《ポジション・ゼロ》
自分が目の前で死んでいる。と言うのは非常に違和感を感じるものである。そうして死んだはずなのにこうして自分自身を俯瞰できていると言うのもまた変な話だった。
(あれはアタシ、だよな)
姿格好。戦いによって身体中に刻まれた幾千もの傷。そのどれを見てもまさしく自分である。
銀は何故か知らないが死した己を憂いて泣き叫ぶ親友の後ろ姿を見つめていた。
(なるほど。もしかしたら『勇者』ってのは死んだらこうやって魂になって神樹様に取り込まれでもするのかね)
樹海に響く2人の慟哭とは対照的とも言える銀の諦観っぷり。それもそのはず。銀は自分でも驚くほどに達成感に満ちていた。
大切なものを護るために燃やしたこの胸の炎。それは決して間違いではなかったと、胸を張っていえるから。
(欲を言えばやっぱり生きてはいたいけど……。これが運命ってヤツならアタシは受け入れるよ。張る胸は、もう無いんだけどね)
ケタケタと誰にも聞こえやしない笑い声をあげる。
さて、いつアタシには神樹様のお迎えが来るのかな。と待っていると須美を中心に黒い何か広がっているのが銀には見えた。
(なんだ?あれ)
銀はいつか弟の鉄男と一緒に読んだ図鑑の現象を思い出す。
その現象の名は【渦潮】。その現象が何故起きるのかまでは銀は憶えてはいない。だけど、酷く見覚えがあった。
真っ黒な渦は園子は飲み込まず、生きる獣のように銀に飛びかかった。
(嘘だろ!?)
もちろん、今や形も何も無い銀だがこの時ばかりは「飲み込まれた」とはっきりと言えるほどの感覚に襲われた。
渦に飲み込まれた銀はもがくことすら出来ず、その渦の中で次々に失われたパーツを無理矢理魂の上に上書きされていった。
そしてその渦を抜けた先にはーーーーーー。
「はぇ?何でアタシ、学校に?」
銀は自分の目に映るその光景が信じられず、この時はその場に立ち尽くした。
遠かった五感も段々と自分のものへと戻り、銀は自分の頬を力強く引っ張った。指先に触れる自分の頬の柔らかさ。自分の家の懐かしくなるような匂い。すやすやと眠る園子を映す眼。頬を伝い、口元に流れ込んだ汗の塩辛さ。自分を呼ぶ須美の声。
(あ、れ?アタシ、死んだ……よね)
須美の声など木霊程度のものにしか聞こえていなかった。自分の身に何が起きたのかを先に把握しようとした時、銀へと須美は飛びついた。
「銀!ぎん!」
「ええ!?ちょっと須美!?なんだあ!?」
「うぅ。うわああああああああああああ!!」
赤子のように泣きじゃくる須美を何が起きたのか理解出来ないまま、銀は受け止め続ける羽目になったのだった。
《ポジション・1》
やはりどうして死んだはずの自分が生きてるのか。そんな疑問を銀は考え続けーーーーーー。
(まあ、普通に考えてあり得ないでしょ)
ることなく、完全に忘れ去っていた。と言うより、五感の返還と共に綺麗さっぱり何処かに流されていってしまっていた。
そもそも自分はずっとこの街で生きているわけだし、この胸に燻る奇妙な違和感は変な夢でも見たのだろうと銀は自分を納得させる。
「落ち着いたか?須美」
泣き止んだ須美との保健室をスタート地点に、会話や出来事は全て初めて見る光景だと自分に信じ込ませた。
須美が何か自分の身に起きた出来事に関係がありそうな事を口にしても、銀は全て辻褄を合わせるために知らないふりをした。自分が感じている嫌な予感というものから逃げるように、全てのことに蓋をした。
日々を通じて思い出す事など全ては偽物。今を生きる自分こそが三ノ輪銀であると無理矢理自分に言い聞かせる。
そして、時は流れーーーーーーー。
銀は再び血濡れた自分をボーッと見つめている。
何だかこの少し前、須美がぼんやりと嘆いていた言葉が銀は気になっていた。
「また、ダメだった……」
また。とはどう言う意味なのか。それを聞く術を銀は既に持っていない。
死を迎えた自分を嘆き、泣き崩れる親友の2人。その姿も見覚えがあった。須美を中心に展開される渦。これにも見覚えがあった。
身体を無理矢理、再生産されていくこの感覚にも覚えがあった。そして、渦の先に放り出されーーーーーー。
《ポジション・2》
銀は自分の身に起きた事を認識した瞬間、吐き気と共に蹲った。
「うっ……うぇ……」
今、銀がいるのは居間。こんな場所で吐くわけにもいかない。その理性だけが銀に襲いかかった吐き気を抑制した。
口の中に広がる最悪な感覚。その感覚に涙を浮かべながら、銀は一度戻しかけた物を無茶してお帰りいただいた。
「アタシ、死んだよな。間違いなく……死んだよな?」
全身に武者震いが走る。震えを抑え込もうと伸ばした自分の左手を視界にとらえた瞬間、銀は恐怖で飛び上がった。
最早、自分の存在がバーテックスよりも恐ろしいと思う日が来ようなどとは誰も思うまい。
荒く不規則になった呼吸を整えながら、壁に身体を預けて弱々しく歩く銀に更に襲いかかる恐怖。
「何の悪い冗談だよ……。6月11日?アタシさっきまで、7月10日にいたはずだよな……」
蓋をして、見ないようにしていた中身を銀は受け入れざるを得なくなり始めていた。
1度目ならともかく、2度目は己の眼は無理矢理にでもその現実を直視させる。
「どうなってるんだ、本当に……」
ただ、銀にはこの問題に関して一種のアドバンテージがあった。
「多分だけど……須美、だよな。この馬鹿げた話の…主軸、は」
既に原因が特定されている事である。銀は何度も須美を中心に発生した渦に飲み込まれた。そして受け入れ難いことに銀は1ヶ月ほど時間を逆行し、その命を再び取り戻している。身体に痛みなどはない。それだけがまだ唯一の救いだったように思えた。
そんな事を考えていると銀の携帯が着信を知らせた。いやいや携帯の画面を見ると、送信主は須美だった。
「ははっ。タイムリーな事で……」
画面のロックを解除して、そのメールに目を通す。
『おはよう、銀。今日は学校よね』
一見ただの予定を確認するメール。しかし、今の銀にはこれが変に白々しいものに見えてしまった。
銀は恐らく何が起こっているのか理解しているはずの須美に掴み掛かるように問いただそうとした。しかし、銀はそれが出来なかった。
(……まだこの文だと、須美は気がついてないのかな)
須美は自分の身に何が起きたかは把握していそうだが、それが決して自分が起因しているものとは理解していなさそうである。
それを指摘していいものなのか。銀は戸惑い、結局言えなかった。
この周も銀は引かれた線をなぞるように同じような日常を送った。しかし、そんな日常も過ぎ行く日々は銀に伸びている「死」と言う運命の糸を日に日に手繰り寄せているようだった。
須美は手探りでその糸を断ち切ろうと、動いている。須美の一つ一つの動きを銀は常に初めて見るものとして演じた。須美は銀が記憶を保持したまま、同じように戻っている事を知らない。それがこの周で得た、銀の唯一の収穫だった。
そして再びその時がやってくるーーーーーー。
《ポジション・3》
目を覚ました時、銀がまず確認したのは自分の手足がミンチのように押しつぶされていないかだった。
不規則な呼吸を整えようと、とにかく身体が酸素を求めて必死に喘ぐ。
(生きてる、よな。アタシ……本当に生きてるんだよな!?)
銀は誰に聞かれようと、心の底に溜まった不快感を吐き出す事を躊躇いはしなかった。
最早原型を留めなかった自分の死に様を目撃し、その感覚すら今回は身体に残っている。吐き出さなければ狂ってしまいそうで、耐えるのは不可能に近かった。
「学校、何も知らないふりして行けるかな……」
須美にはまだ銀が同じように記憶を保持したまま戻っていると言う事を知らない。
銀は再び、死へと向かうその一歩を踏み出したのだった。
この周のとある日の訓練のこと。
銀は須美が鬼気迫る様子で訓練に励む所を酷く空虚な眼差しで見つめていた。
「何だか今日のわっしー。やる気が違うねえ」
園子は須美の様子を見て、のんびりとしたいつもの口調。流石に何回も死というものに触れてくると心が荒んでくるのか、今まで考えなかったようなことまで考え始めていた。
(どう足掻いたって無駄なことは無駄なんだけどな)
のほほーんとした様子で答える園子に銀は今の自分の醜さがバレないように笑みを浮かべる。その笑みはこれまで須美や園子に向けてきたものとは全く異なる何処か無機質なものだったらしい。園子はそんな銀を思わず見つめる。
しばらく無言で園子に見つめられた銀は視線がむず痒く、思わず身体を震わせた。
「何でそんなに見てくるのさ」
「私、ミノさんのそんな表情初めて見たな〜って」
銀と園子の視線が交差する。今度は一方的ではなく、園子と銀の視線が互いを見つめあう。その間を一陣の風が突き抜けていく。その風は須美の矢が巻き起こした、言わば須美の決意を示すようなものであった。
その風を受け、銀がフッと自嘲的な笑みを浮かべ口を開いた。
「なあ、園子。これはアタシの独り言なんだけどさ」
「うん。何かな何かな〜」
誰も知らない銀の秘密を一つ知る事ができる。そう思った園子は声音を少し上げて、機嫌が良さそうに目を細めた。
そんな園子を目にして、罪悪感に支配されながらも銀は園子に胸の内を打ち明けた。
「アタシ、早く解放されたいよ……」
度重なる死と言う本来一度だけの体験。それを既に4回。まだこの先もあると思うと心が折れそうになった。
不屈な魂はたった1度きりの消耗品。使えて3度。4度目は存在しない。
銀はこの時、初めて絶望というものに屈したのだった。
その翌日、須美は風邪を引いた。と銀はその話を園子と共に教室で安芸から伝えられた。
銀は園子にお見舞いに行くと尋ねると、園子は今日はいいかな〜。と予想外のパス。園子が銀の事情を完全に理解していたかと聞かれればNOだ。それでも、銀の奥底に宿る暗い感情に園子は気がついていたのだと今になって振り返れば思う。
「さてと。アタシも行きますかね」
園子の背中を見送り、クラスメイトの背中を見送り、教室に1人きりになってから銀は教室を出た。
夏も近くなり、灼熱の太陽が銀の肌を健康的な麦色に焼いていく。
「いつまでこれをまだ暑いって言って楽しめるかね」
きっと、この世界に何も思わなくなったら本当の意味で銀は生きているとは言えなくなる。ただ、須美の我儘に付き合わされ生かされるだけの人形。
「アタシ、須美のこと嫌いになりたくなかったんだけどなあ」
須美を攻めるのはお門違いだと、銀にだってわかっている。けれど、何度も死を体験させられる身としては辛いものがあった。
いっそのこと須美の手で命を奪ってもらおうか。なんて酷い考えすら頭をよぎる。
「須美もアタシに生きて欲しいって思って何度も戦ってるんだから、いくら荒んだアタシでもそれは頼めませんよ……」
独り言が青い透き通るような空に吸い込まれていく。その空は須美の瞳のように美しく見えた。
「……後一回だけ。後一回だけは、須美に賭けよう」
銀は須美ばかり攻めていたが、自分自身もまだ生き残りたいと。醜く足掻いてみたいと、この時銀は自分の本心に気がついたのだった。
それからまた少し歩くと鷲尾家に辿り着く。インターホンを押すと、中から出てきた使用人に案内され何度目かわからない須美の部屋に足を踏み入れた。
すやすやと穏やかに眠る須美を見て、銀は自然と頬が綻んだ。
(気持ちよさそうに眠りよおって……)
鼻でも摘んでやろうか。なんて悪戯心が銀の中で湧き上がる。きっと普段の須美からは想像もつかないような情けのない音が聞けるに違いない。
思ったが吉日。銀は須美の鼻へと手を伸ばす。人形のように整った顔立ちからは想像もつかない声を思い浮かべるだけで笑いが止まらなかった。
そっーっと手を伸ばして、遂に銀は須美の鼻先へと登頂を終え……。
「ふがっ」
「ふっ!!」
あまりの間抜けさに必死にお腹を抱えて笑いを銀は堪える。
全く起きる気配がないので次は何をしてやろうかと銀の悪戯心は収まる気配がない。
「……アタシ、死ぬまでに一度朝日を見たいんだよね」
冗談っぽく茶化して口に出してみるが、銀の視線は須美の胸元に注がれている。
今、仮にここで襲いかかったらどんな痛みが自分を待っているのだろう。そんな他愛も慈愛も許されなさそうな考えが脳裏をよぎった。
(登るべきか……登らないべきか……。いや!アタシは行くね!後悔して死ぬくらいなら登って死んでやる!)
一瞬の葛藤。葛藤とすら言えないレベルの勢いで銀は本能のまま須美の胸元に手を伸ばしてーーーーー。
「!?」
銀が触れる前に須美は開き切らない目を擦る。何という防衛本能。意識が朦朧とする中でも守りたいものは守ると言うのか。最早感動ものである。
起き上がって着替えようとする須美の透き通るような白い背中を無言でじーっと見つめているとその視線に気がついたのか、須美が恐る恐る振り返った。
「ひぃっ!?」
「何でそんな反応する!?」
「それはこっちのセリフよ!」
衣服を慌てて着直した須美に銀は閃光のような平手打ちをくらったのだった。
それから少しの間は銀と須美はお互いを揶揄ったりして、その背負ったものから解放されていた。
会話もひと段落し、時計の秒針が時を刻む音だけが須美の部屋で音を立てて動き続ける。ただ前に、振り返ることなく。銀はここで一つ須美に鎌をかけることにした。次、再び戻った時にこの事を打ち明け、銀の存在を確固たるものにする布石を銀は敷いた。
「須美に頼みたいことがあるんだけど。あ、体調が良くなってからでいいから」
「なにかしら。私に出来ること?」
「もちろん。というより須美にしか頼まないかも」
須美にしか頼まない。その遠回しな言い方に須美が一体何を頼まれるのかと戦々恐々として身構えているのは目に見えて明らかだった。
そんな須美をいつもならば銀は笑っていただろう。しかし、今回は笑いなど全くと言って良いほど込み上げてこない。
「もしも。もしもだよ。アタシに何かあったら弟たちを少しの間だけ見ててあげて欲しいんだ」
「何かあったらって?」
「何かは何かだよ」
銀はまた遠回しに須美に告げた。この言葉がどれほど須美の心に残るかは未知数であるが、効果はあるような気がした。
そしてまた7月10日がやってくる。
このループの結末は過去例を見ないほどの大敗を須美は喫した。
銀はそれを再び自身の死体とともに達観、俯瞰している。
(園子までいなくなるのは話が違う……。それなら、まだアタシが苦しんだ方がマシだ)
泣きの一回と決めていた。だけど、園子の死だけは許せなかった。
繰り返すたびに酷くなる結果。時を戻る行為すら神に背く行為だというのに、須美は銀を死という運命から掬い上げようとしている。それを神はきっと許していないのだろう。
(それに、アタシ……何で須美のこと助けたいって思ったんだろ)
早く終わらせたいのなら須美を無視しておけば良かった。
銀はそれから自分が更にわからなくなった──。
《ポジション・4》
これまでにない事が起きた。戻ってくる日付が大幅に遅くなったのは特別変だとは思わない。
それ以上に銀が驚きを隠せなかったのは須美が突然連絡もなしに姿をくらました事だった。
「わっしー、どこ行っちゃったのかなあ〜」
「真面目すぎるのが疲れてどこか逃避行でも行ったんじゃないか?」
普段の須美の様子を揶揄って冗談っぽく言ってみる。そんな銀とは対照的に園子はまだ心配気にスマホの画面と睨めっこしていた。
(園子は優しいな……。アタシとしては命預けたんだから諦めずにやり通して欲しいよ。だから早く戻ってきて欲しいんだけど)
もうこの際、打ち明けてしまおうかとすら思っていたと言うのに、銀が心の中で許しているこの一回。無駄遣いされてはたまったものではない。
7月10日と言う運命の日はどう足掻いてもやってくる。須美だってわかってるはずだ。逃げられはしないと。
「園子」
この時、何故銀はおもむろに園子の名前を呼んだのか自分でも理解するのに少しの時間を要した。
その理由も時間をおけばジワジワと胸の中で広がっていく。
これは辛さでも、苦しみでも、悲しみでもない。ただ一言──。
「なになにみのさん〜」
「アタシは生きてるのかな」
「生きてるよ。だって、みのさんの手…すごいあったかいから〜」
「そっか。変な話なんだけど……もし、アタシがみんなとは違う道に進んじゃったとしたら、園子はどう思う?アタシのこと」
「私はわがまま言って、みのさんに戻って来てもらう〜」
「子供か!!」
園子は銀の突飛な問いにも一つと迷うことなく答えた。
だから困るのだ。こんな事を言われて仕舞えば、例え神を敵に回したとしても。
──生きたいと願ってしまう。
須美が再び戻って来たのは学校も授業が終わり、帰宅するだけとなった時間だった。
「須美、何してたんだよ。もう学校終わっちまったよ」
終わりがけに教室に入って来た須美に銀はひとまず声をかけた。
泣いていたのか須美の目の下は赤くなっている。それを指摘したらまた何か言われそうで、銀はあえてスルーした。
スルーした銀とは対照的に園子は興味深そうに須美の顔をジッと見つめる。
「なんだかわっしー、顔つき変わった〜?」
「そうかしら?」
「うん〜。俗に言う覚悟が決まったって言う顔してる〜」
「そうね。諦められない理由が出来たってところかしら」
園子は茶化して「わっしー格好良い〜」と言っているが、銀は即座にその諦められない理由が自分であると察した。
今の銀は早くこの死というループから抜け出したいと言う思いと、生きたいと言う思いが葛藤している。幾ら生きたいと思っても、やはり心の何処かでは無理だと諦めているのもまた事実。
「私、先生に怒られてくるわ」
「とても須美の口から出る言葉とは思えないな」
「そうね。私、少し悪い子になっても良いかなって」
何処と無く危うさを孕んだ笑みを向け、須美は銀と園子に背を向けて職員室へと向かって行った。
(須美……。なんか嫌な予感するし……打ち明けた方がいいか……)
園子にはまだ口が裂けても言えなかった。園子はきっと、自分が死んでも銀を助けようとするだろうと思えたから。
7月10日までは園子とはこれからも普通の友達でいたい。須美に抱いてしまったような憎悪を向けたくはない。
(アタシはどうしたいんだろ。結局……。同じことばかり問い続けて、答えも出ずに……)
偉そうに須美にこれから話をしようとしているが、銀は自分の気持ちが本当はどちらなのか未だにわからない。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。何度も同じ問いをこの間繰り返している。
7月10日と言う運命の別れ道。この周でこの問いと戦いに決着がつくとは思えない。
(生き残ったとして本当の意味で生きてると言えるのかな)
死という記憶は忘れられない。自分の心と身体が蝕まれて、どこに辿り着くのかを想像するとそれは本当に自分自身なのかという疑問に再び戻ってくる。
(ひとまず、須美には諦めてもらう方針で話をしよう。アタシにはきっと答えは出せない)
銀は自分に与えられた試練の多さに、1人息を吐く。それから、須美が戻ってくる事を知っているかのように待ち続け──。
「あのさ。須美、もう諦めて欲しいんだ。アタシのこと」
「………………え」
須美は一体銀が何を言っているのか解らないというかのように何度も瞬きを繰り返す。
銀は追い打ちをかけるように以前の周で須美への「約束」を伝えた。
「私、前にお願いしたよね。私に『何か』あれば弟たちをお願いって」
須美は思わず「あれ?」と首を傾げる。それから直ぐに動揺の波が須美を覆い、思わず椅子から立ち上がって後ずさらせる。
ガタン!と椅子が倒れる音が教室内に響いた。
「貴女、誰?」
「誰って嫌だなあ須美。アタシは三ノ輪銀だよ。紛れもなく」
自分で言っておいて凄い皮肉だと銀は思わず笑いそうになった。
恐怖に近い感情に飲み込まれた須美は亡霊を見るかのような目で銀を見る。
「そんな訳ない!だって!その『約束』を知っているのはーーーーーー」
そう。もう亡き三ノ輪銀との約束である。
今、須美の目の前にいるのは自分が生きているのか死んでいるのかわからない、ただの亡霊だ──。