DR Dystopia March   作:黒木冴

2 / 7
プロローグ(後編)

 

あれからどれくらい気絶していただろうか。俺はいつの間にか、机に顔を突っ伏して気絶していた。確か俺は紅羽と一緒に学園へ足を踏み入れようと途端に気絶した。その後のことは覚えていないし、意識もまだ朧気だ。

それでも俺は懸命に自我を呼び戻し、辺りを見回す。俺の視界には、希望ヶ峰学園のパンフレットの写真とは明らかに異なる真新しい教室の風景が広がる。

 

何故こんな所に居るのだろうか。確か俺は、希望ヶ峰学園にスカウトされて

 

 

ピンポンパンポーン

 

 

 

≪入学生のオマエラ!私立希望ヶ峰学園姉妹校にようこそ!現在の時刻は7:50となっています。姉妹校入学生諸君は、9:00まで体育館に全員集合してください!しなかった場合はオシオキだべぇ〜!≫

 

 

ありふれたチャイムが鳴り響く。その後に流れたのは、妙に機械じみた気色悪いな声。音声読み上げソフトでも使っているのか?

 

だが頭にふと疑問が浮かんだ。さっきのアナウンスは何て言っていた?

 

 

「私立希望ヶ峰学園姉妹校」

 

 

いつの間に希望ヶ峰学園に姉妹校なんて出来たんだ?そもそも、そんなニュースを聞いたり記事を読んだりした記憶がない。ならここは……何処なんだ?

疑問は山程あるが、兎に角まず歩いてみよう。行動を起こさないことには何も生まれない。そう決断した俺は直様体育館に向かった。暫く道なりに歩いていくも、体育館への案内の矢印もない。新しい校舎の筈なのに不親切だな。それに何か、この校舎全体が不気味な感じもする…そう思っていた時だ。

 

 

「あれ、君も入学生…だよね?」

 

『?』

 

俺の目の前に現れたのは、毛先やそれに近い部分の色素が薄くなっている色鮮やかな青い髪に藤紫色の目を持った黒が基調のブレザーを着ている女子高生。入学生と言ったから、恐らく俺と同じ立場だろう。

 

 

「あっ、ごめんごめん!自己紹介がまだだったね〜!あたしの名前は茉波媛子。肩書きは【超高校級の読書家】。好きなものはアガサ・クリスティの小説とキャラメルポップコーン。宜しくね!」

 

 

マナミ ヒメコ

【超高校級の読書家】

 

 

「よっし、つかみはOK!今度は君の番だね!」

 

『お、俺か?…俺の名前は松永時雨。しぐれって名前の漢字は、「時の雨」って書くんだ』

 

「時雨……ああ、秋から冬に掛けて降る雨の通称か。いい名前だね〜!あっ、ねえねえ、時雨君って呼んでもいい?」

 

『あ、ああ、いいぞ別に。好きに呼んで』

 

「やったー!早速だけど時雨君、君の才能ってなーに?」

 

『あのさ…笑わないで、聞いてくれるか?』

 

「えっ?何々、どゆこと?ラーメンは担担麺派とか?」

 

『ちげーよ!お、俺の才能は…超高校級の」

 

「時雨!」

 

『紅羽!?』

 

名前を呼ばれ、声のした方を向くと紅羽がいた。割と遠くから走ってきたのか、若干息が上がっている。

 

「…君誰?知らない顔だけど」

 

「あたしは茉波媛子っていうの!もしかして時雨君の友達?才能は何?」

 

「……ボクの名前は澪島紅羽。時雨はボクの幼馴染み。才能は公表してないよ。そもそも初対面の君に言う必要あるの?」

 

 

ミオシマ クレハ

【超高校級の???】

 

 

「……それで、君の才能は何なの?まさか自分から聞いといて、無いとか言わないよね?」

 

『おい紅羽、何もそこまでズケズケと』

 

「あたしの才能は読書家だよ。でも意外だなー、紅羽君って才能隠してるんだ。何か見るからにすごい才能ありそうなのに勿体ない!!」

 

茉波ぃぃぃ!!こいつは-紅羽は大の才能嫌いなんだ!そんなズバズバ言ったら、何されるか……

 

「……で?結局何が言いたいの?」

 

「ん?スッゴくミステリアスで、超絶カッコいいなーって思った!それだけ!!」

 

……あれ?紅羽が怒らない?つーか、普通に言葉を返してた。普段なら相手を皮肉ったり罵ったりしていたのに。

もしや茉波が女子だからか?否アイツは女子だろうが男子だろうが容赦なく罵っていたな……そうか!紅羽も漸く空気が読めるようになったんだ!あいつ、俺の知らない間に努力してたんだな!!

そうこう考えている間に、俺は紅羽に手を引っ張られながら体育館に向かった。

その様子を「仲良しさんなんだねー」と茉波に微笑ましく見守られていたのには、少し恥ずかしかったけど。

 

 

 

体育館には俺達3人の他に様々な容姿や服装をしている同年代の少年少女が13人いた。こいつ等も超高校級の才能をもってここに招待されたのか。

 

「あ!君もここに来たんだ!名前は?」

 

『あ、えっと…誰?』

 

体育館内にいた全員が俺達の存在に気付き、最初に近付いてきたのは黄緑色のポニーテールにショッキングピンクの目をした男子。体操服を着ているから、多分体育会系の才能だろうか。

 

 

「僕は戌神狛稀!ドッグトレーナーをしてるんだ!」

 

 

イヌガミ コマキ

【超高校級のドッグトレーナー】

 

 

「ドッグトレーナー…俺は松永時雨、宜しくな」

 

「あたしは茉波媛子って言いまーす!ワンちゃんって可愛いよねー!一番好きな犬種はゴールデンレトリバー!だけど家では猫を飼ってまーす!」

 

「澪島紅羽……ボク、犬より猫派だから」

 

「そっか!ねえねえ時雨君は犬派?猫派?好きな犬種は何か教え―」

 

「おい戌神!オレを差し置いて自己紹介するんじゃねーよ!」

 

 

俺に犬派猫派かどうかを聞いてきた戌神の言葉を遮ったのは12人の中で一番背が低い男子。希望ヶ峰学園のブレザーの下は申し訳程度に指先が出ているパーカー、下は短パンを着ている。背の低さと相俟って、益々全力で小学生と見間違う程だ。

 

 

「…ちょっと、人の話遮るとか有り得ないでしょ。ていうか何で“小学生”が希望ヶ峰学園にいるの?飛び級?あー、迷子か。納得」

 

紅羽、いくらコイツが低身長だからってそんなこと言うなよ。俺の推測が正しければ、こいつは俺達と同い年だぞ。

 

 

「んだとテメーー!オレは迷子でも小学生でもねぇ!オレの名前は刻村コーキ!肩書きは【超高校級の幸運】!テメー等と同じ高校生だッ!!」

 

 

トキムラ コーキ

【超高校級の幸運】

 

 

「ちっくしょー!後もう少し、今の身長にプラス30センチあればオレはこんな思いしなくて済んだんだ!母ちゃんのバッキャロー!DNAの大馬鹿ヤロー!!」

 

「コーキ君、流石に30センチはもう少しの範囲には入らないと思うよ…」

 

『えっと……超高校級の幸運ってことは、お前は希望ヶ峰学園の抽選から選ばれたってことか?』

 

「おぉぉ、お前はオレの偉大さを直ぐに分かってくれたか!如何にも、オレは世界の名だたる高校生の中から幸運にも選ばれた!つまりオレはテメー等なんかよりもビッグなものを持って―」

 

「あー、はいはい。分かったよ、君がスゴい人間だってことはさ。君は偉大ですとも。チビ村コーキ君」

 

「ちびむらじゃねー!オレの名前はときむらだ、と・き・む・ら!脳味噌に深く刻めトンチキ野郎がァァァ!!」

 

 

必死に反論している刻村には悪いが、見た目も頭脳も小学生だな。刻村が一々ムキになってるのを面白がっている紅羽の横っ面に平手打ちしてやった。愚か者め。第一印象最悪じゃねーか。

 

一連の動作を見た刻村は「ざまあみろバカ島!バァァカ!」と紅羽にあっかんべえをしてから距離を置き、戌神は「ぼ、暴力は駄目だよ!」と紅羽を宥め、茉波からは「因果応報だねー」と幼稚園の先生みたいに紅羽を嗜た。

とりあえず紅羽、次チビ村とか言ったら本気のグーだからな。少しは反省しろ。

 

 

体育館内が混沌としてる中、「じゃあ、次の自己紹介は俺からって事でいいかなぁ~?」と間延びした口調でそいつが手を挙げた。

 

そいつは真っ赤な色の髪に同色のアホ毛、青白橡色の目をしたスラリとした男。見た目はどっかの洒落たバーの従業員みたいな格好で、左耳にのみ青薔薇のピアスを身に付け、両手には使い慣れた黒い革手袋を嵌めている。

多分女から逆ナンされる位端正な顔付きだな。おい紅羽、睨むな。さては全然反省してねーだろ。赤髪の男はそんなことを気にも止めず、涼しげな顔をして俺に近付いた。

 

 

「君、名前は?」

 

『お、俺の名前は松永時雨だ』

 

「へぇ…じゃあさぁ、しぐっちゃんって呼んでもいーい?気に入ったから〜。俺の名前は蘭ヒュウガ。肩書きは【超高校級のギャンブラー】、賭け事なら負けないよぉ~?」

 

 

アララギ ヒュウガ

【超高校級のギャンブラー】

 

 

ギャンブラー…ってか、しぐっちゃん?あいつなりの愛称だろうか。そして紅羽、コートから何出そうとしてるんだ。止めろ、初対面で流血沙汰とかホントに止めろ!鼻に練り山葵と練り辛子と柚子胡椒突っ込むぞ貴様!!

 

そして蘭の自己紹介を皮切りに、残りの生徒が次々と自己紹介を始めた。

 

「わたしの左にいた蘭が自己紹介したのだ。とどのつまり、次はリーダーであるわたしの番だな!わたしは小鳥遊梓、肩書きは【超高校級のチェリスト】なのだよ」

 

 

タカナシ アズサ

【超高校級のチェリスト】

 

 

茉波よりも深い青色の髪(髪型は所謂おかっぱ頭)に紅赤色の瞳、清楚な白いスーツを着ている長身女子。如何にもいいとこ育ちのお嬢様だ。自分からリーダーとか言ってる所から多分仕切り屋だろうな。正直極力関わりたくない。

 

 

「んじゃ、次はオラだんべ。オラは狩谷美菜子って言うだ。気軽に美菜ちゃんって呼んでけろ。あ、肩書きは【超高校級の助っ人】だ」

 

 

カリヤ ミナコ

【超高校級の助っ人】

 

 

白いオーバーオールにピンクのトレーナー、臙脂色のセミロングに黄色の瞳に縁無しの丸眼鏡を掛けている女子。しかも「けろ」や「だんべ」って訛りを交えて話していたから、恐らく東北地方出身かもしれない。雰囲気も良い意味で素朴だなー、空気が和む。

 

 

「ハイハイ!流れ的に次はオイラだよね!オイラは塚本靖彦!肩書きは【超高校級の漫画家】!サインなら何時でも大丈夫、オイラの心は宇宙より広いから!!」

 

 

ツカモト ヤスヒコ

【超高校級の漫画家】

 

 

黒いベレー帽を被り、きしめんみたいに平べったい銀色のざんばら頭に青縁眼鏡を掛けた男がテンション高く答える。塚本靖彦って言ったよな。まさかあの有名少女漫画「唐紅の薔薇」の作者がこいつ!?ってか男だったのか!!だから紅羽、取り敢えず懐から物騒なモノを出そうとするのは止めなさい!

 

 

「次は…青奈。青奈は、三十石青奈って、いうの。肩書きはね…【超高校級の手芸部】。服が破れたり、解れたり、したら…青奈が、直して、あげるね」

 

 

ミトイシ アオナ

【超高校級の手芸部】

 

 

可愛らしいウサギの縫いぐるみを抱いているピンクの髪に水色の瞳のおとなしい雰囲気の女の子が、黒髪の女の子の背後で照れながら自己紹介する。すると黒髪の女子が三十石の頭を撫でて「よく頑張ったね」と褒めている。あっ、笑っている。可愛い。

 

 

「次はあたしだな。あたしは夕海遥音。肩書きは【超高校級の薙刀使い】、宜しくね」

 

 

ユウミ ハルネ

【超高校級の薙刀使い】

 

 

黒髪のセミショートに同色のアホ毛、黒目に稽古着と紺色の袴を着た大和撫子な女の子。背負っているのは薙刀の木刀が入っている袋。凛と佇む姿に思わず見蕩れてしまいそうになったのはここだけの秘密。

 

 

「次は僕の番だね……僕は木巾修二。肩書きは【超高校級の舞台俳優】だよ。くれぐれも俳優と一括りにして欲しくないから、そこだけは気を付けてね。舞台俳優とは何かは確り定義されているから」

 

 

キハバ シュウジ

【超高校級の舞台俳優】

 

 

黒髪の無造作ヘアに金色の瞳を持った長身の男。穏やかな口調にカジュアルな服装を着こなしている木巾を見て俺は「身長と顔面偏差値両方高いとか、神様お前何二物与えやがって!」と内心ボヤいた。でも……何か俺のことを心配そうに見てる感じがする。何でだ?俺達初対面の筈なのに。

 

 

「ふふふ、松永さんですね。わたくしは勅使河原和美と申します。肩書きは【超高校級のバレリーナ】です。以後、お見知り置きを」

 

テシガワラ カズミ

【超高校級のバレリーナ】

 

 

ゴシック調の黒と青のワンピースに勅使河原財閥の家紋が入った牡丹の髪飾りを着けた女の子がペコリとお辞儀をする。これまた大和撫子な女の子だな……流石勅使河原財閥の令嬢。理由はよく分からんけど、背後に後光が差したり天使が現れそうな位神々しい。

 

 

「ワタシの名前はクロト・ティル・マグメール。肩書きは【超高校級の留学生】よ。…最初に言っておくけど、ワタシはオネエやオカマじゃなくて中性的なだけだからね。間違えちゃイヤよ!」

 

 

クロト・ティル・マグメール

【超高校級の留学生】

 

 

綺麗な銀髪のハーフアップ、紺色の目に赤縁眼鏡を掛けている長身の男が女のような口調で喋る。

オカマやオネエじゃなくて…中性的とな?まあ、そういうことにしておこう。多様性を理解し、分かり合うのは良いことだ。

 

 

「…………俺の名前は美山柊。肩書きは【超高校級の探偵助手】だ」

 

≪そしてボクは探偵助手である柊君の助手ニャンコ・ワトソンニャ!どうして人語を喋れるかはトップシークレットニャ。ボクをモフモフしてくれたりち○ーるを贈呈しても教えたりしないニャ!ニャンニャカニャーン!≫

 

ミヤマ ヒイラギ

【超高校級の探偵助手】

 

ワトソン

【助手ニャンコ】

 

桜色のセミショートヘアにワインレッドの瞳、女みたいな下睫毛が特徴の美形の少年。何なんだ一体、何故俺のクラスメートは美少年が多いのか。俺泣いていい?

その傍らにはマスコットみたいな容姿の緑色の瞳の黒猫がドヤ顔で決めポーズをしている。かわいい。後でモフらせて。

 

 

「やはりトリは私様ですわね!私様は渋谷沙織。地獄の歌姫楽団『ペルセポネー』のリーダーであり、【超高校級のロックシンガー】ですの。いいこと?あなた様がこうして私様と話せる事自体大変貴重ですの、有り難く思いなさいな」

 

 

シブヤ サオリ

【超高校級のロックシンガー】

 

 

オレンジの髪に薄いピンクと赤のオッドアイ、背中にはギターケースを背負ったパンク系の服を着た女の子。うーん、言い方とかが女王様っぽいな。ぶっちゃけ小鳥遊よりも苦手だわこいつ。絶対何かしらマウント取ってくると思うし、極力関わりたくない。

 

あのね紅羽、だからその般若どころか阿修羅様も逃げ出しそうな顔いい加減止めなさい。三十石や刻村が産まれたての子羊みたいに怯えているでしょ!!

 

 

「あっ!そう言えば時雨君の才能って何だっけ?さっき聞きそびれちゃったー!ねえねえ、どんな才能なの!?知りたい知りたい知りたーい!」

 

 

うっ。茉波がキラキラとした目でこっちを見てる。止めろ、そんな無邪気な目で見るな。茉波の言葉を皮切りに皆の視線が俺に突き刺さる。期待通りになるかは不明だが……ええいままよ、腹括れ!

 

 

『えっと、俺の、肩書きは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

【超高校級の幼馴染み】なんだよ』

 

 

マツナガ シグレ

【超高校級の幼馴染み】

 

 

「…………はっ?」

 

「お、幼馴染み…なのか、だよ」

 

「えっ、ちょっと、幼馴染み?幼馴染みって…ファーーー!!あっははははははは!そんなのあるんだ!ウケる、ヤバい!マジでツボった!!」

 

「ふん、私様の才能に比べれば月とすっぽんですわ!」

 

 

塚本テメー削ぐぞ。渋谷、お前が女じゃなかったら即行グーで殴ってるからな俺。

だけど茉波や戌神はすかさずフォローしてくれた。2人共いい奴だな。

 

 

『えっと、これで新入生全員揃ったってことで―』

 

 

「ま、間に合ったーーー!!!」

 

 

体育館の入口から声がした。そいつは全力疾走してきたからか、ゼェゼェと荒い息遣いが聞こえる。

そいつは黒髪の姫カットに金色の瞳、勅使河原とは毛色が違うゴシック調のワンピースを着ている。

 

 

「よ、良かった…初日から、遅刻なんて恥ずかしくて…また不登校時代に逆戻りしてしまう展開に……えっ?」

 

 

『ちょ、ちょっと待て……えっ、お前…米倉!?米倉だよな!?』

 

「あっ…えっ?ま、まさか……松永君!?と、澪島君も……嘘っ」

 

「えっ?時雨君、その子と知り合い?」

 

「あー、し、知り合いというか何というか…俺、米倉の店によく客として来てたから」

 

「……客として?」

 

「…わたしの名前は米倉静奈よ。肩書きは【超高校級の紅茶マイスター】。好きな紅茶はダージリン、好きなスイーツはガトーショコラよ」

 

 

ヨネクラ シズナ

【超高校級の紅茶マイスター】

 

 

「まさか松永君が希望ヶ峰学園にスカウトされているなんて……驚きだわ」

 

『それは俺のセリフだっての!まさか米倉までいるとか聞いてねぇし!』

 

「………………」

 

「わー、紅羽君メッチャ睨んでる!これはもしや修羅場るのか!?」

 

「盛り上がるんじゃないよ出歯亀」

 

「遥音ちゃん酷い!というか抑出歯亀って言うのは女風呂を覗く変態的な男の人を罵っていう為の単語なんだぞ!せめて恋愛脳って言ってよ!」

 

 

出歯亀ってそういう意味だったのか。ありがとう茉波、ちょっと物知りになったぞ。

 

「ところでさぁ~?しぐっちゃん、何で俺達ここにいるのぉ?」

 

『(顔近い!顔近いって蘭!!紅羽がすっげー顔で睨んでる!)何でって、俺に聞かれても困るんだが』

 

「確かに不思議だよねー。あたし達は希望ヶ峰学園に入学したはずなのに…もしかしたらあたし達は集団誘拐されたのかな!?犯人は幼児化する薬を使って悪巧みする黒い人達?伝説の不思議な生き物を悪用する悪の組織?それとも世界をカードゲームで牛耳ることを企む謎の組織!?」

 

 

「いやいやいや。そんなアニメや漫画みたいな話あるわけないじゃんひめっち!あんなのフィクションだよ、フィクション!」

 

「その通りなのだよ茉波クン!第一希望ヶ峰学園の生徒が誘拐されたと判明すれば、学園側が絶対に黙っていないのだよ!警察やFBI、軍の特殊部隊等を使ってでも、わたし達を捜してくれる筈だ!」

 

「けどよー、昇降口の扉が開かないのっておかしくないか?オレ昇降口みてーな所さっき通ったけど、扉がスパイの秘密基地みてーに施錠されてんだぜ!?どう見てもおかしいだろ!」

 

「コーキ君の言う通りよ。ワタシもこの場所は少し異常と思うわ。体育館もそうだけど、教室にまで窓がないなんて絶対おかしいじゃない!」

 

 

……は?昇降口の扉が施錠されてる?体育館や教室に窓がない?そう言えば確か…俺が目を覚ました教室にも窓が無かった。あったと思われる場所は全て鉄板とボルトで完全に遮蔽されていた…まさか、本当に俺達は何かの事件に巻き込まれたのか!?

 

嫌な予感がする。これが夢だったら何ていいだろうか。でもこれは夢ではなく現実だと突き付けたのは、茉波でも蘭でもない。

俺達に現実を突き付けたのは……

 

 

 

 

≪いやっほー!入学生全員集合しましたね!時間内行動を心掛けるのはいいことですよー!!≫

 

 

俺達の前に現れたのは白と黒に体が色分けされているクマのぬいぐるみらしき物体。俺を含めて全員そいつを見て黙りこんだ。そりゃそうだ、ぬいぐるみらしき物体が喋ってるんだもの。

 

 

「はるちゃ、あれって…自律性のぬいぐるみ?」

 

「んなわけあるか。あれは鉄○28号ばりのロボットを操作してる奴がどっかにいるんだよ」

 

「もしかしたらぁ~、22世紀から来たクマ型ロボットじゃなぁい?」

 

「おーいアレ○サー、音楽流してー!」

 

「茉波さん…アレはもしかしたらPe○erくんの弟かもしれないわ」

 

夕海や蘭の著作権スレスレ発言に対し、ぬいぐるみらしき物体はプンプンと怒りながら反論してきた。そして茉波と米倉、2人に釣られて悪ふざけするのは止めなさい。

 

 

≪コラー!ボクは鉄○28号の少年のリモコンで指示出されたりしてないし、22世紀から来たクマ型ロボットでもない!ボクはモノクマ!この私立希望ヶ峰学園姉妹校の学園長なのだ!後ボクはアレ○サでもPe○erくんの弟でもないからね!≫

 

 

モノクマ

【私立希望ヶ峰学園姉妹校学園長】

 

 

…はっ?こいつが学園長?あんなぬいぐるみが?ふざけてるのか?新手のドッキリにしては手が込み過ぎてる。どんだけ金掛けてるんだよ、溝に捨てる程金は有り余っているとアピールしたいのか希望ヶ峰は。

 

 

「所でクソクマ何の用なの?」

 

≪ボクはクソクマじゃないの、モノクマなの!それ以上でもそれ以下でもないの!まったくもー、口が悪いなぁ!……まあいいでしょう。とりあえず入学生の皆さんに重大発表があります!入学早々ですが、今から皆さんには≫

 

 

 

コロシアイ学園生活をしてもらいます!

 

 

…コロシアイ?何言ってるんだ?コロシアイ―バトルロイヤルのようなものを、俺達にやれってことか!?

 

 

「コロシアイって何の話な訳クソクマ。君の言ってる事全然意味不明なんだけど」

 

「クソクマじゃないっての!コロシアイ?そりゃあもう、血みどろや憎悪、欲望と愛憎渦巻く殺伐スクールライフ!他人を蹴落とし、他人を欺き、他人を殺すというエクストリームな学園生活なんだよ!!」

 

 

モノクマの言っていることが全く理解出来ない。否、理解してはいけない。殺し合い?何で、何でそんなことしなきゃいけないんだ……?俺が何をしたって言うんだよ。俺は自分が置かれた状況に頭の中でただ戸惑いながら呆然と立ち尽くす。

 

 

「う、嘘…嘘、嘘、だよね?やっ、やだ!やだやだやだやだやだやだやだ!!何で、何で青奈がこんなことに、巻き込まれなきゃいけないの…何で、何で!?嘘だよ、嘘!誰か嘘だって…言ってよぉ!」

 

「うわあああああぁぁ!何で、何で?何でオイラがこんな目に遭わなきゃいけないんだよおおぉぉ!?」

 

「嫌だよ……何でコロシアイなんて!」

 

「わたくしだって嫌です!コロシアイなんて、わたくしは絶対に受け入れません!」

 

≪コロシアイは任意参加じゃなくて強制参加なの!オマエラにはこれから、絶望的に狂っている学園生活を送ってもらわなきゃいけないの!!≫

 

 

「ふざけんな!何でオレ達がそんなことやんなきゃいけねーんだよ!!!」

 

「イヤよ!血みどろなんて、絶対にイヤ!どうしてなの、どうして……ワタシ達がコロシアイをしなきゃ、戦争みたいなことをしなきゃいけないの!?ふざけないで!!」

 

 

≪はにゃ?ボクは一切合切ふざけてなんかいないよ?マジもマジ、ボクは何時だって大真面目です!≫

 

泣き喚く三十石と塚本。戸惑いながらもコロシアイを拒絶する戌神と勅使河原。誰よりも小さな体で有りっ丈の大声で叫ぶ刻村。誰よりも大きな体で震えながらも確り反論するクロト。

 

「ざっけんな!何であたし達がバトルロワイヤルみたいなことしなきゃいけないのよ!?」

 

「そうだそうだ!あたし達を殺し合わせて、一体全体どうする気だー!!」

 

「ばっちゃんが言ってただ!人様を、大切な命を無闇矢鱈に殺していいわけね゛ぇだよ!!」

 

「そうなのだよモノクマ!貴様の言っていることは、極めて非人道的なのだよ!」

 

「…………………」

 

「あは、あはははははっ!ねえ、何でかなぁ……見るからにヤバい状況なのに…俺、今スッゴく興奮してるんだよぉ!」

 

「ふんっ。どんな状況になろうとも、最後に勝つのは私様ですわ」

 

威風堂々とモノクマへ言い放つ夕海。そんな彼女に続くように反論する茉波、狩谷、小鳥遊。顔色変えずに沈黙を貫く木巾。そんな危機的状況に恍惚の表情を見せる蘭。勝ち気な姿勢を崩すことのない渋谷。

 

「コロシアイ、ですって?……巫山戯ないで。私達は絶対にそんなことしないし、誰にもさせない」

 

「米倉の言う通りだ。俺達同士で命の潰し合いをさせるだと?冗談は顔だけにしておけよ不細工グマが」

 

≪ニャンニャカニャーン!そうニャそうニャ!ぼくよりブサイクなくせに偉そうに言うなニャ!!≫

 

 

拳を固く握りしめモノクマへ強く言い放つ米倉。表情は変えずにモノクマへ憎悪の視線を向ける美山。飼い主とは対照的に火を見るよりも明らかな態度で威嚇するワトソン。

 

だが紅羽は冷静にモノクマに言い放った―こんなの馬鹿げていると。

 

 

「何でボク達がそんなことしなきゃいけないわけ?意味不明なんだけどクソクマ。ホントにクソだよね、クマの癖に」

 

≪クソクマクソクマっていい加減にしなよ!ボクの名前はモノクマだっての!はにゃ?意味不明だって?意味ならあるに決まってるじゃん。だってコロシアイをクリアしなきゃ、ここから一生出られないんだから≫

 

 

『……はっ?ここから出られない?一生?…何なんだよこれ…!意味分かんねぇよッ!!』

 

 

≪ありゃりゃ?ここまで言っても意味が分かんないとか、理解力なさ過ぎじゃない?もしかして松永君ったら、このままみんなで仲良くここを出ようとかそんな甘っちょろいこと考えていたりした?そりゃ残念無念また明日ー!尤も、オマエラ全員に明日が来るかどうかは分からないけどね!この姉妹校から出たいならコロシアイ学園生活をクリアしなきゃいけないの!無論、その為の試練も用意してるけどね!≫

 

「……何のために?」

 

≪何のため?目的はただ一つ!オマエラに「絶望」を与えるため!それ一択のみ!というわけで今からオマエラの電子生徒手帳に校則や地図を送っておくからね!それでは今日はこの辺で、バイナラ!!≫

 

 

そう言った後、モノクマは速やかに教壇から裏方へと走り去っていった。

入学したと同時に俺は―俺達は今まで生きてきた中で最悪な状況に遭遇していた。私立希望ヶ峰学園姉妹校という意味の分からない場所に監禁され、コロシアイという残酷なゲームに巻き込まれた。

仲間を裏切らなければならない最悪な状況に。

 

『何で俺が、こんな目に遭わな……茉波?』

 

その時、俺の隣で声が聞こえた。その声の主は茉波だった。茉波は俺の顔を見ながら、優しい声色で唱えた。

 

 

 

 

―大丈夫だよ、時雨君ならきっと乗り越えられるから。

 

 

この時の俺は、茉波の言葉の意味(ほんしつ)を知る由はなかった。

 

 

 

 

プロローグ END

 

コロシアイ学園生活

 

【生存者 17人】

 

茉波媛子

小鳥遊梓

狩谷美菜子

夕海遥音

三十石青奈

勅使河原和美

渋谷沙織

米倉静奈

女子:8名

 

松永時雨

澪島紅羽

蘭ヒュウガ

戌神狛稀

クロト・ティル・マグメール

刻村コーキ

木巾修二

塚本靖彦

美山柊+ワトソン

男子:9人+1匹

 

 

【希望ヶ峰学園姉妹校入学証】を入手しました。

プロローグ終了の記念品。

内容は汚い手書きの文字で「絶望してね!うぷぷぷぷ!」と書かれており、正面から見て右側にモノクマの顔がクレヨンで描かれている。無駄に立派なハンコも捺されている。




所々加筆修正している…つもりです。
オマケ
みんなの好き嫌い(食べ物編)↓
好き/嫌い
男子
時雨→オムライス(昔ながらの方)/カボチャの煮物
紅羽→刺し身/辛いもの全般、生のショウガ
蘭→パンケーキ/豆乳(豆乳を使った料理もNG)
戌神→マカダミアナッツチョコ/濡れ煎餅
クロト→カルボナーラ/ザワークラウト
刻村→すき焼き/レーズン
木巾→マカロニグラタン/甘ったるいお菓子
塚本→エビフライ/レバー料理
美山→ワンハンドフード/いぶりがっこ
ワトソン→茹でた笹身、マグロ/猫がNGな食べ物全て

媛子→キャラメルポップコーン/酢豚のパイナップル
小鳥遊→みたらし団子/ポテトチップス
三十石→レモンクリームタルト/ほうれん草のクリーム煮
狩谷→肉じゃが/フォアグラ
夕海→苺のケーキ/焼き肉、薄荷飴
勅使河原→エビチリ/なし
渋谷→イスパハン/貧乏くさい料理(本人基準)
米倉→ガトーショコラ/ところてん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。