ヒーロー科の体験入学の定員に溢れてしまった、と気落ちした様子で話す吹寄くん。うーん、残念なんだけど雄英のヒーロー科って日本全国津々浦々のヒーロー科の中でも士傑と並んでナンバーワンの人気と入試倍率を誇っているから体験入学でもそりゃあ列整理ぐらいはいっちゃうよね。うおおお、気まずい、気まずいうえにいたたまれない。こ、後輩が困っている……!
ちら、ともう一度パワーローダー先生を見る。パワーローダー先生はうーんと考え込んでいるようだ。困っている人を助けたいからヒーローになったわけで、自分のできる範囲のことならやってあげたいというのが私の思うところ。だってかわいそうじゃない、折角楽しみにやってきたのに見るだけで終わりだなんてさー。もったいないよ。体験入学だよ?体験しなきゃね。
「楪、引き受けられる?」
「いいですよ。傷一つなく守り切りますから」
「その言葉、最高に頼もしいね。じゃあそこの二人。ヒーロー科じゃないけどヒーロー科の模擬授業、体験させてあげようか?」
「え?え?」
「その、話がつかめません。どういうことでしょうか?」
目の前で繰り広げられる二人にとっては訳の分からない会話に要点がつかめず頭の上に?マークが付きながら首を傾げる吹寄くんに三田くん。まあそりゃそうだよねえ、ようはこれ飛び入りでプログラム変えるからそれに参加しろっていう提案だから。では私が説明することにしましょうか。
「二人はヴィラン・アタックっていうアトラクション知ってる?I・アイランドとか個性使用可能地域ならメジャーなアトラクションなんだけど」
「あ!はい!知ってるッス!というかI・アイランドでやったことあります!7秒は流石に超えられませんでしたけど!」
「あ、それ私の記録。まだ超えられてなかったんだ。私、ヒーロー科だけどサポート科のお手伝いで今からサポート科の人が作ったサポートアイテムロボットと似たようなことやるんだ。二人が良かったらそれに私と一緒に出てみない?」
「よろしいのですか?それに不公平さが出てしまうと思います。僕たちにとっては願ったりですが……」
「くけけ……それは運が良かったと思っておくんだね。楪が覚えてたから、君たちにチャンスが降ってきたんだ。雄英高校は自由な校風が売り、それは俺たち教師もさ。プルスウルトラ、挑戦してみるかい?」
わー、その言葉懐かしいなあ。入学当初に相澤先生がこれ言って入学式すっ飛ばして個性把握テストやったんだっけ私たち。二人は校風と校訓のダブルコンボを受けて二人の顔が俄然やる気に満ち溢れているものに変わる。やります、という大声の吹寄くんに静かにやらせてくださいという三田くん。対照的な二人だなあ。
「というわけで、この授業はヒーロー科の入試に近いものなんだ。だから1回分予習できたと思うといいんじゃないかな」
「なるほど……しかし来年度は内容が違うのでは?」
「かもねー。私たちまではそれだったみたいだし、来年が一緒だという保証はないよ。私の担任も非合理的だって変えたいみたいだし」
「や、やべえ緊張する……!」
運動場β、市街地を模した場所にてジャージ姿の二人と一緒に準備運動をする。怪我の原因となるものは除くべし、まずルールなんだけど彼らは自衛以外の個性使用は禁止。残念ながら体験止まりだからね。実際の戦闘を肌で感じてもらうことが目的だ。当然ながら私には彼らを無傷で返す責任が生じたわけなんだけど、まあ大丈夫でしょう。サポート科の人たちだって殺戮兵器を作ってるわけじゃないんだから。要はこれ、私相手にどれだけ持つか、という話であって私打倒!ではないからさ。
私相手に多少もつなら有事の際に護衛とか任せることができるし、改善点が見つかればそれはそれでよしだ。幸い二人は緊張しているもののしり込みをしている様子はない。さて、どうしたものかなあ。と私はとりあえずの武装で大型銃を一機生み出した。いつものビーム兵器がライフルならこれはマグナム。ビームマグナムと言うべき武装だ。エネルギーパックを一発で一つ使い切る代わりにすさまじい威力を誇る超武装。対ロボくらいでしか使えないんだけど。
「じゃあ、確認ね。全方位から多分来るんだろうけど私の後ろから出ないこと。個性の使用は自衛のみ。不測の事態があったら私の指示に必ず従うこと。大丈夫?」
「はい!」
「分かりました」
よろしい、と私は頷く。いやー、こんな風に後輩になるかもしれない子とこんなことするなんて思わなかったなー。いいとこ見せたいし、やる気を出していこう。ブザーが鳴って始まる。他の人たちはモニターで見ているのだろう。そしてずごごごとすさまじい音と地響きがしてビルの隙間から、いつぞやの入試でお世話になったロボインフェルノがこんにちわした。いやー懐かしいなあ。
「うえええええっ!?」
「でかい……!!」
「あれ、出さないんじゃなかったっけ?まあいいや。ああいうのの対処法なんだけど、1番、上から火力で潰す。2番、弱点をピンポイントで潰す。3番、逃げる……だいたいこんな感じなんだけど。君たちは如何する?」
「立ち向かう!」
「いったん撤退して対処可能なヒーローに協力を仰ぎます」
「うん、どっちも正解。今回は市街地戦の想定だから、基本的には被害を抑えるほうに行くべきかな。私なら1番」
そういって私は構えたビームマグナムの狙いを定めてトリガーを引く。通常のビームライフル4発分以上のエネルギーが籠っているピンクを越えて紅の熱線が一瞬はしり、インフェルノの頭部に大穴を穿つ。繋がってる通信から「ああああ自信作の耐熱装甲があああ!」という声が聞こえた。なるほどそういうことか。膝から崩れ落ちるロボインフェルノを先んじて出していたエスカッシャンのビームが細かく切り刻んで周辺被害を抑える。
「ええ~~~……」
「いやここまでやれとは言わないし、やれる人も少数派だからね。それにこんなアホなヴィランはなかなかいないよ。いたら普通にヒーロー集まってくるからね」
「そうですね」
「で、厄介なのがああいうの。数が多くてそれでいて対処に時間がかかるやつ」
二人の背後を指さすとそこにはわらわらと4足歩行の背中にキャノン砲を背負ったトカゲのようなサポートメカが押し寄せてきていた。ばすん、とキャノン砲から野球ボールくらいの球が飛んでくる。エスカッシャンのビームがそれを貫くと爆発するように周囲に糸を伸ばして蜘蛛の巣のようなものを形成した。迎撃前提の蜘蛛糸粘液を使った捕縛装置か!これ滅茶苦茶厄介だな!二人を抱きかかえて後ろに下がり、そのまま足のスラスターで飛びたつ。一応持ってきていたタイタンシリーズに指令を送ると、ヘカトンケイルの一部、背部腕部が分離して変形、単独飛行し私の背中に結合する。
「うおおっ!?飛んでる!?」
「分解自立飛行……!」
「ごめんね、乱暴にして。耳を塞いで!」
飛んでくる蜘蛛糸弾を避けながら二人に指示を出す。素直に指示を聞いてくれた二人を強く抱き寄せ、背中の腕から超圧縮技術で封じていたギガランチャーが展開し、連続して榴弾を発射していく。連爆の華が咲いてトカゲメカはバラバラになって沈黙する。「これも駄目か!」という声が通信から聞こえる。おい、目的変わってるんじゃないの?あんまり危ないと出オチさせるよ?
「あぶなっ!?」
ガキャアアアン!と音を立てて目の前に火花が散る。遠距離からだこれ!辛うじてピンポイントバリアで防がれたそれはまず間違いなくレールガンだ。おい今の私じゃなかったら見えなかったよ。ちょっと待て、私で兵器の実証実験をするな、お客さんもいるんだぞ3年生の先輩、見えてるんだからね?絢爛崎先輩にビンタされてるのも見えてるからね?「ええい、ヒーロー科の楪は化け物か!?」じゃないんだよ。ヒーローだよ私は、メカだけど。
「な、なんも見えなかった……」
「なんですか、今の」
「レールガンだね、初速は抑えられてるからギリギリ対物ライフル程度の威力で済んでるけど。電圧上がってたらヤバかったかも。着地するよ、離れないでね」
私はそのまま地面に降り立ち、山のように挑んでくるサポート科のメカたちを相手にするのだった。とりあえず全部迎撃するけどこれ、体験入学超えてるよね。自衛させないのが前提だけど、怪しくなってきた。パワーローダー先生に後で文句言おう。
「パワーローダー先生~~~~????」
「いや、すまなかった楪。今回ばかりは俺の責任だよ。とりあえず該当の3年生には校長から何かしらの処罰がある。あと報酬倍プッシュで手を打って欲しい」
「ごめんね希械さん、止められなくて」
「メカは人を助けるためにあるのであって傷つけるためにあるわけではないのです!先輩方は反省するべきです!」
「明ちゃんがそれ言うんだね……」
運動場βの片隅にて一応尊敬するパワーローダー先生を掴んで振り回す女の姿があった。というか私だった。何ですかさっきのは、聞いてた話と違うんですけど。反省してないんですか3年生の人は!?流石は魔の3年世代と呼ばれてるだけのことはありますね。私一人を想定してたからそうなった?私一人でもダメでしょう!はー、もう。
「ごめんね、怖い思いさせちゃって。大丈夫だったかな?」
「いえっ!すっげえ貴重な体験させてもらえました!」
「参考になる動きが沢山ありました。個性戦をあんな間近で見られるチャンスは中々ありません、感謝しています」
「そっかー、よかったー」
凄いなこの二人、ケロっとしてる。吹寄くんは興奮を隠せないって感じだけど三田くんは極めてクール、うーん……興味がないのかな?三田くん、熱がないんだよね。どうしてヒーローになりたいんだろう?なれるからなりたい、とかだと入学後に高確率で相澤先生あたりに除籍されると思う。
「三田くん、あまりヒーローに向いてないかもね」
「えっ!?ちょっと先輩流石にそれは俺でもスルー出来ませんよ!?」
「あ、ごめん。言い方悪かったね。三田くん、ヒーロー科の体験授業落ちたのに全然残念そうじゃなかったから。なれる個性だからなろうとしてるんじゃないかなって。何でヒーローになりたいの?」
「……あれ?どうして、俺ヒーロー科目指してるんだろ……?」
やっぱり、何となく話してて感じてたんだけど三田くん、周りから言われてヒーロー科目指してるタイプだ。そういう人、いるんだよね。私の周りにもいたんだ、明確な目標はないけど個性がヒーロー向きだからヒーロー科目指そうっていう人。別に悪い事じゃないんだけど、あまりお勧めできないかなあ。同じ感じで雄英目指した同級生たちはみんな落ちちゃったし。
根本でヒーロー科を心底望んでいたわけじゃないことを自分で気づいたらしい三田くんは自問自答をしている。正直ちょっとわかるんだよね、私はえーくんに引っ張られてヒーロー科を目指していたけど根本から望んでいたのはサポート科じゃなかったのかって当時悩んでたよ。でも、やっぱり未来のヴィジョンを想像してる時に真っ先に出てきたのはヒーローになってる自分だった。だから私はヒーローになりたい、と判断して今ここに居る。
「三田くん、ちょっと付き合ってもらえる?」
「え、はい」
「吹寄くんは多分向いてないけど、ついてくるなら来てもいいよー」
「え、はい。いきます!」
私はそのままがしゃがしゃと歩いて二人をとある場所に案内する。その場所は、経営科。実は普通科よりも不人気だったりする科で、経営科の人は素晴らしいほどの作り笑顔で勧誘に励んでいる。芳しくないけど。近くにいた経営科の同級生にちょっとこの二人を入れてやってくれないかとお願いすると、滅茶苦茶感謝された。そしてそのまま二人は経営科の教室に連れて行かれる。
とりあえず、視点を変えてみたほうがいい気がするんだ。三田くんの場合、何が楽しいのか、もしくは何だったら自分の目標になり得るのか。サポート科でもよかった気がするけど会った時の感じだとサポートメカにはあまり興味がなかったみたいだし、普通科は中学校とあまり変わらない。だから180度違う経営科の体験授業を受けてみてどうか聞いてみようと思う。
そんで校門近くで制服に着替えてエリちゃんと合流して今待っている状態。校長先生の難しい話と毛並みの話がいまいち理解できなかったけどすごいと私にお話ししてくれるエリちゃんを抱っこしながら二人を待っている。頭が爆発したようにふらふらしてる吹寄くんと物凄く生き生きしてる三田くんが歩いてきた。二人は私を見つけると駆け寄ってきて、三田くんは頭を下げる。
「先輩、俺経営科目指してみようと思います!経営科、すごく楽しかったです。ありがとうございました」
「うん、三田くんが目指してみようと思うならそれでいいと思うよ。吹寄くんは平気?」
「いや、話しが難しくって……あと先輩、その女の子は?」
「私の娘?」
「「ええーーっ!?」」
「ふふ、今日一番大きい声だね。実の娘じゃないけど家族だよ。ね、エリちゃん」
エリちゃんのことを外部の人に説明するのは難しいし繊細なところもあるのでもう私の娘扱いが一番いいや。お母さんって呼ばれちゃってるし。でも、三田くんが目標を見つけられてよかったかな。うんうん、それじゃあまたね未来の後輩。勉強を怠らないようにねー?
当作のサポート科上級生ですが当然のようにあたおかの集まりです。1年生から徐々に毒されていき最終的には発目さんを煮詰めたようなレベルにみんななります(断言
絢爛崎先輩は癒し枠です
映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?
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必用
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本編だけにしろ