カッコいい女に愛されるシチュ   作:もぐら王国

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鍛冶屋が愛される

腕利きの冒険者たる私は鍛冶屋を探していた。

愛用の剣は壊れてしまった。甲羅が岩のように固いロックタートルを真っ二つに切り裂いたときに、ぽっきり折れてしまったのである。いくら腕が立つとはいえ、武器が無いのは流石に不味い。新たな相棒に相応しい剣を見つけるのは後にするにしても、先ずは当分の間を凌ぐための剣が必要であった。そのために近くの小さな町に立ち寄った。

鍛冶屋に辿り着いた。決して大きくはない木造の素朴な店構え。繁盛はしていないのかもしれない。だが、なまくらの1本や2本なら流石に置いてあるだろう。

私はそう思って、あまり期待せず軋む扉を開けた。

 

キィー

 

「おう、いらっしゃい」

 

まず出迎えたのはカウンターに立つ女の気持ちのいい朗らかな声であった。後ろで髪を束ねたその壮年の女性は真っ直ぐとした視線を私に向けてきて、随分と快活な印象を受けた。あえて言うならば、”陽だまりの似合う女性”だろうか。

だが、店員が良い面構えをしているからと言って、お店も素晴らしくなるかと言えば必ずしもそうではない。

私はそう思って、挨拶もそこそこに店を見渡す。

 

……ふむ

 

内心呟いた。

壁の隙間を埋めるように吊り下げられていたのは大量の武器と防具。小さい店だからさぞ商品が少ない事だろうと勝手に侮っていたが、どうにもこれは間違いだったと認めざるを得ない。商品の数に関しては街の鍛冶屋と同等と言えるほどだった。

品揃えは、素晴らしい。

だが、大事になってくるのは品質だ。いくら量があろうとも質が悪ければ意味がない。品質こそがそのモノの価値を決めるのだ。

私はそう思って、手近にあったアーマーに触れた。

 

指先から伝わる金属部品同士の重なり、繋がり、頑丈な手触り。

 

「……良いな」

 

良かった。

その作品には職人の確かな技術の高さを思わせた。値段を見れば500Gと表記があるがこれはそれ以上の価値が確実にある。なんなら倍でもいい。

 

 

「良いだろう? それは私が作ったもんだからな!」

 

カウンターの女の嬉しそうな声が横から飛んできた。見れば笑みを浮かべてこちらを見つめていた。なるほど、道理で筋肉の付いた逞しい腕だと思っていた。店員であり腕の立つ職人でもあるわけか。

気になった私は、他の防具も試しに触れてみたが、どれもしっかりした作りである事が伺えた。

つまり防具も、素晴らしかった。

私は後ろに振り返る。

ならば、本題に移るとしよう。

剣だ。

所詮はその場しのぎ。簡単なもので構わないが、なまくら過ぎては駄目だ。せめて私の振りに耐えうるだけの丈夫さは持っていて欲しいものだが……。

そう思いながら適当に1本手に取り、振る。

 

ブンッ

 

「……素晴らしい」

 

素晴らしかった。力を乗せるのに丁度良い重さに手に馴染む持ち手の形、何より刀身が良いしなりをする。空気を切り裂く音からも剣が丈夫なことが伺える。間違ってお店自慢の一品を手に取ったりしたんだろうかと値段を見たが、他に並べられている剣と大して変わらない。つまり、このクオリティの剣がこの店では普通だということになる。

 

「良い剣だろ」

 

再び女の声がした。

 

「ああ。驚くほどに出来栄えの良い剣だ。これも貴方が?」

「いいや。それは私の夫さ。それだけじゃない、武器は全て夫の手でつくられた物さ」

「実に素晴らしい腕前だ」

「当然さ。なんたって、うちの夫だからね」

 

女はまるで自分の事のように腕を組んで誇らしげにしていた。左薬指の指輪が光る。夫の事を心から自慢に思っているのだろう。

しかし本当にすごい。女が作った防具も相当出来の良い物であったが、剣に関してはもはや、そこらの街の鍛冶屋など到底太刀打ちできないであろう品質を見せている。

 

「貴方の旦那は有名な鍛冶師なのか?」

「そうなら、こんなに素朴な店じゃないさ。ただ、お得意様は多いね」

「それはそうだろう。こんな良い剣をこんな現実的な値段で沢山売っているなんて、そうあるもんじゃない」

「夫の方針でね。少しでも安くして必要とする冒険者に自分の剣を使ってもらいたいってさ」

「職人の鑑だな」

「だろう」

「きっと何十年も金槌を握ってきた熟練の職人なのだな」

「そうだね。少なくとも私が冒険者をやっていた20年前から、夫はずっと鍛冶屋さ」

「貴方は冒険者だったのか」

 

女の旦那が随分と長いこと鍛冶師をやっているという事実はある程度想定していたのでそれほど驚かなかったが、女が元々冒険者であるということはまるで予想していなかったので驚いた。女の冒険者は本当に数が少ないのだ。

 

「聞いたことないかい? “竜殺しのイリア”とかいうへんてこな名前」

「当然あるに決まっている!」

「それ私」

「……なっ!?!?」

 

悪戯が成功した子供のようににやりと笑う女に、私は開いた口が塞がらない。”竜殺しのイリア”と言えば当時、いくつもの国を襲って恐れられ災害とまで呼ばれていた巨大な火竜を唯一討伐した英雄としてその名を轟かし、

その後も狩猟難易度Sランク相当の竜を何体も狩ったとされる伝説の冒険者であった。

引退したとは聞いていたが、まさか辺境の町で鍛冶屋を営んでいるとは思いもよらなかった。

 

「随分と驚いているようだけど、まあ、昔の話さ」

「……」

「ふふ。そんで当時、私の剣を打っていたのが今の旦那ってわけだ」

「竜を斬る剣を……」

それを聞いてこの店の剣の品質に納得がいった。竜の鱗は恐ろしく硬く、腕の立つ鍛冶師の名刀でもなければ傷を与える事すら出来ないのだ。それを可能とする剣を20年前から打っていたとすれば、それはもうとんでもない技術を持った鍛冶師ということになる。全く、女も、その旦那も只者ではない。

 

「だが、どうして冒険者をやめて鍛冶師になってしまったんだ。貴方なら今でも全然続けられていただろうに」

「それはまあ色々あってね。でもあえて言うのであれば、”鍛冶師の男に惚れたから”さ」

 

女は少し照れながらもそう言った。私にはまだ愛だの恋だのは分からないが、人に惚れるというのは人生をがらりと変えるほどの強烈な情動なのかもしれない。

だがこうなると、気になってきてしまう。

適当に掴んだ剣がこれほどの高品質だとすれば、この店にはもっと出来の良い剣があるのではないだろうか。誰もが憧れた冒険者が惚れ込んだ夫の打つ自信作。

願わくばそれを、買いたい。

私はそう思って、カウンターの女に声をかける。

 

「この店で一番丈夫で切れ味の良い旦那さん自慢の剣を見せてくれ」

「あいよ」

 

女はそう言われるのを待っていたかのように快く承諾して店裏に引っ込むと、次には長い木箱を脇に挟んで戻ってきて、私の前にドンっと置いた。

 

「これが夫の一番の自信作だ」

 

木箱を開けると、鳥肌が立った。

その剣は見つめるだけで自身が切り裂かれるような錯覚を覚える程に見事な名品であった。

手に取ると尚の事伝わるその完成度。まるで最初から体の一部であったかのように寸分の狂い泣く力が伝わり、自由自在に振り回すことが出来た。以前私が愛用していた剣に勝るとも劣らない、まさに至極の一品。

 

「こんなに出来の良い剣には初めて出会った」

「そうだろう。私の夫は世界一さ」

 

青空のように爽やかな笑顔。

彼女の笑みからは本当にそう信じて疑っていないという全幅の信頼が感じ取れた。

 

「言い値で買おう」

 

私はこの剣を買うことに決めた。

 

 

 

支払いを終えると、女は後ろを振り向き夫を呼んだ。

 

「おい、あんたぁ!」

 

すると店裏から足音が段々と近づいてきて、やがて熊のような大柄な男が現れた。私は目を見開く。多くを知るかのような落ち着いた瞳に、丸太のように太い腕に、節くれ立った無骨な手。まさに熟練の職人を思わせる風貌であった。

男は女の横にぴたりと寄り添って立った。

 

「このお客さんがあんたの剣買ってくってさ」

「そうか」

「ほら、しゃきっとしな」

「お、おう」

 

背中を叩かれた男は寝起きだったのか、背筋がぴんと伸びてさらにデカくなった。見た目の割には妻の尻に敷かれているようだ。そう思うと少し可笑しかった。

なにはともあれ。

夫婦はこちらを向くと、

 

「ありがとな、兄ちゃん」

「旅の幸運を祈ってるよ」

 

と、それぞれ温かい声をかけてくれた。

かつて名声を意のままにした伝説の冒険者とベテラン鍛冶師。人間として二人は私よりもずっと格上であるが、その経歴に決して奢らず相手を見下す事もしない、純粋な応援の言葉であった。

私は深い感謝の言葉を残し、その場を後にした。

 

良い店に出会えたし、良い剣に出会えた。

なにより、良い二人に出会えた。

 

ああいう夫婦は、いいなと思った。

 

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