カッコいい女に愛されるシチュ   作:もぐら王国

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主旨がずれてる気ががが


獣人が愛される

暗闇に伸びていく通路。左右に広がる空間には無数の円柱状の柱が生えていて、そこには身ぐるみを剥がされた同胞たちが生まれたままの姿で四肢を固定され磔にされている。

 

「黒狼の獣人とは大変に素晴らしい生き物だね。血液中に含まれるマナの濃度がおよそ90%でしかも本人が生きている限り体内でマナを生成し続ける。さすが神の愛玩動物だ」

 

白衣を着た老人に首の輪に取り付けられた鎖を引っぱられる。通路の先を歩く腰の曲がった小さな後ろ姿に無気力について行く。

 

「ここは私たち魔導学者にとっては夢のような施設だよ。君たちによって提供される潤沢なマナは、魔導を探求する我々の歩みを加速度的に進めてくれる」

 

広大な暗黒に響き渡る同胞たちの絶叫が左右の獣耳から入り込んで私の脳内で滅茶苦茶に反響しているのに、老人のしわがれた声は嫌でも明確に聞こえている。

 

「ほら、見たまえ。君のご両親だ」

 

前に行こうとしていた私を引き戻すように鎖を引っ張られ、いつの間にか老人が足を止めていたことに気付かされた。足を止めて、通路の右側に広がる暗黒空間へとゆっくりと顔を向ける。視界の奥まで等間隔で生えている円柱のうちの一番近い正面の二本。裸体のまま磔にされている雌の獣人と雄の獣人。母と父。

 

「いやああぁぁっっ!嘘よぉっ!!お前までっ!そんなああああぁぁぁ……!!!」

 

目に涙を浮かべ悲鳴を響かせる母。

 

「森の神よ……!なぜこのような仕打ちを我々にっ……!!」

 

憐れみの目を私に向けて神への怒りを呟く父。

 

「母さん……父さん……」

 

力の無い声で私は両親を呼ぶ。

老人は何かを納得するように数度頷くと視線を両親に向けたまま口を開いた

 

「それではご両親に手本を示してもらうとしよう」

 

老人の声に反応するようにしてどこからともなく機械のアームが四方から両親の周りを囲むように伸びてくる。先に大きな断ちバサミが付いたもの。連なる円状の刃が付いたもの。先っぽが筒状になっているもの。

 

「やめてええぇぇ!!!来ないでえええぇ!!」

「くそおぉ!寄るなぁ!くそおおお!!」

 

両親が叫び散らす中、老人が言葉を垂れ続ける。

 

「まずは喉に投与ノズルを挿し入れ強制的に回復薬を投与し……」

 

両親の叫び声が途切れる。アームの先の長い筒状の投与口が口内へと強引に挿入されて物理的に黙らされる。

 

「手首や足首と言った太い血管が通る箇所はハサミで切り……」

 

金属光沢を放つ大きなハサミが手首と足首に近付いて、刃を、閉じる。

 

「「ん゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛っ゛っ゛っ゛!!!!」」

 

二人の目がかっぴらいて苦悶の叫びを喉から漏らす。

血が噴水のように吹き出して暗闇の底に落ちていく。

 

「それ以外の部分は回転刃で切り刻む……」

 

筒状の軸に取り付けられた無数の刃が回転して両親の腕や脚や胴体の肉を容赦なく切り刻む。

身体を暴れさせて二人の拘束具がガタガタと虚しく音を立てる。

私は思わず目を逸らす。

 

「見なさい」

 

いやだ。

恐くて悲しくて苦しくて私は顔を上げられない。

 

「見なさい」

 

いやだいやだ。

こんな現実は認めたくない。

 

「見ろぉ!!」

 

いやだいやだいやだ。

老人が声を荒げ、それに反応して首の輪っかが私の身体に強烈な電撃を流し、私は強制的に顔を上げさせられる。

 

「これが君の未来だ!」

 

聞かせないで。

見せないで。

誰か。助けて。

 

「その目に焼き付けろ!!!!」

 

「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

 

 

 

 

「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……」

 

私は上半身を起こして飛び起きていた。

荒く息を吐きながら寝室を見回して今が現実であることを噛みしめる。

十年以上前の過去の記憶だ。この期に及んで夢に見るとは、なんて最悪な気分だろう。もう私は救われたんだ。当時研究者に扮してスパイとして紛れ込んでいた青年の手によって。だからもう恐れる必要は無いんだ。

そう思いながら隣で寝ている筈の青年に視線を向ければ、彼は横になったまま優しげな茶色の瞳で私を見上げ腕を広げていた。起こしてしまったらしかった。

 

「悪い夢を見たんだね。おいで」

 

獣人の私より身長がずっと低くて童顔で身体もひょろい人間の青年。そのくせ時々気取った言い方をする。うざい。

それでもその言葉の魅力には抗えなくて、私は再び体を横にして幼子のように彼に抱き着く。

 

「よしよし。怖かったね。もう大丈夫だからね」

 

小さな子をあやす口ぶりで私に優しく語り掛けながら、片手を私の後頭部に回して自分の胸にぎゅっと抱き寄せて、もう片方の手で私の背中を優しく撫でてくれる。

くそ。情けない。でもガキみたいな扱いをするなと強がりたくても本心が彼に縋ることを強く望んでいるから何も言えない。むしろもっと甘やかしてほしくて強く抱きしめてしまう。こいつも分かっているから、普段は仕事以外何も出来なくてトロくてだらしなくて放っておいたら餓死しそうな生活力皆無の一人じゃ碌に生きることの出来ない手の掛かる奴なのに、こういう時は欲しい言葉を必ずくれる。

くそ。腹立つ……。

 

「僕が傍に居るからね」

 

獣耳の耳元で囁かれ、言葉は身体の奥の方までじんわりと広まって身体を内側から温めてくれる。呼び起こされた過去の恐怖で止まらなかった身体の震えが徐々に収まっていくのを感じた。私は彼の胸に埋めていた顔を上げて彼と視線を合わせる。

 

「私が寝るまで手止めるなよ」

「うん」

「……なんか言ってろよ」

「了解。なんか言っとく」

 

冗談めかして笑った彼の顔を瞼の裏に焼き付け、それ以外の映像を思い浮かべないようにして目を閉じた。

 

「よしよし……大好きだよ……ずっと守るからね……大きいお姫様……」

 

なんか言ってる彼の言葉が鼓膜を優しく揺らす。

それは私を安らかな眠りへと誘う。

私は彼の言葉を子守歌にして眠った。

 

悪夢は、見なかった。

 


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