草神と行くテイワット   作:ぶれーくだうん

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7. フィンドニールの頂上へ

 アカツキワイナリーから龍眠の谷を経由して、雪葬の都近郊へとやってきた。

 今回の目的は、冒険者協会の玉霞さんに教えてもらった二か所の探索。

 

「これか」

 たしかに妙な青色の植物が生えている。

 彼女の推測が正しいならば、この付近にも奇妙な氷があるはずだ。

 そしてそれを溶かすことで頂上への道を閉ざす異様な猛吹雪を越えることができるかもしれない。

 

 周囲を見ればどでかい人型機械が、俺たちを囲うように何台も座っている。

「もしかしてこのロボットって動いたりする?」

「どうやら装置と連動しているみたい。少し待っていて」

 ナヒーダは無力化するためにロボットに触れて回った。

 

「これで大丈夫よ」

「んじゃ、あとは俺の役目か」

 スマホ端末を利用し、元素石碑というものに氷元素を吹き付けていく。

 すると氷の床が崩れ落ち、その穴を覗き込めば下方に例の奇妙な氷が見えた。

 

 ナヒーダに頼んで地下へ降り、念のため地上と同様にロボットを無効化すると、周囲の赤い岩を利用して奇妙な氷を溶かす。

「また出たな」

 溶けた氷から現れた球体に触れれば、やはり飛び去って行く。

 

 

 

 一度雪山の外へ出て野宿し、雪葬の都の近郊付近から雪山を登り直すことで星蛍の洞窟へ。

 

「これはまた、とんでもない」

 山の内部には広大な地下空間が広がっていた。

 

「マグマだまりがそのまま洞窟になったのか」

 たしかアイスランドあたりのスリーヌカギガル火山がその例だ。

 だからまあ、あり得ないものではないのだろうが、ここまでの規模となると圧倒される。

 

 下へ下へと降りていけば、例の氷は見つかった。

 氷に近づく。

 

 

「Hu hu hu hu」

 

 黒い仮面、白いローブ、謎の杖、そして雪色のバリア。

 以前に出会ったものの色違いがそこにいた。

 

「炎元素を使ってバリアを割ってちょうだい! その後はわたくしが!」

 以前苦戦したあとに、こいつの対処法は聞いている。

 どうやら纏っているバリアがほぼ本体であり、それさえ割ってしまえばほぼ無力化できるらしい。

 

 動き自体は早くない。

 しかし頭上から狙われるとどうしようもない。

「くっそ!」

 脳天に直撃した氷柱を緑色のバリアが防ぐ。

 衝撃で飛びかける意識を食い止める。

 

 『戻りなさい』という声でナヒーダの近くへ下がり、バリア用のエネルギーを充填しなおしてもらうと、また相手へ突撃する。

 それは格好良さもなにもない泥仕合だった。

 

 

「……ごめんなさい。神の心があれば、もっとやりようはあったのだけれど」

 どうにか白い魔術師を撃退できたが、目に見える怪我は負わずに済んだものの、バリアを貫通した衝撃はダメージを蓄積させた。

「怪我をしたわけじゃないから大丈夫だ」

 多少強がりが入ってはいるが、まだ動ける。

 

「とりあえず氷を溶かそう」

 気を紛らわすために率先して周囲を探索し、三つ目の奇妙な氷も溶かすことに成功する。

 これで情報のある場所は全て回ったことになるので、一度吹雪の様子を見に行くこととする。

 

 コンパスを見ながら星蛍の洞窟を登っていくと、都合よく旧宮側の出口を見つけることができた。

 後から気づいたが、山に埋まる鉱石によって磁気異常が生じて方位が狂っていたので、その点でも運が良かった。

 

 

 

 頂上への道を閉ざす吹雪は消えていた。

 

「ここまで来たらこの先まで行ってみたいわ。いいかしら?」

「前人未踏だといえるのは吹雪が消えたばかりの今ぐらいだろうし、先を越されない内に行ってみようか」

 

 ナヒーダに助けてもらいながら、山の中を通る洞窟山道を、休み休みほぼ垂直に登っていく。

 これは明らかに何らかの遺跡であり、どうやらここはかつて滅びたという国と関りがあるようだ。

 

 洞窟を抜けた先には、杭のような形をした巨大な柱が鎮座している。

 それを見たナヒーダが「これは」と意味深な言葉をこぼした。

「で、これはいったい何なんだ?」

 そう問いかけるが、返事は無い。

 

「……害はないでしょう」

 彼女はしばらく考え込んでから、そう述べた。

 

 

「どうやらわたくしたちが見つけた球体が、再度凍ってしまったようね。もう一度溶かす必要があるわ」

 

 彼女の言に従ってまた赤い岩を探し、奇妙な氷へぶつけにいく。

 最初の一つは丁重に登って作業をしたが、残り二つはナヒーダに植物で投げて貰った。

 コンピュータじみた能力を持つ彼女なら弾道計算はお手の物。……ただし本人の身体で投げない限りは。

 

 球体を一つ解凍するたびに、謎の柱は修復されていく。

 そして三つすべての氷を溶かせば、ひときわ大きな地響きと共に柱の根元の氷が砕け、柱は空高くへと登っていった。

 

「結局これはなんだったんだ?」

「寒天の釘よ。シャール・フィンドニールを滅ぼしたとされるもの」

「えぇ…、そんなのを修復して大丈夫だったのか?」

「おそらく大丈夫」

 本当に大丈夫なのか不安だが、なぜか彼女はあまり語りたくなさそうなので黙っておく。

 

 

 杭の登った跡地を覗き込むと、そこには大きな扉と共に財宝が隠されていた。

「雪山の謎と、隠された財宝。まるでお伽噺みたいだ」

「ええ。本当にお宝が隠されているだなんて思わなかったの。風に揺られた蒲公英の種が新天地を見つけたときは、きっとこんな気持ちなのね」

 

「それじゃあ記念に写真を残そうか」

 二人で宝箱に乗っかり、笑顔で記念撮影をする。

 

 モンド城下を出発してからで考えると、今回の旅はもう一週間近くになる。

 一度雪山の外へ抜けたのでずっと銀世界の中で過ごした訳ではないが、時には彼女の力でシェルターを作って宿泊したり、食料温存のために食べ物を集めたりと、それなりに苦労した。

 その努力が報われて、まるで冒険譚かのようにお宝へと辿り着けたのだから、嬉しくないはずがない。

 

 

 宝の次は、氷の下へ埋もれていた大きな扉。

 恐る恐るその扉をくぐると、その先は天井の一部が開けていて空を見ることのできる、半地下状の大きな洞窟となっていた。

 ナヒーダによればここは、かつて滅びた国であるフィンドニールの祭儀場であるらしい。

 その祭壇には大きな祭礼用の剣が納められていた。

 

 扉を出て宝箱の前まで戻る。

 

「この上が本当の頂上だけど、行かなくていいのか?」

 財宝を見つけた場所は窪地となっていて、山頂の中央ではあるが頂上とは少し異なる。

 しかしこれ以上登る場合は吹雪の中、延々と断崖絶壁を上がることとなるので、壁登り用の装備でも持ってこないことには難しい。

 

「見える限りでも、ここから上は本当に過酷な登山となるのではないかしら。それにもうすでに大冒険をしたのだから、これ以上を望んでは欲張りになってしまうもの。帰りましょ?」

 食料も心もとないし荷物も増えたので、これ以上の登頂は現実的ではない。

 そのことが彼女も分かっていたのだろう。

 

 二人で手を繋いで、その場を去った。

 

 

 麓まで一気に降りることは難しいので、途中でビバークをする。

「植物を地面から生やしてテント代わりにできるってやっぱり便利だな」

「便利な女、というやつかしら?」

「それ、どこから覚えてきたんだ?」

 たぶん小説からなんだろうけど。

 

「ふふっ。わたくしが居てよかったでしょう」

「ああ、本当に助かってるよ」

 笑い合いながら二人寄り添う。

 

 彼女には本当に助けられている。

 そして、彼女が困難に立ち向かう時のその眼差し。

 相手を"倒す"という明確な意図が読み取れるのに、相手を害そうという攻撃性は読み取れないその、まるでスポーツ選手かのような真っすぐな眼差し。

 璃沙郊で見たときから変わらぬそれに、俺は心を奪われた。

 

 ただ、男女の関係かと言われると少し疑念を抱く。

 

 決して、女性としての魅力を感じていない訳ではない。

 だが俺は同時に、頼りになる妹、実年齢的にいえば姉、という感情も抱いてしまっている。

 ……それを彼女も、何となしに感じ取っているようだ。

 

 

 

 拠点へ帰還し冒険者協会の玉霞さんに報告すると、報告書として本を書いて欲しいと言われた。

「報酬は十分に出す。その貴重な体験を残すことを一考してくれ」

 

「わたくしが書いてみたいわ」

 ナヒーダは執筆に意欲的な態度を示す。

 まあ、知恵の神を自称する彼女がそれに興味を持つのは当然のことなのだろう。

 

 財宝は目録だけ作成し、玉霞さんへ預けることにした。

 引きずることのできる雪原ならともかく、平地を長々と運ぶ気にはなれなかったのと、玉霞さんがそれを研究したいと言ったためだ。

 帰離原で得た金銭がまだ残っているのもあり、俺たちは財宝自体には執着がない。

 

 

 順調だったこの旅が転機を迎えたのは翌日、冒険者拠点を出発した日の深夜だった。

 

 

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