草神と行くテイワット   作:ぶれーくだうん

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6. ウィンドブルーム祭

「おー。上半身だけで操作していては左右に滑って墜落する。逆に下半身だけだと傾いて墜落する。基本原理は飛行機と同じなんだな」

 

 ウィンドブルーム祭、風花祭ともよばれるそれを迎えた街で、俺は風に乗って空を飛ぶ人々を眺めて感想を呟く。

 ナヒーダも風の翼を借りて挑戦するが、ふらふらと左右にふらつき、そして旋回しようとした際にバランスを崩し墜落した。

 先に体験を終えた俺は、滑空用に備え付けられた台のそばに座り込んでその姿を見守っている。

 

「……いえ、きっとわたくしの運動神経が足りないだけで、この方法で飛べるはず」

「こういうのはむしろ、下手に考えるタイプほどドツボに嵌るから面白いな」

 ナヒーダは何度も挑戦するが、毎回同じようにスピンして墜落する。

 ちょうどライト兄弟が嵌っていたような部類の問題点に彼女も嵌っていた。

 

 

 風の翼体験教室を後にして、二人並んで街を歩く。

 

「おかしいわ。どうしても風から滑り落ちてしまうの」

「上半身に集中しすぎて下半身が硬直していた。それが原因じゃないか?」

「でも細かい操作を考えれば上半身に集中した方が効率的でしょう」

「なら次は逆に下半身だけで操作してみるといい。今度は左右に滑らない代わりに、傾きを復元できずに堕ちるはずだ」

「そうね。実現不可能な案を試しておくことも、学びの一つだもの」

 

 街は賑やかに花で彩られ、吹き抜ける緩やかな風と共に、華やかな音楽が聞こえている。

 無数の出店と何時もよりも増えた雑踏が、春の暖かい陽気の下でまさにお祭りらしさを醸し出す。

 

「……花神誕祭を思い出すわ」

「花神? そんな祭りもあるんだな」

「ええ。花神誕祭とは、花神であるナブ・マリカッタが、先代草神であるマハールッカデヴァータの誕生日を祝ったことに由来するの」

「花神誕祭という名前なのに、花神は祝う側なのか」

 

 スメールは学芸が制限されているらしいが、その祭りはどのようなものなのだろうか。

 流石に祭りの日ぐらいは許されるのか、それともそれすらできず寂しいものなのか。

 

「ちなみにマハールッカデヴァータ亡き後は、クラクサナリデビの誕生日として受け継がれたのよ」

「クラクサ……、って」

 彼女の顔を見れば、"正解"と言いたげに微笑んでいる。

「気づいた? わたくしの誕生日よ」

「そうか、忘れないようにしないとな」

「期待しているわね」

「ハードルをあげないでくれ」

 

 

「あっ、ナヒーダおねえちゃんと黒いおにいちゃん!」

 歩き続けると、赤くて小さい姿がやってきた。

 

「こんにちは、クレー」

「待て。その抱えている危険物をどうにかしろ!」

「ボンボン爆弾のこと?」

 クレーはこれ見よがしに爆弾を差しだす。

 それを見て俺は後ずさる。

 

 ジリジリと下がる俺、ジリジリと迫るクレー。

 赤い小悪魔は面白がって余計に目を輝かせる。

「よーし! いっけー、ボンボン爆弾「クレー!!」……ジンおねえちゃん」

 長身の女性が駆けよって、爆弾を取り上げた。

 

「クレー、私は言ったよな。もしその爆弾を使ったら祭りの期間中、ずっと反省室だと」

「ごめんなさい! でも、まだなげてないよ?」

「そうか。だがクレー、正直に言え。もし私が止めていなかったらどうしていた?」

「……反省室に行ってくる」

 クレーはトボトボと歩き去って行く。

 

「はぁ。まったくあいつは。……君たち、怪我はないな。私は西風騎士団のジンだ。もし何か問題があれば騎士団まで連絡してくれ」

 そういってクレーを追いかけるように長身の女性も去って行った。

 

 

 

 祭りを見て回る途中、ナヒーダに手をひかれ、花屋へと入ることとなった。

 

「ウィンドブルーム祭では、大切な人に『風の花』というものを贈るのよ。でも風の花が具体的に何の花を指すものなのかは分からないの」

「ということはある程度は好きな花を贈っていいわけか。だからこんなに種類が用意されていると」

 様々な種類、様々な色の花が置いてあるので、どれを選ぶかによってその人のセンスが現れるのだろう。

 

「わたくしは蒲公英の花を選ぶわ」

「じゃあ俺が選ぶのは風車アスターかな。きみに似合いそうだし」

 

「……やっぱりもう少し成長して欲しいのかしら」

「へぇ、そういう意味があるんだ」

「否定しないのね」

 小さなナヒーダは、問い詰めるかのようにジッと見つめてくる。

 

「別に肯定もしないよ。今のきみも好きだし」

 それを聞いた彼女は恥ずかしそうに、そして嬉しそうに目を外した。誤魔化せたな。

 

「で、この白い蒲公英の意味は何なんだ?」

「ふふっ、教えてあげないわ! ……でもヒントを出すなら、白い蒲公英は珍しいの。それこそ、それを求めて探さないと見つからないくらいに」

「それってほぼ答えを言っているようなものだったりする?」

「どうかしらね」

 彼女は楽しそうに笑う。

 

 

 昼過ぎには、混雑を避けて少し遅めの昼食を取った。

 場所は『鹿狩り』の二階テラス席。

 丁度、モンドへ到着した日に食べたものと同じだ。

 

「もうモンドに来て一か月ほどになるのか」

「そうね。でも毎日が新鮮で刺激に溢れているから、まだ一か月しか経っていないだなんて信じられないという思いと、もう一か月経ってしまったという思いが半分半分」

「内容が濃くて多彩だから、長くもあり短くもある不思議な感覚だな。でも考えてみれば、雪山探索に行き来含めて十日近く掛けているし、ちょくちょく依頼を受けて外へ出ているからこの街に居る実日数はさらに短いのか」

 

 中学や高校の、学校に入学したての頃のあの感じに近い。

 まあ言わば俺たちはモンド新入生とでも言うべき存在だし、間違ってはいないのだろう。

 

「そういえばそろそろもう一度、雪山へ行ってみたいわ」

「たしか雪葬の都の近郊と、星蛍の洞窟だっけ。近郊って方は雪山の向こう側だし、次はもう少し食料を持って行かないと」

「氷を解いた際に現れた木も、もう一度見てみたいの」

「ああ、あの白銀の木」

 飯を食べながら、簡単に雪山探索の計画を練っていく。

 

 

 

 夕方、景色を見るために城壁の上へあがる。

 周りを見れば、ここはこの時間、ロマンティックな雰囲気を過ごしたい人々が集っているようだ。

 俺たちは昼間に買った小さな花束を交換し、夕暮れの風を浴びながら風景を眺める。

 

「ねぇ」

「却下」

「わたくし、まだ何も言ってないのに」

「こういう場面において、きみの行動はワンパターンだった」

 流石にこんなに人々に囲まれた状況であれこれしたくはない。

 

「なら、驚かせないといけないわね」

 そういって、彼女は頬に顔を寄せてくる。

 彼女にとって身長の差など無意味だ。

 ふわりとわずかに宙へ浮かぶと、頬にキスをした。

 

 その細く柔らかい綿毛のような髪が、風になびいて鼻をくすぐり、彼女の優しい香りを運んでくる。

 そこへ混じる彼女の唇の暖かさは、まるで春の日差しのようだった。

 

 

「これは誓いよ。ところで先日わたくしが何と言ったか覚えているかしら」

「……"誓いであるためには双方が行う必要がある"」

「正解よ。じゃあ、期待しているわね」

 

 彼女は俺の頬にキスをした。そして彼女は、"双方が同じことをしろ"という。

 それはつまり、俺から彼女の頬にキスをしなくてはならない、ということだ。

「やられた……」

 ほんの二手で俺は完全に詰まされた。

 

 

 

「……わたくしは眠るわ」

 軽く夕食を食べて家へと戻った。

 今日は祭日ということで、この祭り期間限定というアップルフラワー酒を少量ながら二人で飲んだ。

 そして就寝の時間になると、ナヒーダはわざわざ"眠る"と口に出しながら腕の中に潜り込んできた訳だが。

 

「わたくしは今、眠ったの」

 わざとらしいセリフに冷汗が流れる。

 

「ところで、わたくしは誓いの証をまだ貰えてない気がするのだけれど、次に目を開くまでには貰えていると信じていいのかしら?」

 長い耳をピコピコと軽く揺らしながら、期待と不満が半々といった感じの声色で彼女は言う。

 

「はぁ…」

 無視するのは流石に気が引けるのでさっさと済ませてしまおう。

 そう、意を決して頬に顔を近づける。

「ふふっ。息が掛かってくすぐったい」

「寝ているんじゃなかったのか」

 子猫がじゃれるように身じろぐ彼女。

 細く柔らかく、若干癖のある髪がベッドへ広がった。

 

「ええ、寝ているわ。だからこれは全て寝言よ。ふふっ」

「あまり揶揄うようなら、こちらにも手はあるからな」

「あら、どうするのかしら」

「後悔するなよ?」

 ここまで手玉に取られると復讐したくなる。

 

「えっ?」

 目の前で揺れる彼女の長い耳、その先端を咥える。

 軽くキスするように何度も、何度も耳の先端を食む。

 そして彼女の減らず口が完全に沈黙したのを確認してから、その赤く染まった頬に口づけを落とした。

 

 

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