個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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10話

 ヴィラン、私たちが目指すヒーローとは対極にある存在。自らの欲望のために個性を行使し人を傷つけ、迷惑をかける犯罪者。真っ黒の霧の中から現れた人物たちを相沢先生はそう評した。右目のズームをフル稼働させて観察する。ほとんどは……チンピラ?統率感が一切ない。ただ……黒い霧の塊みたいな人と、黒い大柄で脳みそがむき出しの人、それに手を一杯つけている人……異様に落ち着いてて逆にそれが怖い。

 

 「先生、侵入者用のセンサーは!?」

 

 「当然ありますが……反応しなかったということは」

 

 「センサーが反応しねぇなら向こうにそういう個性持ちがいるってことだな。周到に用意された計画、バカだがアホじゃねえ」

 

 轟くんの言う通り、時間割が向こうに漏れてたとしか思えない。校舎から離れた演習場で、これだけの人数を連絡を封じつつ奇襲をかける……これが本物のヴィラン……!相澤先生が13号先生に避難を開始するように言って戦闘準備を整えている。この人数差で一人で戦うつもりなの……?

 

 「電波妨害系の個性持ちがいる可能性がある。上鳴、楪は個性を使って通報できるか試せ」

 

 「ウッス!」

 

 「……衛星通信、携帯電波共にエラー。通信は無理だと思います……」

 

 「……そうか。13号!生徒たちを任せる!」

 

 「わかりました」

 

 相沢先生に言われて上鳴くんと一緒に通報できるか試す。衛星通信に携帯電波、アマチュア無線に至るまで全ての通信手段が遮断されている。いくらなんでも用意周到が過ぎるよ……ホントに全部の通信手段を封じられているみたい。アンテナがあっても意味ないくらいだ。階段前に捕縛布を持って立つ相澤先生、イレイザーヘッドを緑谷くんが止める。

 

 「相澤先生、一人で戦うんですか!?イレイザーヘッドの戦闘は個性を消しての捕縛で……多対一じゃ……」

 

 「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 ゴーグルを被った相沢先生は階段を飛び降りてヴィランのど真ん中に向かう。射撃系の個性を持ったヴィランが撃とうとするが発射のタイミングでそれぞれ個性を消されて不発、さらには捕縛布でぶつけあわされて無力化されてしまう。あれが、相澤先生の戦い方……誰の個性を消しているのか、消していないのか……目線を隠すことで分からないようにして相手の焦燥感を煽ってるんだ。

 

 「すごい、あれがイレイザーヘッド……」

 

 「デクくん、分析してる場合じゃないよ。私たちがうだうだしてたら格好の的―――」

 

 「その通り。逃がしませんよ」

 

 うそっ!?目を離したつもりはなかったのに一瞬で私たちのそばに!?黒い霧の人物……(ヴィラン)連合の黒霧と名乗った男の人は私たちを前にして余裕たっぷりな様子で自己紹介をした。固まる私たちに彼が告げたのは……目的がオールマイト先生を殺すことだということだ。あの、オールマイト先生の、平和の象徴の抹殺……!?無理だ、そんな手段があるならとっくの昔にあの人は負けてるんだ。最強だから、平和の象徴だって言われてるんだ。

 

 「まあ、平和の象徴がいなくとも私のやることは変わらず……ここで、散らして殺す」

 

 「その前に俺たちにやられるって……希械!?」

 

 「死ねぇクソ霧野郎!」

 

 「だめ!爆豪くん!13号先生が個性を使えない!」

 

 黒霧は私たちに向かって自身の黒い霧を向ける。私たちを覆いつくそうとするその霧が覆いつくす前に黒霧を攻撃して止めようとしたえーくんの腕を掴んで無理やり止める。どうして、という顔で私を見るえーくんだけど私はそれよりも止められず攻撃に入って爆発を見舞った爆豪くんにどくように叫んだ。私が止めた意図を悟った二人がハッとするが既に13号先生の射線上に入ってしまった爆豪くんが邪魔で13号先生はブラックホールを使えない。

 

 「流石は、雄英……生徒さん方も優秀だ。その優秀さが、今回の命取りだったわけですが」

 

 黒い霧が私たちを覆いつくす。えーくんの手を離さないように強めに握る、足元の地面が消えて体が浮くと同時に、音もなく私の手首から先がなくなった。これ、霧と接触したところをワープさせる個性……!空間を閉じることで引きちぎられたんだ。なんで空間系なんて珍しい個性がヴィラン側に……!

 

 

 

 

 空に放りだされた。周りは倒壊した建物ばかり……!ここは多分地震災害用の演習場所……?どさり、と尻もちをついて放り出された私は周りを見る。手首から先はやっぱりなくなっていた。ショートしてバチバチいう左手に意識を集中して組みなおす。それと同時に回りの状況把握、音響探知……いる。クラスメイトじゃない、大人の人間が。他にも霧に巻き込まれたクラスメイトがいないか探してみるけど……どうやらここには私一人みたいだ。

 

 「ひゅ~~!こら随分な上玉が出てきたなあ!ちょっとでかいけどまたそれがそそるじゃねえの!」

 

 「敵連合様様だぜぇ!おい嬢ちゃん、俺たちと楽しいことしようぜ?」

 

 「まあ、断る権利はないけどなあ!ぎゃはははは!」

 

 私がやってきたのを見つけた男の人たちはげらげらと下品なことを言いながら私を取り囲んでにやにやと笑っている。でも、さっきの黒霧ほど怖くもないし強そうでもない。町にいるチンピラレベル、解析してみても素人の域を越えない。そうか、ここにきてやっとわかった。主犯格は黒霧とあの手が沢山ついたやつなんだ。それ以外は、足止め以下の三流ヴィラン……!やることは単純、戦って生き残ること。迷う理由は、ない。

 

 「いろいろ、気になることがあります。なので……遊んであげられません。あしからず!」

 

 「ぐあっ!?」

 

 真後ろから下卑た顔で私のお尻に手を伸ばしたヴィランの手を掴んで強引に片手で振り回し、投げつける。背中から倒壊したビル群に突っ込んだヴィランはこふ、と口から咳と一緒に血を吐いて気絶した。それに向かって私は腕の内部で作り出した拘束具を発射、ヴィランの足首、腰と手、肩に巻き付いた拘束具は電磁石で強烈に締め付けて彼を行動不能にした。

 

 今私がやることは、このヴィランたちから生き残ること。そして広場に戻って先生たちと合流すること。正当防衛が効くかは分からないけど、抵抗しなければ私は好き放題されてしまうのが自明の理。それはその、いやなので全力で抵抗させてもらうことにする。チャリチャリと腕が変形して、戦闘形態に移行する。足も装甲とバーニアを追加すればいい。

 

 「こいつ……!」

 

 「一人でよかった……巻き込みを考えなくていいから。あの、ヴィランの皆さん。私、まだヒーローの入り口に立ったばかりで……その、手加減の具合を分かってないんです。ですから……腕や足が飛んでも怒らないでくださいね」

 

 「舐めるなあ!」

 

 「やっちまえ!」

 

 向かってくるヴィランたちに。遠距離系の個性はとりあえず無視して、飛び込んできた腕が高速振動してるヴィランの男の拳に合わせて私も拳で対抗する。がきぃっ!と音がして私の手に一方的に負けた男の手が変な方向に曲がった。多分普通の金属相手だと高をくくったのかもしれないけど、私の戦闘形態の腕と足は私が合成した超硬質の合金だ。10トン以上の圧力を受けないとまず変形しないのが自慢。特に指先は極めて硬くしてある自信作なんです。

 

 声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちたヴィラン私は指先からの電気ショックで気絶させて拘束具で拘束する。ここでようやく、周りのヴィランが私が学生でも戦闘ができるということに気づいたようで、じり……と後ずさりを始めた。私はその隙に武装を構成する。

 

 「スラストハンマー、グレートメイス、テイルブレード、形成開始(レディ)

 

 バーニア付きハンマー、大型のメイス、そして背中から伸びたワイヤー付きの大型ブレードが完成する。ジャージの裾から伸びたワイヤーで自在に動くブレードが後ろのヴィランを薙ぎ払った。遠距離個性が放ってくる硬化した指や髪の毛、生体ミサイルが私に直撃するが、無視して脹脛に作ったバーニアを吹かして飛び上がる。スラストハンマーのスラスターを思いっきり吹かして地面を殴りつけると、音速を越えたハンマーの衝撃波が周りのヴィランたちを直撃して吹き飛ばし、壁にたたきつける。

 

 「ば、ばけもの……!ひぎゃっ!?」

 

 「うん、機械だから。でも、殺さないから安心してください。ちゃんと生かして警察に届けます」

 

 一撃で大多数を戦闘不能にした私に恐れをなしたらしいヴィランが私にそんなことを言ってくる。化け物、うんその通り。だって私は機械だから。ヴィランになんて思われようと関係ない、私が私だってわかってくれる人がいるんだから、敵になんて思われても平気、へっちゃら。巨大な金属バットのような形をしたグレートメイスを軽く振るって3人ほど巻き込んで壁にたたきつける。手加減って難しいな、力を籠め過ぎたら死んじゃうし……怪我はさせちゃったけど致命的な怪我はないかな、と気絶したヴィランを拘束して私はそう判断する。

 

 「さて……」

 

 「ひっ!?ゆ、ゆるして……!」

 

 「うん、じゃあ……目的とか話してください」

 

 テイルブレードでこかしたヴィランの最後の一人の上に立って、顔面横を思いっきり踏みつけて脅す。顔の真横が私の足で陥没したのを見て唾を飲み込んだヴィランは震える声で作戦を話してくれる。まず、私たちを分断して各個撃破し、中央に残った主犯格がここにいるハズだったオールマイトを殺す、なんとも用意周到な割には稚拙な作戦だ。もう何もない、というヴィランを拘束具で拘束して私はその場を後にする。

 

 「ここから広場までは少し距離があるから……メガ・ブースター、形成開始(レディ)

 

 テイルブレードを再変形させて、ロケットブースターを作り出す。ロケットを何本も束ねたようなブースターが私の後ろに伸びて白煙と炎を吹き出し始める。一回使えば壊れて使用不能になるものだけど、今の私の状態だとこれが一番速い。アイドリングが終わり、爆炎を発したブースターが私を打ち出した。

 

 一瞬で音速を越えた私が、広間を目指して空を駆ける。発射だけで燃料が切れたブースターを腰からパージして残った速度を維持しつつ、脚のバーニアで方向を調整する。そして広間と水難エリアのちょうど境目あたりに私は着弾、というか墜落した。着地方法が雑なのが一番あれだなあこの飛び方……

 

 「あ!楪さん……!」

 

 「楪ちゃん、無事だったのね……」

 

 「楪!おめえが戻ってきてオイラ嬉しいよ!これで一安心だ!」

 

 「3人とも無事でよかったけど……デクくんはまた、使っちゃったんだね。それ以上その指動かさないでね?」

 

 私がクレーターの中から出てくると水の中から上がってきたデクくん、梅雨ちゃんに峰田くんが駆け寄ってくる。デクくんが手を抑えてるのを見てまた、無茶したんだと心配してしまう。私が派手に墜落したのは向こうの手が沢山ついたヴィランも分かってるし相澤先生も分かってる。相澤先生が私が戻ってきたことを好機ととらえて大声で指示を出した。

 

 「楪!全員抱えて13号の所まで戻れ!」

 

 「はいっ!みんな掴まっ――っ!?」

 

 「だめだ。君たちは観客だ。いてくれないと困るなぁ……平和の象徴が死ぬところを見ないとダメじゃないか。脳無」

 

 反応できたのは奇跡だった。全員を一纏めにして脚のバーニアで離脱しようとした私を脳無と呼ばれた私と同身長くらいの脳みそ丸出しのヴィランが一瞬で移動して私にパンチを放ってきたのだ。私は咄嗟に3人を水難エリアに投げ飛ばして、右手を曲げた状態の右肩で脳無のパンチを受ける。踏ん張った足が足の甲まで陥没して体験したことのない力が私を襲った。ミシミシメリメリと私の骨格が悲鳴を上げる。

 

 「楪さんっ!?」

 

 「楪ちゃん!?」

 

 「おいおい、なんだよあれ……!?」

 

 「楪!貴様……」

 

 「おいおい、あれを耐えるのかよ。どいつもこいつもチートだなあおい!だがこれで分かっただろ?本命は俺じゃない」

 

 喋る余裕がない。こいつ、瞬間的な出力なら私より強い!まるで体のリミッターをすべて無視してるようなそんな力だ。反動はどうなってるの?けど、持続力なら負けない。押し合いなら私が有利!ぐぐ、と腕のパワーを最大に高めてもう片手のパンチを掌で受け止めて、右手も捕まえる。手四つの押し合いだ。ずり、ずりと少しづつ私が脳無を押していく。戦闘形態で個性テスト時よりもパワーをあげた握力が脳無の手を握りつぶした。手のヴィランがガリガリと顔を搔いている。

 

 「おいおいおい!なにしてんだよ!さっさとそのでかい女を殺せ!」

 

 「えっ!?きゃあああっ!?」

 

 もう少しで地面に膝をつかせられる!と私があらんばかりの力を籠めたところで、手のヴィランが他のヴィランと一緒に相澤先生に襲い掛かりつつ脳無に命令をした。途端に脳無は一気に私以上のパワーを発揮して私の手を掴んだまま振り回し、投げ飛ばした。私はきりもみ回転をしながらエリアを跨いで市街地演習場のビルに突き刺さる。痛い、こんなに痛いのは初めてだ。脳無の握力で右ひじを潰されたのかうまく動かない。何とか立ち上がって私が開けた穴から外を見る。

 

 息をのむ、その一瞬で形勢が逆転していた。相澤先生が、脳無に……手を……

 

 「なに、してるの……!」

 

 自分でも驚くほど低い声が出た。私たちの先生に何してるんだ、私の大事なクラスメイト、友達に何してるんだ。個性をフル稼働、強制全冷却。体から空いた穴から爆風と一緒に熱が放出される。熱に強いはずのジャンパーが燃えてしまう。冷却終了……全力で、皆を守るんだ。

 

 「構成拡張(オーバード)、重装近接格闘型強化外骨格『ゴリアテ』機能更新(スタンバイ)形成開始(レディ)

 




 次回、マジギレ楪ちゃん、脳無に挑む

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