個性「メ化」   作:カフェイン中毒

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110話

 目の前の光景から目が離せない。もう何回見たかも分からないほどの造形。見慣れたくもない慣れに交じる私との共通点。違うことといえば、共存できていないこと。個性をコピーするってオールフォーワンは言っていたけど、そういうことだったんだね。右肩から流れる黒いオイルが私のヒーロースーツを汚していく。そこでようやく脳みそが働くようになった私が平静を取り戻した。

 

 「避けろっ!楪さんっ!」

 

 「っ!」

 

 ホークスがヒーローネームで呼ぶことすら投げ出して私に警告をした。カクカクとマリオネットのような動きを見せつつも脳無が右手の肥大化した機械の塊のような銃を私に向けて、そのまま発砲した。爆発音と同時にその右手の銃が波打つように肥大化して、元に戻る。銃口から発射された円錐型の銃弾、いや砲弾がおおよそマッハ2で私に迫る……いい加減、私にも我慢の限界というやつがあるんだよ。

 

 バキィィィッ!!と音がして私の眼前で砲弾がぺったんこに潰れる。展開したピンポイントバリアが砲弾を完全に防いだのだ。同時にごぼごぼと音がして私のなくなった右腕の断面から銀色の液体が流れ出して、空中に浮かんでいく。左手は作り直すのも惜しいので根元から投棄、そのまま私の両手がメリクリウスに置き換わる。

 

 「成程ねー、腕の中で大量の火薬を爆発させてその圧で弾を打ち出してるんだ。現代の銃をもっと乱暴にかつ原始的にした感じだね。ライフリングもない。お粗末極まりないなぁ」

 

 「楪さん、大丈夫か!?」

 

 「すいませんホークス、アレ私に譲ってもらえませんか?その状態じゃ戦闘は厳しいでしょうし」

 

 「ダメだ、一旦逃げたほうがいい」

 

 「無理です。その状態であのふざけた構造の銃は避けられません」

 

 「ヴウウウウっ!!!」

 

 会話の途中でも脳無は待ってくれない。轟音と共に発射される砲弾がまた私に迫る、けど宙に浮くメリクリウスが砲弾を受け止める。衝撃を吸収して変形したメリクリウスが砲弾を包み込んでナノマシン浸食で分解する。ふーん、材質は只の鉄なんだ。ってことはあの銃は一発ごとに壊れてる、私の個性で無理やりもとに戻して運用してるだけ、か。打つたびに腕から機械が脳無の身体を侵食していっている。私の個性が体質にあってないから負けて異形化が進んでいる感じだね。

 

 ホークスの撤退宣言を受け入れたいところだけど、無理だこれ。足を変形させてバーニアを増設。狂っている構造の銃の癖に威力だけは一級品だ。私のサポートアイテムたちよりも格段に原始的で、適当な構造の癖に成り立ってしまっている。私の個性のせいで、なり立ってしまっている。メリクリウスにホルスタービットを侵食させて分解し体内に戻す。そのまま背中に大型のビット兵器を作り出した。

 

 「ロングレンジ・フィンファンネル、形成開始(レディ)

 

 私の身の丈ほどの長い板を2枚重ねたようなビット兵器。今までのビット兵器は動力や推進剤を外部に依存していたのだけど、これは中に融合炉とジェネレーター、推進剤を纏めて封入することで大型化の代償に威力の向上と機動力の増加、さらに継戦時間を手に入れた新兵器だ。バレル開放式のビームキャノンと、大型ビームサーベルの発振装置を内蔵している。

 

 ホークスはヴィラン8人の命を今背負っている。戦闘はできないと考えるべきだ、私がやるしかない。それに、私の個性が悪さをしているのなら、自分でけじめをつけなければならないだろう。うん、そうだ。そうせねばいけない。目の前のソレを許すな、その右手の銃が無辜の市民に向けられる前に私がお前を止める。

 

 「ホークス、離れてください。巻き込みかねません」

 

 「許可しないっつってんでしょ」

 

 「背を見せた瞬間にお陀仏ですよ。守りながら撤退する余裕はないです。私はそれほど強くないし……」

 

 「ヴウウウッ!!!」

 

 「目の前のアレをほっとけるほど無責任にはなれません」

 

 脳無の背中からいびつな形のミサイルが発射される。即座に対処、メリクリウスで包み込み、全てを飲み込んだ。爆発したミサイルのせいでメリクリウスが一部変形し中から低い音が響いた。解析、誘導装置もないね、火薬と推進装置組み込んだだけだ、まっすぐしか飛ばない。ミサイルというよりもロケットランチャーか。見る限りこの脳無には知性がない。エンデヴァーが戦った明らかに知性がある脳無とは違う、私の個性を全く生かせない。

 

 ホークスの依然厳しい表情、私は心の中で謝りつつも絶対にこの場であの脳無を止めることを決めた。バーニアを全力で吹かし、脳無の前に一瞬で躍り出る。空中のメリクリウスと合体して肥大化した私の右手が質量と速度でもって脳無の全身を余すところなく思いっきり殴りつぶした。2トン弱の質量がおおよそ亜音速でぶつかった脳無は一瞬で全身をぐちゃぐちゃにしながら300mほどぶっ飛んで背中のロケットブースターで何とか止まる。追撃!

 

 「当たれっ!」

 

 肩越しにロングレンジ・フィンファンネルを起動し、威力に制限をかけないビームが脳無の腹を突き破った。わさわさと機械が蠢いてその傷を埋める。ああ、なるほど……これ本能だけで動いてるやつだ。多分、最低限……私が努力も何もせずに個性を使い続けたのがこの姿だ。歪で不格好で全く以て合理性のない……人を傷つけるだけの形。

 

 脳無が吠える。背中のロケットブースターが煙と炎を吐き出す。何を燃やしてるのか知らないが、燃焼効率が悪い。それでもそれなりにスピードが出てるのは強引に出力を上げているからか。右手の機械の腕が不気味に鳴動して歪な形のチェーンソーが飛び出した。がたがたのチェーンが回りだして、それが私に振り下ろされる。

 

 ガキイイ、と硬化させたメリクリウスを剣の形に固定して受けた。火花が飛び散り、私と脳無の距離がゼロになる。口から涎を垂らして殺意のみでこちらにチェーンソーを押し付ける脳無、私は左手に持ったメリクリウスの剣を振り上げて、同時に背中からロングレンジ・フィンファンネルを右手で掴む。振り上げられた剣がチェーンソーを押しのけ、脳無が強制的に距離を取らされる。

 

 ロングレンジ・フィンファンネルのバレルから高出力のビームサーベルが伸びた。私はそのまま叩き付けるようにそれを両手に持ち直して脳無の右手を肩から切断する。脳無は、それを鬱陶しそうにちらり、と見て唸っている。痛覚がないのか……いや、脳無なら当然か。再生は、しない。私の個性で補うだけ。だめ、行動不能にできない。拘束しないと……!

 

 ギリ、と私の口から歯ぎしりが響く。嫌にそれが自分の耳に残った。ロングレンジ・フィンファンネルを手放して、メリクリウスを全力で操る。自分の体を補うことに個性を使っていた脳無は迫りくるメリクリウスの波を避けることが出来ず、捕まってしまう。まるで銀色の巨大なパチンコ玉から首が出ているだけの脳無が出来上がる。拘束終了……このまま移送しよう。

 

 「あ……っ!!」

 

 もうダメだ、と悟ったのか脳無の全身に亀裂が走ってエネルギーが噴出する。体内に抱え込んでいる火薬を全て使って自爆する気なんだ、エネルギーの総量からして爆発半径は相当広い!最後の最後で確実に殺しに来た。仕方ない、爆発させるわけにはいかない、最低限死体を残しておかないと……!証拠にならないから……!ロングレンジ・フィンファンネルが私の前に出て、エネルギーをチャージする。さらに圧縮をかけ、バチバチと開放型バレルから荷電粒子が漏れる。

 

 「ごめん、流石にそれは今の君にはさせてあげられない」

 

 「ホークス!?」

 

 脳無を殺す、と決めて私が思考トリガーを押そうとした瞬間私の前に躍り出る人がいた。ホークス、その背には半分ほど羽根が戻っている。彼は加速をつけて風切り羽根を握ると、今にも爆発しそうな脳無の首を風切り羽根で刈り取った。上に飛ぶ脳無の頭を幾枚かの剛翼が支える。呆気にとられた私は、咄嗟にロングレンジ・フィンファンネルの銃口を上に向ける。圧縮されきった荷電粒子が極大の照射ビームとなって解放される。ビームが出終わってから、咄嗟に後ろを向くと8人のヴィランたちは一纏めにされて浮いていた。

 

 「俺はいつも速すぎる、だなんて言われてたけど今回ばかりは違うな。遅すぎた、君にそれを決意させた時点で最低だ。その一線は、学生のうちに超えないで欲しい」

 

 「……すいません、ホークス。本当だったら私がやらなければいけないことでした……だってその脳無が持ってるの……私の個性だったから……!」

 

 「……事のあらましは報告書で知ってる。だけど、まさか脳無が現れるだなんて思ってもみなかった。いったん戻ろう、詳しくは陸で」

 

 「はい」

 

 終わってから、どっと冷や汗が噴き出てきた。個性のコピーが現実味を帯びて、いや現実となって襲い掛かってきた。知性のない脳無だったからこそここで終わっていたけど、これが例えばエンデヴァーが戦った知性のあるタイプだったらどうなっていたことか。個性の制御も、出てくるアイテムもお粗末極まりないけど、その現実だけが私を打ちのめしていた。私はホークスに従って呼び戻したリフボードの上に乗り、近い離島を目指した。

 

 

 

 

 「はい、みんなこれよろしく。悪いんだけどちょっとヤバい感じだから後任せるよ」

 

 ホークスが警察にヴィランを引き渡す。そして私は一応見えないようにメリクリウスで覆っていた脳無を警察の人に見せた。警察は脳無を確認した瞬間に血相を変えてどこかに連絡し始める。私はなんか、力が抜けちゃって放心状態、いけないな、これ取り調べ受けられるかな。ホークスが携帯電話を取り出してどこかに連絡を入れている。暫く話したのちにホークスがこちらに浮いてやってきて、携帯を私に手渡した。

 

 「はい」

 

 『楪、無事か?すぐ迎えに行く。ホークスの事務所で待っていろ 』

 

 「相澤先生……大丈夫です。自分で帰れますから」

 

 『そういうわけにいくか。いいな、待ってろ。よく頑張った』

 

 それだけ言って、かなり切羽詰まった感じの声をしていた相澤先生の電話が切れる。そりゃ、ホークスだったら雄英の直通の電話番号を知っててもおかしくはないか。ぐるぐると頭の中が回っていく。私はどうすればいいのだろう、私の個性が人を傷つけた場合、私はどう責任を取ればいいんだろう。私があの時、奪われた目玉をそのまま壊していればこんなことにはならなかったはずなのに。

 

 「はーい、帰るよ。楪さん、お疲れ様。とりあえず俺の事務所までね。すぐだから、すぐ」

 

 「あ、はい。お世話になります」

 

 上の空の私の返事を聞いたホークスは明るい感じの声色とは裏腹に顔の表情は凄くシリアスだった。気を遣ってもらってる、申し訳ない。ばっちん、と私は自分の頬をはたいて気分を入れ替える。考えるのは一人でもできる。今は捜査に協力しなきゃ。ぶんぶんを顔を振ってよし!いつもの私!

 

 ホークスはいきなりセルフビンタした私に驚いたみたいだけど、そのまま何も言わずに私を船に乗せた。どうやら海保の船らしく、私とホークスを乗せてそのまま陸の方に向かっていく。思考の海に沈む私は時間を忘れてそのまま波の揺れに身を任せてずっと、座っていた。

 

 

 

 

 

 特に何も話すこともなく、話されることもなくホークスの事務所について、着替える場所を貸してもらって制服に戻る。そういえばエリちゃんはどうしてるかな、朝は寂しいって泣いちゃってたけど、今は学校の先生と笑顔でやってるといいな。ご飯はちゃんと食べられてるかな?ランチラッシュのご飯は美味しいから大丈夫だと思うけど。なんだか無性にえーくんに会いたくなってきたなあ。

 

 「大丈夫か、楪」

 

 「楪少女」

 

 「あ、相澤先生、オールマイト先生。気づかなくてごめんなさい。結構速かったですね?」

 

 「あったことを聞けば急ぐのは当たり前だ。ホークス、連絡感謝します」

 

 「いやいや、俺こそ頼りなくて申し訳ない。楪さん、今日はいろんな意味でお疲れ様。とにかくゆっくり休んでくれよ、いいね?」

 

 「はい」

 

 近くでデスクワークをしていたホークスがドアを開けて入ってきた相澤先生と何とオールマイト先生に気づいて立ち上がる。私と二人に向かって頭を下げる彼にぶんぶんと手を振る。今日はありがとうございました、という感じで私は頭を下げて先生方についていこうとすると、ちょい待ち、と呼び止められた。振り向くとホークスが円の中に複雑な編み込みが入り、いくつかの羽根がぶら下がってる何かを私に差し出していた。

 

 「なんですか、これ?」

 

 「あれ?知らないんだージェネレーションギャップ。これ、ドリームキャッチャーっていうアメリカの魔除け。大変なことあったし、悪い夢をどけてくれるよ。部屋の窓に飾っておけばいいからさ」

 

 「なんか、羽根に見覚えがあるんですけど……」

 

 「うん、さっき俺の羽根で作ったからね。効果抜群だよ~~。抜けた羽根は明日には生えてるから平気さ」

 

 ひっぇっ!?恐れ多いんですけど!?ヤバすぎない?!デクくんに知られたらこれ延々と部屋に居座られるやつじゃん?!でも、そんな風に良くしてもらえるようなこと私したかなあ?と、とにかくお礼を言わなければ!全力で腰を折ってお礼を言う私にひらひらと手を振ったホークスはまた一緒に仕事させてね~という感じで自分の執務室に戻っていった。

 

 私は物凄く貴重な宝物を扱うようにドリームキャッチャーを対爆ケースに3重に仕舞って、相澤先生とオールマイト先生に促されて車に乗り込むのだった。




 ホークスさんありがとう...!

映画や小説、チームアップミッションの話あった方がいい?

  • 必用
  • 本編だけにしろ
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