円環の勇者   作:まんじゅう卍

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(上)はどこだよ笑って感じですね。はい。第八話がそんな感じの扱いにしときます。それではどうぞ〜


第9話 須美の長い1日(中)

『渦』 150ページ

 

 ここから先はないみたいだーーーーーー。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 結城友奈との出会いを得て、須美は少しだけ前向きにはなっていた。現在須美は帰りの電車の中で讃州市に向かう時に見た景色を再びその目に焼き付かせている。

 あの後、しばらく彼女とは他愛のない話をした。出会って間もないというのに、須美と友奈はやけに打ち解け、互いにいつか再会することを誓って別れた。なぜか友奈はまた泣いていた。

 須美はそんな彼女に心の底から感謝している。友奈に励まされたが須美の心はまだわだかまりを残し、ハリボテだらけの補修ではある。しかし今はそれで十分だった。

 

「友奈さんがあれだけ話を聞いて励ましてくれたんだ。下手ことはできないぞ。私」

 

 須美は自分の頬を強く叩く。乾いた音が誰もいない車内に響き渡ったのだった。

 

 きっとこの場に誰かがいればこの光景を『少女の新しい門出』とでも称するだろう。しかし勘違いしないでほしい。須美は友奈に決意を後押しされた。その決意とは銀を含めたこの世の全てを勇者として守ることではない。

 

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 これ以上に須美が追い求めるものは無くなりつつあった。

 須美は再びその道を踏み外しかけているーーーーー。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「ぶじでよがっだよわっじー!!」

 

 時間的には放課後に差し掛かりそうな頃に須美は学校に戻った。須美はクラスメイトから向けられる奇異なものを見る目を苦笑いを浮かべて受け流しつつ、自分の席に座ったところで園子に泣きつかれていた。

 久しぶりに感じる園子の体温と涙の生暖かさになんとも言えぬ気持ちを抱えていると呆れ混じりの視線を感じ取った。それは担任の安芸からもたらされたものだった。

 

「鷲尾さん。あとで私のところに来るように」

「はい」

 

 須美は素直にそれに頷く。そしていまだにくっついている園子を引き剥がした。須美は自分よりも後ろの席にいる銀の表情だけは見ることができなかった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「どれだけの人に心配をかけたかわかってますか」

 

 放課後、職員室に行き、安芸の目の前に立った一言目がこれだった。この言葉は現状の須美には何一つと響かない。先程までの自分の行動に悪気などなかったからだ。

 

「軽率な行動は控えるようにしなさいと初めに言ったでしょう」

「そう、ですね」

 

 須美は真面目さ故に安芸の言葉を真摯に受け止めた。フリをする。反省した様子の須美を見て、安芸は一度小さくため息をつくとそれまで表情を崩す。

 

(いつもの優しい先生だ)

 

 少しばかり打算的に動いてみたがこうも簡単に行くとは思いもよらず、須美は内心ニヤリと笑った。

 そんな須美のことなどいざ知らず、安芸はそのまま話を続けた。

 

「何があったのですか?鷲尾さん」

「いえ。確かにありはしましたけど解決はしたのでもう大丈夫です」

「本当に?」

「はい。私はここに来てようやく自分の果たすべきことに気づけました」

「………そう。元から貴女は御役目に対する姿勢も真摯だからこれからも励みなさい。お咎めもないでしょう。今回のことは私から大赦に報告して処理しておきます」

 

 安芸はそれ以上は何も聞かず、帰っていいわよ。と笑顔で須美に促す。須美はニコッと笑ってから頭を下げた。それから安芸のもとを後にする。

 職員室を出ると長い長い学校の廊下は夕暮れでオレンジ色に染まっていた。思わず須美は目を細める。

 

「……もう5回目にもなるのにこんな景色を見たのは初めてだわ」

 

 讃州市でのことと言い、今日は普段見ないものをよく見せつけられる。

 

「というか友奈さんは学校無かったのかしら」

 

 須美が讃州市を出たのが15時ほど。それからすぐに大橋市へと戻ってきて16時。友奈と出くわしたのが14時。おまけに平日なので普通に学校はあるだろうにあの人は一体何をしていたのだろうか。

 不思議だなあ。と首をメトロノームのように右に左に傾げながら歩いているとこれまた不思議なことに足は自然と自分の教室へと向いていた。

 

「私、忘れ物でもしてたかしら」

 

 無意識下で自身のした忘れ物を思い出してここに辿り着いたのならばそれはそれで凄いことだと須美は笑う。

 須美は誰も教室には居ないだろうとたかを括って中に入る。そんな須美に意外な人物の姿が飛び込んできた。

 

「やあ。来ると思ってたよ」

 

 教室の自分の席に座る銀は須美に向かって笑いながら、ひらひらとその手を振ったのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 園子は一人、自分の部屋の天井を見上げている。園子に与えられた部屋は正直なところ広すぎた。きっとクラスメイト達に言おうものなら羨ましいという言葉をかけられるだろう。しかし、園子からすればその広さが一段と寂しさを助長させるわけである。今も園子はちょっぴり寂しさを募らせていた。

 

「ミノさんもわっしーも一緒に帰ってくれなかったな〜」

 

 須美の様子がおかしいのは今日の朝から昼間における短い逃亡劇を見れば明らかだ。というより言ってしまえば合宿が終わった日あたりから須美はおかしかった。銀は銀で声をかけても一向に教室から動こうとしなかったのは園子にしてみれば非常に引っかかりを覚えた。

 

(ミノさんも何か隠し事をしてる気はするけど、多分聞いても答えてくれないよね〜)

 

 園子は友達に『隠し事』というのをされたのが今回が初めてだった。そのため、園子は二人に対しての出方を見失っている。

 

「これが俗に言う仲間はずれってやつ〜!?」

 

 何故だろうか。園子はやけにこの仲間はずれと言う言葉に胸がジーンときたのだった。悲しさではない。嬉しさである。普通、こうはならない。

 

「よし!何が何だかわからないけど私、俄然とやる気が出てきたんよ〜!」

 

 園子は満面の笑みを浮かべ、ベットから飛び上がると机に座り手始めにノートを手に取ったのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 須美と銀は夕暮れの教室の中、二人で対峙している。銀はオレンジ色の光を浴びており、それとは対照的に須美は陰に覆われていた。

 

「銀……まだいたの?」

「えへへ。ダメ?」

「駄目ではないけれど……」

 

 茶目っ気たっぷりにウインクする銀に須美は思わず言おうとした言葉を引っ込めた。

 

「まあ鷲尾さんのところの須美さんや。席座りなよ」

 

 銀はまた手をひらひらと振って自分の側に寄るように須美を招く。須美もそれに従うように銀に手が届く位置にまで近づき、銀の正面の椅子に座った。須美の身体もオレンジ色の光で染め上げられる。思わず眩しさに須美は目を細めた。

 

「なんかこうして二人っきりで話すのも新鮮だね」

「そうね。いつもそのっちも隣にいるから不思議な感じ」

 

 その園子はどこにいるのだろうか。もしかして変なこと考えてドッキリとかで隠れてる?と妙に疑心暗鬼に襲われた須美は教室内をキョロキョロと見渡した。それを見た銀は楽しげに笑いながら園子はこの場にいない事を告げた。

 

「園子は帰ったよ。というかアタシが帰した」

「これまたどうして」

「須美と二人っきりで話がしたかったからさ。大事な。とーっても大事な話」

 

 そう言って銀はまたけらけらと楽しげに笑う。銀の話の切り出し方から須美は心臓が強く握りしめられたような感覚に陥った。唇は一瞬にして乾いていた。

 

「その、なにかしら。私だけにしたい大事な話って」

「須美に対する告白かもよ?」

「えっ///」

「ま、間に受けるなよ。こっちも照れる」

「そ、そう。で、話は?」

「緩急エグすぎません?」

 

 まるでジェットコースターみたい。乗ったことないけど。と銀は相変わらずの具合だ。本当に大事な話があるのか。須美の乾いていた唇は少しだけ潤いを取り戻していた。きっと大した話でもないかもしれない。須美はホッと息をついた。

 その様子を見た銀は一度天井を見上げたあと、困ったように笑い、その大事な話を打ち明ける。

 

「あのさ。須美、もう諦めて欲しいんだ。アタシのこと」

「………………え」

 

 須美は一体銀が何を言っているのか解らずに何度も瞬きを繰り返す。チカチカと頭の中で何かが点滅している。蛍光灯の寿命が尽きる直前のような。そんな感じに。

 

「私、前にお願いしたよね。私に『何か』あれば弟たちをお願いって」

 

 それを聞いた瞬間、須美の中で前回の周回のことが何度目かわからないがよぎった。ただ、須美は思わず「あれ?」と首を傾げる。そして自分自身でも訳がわからないくらいに鼓動が加速していった。須美は思わず椅子から立ち上がって後ずさる。ガタン!と椅子が倒れる音が教室内に響いた。

 

「貴女、誰?」

「誰って嫌だなあ須美。アタシは三ノ輪銀だよ。紛れもなく」

「そんな訳ない!だって!その『約束』を知っているのはーーーーーー」

 

 もう亡き別の銀のはずであるから。

 

 須美の怒涛の1日はまだ終わりそうになかった。

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