「オラどうしたビビってんのか!」
「あれ?爆豪くんって何時の間にワンフォーオールのこと知ったんですか?」
「ああ、そういえば楪少女には話してなかったね。実は仮免試験の時少年たち喧嘩しただろう?その時に少しね」
「なるほど~」
「ちょっ!?まってかっちゃん!マジで出ないんだって!助けて楪さん!?」
現在夜7時、雄英の体育館の一つの中では私の目の前で爆豪くん相手に追い立てられるデクくんの姿があった。私はそれを眺めながらずずーーっとオールマイト先生が淹れてくれたお茶を啜る。エリちゃんは私の膝の上ですやすや。夜ご飯前なのに寝ちゃってる……大丈夫かな?天使みたいな寝顔に音声遮断猫耳イヤーマフがとってもかわいい。エリちゃんは中々体力がつかないね。すぐ眠くなっちゃうみたい。でも、子供らしく元気に歩き回る様になって、私は嬉しい。このまま私を引っ張って連れ回すくらいに元気になってほしいなあ。
目の前で起こる爆発音とニトロが焼ける匂いから目を逸らしつつ、そういえば当然のように爆豪くんがワンフォーオールのことを知ってることに私は驚いていた。デクくん、半分ばらしていたようなもんだったと思うけど、全部まるっと彼が知っていることは初耳で、オールマイト先生はどうやら私に教えるのを忘れてたみたい。ひどくない?これでも結構色々協力してるつもりなんだけどなー?
「あー、いや済まない楪少女。君は最近その、ひどく忙しそうでね。これ以上負担をかけたくなかったのだ」
「まあ、そうかもしれませんが。実際私もインターン終了してからデクくんとの特訓もしてなかったですし、心操くんともおざなりになっちゃってて」
「仕方がないさ。エリちゃんのことや、私のアレのことも。そして君自身の鍛錬、はっきり言えばオーバーワークじゃないかな。ちゃんと休めてるかい?」
「頑丈さが取り柄なので。3時間寝ればフルパフォーマンスですよ。8時間睡眠は理想ですねえ」
それは良くないな、とオールマイト先生が顔をしかめる。私の個性の弊害というか、特徴というか。私、脳みそもちょっとばかし機械が侵食してるので夢を見ることができない代わりにショートスリーパーになっちゃってるんだ。眠るという行為は出来るけど、どっちかといえば休むっていうより電源を落とすっていう感覚に近い。
確かにここ最近、というかインターン後の私はとっても忙しい。忙しいのは望むところだし、全て自分でやるって決めたことだから別につらくとも何ともないんだけど。やっぱり時間は有限なわけで、まず優先順位第1位のエリちゃん、そのあとオールマイト先生のスーツ作り、その次に私の研究とくれば、すでに師匠がいて私が必須じゃなくなったデクくんや心操くんとのトレーニングの回数は落とさざるを得なかったんだ。申し訳ないんだけど。私がもう3人くらい欲しいなあ。
まるで重爆撃機に襲われているような感じのデクくんを見つつオールマイト先生のお話を聞くには、デクくんがワンフォーオールの中で見たヴィジョンで聞き捨てならないことがあったらしい。歴代の所有者の個性が順次強化された状態でこれからデクくんに発現していくのだとか。つまり昼の訓練で見た暴走はその個性の中の一つらしい。
「で、そろそろ止めたほうがいいのでは?デクくん消し炭になっちゃいますよ」
「ちょっ!?爆豪少年ストップ!そういうんじゃないから!落ち着きなさいブハッ!?」
「あ、吐血した」
すでに黒焦げになってどっちが前だかわからなくなったデクくんを指し示すと話に集中していたオールマイト先生が吐血するほど慌てて止めに入る。爆豪くんはどうしてそこまでデクくんを目の敵にするのかな?複雑な幼馴染関係だなあ、私とえーくんぐらい仲良くすればいいのに。男の子同士なんだから私たちより仲良くなれるんじゃない?
さて、なんでこんなことになってるのかといえば、デクくんのその複数個性が出るのか出ないのか、コントロールできるのかどうかなどを判断する必要があったからだ。それで爆豪くん曰く生命の危機、というか一回殺せば出るだろうというとっても物騒な提案により今に至る。結局出てないからお昼は何だったんだろうって私は両目で解析しながら首を傾げているよ。
「気配が消えた、いや違いますね。扉が閉じたって感じでしょうか」
「楪少女、つまり?」
「昼のアレは鍵が壊れて扉が解放されたんです。で、一時的にああなったけど今は扉が閉じてるから出ない。でもきっと鍵は開いたままですよ。いずれ出てきます、今は出てこなくても」
「そうだよね……」
「危機感が足んねえんだよ!もっとボコしゃあやべえっつって出てくんだよこういうのは!んでその状態のてめーを越えて俺が一番に」
「爆豪くんこれ以上デクくんのどこを焦がすの?真っ黒だよ?前と後ろ分かんないよ?」
もー、といいながら私はデクくんに向かって畳んだタオルを投げる。今ちょっとエリちゃんが膝の上ですやすやしてるから動けないんだよね。真っ白のタオルを真っ黒にしていくデクくんの顔がようやく判別できるぐらいになって、爆豪くんは出ないならつまらないし帰るとそのままご帰還為された。エリちゃんもちょうどむにゃむにゃといいながら寝ぼけ眼でも起きたので私たちも帰らない?デクくん。
「デクさん、真っ黒」
「爆豪くんって無駄にみみっちいよねー。無傷なのにこんな焦がすなんて」
「かっちゃんはそこらへんしっかりしてるからね……楪さんごめんね、付き合ってくれてありがとう」
「気にしないでー。エリちゃん、帰ろっか。ご飯の時間だし」
「ご飯……!」
「今日はビーフオムライスだよ~」
エリちゃんは最近、食べることについて積極的になってきた。ご飯についてはもう心配いらないかもね、よく食べてくれるようになったし、来たときに比べれば量も入るようになったと思う。まあそれでも、まだ食は細めかなっていう感覚になっちゃうのだけれど。けして私が大食いってわけじゃないのだ。うん。ごめんなさい大食いです。皆の3倍くらい食べてます。体が大きいからしょうがないんです。食べるのも好きです……。
シャワーを浴びたデクくんと一緒に寮に帰る。エリちゃんはデクくんと手を繋いで楽しそう。笑顔を取り戻したエリちゃんなんだけど、それでもやっぱり表情の変化は乏しいように思える。ただ、笑う時は笑い、楽しい時は体を揺らす、近いところで言えば轟くんみたいな感情の表し方かな?
寮の玄関を開けて中に入ると、寮の共有スペースはぎゅうぎゅう詰めで、それはなんでかといえばB組の皆もA組の寮に集合しているからだ。なんで?と思うかもしれないけど、実は今日の反省も兼ねて親睦会をしようじゃないかとあの物間くんが提案したのを飯田くんその他が受け入れたからである。小大さんが小さくして持ってきたB組共用スペースの家具や机の上には既にランチラッシュの夜ご飯の残りが乗っかっていた。
「お!帰ってきたな3人とも!夕ご飯はビーフシチューだぞ!」
「ほんと!?飯田くんの好物だね」
「あ、デクくん。私の方もご飯仕上げちゃうからエリちゃんを預かっててもらってもいい?」
「うん、いいよ」
「お願いしまーす」
ジャージから着替え終わった私とエリちゃん、デクくんも同じタイミングで部屋から降りてきた。ちょうどいいのでぷらーんと脇の下に手を入れて抱き上げたエリちゃんをデクくんに託し、私は部屋から持ってきたご飯を仕上げてしまおうと共用スペースにあるキッチンに向かう。最近は共用キッチンでご飯作ることの方が多いよね。だって運ぶの楽だし。欠点としては調理してるとほぼ確実に誰かから追加オーダーが入ることだけど。
共用の冷蔵庫の中の私のスペースよりバター、卵、牛乳、生クリームを取り出してランチラッシュが炊いてくれている粒立ちが素晴らしいお米をお皿に盛り付け、昨日の夜から仕込んでお肉がトロトロになったビーフシチューの鍋を暖める。焦がさないようにゆっくりと。それであとは、オムレツ!
「楪~飯テロやめてくれ~~!」
「テロなんかしてないよ~。ランチラッシュの美味しいご飯があるじゃないのさ」
「彼女、毎日こうなの?」
「希械ちゃんは基本的に自炊してるわ。エリちゃんのご飯も一緒に作ってるの。とってもお料理上手なのよ、ケロ」
熱したフライパンに落としたバターの匂いが換気扇の処理能力を超えてふんわりと香っていく。飯テロだ!と瀬呂くんが盛り上がる中、物間くんはどうやら私が寮内でも自炊しているのかどうなのか気になっている様子で、それには梅雨ちゃんが答えてくれてる。牛乳を混ぜた卵液をよく熱されたフライパンに流し込み、手早く半熟のプレーンオムレツを作っていく。
エリちゃん用の小さなオムレツをご飯の上に乗せて、次は私の分。何倍もあるサイズだけど私にかかればちょちょいのちょい!巨大なオムレツが完成して私の分のお皿の上に盛り付けられる。周りにビーフシチューを流しこんで、アクセントの生クリームを散らし、オムレツの上にはパセリをぱらっと。よし完成!
「ふわ~~」
「うが~~~!うまそう!」
エリちゃんの前に運んで、オムレツを開いてあげるとトロっとタンポポのような半熟のオムライスが完成する。エリちゃんはそれに歓声を上げて、私はそれを微笑ましく見守る。エリちゃんは素直だから実に喜ばせがいがあるのだ。既に夜ご飯を済ませた面々は羨ましそうにそれを見守っている。あ、そうだ。
「冷蔵庫の中のアジの南蛮漬け食べちゃっていいよ~」
「食べる~~!!」
欠食児童かな?といの一番に声をあげた三奈ちゃんが冷蔵庫にぴゅーんと飛んでいって大きなタッパーの中に敷き詰められたアジの南蛮漬けを引っ張り出して来た。訓練後ということもあり、ランチラッシュのご飯だけでは足りなかったらしいみんなが勢いよくそれを分け合っていく。うーん、美味しそうに食べてくれると私としても嬉しいなあ。楽しくてにこにこしちゃう。
「にしてもA組ってさ、ヒーロースーツなんか最新って感じするよね」
「ん」
「確かにな!上鳴が持ってたやつとかすっげーイイ感じじゃんか」
やいのやいの、と今日の反省点について話し合っていると取蔭さんが唐突に私たちのヒーロースーツについて突っ込みを入れ始めた。そうかなあ?基本的に私含めて提携してるデザイン事務所製だからB組と使われている技術は変わらないはずだ。というかそんなこと言ったら物間くんがA組優遇だって騒ぎかねないぞ……
「そりゃあ、そうだろ。なんせA組には最新技術の塊かつプロライセンス所持者がいるんだぜ?」
「何を隠そう希械ちゃんだー!」
「え!?楪ってサポートアイテムの免許持ってるの!?」
「あ、うん。I・アイランドで国際免許取ったの。夏休み中に」
ご飯を食べ終わり洗い物をしていた私に驚いたような拳藤さんの質問が飛んでくる。そっか、あまり交流がないからB組の人は私がサポートアイテムのライセンスを持っていることを知らないのか。ぶっちゃけ私はその時先生方に言われるがままに取得した感じに近いので誇れるかって言われたら違うような……。取っておかなかったらここまで強くはなれなかっただろうけど。
「ってことはクラスの中にプロがいるんだー。いいなー、サポートアイテムの相談できるんでしょ?」
「イメージ伝えるだけですぐに試作品作ってくれたりするんよ。いやー、助かっとります」
「それは本当に素晴らしいですぞ……普通にデザイン事務所を通せば3日ほどかかりますからな。それで合わなければまた3日かかるわけですから」
ああ、確かに。というか普通だったら3日でもかなり早い方だ。雄英提携のデザイン事務所は優秀極まりないからね。仕事の速さは折り紙付きだ。私も個性という特異性がなければ普通に追いつけないだろう。あれ?なんかB組の皆目が怖くない?あ、デクくんがエリちゃんを退避させちゃった。いやな予感がするぞ~……。
「ねえ、楪さあ……B組からの依頼も受けてもらえない?強くなりたいんだよね、私たち」
「アハハハハ!そうだよね!?プロライセンス持ってる人がまさか偏ったような仕事の割り振りするわけないよね!?」
「なにをー!希械ちゃんはうちの専属なんです!偏って何が悪い!」
「うーん、別に受けてもいいけど……普通にサポート科に頼んだら?例えば3年生にいるメリッサさんとか私並みかそれ以上だし、明ちゃんも腕は確かだよ。私が唯一勝っているって言えるのは確かに仕事の速さかもしれないけど」
そっか、当然のように私はA組の皆の依頼を受けていたけど、B組の皆からしたらそりゃあ偏ってるなんて言われちゃうよね。うーん、私が受けてもいいかもしれないのだけれど、今ただでさえいろいろ立て込んでて時間がないので、こういう時のためのサポート科を紹介するのが吉だろう。というか明ちゃんでいいじゃん。明ちゃんなら喜んで……興味が向かないとダメだ彼女。
「正直今凄い忙しいの。クラスの皆からの依頼も断ってるくらいだし……頼ってくれるのは嬉しいんだけど……もう少し私の手が空いてからじゃダメかなあ?」
私は両手を合わせてすいません、とB組のみんなに謝るのだった。できれば受けてあげたいのだけど、今やってるタスクの重要度が高すぎて後回しにできないんだよね。せめてあと2か月は欲しいかな。お願いしますと言ってみるとどうやらダメ元だったらしいB組の皆は普通に苦笑して受け入れてくれた。うん、やっぱり私があと5人は欲しいね!分身でもしようかな?
お忙しい楪さん&黒焦げデクくん&爆撃機爆豪くん。そして癒しのエリちゃん。かいていて思うもだけどやはりオーバーワーク極まりないな!
ではまた次回
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ