カッコいい女に愛されるシチュ   作:もぐら王国

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吸血鬼に愛される

酔っ払いたちの楽しそうな騒ぎ声で賑わう夜の酒場。そこで三人の盗賊が丸テーブルを囲んで話し合いをしていた。

 

「お頭。次の標的は見つかったでヤンスか?」

「お頭。次はだれを狙うんでガスか?」

 

ひょろっとした男とぽっちゃりした男にそう尋ねられ、お頭と呼ばれた髭面の男は二ヒヒと笑う。

 

「聞いて驚け。次の獲物は……ラグナ博士だ!!」

「「おお~~」」

 

子分の二人は揃って驚きの声を上げた。

 

「ラグナ博士って天才物理学者で稀代の発明家とも言われているあの、ラグナ博士でヤンスか!?」

「そうだ。そのラグナ博士だ」

「良く分かんないけど、そんなに凄いんでガスか?」

「何も知らないでびっくりしてたんでヤンスか?」

「ガス」

「はあ~。いいでヤンスか。ラグナ博士は本当に頭の良いやつで、グリ公国に隕石が落ちる正確な時刻を計算で導き出したり、皆使ってるこのランプを発明したりした博士でヤンス!」

「それは凄いでガス!」

「凄いでヤンス!」

「ガス!」

「ヤンス!」

 

二人はそうして意味のない単語を発し合って遊び始めたが、不意にひょろっとした方が気付いた。

 

「でも、おかしいでヤンス。あの人、二十年前にぱったりと消息を絶って、今も行方不明の筈でヤンス」

「おお。物知りじゃねえか」

「げへへ」

「ヤンス、やるでガス」

「でも、博士がいなかったら盗み用が無いでヤンス」

「その博士の家が見つかったと言ったら?」

「「ええ~~」」

 

子分の二人は再び声を揃えて驚きの声を上げた。

 

「どうやら博士の家はこの街の外れ。森を抜けた先に建つでかい館らしい。そして研究と発明はその地下室で行われている」

「だからこの街に来たんでガスね」

「ああ、そうだ。しかも俺の読みが正しければ、博士はきっと、世に公表できないようなとんでもない発明だか研究だかを二十年もの間行ってきた筈だ。だから消息を絶った。感づかれないために」

「っぽいでヤンス!」

「しかも! 今は博士がどういう訳か館にいないらしい!」

「……つまり、どういうことでガス?」

「つまり、大天才が長い時間をかけて作り出したお宝がきっと地下室で無防備に眠っている! 俺たちが今のうちにその成果をちゃちゃっと盗み出して売れば、何十億のお金が手に入っても全くおかしくない!!」

「「おお~~~~」」

 

子分二人は興奮で声を漏らした。「「お宝♪お宝♪お宝♪お宝♪」と二人で唄いながら小躍りした。

しかし

 

「怖い噂を思い出したでガス」

 

不意にぽっちゃりした方が動きを止める。

 

「どんな噂でヤンス?」

「ラグナ博士の研究所に盗みに入った盗賊はみんな帰ってこないんでガス」

「ヤンス……?」

「なんでも緑の怪物に食い殺されるとかって聞いたでガス!」

「ひええでヤンス!!」

「ひええでガス!」

「ヤンス!」

「ガス!」

 

抱き合う二人をお頭が呆れた表情で見た。

 

「ビビるなお前ら! 俺たちは将来、天下に名を届かす大盗賊だ! こんなところでビクビクしてちゃ話になんねえぞ!!」

「そ、そうでヤンス」

「間違いないでガス」

「よし! 決行日は明日だ! そのために今日はたらふく飲むぞ!!」

「「うおおお~~~」」

 

三人は心を昂らせ盃を交わした。

 

 

 

 

そうして三人は洋館の前に立っていた。

 

「でけえな……」

「立派な洋館でヤンス……」

「すっげえでガス……」

 

洋館は大きく立派で不気味な雰囲気を漂わせていた。特別何がという訳でもないが、強いて言えば人の気配のない館というが気味の悪さを思わせた。お化けでも出そうである。

そんなどうでもいい事を思いながら、お頭は早速館に入るためのルートを探すことにした。玄関は当然空いていないだろう。ならば周りの別ルート。例えば煙突とか……。そうして子分を連れて歩き出そうとしたとき、突然に、

 

きいいいぃぃ

 

甲高い音を立てて正面玄関が空いた。三人は顔を見合わせる。現れたのは、全身を黒の執事服で身を包んだ、麗人を思わせるすらりと背の高い中性的な顔立ちの女性であった。

 

「やあ。お客人。何か御用かな?」

 

物腰柔らかな口調でそう尋ねてきた。お頭はつい身構えたが、冷静に考えれば開かないと思っていた玄関は開いたし、出てきたのは女性一人である。男三人の盗賊がその気になれば勝てるに決まっている。

そう思ってお頭は強気に出た。

 

「俺たちは見ての通り盗賊だ。お前の主人の宝を奪いに来た」

「宝? そんなものあったかな?」

「地下でずーっと研究だか発明だか知らんが、こそこそやってきたやつがあるだろ」

「ああ。そのことか。うんうん、確かにそれは宝だね」

 

彼女の反応を見て三人は内心大喜びした。予想は大当たり。館の地下室にはとんでもないお宝が眠っている。そうと分かれば、三人は邪悪な笑みを浮かべずにはいられなかった。

しかしそんな浮かれた彼らの希望を、彼女の次の一言が打ち砕く。

 

「でもね。それは僕にとっての宝であって。君たちには一銭の価値にもならないと思うよ」

 

これにはお頭も尋ねずにはいられなかった。

 

「なぜだ」

「なぜって。そりゃぁ、彼が研究しているのは“吸血鬼が日に当たっても死なない方法“だからさ」

「……?」

「だから、僕は吸血鬼で、彼は僕の為に“吸血鬼が日に当たっても死なない方法“を研究してるんだ」

「はぁぁぁ!?」

 

思わず素っ頓狂な声が出た。

きゅうけつき。キュウケツキ? 吸血鬼!?

 

「がははははははは」

「あひゃひゃひゃひゃ」

「ガスガスガスガス」

 

三人は大笑いである。可笑しくて可笑しくて仕方がない。吸血鬼など大人が子供を早く寝かしつける為に言い聞かせる常套句で迷信でつまりフィクションだ。存在などしない。そんなものを信じるのはせいぜい下の毛も生えていないガキくらいもんだ。それを大真面目に目の前の女が語っている。こんな愉快なことはそうそう起こらない!愉快!愉快!

だから、気付かない。

気付けない。

目の前の女の瞳に怒りが宿っていることに。

 

「ああ……そっかそっか。馬鹿にしちゃうのか。これは……実に不快だなぁ……」

 

彼女は静かに怒気を孕ませた口調で言った。

 

「僕はね、花が大好きなんだ。アネモネとかチューリップとかね。でも綺麗なあの子たちは夜になると閉じてしまう。僕は夜しか出歩けないというのに……だから、それを知った彼が僕に約束してくれたんだ。“一緒に太陽の下で満開の花畑を見に行こう”って。それからもう二十年、彼はただ僕の為だけにずっとそれについて研究をし続けている」

「おいおいぃ。もう勘弁してくれぇぇ。息が出来ないぃひひひひぃぃぃ」

「そうだよね。分からないよね。この事実が、僕にとってどれだけ嬉しいことか。吸血鬼の寿命は数百年だけど人間の寿命はせいぜい60年。それでも彼は貴重な時間を僕の為に費やしている。そんな彼が、どれだけ愛おしいか。彼の研究が、どれだけかけがいの無いものか」

「いやいや。分かるぜ。惚れた女が適当についた嘘を真に受けて全部ドブに捨てている愚かな男ってことだろ!哀れだなラグナ博士はよぉ!!」

「うーん。僕はもう限界だな……」

 

そう言って彼女は指をパチンと鳴らした。すると、彼らの足元で地響きが起こり、やがて地面から巨大な食虫植物が姿を現し、彼らの前にそびえ立った。全長3m。太く長い茎の先には口のように開き、外側に獲物を逃がさぬように大量の棘を生やした内側の赤い二枚の巨大な葉っぱ。その緑色の怪物が、盗賊たちを見下ろす。

 

「なんだ……こいつら……」

「怖いでヤンス」

「ガス……ガス……」

 

盗賊たちは顔を強張らせた。そんな怯える彼らを見て、彼女は尋ねた。

 

「どうだい。せめて謝罪する気はないかい? 僕は寛容だからね。ああ勿論、謝罪は僕ではなく、僕の大事なパートナーに対して」

「お前ら逃げるぞ!!」

「了解でヤンス!」

「逃げるでガス!」

 

盗賊たちは彼女の与えた最後のチャンスも無下にした。背中を見せて逃げようとする。そんな彼らが行きつく先は、決まっている。

 

「捕まえろ」

 

彼女の冷たい声に命じられ、食虫植物は彼らに蔓を巻き付け軽々と捕えた。そのまま断頭台よろしく、食虫植物の皿のように開いた口の上に乗っけられる。

 

 

「くっそおお」

「離すでヤンス!!」

「やめろでガス!」

「ふふ。この子たちは、僕の血を与えて育てたんだ。いわば僕の眷属。だからこの子たちは人間の血に飢えているんだよね」

「頼む。何でもするから許してくれ!」

「じゃあ跡を残さず綺麗に死んでね。君たちみたいな下衆な輩は彼の視界に入れたくないからさ」

 

そう言って、彼女は不敵に笑った。

その八重歯は鋭く尖っていた。背中からは黒い翼が生えていた。

吸血鬼は目を細めた。

 

「さようなら」

 

食虫植物は口を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「ああ、おかえり。今回は早かったね」

「うん。東の方で吸血鬼についての素晴らしい文献を沢山手に入れてきたんだ。これで上手くいくかもしれない」

「ふふ。いつもの台詞だね」

「いや。今回はとても自信があるから、期待してくれて構わない。それよりも、留守中は何かあったかな?」

「なにも。至って平和だったさ」

「そうか。留守番ありがとう。お土産をたくさん持って帰ってきたから後で一緒にお茶にしよう」

「それも良いけど。僕は……君の血が飲みたいかな……」

「分かった。お茶の後のデザートにすると良い」

「やった。久々のご馳走だ!」

「少しは手加減してくれよ」

「分かってるさ。君を抱きしめて、大事に大事に一日中吸うんだ」

「……吸われ過ぎて干からびそうだ」

「ふふっ」

 

 

 

 

 

 

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