個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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11話

 「構成拡張(オーバード)、重装近接格闘型強化外骨格『ゴリアテ』機能更新(スタンバイ)形成開始(レディ)

 

 私の身体を機械が覆っていく。今まで腕や足のみだった変形を体全体に使う、奥の手中の奥の手だ。分厚い丸太のような手、巌のような足、外骨格が私を覆う。身長も元の私を逸脱して3メートルと50センチを超えた、人外の姿。幾重にも重ねられた特殊合金の装甲と背部の大型バーニア、全身に配置された姿勢制御スラスターに胸部を覆う増加装甲内部に重水素核融合炉を設置してエネルギー源にする。体内の水分を分解して重水素へ変換しスターターを入れて融合炉をアクティブへ。ヘルメットが形成されて頭に被さる。

 

 「ううっ!!!」

 

 歯を食いしばってから穴から飛び出す。背中のバーニアが殺人的な加速を生み出し私を発射した。外骨格に包まれてもなお生身の部分が悲鳴を上げる。再びの墜落、だけど今回は脳無を巻き込むように墜落する。相澤先生に覆いかぶさって打ち下ろしのスレッジハンマーを放とうとしていた脳無を片手で掴んで連れて、私は地面に突っ込んだ。

 

 「おいおいおい今度は何だってんだよ……脳無!」

 

 「相澤先生……!楪さん、なの……?」

 

 「まさか、あれ……楪ちゃんだわ!」

 

 「さっきと全然ちげーじゃねーかよ……あれじゃまるで……ロボットそのものじゃねーか……」

 

 動きを止めた脳無からいったん離れて、相澤先生の前に仁王立ちする。相澤先生の意識はあるみたい、けど片腕を潰されちゃってる。無事な方の腕で体を起こして私を見る相澤先生、ごめんなさい。私、戦います。逃げたら……相澤先生が死んじゃうから。あの脳無っていうヴィラン、本当にすごく強い。勝てるか分からないけど、戦わなきゃ。

 

 「相澤先生、私戦います。命令無視で除籍していただいても構いません。今だけは私がみんなを守ります」

 

 「楪、ダメだ。いいから逃げろ……!」

 

 「みんなから離れろ!SMAAAASH!!!!」

 

 「脳無」

 

 恐怖に耐えかねたのか、デクくんが個性を纏って飛び出した。比較的冷静だと思ってたけど、まずい!行動不能になる……!手のヴィランは脳無を呼び寄せて、脳無は無防備でそのままデクくんの右ストレートをもろに食らう、けど堪えてない。脳無もデクくんの手もだ。個性の制御に成功した?この土壇場で?いや、関係ない。けど脳無の方もおかしい、デクくんの超パワーが効いてない?

 

 「すげえだろ?ショック吸収の個性さ。脳無は対オールマイト用の改造人間、君程度の力じゃビクともしない」

 

 「そう、じゃあ……私なら?」

 

 「楪さんっ!」

 

 「うん、ナイスガッツだよデクくん。あとは任せて、ね?私がみんなを助けるから」

 

 怖い、怖いけどそれよりもみんなの方が大事だ。デクくんを握りつぶそうと手を伸ばす脳無の手を私の手が掴んで止める。ぎゃあぎゃあ言って暴れる脳無を振り回して投げつける。壁を突き破って脳無が消えた。私は目に涙をいっぱいにためたデクくんを見下ろしてにっこり笑う。安心できるように、勇気づけられるように。そのまま本気で戦う態勢に入った。ヘルメットの上からマスクがスライドしてガチンと音を立てて私の顔を覆う。内部のディスプレイが起動して私の右目とリンクして、ゴリアテの機能を全てフルに稼働させていく。

 

 「お前いったいなんなんだよ……!いいところで邪魔ばっかしてさぁ!脳無ぅ!」

 

 「邪魔でいいよ!貴方たちの邪魔をするのが私が目指してるヒーローだもの!」

 

 背中のバーニアに火が灯る。流星のように飛び出した私の拳がこちらに向かってくる脳無の拳と衝突した。肘部のブースターがパンチを加速させ、さらに前腕内部で火薬が炸裂、インパクトと同時に拳を杭のように打ち出すことで威力を増加させる。そこまでやってやっと、脳無のパンチと拮抗した。脳無に与えた衝撃はすべて吸収された、ゴリアテの方は脳無のパンチで腕部に亀裂が入った。反則だよそんなの……!

 

 ガランと右腕から廃莢された薬莢が音を立てる。次弾装填、左手で同じように拳をぶつける。結果は変わらず、なら……!私は突撃して脳無の肩を掴んで拘束、ゴリアテの両肩から顔を出した連装徹甲ミサイルが脳無を打ち据えるが、効いてない。爆発で抉られた肉は再生してるし、爆発の衝撃は吸収されてる。焼いて塞いでも再生するのか……!

 

 吠えた脳無のパンチがゴリアテを打ち据える。10層構造の装甲が一撃で半分持ってかれた……!パンチにパンチをぶつけて防御し続けるけど、追いつかない。漏れた脳無の拳がゴリアテをどんどんボロボロにしていく。まだ、まだ頑張れる。私はまだ戦える!

 

 「やああああああっ!」

 

 右腕部、全損。脳無の拳でぐしゃりと潰れ、それをチャンスとした脳無に腕を引っ張られて引きちぎられる。鈍い痛み、無視する。残った左手を盾にしてラッシュに耐える。無理やり左手で跳ね上げて、顔面を左手で掴んで後頭部を地面にたたきつける。これでも無傷、ずるい。左手の掌に穴をあけて、内部爆破用の薬莢を転用。連続で爆破を顔面に浴びせる。これも駄目。なら次は……っ!

 

 脳無の手がゴリアテの左手前腕を掴んで握りつぶした。これで左手も駄目、捕まったらまずい、自切する。両手がなくなった。踏みつけて動きを防いでた脳無がゴリアテのど真ん中にストレートパンチをぶち込んだ。すさまじい衝撃が装甲をひん曲げる。核融合炉に異常発生、シャットダウン。核爆発防止のため体の中へ再結合。エネルギー源まで絶たれた……!

 

 「あれだけやっても……ダメなのかよ……!」

 

 「ちぃ!数が多い……楪!下がれ!死ぬ気か!」

 

 マイクに片手で他のヴィランを相手しながらデクくんたちを守る相澤先生の声と絶望的という色を乗せた峰田くんの声が拾われる。大丈夫、まだ大丈夫。私は機械だから、壊れたって直せるんだ。人より頑丈なんだ。私を私としてみてくれる友達を見捨てるもんか、放り出すもんか。

 

 「まあ、よく頑張ったんじゃない?それでもここまでだけどさぁ……!脳無、やっちまえよ!」

 

 「まだまだ……!」

 

 脳無が迫る。私はあえて、やつの攻撃をそのまま受けた。左肩がオシャカだ。脳無が私を捕まえて引き裂こうとする。その瞬間をついて私はゴリアテを放棄し、前面装甲を開けて飛び出した。脳無の胸のど真ん中に、ドロップキックの体勢で両足を当てる。腕がないからこれしかないや。そのまま足の裏から赤熱する杭が打ち出される。両足の耐久を無視した一撃は、私の足を吹き飛ばして、やっと脳無のショック吸収を越えてやつを真向かいのビルまで吹っ飛ばすことに成功した。

 

 両手両足を失った私は、そのままざぶんと水難エリアに落ちる。完全にオーバーヒートした私の周りの水がじゅううと音を立てて蒸発して、私の熱を下げる。そのまま水底に行くかと思ったら近くに誰かが来る。左目で見たそれは、梅雨ちゃんだった。少し表情が分かりづらい子かなと思ってたけど今はなんだか泣きそうな顔してる。

 

 梅雨ちゃんは手足を失ったとはいえそれなりの重さの私を抱えると泳いで水面に向かった。待ってたデクくんと峰田くんが私を引っ張り上げてくれる。腹筋、というのが私にあるかどうかは微妙かもしれないけどお腹に力を入れて起き上がり座り込む。

 

 「ごめんなさい、やっぱり勝てなかったみたい……!」

 

 「いや、すごかったよ!あそこまで……!」

 

 「そうよ、それに手と足が……」

 

 「ごめんね、変なもの見せちゃって。個性が使えるようになったら作り直すから……」

 

 流石に個性はうんともすんとも言わないか。でも、脳無との距離は離せた。あそこまでやって倒せない、そして再生して無傷になるというのは正直悔しいけど、時間稼ぎは十分できたはずだ。手のヴィランは何度も脳無の名を呼んでいる。そこでようやっとこちらに来ようとしていた雑魚ヴィランを倒し切った相澤先生が捕縛布で潰された手を固定しながらやってくる。

 

 「全員無事か!?」

 

 「私たちは大丈夫よ、相澤先生。それよりも楪ちゃんが……」

 

 「大丈夫です。けど動けないので逃げるなら水に沈めて置いていってください。個性が使えるようになったら今度こそ脱出しますから」

 

 「バカを言うな!っち、状況が悪い……」

 

 私の状態を見た相澤先生が歯噛みする。そういえば私、今個性把握テストでデクくんが言われたことと全く同じミスを犯してるんだ。その場から動けないお荷物が増えた結果が、ヴィラン一人の一時戦線離脱。なんだ、それ。悔しい、私にもっと力があって頑丈だったならそんなこと起こさなくて済んだのに。どうするべきか、を考えた時、USJの正面玄関が吹っ飛んで……希望の光が見えた。

 

 

 

 「全員……よく頑張った!もう大丈夫だ……私が来た!」

 

 「オールマイトォ!」

 

 「待ってたよヒーロー……社会のごみめ。脳無ぅ!ぐずぐずするな!コンティニューだ!」

 

 ビルからボコボコと体を蠢かせて再生しつつある脳無が飛び出してくる。どてっぱらに大穴を開けたはずなのに気絶もせずにあっさり……オールマイト先生はそれをギラリと見ると私の右目でも捉えることができない速度で踏み出したかと思うと、さらに加速して脳無と手のヴィランに一撃見舞うついでに私たち全員を担いで階段近くまで戻った。一瞬のことでみんな状況を理解できてない、相澤先生以外は。

 

 「助かりました。オールマイト」

 

 「遅れて済まなかった。すぐに片を付ける。子供たちを頼んだぞ」

 

 「オールマイト先生!あの脳無っていう黒いやつ……複数個性を持ってる改造人間だそうです。ショック吸収と超再生、それに私を上回る超パワー……」

 

 「大丈夫だ楪少女!その程度のヴィラン、いくらでも相手にしてきたさ!」

 

 グッと右手をサムズアップして突っ込むオールマイト先生、SMASHの掛け声とともに脳無に叩き込んだクロスチョップが脳無にたたらを踏ませる。ショック吸収が通用してない?いや、ちがう。ショック無効じゃなくて吸収、限度があるのかもしれない。散々私が叩き込んでやったゴリアテの拳も、ミサイルも、最後のヒートパイルも意味があったんだ。

 

 「ショック吸収が……あのメカの女のせいかぁ……!」

 

 「どうやら楪少女が私に繋いでくれたようだね……!ありがたいっ!」

 

 オールマイト先生の鉄拳が脳無の顔面を捉えて地面に埋める。拳の風圧がここまで届いた。植えてある木が盛大に揺れている……なんてパワー……だけどなんだかおかしい。オールマイト先生の個性のエネルギーが戦闘訓練の時より小さいし、断続的に減ってきている。右目の解析が、彼の口の端から吐血しているのを捉えた。デクくんがそわそわしている。

 

 「クソ、んだこの状況はよぉ!」

 

 「あれが……オールマイト……平和の象徴か……」

 

 「わり、遅くな……希械っ!?お前それ、誰にやられたんだよ!?」

 

 「落ち着いて、えーくん。大丈夫、半分自爆だから。それよりも担いでくれると嬉しいな」

 

 「お、おう。すいませんっす相澤先生。俺なら持てますから」

 

 突風が吹き荒れる広間に戻ってきたのは爆豪くん、轟くんそしてえーくんだ。えーくんは両手足がなくなって捕縛布ぐるぐる巻き状態で相澤先生に背負われてる状態でいるのを見てカッと頭に血が上ったらしく珍しく声を荒げた。私が落ち着くように言うと私本体に目立った怪我がないことが分かってほっと息をついた。そして相澤先生の手の状態に気づいて私を横抱きで抱き上げてくれる。

 

 「ああああーーっ!何してんだよ切島おまへぶっ!?」

 

 「この状況でそれを言えるのはある意味尊敬しちゃうわ峰田ちゃん」

 

 なんか梅雨ちゃんが過激な突っ込みをしたような気がしたけど知らないふりをしておこう。オールマイト先生が殴り、脳無は後ずさる。不完全とはいえショック吸収が機能してるせいで再生がそれを補完して押しきれてないんだ!エネルギーの総量が来たときの半分を切った。これ、もしかしたらまずいやつじゃ……!

 

 「よく見ておきなさい少年少女たち……プロの本気がどういうものかを!」

 

 私たちに安心させるような笑顔を残してオールマイト先生が突風と共に突っ込んだ。脳無も応えるように突っ込んでまるで台風のような暴風が吹き荒れるほどの威力のパンチのラッシュがお互いに始まる。私が相殺に失敗したそれをオールマイト先生は全て相殺するどころか逆に脳無に攻撃を当てている。一撃が、ビル一つを倒壊させて余りあるほどの威力の鉄拳の乱舞。次第に脳無はただただ打たれるだけのサンドバックのようになってしまった。

 

 「私たちヒーローは、常にピンチを打開し切り拓いていくもの!ヴィランよ、この言葉を知っているか!!!?」

 

 脳無のラッシュが完全に止まり、抵抗できなくなったのを確認したオールマイト先生は拳を強く握りしめる。右目の解析で残ったすべてのエネルギーが握った拳に移動した。拳に円錐型の衝撃波が纏い始め、オールマイト先生の渾身の一撃が放たれた。

 

 「更に向こうへ!Plus Ultra!!!」

 

 音が後から聞こえるほどの威力の拳が、USJの天井を破って脳無を天高くに飛ばした。




 重装近接格闘型強化外骨格『ゴリアテ』

 簡単に説明するとアイアンマンのハルクバスターにトールギスのブースターポッドくっつけたやべーやつ。楪さんがテクノロジーでオールマイトを再現することを目指して作り上げた外骨格。全身に搭載されたスラスターのおかげで殺人的な加速を誇り、パワーも今までとダンチ。武装は腕部パンチングユニットと肩部連装徹甲ミサイルのみ。殴り合いに特化している。今回は流石に相手が悪かった、脳無は反則である。ちなみに全力稼働すると中身にもダメージがいくというバカみたいな仕様。生身があるのが悪い(暴論

 ちなみに今回の原作変更ポイントは相澤先生が腕の骨折だけで済んでる所とオールマイトが限界を超えすぎなかったところです。ラッシュの数が300発ではなく150発くっらいに減っているうえ、ほぼ無傷で勝ってます。つまり活動時間が原作より減ってません。

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