個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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104話

 「いくよっ!」

 

 私の周りを漂う流体金属、メリクリウスが津波のように襲い掛かる。B組チームは目の前に心操くんがいるからかここからは洗脳を警戒して言葉によるコミュニケーションを捨てるつもりらしい。ハンドサインでやり取りしはじめた。うん、そうすると思ってたし、そうしないとまずいからね。何せ、誰かの声に返事をしたら洗脳されるかもしれないわけだから。

 

 宍田くんは心操くんへ、そして拳藤さんは私へ。取蔭さんは全身をばらけさせて援護するようだ。手数の取蔭さんと、パワーの宍田くん拳藤さんというわけね。なるほど、これもある意味ではオールレンジ攻撃というわけか。まず私が突っ込むことにしよう。片腕を巨大化させた拳藤さんが私に向かって団扇のように振りかぶった手を叩きつけようとする。

 

 対抗しようか!私の腕のメリクリウスが膨張して拳藤さんと同じくらいの大きさに体積を増大する。不定形だからこそ、どんな形にもなれる。慌てた拳藤さんだけど振りかぶった手は戻せない。そのまま腕を掴んで、力比べに入る。押し合いなら当然私が有利だよ!突き飛ばすように私は拳藤さんを押し飛ばした。途中で私の後頭部を狙って取蔭さんの分離された手が飛んできたけど、メリクリウスが自動的に防御してくれる。私が認識していなくてもね。

 

 メリクリウスはナノマシン技術の始まりといってもいい。ナノマシンそのものを大量に操るのが最終目標だけど、今は液体金属にナノマシンを混ぜ込んで媒介として操る方式しか取れない。それでもこれこの通り、自在に形を変え、硬度を変え、不規則に動くメリクリウスは非常に予測しづらい。といっても液体金属なので、突然ビームを撃ったりはできないんだけどね。

 

 「心操くんっ!」

 

 「ああっ!」

 

 「なぬっ!?」

 

 ギリギリ宍田くんから逃げ回っていた心操くんが私の手が空いたことを察知してくれる。宍田くんの必殺技、ガオンレイジをメリクリウスが受け止め、心操くんが捕縛布でその腕を取る。そのまま私が心操くんから捕縛布を受け取って引っ張り、宍田くんの体勢を崩した。今がチャンス!と心操くんの足元にメリクリウスで足場を作って、そこを駆け上がった心操くんの飛び膝蹴りが宍田くんの顎に直撃する。硬化したメリクリウスで覆われた膝蹴りがいい所に入ったお陰で宍田くんは意識を刈り取られて崩れ落ちる。

 

 「マッズ!」

 

 「もっといくよっ!」

 

 心操くんに繋がった捕縛布を私がさらに引っ張って彼を振り回す形になる。そこから取蔭さんの本体に向かって心操くんを投げた。心操くんは私と繋がる捕縛布を切って、まっすぐに取蔭さんの所に飛んでいく。当然ながら取蔭さんは避ける、ついでにカウンターとして拳を飛ばしてきた。だが心操くんもさるもの、私のビットのおかげで自由自在に飛んでくる何か、っていうのへの対処は頭に入ってるんだよ。

 

 私は空中に浮かべたメリクリウスをいくつか飛ばして心操くんの軌道上にランダム配置する。空中に固定されたメリクリウスを心操くんは蹴り、捕縛布でひっかけ、軌道を変えて取蔭さんに迫り、彼女の本体である胴と頭を捕縛布で捉えた。そのタイミングで結構遠くまで吹っ飛ばした拳藤さんが戻ってくる。道すがら状況を把握していた彼女はまず心操くんの排除にかかった。

 

 「やらせない!」

 

 「くっ!!」

 

 まだ、本体を捕まえただけなので取蔭さんの切り離された手足は自由に動く。諦めるわけないよね、ヒーロー志望だから!私と相対した拳藤さんは、今度は掌を大きくすることなく素早さを活かした打撃戦を挑んできた。うっわー、考えてるね!そう、私の今の形態はどちらかといえば動き回るわけではなく、じっと動かずに戦闘するように設計してる。要は私の課題である初速の問題はそのままなの。メリクリウス自体も金属だから咄嗟にどうにかできるほど素早くは動かないし。

 

 ドガガガッと私のガードの上から簡単に木の板を切断する拳藤さんの手刀のラッシュが入る。いたっ!あいたたた!もう!生身の所ばっかり狙ってきて!メリクリウスに気を取られてちゃだめだよ!?じゃこっと私の足が開いて中から閃光弾が発射される。その瞬間私はメリクリウスをドーム状にして私ごと拳藤さんを覆う。あ、まずいやり過ぎた。このままじゃ酷いことになる。

 

 私は青ざめた拳藤さんを抱きしめて目を塞ぎ、さらに耳に耳当てを同時に作って対処。閃光弾の炸裂が終わると同時にそのまま彼女を移動式牢で拘束する。ごめん、熱くなっちゃった。逃げ道潰すだけでよかったね、脳無とかオーバーホールとかだとこの程度じゃ止まってくれないから確実に行動不能にするのが癖になっちゃってた。訓練なのに鼓膜破裂はすこしね……。

 

 「うわー、楪と心操のコンビ……えげつなさすぎでしょ」

 

 「お、心操くん取蔭さん捕縛できたんだ!ナイスっ!」

 

 「やりづらいったらなかったよ。心操、体術あんな動けるなんて思わなかった……」

 

 「さっきは、発揮できなかった。緑谷のパワーだとそういうのって意味ないから」

 

 バシャ、と音を立てて地面に落ちたメリクリウスの闇が晴れるとすでに心操くんは取蔭さんのありとあらゆるパーツを捕縛布で建材を巻き込みつつぐるぐる巻きにされて拘束されている。やれやれと、ヒーロースーツのマスク越しにため息をついた取蔭さんがこうさーん!と声をあげる。それを聞いた私はマイクの回線ジャックをやめる。マイクが繋がったのが確認できたのか相澤先生の声がスピーカーから聞こえる。

 

 『特別戦は楪、心操チームの勝利とする。講評するからすぐに戻ってこい』

 

 「よし!心操くん勝ったよ!いえい!」

 

 「なんかテンション高いね、楪」

 

 「そりゃそうだよ~。心操くんと共闘できたんだよ?しかも即席でコンビプレイまでできた!テンションだって上がるさー!」

 

 ごぼごぼと音を立てるメリクリウスで心操くんを持ち上げて高い高い、私のこの感じにもいい加減慣れてきたらしい心操くんはソファに座るみたいな態勢でメリクリウスの感触を楽しんでいる。拘束を解かれた取蔭さんも体を元に戻してぷにぷにとメリクリウスを触っている。頑丈な宍田くんも意識を取り戻し、牢屋から鉄哲くんと物間くんも戻ってきた。

 

 「アハハハ!今回はいいようにやられたけど次はこうはいかないからな楪!今回の情報でもっとB組は強くなる!」

 

 「受けて立つよー!初見殺しなら山ほど用意してあるからね!I・アイランドの論文全部読み込んで理解するくらいしないと対処できないんじゃないかな?」

 

 「先生方が反則といった理由が分かる気がしますぞ……」

 

 帰ろうかー、と私は自分も含めてメリクリウスを使い全員を運ぶ。ぷにぷにと不思議な感触をしてるメリクリウスは、スライムが這って移動するような感じで運動場γを抜けて、クラスメイト達の所に戻る。おもちのようなものに乗って現れた私たちを見た相澤先生がため息をつく。これ作るのに個性は必要だけど動かすのに個性は要らないからね、抹消しても動くんだ。

 

 

 

 

 「で、講評だが。B組、戦ってどうだった」

 

 「全部掌の上って感じが拭えないよね~。八百万とはまた違う感じの……質の悪い詰め方してくるよ」

 

 「こっちの強み全部潰してきたうえで当然のように自分の強みは押し付けてくるし……やりづらいったらありゃしないわ。しかも何で心操とあんなに息があってるの」

 

 「まさか物間に化けて洗脳かけてくるたぁ思わなかった。何も出来なかったぜ……」

 

 「索敵されるのを予想してこっちの手段を完全に潰されました。心操氏が動けるのは承知の上でしたが、的確なサポートのおかげで見事に不覚を取りましたぞ」

 

 「ぶっちゃけ反則だね彼女。油断すらしてくれないし。真っ先に僕を潰しに来たあたり見る目はあるんじゃないかなアハハハハ!」

 

 「あ、ちなみにですけど最初のチーム発表でブラドキング先生が誰が来るのか教えてくれたので作戦の組み立てが楽でした」

 

 秘密にしとけばもうちょっと梃子摺ってた、というかワンチャン負けてたかもね。例えば物間くんが宍田くんの個性を使って心操くんの前に立ってたら、投影映像による擬態は効かなかっただろうし、初手で誰がいるのか、という情報を貰えたのは非常に大きい。どうすればいいのかという道筋を立てやすいからさ。

 

 「で、楪。反省を述べろ」

 

 「心操くんをもうちょっと活かせればなあと。結局敵味方無傷では終われませんでしたし。心操くんの個性なら可能なはずでした。取蔭さんを最後に回せばよかったかなと。分断までは作戦通りでした。あれを初見で見破るあたり改良が必要ですね」

 

 「いや、化けたのが物間じゃなかったら多分アタシも騙されてたよ。なんて言ったらいいかな……物間の狂気がなかったからさ」

 

 「え、そうか!?俺は騙されちまったぜ!?」

 

 「僕に狂気なんてないけどぉ!?」

 

 なるほど、物間くんの狂気かぁ……クラスメイトにもそう認識されちゃってるあたり物間くんはそろそろ自分のアレソレを見直す段階に入っているのではないだろうか。反省を述べろ、といわれたけれども今回の戦闘訓練において致命的なミスは犯してないと思う。理想は全員無傷制圧だけど、それは理想論だ。オールマイト先生ですらヴィランを拘束ではなく気絶という感じで場を収めているから。

 

 「爆豪くんほどスマートにはいかなかったね」

 

 「当然だわ俺がおめーに負けるわけねーんだよカス!」

 

 「爆豪おめー体育祭で楪に負けてるじゃねーかー」

 

 「アホ面てめえ爆発させんぞ!」

 

 「はい黙れ。反省を述べろ、とは言ったが特に俺から申し送るようなことはない。ブラド、何かあるか」

 

 「いや……正直言えば予想以上だった。今も出てるそれ、俺の操血に通ずるものがある。今はまだ大雑把かもしれないが使いこなせばさらに上に行けるだろう」

 

 べたほめだー!こんな手放しに褒めてもらえるなんてなかなかないからすっごい嬉しい!確かに自分の血を操ることができる個性のブラドキング先生は液体を操るということでメリクリウスと少し似ている。ブラドキング先生は血液を固めることで捕縛を行うから同じようにメリクリウスで捕獲を行った私と共通点があるのか。ってことはお話聞けばもっと上手にメリクリウスを使えるかも!?

 

 メリクリウスを腕と融合させて体の中に完全にしまい込む。いつもの腕に戻った私が違和感ないな、と腕を確認しているととたたたっ!とエリちゃんが勢いよくえーくんの抱っこから抜け出してこっちにやってくる。私は膝をついて飛び込んでくるエリちゃんを受け止めた。ぎゅーーっと抱き着いてくるエリちゃんは

 

 「おかあさん、かっこよかった!」

 

 「ほんと?嬉しいなー」

 

 「いちばん!」

 

 「爆豪くん、私の勝ちということで」

 

 「ああ!?親バカにでもなったかメカ女!上等だ今ここで白黒はっきりつけてやる!」

 

 エリちゃんの裁定は絶対なので爆豪くんに勝利宣言をする。流石の爆豪くんといえどもエリちゃん自体に手を出すわけもなく、私相手にパチパチと両手で小爆発を起こすしかない。エリちゃんの応援があれば私は無限にパワーが沸いてくるので負ける気しないよ。今だったら爆豪くんでも完封できる気がする!それはともかく。

 

 「心操くんの編入試験の結果はどうでした?」

 

 「何だ楪、気づいてたのか」

 

 「え、ここまで露骨にやって気づかれないと思ってたんですか!?心操くんも気づいてたよね!?」

 

 「そりゃ、まあ。俺だけ3回だし、楪と組まされるし」

 

 この授業は間違いなく2年次におけるヒーロー科編入の試験だったのだろう。心操くんもそれが分かってるから、何となくいつもより気合が乗ってたんだろうし。私個人としては、ここまでやれて落ちたら流石に抗議をするレベルだ。心操くんの努力は花開いた。洗脳という個性をどう戦闘に生かすか、個人戦闘の時の戦い方は?状況判断は?満点ではないかもしれないが、合格ラインは超えているはずだ。というか超えてなかったら私たちヒーロー科の立つ瀬がない。 

 

 「これから改めて審査に入るが……おそらく、いやほぼ確実に2年からヒーロー科に心操は入ってくる!お前ら、中途に張り合われてるんじゃないぞ!」

 

 「……ほんとに、ですか」

 

 「そうだ。心操、俺個人はお前を非常に評価している。こんなところで躓くタマじゃないとな。誰かのために個性を使っただろ、今日。お前はできるやつだ、じゃなきゃ引っ張り出さん。楪についていけると判断したから組ませたわけだしな。中途半端なら楪に介護されて終わりだ。共闘、出来たじゃないか」

 

 確かに、と私は心操くんもカッコよかったと拍手を送るエリちゃんの頭を撫でながら首肯する。心操くんは、私についてきた。ヒーロー科の訓練でもまれた身体能力に自分の努力だけで追いついてきたんだ。自分に何ができるのか、出来ないのか。できない場合は誰に任せればいいのか。そういったもろもろを含めて……私どころかA組ともB組とも共闘が出来てたわけだ。すっごいじゃん、それ!

 

 私は無言でバンッ、と心操くんの背中をはたく。ちょっと強すぎたのかげほごほと咳き込む心操くんが抗議するような顔で私を見上げる。私はそれに無言ですっと手をグーで出した、心操くんは少し目を丸くした後……満面の苦笑いで私の手に同じくグーにした手を軽くこつん、とぶつけた。頑張ったじゃん?お疲れ様、心操くん。

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

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