個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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98話

 大きめのテレビ画面ほどの大きさにした投影映像の中では、ざわざわとした体育館全体の様子が映し出されている。外部の人間を関係者以外一切入れなかった文化祭の様子は、当然親御さんは知ることができない。飯田くんが提案した見れなかった人用の映像撮影がこんな風に役に立つとは思わなかった。演者でなかった轟くんの様子がアップカメラに写されている。

 

 キャットウォークの欄干に体を預けた轟くんと欄干に器用に置いてあるハロ、そして砂藤くん、障子くん、口田くん、瀬呂くんの演出隊の面々が見守る中、幕が開いた。開幕の掴みに合わせて轟くんがハロに指示を出す。同時に口田くんの個性で白いハトが観客の上を飛んだ。

 

 「すっごい」

 

 「ほんとね……」

 

 演奏の掴みにぽろっと二人の言葉が漏れた、内心でガッツポーズ。爆豪くんの言葉も馬鹿にできないものだね。そこからの早着替え、ダンス……それを見守る画面の中の轟くんの顔は……笑っていた。日頃クールな彼はよっぽどのことがなければ表情を崩さない。それこそ、お腹を抱えて笑うとかは見たことがないほど。だから、私はカメラの映像を確認してちょっと驚いたんだ。あの轟くんがこんな無邪気に笑うんだって。

 

 微笑んだりとか、そういうのは普通に見たことあるし表情が変わらないながらも意外と雰囲気は雄弁なのが轟くんだ。その彼が、公演中ずっと笑みを隠さなかった。轟くん自身も今客観的に自分を見てその時笑ってたことを知ったのだろう、ちょっと驚いてる。轟くん最大の見せ場、幾重にもかかる氷の橋。観客から見えやすく、それでいてど派手になるように何度も練習を重ねたそれ、自信に満ちた顔をしてそれを行う轟くんを見て、冷さんはじわ、と目に涙を浮かべた。

 

 流れている動画が終わり、私は投影映像を消した。冬美さんが目尻を拭う冷さんに駆け寄った。轟くんもお母さんが心配になってしまったらしくて少しだけ顔を消沈させながら近くによる。冷さんは大きく息を吸い、心を落ち着かせた後に轟くんをまっすぐ見つめた。

 

 「おっきくなったのね、私の中のあなたはずっと……私が貴方から離れたころで止まっていたわ。貴方がお見舞いに来てくれるようになってから、お手紙をくれるようになってからも……私の心のどこかで貴方はそのままだった」

 

 「お母さん……」

 

 「でもね、今のを見て……私も前に進まなきゃって思えてくるの。貴方は素敵なお友達に囲まれて、私のずっと先に行っちゃったわ。私も追いつかないとね」

 

 ぽん、と轟くんと冬美さんの頭に手を置いた冷さんは二人の頭を抱き寄せてそんなことを言った。やっぱり母親っていうのは偉大だな、と私はその光景を見ながら今さらになって感じた。冬美さんの目から涙がぽろりとこぼれて堰を切ったようにとめどなく溢れていった。私はエリちゃんをそっと抱っこして、一旦病室の外に出る。ここからはきっと、家族の時間だ。私やエリちゃんが入っていいものじゃない。

 

 

 

 「わりぃ、連れてきておいて放っておいちまった」

 

 「気にしないで。私こそ、急にいなくなったりしてごめんね」

 

 「いや……助かった。お母さんがあんな風に色々話してくれたの、久しぶりだった」

 

 轟くんの携帯電話に病院の休憩室にいるよ、とメールをしてエリちゃんと待つことしばし。エリちゃんとオセロをして過ごしていると、私がいないことに気づいたらしい轟家の3人が慌てた様子で休憩室にやってきた。エリちゃんの白一色に染まったオセロの盤面に私が接待をしたのがばれてぽこぽこエリちゃんに抗議をされていたところを見られてしまいちょっと恥ずかしかったけど。

 

 謝られるようなことをされた覚えはないので謝らないでください、ときっぱり断った後に冷さんと冬美さんはそれでも、と謝ってくれたけどそこからは普通に談笑することができた。まあそれで、冷さんや冬美さんに普段の轟くんの様子を根掘り葉掘り聞かれた。授業ではどうだ、とかみんなとうまくやれてるのか、とかね。

 

 みんなとうまくやれてるかどうか、といわれても私の視点での話なので仲いい人はいますよ。という感じなんだけどね。ここ最近は仮免の補講と重なってあまりお見舞いに行くことは出来なかったみたいだからね轟くんは。私が伝える普段の轟くんの様子を聞いた二人はなんだか安心したような顔をしていた。

 

 私の家族は、普通だ。普通に私を愛してくれて、育ててくれた。だから、轟くんの家族のような……歪んでしまった家族のことは分からない。分かると思ってはならない。彼女らの心情を私は慮ることしかできないけどそれでもきっと、安心してもらうことは出来たんだと思う。屈託なく話し合う3人を見て私は強くそう思った。

 

 お昼ご飯食べて行ってもらえないかしら、と冬美さんにお家に招待されたんだけど、エリちゃんが朝からたくさん歩いたせいで完全にお眠になってしまったので丁重に断らせてもらって私たちは雄英に帰ることにした。11時過ぎの私にとってはちょっと冷えたくらいの陽気の中、轟くんと近場の駅まで歩いていく。そろそろ息が白くなってくるよね。

 

 病院から駅への並木林を通る。そんな感じで特に会話とかはなくそれでも居心地が悪いわけでもない不思議な感じで歩き続ける。轟くんと二人になると大体こういう沈黙になることは結構ある。私も轟くんも、話題を提供する立場かといわれれば首を傾げるのだ。そりゃあ、お話するのは嫌いじゃないけどね。そう考えてると私の右耳のハロが耳元で警告音を発した。これ緊急ニュースとかでテレビ番組が変更されるとかそういう大事件の時に知らせてくれるよう設定した機能だ。

 

 『ご覧ください!福岡の街でヴィランが!エンデヴァーが必死に応戦しています』

 

 「これは……!」

 

 「親父……!」

 

 眠ってしまったエリちゃんを起こさないようにそっと音声を遮断するイヤーマフを付けた後に私は投影映像を自分たちの眼前に映し出した。どの局もやっている番組は同じ、緊急ニュース速報。果たしてその中身は……福岡の街で暴れまわるヴィラン……オールフォーワンがタルタロスに収監されてから一向に音沙汰がなかった脳無と、それと戦うエンデヴァー、ホークス、そして地元のヒーローの面々だった。

 

 ビル一棟がすでに半壊してる様子で逃げ惑う人々とヒーローの戦いを間近で見ようと逆に近づく人々、ヒーローの戦いは一市民にとって娯楽だ。だけどそれは、一定程度のヴィランだけ、ヒーローが余裕をもって鎮圧できる力しか持たないチンピラの場合のみだ。そして、平和の象徴というアイコンが不在になってしまった今、まだ市民たちはオールマイト先生がいた頃と同じ感覚でいる。最強無敵のヒーローがやられそうなヒーローを救け、ヴィランを完璧にくじくという幻想の筋書きがまだ現実になると思っている。

 

 何度も戦ったから分かる。脳無は、ザコじゃない。ショービジネスのように魅せる戦いができる相手じゃない。エンデヴァーが相手にしているあの脳無は、入学当初に襲ってきたあの脳無と同じ感じがする。見るだけでも、分裂、肩からのエネルギー噴射による飛行、腕を振るえば衝撃波が出るパワー、腕を変形させる個性、都合複数の個性を同時に運用している。

 

 エリちゃんが眠ってて良かった。こんな怖いもの見せられるわけない。轟くんが息をのんで戦闘を見守る、私も目が離せない。なぜならこれは、オールマイト先生が引退してから初めての大事件だからだ。ヒーロー社会の信頼をつなぎ留める戦いになってしまっているからだ。そしてその相手が、オールフォーワンが残した負の遺産だとは……因果なものかもしれない。

 

 『ああ!エンデヴァーがここからでも分かるほど輝いています!!』

 

 「赫灼熱拳……!」

 

 「プロミネンスバーンだ……!クソ親父の、最終奥義」

 

 エンデヴァーの赫灼熱拳は並のヴィランなら一撃どころかかすってしまうだけでも戦闘不能に陥れることができてしまう超必殺技。極意である熱の圧縮と一転放出に支えられたそれは、自らの個性の弱点をも増大させている。轟くんの左のように、使い過ぎれば体の中に熱がたまり、身体機能が著しく落ちる。それを押してあれだけの熱を貯めるということは、エンデヴァーはここで決めるつもりなのだろう。

 

 テレビカメラが一瞬ホワイトアウトするほどの輝きが、脳無に向かって極大の熱線となって襲い掛かった。すさまじいとしか言いようのない、あれを再現しようと思ったらどれほどの準備が必要だろうか。ただ短時間貯めるだけであれを打ち込めるエンデヴァーには脱帽するしかないよ。プロミネンスバーンの熱線に飲み込まれた脳無は一瞬で炭化して、勝負あり……じゃない!

 

 「あっ……!」

 

 思わず声が漏れた。テレビカメラがその機能を十全に取り戻した一瞬で、プロミネンスバーンに飲み込まれる前に自分で頭を千切って攻撃の範囲外から逃れた脳無が体を再生させてエンデヴァーの顔を抉ったのだ。テレビカメラが写す映像じゃ怪我の程度は分からないけど、まずいことになった。

 

 めら、と轟くんの左から少しだけ炎が漏れた。ぎりっと無意識だろうが歯を食いしばる音が彼から聞こえる。私は何も言うことが出来ず、彼の手に空いている自分の手を触れさせて、握った。一人じゃないと伝える為に。ダウンを奪われたエンデヴァーが瞬時に背中から炎を吹き出して赫灼熱拳による攻撃を仕掛けるが、伸びた脳無の腕がエンデヴァーを捕らえて振り回し、ビルに叩き付ける。

 

 『これが象徴の不在!』

 

 「ふざけないで……!」

 

 「ふざけんな……!」

 

 私と轟くんの声が重なった。いつまでオールマイト先生にもたれかかってるつもりなんだ。唇をかみしめる、ピリッとした痛みと口の端から血が垂れる。エリちゃんを抱き上げてる手に力が入りそうになって慌てて抜いた。画面の中で好き勝手に喚くリポーターを殴ってやりたくなった。画面の中の福岡の人たちは逃げ惑い、パニックに陥る。その中でも私たちと同じ考えを持つ人がいたみたいだ。

 

 『ふざけとんなや!みえるやろ!エンデヴァーの炎!まだ戦ってるんやぞ!俺たちのために命かけて!おらんもん引きずらんと今必死に守ってくれるやつは誰や!見ろや!!!』

 

 市民の声が聞こえると同時に空撮の映像に切り替わる。空を飛ぶエンデヴァーと脳無、それに合流したホークスが連携攻撃を仕掛けていた。ホークスの剛翼がエンデヴァーに速度を上乗せして、力を振り絞ったエンデヴァーの赫灼熱拳が脳無の顔を捕らえる。その瞬間、脳無の顔が変形し獣のような形相に変わってエンデヴァーの腕に食らいついた。だけど、そのままエンデヴァーは脳無の口腔内で火力を上昇させて強引に攻撃を通していく。さらに追加された剛翼がエンデヴァーを空中に押し上げる。

 

 『っ……戦っています!身をよじり!あがきながら!私たちのナンバーワンが!』

 

 「親父っ……見てるぞ!」

 

 「……エンデヴァーっ……!」

 

 轟くんの手に力が入る。その声援が届いたかどうかは分からないけど、エンデヴァーは最後の力を振り絞って上空高く舞い上がると、ゼロ距離で先ほどのプロミネンスバーンの倍はあろうかという超高熱線を放ったのだ。再生の核となる頭を中心にして焼き尽くされた脳無が、ボロボロの炭と化していく。

 

 力なく落ちていくエンデヴァーを福岡のヒーローがキャッチする。地面にたたきつけられた脳無を前にして、自分の足で立ち上がったエンデヴァーが右手を上げる。神野でのオールマイト先生の最後のそれと酷似したポージングに気色ばんだテレビクルーがアナウンサーどころかカメラや音響の人までも叫んだ。

 

 『エンデヴァーーーーーー!!!立っています!勝利の!いえ!始まりのスタンディングです!』

 

 「はっ……!」

 

 「おっと。轟くん、大丈夫?」

 

 「よかった……!」

 

 くたり、と轟くんの力が抜け、私が支える。もぞ、と私の体勢が大きく変わったせいでエリちゃんが起きてしまった。血塗れのエンデヴァーを見せないために投影映像を切る。轟くんの口を出てきた言葉、きっと色々あるんだろう。エンデヴァーはいまヒーロー社会の信頼をつなぎ留めてくれた。それだけでも既に100点満点だ。あの人なら多分0点というのだろうけど。

 

 ぴりりりと轟くんの携帯が鳴った。エリちゃんにおりてもらって今余裕がない轟くんに断って、電話にでた。エリちゃんは起きたらいきなり轟くんが酷い顔しているものだから、心配そうな顔でしゃがんだ轟くんの頭を私が何時も撫でるように撫でている。電話の先は、相澤先生。

 

 「もしもし、ごめんなさい相澤先生。楪です」

 

 『っ!楪か!?轟は!?』

 

 「エンデヴァーの福岡でのことは見ました。今は少し余裕がないのでこれから雄英に帰ります。エリちゃんには見せてません」

 

 『こっちで迎えを出す!そこから動かないでくれ』

 

 「分かりました。位置情報を送ります」

 

 先生、外出許可を貰ったのはミッドナイト先生だったし、今日行き先はクラスの誰にも伝えてなかったので連絡が来るのが遅れてしまったのだろう。珍しく声を荒げた相澤先生にいろいろと説明をして指示を受ける。轟くんはその間に落ち着くことができたようで、エリちゃんに硬いながらも微笑みお礼を言っていた。無事だとは思うけど……!重傷だろうから心配だ。

 

 近くのベンチに座って、相澤先生に位置情報を送る。こりゃ、えらいことになったな……。事情が分かってないエリちゃんが不安そうな顔を見せるので膝の上に抱っこして私の胸にエリちゃんの耳をつける。エリちゃん、なんだか私の心音を聞くと落ち着くみたいだから。生きている、っていうのが分かるからなのかな。その間も轟くんは携帯で、中継の切れたネットニュースでしきりにエンデヴァーのことを検索していた。




この話でこの作品100話目らしいっすよ。自己ベスト更新ですわーい。ではこれからも気ままにやっていきたいと思います。

 ではまた次回に。感想評価をよろしくお願いします

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