個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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入学編
1話


 うおおおおっ!という隣の家から聞こえる気合の雄たけびで目を覚ました。今日も幼馴染の男の子が朝の鍛錬をしているのだろうか、と思ったけどまさか今日という大事な大事な受験の日に根性とか、漢とかそういう暑苦しい気合の声をあげてトレーニングに励むということはない、と思う。断定じゃないのはもしかしたらあり得るんじゃないかなって思っちゃうからだ。

 

 部屋のほとんどを埋める特注サイズの巨大ベッドから足を下ろすとフローリングに足が付いた瞬間ゴトッと硬質なものが落ちたかのような音がした。当然だ、私の足は機械なのだから。異形型の個性を持って生まれた私の手と足は硬質で、冷たくて、金属質な機械のもの。鈍色に輝く尖った自分の指を確認してベッドのそばにある分厚い長手袋に手を通した。これがないと、ものを傷つけずに触れないもの。

 

 立ち上がると、高い筈の天井スレスレに頭が来る。そばにあるベッド以外のなにもかもが小さい、だって私が大きいから。重い重い機械の体を自由に動かすため、対抗するように私の体は勝手に大きく成長していったんだ。中学3年生にして、身長240㎝、個性豊かのこの個性社会においてはあまり珍しくないけど、人目は引いちゃう。おまけに手足がごついメカだもの。

 

 人目を引いちゃうのが恥ずかしくて顔を隠すために伸ばしたガラスのようなファイバー形質の前髪越しに見る部屋の時計は、何時も起きる時間ちょうどを指し示していた。体内時計、機械だから正確なのが自慢、勉強も理数系は大得意だし、覚えるだけの科目も得意だけど、国語は苦手。だって機械だから、人の気持ちは分かりかねます、って言えたらいいんだけど私は人間なのだ、個性で機械になってるだけで。

 

 自己紹介が遅れた。私は「楪 希械(ゆずりは きかい)」自他共に認める引っ込み思案で、体が大きいのがちょっとイヤで、ヒーロー志望のカッチカチな幼馴染がいて、自分も全身カッチカチの15歳の女の子。個性は「メ化」ダジャレじゃないよ?自分の体を機械に変えて自在に操れる、ミサイル、機関銃、戦車にロボット何でもござれな自分でいうのもなんだけど強い個性。

 

 そんな私は今日、幼馴染と共に大事な大事な受験の日を迎えていた。雄英……国立雄英高校ヒーロー科の受験日は、今日なのだ。

 

 

 パキッ、と音を立てて釘を嚙み砕きながら結田付中学校の制服に着替える。朝ごはんはさっきすまして歯も磨いたけどこっちは個性の補給用。摂取したものを材料として私は個性を使うのでコンクリだろうが鉄だろうがガソリンだろうが食べることはできる。味覚的な意味では全く嬉しくないので心は死んでるけど。鉄臭いんだよね、おいしくない。緊急時なら口以外でやれるんだけどうるさいのでちょっと……。

 

 お母さんに行ってきますと挨拶をして玄関を出る。私にとっては小さな標準サイズの玄関を何とかかがんで通って外に出る。ひんやりとした空気の2月の26日、滑り止めの受験は終わり、残りはこの試験のみとなった。深呼吸して、吸った空気が耳近くにあるアクセサリの排気孔から水蒸気と一緒にぶしゅっと出てくる。どんな体の中身してるんだろね、私。

 

 「お!希械!おはよう!」

 

 「お、おはよう。えーくん……」

 

 「おう!今日は頑張ろうな!」

 

 玄関前で深呼吸してたら隣の家の前で立っていた男の子が話しかけてきた。突然だったので首をすくめつつ何とかおはようと返す。黒髪のギザギザの歯が特徴的でとっても快活な男の子。えーくんはあだ名で、本名は切島鋭児郎、私よりも背は小さいけど同年代の男の子の中では大きい方だと思う。というか私が大きすぎるだけなんだけどね……私の胸までしかない。

 

 「もしかしてさっき、部屋で叫んでたりしたの?」

 

 「ん?もしかして聞こえてたのか!?」

 

 「うん、ばっちり。私、もしかしてトレーニングしたんじゃないかってビックリしちゃった」

 

 「いやいや、さすがの俺も今日朝練する勇気はないぜ!?」

 

 「いやでもほら、えーくんなら……」

 

 「やらねーから!」

 

 がーっ!と大口を開けて否定するえーくんに一安心した私。アスファルトをガツガツと音を立てて歩く、靴は履いてない、意味ないから。靴より私の足の方が堅いよ!嬉しくない!だってさ、去年の同じくらいの頃かな?えーくんの顔つきが何となく変わったの。元から雄英高校に行きたいっていうのは知ってたけど、そこから毎日の自主トレがハードになっていったりとか変化していった。雄たけび上げるのもそこから。もう日常だったからそういうもんだって思っちゃって。

 

 「雄英か~、楽しみだな!先輩とかヒーローとかに会えんのかな!?」

 

 「パワーローダーに会えたらいいかな……」

 

 そもそもなんで私とえーくんが国立雄英高校を目指しているのか、それは「ヒーロー」になりたいからだ。私の身体が機械なようにこの世界ではみな人間は特殊能力を備えていることが多い。例えばえーくんなら体を硬くする「硬化」他にも目からビームを出せたりとか、火を吹いたりとかそういうの。それは当然、悪いことをする犯罪者も持っている。

 

 それを取り締まるのが「ヒーロー」だ。個性を法律で封じられた警察の代わりに個性を使って犯罪者「ヴィラン」を捕まえる職業。いい方を変えれば戦う国家公務員?とかそんな感じ。個性社会になってからそれなりに世代を重ねた私たち中学生と言えば、進学先はとりあえずヒーローになれるヒーロー科!という風潮で私も例に漏れず。大きくなったのはしょうがないので有効利用するならヒーロー、という感じなんだ。

 

 えーちゃんと私は話しながら、電車に乗り込んで雄英高校を目指して進むのだった。

 

 

 

 「うおっ……」

 

 「でっか……」

 

 「ひぅ……」

 

 「あー、大丈夫か?希械」

 

 「うん、大丈夫……覚えたことメモリから飛びそう」

 

 「シャレにならねーだろ受験だぞ!?」

 

 「大丈夫、メカジョーク」

 

 受験会場、と書かれた立て札、巨大な雄英高校の校門前で私は大きな体をできる限り縮こめようと努力していた。無駄な努力だけど。というのも視線が悪いのだ。他の背の高い人よりも頭二つ分は高い私の背は無駄に目立つし、年不相応に育ってしまった肉体に視線が集まるのはしょうがないとしても男の子の視線はどうしてこうも分かりやすいのだろうか。えーくんはそんなことないのに。喉からか細い悲鳴を上げた私の背中をさすってくれるえーくんのおかげで何とか大丈夫だ、今の所。

 

 「おっ!?切島に希械ちゃんじゃん!やっほー奇遇だね!」

 

 「みっ、三奈ちゃん!よかった受験前に会えないかと……」

 

 「おう、芦戸!今日はガンバローぜ!」

 

 「もちもち!むっ!こらそこー!希械ちゃんは見世物じゃないぞーー!しっしっ!!」

 

 そんなことをしていると私たちの前にいた女の子が振り返って駆け寄ってきた。彼女は同じ中学校の芦戸三奈ちゃん、同じくヒーロー志望で明るくてよく笑う、今時の女の子って感じ。私と同じ異形型の個性が混じってて、肌の色はピンクで、角が生えてて白目が黒目になってる。異形型個性はまだまだ周りから奇異の視線にさらされるのに私と違ってそれを気にせずに誰とでも友達になれる凄い女の子だ。

 

 両手を振り回した三奈ちゃんが私を物珍し気に見ていた他校生たちを追っ払ってくれた。ホントなら自分でできないといけないとか、見られても堂々としてるべきっていうのは分かってるんだけど……興奮して熱が籠ってしまったのでまた耳の排気口から熱を水蒸気と一緒に捨てる。その湯気を見た三奈ちゃんがだきっと熱烈に抱き着いてくる。

 

 「ん~やっぱ希械ちゃんあったかい!冬場は一家に一台欲しいよお」

 

 「わ、私でよければ……」

 

 「いやいいのかそれで」

 

 欲しいって言ってくれてるならあげようかなと思っただけなのにびみょーな顔したえーくんの突っ込みで正気に戻る。3人で一緒に雄英高校の登校口に入るとまず驚いた。入口が低くない、天井も高い。いつもだったら私の学校みたいに屈んでくぐらないといけないのにそんなことない!すごい、雄英高校って私たちみたいな異形型の個性にも理解あるんだ!

 

 そんなことを考えながら校舎内に入って靴に履き替える下駄箱あたりで脚の構造を組み替えて地面を歩いて汚くなった脚を変形させる。設地面積を小さくしたくてハイヒールみたいな形をしてた私の足がカチャカチャと音を立てて組変わり、室内を傷つけないように普通の靴みたいなゴムを底面に敷き詰めたうち履き用のものに変形する。靴、脚が金属だとすぐ破れちゃうんだよね……2日持たないから、脚を変形させて対処してるの。ゴムは古タイヤを食べて確保した、美味しくなかった……。

 

 とりあえず私は個性への補充がてら粗大ごみの処分のアルバイトをしてたりする。こっちでは限定的に個性を使っていいって許可も出たから片っ端から危険物も含めて相当な量の金属やら何やらを体の中に蓄えて個性の大本にしてるのだ。質量保存の法則は異次元に吹っ飛んだらしい。じゃなきゃ今頃私の体重は何トンもあることだろう、個性万歳。

 

 

 

 「エヴィバディハンズアップ!セェェェイ……ヨウコソー!」

 

 「無理だと思うな」

 

 「無理だろ」

 

 「無理じゃん」

 

 おっきなおっきな会場に詰め込まれた受験生全員、今は午後だ。午前中に学力試験は終わってしまった。勉強が苦手な三奈ちゃんと普通だけど好きじゃないえーくんのために頑張ってプリント作ったりして勉強会をした成果を二人は発揮してくれた……と信じている。一応私と答え合わせしていい結果を出してるからいけるハズ。私の個性は手足どころか骨や脳みそまで影響が及んでいるので個性禁止と言われても禁止にできない部分があり、勉強もそれに入る。意図してメモリを消去しない限り私は忘れないし、計算能力も電卓とは比較にならない。

 

 ずるい、と三奈ちゃんには言われるけれども、私にはどうしようもないのだ。ごめんなさいとしか言えません。そして今、教壇に立っている金髪を物凄い逆立てて首元に機械を付けたサングラスの先生、プロヒーロー「プレゼントマイク」さんだ。人気商売なヒーローは副業が許されているので彼は人気ラジオDJでもある。で、いまそのセリフを言ってだだ滑りしているのだ。私たちは3人そろって今盛り上がるのは無理だって思ってるけど。

 

 シヴィー、とけたけた笑ってからプレゼントマイク先生は受験の実技についての内容を説明しだした。3種類の敵がいて、それぞれポイントが違うその敵役のロボットを倒してポイントを稼ぐルール。さらにはゼロポイントの回避推奨な大型お邪魔ギミックが存在する、ふむふむ。えっ……これ……

 

 「受験場所……みんな違うの……?」

 

 「あっほんとだ。切島は?」

 

 「俺もちげえや。なんでだ?」

 

 私の半分絶望にまみれた声に三奈ちゃんは暢気に受験場所の書かれた紙を見て、えーくんは首をかしげる。そんな、一緒に行けると思ってたのに……いや、3人バラバラなのはいいのかもしれない。同会場だとライバルになっちゃうけど別会場なら敵のポイントを取り合わなくて済む。3人が同時に合格できる可能性も高まる!そういうことならやる気出てきた!頑張ろう!

 

 「おっし!こっからはバラバラだし、3人合格を祈って気合い入れてこうぜ!よし!希械!」

 

 「う、うん!」

 

 移動と準備の時間になった途端、拳を硬化させてガツンと打ち合わせたえーくんがそのまま硬化したままの拳を差し出してきた。硬いもの同士しかできない何時ものやつだ。私は手袋を取って、同じように拳を握ってえーくんの拳にぶつける。硬いものをぶつける気持ちいい音が鳴った。それを見た三奈ちゃんがむーーっ!!とほっぺをパンパンにした。

 

 「なにそれ切島ずるい!じゃあ私も希械ちゃん!ぎゅってして!」

 

 「えっ、えっと……それでいいなら……」

 

 私とえーくんのやり取りをみてなにそれー!となったらしい三奈ちゃんは両手を広げて抱っこ!と言わんばかりの態勢を取り、私に突っ込んできた。私もそれでいいなら、と彼女を受け止めて少しだけ力をこめて抱きしめる。むっふー!と息を吐いた三奈ちゃんが私から離れた。顔にエネルギー満点!と書いてあるので大丈夫だと思う。

 

 

 

 「うわー、ホントにそれでやるの?その、凄いよ?」

 

 「だ、だって……こうしなきゃ破れちゃう……」

 

 更衣室から出て、雄英高校専属のバスに乗り別れる寸前で大胆だあと言った三奈ちゃんからそんな言葉を貰う。今現在の私の恰好は、タンクトップとスパッツ、これだけ。だってほかに服を着てると体を変形させられないし、燃えたりとかするし……ならそうならないように最初から布面積の少ない服を着るしかないのだ。だから、これはしょうがないの!コラテラルダメージ!旅の恥は搔き捨て!受験のためなら羞恥心の一つや二つ!と思いながら私は身を縮こめながらバスに揺られるのだった。

 

 開始まで準備してもいい。と広い広い演習場に到着した私たちにプレゼントマイク先生の連絡が入る。それじゃあ、開始まで私も準備しないと、私は集団から少し離れたところで個性をフル稼働させる。

 

 「チャージジャベリン&スラストハンマー、形成開始(レディ)

 

 使う武器をイメージして言葉を使ってより鮮明にする。私の両手が機械音を立てて変形、拡張して大きな武器を形作っていく。機械音が止んだ時には、大きくぶっとくなった私の手足と、3mを超える大型のバーニアが付いた槍とハンマーが両手に握られていた。ぶんぶんとそれを軽く素振りして感触を確かめる。これなら機械でも問題なくつぶせると思う!槍だけで100㎏はあるし、ハンマーは驚異の500㎏超え!質量は大正義だって物理の教科書が言ってた!

 

 「バーニア、余熱開始(レディ)

 

 バックり背中を開けてあるタンクトップの素肌の部分から金属片が積み重なって変形してバーニアを形作っていく。廃材から得られた化学物質を混合して作った推進剤を吹かしてあっためて、これでヨシ!ふふん、とちょっと得意げになっていると他の人たちがじっと私を見てる。試験前だけど大丈夫なのかな?

 

 「はいスタート」

 

 ……えっ?




 楪 希械(ゆずりは きかい)

 楪’s頭 メカクレ 白い髪。右目は機械だが左目は生身
 楪’s体 でかい、発育の敗北。ド迫力ぼでぃ、むちむち
 楪’s腕 肩から先はメカ 変形する。ロマンの塊
 楪 ’s足 太いから太ももって言うんだよ。膝から下はメカ。靴が履けない

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