カッコいい女に愛されるシチュ   作:もぐら王国

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27話「聖騎士に愛される」の続き的な。
尚、この話単体でも読めます。


聖騎士に愛される2

娘は母と向かい合う形で一緒に浴槽に浸かっていた。母は銀色の美しい長髪を後ろに団子状に縛り上げていた。娘も雲間に差す光のように美しい銀色の髪をしていたが、母と違うのは獣の耳がぴょこりと生えている事だった。父からの遺伝だった。

娘はしばらく鼻唄を唄いながらお湯をちゃぷちゃぷと時おり跳ねさせて母との入浴の時間を楽しんでいたが、不意に視線を止めた。

隠すものの無い母の色白な身体を眺めるように見た。

 

「ねえ、お母さん」

「んー?」

「お母さんの身体って、沢山傷があるね」

 

無垢な娘が思ったことを口にする。

実際、母の身体は傷だらけだった、獣に強く噛まれて残ったと思われる沢山の歯型の傷や刺し傷が首から足先まで身体のあちこちにあった。

母は娘の問いかけに柔らかな笑みを返す。

 

「確かにそうね」

「お母さんが聖騎士だから? 魔物に襲われて付けられたの?」

「それもあるにはあるけど、ほとんどは違うわね」

「じゃあ、なんで?」

「お父さんが昔につけたのよ」

 

娘は目を真ん丸にして驚いた表情をした。当然だろう。まさかいつも優しい大好きな父が母を傷だらけにした張本人だなんて思いもしない。

娘は恐る恐る尋ねる。

 

「……お父さんが、お母さんをいじめたの?」

 

娘の真剣な表情が可愛らしかったのと、安心を与えるために母はふっと微笑んだ。

 

「そんなことないわ。お父さんは優しすぎるほどに優しいから」

「そうだよね!」

 

娘の不安は母の言葉で消え去り、パッと明るい表情になった。

 

「でもでも、それならどうして?」

「……そうねぇ。エマは、お父さんが昔に悪いことをしちゃったって話、覚えてる?」

「うん。悪い魔女に操られて、大きくなって、暴れちゃったーって」

「正解」

 

娘は記憶力を披露するように得意げに話した。母は娘の柔らかな髪を撫でて褒める。

今はそれでいい。

幼い娘にはその悲惨さを理解するには早い。それほどに残酷で無惨な過去だった。街は火の海に包まれ、建物が壊れ、人間の死体が道に積み重なった。それを引き起こしたのは悪名名高い魔女であり、その魔女に憐れにも操られた父であり、その全ての惨状を終わらせたのは聖騎士たる母であった。

 

「お父さんは生き残った街の人々から、火あぶりや肉剥ぎと言った死んだ方がよっぽどマシな責め苦を死なないギリギリでより苦痛を与えるようにして、散々受けた」

「……可哀想」

「そうね。でも仕方がなかった。人々にはそれ程の怒りや悲しみがあったから」

 

母は続ける。

 

「それから解放された後も、お父さんは自分を許すことなく責め続けた。自分の鋭い爪とか家にあったナイフとかで自分の身体を毎日ひどく痛めつけた」

 

娘が本当の言葉の意味を理解しているか、本人以外には分からない。だが大事な話であることは分かっていて、だから口を挟まずにじっと聞き入っていた。

 

「お母さんはそれが見てられ無くて、お父さんを身体を張って止めたの。お母さんの指や腕を代わりに噛ませて、ナイフを受け止めて、抱きしめて。もういいんだよって」

「……痛くなかった?」

「痛かったわ。でも、これがお父さんが感じている痛みなんだって思うと嬉しさもあった」

「嬉しいの?」

「そうねぇ……。エマにはまだちょっと難しいかもしれないけれど」

 

そこで言葉を区切って、娘が大人になっても覚えているように大事そうに言った。

 

「本当に愛しい人が相手だったら、喜びも悲しも、楽しさも苦しさも、全部分かち合いたいって思うのよ」

 

”だから大事な傷なの”と母は愛しそうに肌を撫で、娘は”ふ~ん”と曖昧な相槌を漏らし、母はそれを聞いて”そのうち分かるわ”と笑った。

それから思い出したように言った。

 

「……そう言えばいつも泣いてたわ。お父さんが」

「お父さんが!?」

 

大人は泣かないと思っていた娘には、衝撃であった。

 

「なんで? お母さんが痛いのに、痛くないお父さんが泣くの??」

「お父さんは優しいから、お母さんが傷つくとお父さんの心が痛くなっちゃうの」

「心が?」

「そうよ。お父さんは自分のせいで傷ついたお母さんを見て、ごめんねっていつも泣きながら謝ってたの」

「お父さん、泣き虫だ」

「ふふ。間違い無いわね。でもエマが生まれてからは泣き虫じゃなくなった」

「なんで?」

「お父さんが悲しいーってなってたら、エマも悲しくなっちゃうでしょ?」

「うん。なる」

「だから強くなったの」

「私のおかげってこと?」

「そう、エマのおかげ」

「うへへ」

 

娘は誇らしそうに笑った。

 

 

 

 

それから二人はお風呂を出た。

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