須美は目の前にいる少女が本物には到底思えず、咄嗟に距離を取った。窓から見える夕暮れ時の街並みが最早この世のものとは思えないほどに須美の目には不気味に映った。
「そんなわけない!だって、あの約束を覚えているのは」
「もう既に死んだアタシのはず。そう言いたいんだよね。スミスケは」
銀は須美に下手なウインクを披露した。張り詰められた糸を断ち切るようなその茶目っ気たっぷりな態度はまさしく銀。しかし、須美はそれを頑なに認めなかった。
「茶化さないで。何が、どうなってるの?これは夢?そうよ……夢だわ。私はまだ讃州市にいて……それで、友奈さんと……!」
須美は再び逃げるようにジリジリと廊下に向かって後退りする。
夢と現実の狭間は教室への入り口。須美は咄嗟にそう考えた。あと一歩で廊下に出ることが出来る。その一歩を伸ばした時、銀から放たれた言葉は今までのどんなものより須美には重くのしかかった。
「越えてみなよ。何も変わらないから」
逃げるな。そう言われた気がして、須美はグッと堪えて踏み出した足を教室へと戻した。
そんな須美を見て、銀はニッコリといつものように勝ち気な笑みを浮かべる。
「よし!須美が戻ってきたところでお話をしないとな」
須美は銀に勧められるまま、自分の席についた。銀は前の席の椅子を引っ張り出すと逆座りをして須美と向き合った。
須美からしてみれば突然の出来事。実を言えば今の今まで銀の言いなりで物事は進んでいた。聞きたいことは山ほどある。だというのにーーーーーー。
「私からも聞きたいことがあるのに……。また銀はそうやって勝手に……」
私たちを置いてけぼりにする。
須美は胸の内に湧き上がり、今にも飛び出してしまいそうな言葉をグッと堪えた。
やっと須美にもいつもの冷静さが戻ってきたのか、今になって銀の眼を真っ直ぐと見ることができていた。
「銀。どういうことか教えてもらえるの?」
「そうだなあ。須美は納得させられないけど、それでもいいのなら」
銀の何とも軽々しい物の言い方に須美は戸惑いと躊躇いを見せる。しかし、ここで逃げては初対面だと言うのに話を聞いてくれて、背中を押してくれた結城友奈に顔向け出来ない。それだけで須美が頷く理由にはなった。
その反応が意外だったのか、銀は面食らったのか何度も目を瞬かせる。
「意外と言っては何だけど……今の須美を見るに断られるかと思って」
「本音を言えば……逃げ出したいわよ。実際逃げ出しそうになったし。けれど、背中を押してくれた人がいる。それだけで私が話を聞く理由になるわ」
「そっか。それなら話すことにするよ」
一度咳払いをしてから銀は相変わらずの軽々しい口調で語り始める。
これまで2人を対象的に照らしていた窓から差し込む斜陽。それがいつの間にか逆転した。須美を照らし、銀に影を作った。それはまさに希望と絶望を映し出す。
鷲尾須美と三ノ輪銀。2人の願い。
この2人の願いが交わることは決して無いーーーーーーーーー。