カッコいい女に愛されるシチュ   作:もぐら王国

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ボスに愛される

青年はボスの部屋を目指して廊下を歩いている。ボスはもうすぐ武器商人と麻薬売買人と人身売買人と政界の要人と立て続けに取り引きがある。青年は世話係を任されている。だからボスを起こす必要があった。

ボス。

凶暴な女性であった。元々は巨大マフィアの一員で、とにかく血の気が多くて血生臭いのが大好きで頭がキレて、気に障った敵組織をいくつも壊滅させていた。その凶暴さが手に負えなくなってマフィアを追放されてからは自身をトップとするマフィアを設立。

好んで争う脳筋マフィア。

そのボス。

周囲からは最恐の女ととして恐れられた。

その通り。彼女に天敵などいなかった。

しかし欠点はあった。

 

無類の女好きだったのである。

 

「ボス、入りますよ〜」

 

ガチャ

 

「おう」

「きゃあっ!?」

 

ベッドの上。布団で体を隠す裸の女。堂々とあぐらをかくボス。

今日もボスは予定を忘れ、女とまぐわっていたらしい。

 

 

「はぁ……」

 

青年は溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

「ボス。僕昨日言いましたよね。明日は朝早くから予定が詰まっているって」

 

ボスに服を着させたり髪を整えたりと身支度を手伝いながら青年が言った。少し説教くさい物言いは他の組員が真似したら間違いなくボコボコにされるが、彼女との付き合いが長い青年は唯一許されていた。

 

「覚えていらっしゃいましたか?」

「ああ。確かに聞いた」

「ですよね。何度も言ってますもんね。次の日が朝から仕事の時は控えてくださいって」

「そうだな」

「ではなぜ女を抱いたんですか!」

「抱きたかったんだからしょうがないだろ!」

「答えになって無いですよ……」

 

青年は呆れたように呟いた。もう、お決まりのやりとりだった。彼女は頑なな意志で女を抱く事をやめない。

 

「というかそもそもあれ、いま、ウチとピリついてるマフィアの女でしたよね?」

「ほう。よく気付いたな」

「よく気付いたな、じゃあないですよ。ボスが女に手を出した事が原因で、マフィア同士の関係性が拗れて、抗戦に発展した事例が今まで何度あったと思ってるんですか?」

「恋には敵が多いものだ」

「違いますよ。ハニートラップですよ。いい加減、他所のマフィアの女を相手にするのやめてください」

「寄ってきた女を本気にさせるのが最高に興奮するんだがなぁ」

「お願いですから堪えてください」

 

彼女は口のへの字にして不服そうな顔をした。

しかし、いずれは彼女の女癖が原因ではっきりと戦力差があるような超巨大マフィアとの抗争にも発展しかねない。無論、イかれた彼女と仲間たちはそんな事にも臆せずに、むしろ喜んで争い、やがて敵を沈めてしまうのは想像に難く無いが、それでも争いは出来るだけ避けるべきであると、マフィア内では珍しく冷静な男である青年は思っていた。

 

「あとウチの女に手を出すのもやめてください」

「それは良いだろう。仲間なんだから」

「良くないです。ボスはご存じないでしょうが、ウチの女たちは軒並みボスに惚れているので、ボスを巡って取り合いが起こってるんですよ」

「ほう」

「まるで東の国ジャパンの昔話です」

「私はモテモテだな」

「そんな呑気な事を言ってる場合ではありません。この前だって、拳銃を撃ち合っての喧嘩にまでなってたんですから。ボスのせいで仲間の血が流れて良いんですか?」

「よし分かった。喧嘩になったら全員私のところに連れてこい。まとめて相手をシてやろう」

「女たちは自分が一番にならなければ満足しませんよ」

「私にとってはみんな一番だ」

「手を出さないのが一番です」

 

ボスはさらにつまらなそうな顔を深くした。当然だろう。彼は思う。ボスはまるで習慣のようにいつも女と寝ていたのだから、それをするなと言われれば面白くないに決まっている。だが女と愛し合う事を完全に辞めさせようとしてるわけではない。要は、マフィアと繋がりを持つ女と関係を持たなければ良いのである。だから一般人と……は相手が危険に巻き込まれるし、夜の店は……ボスについての情報が漏れるし……考えてみると難しい。一番良いのは、信頼できる特定のパートナーを持つことだろうか。それでも、毎夜ボスを相手に出来る程のスタミナを持つ女などそうそう居るはずもないが……。

 

「それならば仕方ない」

 

彼女がさらりと呟いた。

 

「今度からお前に相手をしてもらうからな」

「……え?」

「お前が私に抱かれるんだ」

「はい!?!?」

 

彼は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。彼にとって彼女の発言は、あまりに予想外であった。

 

「な、何を行ってるんですか!?」

「別に話の流れからしたら可笑しくはないだろ」

「可笑しいですよ! 僕はこの通り男ですから!」

「問題ない。お前は確かに男だが女のように可愛いからな」

「意味がわかりません」

「いや分かる。そもそもお前を私の世話役に任命していたのも可愛いと思って目をつけていたからだ。もちろん男に違いは無いから今まで手を出すのは遠慮していたが」

「そんな現金な理由だったんですか」

「当然有能なのも理由の一つだ。有能で可愛い。最強ではないか」

 

彼はボスの言っていることがほとんど理解出来ていないが、尚も彼女は続ける。

 

「私から女を取り上げようと言うのだ。それくらいは勿論してもらうぞ」

「しかし」

「楽しみだな。お前はどんな顔をするのだろうなぁ。私が他の女に与えてきた愛の数々をお前ただ一人に与えてやるからな」

「ひっ」

「大丈夫。お前は丈夫だから壊れないだろ? それにほら、望むプレイがあるなら言ってみろ。お前に合わせてやる」

 

そう言って彼女は彼の耳元に口を寄せると、いつも女にしているプレイ内容をぼそりぼそりと呟いた。それは、普段のボスが纏う勇ましく気品高い雰囲気とは程遠い下品な言葉の数々で、彼はその内容を想像すると、思わず顔を赤くした。さらにボスは「そうか、お前は男だからこういう事も出来るな」と言ってニヤリと笑うと、さらに過激なプレイを口にし、彼の顔は火を吹きそうなくらい赤くなった。

 

「これを毎晩だ♡」

 

彼の頭は沸騰して意識を失いかける。

 

「おうおう。顔を真っ赤にして可愛いじゃないか」

「い、いや。流石にそう言うのは……」

「これは命令だ。お前に拒否権などない」

「そんな……」

「今夜鍵を開けて楽しみに待っているからな……もし、来なければ……」

 

お前を殺す。

 

冗談では無い。殺意の込められた鋭い言葉。ボスの言葉。

 

背中がぞくりとした。恐怖なのか興奮なのかは分からない。

ただ、今晩。正確には今晩から、青年がボスの愛のはけ口になることが確定した。

きっと快楽で身も心もトロトロにされて意識が混濁しても尚、彼女が満足するまで求め続けられることになるのだ。

それは酷く恐ろしく……恐ろしく……甘美な未来だった。

 

青年はごくりと唾を飲み込んだ。

 

 


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