カッコいい女に愛されるシチュ   作:もぐら王国

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騎士に愛される

青年の恋人は勇者の一行に所属する騎士であった。

大柄で丈夫な体を持つ彼女は、頑丈な重鎧で身を纏い、自分の身体を覆いそうなほどに大きな盾を構え、先頭に立って勇者たちを敵モンスターの攻撃から守るのが役目だった。常人ならば恐怖で震えてしまうであろう立ち位置であるが、彼女は決して怯まない。その強靭な精神力と圧倒的な防御力をもって仲間の前に立ち続け、敵の攻撃を全て無力化した。

その様は堅牢と呼ぶにふさわしく、まさしく勇者の盾であった。

彼女の功績は広く知られた。

西の大国「レガン」に黒龍が襲撃した際は、全ての物を焼き尽くす炎のブレスから仲間を守り討伐に大きく貢献し、東の大国「ウェーラン」に魔物を引きつれた大魔導士が攻めてきた際は、触れたモノ全ての命を奪うとされる死の呪いさえも盾で弾き返し、勇者たちと人々を救ってみせた。

彼女こそが守りの要なのである。彼女は全てを守った。ゆえに人々は憧れた。

どんな攻撃にも勇敢に立ち向かう騎士。

誰もが惚れる女。

英雄。

 

そんな彼女は……何故かブチギレながら家に帰ってきた。

 

 

 

「クソクソクソクソっっ!!」

 

彼女は全身から苛立ちを発し、床を大股でどんどんと踏み鳴らしながら歩き、やがてソファに勢い良く座った。今の彼女は分かりやすくイライラを態度で表していた。だがそれは“喋りかけるな”という意味では無く、むしろ“訊いて欲しいんだけど”という不器用な彼女なりのアピールであった。長い付きで合いでそれを知っている青年は、彼女の隣にちょこんと座った。

 

「どうかしたの?」

「訊いてくれよ! アイツらイカれてるんだ!」

「うん?」

 

予想通りカッコいい騎士様の口から出た子供っぽい口ぶりに思わずにやけてしまう。だが茶化したりしてはいけない。彼女は真剣だ。

彼は、言葉の続きを促した。

 

「アイツらってのは国王と勇者の事で、俺はさっきまで勇者たちと一緒に、北の同盟国「ケルン」に現れたダークウルフ討伐依頼の達成報告を国王にしてたんだ」

「うんうん」

「それでよぉ、ご褒美に豪勢な肉料理とか酒とかが出てきたんだ。それは美味くて……そこまでは良かった」

「うん」

「国王の野郎、俺たちの気分が良くなってる頃合いを見計らって“連続で申し訳ないんだが~”とか言いながら、もう次の依頼を頼んで来やがったんだ!」

「それは困っちゃうね」

「そうだろ! 俺たちはついさっき遠征から帰ってきたばかりなんだ! そりゃ……近くの町の宿屋に滞在して休んできたから体力自体は全然問題ないけどよ。そうは言ってもだろ」

「そうだね」

「しかもふざけたことに、あのお人好し勇者が“困ってる人がいるなら一刻も早く救える方が良い”とか言う理由で明日出発にするって言いやがったんだ!!」

「急だね」

「だろ! アイツらは俺がどんだけ家に帰ってお前に会うのを待ち望んでいたか、まるで分かっちゃいねーんだ‼」

「……ん?」

 

話の流れが急に読めなくなって彼は困惑する。

なんで僕が出てきたんだ……? 

そう思っていると彼女が逞しい腕で抱き寄せて、彼を膝の上に座らせた。そして後ろから抱きしめ、彼の肩に顔を埋める。

 

「く、くすぐったい」

「俺は、遠征中ずーっとお前の事を考えていたんだ。こうやって抱きしめたりキスしたりしたいなぁってな」

「……そうだったんだ」

「そうだ。だから今日しかお前に会えないとかマジでキレそうっ」

 

そう吐き捨てた彼女は、彼の膝下に左腕を頭に右腕を添えると突然にお姫様抱っこの要領で持ち上げながら立った。

 

「うぇえ!?」

 

彼は予想していなかったばかりに情けない声を漏らす。

彼女は構わず歩き始める。

 

「ちょ、どこ行くの?」

「もちろん寝室だ」

「寝室!? まだ昼だけど!?」

「何か悪いか?」

 

見下ろす彼女の瞳は鷹のように鋭い。

 

「悪いって言うか、早いって言うか……」

「いーだろ別に。さっき説明した通り俺には時間が無いんだ。だから今から明日の朝までずーっとベッドでいちゃいちゃするぞ」

「ずっと!?」

「ずっとだ」

 

話しているうちにやがて寝室へと辿り着き、彼はベッドの上に転がされた。すかさず彼女も向かい合うようにベッドで横になり、彼を正面からぎゅっと抱きしめた。よく鍛え上げられた、しかし女性特有の柔らかな身体にぴったりと包まれ、体温も相まって、彼は安らぎを覚える。

彼女が、耳元で呟く。

 

「今日はたっぷりお前の成分を補充させてもらうからな」

 

掠れた声に鼓膜を揺すられ彼の顔は真っ赤になる。彼女は抱擁を緩め、彼の赤面した顔を間近で見つめると満足そうに微笑んだ。

 

「覚悟しろよ」

「……お手柔らかに、お願いします」

 

彼は、小さく呟いた。

 

 

 

 

 


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