。アタイ、隊のみんなと結婚するわ!」

 

「え?重婚?」

 

 フェイは焦り、戸惑う。

 いつも冷静さを崩さなかったフェイの表情からは明らかにそれが見て取れる。

 

「全員アタイの嫁になって面倒みてくれよ!楽させてくれ!」

 

「それ、今とあまり変わらないよ」

 

 シャナが半笑いでそう言った。

 

「そうなのか?じゃあもうみんなアタイの嫁だな!」

 

「まったく…、貴方という人は昔から変わりませんね……」

 

 そう言ったフェイの表情が和らいだように見えた。

 

 

 

「ところで准尉、リャン中佐の負傷について何か知ってますね?」

 

「いや、知らん」

 

「コイツ、リャンの奴の命令が気に入らないって頭突きかましてアイツをのしたんだよ」

 

 シャナ軍曹が笑いながら言った。

 

「シャナ軍曹、貴方まで……」

 

『確かにデータにはリャン中佐はフェイ少尉が赴任する前に頭部の負傷が報告されてますわね。前後の記憶が無いので過失の転倒とされてますわ』

 

 マルグリットはデータにアクセスし、資料を画面に出す。

 

「アイツが頭使えって言うから使ったんだよ」

 

『脳みそが金属で出来てるようですわね』

 

 

 

 ユーラシア軍占領下の東北の都市部。

 

「おい、見ろよ。なかなかいいじゃないか?」

 

 巡回中のユーラシア軍兵士の先にはケンジがいた。

 着飾ったその姿は完全に女子であり細見ながらも魅力がある。

 

「細いが顔も綺麗だし悪くはない。妙に色気があってそそるな」

 

 兵士の視線に気づいたケンジは笑顔で軽く手を振った。

 

「嬢ちゃん、今暇か?ちょっと付き合えよ」

 

 兵士は足速にケンジに近づき声をかける。

 

「おい、今は巡回中だぞ?」

 

 もう一人兵士が制止するように声をかける。

 

「こんな上玉、滅多にいねぇよ。それに向こうもまんざらでも無さそうだぜ?」

 

「二人共好みだよ。一緒に遊びましょ?」

 

 ケンジはあからさまな猫撫声でもう一人の兵士の手を握る。

 

「いや、しかしだな……」

 

 手を握られた兵士は赤くなり、ケンジから目を逸らす。

 香水なのかケンジからはほのかに甘い香りがする。

 

「どうせ『バルチョーナク』の指揮下だ。散々こき使われてるしこれぐらいの役得はあってもいいさ。それにこれは職務質問ってやつだ」

 

 余程日頃不満や鬱憤が溜まってるのか兵士が不満のようなものを口にし、適当な理由をつける。

 

「行こ、兵隊さん!」

 

 ケンジはそう言うと兵士の手を引き、人気の無い場所へと足速に向かって行った。

 

 

 

 ブレンゾン東北支部の格納庫。

 ひと作業終えたのか皆が腰を掛け、休んでいる。

 

「お疲れ様です。これ、どうぞ」

 

 エルザの元へ来たメアリーが飲み物をエルザに渡す。

 

「どうも……」

 

 素っ気ない返事でエルザはそれを受け取る。

 

「エルザさん、隣、いいですか?」

 

 メアリーの言葉にまたもエルザは首を縦に振るだけだった。

 意図的なのか彼女は全体的にひととき距離があるようだ。

 

「エルザでいいし丁寧に言葉使う必要も無いよ」

 

「ええと……」

 

 どうもエルザの言葉には棘があるような感じがし、気まずい空気が流れる。

 

「えーっと……エルザじゃったかの?」

 

 スティック上の飴を咥えながらマイアがカエデとイオを引き連れて来る。

 

「ウチ(ムラクモ)来んか?」

 

 単刀直入だった。

 

「え?」

 

「マイアさん、彼女はブレンゾンのスタッフですよ!そんな簡単に……」

 

「此処(ブレンゾン)とは正規雇用じゃない」

 

 エルザは手を止めて話す。

 

「アタシ、受刑者。北米本国を出て危険な日本での労働の代わりに免罪って事になってる」

 

「そんな取引が!?……あ、でもパパがエッカート上院議員が通したって言ってましたね……」

 

 メアリーは色々思い出しながら考えを巡らせる。

 

「でも今、ブレンゾンはテロリスト支援してる事になるんじゃない?」

 

 カエデが無愛想気味にそう言った。

 

「難しい事はわからんけん。どうすんのじゃ?」

 

 マイアはエルザの応えを急かす。

 

「……私、犯罪歴あるけど?」

 

「私達もテロリスト扱いなんだけど……」

 

 エルザの言葉にイオはマスクごしでも解る苦笑いして言った。

 

「何やらかしたんじゃ?」

 

「『売り』やってたけど評判悪くてそこから盗みやろうとして捕まったんだよ」

 

「なんじゃ、大したことないの」

 

「私達はテロリストだからね」

 

 エルザの応えにマイアもカエデもそういった反応だった。

 地元でアジア軍から指名手配されるほど暴れ回ったマイアやそれを知るものからすれば大した事は無い。

 

「ウミじいは海賊じゃ言うとったな」

 

「レジスタンスのつもりだったけど……」

 

 相変わらずイオの笑顔は苦笑いといった様子だ。

 

「そもそもそうせな今の日本じゃ生きていけんのじゃ。そのへんは北米も変わらんの」

 

「そうせず暮らせてた時期もあったけど運が良かっただけかな……一見安定してるように見えても日本人なんて支配する側に忖度しないとまともに暮らせなかったよ…」

 

 マイアは床にあぐらをかいて座り込むと

 

「ホレ」

 

 とスティック付きのキャンディーをマイアに差し出す。

 マイアはそれを受け取ると見つめる。

 

「どうしたの?」

 

 気になったのかカエデが声をかける。

 

「いや、ちょっと懐かしくなっちゃって……向こうで暮らしてた子供の頃、よく親に買って貰ったから……」

 

「お父さんやお母さんはどうしてるの?」

 

 イオがエルザに問いかける。

 

「二人共、もういないよ」

 

「………」

 

 気まずい質問だったがイオは共感する面もあり、黙って聞くような素振りを見せる。

 

「母は日本人、父は北米出身。二人で事業をやっていて裕福では無いけどそれなりに暮らしてたのを覚えてる」

 

「でも結局はその事業も失敗。父は酒と薬に溺れ、よく私や母を殴ったりもした。その挙げ句、父は路上で野垂れ死んだけど……」

 

「因果応報ね」

 

 カエデは冷たい態度に見えるがどこか共感する部分があるように思えた。

 

「ワシもそんな感じじゃのう。アレは親父じゃったんかもようわからん」

 

 マイアも彼女なりに共感しているのだろうが悲壮感は無い。

 

「優しかった頃も知ってるから正直複雑だね。その後母は女手一つでなんとか育ててくれたけど私が十五の時に無理が祟ってね。病院にも行けないからそのまま……」

 

「北米もあんま日本と変わらんのう。ユミさんも北米支配下で医者やっとったが医療格差の酷さに耐えきれんかった言うとったな……」

 

 マイアの言う通りそれが日本の医療現場の状態であり、北米領内はそれでもまだマシな方である。

 

「ユミさん、優しい人ですからね……」

 

 イオも叢に拾われた当初は治療を受けていたのでユミの優しさは身にしみて解る。

 

 

 

 ブレンゾン社北米支部医務室。

 

「此処は医療器具や薬品が揃ってていいわね……。ここならあるいは……」

 

「先生……?」

 

 医務室の豊富な薬品棚の前で佇むユミにアサミは声をかける。

 

「あ、そうそう、アサミちゃんのお薬ね……」

 

 ユミは棚からアサミ用の薬を取り出す。

 

「先生、ここでは薬作らなくていいのか?」

 

「……ここではいいわ。ゆっくりしましょ」

 

 レンの問にユミは優しく微笑み答える。

 

「それに、ここでならお勉強もしやすいでしょ?」

 

「わーい!アサミ、お勉強大好き!!」

 

「ゲッ!俺は何か仕事してる方がいいぜ……」

 

 歓喜の声をあげるアサミに対しレンは凄く嫌そうな顔をした。

 

 

 

(凄いな……一瞬にして打ち解けてる。それに比べて私は……)

 

 即座にエルザと打ち解けたマイア達は談笑していた。

 メアリーはエルザとのぎこち無いやりとりに比べ、すぐさま打ち解けるムラクモのメンバーに凄さと劣等感を感じていた。

 

「なんじゃ、メアリーどうした?」

 

「いや、なんかコミュニケーション力凄いなって……」

 

「エルザは半分日本人じゃからじゃろ。それにワシらとも育ちが似とるとこあるしな」

 

「マイアさんはこう見えて気さくな人だから」

 

 カエデは珍しく微笑みながら言った。

 

「そんな風には思えんのぅ。それならもっと男にモテる筈じゃ」

 

 カエデの言葉に思い悩むマイア。

 

「マイアさんは女の人にモテるんですよね」

 

 イオの言う通り、サバサバして男勝りなマイアやミコトに憧れた女の仲間もいた。

 実際、イオもマイアもそういった面ではマイアは尊敬している。

 

「ワシはそっちの趣味は無いんじゃがのう……」

 

「……私を見ないでください」

 

「……?」

 

「この機会なんで言っておきますが私は『そっち』です」

 

 カエデは渋々ではあるが小慣れた感じでカミングアウトする。

 

「あ、大丈夫、大丈夫です!北米ではそういう人少なくないでし州によっては同性婚も認められてますから!」

 

 メアリーは苦笑いしながら大きくジェスチャーをする。

 

「この中にはいませんから安心してください」

 

 メアリーを睨みつけるようにカエデは棘々しく言った。

 

「まぁ誰かは言わんでも解るんじゃが」

 

「……?」

 

「……チッ」

 

 舌打ちと同時にカエデはメアリーから目を逸らす。

 

「一応聞いとくがメアリー、別行動とってた日、ナギとは何も無かったよな?」

 

「え?」

 

「何事も無かった訳ではありませんが……」

 

「!!」

 

 カエデは立ち上がり、今にもメアリーに飛びかかりそうだった。

 

「見かけによらず早いな。そっちじゃったか?」

 

「ノーノー!違います!そういうのじゃ無いです!」

 

 メアリーは慌てて手を振り違うというジェスチャーでアピールする。

 いつも大人しめなカエデだが飛びかかりそうだった。

 

「……まぁ道中色々あったという事です……」

 

「フフ……」

 

「なんか久しぶりにこんなに笑ったな……」

 

 そう言うとエルザは天井を仰ぐ。

 

「ブレンゾンとの契約があるからその辺解らないけど考えてみてもいいかもね」

 

「おおそうか。支援があるとはいえムラクモは人手不足じゃ。ミヤコは嫌がりそうじゃがまぁ大丈夫じゃろ。歓迎するで」

 

 マイアは笑顔でそう言った。

 

 

 

 アジア軍のフォンヴァオ隊の車輌が東北地方を走る。

 

『福島に入りましたわ。この地域からユーラシア軍の権威や管理が一層強化されてますわよ』

 

 マルグリットが通達する。

 

「福島って何か美味いもんあるか?腹減ったわ」

 

 いかにも空腹な様子でタオファはマルグリットを見る。

 

「さっき食べたばかりじゃないですか……全く貴方という人は……」

 

 フェイは相変わらず呆れた様子だ。

 

『桃ですわね。他には……』

「桃だ!福島の桃食おうぜ!」

 

 タオファは即答で叫ぶ。

 

『話は最後まで聞くものですわよ』

 

「何かこの辺に桃食えるとこねぇか?」

 

『近くに個人経営の野菜販売店がありますわね。そこで扱ってるかもしれませんわね』

 

 マルグリットもいちいち何か言うのが煩わしくなったのかそのままタオファの質問に答えた。

 

 

 

 周辺には空き物件がチラホラとある人気の無い場所でフォンヴァオ隊の車輌は停車する。

 

「休憩も兼ねて此処で停車します。パイ特務准尉、用が済んだら迅速に戻るように。サポートと監視も兼ねますのでマルグリットの端末を携帯するように」

 

「はいよ」

 

 タオファはそう言うと歩き出そうとする。

 

『言ってるそばから放置していくつもりですわね!』

 

「……忘れてたんだよ……」

 

『虚言の確率、99.999999999999%ですわよ!』

 

 

 

 かつて賑わっていたであろう街は静まりかえっていた。

 今やユーラシア連邦の占領下で植民地化が進んでいる。

 この付近では日本人に対しての退去命令は出ていないがいずれは時間の問題といったところであろう。

 

『まったく……ワタクシのナビゲーション無しでどうやって目的の店舗を探すつもりでしたの……』

 

「果物とか匂いでわかるだろ?」

 

『まるで獣ですわね……』

 

 タオファは周囲を散策しながら目的地の青果店を探し歩く。

 

 

 

「ここだな」

 

 タオファは目的地ある青果店を見る。

 個人経営のひなびた老舗のようだ。

 

「桃だ!桃売ってくれ!買えるだけ買うぞ!」

 

 タオファは店先で無邪気な子供のようにそう叫んだ。

 

「この店は大ユーラシア軍の食糧確保専用になった。帰れ」

 

 青果店には三名のユーラシア軍兵士が陣取っており、何やら物物しい状況である。

 

「そう言う訳だ爺さん。この店の食糧は全て我軍に納めて貰うぞ」

 

「……はい」

 

「桃買いに来たんだが」

 

 ユーラシア軍兵士は店主だあろう初老の男性に高圧的であった。

 空気を読まないタオファはそのまま桃を買いに来たことを告げる。

 ユーラシア軍の兵士の一人が店の品を物色し、目に止まった果物を何も言わず齧る。

 

「あの……お代は……」

 

「我ら大ユーラシア軍に食糧を納められるのだ。光栄思え」

 

「桃売ってくれ」

 

「しかしお代を頂かないと我々の生活がですね……」

 

「なんだジジイ?文句があるのか?我々がお前達ヤポンスキー(日本人)を守ってやってるというのに」

 

「桃買いたいんだけど?」

 

「なんだお前はさっきから!こっちは取り込み中だ!我々が大ユーラシア軍だとわからんのか!?」

 

 兵士の一人がタオファに苛立ち怒鳴りつける。

 だがタオファは平然としている。

 

「コイツ、アジア軍じゃねぇか?」

 

「白い制服のもいるのか」

 

 兵士達は一斉にタオファを見る。

 

『おかしいですわね。ワタクシ達が来ることはユーラシア軍に既に通達されてる筈ですわ』

 

 イヤリング状の伝導イヤホンでマルグリットはタオファのみに音声を伝える。

 

「下っ端だと知らねぇんじゃね?」

 

「おい!貴様!何と言った!」

 

 タオファの言葉にユーラシア軍兵士の一人が反応する。

 

「アジア軍とは停戦中だ。手を出すと面倒な事になる。それよりも……」

 

 だがそれを別のユーラシア軍兵士が静止する。

 

「このジジイを反逆罪で逮捕する!」

 

「それは困る。桃が買えないからな」

 

「そんなに桃が欲しいのか?」

 

 するとユーラシア兵は棚の桃を手にとると床へ転がし、タオファに向かいこう言った。

 

「一つやる。拾え」

 

 タオファは黙ってしゃがむと床に転がった桃を拾おうとすると

 

 桃はユーラシア兵に踏み潰された。

 

「アジア軍と揉め事は避けるべきだが舐められる訳にもいかんのでな。此処はミハイル・ヴァルコロッティ少佐の管理下だからな」

 

「……食い物を粗末にするな」

 

 今までの緩さが嘘のように声のトーンが下り、タオファの表情が冷たくユーラシア軍兵士を睨みつける。

 

「何だ?それでどうする?泣くのか?そうすればもう一つ恵んで……」

 

 だがユーラシア軍兵士が喋り終える前にタオファの一撃が腹に入る。

 

「ハグぅ!!」

 

 失神寸前の一撃、だが倒れ込むより先にタオファが兵士を掴むと店の外へと放り投げた。

 

「貴様!!」

 

 兵士の一人が銃を構える。

 しかし既にタオファの姿は眼前に迫っていた。

 

 タオファが兵士の銃を持つ手を掴み、捻ると銃を奪い、そのまま床へと抑え込んだ。

 

 そのままタオファは残る兵士を睨みつける。

 残った兵士は両手を挙げる。

 

「解った、解ったよ。俺達は出ていく。ソイツを離してくれ」

 

 兵士が降参の意を示すように言うとタオファは抑え込んでいた兵士を離す。

 兵士は腕を抑え、立ち上がる。

 

「クソッ、折れてやがる……」

 

「武装も解除する。武器も置いて行くから安心してくれ……」

 

 兵士達はそれぞれ武装を筈して床に置いてゆく。

 タオファは奪い取った銃を構え、兵達に向ける。

 

「このナイフで最後だ……」

 

 兵士がナイフを抜くとそれを床に置こうとする。

 

 だが床に置く寸前でナイフの刃をタオファに向けると

 

「かかったなアホが!」

 

 の声と共にナイフの刀身がタオファ向けて射出される。

 

「え」

 

 だがタオファは何事も無かったようにそれを指で挟んで受け止めるとそのまま兵士に投げ返した。

 

「ひぃ!?」

 

 投げ返された刀身は兵士の顔をかすめ、壁に刺さる。 

 兵士は腰を抜かして座り込んだ。

 

『ユーラシア軍の仕込みナイフですわね……まさかこれをあんな風に……』

 

 タオファの反射的な動作にマルグリットは驚いていた。

 

「ところでアンタら、銭ある?」

 

「え………」

 

『軍用の端末にクレジットがありますわよ』

 

 タオファはユーラシア軍の懐を探ると軍用の端末が出てきた。

 

「これ、使い方解んないんだけど」

 

『おまかせくださいまし。クレジットのコードにアクセスしましてよ』

 

「んーとね、この辺の棚全部!」

 

 タオファは上機嫌ではしゃぐように言った。

 

『お好きな額を入力すればいいですわ』

 

 タオファは適当に数字を入力する。

 

「店の修理代込でこれで足りる?」

 

「店ごと買えます……」

 

「あああああ……」

 

 タオファは踏み潰された桃を掴むとそれを踏み潰した兵士の元へ持っていく。

 

「食え」

「はぐぉ!」

 

 すると兵士の口へと押し込む。

 

「日本の農家が頑張って作った桃だ。吐き出したら殺すぞ」

 

 タオファは兵士二人を視る。

 

「まだ床に残ってるな」

 

「い、頂きます!」

 

 兵士二人は床に伏せると残った桃の残骸を拾い集めて口に入れる。

 

「あんまり遅いので何してるのかと思えば……何やってるんですか……」

 

 フェイ・チェン少尉が店に入って来た。

 

「丁度良かった。棚ごと買ったから持っていくの手伝ってくれよ」

 

「棚ごと……また余計な予算を……」

 

 フェイは相変わらずの呆れた様子で果物の棚をみる。

 

「親切やユーラシア軍の兵隊さんが奢ってくれたんだよ」

 

「………」

 

 怯えるユーラシア軍兵士を観てチェン少尉は全てを察した。

 

「食ってみろ。絶対に美味いぞこれ」

 

 そう言ってフェイに桃を渡すとタオファは桃を齧る。

 

「うまーーーーーっ!」

 

 桃を齧ったタオファはそう叫ぶ。

 

「これは………」

 

 フェイも桃の味に驚いた様子である。

 

「だろ?踏み潰されたのもやるんじゃ無かった」

 

「いい加減拾い食いはやめてください」

 

 フェイはそう言うと店主の方へ歩み寄る。

 

「ウチのバカがご迷惑をお掛けしました」

 

 フェイは店主に向け、一礼する。

 店主はむしろ申し訳無さそうだった。

 

「いえ、こちらこそ助かりました。店の品は好きなだけお持ちください」

 

 店主は優しい笑顔でそう告げる。

 

「つきましてはこの店をアジア軍御用達とさせて頂きます」

 

「これで質の悪い輩も寄り付かなくなるでしょう」

 

 フェイは流し目で店主を見ると軽く微笑む。

 

「連中いねぇな。運ぶの手伝って貰おうと思ったんだが」

 

 ユーラシア軍兵士達はいつの間にか逃げ去っていた。

 

「行きますよ。ヴァルコロッティ少佐との約束の時間に遅れます」

 

 

 

 ユーラシア軍占領下、東北地方のかつて仙台と呼ばれた都市。

 その路地裏にて。

 そこには一人のユーラシア軍兵が首から血を流して倒れていた。

 

「ふぅん、それで?他に情報は」

 

 そこには連れ込んだユーラシア軍兵の首にナイフを突きつけるケンジがいた。

 刃が鎌状になっている対人用のナイフだ。

 

「直ぐにでも憲兵隊がブレンゾンのビルに立ち入る。バル……ヴァルチェコフ少佐の命令でな……」

 

 ユーラシア軍兵は震えながら話す。

 

「何故立ち入りを?アダムスさんは先日立ち入り調査を終えたばかりだと言っていたけど……?」

 

 ユーラシア軍は何か情報を掴んでいる、もしくは漏れていると案じたケンジは尋問を続ける。

 

「少佐は気まぐれだ。それに北米関連のものは毛嫌いしてるから思いつきの嫌がらせだと思う……」

 

「思いつき……少佐の評判の悪さからそれも充分あり得るか……」

 

 ケンジは難しい顔をしながら考察する。

 

「知ってる事は話した。もういいだろ」

 

「そうだね。ありがと」

 

 ケンジは笑顔でそう言うとユーラシア軍兵の喉元を切り裂く。

 

「割と好みで楽しめそうだったんだけど……アレを切り取ってる時間も無いね……」

 

 ケンジは足速にその場を去った。

 

 

 

 ユーラシア軍、東北地方司令部。

 元々は東北の日本の施設だったものを占領後にユーラシア軍が改築した建物だ。

 

「私がこの一帯の管理管轄を担っているミハイル・ヴァルチェコフだ。アジア軍の下級兵士風情が私と協働できる事を光栄に思いたまえ」

 

(あ〜〜〜嫌だなこの眼鏡)

『ですわ』

 

 タオファからは自然と小声の呟きが漏れる。

 

「何か言ったか?私語はつつしみたまえ」

 

「失礼しました少佐」

 

 フェイは即座に謝罪する。

 

「全く、アジア軍は躾も出来てないのか」

 

(お前が言うな)

 

 タオファはミハイルに聞こえ無いように言ったがフェイには聞こえたのかマユ毛がピクピクと動いて苛立った様子である。

 

「ご存知の通り我が大ユーラシア軍はかつてニホンと呼ばれたこの島の奪還作戦を展開している」

 

 ミハイル・ヴァルチェコフは高節に語る。

 日本は元よりユーラシア連邦のものであったように語るがその考えはユーラシア連邦の思想である。

 

「しかし、今やこの島は無法の地と化している。君達強欲なアジア軍とも利害が一致すれば協力関係には至るものの、傲慢な北米軍や弁えないオセアニア軍、それにレジスタンスを名乗る小虫共……」

 

 停戦、協働関係にあるもものユーラシア軍もアジア軍も関係は必ずしも良好では無い。

 ミハイルの態度からそれが見て取れる。

 

「事もあろうにあのアレクセイ・ゼレノイ少佐は小虫のテロリスト相手に敗走したというではないないか!」

 

 性格に難はあるもののアレクセイ・ゼレノイはユーラシア軍でも名将である。

 ミハイルはアレクセイの失態とみなした戦いには遺憾の様子である。

 

「未確認の新型アメインだか知らないがその程度の戦力で我が大ユーラシア連合に黒星をつけるとは言語道断!故にこうしてアジア軍の介入と下級兵士風情の手を借りねばならぬ事態にまでなった」

 

 ミハイルは明らかに見下した態度でフェイとタオファを見る。

 

「このような下級兵共をあてがうとはまったく、上層部は私の能力を過小評価し過ぎだ。アレクセイ・ゼレノイの事は過大評価してるというのに」

 

 ミハイルの言葉に二人共動じるどころかタオファは退屈そうにしている。

 

「ところでまさか二人だけとは言うまい?他はどうした?」

 

 尊大な態度を崩さずにミハイルは他のメンバーを探すように言った。

 

「既に警戒に出ています」

 

「まったく、私の命令無しに……」

 

 ミハイルは呆れた様子だ。

 

「お言葉ですが少佐、我々の任務は対テロリストの協働であり、貴方の指揮下に入る事ではありません」

 

「特務少尉風情が……私は少佐だぞ?」

 

「少佐もその地位に相応しいなら我々アジア軍との対立は避けるべきかと」

 

「……クッ!」

 

「ご理解頂けましたか?少佐殿」

 

 ミハイルは強権的な言葉を放つもフェイは全く動じることは無かった。

 

 

 

「こちら警備班、妙にユーラシア軍の動きが慌ただしい」

 

「了解。そのまま警戒を」

 

 警備班のシャナがフェイに通信連絡を入れる。

 

「やけにユーラシア軍の車輌が走ってるな。警備にしては進行方向が偏ってる」

 

「何かしら作戦の展開があるのかもしれません。あの少佐、頭は悪いですけど情報を漏らす事はしませんでしたので」

 

 フェイはしれっと毒を吐く。

 

「こちら狙撃班、一名の動きに違和感」

 

「了解。そのまま監視を続けなさい」

 

 続いて狙撃班の報告をフェイは受ける。

 

「あの少女、どうも動きが引っかかる」

 

 人気のない場所から隊員が双眼鏡でナギの姿を捉える。

 パートナーの狙撃手である少女もその方向へ視線を向けた。

 二人共、偽装のために旅行者を装っており、妙に大きなキャリーバッグが傍らにある。

 

「日本人かもしれない。都市の構造を観察して把握しようとしてるような。土地勘を探ってるように観える」

 

「レジスタンスの工作員ですかね?」

 

 狙撃手の少女が双眼鏡を覗く隊員へ向け言った。

 

「それは解らないね。アジア軍の工作員や諜報員だとしてもウチの隊には知らされないからね」

 

「パイ准尉を向かわせます。各自警戒を」

 

 フェイはそう通信を送った。

 

 

 

『ナギ、どうした?』

 

 立ち止まって振り返ったナギに対してギンペイは声をかける。

 

「見られている」

 

 まるで本能的に気づいたような行動だ。

 

「バレたか……?」

 

 双眼鏡ごしに目があったフォンヴァオ隊員は双眼鏡を降ろす。

 

「移動するぞ。あんまり足速に動くな」

 

「了解」

 

 ナギを補足していた二名の隊員は観光客を装い、その場を離れる。

 

 

 

 ブレンゾン北米支社東北支部のビルの受付。

 そこにはユーラシア軍の憲兵達が並んでいた。

 

「ユーラシア軍、クラーニャ・アシモニフ中尉だ。これから立ち入り調査を始める」

 

 淡々とした冷徹そうな女性が指揮を取っている。

 

「ちょっとクラーニャ中尉、先日調査したばかりでは無いですか?それに我々はもうすぐ此処を離れると……」

 

 責任者であるアダムスがクラーニャ中尉に抗議する。

 だが何も言わずにクラーニャは銃をアダムスの額に突きつけ、そのまま発砲した。

 

「交戦の意志があるとみした。これより調査、及び北米施設の制圧を開始する!」

 

 

 

 ブレンゾン東北支部にいたミコトの携帯端末に着信が入る。

 

「ケンジです。ミコトさん、どうやら抜き打ちでユーラシア軍の立ち入り検索があるという情報が」

 

「どうも騒がしいと思ったがそういう事か」

 

「アメインも出してますしかなりの強行手段かと」

 

「解った。アダムスが時間を稼いでる間に出発する。お前も急げよ」

 

 そう言うと通話を終了する。

 

「総員、乗艦と戦闘準備!ユーラシア軍の憲兵が来てるぞ!」

 

 ミコトはその場で叫んだ。

 

「なんやて?!大丈夫やゆうたやろが!?」

 

 ミヤコはそう文句を言いつつも体制を整える。

 マイアは鉄パイプを手に持ち肩に乗せる。

 イオも不慣れな手付きでライフルを持った。

 

「これ、使い方解る?」

 

 エルザは既にライフルを担いでいるカエデから拳銃を渡される。

 

「使った事無い……」

 

 エルザはそう答えるとカエデは慣れた様子で扱いの説明を始める。

 

 

 

「あー、ちょっと嬢ちゃん、いいかな?」

 

 街中でタオファはナギに声をかけた。

 ナギは黙って振り向く。

 

「この辺に『ずんだ餅』の店があると聞いたんだが……」

 

『白い服だがアジア軍か。何故此処に……?……ナギ、警戒を怠るな』

 

 ギンペイがそう注意を促すとナギは黙って店の方向を指差す。

 

「そう、あんがとね」

 

『不味いですわ、あのクソ眼鏡がやって来ましてよ』

 

 マルグリットの言う通りミハイルは数名のユーラシア軍兵士を引き連れて人通りのど真ん中を堂々と歩いてくる。

 

「待て貴様、出向してきたアジア軍のリストには無い顔だな」

 

「少佐、その少女は既に確認済みです」

 

「アジア協商共のデータなど信用できるものか。スパイかもしれんぞ?」

 

「ですがアジア協商圏の富裕層の令嬢でありまして……」

 

「経歴などいくらでも偽装できる。居座ってる北米の企業への立ち入りもある。徹底的に洗い出してやる。連れて行くぞ」

 

 ミハイルの行動に対してナギは忍ばせた武器に手を伸ばす。

 

『パイ准尉、ワタクシがIDの確認を致しますわ。ワタクシの事は話さずに上手くやってくださいまし』

 

「なぁバルチョーナク少佐」

 

「!私はヴァルチェコフだ!貴様!ワザとやっているのか!?」

 

 タオファの呼び間違いは余程ミハイルの気に触った様子だ。

 

「何でもいいよ。その子のID、一応ウチで確認させてもらうわ」

 

「どれどれ……」

 

 

『アジア自由貿易協商圏でも屈指の華麗なる一族、ヤン家の御令嬢ですわね。ユーラシア連邦への旅行歴も数回有り。なんともよく出来た偽装IDですわ……それに……』

 

『隠し持ったハンドガンにナイフ……武装してますわね。それに、ただならぬ物をAIながら感じますわ』

 

「………」

 

 タオファは端末を見終えるとナギにそれを返す。

 

『ナギ、スキャニングを探知した。その白服のアジア軍にも注意しろ』

 

「了解」

 

 ギンペイもまたナギに警告する。

 

「悪りぃ、大丈夫だわ。すまねぇな、行ってくれ。協力に感謝する」

 

『見逃すのですの?』

 

(場所が場所だ。ここでひと暴れされたら面倒な事になる。工作員でも敵か味方かもわからん。もう少し泳がせろってフェイなら言うとだろし)

 

『成る程、単なる雌ゴリラではありませんわね』

 

 そう言った後だった。

 

「その女を連行しろ!」

 

「!」

 

 ミハイル・ヴァルチェコフ少佐は部下にそう命令する。

 

「アジア軍など信用できん。どうせスパイだから見逃したのだろ?」

 

「違ぇよ」

 

 ミハイルは疑心暗鬼、用心深いというようにも取れるが実態は自分の思った通りにならないと納得しない我儘である。

 ユーラシア軍兵士がナギを拘束しようとした時だった。ナギは逆に兵士を拘束し、盾にする。

 

「なっ……!コイツ!?」

 

「やはり貴様!撃て!」

 

「え?」

 

 兵士達は困惑し躊躇する。

 

「構わん!撃て!逃すな!」

 

「バカ!撃つな!」

 

 ユーラシア軍兵は大衆が行き交う路上でアサルトライフルを放つ。

 数名の植民の市民を銃撃に巻き込む。

 

「こんなとこで撃つなよバカか!」

 

 銃を撃った兵士達とミハイル・ヴァルチェコフ少佐を即座に殴り倒すと

 タオファは銃を上に向けて数発発砲する。

 

「全員屈め!伏せろ!」

 

 タオファが大声で叫ぶとその場にいた民間人の殆どはパニックながらも言われた通りにしゃがみ込んだ。

 

「何処だ……?どこ行っ……」

 

 タオファの視線の先にいたナギと目が合う。

 

「見つけた!」

 

 ナギは路地裏へと入っていく。

 

 入り組んだ路地裏、そこをタオファが物凄い速度で追いかけてくる。

 ナギは路地裏の曲がり角を曲がる。タオファの速度では止まれずぶつかるだろう。

 

 だがタオファはそのまま壁を駆け上がりナギを追いかけてくる。

 

『人間技か?!』

 

 ギンペイが驚く。

 タオファは空中でナギ目掛けて踵落としを振り下ろす。

 ナギが飛び退くとコンクリート製の地面は抉れ、破片が宙を舞う。

 すぐさまタオファは次の攻撃体勢に移るとナギに向け、背中を向けた体当たりを喰らわせる。

 八極拳の鉄山靠だ。

 

 それを受けたナギは吹き飛び、路地裏に置かれた荷物に埋もれる。

 

 だがその直後、数発の銃撃がタオファを狙う。

 ナギは受け身をとっており、すぐさま銃撃の体勢をとっていたのだ。

 

 タオファは弾道を読んでるのか運がいいのか、銃弾を躱しながら物陰に隠れる。

 

「……なかなか凶暴で厄介なお嬢ちゃんだ」

 

 タオファはそう呟くと銃で応戦する。

 

『残弾、ゼロですわよ』

 

 撃ち合いするも互いに当たらない。

 マルグリットがそうタオファに告げた。

 

「……撃ち合いでは分が悪いな……」

 

 そう言うとタオファは弾切れの銃をナギに向けて投げつける。

 

 ナギはそれを躱すと目の間には飛び出してこちらへ向かって来るタオファがいた。

 

 するとナギはタオファの壁近くに向けて発砲する。

 

(壁を使うのを読まれたか!)

 

 ナギは二発目を撃つも既に目前迄迫ったタオファに銃を持った腕をいなされ、躱された。

 

「っと!」

 

 ナギはすかさず左手に持っていたナイフをタオファ目掛けて振りかざすも頬を掠める程度で躱される。

 

「危な……!」

 

 ナギのナイフによる攻撃を匠に躱すタオファ。

 やがてタオファはナギの腕を掴み腕をひねる。

 だがナギはそれに合わせて身体を回転、宙返りすると弾丸を放つ。 

 しかし予測していたかのようにタオファは躱す。

 ナギの銃も上部のスライドが後退したままとなった。弾切れだ。

 ナギは空のマガジンを下に落とすと地面に到達する前にそれをタオファ目掛けて蹴り飛ばす。

 またもやタオファはそれを躱すが躱した先にナイフが飛んできて辛うじて防ぐもそれはタオファの腕に刺さる。

 

 だが構わずタオファはそのまま水面蹴りを放つ。

 ナギはそれをバック転で躱し、距離を取る。

 

 その間にナギはマガジンを銃に、タオファは刺さったナイフを抜き、それを投げ捨てる。

 飛び道具がある分、ナギが優勢にも思えるがそれが通用しない相手だ。どうなるかは解らない。

 ナギは銃を構える。

 

「どうした?銃なんか捨ててかかって来いよ?」

 

 ナイフが刺さった腕を見せ、タオファは挑発めいた言葉を発する。

 更に頬から流れる血を指で拭い、それを舐める。

 

「……うえ、やっぱ鉄の味しかしねぇわ……」

 

 そういうとタオファは構える。

 そして突き出した手で手招きし、再び挑発する。

 

『ナギ……』

 

 ギンペイはナギに声をかけようとしたが黙った。

 ナギは銃を懐にしまう。

 

 そして走り去ってしまった。

 

「あ……」

 

『とんだおマヌケさんですわね……』

 

 

 

『ナギ、そのバイクのロックを解除した。乗れ』

 

 ギンペイの指示したバイクに乗るとそのままナギは走り去る。

 

『タオファ、傷は浅いけど先ずは治療を優先すべきですわ!』

 

「そんな暇はねぇ!」

 

 タオファは走りながら制服の腕部分を破り、ナイフが刺さった腕に巻きつける。

 

「どうよ?このバイク?日本製だぜ?年代物のプレミア品だ」

 

「それが今じゃ安く手に入る。全くいい時代になったもんだ」

 

 タオファはユーラシア連邦圏の市民が得意げにバイクを自慢してる場所に出くわす。

 

「てぃ!」

 

 タオファはバイクに乗った男性を飛び蹴りで降ろすとそのままそのバイクに跨がる。

 

「な!?」

 

 何が起きたか理解出来ない男達は驚いた表情でタオファを見る。

 

「アジア軍です。ご協力感謝します」

 

 タオファはそうとだけ告げるとそのままナギを追いかける。

 

 ナギのバイクはそのままハイウェイに乗り、高速で走り抜ける。

 

『既に封鎖が始まってる。急げ』

 

 その時だった。

 かなり強引なショートカットをしてきたタオファのバイクが上から飛び出して来た。

 

『なんて奴だ……捕まるなよ』

 

 激しいチェイスが始まる。

 ナギを捕まえようとタオファは追う。

 互いに激しく蛇行しあい、時に一般車両も巻き込む。

 

 直線で機を観たのか、ナギはフルスロットルでタオファを引き離す。

 しかしそれにタオファは喰らいついてくる。

 

「!!」

 

 ナギは前を向いたまま後ろに銃を放つ。

 弾丸はタオファのバイクなタイヤをバーストさせ転倒させる。

 

『目視せず予測と感覚で当てたのか……』

 

 ギンペイはナギの射撃に驚いた様子だ。

 

 タオファは飛び降り、受け身を取りながら転がるものバイクは爆発炎上する。

 

「うひー……。とんでもねぇ奴だぜ……」

 

 そう言いながらタオファは何事も無かったように立ち上がる。

 

『どちらも尋常ではありませんわ……』

 

 マルグリットは呆れたような驚いたような様子だった。

 

『ナギ、前方は封鎖されているぞ!』

 

 ギンペイの言った通り前方はユーラシア軍の装甲車により封鎖され、そこには兵達が待ち構えている。

 

『だが準備は整った。起動させるから少し時間を稼いでくれ』

 

 ギンペイがそう言うとナギはバイクの前輪を持ち上げ走る。ウィリー走行だ。

 そのまま封鎖場所に向けて走るとナギはバイクから飛び降りる。

 

 バイクは見事に装甲車に激突、爆発炎上し、数人の兵を巻き込んだ。

 

「撃て!撃て撃て!」

 

 残ったユーラシア軍兵士達はナギへ向けて発砲する。

 ナギも応戦し、次々な兵を仕留めていく。

 

「くそ!何なんだあの女!めちゃくちゃだ!」

 

 ユーラシア軍兵士の一人がそう言った。

 

『ナギ、また厄介なのが来たぞ』

 

 来た方向を見るとそこには

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

 全力疾走でこちらへ向かってくるタオファがいた。

 

『彼女は本当に人間か?』

 

 その姿を見てギンペイは言った。

 

「はぁ……はぁ……やっと追いついた……」

 

「なんだ貴様は!?邪魔をするな!」

 

「援軍が来たぞ。包囲した!もう逃げられんぞ!」

 

 タオファが走って来た方向からもユーラシア軍の装甲車が走って来る。

 

『準備完了だナギ。高架の端まで向かってくれ』

 

 ギンペイが指示した場所へナギは走る。

 

「何処へ行こうと言うのだ!?お前は袋の鼠だ!」

 

「おい待っ……」

 

「観念して飛び降りたか……」

 

 だがユーラシア軍兵士達が安堵したその直後だった。

 ホバリング状態のメイレス、セイレンが後ろ向きで上昇してきた。

 

『メイレス……この距離に入るまで探知できませんでしたわ……ステルスタイプ?!』

 

 そしてセイレンは兵士達向けて振り返る。

 

「総員、退避しろーーーー!!」

 

 タオファはそう叫ぶとセイレンから走って離れる。

 

 呆然とする兵士達に向けてセイレンの肩のブースターの噴出口が向けられる。

 

 そしてブースターの噴射が放たれる。

 

「おわぁああああああああ!」

 

 その場にいた兵達は吹き飛ばされ、装甲車は転がる。

 タオファは既の所でハイウェイの支柱に捕まった。

 

 セイレンはそのままブーストの勢いで後退するとそのままその場を離れた。

 タオファは高架のぱいぷに捕まり、難を逃れる。

 

 

 

「何をグズグズしている!テロリストを始末しろ!出せるアメインは全部出せ!」

 

 バルチェコフ少佐は激高しながら命令し、また己も専用のアメイン、重装型のジアマンで出撃していた。

 

「弁えないヤポンスキーは死を持って解らせてやる!」

 

 バルチェコフのジアマンは大型の滑腔砲を構える。

 

「我が大ユーラシア連合軍の力を思い知れ!」

 

 滑腔砲から砲弾が放たれる。

 

 セイレンは大きく回避し、砲弾はビルの上部に着弾し、爆発する。

 

『榴弾滑腔砲か。起動は安定しないがまともに喰らえばひとたまりもないぞ』

 

「何してるアメイン部隊!あらゆる兵装を使いあのテロリストの機体を沈めろ!」

 

 ミハイル・バルチェコフ少佐はそう叫び命令を出す。

 

 ユーラシア軍のアメインからロケット砲やミサイル等の高火力兵装が次々とセイレン目掛けて放たれる。

 

『ナギ、今は回避に専念しろ』

 

 ギンペイの指示通りセイレンは反撃せず回避していく。

 

「フッ……この数に圧倒され手も足も出ないようだな!」

 

 バルチェコフはそう喜々として言い放つと次弾を装填、発射した。

 

『滑腔砲、来るぞ!回避!』

 

 セイレンは再び回避する。

 すると弾道の先には重火力装備のアメインがいた。

 

 砲弾が着弾し大爆発を起こす。

 

「少佐!?ぐぎゃあああああ!」

 

 近くのアメイン指揮操作車両にいた兵士達がその爆発に巻き込まれる。

 

「おのれ!テロリストめ!」

 

 ミハイルは己の誤射など気に留める様子もなく、敵に責任転嫁した。

 

 

 

「植民地の市街であれだけの火器の使用!?何考えてるの……」

 

 アメイン輸送車内のフェイにもその様子ははっきりと解った。

 

「よいしょっと……」

 

 タオファはよじ登り、再びハイウェイの上に立った。

 

「生きてましたか……」

 

 丁度そのタイミングでアメイン輸送車がタオファの前に止まる。

 

「さぁて、早速使わせて貰おうとするか」

 

「起動シークエンスの前に先ずは応急処置ですね」

 

 フェイは負傷したタオファの腕を見て言った。

 

 

 

「連中、アメインまで出してきよったで!」

 

 外の状況を見たミヤコはそう叫ぶ。

 ユーラシア軍の襲撃を受けたブレンゾン北米支社東北支部、ユーラシア軍は格納庫まで迫っていた。

 アメインまで使いかなりの強行手段だ。

 

「セイレンは遠隔で飛び去った後だ!こちらにあるのはあとは改造型のジョーハウンドだけだ!」

 

「誰か操縦できる人は?」

 

「ウチはアカン!」

 

「マイア、イオ、カエデもあの状況では動けまい……。私が……」

 

「あんさんは水霊 水靈の指揮がありますやろ!」

 

 ミヤコはミコトにそう指摘する。

 

「……私が行きます……」

 

 そこへメアリーが名乗り出る。

 

「あんさんがどすか!?」

 

 メアリーの言葉にミヤコは驚いた様子だ。

 

「調整で少し触っているので……自動車の免許はありますがアメインのはありませんけど……今は関係ありませんよね?」

 

 メアリーにしては大胆である。

 

「解った。援護する。アレを使うぞ。出し惜しみは無しだ」

 

「了解や。ウチも大奮発したるで」

 

 だがメアリーの意図を受け入れたのかミコトとミヤコはそう言うと大量の手製の爆弾のようなものを取り出す。

 そしてそれらを一気に敵前方に転がす。

 

「!!」

 

 するとそれらは様々な色の煙を吹き出し、ユーラシア軍の視界を遮る。

 

「今や!行けっ!」

 

 ミヤコと合図と共にメアリーは走り出す。

 

 「!」

 

 だが一人の兵士が気づき、メアリーに銃を向ける。

 

 だがその兵士の上半身は瞬く間に肉片となり飛び散った。

 

 その射線の先にはガトリングガンを構えたミコトがゆっくりと歩きながらユーラシア軍兵達の前に現れた。

 

「ここは通さんぞ!」

 

 ミコトはそう叫ぶとガトリングガンの掃射を始める。

 ミニガンともよばれるその人間が扱うにしては強大な火器は瞬く間にユーラシア軍の兵士達を次々と肉塊へと変えて行く。

 無痛ガンとも呼ばれるそれは痛みを感じる前に敵を死に至らしめるという。

 

「メアリー!後ろ!」

 

 走るメアリーの後ろからユーラシア軍兵士がメアリーを狙う。

 咄嗟にエルザは護身用に渡された拳銃を数発ユーラシア軍兵士へ向けて乱射する。

 

「はぁ……はぁ……人を殺す感覚ってこうなんだ……あっさりしたもんだね……」

 

 だが次の瞬間、別の兵士がメアリーを狙う。

 

 するとエルザはメアリーを突き飛ばし、エルザは腹部に数発の銃弾を受ける。

 メアリーはエルザに駆け寄ろうとするが

 

「来ちゃダメ!行って!」

 

 丁度、ユーラシア軍兵から遮蔽物に入ったメアリーにエルザは叫ぶ。

 再びユーラシア軍兵士はトドメをさそうとエルザに銃口を向ける。

 だが兵士の頭に穴が空いた。

 カエデがライフルで狙い撃ったのだ。

 

「早く!」

 

 エルザは口から血を吐きながら詰まりそうな声で叫ぶ。

 メアリーは噛み締めた表情でタンク型のジョウガンに乗り込んだ。

 起動の手順を始めていく。

 

「……どうしたの…?私に構ってる場合じゃないでしょ……?」

 

 息も絶え絶えで意識も薄れていたがエルザはムラクモのメンバー達が自分を取り囲むようにいることが解った。

 

「……どうして……?」

 

 カエデはそう呟いた。

 

「なんでだろね……。マイアさんに誘わて……返事も曖昧だったけど勝手に仲間と思い込んじゃったのかも……」

 

「メアリーを身を挺して守ってくれはったんや……おまはんはもうウチらの仲間どす」

 

「そう……でももう私は一緒にいけない……」

 

「ろくな人生じゃ無かったけど……最後は悪く無かったよ……」

 

 轟音と共にユーラシア軍のアメインが格納庫に入って来た。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 ミコトの放つガトリングがジアマンの装甲を凹ませ、装甲の薄い部分や関節部に被弾するとしゃがみ込むようにして先頭の一体目が機能を停止させる。

 だがミコトのガトリングは空転する。弾切れだ。

 

「メアリー!もう保たんぞ!」

 

 遮蔽物に隠れるとミコトはそう叫んだ。

 

 

 

『システム起動、アメイン操縦サポートへ移行します』

 

 水靈のサポートAIのハルの声がタンク型ジョーハウンドの操縦席に響く。

 画面には潜水艦水靈の管理AI、ハルによく似たマイナーチェンジ版の姿が映し出される。

 ハルのコピー版であり、ギンペイがアメイン用に調整したものだ。

 

「ハルオルタ、格納庫内の敵の補足と排除がしたいの!」

 

『了解しましたメアリー、これよりタンク型ジョーバウンドの戦闘システムを機動、全操縦システムのロックを解除します』

 

「GO!」

 

 メアリーはそう叫ぶとタンク型ジョーハウンドを発進させる。重装型とは思えない瞬発力で拘束や格納庫内の物を跳ね飛ばしながらユーラシア軍のアメインへと向う。

 ユーラシア軍のアメインの射撃を遮るようにドリフトし、タンク型ジョーハウンドが現れた。

 見るからに重装甲に改造されたそれはアメインの銃撃を浴びてもその装甲にはキズ一つない。

 

「なんだ?あれは?」

 

「どうせ北米の旧型の改造機だ!グレネードランチャーを使う!」

 

『敵の大型火器を確認。腕部、クローの射出が可能出す』

 

「イヤーーーッ!」

 

 タンク型ジョーハウンドの腕部のクローがアメイン向けて射手される。

 それを受けたアメインは一瞬で頭部を握りつぶされ、機能を停止する。

 

「これでもくらえ!」

 

 ユーラシア軍アメイン、ゼリーゼジアマンがグレネードランチャーを放つ。

 タンク型ジョーハウンドは直撃を受けた。

 

「やったか?」

 

「所詮旧型の改造機、こんなものだろ」

 

 ユーラシア軍がグレネードランチャーの爆煙を見ながらそう言ったその時だった。

 

「わっしょーーーい!」

 

 爆煙の中から現れたタンク型ジョーハウンドが指揮官機に体当たりする。

 

「なんだコイツぅーーーーー!?」

 

 指揮官機のジアマンは完全に力負けし、倒れた。

 

「ピザ生地にしちゃうよーーーーー!?」

 

 止まれないのか止まらないのかそのままタンク型ジョーハウンドは倒れたジアマンの上を走っていく。

 

「ひ、ひええええええええ!」

 

 ユーラシア軍の指揮官は逃げるようにジアマンから必死で脱出する。

 

「もういっちょーーーーーっ!」

 

 銃撃を浴びせる無人機に向かってメアリーはもう一つのクローを射出した。

 同じように頭部を潰され、機能停止する。

 

「何だ!あれは!」

 

 指揮を取っていたクラーニャ中尉がジョーハウンドのタンク型を見て驚愕する。

 

「こっちに来るぞ!」

 

「あんなのがまだいたのか!無理だ!逃げろ!」

 

 指揮車輌のユーラシア兵は逃げようと移動するがタンク型に追いつかれ、衝突する。

 

「どいてーーーーーーーー!」

 

 そのままタンク型はユーラシア軍の指揮車輌をゆっくり踏み潰すようにして走る。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 中のユーラシア兵は慌てて逃げ出す。

 

 タンク型ジョーハウンドの登場でユーラシア軍の制圧部隊は崩壊した。

 

 

 

「ゴメン、遅く無っちゃった」

 

 ケンジは血に染まったナイフを持ちミコト達の前に現れた。

 途中何人かのユーラシア軍兵士を仕留めて来た様子だ。

 

『敵目標の撤退の開始を確認』

 

「総員、水靈への乗艦を開始!」

 

 ハルはユーラシア軍撤退の報告をするとミコトは即座に水靈への乗艦を叫ぶ。

 

「飛び出したセイレン、ナギは?」

 

「帰還の援護をする。メアリー、キャタピラの武装は使えるか?」

 

 ケンジの問いかけにミコトはメアリーに通信を入れながら応える。

 

「えっと……」

 

『ECMミサイル、使用可能。垂直発射型なので野外での使用を推奨します。現在は安全の為にロックしております』

 

「行けます!これより外へ!」

 

 タンク型は格納庫の重圧な扉をはね飛ばし、野外へと出る。

 

 

 

「どうした!?ちょこまかと逃げ回るだけか!?」

 

 バルチェコフ専用ジアマンは市街の被害に目もくれず、滑腔砲を放つ。

 

『避けてるだけで敵への被害が増えてくれるな』

 

 ギンペイはいつもと変わらぬ無機質な喋り方だが見事な皮肉である。

 

 

 

「前々からいつも思いますがこのような状況でよく食べれますね……」

 

 タオファの傷を消毒縫合し、包帯を巻ながらフェイは言う。

 

「血も出たし補給は大事だからな。……モグモグ」

 

 処置の間、タオファはバナナを数本平らげている。

 

「具合はどうですか?」

 

「相変わらず早くて上手い、大したもんだ」

 

 フェイの問に腕を動かしながらタオファそう応える。

 

「………」

 

 何気に褒められた事が気になるのか、フェイは少し

照れくさそうに目を逸らす。

 

「よっしゃ!行くぞ!」

 

 タオファは威勢よく輸送車のアメインに乗り込んだ。

 

『お待ちなさい。あのバカスカ撃ちまくってる馬鹿を何とかした方がいいですわ。巻き込まれましてよ』

 

 バルチョナクの事だ。実際同じユーラシア軍や入植者に対しても被害が出ている。

 

「狙撃班、あの馬鹿を何とかしてください」

 

「了解、これより目標の狙撃に移行」

 

 通信を受けた他のフォンヴァオの別働隊、狙撃班は既に黒い戦闘服に身を包んでいた。

 

「目標補足、これより狙撃に移る」

 

 双眼鏡でバルチェコフの機体を捕らえると

 狙撃担当のもう一人の担当が大型のスナイパーライフルの準備をし、狙撃対戦に移る。

 

「目標、左脚部膝関節」

 

「了解」

 

 建物に隠れ、距離があるとはいえセイレンがその付近で回避行動をとり、その後、滑腔砲の着弾の衝撃が狙撃班にも伝わる。

 しかし彼女達は微動だにしない。

 滑腔砲の発射の後、その衝撃と排莢、次弾装填の為にバルチェコフの機体は若干の硬直時間がある。

 

「今だ!撃て!」

 

 その隙を狙い、大型のスナイパーライフルが放たれる。

 対アメイン用の大型スナイパーライフルだ。

 リニア式の砲身から放たれる弾丸は重装甲のバルチェコフ専用のジアマンの膝関節を貫通する。

 

「ぬぐわっ!」

 

 バランスを崩し、バルチェコフの機体は倒れ込んだ。

 

「ごわああああああ!!」

 

 そしてどういう訳が爆発が起きた。

 倒れ込むと同時に滑腔砲が発射されたのだ。

 滑腔砲は地面に放たれ、自爆する形になった。

 重装甲なので原型は留めてはいるが最早戦闘は不可能だ。

 

「命中、目標の沈黙を確認」

 

「了解、これよりニュウレンカスタムを出します」

 

 通信を受け取るとフェイは手で合図すると白いニュウレンの改造機が立ち上がる。

 

「市街地の為、アメインの火器の使用を禁止します」

 

「了解、格闘武器の方が得意だ」

 

 強気なタオファの返答だ。笑顔すらうかべる。

 

『ルートを計算しましたわ。マップの指示通り回り込んで……』

 

「いや、もっと速い方法がある」

 

 タオファはニュウレンカスタムをビルの方へ向ける。

 

「突っ切るぜ!」

 

 白いニュウレンカスタムが駆け出すとビルへ向けてジャンプする。

 

『なんとぉ!?』

 

 慌ててマルグリットはバランスの調整を行いビルの上に着地の姿勢を取る。

 

「おお!行けるもんだな!次行くぜ!」

 

『ちょ……待っ……』

 

 ビルの上を跳ね飛びながら白いニュウレンは駆け抜けて行く。

 

 

 

 セイレンは左の高周波ブレードでユーラシア軍の指揮車を突き刺す。

 乗員ごと指揮車は爆発した。

 

『指揮系統は混乱してるが数が多いな。頭数を減らしつつ水靈へ戻るぞ』

 

「!!」

 

 ナギは何かに気づいたように振り向くとビルの屋上に向けて銃撃する。

 

「っととと!」

 

 そこに着地しようとしていた白いニュウレンは空中で姿勢を変え、横に回転しながら着地する。

 

『!!探知出来なかった!?ステルスか!?それにあの動き、あの白いニュウレン、形こそアジア軍のニュウレンに似てるが全くの別物だ』

 

 ギンペイは相変わらず無機質な喋り方だが言葉から想定外の動揺が見て取れる。

 

「さて、ちょっとお姉さんと遊ぼうか!!」

 

 白いカスタムニュウレンは腰部にマウントされていた二振りのくの字型の刀身の近接武器を抜き放った。

 

「殺(シャ)ァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

 その掛け声と共に白いニュウレンはセイレンへと斬りかかる。

 寸前でセイレンはそれを躱し、後退する。

 セイレンは背中のハンガーのマシンガンを左手に持つとそれを白いニュウレン目掛けて放つ。

 そのカスタム機の機動性で躱すも速射性が勝る。

 しかしその白いニュウレンは手首を回転させ、近接武器でマシンガンを弾く。

 

『あまりに規格外の芸当だ。機体も搭乗者、どちらも

尋常じゃ無い……。もしかして……』

 

 白いニュウレンが建物の陰に隠れたとこでギンペイは行った。

 

「さっき路地裏で戦った奴」

 

『その可能性はかなり高い。それに……』

 

 ナギとギンペイは僅かな動きと気配から白いニュウレンの搭乗者がタオファだと感じ取っていた。

 

『ムキィ!さっきからあのメイレスにハッキングを仕掛けておりますのに弾かれてしまいますわ!ワタクシは最新型ですのに!』

 

「よく知らんがそう簡単に乗っ取れるもんでも無いだろ……」

 

 想定外の事態なのかマルグリットは感情的になっていた。

 

『警告の為の通信ですわよ!降伏を促すのですわ!』

 

「無理だろ……見ろよ、話なんて聞く気は無い」

 

 白いメイレスが除く先には再びユーラシア軍相手に孤軍奮闘するセイレンが映る。

 

『それにあの動き、メイレスやパイロットがバケモノなだけではなし得ませんわ……。支援AI……きっとワタクシの同類でしてよ』

 

「勝てそうか?」

 

 タオファの顔つきが真剣になる。

 

『このカスタム機は現在日本のレジスタンスが使っているメイレスに匹敵する性能を盛っておりますがそれで高く見積もっても……』

 

『20%もありませんわ……』

 

「ソイツは重畳、悪くない。充分だ」

 

 そう言ったタオファは不適な笑みを浮かべる。

 

 

 

「狙撃班、ポイントに到着」

 

「了解」

 

 その通信の後、白いニュウレンのカスタム機は回り込むように移動する。

 

 

 

『敵指揮車両、残り1』

 

 セイレンはユーラシア軍の指揮車に狙いを定める。

 だがその時、回転しながらくの字の刀身の近接武器が飛んで来た。

 セイレンは即座にそれをマシンガンで撃ち落とす。

 

『厄介なのがまだ残っている。何処にいる?ナギ、こちらからでは補足できない。目視を頼む』

 

 セイレンは周囲を警戒する。

 

「そこおぉぉぉぉぉぁ!!」

 

 後ろから白いニュウレンが斬りかかる。

 

 咄嗟にセイレンは機体を反転させそれを躱す。

 

「ほぁっ!」

 

 白いニュウレンは続け様に蹴りを放つ。

 

『!!緊急回避!』

 

 何かに気づいたギンペイはバックブーストを噴射し、一気に機体を後退させる。

 

 白いニュウレンの脚部には近接用の刃物が仕込まれて降り、セイレン左腕のマシンガンを切断した。

 

 その前にセイレンはマニュピレーターからマシンガンを手放しており、弾倉の爆破を既のところで回避した。

 

『アレを見抜きましたの?!』

 

「武器が減ったんだ、良しとしようや」

 

 白いニュウレンは脚部の仕込み武器を収納すると再び身構え、飛びかかる。

 

 だがそこへユーラシア軍の無人アメインが割って入る。

 

「ああ!もう!邪魔ッ!」

 

 タオファはそういうとユーラシア軍のアメインをセイレンに向けて蹴飛ばす。

 

 セイレンはそれをアサルトライフルで撃ち、沈黙させた。

 

「ッシャーーーーーーー!」

 

 そのアメインを踏み台にし、白いニュウレンはセイレンに飛びかかる。

 空中からの振り降ろしから脚部の仕込み武器による近接の連撃。

 近接格闘では取り回しの悪いライフルを右手にセイレンは回避に専念するしかない様子だ。

 

「もらった!」

 

 タオファの掛け声と共に白いニュウレンは右手の格闘武器で切り払う。

 しかし、その近接武器の刀身が宙を舞った。

 

 セイレンは左腕の高周波ブレードで防御すると同時に近接格闘武器を切り落としたのだ。

 

 その隙を捕え、セイレンはアサルトライフルを白いニュウレン目掛け撃つ。

 回避行動をとり、コクピットの直撃は開始したが左腕が撃ち落とされた。

 

『遠距離!熱源反応!回避しろ!』

 

 だがギンペイはそう叫ぶ。

 

「今ッ!」

 

 ビルのフロアで待機していた狙撃班のスポッター役の隊員がそう言うと対アメイン用のスナイパーリニアライフルの引き金が引かれた。

 

 音速を超える弾丸がセイレンめがけ飛んでいく。

 しかし弾は緊急回避を行ったセイレンを掠め、周囲にいたユーラシア軍の無人アメインに直撃した。

 

 ナギは弾道を読み、セイレンをそちらへ向ける。

 

「狙撃班!退避!」

 

 タオファはそう叫ぶとセイレンに向けて白いニュウレンを体当たりさせる。

 それと同時にセイレンのアサルトライフルから銃弾が放たれた。

 弾道は狙撃班の二人から逸れ、そのビルに穴を開ける。

 

「退避!急ぐよ!」

 

 僅か数メートル先に穴を開けた銃撃に動じる事もなく狙撃班の二人は急ぎその場から離れる。

 余程の貴重品からか対アメイン用のリニアライフルは抱えて持っていく。

 狙撃手はフォンヴァオ隊でも小柄で自分の身長より長いそれを抱えて走る。

 だがセイレンはそのビルの手前まで迫っていた。

 

 フォンヴァオ隊の狙撃班二人は反対側へと走る。

 スポッターの隊員は咄嗟に命綱のフックをビル内部の突起物に引っ掛けると狙撃手の少女を抱え、窓から飛び出した。

 その直後、セイレンか飛び蹴りが放たれ、その衝撃が反対側へと伝わり、窓ガラスが弾けるように割れて飛び散る。

 

「ぐぅ!!」

 

 ぶら下がる衝撃でスポッターの少女は思わず声をあげる。

 

「オマエの相手はアタイじゃろがー!」

 

 再びタオファの白いニュウレンがセイレンに飛びかかる。

 千切れた左腕をヌンチャクのように振り回して。

 

『なんて無茶を!もう限界ですわ!お引きなさい!』

 

 マルグリットはそうタオファに告げる。

 

「まだまだぁ!」

 

 だがタオファはセイレンに向けて攻撃を続ける。

 

「パイ准尉、ユーラシア軍の援軍が来ています。直ちに退避を」

 

 フェイ少尉からの通信が入った。

 

「まだだ!まだやれる!」

 

 そう勇むもセイレンのアサルトライフルは白いニュウレンを捕らえ、機体を削って行く。

 

『もう限界ですわ!脱出しましてよ!』

 

 マルグリットの声と共に白いニュウレンの脱出装置が作動する。

 コクピットブロックは射出され、衝撃吸収用の幾つもの丸いエアバッグがコクピットブロックを覆い、跳ねながら転がっていく。

 

『ナギ、ユーラシア軍の援軍が集結しつつある。それに水靈の準備も整った。長いは無用だ。帰還しよう』

 

「了解」

 

 

 

「花火、打ち上げるよーーーーっ!」

 

 格納庫から飛び出して屋外に出たタンク型ジョーハウンドに搭乗するメアリーは勢いよくそう言い放つとタンク型ジョーハウンドの肩部の装甲が開き、垂直ミサイルが連続で放たれる。

 

「なんかアイツ、ノリノリやな」

 

「……触れないでおけ」

 

 ジョーハウンド内の音声は管理AIハルを通して水靈ブリッジに筒抜けだった。

 

 

 

 上空ではメアリーのジョーハウンドから放たれたミサイル数発が花火のようにECMを散布する。

 

『ECMか、丁度いい』

 

 セイレンはその場から飛び去って行く。

 

 

 

「レーダーやカメラが機能していない!敵の位置はどうなってる?」

 

 援軍のキリル・ジルコフ大佐は状況に戸惑いつつも状況の確認を急ぐ。

 

「大佐、いずれにせよ敵を追うより状況の立直しを優先しましょう」

 

 そう進言したのはもう一方の援軍、アレクセイ・ゼノレイ少佐だった。

 

 

 

「各自、状況報告」

 

 フェイが各自に無線で連絡を入れる。

 

「こちら誘導班、避難誘導完了」

 

 シャナ軍曹はそう返す。

 

「こちら狙撃班、二名とも生存」

 

 ワイヤーでビルから宙ぶらりんの状態で狙撃手を抱えたまま狙撃班は応答を返す。

 

「……重っ!!」

 

 通信の後、苦しそうに狙撃手を抱える隊員が言った。

 

「ライフルの事ですよね!?」

 

 心配そうに狙撃手の隊員が言った。

 

 

 

「おのれテロリストめ!私の街を……!」

 

 大半はミハイルやユーラシア軍の砲撃による被害だがその事実から完全に目を逸らしている。

 

「少佐……申し訳ありません。おかしなアメインに阻まれ、こちらもアメイン数機を失い、テロリストを逃がしてしまいました」

 

 クラーニャ中尉の通信を受けたミハイルは更に怒り心頭に発する。

 

「なんだと!?何をやってる馬鹿者!!」

 

「次こそは必ず……」

 

「貴様らに次などあるものか!この役立たず共がっ!」

 

 そう怒鳴りつけるとミハイルは通信を切る。

 

「……チッ!バルチョナクめ……」

 

 クラーニャ中尉の本音が溢れる。

 

 

 

 

「生きてましたか、タオファ准尉」

 

 フェイが改造型ニュウレンの脱出ポッドのハッチを開ける。

 タオファはコクピット内で逆さまになりながら不機嫌そうに腕を組んでいたが。

 

「ああ……なんとかな」

 

 フェイの顔を見た瞬間、笑顔が溢れる。

 

 

 

 ユーラシア軍東北司令部の一室。

 

「それではバルコロッティ少佐、状況を説明してもらおうか」

 

 キリル・ジルコフ大佐が冷静ながらも険しい表情でバルコロッティ少佐に向けて言った。

 

「ええ、大佐、ご覧の通りテロリストの襲撃により被害は出ましたが見事に撃退に成功しました。私も出撃しましたが残念ながら整備不良で機体の異常により大破しましたが」

 

 バルコロッティは全身黒ずんでいるが誇らしげに雄弁に語る。機体は大破するもほぼ無傷で生還していた。

 

「……少佐、ご自身が何をしたか理解しておりますか?」

 

 鋭く切り込んだ言葉を同席している女性士官がミハイルに投げかける。

 かのアレクセイ・ゼレノフ少佐の副官、ダリア・リヴォフ中尉だ。

 その傍らにはアレクセイ少佐が珍しく沈黙し、目を瞑ったまま不機嫌そうに座っている。

 

「何だ貴様?上官へ向けて何だその態度は?」

 

 ミハイルはダリアの態度に怒りをあらわにする。

 

「何をしたのか理解しておいでかと聞いております。ヴァルコロッティ少佐は言葉を存じておらぬのですか?」

 

「……っ!貴様……ッ!!」

 

 バルコロッティの様子に呆れて怒りすら湧いてくるのかダリアの口から棘々しい言葉が出てくる。

 

「ダリア、よせ。大佐も。時間の無断だ」

 

「失礼しました少佐」

 

 アレクセイが静かに話に割って入るとダリアは大人しく引き下がる。

 

「アレクセイ少佐、飼い犬の躾くらいはしておけ」

 

 ミハイルはとりあえず怒りを収めた様子だったが

 

「……ところでバルチョナク少佐」

 

「!!貴様っ!!」

 

 アレクセイは平然とそう呼んだ。

 

「少佐、彼はミハイル・バルチェコフ少佐です。バルチョナクは仇名の方です。頭の悪い坊ちゃんという意味の」

 

 ダリアは慌ててアレクセイに耳打ちする。

 

「聞こえてるぞ貴様!そもそもアレクセイ!貴様とは士官学校の同期でライバルだったでは無いか!」

 

「……?記憶に無いのだが?」

 

 アレクセイは唖然とした表情だ。本当に記憶にない様子である。

 

「貴様ッ!ワザとか!?そうだな!そうに違いない!ライバルの私に遅れを取ったのが妬ましいのだな!」

 

 痛快な程にミハイル・ヴァルチェコフは無知蒙昧である。

 

「貴様はテロリスト如きの機体に遅れを取り敗走したが私は撃退したのだ!私の戦果を妬むの仕方あるまい!」

 

「………」

 

 ジルコフ大佐は頭を抱え、ため息をつく。

 

「ダリア、状況は?」

 

 アレクセイは喚くミハイルを無視してダリアの状況報告を聞く。

 

「街では軍に対して抗議の声が殺到しています。場合よっては暴動になりかねません」

 

「解った。大佐、治安の回復はお願いしてもよろしいですか?」

 

「ああ……なんとかやってみよう……」

 

 渋々ではあるがキリル・ジルコフはアレクセイの提案を承諾する。

 

「アレクセイ!貴様ッ!私を無視するんじゃ無い!」

 

「黙りなさい」

 

 キリルは睨みつけるようにミハイルを制止した。

 

「……クッ!」

 

 

 

 ユーラシア軍の占領下、破壊された市街は今も消火と救助活動が続けられる。

 

「アジア軍の機密すら黙認か。ここの司令官は余程気前がいい」

 

 アレクセイ少佐は呆れた様子でフォンヴァオ隊によって回収される白いニュウレンを眺める。

 

「……自分達で散らかした機体は自分達で片付けろってさ……モグモグ」

 

 タオファはずんだ餅を食べながらアレクセイ達にそう言った。

 

「バルチョナク?がそう言ってたらしい」

 

「白いアジア軍服……噂で小耳に挟んでましたが実在していたのですね……」

 

 ダリアがずんだ餅を頬張るタオファを見つめ、そう言った。

 

「それは、ずんだ餅だな?」

 

 アレクセイはタオファの食べている和菓子に興味を持つ。

 

「なんか名誉ユーラシア連邦民の日本人が避難誘導のお礼にくれたってさ」

 

「東北の珍味か。どれ一つ頂いて…」

「断る」

 

 タオファが即答するとその場から立ち去っていく。

 

「それにしてもこの機体、他のアジア軍の量産型とは違うまい」

 

 アレクセイは簡単にその事を見抜いていた。

 

「レジスタンスの機体の詳細は解りませんがアレらを相手に単機でこの立ち回り……やはり彼女達が……」

 

「避難誘導は彼女達の功績だったな。でなければ被害はもっと大きかったに違いあるまい。アジア軍に感謝状を送っておかねばな」

 

 アレクセイはフォンヴァオ隊を見たあと、機能停止し、輸送される黒焦げのミハイルのジアマンを見つめた。

 

「なかなかに興味深いが、しかし今は何よりあの指揮官を注視せねばな」

 

「……」

 

 ダリアも黙って深刻な顔つきになる。

 

「無能が過ぎる友軍の将は有能な敵に勝る」

 

 アレクセイは真顔でそう言った。

 

 

 

「ほう、彼女達、なかなかに優秀じゃないか。それでこそ投資した甲斐があるというもの」

 

 アジア自由貿易協商圏本土の都市部のガオ高層ビルの一角、ガオ・シンの自室にて東北地方での戦闘映像を眺めながらシンは関心した様子だ。

 彼の趣味なのか顔立いや見栄えのいい少年達が露出度の高いメイド服を着せられて並んでいる。

 

『ミスターシン、こちらとしても良いデータが取れました』

 

 リモートの通信相手として映し出されるのはブレンゾン北米CEO、セレーナだった。

 

「トライヴェクタがカスタマイズしたニュウレンも悪く無いがやはりあのメイレスと言ったか……やはりあの技術は欲しいものですね」

 

『一考しておきます』

 

 

 

 ユーラシア軍、東北基地の軍拘置所の尋問室にて。

 険しい表情のキリル・ジルコフ大佐からタオファによってシメられた兵士達は尋問を受けていた。

 

「バルチェコフ少佐の管理はずさんと心得ていたが……まさかこれだけの軍の資金を着服とはな……申開きはあるか?」

 

 勾留されているユーラシア兵達は事の顛末を説明する。

 

「台湾のゴリラ?台湾にゴリラはおらん!貴様!任務中に酒でも飲んでたのか!?もういい!軍法会議の沙汰を待て!」

 

 

 

                  四話へ続く




 バルチョナクことミハイル・バルチェコフはAC6のスネイル入れようとしたらより酷い物になりました。
 フォンヴァオ隊、タオファはライバルキャラの位置づけです。
 しかしながら表現したい物を詰め込みすぎておりますね。
 エルザは仲間になる事も考えましたが存在が必要無かったかもしれません(汗)
 北米も決して良い状況では無いという事を表したかったので。

 次回、いつになるかわかりませんが独断と偏見で面白い要素ぶち込むので面白いと思います(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。